説明

ホログラム光学素子、ホログラム光学素子の製造方法並びにホログラム光学素子を用いた光束分割素子

【課題】 この発明は、一回の露光で2つの記録層(または記録領域)を作製することができる光学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】
この発明のホログラム光学素子20は、第1のホログラム記録層21と第2のホログラム記録層21とを備え、第1のホログラム記録層21のホログラム領域1で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ、第2のホログラム記録層22が第1のホログラム記録層21に離れて配置され、露光ビーム31のうちホログラム領域100外を通過した光とホログラム原版10からの1次回折光32が干渉する位置で第2のホログラム記録層22が干渉露光され、第2のホログラム領域2が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホログラム光学素子、ホログラム光学素子の製造方法に関し、更に、この発明は、このホログラム光学素子を用いて入射光束を2つの光束に分割する光束分割素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光重合相分離を用いたホログラフィック高分子型液晶素子(Holographic Polymer Dispersed Liquid Crystals:以下、HPDLCという。)を応用したホログラム回折格子を偏光分離素子として用いることが提案されている。
【0003】
このHPDLCは、非重合性液晶と等方相しか示さない光重合性モノマーとの混合相からなるホログラム記録材料層に、ホログラム回折格子を露光記録することにより形成される。
【0004】
このHPDLCを作成する方法として、液晶と光重合性モノマーの混合物を光干渉露光によって作成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
ところで、従来、複製露光はホログラム原版に記録材料を密着(または近接)させ原版のホログラム層からの少なくとも2つの所定回折光、例えば0次光と1次回折光が重なり合う場所で記録(すなわち複製)してきた。この複製露光方法は、特許文献2に詳しい。
【特許文献1】特開2003−121650号公報
【特許文献2】特開昭54-70851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した複製露光を用いて作製されるホログラム光学素子は、ホログラム原版とは、別に用いられる。しかしながら、光束分割素子をホログラム光学素子を用いて構成しようとすると、2つのホログラム光学素子を所定の間隔で配置する必要があるなど、その製造が困難であった。すなわち、2枚(2層)のホログラム記録部からなる光束分割素子を組付ける際、露光完了後のホログラムの位置合わせすると調整時間が増えコストアップにつながるなどの難点があった。
【0007】
この発明は、上記した従来の難点に鑑みなされたものにして、一回の露光で2つの記録層(または記録領域)を作製することができる光学素子を提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、この発明は、仮に、波面収差量の比較的大きなホログラム原版を用いたとしても、ホログラム光学素子の出射光波面収差が低減できる光学素子を提供することを第2の目的とする。
【0009】
更に、この発明は、作製されたホログラム光学素子の2通りの光学長を同一にすることができる光学素子を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のホログラム光学素子は、第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層とを備えたホログラム光学素子であって、前記第1のホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ、前記第2のホログラム記録層が第1のホログラム記録層に離れて配置され、前記第1のホログラム記録層からの回折光が第2のホログラム記録層に入射することを特徴とする。
【0011】
前記第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層間に所定厚さの透光性基板または所定長さのスペーサを配置し、前記第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層間の距離を確保して一体化するように構成できる。
【0012】
また、前記第1のホログラム記録層への入射光軸と回折光軸を含む面の前記第1のホログラム記録層長さをDとし、前記所定の距離をLとし、第1のホログラムへの入射角をθi、第1のホログラムの回折角をθdとすると、
L×tan(θd)≧D ・・・(1)
を満たすように構成するとよい。
【0013】
また、この発明は、前記第1のホログラム記録層で再生された回折光の波面収差Λが第2のホログラム記録層で−Λの波面収差を受け、第2のホログラム記録層からの回折光における波面収差がキャンセル補正されて出力されることを特徴とする。
【0014】
また、前記第2のホログラム記録層は、前記第1のホログラム記録層を経た所定の回折光とホログラム記録層を通過せずに到達する光とで干渉露光されて形成され、露光ビームの波面を再現して回折光が出射されることにより、波面収差を補正するように構成するとよい。
【0015】
また、この発明は、前記第1のホログラム記録層は0次を含む所定次数の回折光を発生させるホログラム原版を密着もしくは近接させて作製することができる。
【0016】
また、この発明は、前記第1のホログラム記録層は±m次(mは自然数)の回折光を発生させるホログラム原版を密着もしくは近接させて作製されたことを特徴とする
更に、この発明は、前記ホログラム記録層のホログラム領域外に減光手段を配置するとよい。
【0017】
また、この発明のホログラム光学素子は、所定回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム基板と、このホログラム領域で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ離れて配置される被複製記録層と、を備え、前記ホログラム領域からの回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達する光とで干渉露光により被複製記録層にホログラム記録層が作製されることを特徴とする。
【0018】
前記ホログラム基板と被複製記録層間に所定厚さの透光性基板または所定長さのスペーサを配置し、前記ホログラム基板と被複製記録層間の距離を確保して一体化することができる。
【0019】
また、第1のホログラム基板は±m次(mは自然数)の回折光を発生させることを特徴とする。
【0020】
さらに、前記ホログラム原版のホログラム領域外に減光手段を配置するとよい。
【0021】
この発明のホログラム光学素子の製造方法は、第1の被複製記録層と第2の被複製記録層とがホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ間隔を有して配置され、0次光を含み所定の回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム原版を前記第1の被複製記録層に密着または近接させた状態で複製露光して、前記第1の被複製記録層にホログラム記録層を作製するとともに、前記第1の被複製記録層を経た前記ホログラム原版の所定回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達する光とで前記第2の被複製記録層を干渉露光し、前記第2の被複製記録層にホログラム記録層を作製することを特徴とする。
【0022】
また、この発明のホログラム光学素子の製造方法は、少なくとも第1の被複製記録層と第2の被複製記録層とがホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ間隔を有して配置され、±m次(mは自然数)の回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム原版を前記第1の被複製記録層に密着または近接させ状態で複製露光して、前記第1の被複製記録層にホログラム記録層を作製するとともに、第1の被複製記録層を経た前記ホログラム原版の所定回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達した光とで前記第2の被複製記録層を干渉露光し、前記第2の被複製記録層にホログラム記録層を作製することを特徴とする。
【0023】
さらに、前記ホログラム領域外に減光手段が配置され、減光手段を介して露光するように構成するとよい。ことを特徴とする請求項11または12に記載のホログラム光学素子の製造方法。
【0024】
この発明の光束分割素子は、上記にいずれかに記載のホログラム光学素子を用い、第1のホログラム記録層に入射される光束を第2のホログラム記録層から2つの光束に分割して出力することを特徴とする。
【0025】
また、前記第1のホログラム記録層の0次回折効率が、第1のホログラム記録層回折効率と第2のホログラム記録層の回折効率の積と実質的に等しいことを特徴とする。
【0026】
また、前記第1のホログラム記録層に入射させる光束が円偏光または両記録層からの回折光軸を含む面から45°傾いた直線偏光であることを特徴とする請求項14に記載の光束分割素子。
【発明の効果】
【0027】
この発明は、第1のホログラム記録層からの回折光が第2のホログラム記録層に入射させ、ホログラム領域を通過せずに到達する光とで干渉露光により第2のホログラム記録層のホログラム領域が作製されているので、一回の露光で2つの記録層(または記録領域)を作製することができ、生産性がよい。
【0028】
また、この発明は、第2のホログラム記録層は、第1のホログラム記録層を経た所定の回折光とホログラム記録層を通過せずに到達する光とで干渉露光されて形成され、露光ビームの波面を再現して回折光が出射されることにより、複製露光にもかかわらず原版回折光波面収差を第2のホログラム記録層で相殺することができる。
【0029】
また、この発明は、第1のホログラム領域が±m次(mは自然数)の回折光を発生させるように構成することで、光路長が同一の光を分割して出力することができる。従って、光の波面が同一な光束を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるためにその説明は繰返さない。
【0031】
図1は、この発明の第1の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。図2は、図1で製造したホログラム光学素子の再生時を示す模式図である。
【0032】
図1に示すように、この発明の第1の実施形態は、ホログラム光学素子を作製する記録セル20に第1のホログラム記録層、第2のホログラム記録層を設けるものである。このため、記録セル20は、第1の被複製ホログラム層(第1のホログラム記録層)21と第2の被複製ホログラム層(第2のホログラム記録層)22を有し、第1の被複製ホログラム層21と第2の被複製ホログラム層22とは、第1の被複製ホログラム層21に形成されたホログラム領域1で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ両者が離間して配置される。この所定の距離を保つために、この第1の実施形態においては、所定の厚さの透光性基板23を被複製ホログラム層21と第2の被複製ホログラム層22との間に設け、これら部材を一体化している。
【0033】
被複製ホログラム層21と第2の被複製ホログラム層22とは、ホログラム記録用フォトポリマを透明基板で挟んだものや光重合相分離を用いたホログラフィック高分子型液晶素子(Holographic Polymer Dispersed Liquid Crystals :以下HPDLCという。)を応用したホログラムが用いられる。
【0034】
ホログラム光学素子を製造するために、上記した記録セル20に複製露光を行う。この複製露光時にホログラム原版10を第1の被複製ホログラム層21に近接させて配置する。この第1の実施形態におけるホログラム原版10は、0次光と1次回折光を発生させるホログラム領域100を有する。露光ビーム31は、そのビーム径をホログラム原版10のホログラム領域100よりも広くして照射する。露光ビーム31のうちホログラム領域100に入射した光束は、0次光(すなわち、そのまま直進する光)と1次回折光に二分される。
【0035】
この二分された光が干渉されている空間に第1の被複製ホログラム層21が配置される。このように第1の被複製ホログラム層21のホログラム領域1は従来知られている複製露光方法で作製される。
【0036】
次に、第1のホログラム領域1を通過したホログラム原版からの1次回折光32は、透光性基板23を透過し、第2の被複製ホログラム層22に入射する。
【0037】
一方、露光ビーム31のうちホログラム領域100外を通過した光とホログラム原版10からの1次回折光32が干渉する位置で第2の被複製ホログラム層22が干渉露光され、第2のホログラム領域2が作製される。この実施形態では、平面波の露光ビーム31で動作を説明している。第1のホログラム領域1と第2のホログラム領域2は共に同一の格子ピッチが作製される。
【0038】
次に、複製露光が完了し、記録セル20の2つの層にそれぞれホログラムが作製され、ホログラム光学素子(光束分割素子20’)となった再生時の特性を図2に従い説明する。
【0039】
前述のとおり、光束分割素子20’の2箇所に形成されたホログラム領域1、2はどちらも同じピッチである。光束分割素子20’は、第1のホログラム記録層21と第2のホログラム記録層22が透光性基板であるガラス基板23の厚さによって所定の距離だけ離れて配置される。すなわち、第1のホログラム記録層21で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ、第2のホログラム記録層22が第1のホログラム記録層21に離れて配置されている。
【0040】
分割したい入射光40を第1のホログラム記録層21のホログラム領域1に入射させる。ホログラム領域1は体積ホログラムの特性を有し、紙面に垂直な偏光(s偏光)を回折する。s偏光に垂直なp偏光(紙面に平行な偏光)は透過される(光41)。回折されたs偏光42は第2のホログラム記録層22のホログラム領域2に入射し、このホログラム領域2も同様の体積ホログラムであると、さらに回折され出射(光42)される。
【0041】
両ホログラム領域1,2の格子ピッチが一致していると、入射光40を平行で紙面内で上下にオフセットされた2つの光に分割されたことになる。
【0042】
なお、入射されるレーザ光40はλ/4板を用いて円偏光にするか、レーザ光源を45度傾けて配置するか、レーザの出射側にλ/2の位相板を設けて偏光軸を45度回転させればよい。即ち、入射させる光束が円偏光または両記録層からの回折光軸を含む面から45°傾いた直線偏光の光束にするとよい。
【0043】
複製時と再生時のレーザの波長が同じものを用いる場合には、被複製ホログラム層21、22として、例えば、銀塩タイプのホログラム層を用いることができる。
【0044】
図2示す光学素子を光束分割素子20’と呼ぶことにする。図2に示す光学素子のさらに特筆すべき特性について説明する。
【0045】
図1において、ホログラム原版10からの回折光32に波面収差Λを有し平面波といえない波面となったとする。従来の複製露光で作製されたホログラムを図2のごとく配置したとすると、第1と第2のホログラム領域1、2で回折された光は単純計算で2Λの波面収差がのる。ところが、この発明の実施形態では、第1のホログラム領域1で回折された光(Λの波面収差)は第2のホログラム領域2で(−Λの波面収差)が加算され、波面収差量が理論上0になる。
【0046】
別の説明をすると次のようになる。図1に示すように、第2のホログラム領域2はホログラム領域100からの回折光(非平面波)と平面波との干渉縞で露光される。
【0047】
再生時、図2に示すように、平面波とみなせる光束が第1のホログラム領域1で回折されると、忠実に、ホログラム領域100からの回折光(非平面波)が再生される。この光は第2のホログラム領域2に入射されるため、その回折光は露光ビームの一部(ホログラム領域100外からの光、すなわち、平面波とみなせる光)を再生するため、実質、波面収差0の光束42を得ることができる。
【0048】
図3は、波面収差が補正(キャンセル)される状態を説明するための模式図である。この図3を用いて更に、波面収差補正機能につき説明する。この例では図示しやすいように波面収差を回折光の光線方向に置き換えて説明する。
【0049】
ホログラム記録層143a、143b、144a、144bを有する素子142にホログラム原版141を近接させ平面波とする露光ビーム(145a〜145d)でを照射する。ホログラム原版141のホログラム141aには波面収差があり、領域143aでは回折角が大きめとなるように、領域143bでは回折角が小さめとなるように回折されるとする。
【0050】
第1のホログラム143(およびホログラム原版141)からの回折光の波面はH2のようになり、第2の記録層に向かう。第2の記録層のうち領域144aでは光線145cとの干渉縞によってホログラムが形成されるため回折光は光線145cの延長上に147aとして出射される。
【0051】
同様に、第1のホログラムの領域143bからの回折光146bは光線145dの延長線上に回折光として出射されるようにホログラム領域144bが形成される。
【0052】
したがって、再生時に両ホログラムで回折された光は露光ビーム145c〜145dの波面を再現して出射させるため平面波H3となり、第1のホログラムで発生した波面収差を第2のホログラムで補正したことになる。
【0053】
なお、波面収差補正の機能を十分に発揮させるには、再生波長は露光波長と同一であることが望ましい。
【0054】
なお、図示しないが、透光性基板を外しても、上記効果を失うことは無い。また、透光性基板に代わりスペーサをもうけて空気層を設けてもよい。スペーサなどを利用して透光性基板が空気層となった場合には分割したい2光束の分割距離(2光束のシフト距離)を達成するための第1のホログラム記録層から第2のホログラム記録層までの距離を短くすることが出来る特徴を有する。
【0055】
光束分割素子の利用形態としては、特開2005−153347号公報に記載されるような2段に重ねられた回転多面鏡を有する光走査装置や画像形成装置に適用できる。即ち、一つのLD光を2光束に分割することによって使用するLDの数を減らし低コスト化できる。
【0056】
この発明の光束分割素子を用いた画像形成装置の構成例を図4に従い簡単に説明する。
【0057】
半導体レーザ301、301からそれぞれ1本の光ビームを放射する。これら半導体レーザ301、301はホルダに所定の位置関係で保持されている。
【0058】
半導体レーザ301、301から放射された各光ビームはそれぞれ、カップリングレンズ(図示しない)により、以後の光学系に適した光束形態(平行光束あるいは弱い発散性もしくは弱い収束性の光束)に変換される。この例ではカップリングレンズによりカップリングされた光ビームは共に平行光束である。
【0059】
カップリングレンズから射出し、所望の光束形態となった各光ビームは、光ビーム幅を規制するアパーチュア(図示しない)の開口部を通過してビーム整形されたのち、この発明の光束分割素子320に入射し、光束分割素子320の作用により副走査方向に2分割されてそれぞれが2本の光ビームに分けられる。
【0060】
これら4本の光ビームはシリンドリカルレンズ332、332に入射し、これらシリンドリカルレンズ332、332の作用により副走査方向へ集光され、多面鏡式光偏向器337の偏向反射面近傍に主走査方向に長い線像として結像する。
【0061】
多面鏡式光偏向器337は、図示のように上ポリゴンミラー、下ポリゴンミラーを回転軸方向に上下2段に積設して一体とし、図示されない駆動モータにより回転軸の周りに回転させられるようになっている。
【0062】
上ポリゴンミラー、下ポリゴンミラー7bは、この例において共に「4面の偏向反射面」を持つ同一形状のものであるが、上ポリゴンミラー7aの偏向反射面に対し、下ポリゴンミラー7bの偏向反射面が、回転方向へ所定角:θ(=45度)ずれている。上・下ポリゴンミラーは一体的に形成してもよい。
【0063】
図4において、符号338は第1走査レンズ、符号340a、340bは第2走査レンズ」、符号339a、339bは光路折り曲げミラーを示している。
【0064】
第1走査レンズ338、第2走査レンズ340aと、光路折り曲げミラー339aとは、多面鏡式光偏向器337の上ポリゴンミラーにより偏向される2本の光ビームを、対応する光走査位置である光導電性感光体(図示しない)上に導光して、副走査方向に分離した2つの光スポットを形成する1組の走査結像光学系を構成する。
【0065】
第1走査レンズ338、第2走査レンズ340と、光路折り曲げミラー339bとは、多面鏡式光偏向器337の下ポリゴンミラーにより偏向される2本の光ビームを、対応する光走査位置である光導電性感光体上に導光して、副走査方向に分離した2つの光スポットを形成する1組の走査結像光学系を構成する。
【0066】
このようにして、多面鏡式光偏向器337の上ポリゴンミラーにより偏向される2光ビームにより、光導電性感光体が2本の光ビームによりマルチビーム走査され、多面鏡式光偏向器337の下ポリゴンミラーにより偏向される2光ビームにより、光導電性感光体11bが2本の光ビームによりマルチビーム走査される。
【0067】
上記した光束分割素子につき320につき、図5に従い更に説明する。図5は、この発明の光束分割素子により、レーザからの光束を2つに分離する状態を示す構成図である。
【0068】
半導体レーザ(LD)301からの出射光をコリメートレンズ302で平行ビームとしλ/2板303に入射させる。λ/2板303の遅相軸は紙面から22.5°回転した方位とする。
【0069】
LD光の偏光が紙面に平行とするとλ/2板303を透過した光は紙面に対して45°方向に偏光面を有する。光束分割素子320の第1のホログラム321で紙面に垂直な偏光が回折し、紙面に平行な偏光が透過する。第1のホログラム321のホログラム領域321aで回折した光は第2のホログラム322のホログラム領域322aでさらに回折される。第1のホログラム321を透過した光41と2つのホログラム領域321a、322aで回折されたビーム42とはλ/4板304に入射し、それぞれ右回り円偏光と左回り円偏光に変換させ、2段構成の回転多面鏡に入射させる。
【0070】
この図5に示す両ホログラム321、322はフォトポリマーを記録材料とし、両ホログラム基板をスペーサ323によって以下に示す距離をもたせている。
【0071】
この図5に示す構成のサイズについて一例を示す。コリメート光のビーム径Dは5mmで、光束分割された2ビームの間隔Lは7mmである。LD光の波長は0.65μmを使用する。回折角θは、sinθ=λ/Λとなる。
【0072】
ここで、λ:LD光の波長(0.65μm)、Λ:両ホログラムの格子ピッチ(1.5μmとする)より、θ=25.7°が得られる。
【0073】
スペーサ323の長さはL/tan(25.7°)=14.5mmの設計となる。
【0074】
上記した光束分割素子320の露光及び再生についての具体的実施例を、図6を参照して説明する。図6は、この発明の実施形態の光束分割素子の露光、再生状態を説明する構成図である。
【0075】
ホログラム原版(図示省略)を第1のホログラム記録層321の直前に配置する。この実施例では、露光ビームは、ヘリウムカドミウム(He−Cd)レーザ光(波長0.442μm)を使用する。ホログラム原版は露光ビーム431がθ1=4.2°で入射したとき回折角θ2=21.5°の回折光が発生するように設計されている。なお、回折効率は50%程度とする。
【0076】
第1の記録層321では露光ビーム431と原版からの回折光432の2光束によって干渉露光されホログラム領域321aが形成される。
【0077】
第2のホログラム記録層322では第1の記録層321からのビーム432とビーム431の一部によって干渉露光され、第2のホログラム領域322aが形成される。
【0078】
図6の破線41、42は光束分割素子320として機能させたとき、すなわち、波長0.65μmのレーザ光による再生時の光束の軌跡を表している。
【0079】
露光波長と再生波長が異なるためホログラム領域322aは再生で使用する領域より大きくなっているが、第2のホログラム領域322の円Aで囲んだ部分が再生時の上側の光束にオーバーラップしていないため、機能上、問題は無い。
【0080】
次に、上記した光束分割素子において、ホログラム領域の大きさ、回折角、第1の記録層と第2の記録層との間の距離の関係につき説明する。図7は、この発明の実施形態の光束分割素子の配置関係を示す説明図である。この発明によって作製された光束分割素子20’は第1のホログラム記録領域1と第2のホログラム記録領域2とが紙面内の長さDで、厚さLのガラス基板23の両側に配置された構造を有する。尚、この図においては、第1のホログラム記録領域1と第2のホログラム記録領域2のみ図示しているが、これらホログラム記録領域は、第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層に形成される。即ち、ガラス基板23の両側に第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層が配置され、ガラス基板、第1のホログラム記録層、第2のホログラム記録層とが一体化された構造となっている。露光ビームは40は、第1のホログラム記録領域1に対して、θiの角度で入射し、θdの角度で回折して第2のホログラム記録領域2に入射する。
【0081】
図7に図示した距離δがδ≧0でなければ第2のホログラム記録領域2を正しく作製することができない。したがって、δ=L×tan(θd)−D≧0を満足する必要がある。
すなわち、L×tan(θd)≧D・・・(1)
を満たす必要がある。
【0082】
(1)式を満たさないと、露光時に露光ビームの記録領域1からの開口による光の回折現象(もしくは回折広がり)のために記録領域2の一部でホログラムにゴースト(不良部)を記録してしまう。
【0083】
さらに好ましくは、回折広がりによる不良部を避けるために下記(2)式の関係を満たすようにL,D,θdを選ぶことが望ましい。
L×tan(θd)−D≧L×D/λ・・・(2)
(ただし、λは再生波長を表す)
【0084】
上記のように、(2)式に基づいてL,D,θdを選ぶことで、良好な光束分割素子を得ることができる。
【0085】
なお、上記した実施形態、また、以下に示す全ての実施形態で、図示された光束分割素子が紙面内や紙面奥行き方向にアレイ状に配列されていても、発明の効果に何ら影響を及ぼさない。そればかりか、生産性を向上できるメリットを有する。
【0086】
次に、この発明の第2の実施形態につき説明する。図8は、この発明の第2の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【0087】
この第2の実施形態は、図8に示すように、透光性基板23に第2のホログラム記録領域を形成するためのホログラム記録材料30を設置させる。そして、ホログラム記録材料30を設置した側とは逆の側の透光性基板13に予めホログラム領域101が形成されたホログラム基板11を設置または接着して、一体化する。
【0088】
図8に示すホログラム基板11は、微細凹凸を形成した形状ホログラムを用いているが、ホログラム基板11は予めホログラム領域が形成されていればよく、表面レリーフ型ホログラムに限らず。フォトポリマやHPDLCを用いて露光によりホログラム形成部101を形成したものなどを用いることができる。ホログラム基板11のホログラム形成部101は、偏光依存性のもの、あるいは回折効率が50%程度に形成している。
【0089】
次に、ホログラム基板11を透光性基板23に設置(あるいは接着)した後、露光ビーム41をホログラム基板11側から照射する。露光ビーム41のうちホログラム基板11のホログラム形成部101に入射した光は回折される。また、ホログラム形成部101の外を通過した光(43)と回折光42が重なり合う領域で干渉露光されて、ホログラム記録材料30にホログラム領域3が作製される。すなわち、ホログラム基板11に再生用光束42を入射させ、ホログラム基板11により回折された像再生光束の光路中にホログラム記録材料30を配置する。像再生光束に可干渉な光束を参照光43としてホログラム形成部101を経由させることなく、ホログラム記録材料30に照射する。像再生光束42と参照光43との干渉縞をホログラム記録材料30に記録することで、ホログラム領域3が形成されることになる。この露光法は、例えば、特開昭54−70851号公報に記載されている方法を応用することができる。
【0090】
さて、露光後、ホログラム記録材料30にホログラム領域3を形成後、例えば光束分割素子200として利用する場合、ホログラム基板11をそのまま素子の一構成要素として使用する。
【0091】
上記したように、ホログラム基板11は、多種多様なタイプを用いることが出来る。公知技術(記述せず)を用いてホログラム基板11をあらかじめ量産しておき、光束分割素子を作製時に組み込む形をとる。
【0092】
この第2の実施形態についても、第1の実施形態の効果と同じように、ホログラム基板11からの回折光の波面収差は、ホログラム記録材料30のホログラム領域3でキャンセルされる効果を有する。
【0093】
図9は、この発明の第3の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。この第3の実施形態は、第1の実施形態を変形したもので、バイナリホログラム12により、±1次回折光を発生させ、±1次回折光を発生させるホログラム領域81aを第1の記録層81に形成するものである。
【0094】
この第3の実施形態におけるホログラム光学素子(光束分割素子205)は、第1の記録層81と第2の記録層50がガラス基板23の表裏に設置されている。
【0095】
バイナリホログラム12aが形成されたホログラム基板12を第1の記録層81に近接させる。露光ビーム41はバイナリホログラム12aで±1次回折光42、43が発生する。そして、第1の記録層81の一部でホログラム81aが形成される。これら回折光42、43がガラス基板23を通過し、さらに、第2の記録層50に入射される。
【0096】
露光ビーム41のうちバイナリホログラム81aの領域外を伝搬した光は、第2の記録層50中で、所定回折光42、43と重なる。この2光束で第2の記録層50が干渉露光され、ホログラム領域50a、50bが形成される。したがって、一度の露光で3箇所にホログラム81a、50a、50bを形成することが出来る。なお、バイナリホログラム12aからの回折光に波面収差が発生していても、前述のとおり、二つの平行ビームでは波面収差がほぼ0に補正されている。
【0097】
次に、複製露光が完了し、2つの層に3つのホログラム81a、50a、50bが作製され、光束分割素子205となった再生時の特性を図10に従い説明する。
【0098】
前述のとおり、光束分割素子205の3箇所に形成されたホログラム領域81a、50a、50bは同じピッチである。光束分割素子205は、第1のホログラム記録層81と第2のホログラム記録層50が透光性基板であるガラス基板23の厚さによって所定の距離だけ離れて配置される。すなわち、第1のホログラム記録層81で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ、第2のホログラム記録層50が第1のホログラム記録層81に離れて配置されている。
【0099】
分割したい入射光40を第1のホログラム記録層81のホログラム領域81aに入射させる。ホログラム領域81は±1次回折光42、43が発生する。回折された±1次42、43sは第2のホログラム記録層51のホログラム領域50a、50bに入射し、さらに回折され出射(光44、44)される。ホログラム領域81a,50a、50bが格子ピッチが一致していると、入射光41を平行で紙面内で上下にオフセットされた2つの光44,44に分割されたことになる。
【0100】
この実施形態の光束分割素子205においては、光の光路長が同じになる。光の光路長が同じになることで、光の波面が同じになる。
【0101】
図11は、この発明の第4の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。この第4の実施形態は、第2及び第3の実施形態を変形したものである。
【0102】
この第4の実施形態においては、ホログラム基板12としてバイナリホログラム12aを用いる。被複製記録層50側にはホログラム基板12との空気ギャップをとるためにスペーサ24が配置される。また、ホログラム基板12がスペーサ24を介して被複製記録層50と一体化されてた構造である。
【0103】
バイナリホログラムのうち、2値のバイナリホログラムでは断面が矩形形状の溝深さを所定値にすることによって入射ビームを±m(mは自然数)次回折光を発生させることが可能である。この実施形態では、0次光を発生させず±1次回折光を発生させるタイプのものを用いた。
【0104】
露光ビーム41はバイナリホログラム領域12aを含んで広めのエリアに照射される。バイナリホログラム領域12aから±1次光回折光42、43が発生する。これらの光束42,43とバイナリホログラム領域12aの領域外を通過した光とが干渉する領域50a、50b(ハッチング領域)にホログラムが作製される。このようにしてホログラム光学機能素子の一例である光束分割素子201が完成する。
【0105】
次に、再生時の動作を図12を用いて説明する。
【0106】
入射光束51がホログラム基板12で±1次回折光として回折される。両回折光は、スペーサ24で作られた空気層を通過し、ホログラムが記録された領域50a、50b(ハッチング領域)に入射する。
【0107】
ホログラムが記録された領域50a、50bでさらに回折され、2光束が平行光として出射される。この実施形態も前述の効果と同様に、ホログラム基板12からの回折光が非平面波となっていてもホログラムが記録された領域(ハッチング領域)50a、50bで回折された光束は実質的に平面波に補正されている。
【0108】
図13は、この発明の第5の実施形態を示す模式図である。この第5の実施形態は、第4の実施形態を変形したものである。
【0109】
ホログラム基板13の裏面に記録材料層50’を配置させる。記録材料層50’が液体材料の場合には塗布することが出来る。少なくとも、ホログラム基板13と記録材料層50’のみでホログラム光学素子202が構成されている。ホログラム基板13の表面(記録材料と対向する面)にはホログラムが設置されている。例えば、フォトリソグラフィー技術によって2値のバイナリホログラム形状領域13aを作製することができる。
【0110】
露光ビーム(図示せず)の一部はホログラム基板13の表面のバイナリホログラム領域13aで±m次光(例えばm=1)の回折光を生じ、その他の部分の露光ビームは透過される。記録材料層50’で回折光と透過光が干渉するところ(ハッチング)でホログラム領域50a、50bが記録される。
【0111】
再生時は図13に示すように、入射光15がホログラム基板13の表面のバイナリホログラム領域13aで±m次光(例えばm=1)の回折光で回折され、両回折光が記録層のホログラム領域50a、50bでそれぞれ回折し、平行光52、53で出射される。
【0112】
図14及び図15は、この発明の第6の実施形態を示す模式図であり、図14は露光時、図15は再生時を示している。
【0113】
図14及び図15に示すように、この第6の実施形態は、図13に示すものと同様にホログラム基板13の裏面に記録材料層50が配置されている。
【0114】
図14に示すように、バイナリホログラム60aが形成されたホログラム基板60の一部に減光手段61が設置される。この減光手段61はNDフィルタを利用することができる。2値バイナリホログラム領域60aの最大回折効率は理論上、41%である。露光ビーム41がその面内均一性が確保されているとし、表面反射や内部吸収を無視しても、ホログラム基板60に入射されるパワー密度の41%のパワー密度として回折光42(回折光43も同じパワー密度)が発生する。回折光42,43と2値バイナリホログラム領域60a以外を通過した光との2光束干渉露光により、記録材料層50にホログラム領域50a、50bを形成する。この実施形態は、減光手段61で光の強度比を揃えるものである。
【0115】
減光手段61は透過率が40%程度のNDフィルタを使用する。すると、ホログラム記録領域50a、50b(ハッチング部分)での二つのビームの強度比(パワー密度比)を揃えることができる。この強度比が1:1に近いほど光干渉縞のコントラスト比(明部と暗部の比)が高くなる。この結果、作製されるホログラム領域50a、50bの回折効率を高くすることができる。
【0116】
露光完了後、再生時は、図15に示すように、入射光束51はその約40%が+1次光と、同じ効率で−1次光とが発生し、両回折光がホログラム領域50a、50b(ハッチング)で効率良く回折し、平行な2光束で出射される。ホログラム領域(ハッチング)がフォトポリマなどの記録材料で記録された体積ホログラムでは効率90%を超すことが可能である。入射光束の光量を100とすると、光束分割された各光束の光強度は36となる。
【0117】
上記したバイナリホログラム領域で±m次光を用いて、記録層に2つのホログラム領域を形成した光束分割素子においては、図12に示すように、記録層に設けられた2つのホログラム領域間に迷光の防ぐために光遮蔽手段55を設けるとよい。光遮蔽手段55を設けることで、ノイズ等が防ぐことができる。
【0118】
次に、露光時の波長と再生時の波長が異なる場合に対策につき図16を参照説明する。図16に示すものは、図2に示した第1の実施形態を例に取り説明するため、図2と同じ部材は同じ数字で図示した。
【0119】
図16に示すものにおいては、露光時の波長と再生波長が異なっている。露光ビーム40で再生した場合は光束41、42に示すように光束分割される。しかし、再生波長が異なる場合、入射角を調整して、入射光を与えることによって、効率良く光束分割可能である。図16においては、入射角θで入射光54を与えることにより、2つの光束55、56に効率よく分割できる。
【0120】
だたし、露光ビーム40と回折角が異なるため、図16に示すように、第2のホログラム領域57での光束中心が露光光束と異なる。このため、露光ビームは再生ビームより広めに照射することが望ましい。
【0121】
また、上記した実施形態においては、作製されるホログラムはs偏光が回折されるタイプを主体に記載したが、HPDLC(ホログラフィック高分子分散液晶)のようにp偏光が回折される偏光依存性ホログラムとなる記録材料を用いてもよい。
【0122】
上述したように、被複製ホログラム層となる記録層としては、光重合相分離を用いたホログラフィック高分子型液晶素子(Holographic Polymer Dispersed Liquid Crystals :以下HPDLCという。)を応用したホログラムを用いることができる。
【0123】
HPDLCは、非重合性液晶と等方相しか示さない光重合性モノマーとの混合相からなるホログラム記録材料層に、ホログラム回折格子を露光記録することにより形成される。
【0124】
図17ないし図20を参照して、HPDLCにつき簡単に説明する。
【0125】
図17に示すように、非重合性液晶分子213と重合性モノマー(あるいはプレポリマー)214と図示しない光重合開始剤とを均一に混合した混合物220を二枚の透明基板211、212間に挟む。混合物220の厚みは基板間隔を制御するスペーサー部材215によって制御できる。このようにして、被複製ホログラム層(記録層)21、22を構成する。
【0126】
非重合性液晶213としては、屈折率異方性を有する液晶ならば一般的なものを使用できる。液晶材料を選択する時は、あるオーダーパラメーターの配向状態において、重合性モノマーあるいはプレポリマーの硬化層の屈折率と等しい屈折率となる液晶材料を選択してもよく、また、液晶材料を選択してから、その液晶のあるオーダーパラメーターの配向状態での屈折率と同じ屈折率になるように重合性モノマー(あるいはプレポリマー)214を選択してもよい。また重合性モノマーまたはそのプレポリマーとしては、重合による硬化収縮が大きいものを用いることが好ましい。光重合開始剤としては、公知の材料を用いることができ、光重合開始剤の添加量が少なすぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が起こり難くなり、必要な露光時間が長くなってしまう。逆に、光重合開始剤が多すぎる場合にはポリマーと液晶の相分離が不十分な状態で硬化してしまうため、ポリマー中に多くの液晶分子が取り込まれ、偏光選択性が小さくなるという問題がある。スペーサー部材215としては、液晶表示装置に用いられるような球形スペーサー、ファイバースペーサー、フィルムなどを用いることが出来る。また、フォトリソグラフィーとエッチングあるいは成型技術などによって基板表面に突起形状を加工してもよい。
【0127】
スペーサー部材215の高さは数μmから数十μm範囲が好ましく、回折光の波長とポリマー部と液晶部の屈折率差に応じて所望のホログラム層厚みとなるように適宜設定される。
【0128】
ところで、透過型回折格子の回折効率ηは、次式で現される。
【0129】
η=sinψ
ψ=πdn/(λcosθ)
ここで、dは記録層の厚さ(すなわち、スペーサ部材215の厚さ)、nは屈折率変調量、λは再生波長、θはブラッグ条件を満たす角度からの差で表される。
【0130】
θが0のとき、d=λ/2/nを選ぶと、回折効率は100%となる。
【0131】
上記の関係からスペーサー部材215の高さを選択する。
【0132】
透明基板211、212としては、液晶表示装置に用いられるようなガラス、プラスチックなどを用いることが出来る。
【0133】
次に、相分離によるホログラム形成過程について図18、図19を参照して説明する。図18に示すように、図示しない所望の波長のレーザー光源(B1)(B2)による二光束干渉露光系を用いて、混合物200中に露光を行う。二光束干渉露光により干渉縞が形成される。図19は、図18の丸で囲んだ部分の拡大図である。
【0134】
この二光束干渉露光により、図19に示すように干渉縞の明部において重合性モノマー(あるいはプレポリマー)214の光重合反応が始まる。この時、硬化収縮が起こって密度差が生じ、隣接する重合性モノマー(あるいはプレポリマー)214が明部に移動し更に重合が進行する。それと同時に明部に存在していた非重合性液晶213が暗部に向かって追い出されることで相分離が起こる。このとき液晶分子213が移動して行く際にモノマーやポリマー鎖との相互作用で液晶分子長軸を移動方向に配向させようとする力が働くと考えられる。すなわち、相分離過程において干渉縞の間隔方向に液晶分子を配向させようとする力が働くと考えられる。最終的には、図20に示すように、干渉縞の明暗のピッチに対応してポリマー部214と非重合性液晶層213の周期構造が形成され、液晶部213の配向ベクトルが干渉縞の間隔方向を向いた状態が得られると考えられる。
【0135】
液晶部全体の常光屈折率noとポリマー部の屈折率npがほぼ一致するように液晶の種類とポリマーの種類の組合せを適宜設定することで、s偏光の入射光に対しては液晶部213全体の常光屈折率noとポリマー部214の屈折率npの差を感じないため回折せず、p偏光の入射光に対しては液晶部213全体の異常光屈折率neとポリマー部214の屈折差を感じて回折するような偏光選択性ホログラムが得られる。ここで、体積ホログラムの回折効率は屈折率変調量Δnと厚みdの積Δn・dに依存するので、屈折率差Δnを大きく出来るとホログラムの厚みdを薄く出来る。体積ホログラムの厚みを薄くすると回折効率の角度依存性が小さくなり、入射角変動に対する光利用効率低下が改善する。したがって、偏光選択性が大きく入射角度依存性が比較的少ない高効率な偏光選択性ホログラムが得られる。
【0136】
上記したHPDLCにおいて、露光前から露光後までにおけるPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystals )混合物と基板との界面での屈折率差を極めて小さくして反射光量を減らすことで、高効率な回折効率を得ることができる。上記した混合物220に用いられる非重合性液晶分子は、ネマチック、コレステリック、スメクチックのいずれのタイプでも良く、従来公知のビフェニル、ターフェニル、フェニルシクロヘキサン、ビフェニルシクロヘキサン、安息香酸フェニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン、1−フェニル−2−シクロヘキシルエタン、1−フェニル−2−ビフェニルエタン、1−シクロヘキシル−2−ビフェニルエタン、ビフェニルカルボン酸フェニルエステル、4−シクロヘキシル安息香酸フェニルエステルなどを骨格とし、アルキル基、アルコキシ基や誘電異方性を付与するための極性付与基としてのシアノ基、ハロゲン基などを置換基として有する液晶などを用いることができる。
【0137】
この混合物220に用いられる重合性モノマー(あるいはプレポリマー)は、重合による硬化収縮が大きいものを用いることが好ましく、このような重合性モノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する光重合可能な化合物であって、1分子中に少なくともエチレン性不飽和二重結合を1個有する光重合、光架橋可能なモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びそれらの混合物を挙げることができ、モノマー及びその共重合体の例としては、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等を挙げることができるが、特に2官能以上の多官能性モノマーは硬化収縮が大きく、好適に使用できる。
【0138】
不飽和カルボン酸のモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、及びそれらのハロゲン置換不飽和カルボン酸、例えば塩素化不飽和カルボン酸、臭素化不飽和カルボン酸、弗素化不飽和カルボン酸等を挙げることができる。不飽和カルボン酸の塩としては前述の酸のナトリウム塩及びカリウム塩等を挙げることができる。また、ウレタンアクリレート類、ポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸等の多官能性のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。上記の他、熱重合禁止剤、可塑剤等が添加されてもよい。
【0139】
更に、光重合反応のために光重合開始剤を「液晶とモノマーの混合用液」に添加することが望ましい。光重合開始剤としては、ビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、α−アミノアルキルフェノン、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセンなどを例示することができ、特にビスアシルフォスフィンオキサイド系のものは好適である。
【0140】
ところで、露光時にガラス基板の界面で反射して不要干渉縞が発生すると、回折効率の低下につながる。そこで、混合物220の屈折率とガラス基板の屈折率の差を減らすことでこの反射光量を減らすことができる。
【0141】
ここで、非重合性液晶の常光と異常光屈折率をそれぞれno、neとし、重合性モノマー(あるいはプレポリマー)の屈折率をn2とし、非重合性液晶と重合性モノマー(あるいはプレポリマー)のα:(1−α) ただし、0<α<1 とし、透明基板の屈折率nを下記(1)式を満たすガラス材料を選ぶ。
min(no,ne)≦n≦α・(2no + ne)/3+(1−α)・n2…(3)
ただし、min(no, n2)はnoとn2のうち小さいほうの値である。
【0142】
例えば、no=1.53、ne=1.78、n2=1.55で、α=0.3とすると混合物54の平均屈折率は1.613となる。この平均屈折率は、露光開始後から減少し始める。ポリマー形成部ではポリマー屈折率1.55に近づき、液晶部分では露光ビームがs偏光で液晶分子が配向されていくに従って1.53に近づいていく。このため、基板との混合物の屈折率差は露光開始前から露光完了までの間に必ず0以外の値となる。しかし、露光開始直後の屈折率差を0に近づければ格子作製で最も重要な時間帯で不要反射光(もしくは不要干渉縞)を最小にすることができる。さらに、基板屈折率の下限値は液晶の常光屈折率とモノマーの屈折率の小さいほうの値である。この範囲に該当するガラス基板を選ぶことによって不要反射光量を減らし不要干渉縞を低減することができ、回折効率も高くなる。
【0143】
上記したのデータの場合、基板の屈折率は1.53≦n≦1.569の範囲で選べばよいことになる。波長0.5μmでこの屈折率範囲のガラス材料は、例えば、ドイツ・ショット社製の製品で選ぶと、PK3(屈折率1.530)や、N−BAK2(同1.545)や、N−PSK3(同1.557)や、N−SK11(同1.569)がある。特に、露光開始直後の屈折率差を無くしたい場合にはN−SK11やこの屈折率に近いガラス種を選ぶことが望ましい。
【0144】
この発明の実施形態においては、上記したHPDLCを被複製ホログラム層(記録層)として用いることができる。
【0145】
なお、HPDLCを用いた場合、複製時と再生時のレーザの波長は相違する。例えば、複製時が442nm、再生時が650nmの波長のレーザ光が用いられる。これは、複製時の光重合のための吸収の関係から選択される。
【0146】
さらには、第1のホログラム記録領域が偏光無依存のホログラムであっても、そのホログラムの回折効率が50%前後に調整するように露光すれば、本発明に用いることは十分に可能である。
【0147】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0148】
この発明は、光束分割素子に用いることができ、光束分割素子は2段に重ねられた回転多面鏡を有する光走査装置や画像形成装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】この発明の第1の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【図2】図1で製造したホログラム光学素子の再生時を示す模式図である。
【図3】この発明のホログラム光学素子の波面収差がキャンセルされる状態を説明するための模式図である。
【図4】この発明の光束分割素子を用いた画像形成装置の構成例を示す模式的斜視図である。
【図5】この発明の光束分割素子により、レーザからの光束を2つに分離する状態を示す構成図である。
【図6】この発明の実施形態の光束分割素子の露光、再生状態を説明する構成図である。
【図7】この発明の実施形態の光束分割素子の配置関係を示す説明図である。
【図8】この発明の第2の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【図9】この発明の第3の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【図10】図9で製造したホログラム光学素子の再生時を示す模式図である。
【図11】この発明の第4の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【図12】図11で製造したホログラム光学素子の再生時を示す模式図である。
【図13】この発明の第5の実施形態を示す模式図である。
【図14】この発明の第6の実施形態を示す模式図であり、ホログラム光学素子を製造する際の複製露光時を示す。
【図15】図14で製造したホログラム光学素子の再生時を示す模式図である。
【図16】露光時の波長と再生時の波長が異なる場合に対策を説明するための模式図である。
【図17】ポリマー分散液晶型の偏光選択性ホログラム素子を示す露光前の概略断面図である。
【図18】ポリマー分散液晶型の偏光選択性ホログラム素子を示す露光状態の概略断面図である。
【図19】ポリマー分散液晶型の偏光選択性ホログラム素子を示す露光状態の要部を示す図である。
【図20】ポリマー分散液晶型の偏光選択性ホログラム素子を示す露光後の概略断面図である。
【符号の説明】
【0150】
10 ホログラム原版、1、2 ホログラム領域、20 記録セル、21 第1の被複製ホログラム層(第1のホログラム記録層)、22 第2の被複製ホログラム層(第2のホログラム記録層)、31 露光ビーム、32 1次回折光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層とを備えたホログラム光学素子であって、前記第1のホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ、前記第2のホログラム記録層が第1のホログラム記録層に離れて配置され、前記第1のホログラム記録層からの回折光が第2のホログラム記録層に入射することを特徴とするホログラム光学素子。
【請求項2】
前記第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層間に所定厚さの透光性基板または所定長さのスペーサを配置し、前記第1のホログラム記録層と第2のホログラム記録層間の距離を確保して一体化されたことを特徴とする請求項1に記載のホログラム光学素子。
【請求項3】
前記第1のホログラム記録層への入射光軸と回折光軸を含む面の前記第1のホログラム記録層長さをDとし、前記所定の距離をLとし、第1のホログラムへの入射角をθi、第1のホログラムの回折角をθdとすると、
L×tan(θd)≧D ・・・(1)
を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のホログラム光学素子。
【請求項4】
前記第1のホログラム記録層で再生された回折光の波面収差Λが第2のホログラム記録層で−Λの波面収差を受け、第2のホログラム記録層からの回折光における波面収差がキャンセル補正されて出力されることを特徴とするホログラム光学素子請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項5】
前記第2のホログラム記録層は、前記第1のホログラム記録層を経た所定の回折光とホログラム記録層を通過せずに到達する光とで干渉露光されて形成され、露光ビームの波面を再現して回折光が出射されることにより、波面収差を補正することを特徴とする請求項4に記載のホログラム光学素子。
【請求項6】
前記第1のホログラム記録層は0次を含む所定次数の回折光を発生させるホログラム原版を密着もしくは近接させて作製されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずかに記載のホログラム光学素子。
【請求項7】
前記第1のホログラム記録層は±m次(mは自然数)の回折光を発生させるホログラム原版を密着もしくは近接させて作製されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずかに記載のホログラム光学素子。
【請求項8】
前記ホログラム記録層のホログラム領域外に減光手段が配置されたこと特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のホログラム光学素子
【請求項9】
所定回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム基板と、このホログラム領域で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ離れて配置される被複製記録層と、を備え、前記ホログラム領域からの回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達する光とで干渉露光により被複製記録層にホログラム記録層が作製されてなるホログラム光学素子。
【請求項10】
前記ホログラム基板と被複製記録層間に所定厚さの透光性基板または所定長さのスペーサを配置し、前記ホログラム基板と被複製記録層間の距離を確保して一体化されたことを特徴とする請求項9に記載のホログラム光学素子。
【請求項11】
前記ホログラム基板は±m次(mは自然数)の回折光を発生させることを特徴とする請求項9または10に記載のホログラム光学素子。
【請求項12】
前記ホログラム原版のホログラム領域外に減光手段が配置されたこと特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載のホログラム光学素子。
【請求項13】
第1の被複製記録層と第2の被複製記録層とがホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ間隔を有して配置され、0次光を含み所定の回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム原版を前記第1の被複製記録層に密着または近接させた状態で複製露光して、前記第1の被複製記録層にホログラム記録層を作製するとともに、前記第1の被複製記録層を経た前記ホログラム原版の所定回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達する光とで前記第2の被複製記録層を干渉露光し、前記第2の被複製記録層にホログラム記録層を作製することを特徴とするホログラム光学素子の製造方法。
【請求項14】
少なくとも第1の被複製記録層と第2の被複製記録層とがホログラム記録層で回折された光束と回折されない光束とが空間的に分離される距離だけ間隔を有して配置され、±m次(mは自然数)の回折光を発生させるホログラム領域を有するホログラム原版を前記第1の被複製記録層に密着または近接させ状態で複製露光して、前記第1の被複製記録層にホログラム記録層を作製するとともに、第1の被複製記録層を経た前記ホログラム原版の所定回折光と前記ホログラム領域を通過せずに到達した光とで前記第2の被複製記録層を干渉露光し、前記第2の被複製記録層にホログラム記録層を作製することを特徴とするホログラム光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記ホログラム領域外に減光手段が配置され、減光手段を介して露光することを特徴とする請求項13または14に記載のホログラム光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記請求項1ないし12のいずれか1項に記載のホログラム光学素子の第1のホログラム記録層に入射される光束を第2のホログラム記録層から2つの光束に分割して出力することを特徴とする光束分割素子。
【請求項17】
前記第1のホログラム記録層の0次回折効率が、第1のホログラム記録層回折効率と第2のホログラム記録層の回折効率の積と実質的に等しいことを特徴とする請求項16に記載の光束分割素子。
【請求項18】
前記第1のホログラム記録層に入射させる光束が円偏光または両記録層からの回折光軸を含む面から45°傾いた直線偏光であることを特徴とする請求項14に記載の光束分割素子。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図13】
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【図16】
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【図1】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−197303(P2008−197303A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31594(P2007−31594)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】