説明

ホウ素置換されたリチウム挿入化合物、電極の活物質、電池およびエレクトロクロミックデバイス

以下の式(I):
LiαβM1M2M3M4M5γ(XO4−εε (I)
(式中、Mは、V2+、Mn2+、Fe2+,Co2+およびNi2+から選択され、
M1は、NaおよびKから選択され、
M2は、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Ti2+およびCa2+から選択され、
M3は、Al3+、Ti3+、Cr3+、Fe3+、Mn3+、Ga3+およびV3+から選択され、
M4は、Ti4+、Ge4+、Sn4+、V4+およびZr4+から選択され、
M5は、V5+、Nb5+およびTa5+から選択され、
Xは、四面体位置を排他的に占有し、酸素またはハロゲンが配位した酸化状態mの元素であり、B3+、Al3+、V5+、Si4+、P5+、S6+、Ge4+およびこれらの混合物から選択され、
Zは、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲンであり、
係数α、β、v、w、x、y、z、γおよびεは全て正数であり、次の式:
0≦α≦2(1)、
1≦β≦2(2)、
0<γ<(3)、
0≦α≦2(3)、
0≦ε≦2(4)、
α+2β+3γ+v+2w+3x+4y+5z+m=8−ε(5)、および
【数1】


好ましくは、
【数2】


を満たす)を有するリチウム挿入化合物。これらの化合物を調整する方法。上記化合物を含有する電極活物質、特に正極活物質、ならびにこれらの化合物を用いる電池およびエレクトロミックデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム挿入化合物に関し、さらに正確には、ホウ素を含有し、ホウ素で置換され、ホウ素がドープされた、ポリアニオン骨格を有するリチウム挿入化合物に関する。
【0002】
さらに、本発明は、上記化合物を含有する電極活物質、特に正極活物質と、これらの化合物を用いる電池およびエレクトロクロミックデバイスとに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池は、特に、コンピュータ、電話、システム手帳(organizer)、カムコーダーなどの携帯用装置における内蔵型エネルギー源としての使用が増えてきており、徐々に、ニッケル−カドミウム(NiCd)およびニッケル−金属水素化物(NiHM)電池の代わりとなりつつある。この進展は、エネルギー強度(Wh/kg、Wh/l)に関するリチウム電池の性能が上述の2つの系よりも実質的に優れているために生じている。
【0004】
これらの電池で使用される活性電極化合物は、主に、正極ではLiCoO、LiNiOおよびLiMnであり、負極では黒鉛またはコークスなどの炭素である。金属リチウムに関して約4ボルトの動作電圧の場合に、これらの化合物の理論上および実際の容量はそれぞれ、LiCoOおよびLiNiOでは275mAh/gおよび140mAh/gであり、LiMnでは148mAh/gおよび120mAh/gである。
【0005】
酸化マンガン、特にスピネル構造族Li1+xMn2−x(0≦x≦0.33)は、酸化コバルトおよび酸化ニッケルに匹敵する電気化学性能を実証できることが分かっている。また、コバルトおよびニッケルと比較して、天然にマンガンがより多く存在すること、およびこれらの酸化物の毒性がより低いことは、電池において広範囲にわたって使用するために重要な利点であると思われる。
【0006】
それにもかかわらず、LiMnの特定の場合には、リチウム金属に関して4ボルト近辺で動作するように構築され、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含有する電解液と組み合わせて使用すると、結果的に酸化マンガンの漸進的な溶解が起こり、従って電池の寿命が短くなることが実証されている。
【0007】
さらに、電気化学反応に使用される2つの族の化合物は潜在的に安価であり、無毒性であるという利点を有し、これらは、かんらん石(olivine)アイソタイプ族およびナシコン(Nasicon)族である。ナシコンという名称は「ナトリウム(Na)超イオン導電体」を意味し、この化合物は特に、式Na12(式中、Mは遷移金属であり、XはP、Mo、Si、Ge、S、であり、0<x<5、好ましくはx=3である)を有することに気付くはずである。
【0008】
これらの2つの族は同等の元素からなり、リチウムイオンの数に対するポリアニオンの数の比率、およびその結晶構造だけが異なる。事実上、かんらん石アイソタイプ族は斜方結晶格子を有し、ナシコンアイソタイプ族は菱面体格子を有する。
【0009】
Li1−xFePO、例えばLiFePO(トリフィライト)などの斜方結晶格子を有するかんらん石アイソタイプ構造の物質は、潜在的に安価および無毒性であるという利点を有する。LiFePOの場合には、リチウムの挿入/引抜きは、3.45V/Li+/Liにおいて二相プロセスで生じ、ほとんど全ての有機溶媒中でこの化合物を安定化させる。さらに、電解液の存在下での帯電状態(「FePO」)では上記の酸化物よりもはるかに安定であり、電池におけるその使用を極めて安全にすることがわかる。
【0010】
しかしながら、この族の化合物の主な問題は、周囲温度におけるその電子およびイオン導電性が低いことである。従って、このことは、ホスト構造におけるリチウム挿入/引抜きの反応速度を制限し、これらの化合物の比較的低い充電/放電速度での使用を制限する。
【0011】
さらに、ナシコン構造の化合物、すなわち式AxM(XO(式中、AはNaなどのアルカリ金属)を有する化合物も、特に、リチウムイオンのイオン伝導性が高いことによって、正極活物質としての利点を提供する。しかしながら、かんらん石構造の化合物と同様に、これらは電子導電性が悪く、その使用が制限される。
【0012】
さらに、電気化学反応速度が低いため、上記2つの構造族の化合物は、エレクトロクロミックデバイスにおける活物質として使用することができない。
【0013】
文献、米国特許第6,085,015号は、テトラアニオンSiO4−を含有するオルトケイ酸塩型のリチウム挿入物質について記載している。これは、実際には、ケイ酸塩基を有するかんらん石の亜族であり、コア金属、すなわち電気化学反応に電子的に関与する金属は、他の様々な金属によってドープされる。
【0014】
この文献の物質は以下の一般式を有する。
LiN−(d+t+q+r)[SiOt−(p+s+g+v+a+b)[SO
[PO[GeO[VO[AlO[BO
式中、MはMn2+またはFe2+およびこれらの混合物である。
Dは、Mg2+、Ni2+、Co2+、Zn2+、Cu2+、Ti2+、V2+、Ca2+から選択される酸化状態+2の金属である。
Tは、Al3+、Ti3+、Cr3+、Fe3+、Mn3+、Ga3+、Zn2+およびV3+から選択される酸化状態+3の金属である。
Qは、Ti4+、Ge4+、Sn4+およびV4+から選択される酸化状態+4の金属である。
Rは、V5+、Nb5+およびTa5+の中で選択される酸化状態+5の金属である。
【0015】
M、D、T、QおよびRは全て、8面体または4面体の位置を占有する元素であり、s、p、g、v、aおよびbは、それぞれ、4面体の位置を占有するS6+(硫酸塩)、P5+(リン酸塩)、Ge4+(ゲルマニウム酸塩)、V5+(バナジン酸塩)、Al3+(アルミン酸塩)およびB3+(ホウ酸塩)の化学量論係数である。
【0016】
化学量論係数d、t、q、r、p、s、v、aおよびbは正数であり、0と1の間である。
【0017】
この文献の物質は、上記2つの式を有する物質、すなわちかんらん石またはナシコン型の物質を越える顕著な改善を提供しない。事実上、周囲温度におけるその電子およびイオン導電性は低く、その電気化学反応速度は制限される。
【0018】
文献EP−A2−1 195 827は、一般式:
LiFe1−yMyPO
を有する陰極活物質の調製方法に関する。
式中、Mは、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、BおよびNbからなる族から選択され、0.05≦X≦1.2および0≦γ≦0.8である。この方法では、物質の調製に必要な出発物質を混合し、混合物を粉砕し、粉砕後に得られる混合物を予め設定した密度に圧縮し、圧縮した混合物を焼結させる。調製方法のいずれか1つの工程で、炭素支持物質が攪拌される。実施例では、ホウ素を含む化合物として、式LiFe0.250.75POを有する化合物だけが調製される。
【0019】
理論上の計算では、これらの化合物は、約50mAh/gという非常に低い理論比容量(specific capacity)を与えることが示される。
【0020】
従って、どんな場合でも従来技術の化合物よりも良好であり、特に、かんらん石またはナシコン型の化合物もしくは文献、米国特許第6,085,015号の化合物よりも良好である高電子導電性および高イオン導電性を有し、故に、優れた電気化学反応速度を有するリチウム挿入化合物に対して、依然として満たされていない必要性が存在する。
【0021】
従って、高い充電/放電速度で使用することができるリチウム挿入化合物に対する必要性が存在する。
【0022】
また、従来技術の化合物よりも高い高理論比容量を有するリチウム挿入化合物に対する必要性も存在する。
【0023】
導電性および電気化学反応速度のこれらの優れた特性は、特に、低コスト、低毒性、有機溶媒および電解液中での高安定性(長期間にわたるその使用を可能にする)、ならびに電池およびエレクトロクロミックデバイスなどのデバイスにおける高信頼性を伴わなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、必要性をかなえると共に、上記の要件を満たすリチウム挿入化合物を供給することである。
【0025】
本発明の更なる目的は、従来技術の化合物の欠点、欠陥、制限および不都合を提供せず、従来技術の化合物の問題を解決するリチウム挿入化合物を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この目的および他の目的は、本発明によって、以下の式(I):
LiαβM1M2M3M4M5γ(XO4−εε) (I)
(式中、Mは、V2+、Mn2+、Fe2+,Co2+およびNi2+から選択される酸化状態+2の元素であり、
M1は、NaおよびKから選択される酸化状態+1の元素であり、
M2は、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Ti2+およびCa2+から選択される酸化状態+2の元素であり、
M3は、Al3+、Ti3+、Cr3+、Fe3+、Mn3+、Ga3+およびV3+から選択される酸化状態+3の元素であり、
M4は、Ti4+、Ge4+、Sn4+、V4+およびZr4+から選択される酸化状態+4の元素であり、
M5は、V5+、Nb5+およびTa5+の中から選択される酸化状態+5の元素であり、
Xは、四面体位置を排他的に占有し、酸素またはハロゲンが配位した酸化状態m(ここで、mは整数、例えば2〜6である)の元素であり、B3+、Al3+、V5+、Si4+、P5+、S6+、Ge4+およびこれらの混合物から選択され、
Zは、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲンであり、
係数α、β、v、w、x、y、z、γおよびεは全て正数であり、次の式:
0≦α≦2(1)、
1≦β≦2(2)、
0<γ<(3)、
0≦α≦2(3)、
0≦ε≦2(4)、
α+2β+3γ+v+2w+3x+4y+5z+m=8−ε(5)、および
【0027】
【数1】

【0028】
を満たす)を有するリチウム挿入化合物によって達成される。
【0029】
本発明に従う好ましい化合物は、MがFe2+であり、XがPであり、そしてv、w、x、y、zおよびεが0に等しい化合物、すなわち式:
LiαFeβγPO (II)
を有する化合物と、MがMn2+であり、XがPであり、そしてv、w、x、y、zおよびεが0に等しい化合物、すなわち式:
LiαMnβγPO (III)
を有する化合物とである。
【0030】
また好ましくは、式(II)および(III)においてαは1であり、従って化合物(II)および(III)は、次式:
LiFeβγPO (IV)
および
LiMnβγPO (V)
を有し、ここでγ/β≦0.1である。
【0031】
さらに好ましい化合物は、LiFe0.950.033PO、LiFe1.930.07(PO(この式は、全ての係数を3で割ることによって、明らかに、式(I)の範囲に入るが、かんらん石構造がナシコン構造と同一でないことを示すので、この書き方が好ましい)、およびLiMn0.950.033である。
【0032】
本発明に従う化合物は、非金属ホウ素(Z=5、M=10.81g/モル)がドープされたナシコンまたはかんらん石化合物として説明することができる。
【0033】
事実上、かんらん石族およびナシコン族の化合物は、一般式LiM(XO)で表わすことができる。ホウ素がドープされた後、例えば式(I)を有する本発明に従う化合物が得られる。ここで、根本的に本発明に従うホウ素は、ポリアニオン骨格XO4−εεのXカチオン(単数または複数)により占有される位置以外のカチオン位置を占有する。すなわち、ホウ素は、ポリアニオンの本体または骨格中に存在するカチオン位置を除いたカチオン位置を占有する。
【0034】
従って、ホウ素は、LiまたはM、M、M、M、M、Mの金属原子を置換または交換してもよいし、あるいは空の位置を占有してもよい。ホウ素は非常に小さいイオン半径を有するので、この置換または交換は非常に容易に達成される。
【0035】
本発明の物質は、非常に特別な構造内でホウ素原子により占有される位置が非常に特有であるために、この構造を提示する。この構造は、根本的に、この物質、本発明の化合物と、従来技術の化合物、特に文献、米国特許第6,085,015号に記載される化合物(ホウ素は、排他的にポリアニオンの本体XOの一部である)とを区別する。
【0036】
本発明の化合物において実行されるようなホウ素の付加は、このように変性された基本の物質の電荷キャリアの導電性を大幅に増大させ、従来技術の化合物よりもはるかに高いレベルの導電性を獲得する働きをする。このような導電性レベルは、高い充電/放電速度においても、本発明に従う化合物をリチウム電池で使用できるようにする。したがって、ホウ素によりドープされた本発明に従う化合物は、供給される容量、すなわち利用可能なエネルギーの利得、例えば10時間の充電または放電では40%の利得、そして例えば2時間の充電または放電では65%の利得を達成する働きをすることが実証された。
【0037】
さらに、基本的には、本発明に従うリチウム挿入化合物は、ホウ素が10原子%以下の量で添加されるという事実を特徴とする。この必須条件は、式(I)において、式(6)
【0038】
【数2】

【0039】
が満たされ、好ましくは、
【0040】
【数3】

【0041】
であるという事実に反映される。
【0042】
一般に、この比率はドーピングを反映し、従って、所与の効率では、できるだけ少ないのが有利である。
【0043】
上記の文献EP−A2−1 195 827号では、陰極活物質について記載されているが、式LiFe1−yPO(式中、MはBでよく、係数yは0〜0.8である)を有するこれらの化合物の中で、この文献の実施例では、特定の化合物LiFe0.250.75PO(式(6)の比率=0.75/0.25=3)のみが明白に記載されている。
【0044】
この文献は、したがって、0(含める)から0.8までに及ぶ非常に広いホウ素の添加範囲を開示し、それ故、式(6)の比率は0〜3である。
【0045】
本発明に従うホウ素ドーピングについて請求される範囲は、この含有量が0.1以下の式(6)の比率を獲得する働きをするような範囲であり、それ故、本発明に従う範囲は、文献EP−A2−1 195 827に開示される範囲と比べて非常に狭い。さらに、本発明に従う範囲は、文献EP−A2−1 195 827の特定の実施例で明白に開示される単独のただ1つの値である0.75(式(6)の比率が3に等しい)とは、非常にかけ離れている。
【0046】
ホウ素ドーピングレベルがこの非常に狭い特定の範囲内にある本発明に従う化合物は、非常に高い理論比容量を提供することが実証されており、これは、驚くことに、文献EP−A2−1 195 827の非常に広い区間内にあるホウ素含量を有する化合物よりもはるかに高い。したがって、例えば、文献EP−A2−1 195 827の実施例として与えられる唯一の化合物である化合物LiFe0.250.75POの理論比容量は、本発明に従う化合物LiFe0.250.05PO(ホウ素含量が本発明に従う非常に狭い範囲内に入る)の理論比容量よりも約3倍低いことが実証された。
【0047】
このことは、明らかに、上記の欧州特許出願の広いホウ素含量範囲で得られる効果とは異なる新規の技術的効果が、本発明に従う狭い範囲で達成されることを示す。
【0048】
理論比容量のかなりの増大に関するこの効果は驚くべきものであり、思いがけないものである。事実上、ホウ素のドーピングレベルに対してこのような特定の狭い区間を選択することによって、理論比容量のこのような増大が得られるであろうということを暗示する傾向はなかった。
【0049】
いかなる理論による制約を望まないが、遡及的に、ホウ素が活性金属を置換すると説明することができる。事実上、比容量は、イオン、例えばFe2+の数に比例し、これはリチウムの引抜き中に、例えばFe3+イオンに転換される。したがって、例えばFeの濃度の減少は有害であり、ホウ素による置換は、低い、すなわち約10%未満でなければならないドーピングのままでなければならないと考えることができる。
【0050】
従来技術の化合物と比較して本発明の化合物で得られる電気化学反応の反応速度における実質的な改善と、特に本発明の化合物の無毒性、高安定性、低コストとによって、本発明の化合物は、リチウム電池、およびエレクトロクロミックデバイスなどのその他のデバイスで使用するために特に適切になる。
【0051】
本発明は、さらに、式(I)を有するホウ素ドープされたリチウム挿入化合物の調製方法に関する。
【0052】
この方法は、本発明に従って式(I)を有するリチウム挿入化合物を得るために、かんらん石構造またはナシコン構造を有する化合物の形成に必要な元素を、少なくとも1つのホウ素化合物と反応させることにある。上記ホウ素化合物は、ホウ素入り(ホウ素含有)前駆体とも呼ばれ、式BXO4−εε(VI)(式中、X、Zおよびεは上記で既に定められた意味を有する)を有する化合物である。
【0053】
本発明に従う方法では、根本的に、ホウ素化合物またはホウ素入り前駆体は、非常に特別な形態、すなわち形態B(form B)(ポリアニオン)で導入される。事実上、式(I)の最終生成物においてホウ素がポリアニオン位置を占有するのを防止するために、そして本発明に従う化合物(I)の特定の構造が獲得されるために、ホウ素は、式(I)の化合物の合成の間、ポリアニオンの酸素イオンともはや結合し得ないような形態でなければならない。この目的は、ホウ素前駆体としてホウ酸塩または酸化ホウ素の使用を回避することにより、そして具体的には、形態B(ポリアニオン)のホウ素化合物を使用することにより、本発明の方法において達成される。
【0054】
ホウ素化合物または前駆体は、好ましくは、化合物BPO、BVO、BAsOおよび2B−3SiOガラス、ならびにこれらの混合物から選択される。
【0055】
本発明の化合物の合成方法は、乾式法でも湿式法でもよい。
【0056】
これらの方法、そのそれぞれの工程、およびこれらの工程の動作条件は、当業者にはよく知られており、本発明の説明においては詳細に記載しない。これらの合成方法の詳細な説明については、以下の文献を参照することができる。C. MASQUELIER他著「2つの菱面体ナシコン類似体の粉末中性子回折の研究(A Powder Neutron Diffraction Investigation of the Two Rhombohedral Nasicon Analogues):γ−NaFe(POおよびLiFe(PO」Chem. Matter. 2000, 12, 525-532、ならびにA. YAMADA他著「リチウム電池のカソードのために最適化されたLiFePO(Optimized LiFePO4 for Lithium Battery Cathodes)」Journal of the Electrochemical Society, 148 (3), A224-A229 (2001)。しかしながら、本発明に従う方法は、基本的には、本発明に従う式(I)の化合物の特定の構造を得る働きを単独でする特定の前駆体の使用を特徴とする。
【0057】
すなわち、本発明に従う方法は、タイプB(ポリアニオン)の特定のホウ素入り(ホウ素含有)前駆体を使用するという事実によって、既知の方法とは区別される。
【0058】
方法が乾式法である場合、出発物質、すなわち、本質的にその形成に必要なかんらん石構造またはナシコン構造の化合物を得るための元素、およびホウ素化合物またはホウ素入り前駆体は粉末形態であり、方法は加熱処理工程を含む。
【0059】
方法が湿式法である場合、出発物質は溶媒に添加され、方法は結晶化工程を含む。
【0060】
方法が乾式法であろうと湿式法であろうと、本発明の方法では、上記の特定のホウ素化合物およびホウ素入り前駆体が使用され、その特定の構造およびその有利な特性が与えられる。
【0061】
本発明は、さらに、上記のような1つまたは複数の化合物を含有する、電極、特に正極のための活物質に関する。
【0062】
このような電極活物質、特に正極活物質では、本発明に従う化合物は、恐らく、1つまたは複数の他の活性化合物(すなわち、本発明の化合物以外)、例えば、LiCoO、LiNiO、酸化マンガン、特に、LiMnのようなスピネル構造Li1+xMn2−x(ここで、0≦x≦0.33)を有するものなどの従来の化合物、Li1−xFePOのようなかんらん石アイソタイプ族の化合物(例えば、LiFePO)、ナシコン構造を有する化合物、米国特許第6,085,015号の文献に記載されるオルトケイ酸塩タイプのリチウム挿入物質、およびEP−A2−1 195 827の文献に記載される物質と結合され得る。
【0063】
本発明はさらに、上記のような活物質を含む正極に関する。
【0064】
実際の電極活物質のほかに、本発明に従う正極は、一般に、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、またはコークスなどの任意の形態の炭素であるのが好ましい電子導電性物質を含む。
【0065】
正極は、さらに、ポリマーバインダーを含む。
【0066】
上記ポリマーバインダーは、一般に、フルオロポリマー、エラストマーおよびセルロース化合物から選択される。
【0067】
フルオロポリマーは、例えば、フッ化ビニリデンポリマーおよびコポリマーならびにテトラフルオロエチレンポリマーおよびコポリマーから選択することができる。
【0068】
正極は、一般に、75〜95重量%の活物質と、2〜15重量%の導電性物質と、3〜10重量%のポリマーバインダーとを含む。
【0069】
正極を調製するために、アセトンまたはN−メチルピロリドンなどの溶媒に溶解させた電極活物質、導電性物質およびポリマーバインダーを混ぜ合わせる。例えば、一般にシート形態の基材または導電性物質、例えばアルミニウムをコーティングすることにより混合物を施し、混合物が上に施された基材は、恐らくは真空下で加熱して乾燥される。
【0070】
本発明は、さらに、上記正極を含む、リチウム電池などの電池に関する。
【0071】
このような電池は、一般に、上記正極に加えて、負極、セパレータ、および電解液を含む。負極は、リチウム金属、リチウム合金、チタン酸リチウムから一般に選択される物質で製造することができる。
【0072】
セパレータは、一般に、例えばポリオレフィンから選択される微孔性ポリマーで製造される。
【0073】
最後に、電解液は溶媒および導電性の塩を含み、溶媒は、一般に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルおよびメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)のジアルキル(C1−4)エーテル、ならびにこれらの混合物から選択される。
【0074】
好ましい溶媒は、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合物である。
【0075】
導電性の塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、およびこれらの混合物から一般に選択されるリチウム塩である。
【0076】
本発明は、最後に、本発明に従う化合物を含むエレクトロクロミックデバイスに関する。
【0077】
このようなエレクトロクロミックデバイスでは、本発明に従う化合物を含む化合物または物質は、例えばガラスなどの基板上の堆積物の形態であることが多い。電流の通過、すなわちリチウムの挿入/引抜きは、物質の光学特性(例えば、その色)を変更し、色が変化するウィンドウを得ることが可能になる。そうでなければ、動作は電池の場合と同一である。
【0078】
本発明は、添付図面を参照して、例証のために提供される非限定的な本発明の実施形態の以下の説明を読むことによって、より良く理解されるであろう。
【実施例】
【0079】
〔実施例1〕
式LiFe0.950.033POを有する本発明に従う化合物の調製。
NaPO媒体中のFeSO・7HOから水相中に沈殿させる(直ちに沈殿物が形成される)ことによって、反応中間体としてオルトリン酸Fe(II)を調製する。次に、こうして得られた10.16gのオルトリン酸塩Fe(PO・5HOを、不活性雰囲気(ArまたはN)下で少なくとも8時間、2.76gのLiPOおよび0.23gのBPOとミル内で十分に混合する。
【0080】
次に、その結果得られた混合物を、600℃の温度で15分間、不活性雰囲気下で加熱処理する。
【0081】
式LiFe0.950.033POを有し、B/Fe原子比が0.035のホウ素ドープされたかんらん石が得られる。
【0082】
〔実施例2〕
式LiMn0.950.033POを有する本発明に従う化合物の調製。
15.47gのウロー石(hureaulite)形態のリン酸マンガン(III)(Mn(PO(POOH)・4HO)を、不活性雰囲気(ArまたはN)下で少なくとも8時間、2.52gのMnCO・xHO(x=0.2)、4.92gのLiPO、および0.40gのBPOとミル内で十分に混合する。
【0083】
次に、その結果得られた混合物を、600℃の温度で15分間、不活性雰囲気下で加熱処理する。
【0084】
式Mn0.950.033POを有し、B/Mn原子比が0.035のホウ素ドープされたかんらん石が得られる。
【0085】
〔実施例3〕
式LiFe1.930.07(POを有する本発明に従う化合物の調製。
15.0gのFePO・xHO(M=188.04g/モル)、6.74gのNaPOおよび0.304gのBPOを、空気中で20時間、プラネタリーミル内で十分に混合する。この機械的−化学的に活性化された混合物は、次に、空気中で15分間、800℃で加熱処理を受ける。NaFe1.930.07(POに近い配合を有するナシコンアイソタイプ構造の化合物が得られる。式LiFe1.930.07(POを有する最終化合物は、次に、Li溶液/Na固体>10で、LiNOの濃縮水溶液中で一日間、NaFe1.930.07(POからのイオン交換によって得られる。
【0086】
〔実施例4〕
〔実施例4A〕
正極が実施例1で調製された本発明に従う化合物を含むリチウム電池の製造。
a)正極の製造
実施例1で得られた生成物を、N−メチルピロリドン中に溶解した80重量%のアセチレンブラック(Super P、MMM Carbon, Belgium)(10%)、およびフッ化ポリビニリデン(Solef 6020、Solvay, Belgium)(10%)と混合する。
【0087】
次に、混合物をアルミニウムシートに施してから、60℃で乾燥させ、次に真空下で100℃に加熱する。
【0088】
b)電池の製造
こうして調製した正極を「ボタン電池」型セル形式2432に導入する。負極は、電池グレードのリチウム(Chemetall-Foote Corporation, USA)シートからなる。セパレータは、微孔性ポリプロピレン(Celgard 3200、Aventis)フィルムからなる。使用される電解液は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)(Electrolyte Selectipur LP30、Merck, Federal Republic of Germany)からなる。
【0089】
c)電池で実行される試験
図1で気付かれるように、25℃では、このように製造された電池は、4.5Vと2.0Vの間で動作し、C/2サイクル条件下、すなわち2時間の充電または放電では140mAh/gより高い正極活性化合物に相当し(実線の曲線)、C/10、すなわち10時間の充電または放電では約145mAh/gに相当(連続線の曲線)するリチウムの可逆的な引抜き/挿入を可能にする。
【0090】
言い換えると、C/2充電/放電サイクルは、140mAh/gの比容量を得る働きをする。
【0091】
図2は、実施例1で提示される化合物LiFe0.950.033POの比容量(mAh/g)の変動を、様々なサイクル条件(C/10、C/1、C/3、C/2、C/1)下で、サイクル数の関数で示す。
【0092】
図2では、遅いサイクル(C/10)で得られる比容量は、サイクル速度の増大(C/1)により比較的影響を受けないことが気付かれ得る。
【0093】
〔実施例4B〕
実施例2で調製した本発明に従う化合物を正極に使用することだけを相違点として、実施例4Aの場合と同じ方法で電池を製造する。特に比容量に関する電池の特性は、実施例4Aの電池と同様である。
【0094】
〔実施例4C〕
実施例3で調製した本発明に従う化合物を正極に使用することだけを相違点として、実施例4Aの場合と同じ方法で電池を製造する。特に比容量に関する電池の特性は、実施例4Aの電池と同様である。
【0095】
〔実施例5(比較例)〕
この実施例では、実施例4と同じ方法でリチウム電池を製造するが、正極は、ホウ素でドープされていないLiFePO(すなわち、本発明に従う化合物ではない)からなる。
【0096】
非ドープ化合物LiFePOの定電流サイクル曲線は、図3に示される。このホウ素を含有しない物質の比容量は、C/7サイクルでは図3により与えられる80mAh/gであり、電極に印加される17μA/cmの電流密度に相当する。
【0097】
C/2よりはるかに抑圧的でないC/7サイクルで得られる80mAh/gというこの値は、抑圧的なC/2サイクルを有する実施例4Aにおいて本発明に従う化合物で得られる140mAh/gの比容量と比較されるべきである。
【0098】
〔実施例6(比較例)〕
この実施例では、実施例4と同じ方法でリチウム電池を製造するが、正極は、ホウ素でドープされていないLiMnPOからなる。
【0099】
以下の表Iは、実施例4A、5および6の電池の供給される容量(25℃で利用可能なエネルギー)に関する電気化学性能の比較を示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表から、ホウ素ドーピングは、C/10では容量の40%の増大、C/2では65%の利得をもたらすと考えられる。
【0102】
本発明に従う化合物のホウ素ドーピングのために、サイクル条件が速いほど、得られる容量の増大も大きい。
【0103】
この表は、明らかに、リチウム挿入の反応速度が、本発明に従う化合物のホウ素ドーピングにより改善されることを実証する。
【0104】
特性の同等の改善は、実施例4B(実施例2の本発明に従う化合物)および4C(実施例3の本発明に従う化合物)の電池でも得られる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】2つの異なるサイクル条件(C/10(0.05mA/cm):点線の曲線、C/2(0.26mA/cm):実線の曲線)下における実施例1の化合物(LiFe0.950.033PO)の定電流サイクル曲線を示すグラフである。y軸は電圧(ボルト/Li/Li)を示し、x軸は比容量(mAh/g)を示す。
【図2】異なるサイクル条件(サイクルC/10、C/1、C/3、C/2、C/1の数の増大する順に)下でのサイクル数の関数として、実施例1の化合物(LiFe0.950.033PO)の比容量(mAh/g)の変動を示すグラフである。
【図3】ドープされていない化合物LiFePOの定電流サイクル曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
LiαβM1M2M3M4M5γ(XO4−εε) (I)
(式中、Mは、V2+、Mn2+、Fe2+,Co2+およびNi2+から選択される酸化状態+2の元素であり、
M1は、NaおよびKから選択される酸化状態+1の元素であり、
M2は、Mg2+、Zn2+、Cu2+、Ti2+およびCa2+から選択される酸化状態+2の元素であり、
M3は、Al3+、Ti3+、Cr3+、Fe3+、Mn3+、Ga3+およびV3+から選択される酸化状態+3の元素であり、
M4は、Ti4+、Ge4+、Sn4+、V4+およびZr4+から選択される酸化状態+4の元素であり、
M5は、V5+、Nb5+およびTa5+の中から選択される酸化状態+5の元素であり、
Xは、四面体位置を排他的に占有し、酸素またはハロゲンが配位した酸化状態m(ここで、mは整数、例えば2〜6である)の元素であり、B3+、Al3+、V5+、Si4+、P5+、S6+、Ge4+およびこれらの混合物から選択され、
Zは、F、Cl、BrおよびIから選択されるハロゲンであり、
係数α、β、v、w、x、y、z、γおよびεは全て正数であり、次の式:
0≦α≦2(1)、
1≦β≦2(2)、
0<γ<(3)、
0≦α≦2(3)、
0≦ε≦2(4)、
α+2β+3γ+v+2w+3x+4y+5z+m=8−ε(5)、および
【数1】

好ましくは、
【数2】

を満たす)を有するリチウム挿入化合物。
【請求項2】
MがFe2+であり、XがPであり、v、w、x、y、zおよびεが0に等しく、次式(II):
LiαFeβγPO (II)
を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
MがMn2+であり、XがPであり、v、w、x、y、zおよびεが0に等しく、次式(III):
LiαMnβγPO (III)
を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
α=1であり、次式(IV):
LiFeβγPO (IV)
を有し、γ/β≦0.1である請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
α=1であり、次式(V):
LiMnβγPO (V)
を有し、γ/β≦0.1である請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
LiFe0.950.033POである請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
LiFe1.930.07(POである請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
LiMn0.950.033POである請求項5に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウム挿入化合物の調製方法であって、かんらん石構造またはナシコン構造を有する化合物の形成に必要な元素を、式BXO4−εε(VI)(式中、X、Zおよびεは、請求項1で既に定められた意味を有する)を有する少なくとも1つのホウ素化合物と反応させて、式(I)を有するリチウム挿入化合物をもたらす方法。
【請求項10】
前記ホウ素化合物が、BPO、BVO、BAsO、2B−3SiOガラスおよびこれらの混合物から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
湿式法であり、ナシコン構造またはかんらん石構造を有する化合物の形成に必要な前記元素および前記ホウ素化合物が粉末形態であり、熱処理工程を含む請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
湿式法であり、ナシコン構造またはかんらん石構造を有する化合物の形成に必要な前記元素および前記ホウ素化合物が溶媒に添加され、結晶化工程を含む請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の1つまたは複数の化合物を含有する電極活物質であって、
LiCoO、LiNiO、酸化マンガン、特にLiMnのようなスピネル構造Li1+xMn2−x(ここで、0≦x≦0.33)を有するもの、Li1−xFePOのようなかんらん石アイソタイプ族の化合物(例えば、LiFePO)、ナシコン構造を有する化合物、およびオルトケイ酸塩タイプのリチウム挿入物質などの他の活性化合物の1つまたは複数と結合され得る電極活物質。
【請求項14】
請求項13に記載の活物質を含む正極。
【請求項15】
請求項14に記載の正極を含む電池。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物を含むエレクトロクロミックデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−502249(P2007−502249A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527177(P2006−527177)
【出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際出願番号】PCT/FR2003/050148
【国際公開番号】WO2004/052787
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(500348697)コミッサリア ア レネルジー アトミーク (21)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L´ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】