説明

ペンタエリトリトールの製造方法

高温縮合およびカスケード再結晶化を利用してモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびギ酸ナトリウムを製造する方法を開示する。この方法は、非低温で反応させることにより冷却処理が不要であるため、エネルギー消費を劇的に低減させ、コストパフォーマンスを向上させる。この方法は、カスケード分離プロセスを用いた分離を行うことにより、一括して分離した場合に低純度となることを回避できる。それにより、分離の困難性を低減させ、製品の質を向上させることができる。さらに、各分離ステップで得られる母液は、再利用液として前のプロセスに戻り繰り返し再利用されるため、廃棄物の発生を防ぎ、生成物の収率を向上させるとともに、原料の消費を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタエリトリトールの製造方法に関し、具体的には高温縮合およびカスケード再結晶化を利用してモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびその副産物であるギ酸ナトリウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペンタエリトリトールは、一種の多価アルコールで、合成樹脂や可塑剤、潤滑油、爆発物などの分野において広く用いられており、良好なつや消し性を有することから、高級家具および壁の塗料として適している。特に高品質(98%を超える濃度)のペンタエリトリトールについては、市場の需要が大きく、今でも急速に増え続けている。従来、この分野は、外国の製品によって独占されてきた。
【0003】
現在のペンタエリトリトールの主な製造方法では、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドとをアルカリ条件下で反応させて、ペンタエリトリトールと使用されたアルカリに対応するギ酸塩とを生成し、さらに分取精製して製造している。しかし、この方法は、多量の副産物が混入するとともに、反応条件を制御しにくいという重大な欠点を有している。例えば、アセトアルデヒドに対してホルムアルデヒドの使用量が多いほど、それぞれのホルムアルデヒドのメチラールの量が多く、加えられたホルムアルデヒドの量がアセトアルデヒドに対して少ないほど、ジペンタエリトリトールやトリペンタエリトリトール、ポリペンタエリトリトールなどの副産物の量が多くなる。また、アルカリ条件下では、ホルムアルデヒド間で酸化還元反応が生じることによりメタノールおよびギ酸塩が生成され、反応温度が高いほどまたはホルムアルデヒドの濃度が高いほど多くの副産物が生成される。反応温度が高すぎると、ホルムアルデヒドが糖化されて糖質になってしまう。また、アセトアルデヒド間にも反応が生じ、β−ヒドロキシルブチルアルデヒドなどの不純物が生成されることもある。
【0004】
国内外において、ホルムアルデヒドの反応に関する研究が多く行われている。例えば、英国特許第958654号明細書では、異なる反応温度、反応時間および過剰量のホルムアルデヒドを使用したときの反応に対する影響が説明されている。また、複数のステップを組み合わせた方法も開示されている。また、中国特許第1165804号明細書では、反応器における原料投入速度を制御することによって不純物の生成を制御するバッチ式の原料投入方法が開示されている。結果として、モノペンタエリトリトールの収率は連続式の製造方法と比べて高まるが、以下の欠点を有する。(1)二段階に分けて反応させると、後の段階に反応熱が集中するため、反応温度の制御が困難である。その結果、局所的に過熱状態となり、副反応が増加する。(2)アセトアルデヒドを大量に投入して一段階のプロセスで反応させると、ホルムアルデヒド/アセトアルデヒドの比率が減少するため、モノペンタエリトリトールの収率が低減する。(3)アセトアルデヒドとホルムアルデヒドとの中間体が逆反応することによって生じるアセトアルデヒドの揮発損失を避けるべく、反応の第一段階では冷却して温度を低く制御する必要があるため、エネルギー消費が増加する。また、中国特許第1097004号明細書では、高低温で反応物の割合が低い縮合プロセスと、液体加速器(liquid accelerator)を用いたモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールを得るための単離方法とが開示されている。しかし、この方法にも中国特許第1165804号明細書と同様の欠点が存在し、高品質なモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびギ酸ナトリウム生成物を得るのは難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低コスト、高収率、副産物が少なく、生成物の分離精製が簡単な、モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびギ酸ナトリウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、高温縮合およびカスケード再結晶化を利用してモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびその副産物であるギ酸ナトリウムを製造する方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む。
【0007】
(a)縮合反応:25〜45℃の初期温度下において、15〜50%(w/v)のアルカリ溶液および60〜99%(w/v)のアセトアルデヒド溶液を10〜25%(w/v)のホルムアルデヒド水溶液に撹拌しながら加えて、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=4.2〜10.2:1:1.05〜1.25(モル)の溶液を得る。ここで、アルカリを前記アセトアルデヒドよりも2〜10分早く加えるとともに、コイル、ジャケット、熱交換器により反応熱を除去する。反応最終温度を45〜70℃の間に、反応圧力を0〜0.2MPaに制御して、30〜100分間反応させる。反応後、ギ酸を用いてpH=5.5〜6.5となるまで前記溶液を中和して、反応溶液を得る。
【0008】
(b)モノペンタエリトリトールの分離:脱アルデヒドおよび脱アルコールした後に、前記反応溶液を、遠心分離されたペンタエリトリトール洗浄水と混合し、比重1.25〜1.28となるまで濃縮し、結晶化および遠心分離を行って90〜95%のペンタエリトリトール粗生成物を得る。遠心分離後の母液は次回の分離プロセスに用いる。水を加え、加熱してペンタエリトリトール粗生成物を溶解させ、再結晶化、遠心分離および乾燥を行ってモノペンタエリトリトールを得る。
【0009】
(c)ジペンタエリトリトールの分離:モノペンタエリトリトールの分離後の前記母液を沈降させて前記母液の上澄みをろ過する。ろ液は以下の分離プロセスに回す。残渣に水を加え、95℃まで加熱して残渣を溶解させ、再結晶化、遠心分離および乾燥を行ってジペンタエリトリトールを得る。
【0010】
(d)ギ酸ナトリウムの分離:温度を85〜110℃の状態に維持して、ペンタエリトリトールをろ過分離した後の母液を蒸発/濃縮させ、比重が1.3に達したときに遠心分離を行ってギ酸ナトリウムを得る。
【0011】
ここで、ステップ(a)において、前記アルカリ溶液はNaOH溶液である。
【0012】
ここで、ステップ(a)において、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルカリのモル比は、好ましくは、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=6.5〜7.8:1:1.15〜1.2である。
【0013】
ここで、ステップ(a)において、初期反応温度は好ましくは30〜45℃、最終反応温度は好ましくは55〜60℃である。
【0014】
ステップ(d)において得られる前記ギ酸ナトリウム母液を水で1/3倍に希釈した後、稀釈後の母液を90〜100℃まで加熱して溶解させ、再結晶化を行ってその中のペンタエリトリトールを回収する。これによって得られる母液はギ酸ナトリウムを回収するためにさらなるステップ(d)に付す。
【0015】
本発明のステップ(b)において得られるモノペンタエリトリトールの濃度は95〜99.5%であり、ステップ(c)において得られるジペンタエリトリトールの濃度は90〜95%であり、ステップ(d)において得られるギ酸ナトリウムの濃度は96〜99%である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のペンタエリトリトールの製造方法は、高温縮合とカスケード再結晶化による分離とを組合せることで実現される。この方法は、非低温で反応させることにより冷却処理が不要であるため、エネルギー消費を劇的に低減させ、コストパフォーマンスを向上させる。また、この方法は、カスケード分離プロセスを用いた分離を行うことにより、一括して分離した場合に低純度となることを回避できる。それにより、分離の困難性を低減させ、生成物の質を向上させることができる。さらに、各分離ステップで得られる母液は、再利用液として前のプロセスに戻り繰り返し再利用されるため、廃棄物の発生を防ぎ、生成物の収率を向上させるとともに、原料の消費を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の形態について詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を明確に理解できるようにするものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
(実施例1)
窒素ガスを用いて0.2MPaまで加圧したホルムアルデヒド溶液(12%)に、アルカリ溶液(32%)を3分間かけて滴下し、初期温度を40℃としてアセトアルデヒド溶液(99%)を80分間かけて加えた。冷却水の循環サイクルを用いて最終温度を65℃に維持することにより、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=5.0:1:1.2の反応溶液を調製した。次いで、ギ酸を用いてpH=6に溶液を中和した。過剰なホルムアルデヒドおよびメタノールを除去し、蒸発濃縮することにより結晶化溶液を得た。その後、遠心分離を行ってモノペンタエリトリトールの含有量が91%のペンタエリトリトールを得た。単通収率は94.2%であった。上記ペンタエリトリトールを再結晶化することで、モノペンタエリトリトール(98.3%)生成物を得た。遠心分離の母液をろ過して得た残渣から溶解−結晶化を2回繰り返すカスケードによりジペンタエリトリトール(93.3%)を得た。ろ液を濃縮結晶化することにより、未精製のギ酸ナトリウムを得た。ろ液に水を加えて1/3倍に希釈した後、加熱して溶解させ、結晶化、遠心分離を行ってペンタエリトリトールを回収した。ペンタエリトリトールを回収した後の母液から、再度未精製のギ酸ナトリウムを回収した。未精製のギ酸ナトリウムは、再結晶化することで濃度96.5%のギ酸ナトリウムを与えた。
【0019】
(実施例2)
窒素ガスを用いて0.15MPaまで加圧したホルムアルデヒド溶液(18%)に、アルカリ溶液(18%)を5分間かけて滴下し、初期温度を26℃としてアセトアルデヒド溶液(80%)を60分間かけて加えた。冷却水の循環サイクルを用いて最終温度を70℃に維持することにより、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=6.0:1:1.1の反応溶液を調製した。次いで、ギ酸を用いてpH=6.4に溶液を中和した。過剰なホルムアルデヒドおよびメタノールを除去し、蒸発濃縮することにより結晶化溶液を得た。その後、遠心分離を行ってモノペンタエリトリトールの含有量が91.5%のペンタエリトリトールを得た。単通収率は93%であった。上記ペンタエリトリトールを再結晶化することで、モノペンタエリトリトール(98.6%)生成物を得た。遠心分離の母液をろ過して得た残渣から溶解−結晶化を2回繰り返すカスケードによりジペンタエリトリトール(92.5%)を得た。ろ液を濃縮結晶化することにより、未精製のギ酸ナトリウムを得た。ろ液に水を加えて1/3倍に希釈した後、加熱して溶解させ、結晶化、遠心分離を行ってペンタエリトリトールを回収した。ペンタエリトリトールを回収した後の母液から、再度未精製のギ酸ナトリウムを回収した。未精製のギ酸ナトリウムは、再結晶化することで濃度97.7%のギ酸ナトリウムを与えた。各ステップにおいて、遠心分離の母液を再利用することでバランスを維持した。
【0020】
(実施例3)
窒素ガスを用いて0.1MPaまで加圧したホルムアルデヒド溶液(20%)に、アルカリ溶液(45%)を2分間かけて滴下し、初期温度を45℃としてアセトアルデヒド溶液(89%)を40分間かけて加えた。冷却水の循環サイクルを用いて最終温度を60℃に維持することにより、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=7.7:1:1.06の反応溶液を調製した。次いで、ギ酸を用いてpH=6.2に溶液を中和した。過剰なホルムアルデヒドおよびメタノールを除去し、蒸発濃縮することにより結晶化溶液を得た。その後、遠心分離を行ってモノペンタエリトリトールの含有量が93%のペンタエリトリトールを得た。単通収率は93.5%であった。上記ペンタエリトリトールを再結晶化することで、モノペンタエリトリトール(99.3%)生成物を得た。遠心分離の母液をろ過して得た残渣から溶解−結晶化を2回繰り返すカスケードによりジペンタエリトリトール(91%)を得た。ろ液を濃縮結晶化することにより、未精製のギ酸ナトリウムを得た。ろ液に水を加えて1/3倍に希釈した後、加熱して溶解させ、結晶化、遠心分離を行ってペンタエリトリトールを回収した。ペンタエリトリトールを回収した後の母液から、再度未精製のギ酸ナトリウムを回収した。未精製のギ酸ナトリウムは、再結晶化することで濃度98.6%のギ酸ナトリウムを与えた。各ステップにおいて、遠心分離の母液を再利用することでバランスを維持した。
【0021】
【表1】

【0022】
(比較例)
撹拌機および冷却システムを備えた反応器にホルムアルデヒド溶液(22%)を入れ、次いでNaOH溶液(16%)および精製アセトアルデヒドを反応器に入れた。このとき、pHを10〜11に維持するため、NaOH溶液(16%)および精製アセトアルデヒドを同時かつ別個に反応器に入れた。供給流量については、反応物全体の半分を25分間かけて入れ、反応温度を25℃に維持した。次いで、流量を変更して、残余の反応物の半分を25分間かけて入れ、温度を35℃に上げた。次いで、残余の反応物のすべてを35分間かけて入れ、供給中は45℃を上回らないように温度を制御した。供給された反応物全体の割合は、CHO/NaOH/AcH=5.4/1.12/1(モル)であった。供給した後、混合物を45℃で10分間維持し、ギ酸を用いてpH5.5に酸性化し、反応器からバッファタンクに取り出した。反応を継続させた後、上述した方法により揮発性化合物の除去、濃縮、ろ過、加水分解、精製および結晶化を行った。アセトアルデヒドに基づいて計算した収率は80.3%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)縮合反応:
25〜45℃の初期温度下において、15〜50%(w/v)のアルカリ溶液および60〜99%(w/v)のアセトアルデヒド溶液を10〜25%(w/v)のホルムアルデヒド水溶液に撹拌しながら加えて、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=4.2〜10.2:1:1.05〜1.25(モル)の溶液を得て;
反応最終温度を45〜70℃の間に、反応圧力を0〜0.2MPaに制御して、30〜100分間反応させ;
反応後、ギ酸を用いてpH=5.5〜6.5となるまで前記溶液を中和して、反応溶液を得るステップと、
(b)モノペンタエリトリトールの分離:
脱アルデヒドおよび脱アルコールの後、前記反応溶液をペンタエリトリトール洗浄水と混合し、比重1.25〜1.28となるまで濃縮し、結晶化および遠心分離を行って90〜95%のペンタエリトリトール粗生成物を得て;
遠心分離後の母液は次回の分離プロセスに用い;
前記ペンタエリトリトール粗生成物に水を加え、加熱してペンタエリトリトール粗生成物を溶解させ、再結晶化、遠心分離および乾燥を行ってモノペンタエリトリトールを得るステップと、
を有する、ペンタエリトリトールの製造方法。
【請求項2】
モノペンタエリトリトールの分離の後に、
(c)ジペンタエリトリトールの分離:
モノペンタエリトリトールの分離後の前記母液を沈降させて前記母液の上澄みをろ過し;
ろ液は以下の分離プロセスに回し;
残渣に水を加え、加熱して残渣を溶解させ、再結晶化、遠心分離および乾燥を行ってジペンタエリトリトールを得るステップと、
(d)ギ酸ナトリウムの分離:
温度を85〜110℃の状態に維持して、ペンタエリトリトールをろ過分離した後の母液を蒸発濃縮させ、比重が1.3に達したときに遠心分離を行ってギ酸ナトリウムを得るステップと、
を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(a)において、前記アルカリ溶液は30〜50%のNaOH溶液である、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(a)において、前記アルカリを前記アセトアルデヒドよりも2〜10分早く加えるとともに、コイル、ジャケット、熱交換器により反応熱を除去する、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(d)において得られる前記ギ酸ナトリウム母液を水で希釈した後、希釈後の母液を90〜100℃まで加熱して溶解させ、再結晶化を行ってその中のペンタエリトリトールを回収し、
これによって得られる母液をギ酸ナトリウムを回収するためにさらなるステップ(d)に付す、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(a)おいて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルカリのモル比は、ホルムアルデヒド:アセトアルデヒド:アルカリ=6.5〜7.8:1:1.15〜1.2である、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
初期反応温度は30〜40℃、最終反応温度は55〜60℃である、請求項1または請求項2に記載の製造方法。

【公表番号】特表2008−543954(P2008−543954A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518596(P2008−518596)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/CN2006/000569
【国際公開番号】WO2007/000088
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(507346074)湖北宜化化工股▲ふん▼有限公司 (1)
【氏名又は名称原語表記】HUBEI YIHUA CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】102 DongShan Ave., Yichang, Hubei 443000 PRC.
【Fターム(参考)】