説明

ボアサイト装置及びボアサイト調整方法

【課題】ヒータ等の補助手段を用いることなく、簡単にかつ迅速にボアサイト調整を行う。
【解決手段】レーザ装置2から発射されたレーザ光は、光学フィルタ8に集光され、吸収されて熱に変換される。光学フィルタ8から発せられた赤外線は、赤外線カメラ3に入射し、光学フィルタ8の熱画像が得られ、熱画像の最も明るい位置に、レチクルの中心を一致させると、レーザ装置2の光軸と、赤外線カメラ3の光軸とが一致することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボアサイト装置及びボアサイト調整方法に係り、例えば、レーザ測距装置やレーザ照射装置と、赤外線カメラ等とを組み合わせて用いる場合の光軸合わせのためのボアサイト装置及びボアサイト調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機に、観測用機材として、レーザ測距装置を搭載し、このレーザ測距装置と、カメラとを組み合わせて用い、カメラで観察した目標物に、レーザ光を照射して、目標物までの距離や方位を正確に計測するような場合には、レーザ測距装置を構成し、レーザ光を発射するレーザ装置の光軸と、カメラの光軸とを精密に一致させる必要がある。
従来より、両光軸を一致させるために、目標物を用意して、この目標物にレーザ光を照射し、照射位置をカメラで観測し確認して、光軸を調整することが行われている。
【0003】
例えば、凸レンズでレーザ光を、凸レンズの焦点位置に置いたスクリーンに集束させ、この焼付パターンの像と、照準光学系のレチクル(十字線又は網線)の基準線とを凸レンズを通して合致させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この方法は、レーザ照射装置の光軸と、可視光カメラの光軸とを合わせる場合には、簡便で良い方法である。
【0004】
しかしながら、例えば、レーザ測距装置と、赤外線を受光する暗視装置としての赤外線カメラとを組み合わせて用い、赤外線カメラで観察した目標物に、レーザ光を正確に照射して、目標物までの距離や方位を正確に計測するような場合に、レーザ測距装置を構成するレーザ装置の光軸と、赤外線カメラの光軸とを合わせるために適用することは困難である。
すなわち、レーザ装置と赤外線カメラとでは、扱う光の波長が1桁程度異なるので、赤外線カメラで、直接レーザ光を観測することは不可能である。
【0005】
そこで、通常は、ヒータ等を加熱して基準位置とし、この基準位置にレーザ光を照射し、ヒータ位置とレーザ光の照射位置とを一致させ、さらに、このヒータ位置に赤外線カメラのレチクルの中心を合わせることによって、ボアサイト調整を行っている。
なお、高いボアサイト調整精度が求められる場合には、少なくとも数十mの空間距離が必要であった。
なお、ヒータに代えて、ミストにレーザ光を照射して発熱させ、熱線を赤外線カメラによって検知する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開昭57−164703号公報
【特許文献2】特開2000−035371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする第1の問題点は、上記従来技術では、煩雑で、手間と時間がかかるという点である。
すなわち、例えば特許文献1記載の上記従来技術を、可視光カメラに代えて、赤外線カメラの光軸と、レーザ装置の光軸とを合わせる場合に適用しようとすると、赤外線カメラでは、YAG等のレーザ光は観測できないので、ヒータ等を用いて、ヒータ位置とレーザ光の照射位置とを一致させ、ヒータ位置に赤外線カメラのレチクルの中心を合わせるという間接的な方法をとるしかない。
【0007】
また、第2の問題点は、上記従来技術では、手間と時間がかかる上に、広い空間を要し、かつ、相応の作業人員を要するという点である。
すなわち、所定のボアサイト精度を確保するために、確認及び調整作業に、ある程度の距離が必要であるために広い空間を要し、かつ、時間も労力もかかる。
【0008】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、ヒータ等の補助手段を用いることなく、簡単にかつ迅速にボアサイト調整を行うことができるボアサイト装置及びボアサイト調整方法を提供することを第1の目的としている。
また、広い空間、作業人員及び時間を要することなく、正確にボアサイト調整を行うことができるボアサイト装置及びボアサイト調整方法を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、レーザ光を目標物に照射するレーザ装置の第1の光軸と、上記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する撮像装置の第2の光軸とを合わせるためのボアサイト装置に係り、レーザ光を受光して熱に変換する光熱変換部材と、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を上記光熱変換部材へ導く第1の光学系と、上記光熱変換部材から発せられた赤外線を上記撮像装置へ導く第2の光学系とを備え、上記第1の光軸に対応するレーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示す赤外線画像が、上記撮像装置によって得られるようにされていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のボアサイト装置に係り、上記第1の光軸と、上記第2の光軸又は上記目標物の可視光画像を撮像する可視撮像装置の第3の光軸とを合わせるために用いられ、上記第1の光学系は、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を上記光熱変換部材へ導くと共に、上記光熱変換部材から到来した可視光を上記可視撮像装置に導くために用いられ、上記第1の光軸に対応するレーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示す可視光画像が、上記可視撮像装置によって得られるようにされていることを特徴としている。
【0011】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載のボアサイト装置に係り、上記光熱変換部材にはレチクルが形成され、レチクル像を含む上記可視光画像と、レーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示すと共にレチクル像を含む上記赤外線画像との比較によって、上記第1の光軸と上記第3の光軸との光軸合せがなされることを特徴としている。
【0012】
また、請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載のボアサイト装置に係り、上記光熱変換部材は、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を集光するための上記第1の光学系を構成する第1の集光レンズと、到来した赤外線を集光して上記撮像装置に入射させるための上記第2の光学系を構成する第2の集光レンズとの焦点位置に配置されていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1に記載のボアサイト装置に係り、上記光熱変換部材は、所定値以下の厚さの熱伝導率が比較的低い板状部材からなることを特徴としている。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載のボアサイト装置に係り、上記光熱変換部材は、熱線吸収ガラスからなることを特徴としている。
【0015】
また、請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1に記載のボアサイト装置に係り、上記第1の光学系、上記第2の光学系及び上記光熱変換部材を、内部に配置する遮光構造の筐体を備えてなっていることを特徴としている。
【0016】
また、請求項8記載の発明は、請求項7記載のボアサイト装置に係り、上記筐体は、所定の回動軸の周りに回動可能とされ、ボアサイト調整を行う際の調整位置と、上記レーザ装置が、レーザ光を上記目標物に照射し、上記撮像装置が、上記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する際の退避位置とで切換可能とされていることを特徴としている。
【0017】
また、請求項9記載の発明は、レーザ光を目標物に照射するレーザ装置の第1の光軸と、上記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する撮像装置の第2の光軸とを合わせるためのボアサイト調整方法に係り、レーザ光を受光して熱に変換する光熱変換部材と、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を上記光熱変換部材へ導く第1の光学系と、上記光熱変換部材から発せられた赤外線を上記撮像装置へ導く第2の光学系とを配置し、上記レーザ装置からレーザ光を出射し、上記第1の光学系を介して上記光熱変換部材に照射し、上記第1の光軸に対応するレーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示す赤外線画像を、上記第2の光学系を介して、上記撮像装置によって得て、上記第1の光軸と上記第2の光軸とを合わせることを特徴としている。
【0018】
また、請求項10記載の発明は、請求項9記載のボアサイト調整方法に係り、上記第1の光軸に対応する上記赤外線画像の位置に、上記撮像装置のレチクルの中心を合わせることを特徴としている。
【0019】
また、請求項11記載の発明は、請求項9又は10記載のボアサイト調整方法に係り、上記第1の光軸と、上記第2の光軸又は上記目標物の可視光画像を撮像する可視撮像装置の第3の光軸とを合わせるために用いられ、上記第1の光学系は、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を上記光熱変換部材へ導くと共に、上記光熱変換部材から到来した可視光を上記可視撮像装置に導くために用いられ、上記第1の光軸に対応するレーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示す可視光画像を、上記可視撮像装置によって得て、上記第1の光軸と上記第3の光軸とを合わせることを特徴としている。
【0020】
また、請求項12記載の発明は、請求項11記載のボアサイト調整方法に係り、レチクルが形成された上記光熱変換部材を用い、レチクル像を含む上記可視光画像と、レーザ光の上記光熱変換部材への入射位置を示すと共にレチクル像を含む上記赤外線画像との比較によって、上記第1の光軸と上記第3の光軸とを合わせることを特徴としている。
【0021】
また、請求項13記載の発明は、請求項9乃至12のいずれか1に記載のボアサイト調整方法に係り、上記光熱変換部材は、上記レーザ装置から出射されたレーザ光を集光するための上記第1の光学系を構成する第1の集光レンズと、到来した赤外線を集光して上記撮像装置に入射させるための上記第2の光学系を構成する第2の集光レンズとの焦点位置に配置されていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項14記載の発明は、請求項9乃至13のいずれか1に記載のボアサイト調整方法に係り、上記光熱変換部材は、所定値以下の厚さの熱伝導率が比較的低い板状部材からなることを特徴としている。
【0023】
また、請求項15記載の発明は、請求項14記載のボアサイト調整方法に係り、上記光熱変換部材は、熱線吸収ガラスからなることを特徴としている。
【0024】
また、請求項16記載の発明は、請求項9乃至15のいずれか1に記載のボアサイト調整方法に係り、上記第1の光学系、上記第2の光学系及び上記光熱変換部材を、遮光構造の筐体の内部に配置することを特徴としている。
【0025】
また、請求項17記載の発明は、請求項16記載のボアサイト調整方法に係り、上記筐体を、所定の回動軸の周りに回動可能とし、ボアサイト調整を行う際の調整位置と、上記レーザ装置が、レーザ光を上記目標物に照射し、上記撮像装置が、上記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する際の退避位置とで切り換えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
この発明の構成によれば、第1の光学系と第2の光学系との間に、レーザ装置から出射されたレーザ光を熱に変換する光熱変換部材が配置されているので、光熱変換部材から発せられた赤外線を撮像装置が検出することによって、レーザ光の光熱変換部材への入射位置を、直接撮像装置によって確認することができ、ヒータ等の補助手段を用いることなく、簡単にかつ迅速にボアサイト調整を行うことができる。
また、広い空間、作業人員及び時間を要することなく、正確にボアサイト調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
第1の光学系と第2の光学系との間に、レーザ装置から出射されたレーザ光を熱に変換する光熱変換部材が配置されていることによって、光熱変換部材から発せられた赤外線を撮像装置が検出して、レーザ光の光熱変換部材への入射位置を、直接撮像装置によって確認し、ヒータ等の補助手段を用いることなく、簡単にかつ迅速にボアサイト調整を行うという第1の目的を実現した。
また、広い空間、作業人員及び時間を要することなく、正確にボアサイト調整を行うという第2の目的を実現した。
【実施例1】
【0028】
図1は、この発明の第1の実施例であるボアサイト装置の構成を説明するための説明図、図2は、同ボアサイト装置と組み合わされた赤外線カメラによって撮影された熱画像の例を示す図、図3は、同ボアサイト装置のボアサイト調整時の配置状態を示す斜視図、また、図4は、同ボアサイト装置の退避時の配置状態を示す斜視図である。
【0029】
この例のボアサイト装置1は、図1に示すように、例えば、レーザ測距装置を構成し、レーザ光を発射するレーザ装置2の光軸(第1の光軸)と、赤外線を受光する暗視装置としての赤外線カメラ3の光軸(第2の光軸)とを合わせ、例えば、赤外線カメラ3で観察した目標物に、レーザ光を正確に照射して、目標物までの距離を計測するために用いられる。
【0030】
このボアサイト装置1と、レーザ装置2と、赤外線カメラ3とは、例えば、観測装置に組み込まれて用いられる。
この例では、レーザ装置2では、発射するレーザ光の波長が、例えば、1.06μm、赤外線カメラ3では、受光する赤外線の波長の範囲が、例えば、3〜10μmである。
【0031】
ボアサイト装置1は、レーザ装置2から照射されたレーザ光のビーム径を細くするアパーチャ5と、レーザ装置2からアパーチャ5を介して入射されたレーザ光を反射させて90°向きを換えて出射するレーザ用反射鏡6と、レーザ用反射鏡6から受けたレーザ光を集光させるレーザ用集光レンズ7と、レーザ光を受光し吸収して発熱する光学フィルタ8と、光学フィルタ8から発せられた赤外線を集光する赤外線用集光レンズ9と、赤外線用集光レンズ9から入射した赤外線を赤外線カメラ3へ向けて90°反射させる赤外線用反射鏡11とを有している。
【0032】
光学フィルタ8は、レーザ用集光レンズ7と赤外線用集光レンズ9との間の両レンズ7,9の焦点位置に配置される。
光学フィルタ8は、薄板状のガラス製部材からなり、レーザ光を良く吸収して熱に変換すると共に、熱伝導率が比較的低い部材が選択される。この例では、光学フィルタ8は、所定値以下の厚さ(例えば、略3mm)とされ、微量の金属(鉄、ニッケル、コバルト、セレン等)が添加された着色透明の熱線吸収ガラスが用いられる。
【0033】
ここで、光学フィルタ8は、レーザ光を吸収して発熱するが、熱は、レーザ光の入射位置(中心)から表面に沿って周囲には伝導し難くく、入射位置(照射位置)が最も温度が高い温度分布を示す。
光学フィルタ8においては、レーザ光が照射された位置と、この周囲の領域とで温度差が生じ、この温度差は、赤外線カメラ3によって観測可能である。
また、光学フィルタ8は、その厚さが所定値以下であることにより、レーザ光の入射面8aに背向する(反対側の)反対面8bにも熱が容易に伝導し、入射面8aと同様の温度分布を示す。
【0034】
この温度分布(温度差)により、レーザ光の入射位置(すなわち、レーザ装置2の光軸位置)に対応する反対面8bの最高温度位置が、図2に示すように、赤外線カメラ3によって容易に観測可能となる。
この反対面8bの最高温度位置に、赤外線カメラ3のレチクル(十字線又は網線)の中心を一致させることによって、すなわち、熱画像中心にレチクルの中心を一致させることによって、レーザ装置2の光軸と、赤外線カメラ3の光軸とを合わせるボアサイトがなされる。
【0035】
また、このボアサイト装置1は、切換機構(不図示)によって、図3及び図4に示すように、レーザ装置2の光軸及び赤外線カメラ3の光軸に略平行な回動軸X1の周りに回動可能とされ、ボアサイト調整時の調整位置と、運用時の退避位置とで切り換えが行われる。
調整位置では、遮光構造によりレーザ光が周囲に拡散しないようにされている。すなわち、レーザ光は、ボアサイト装置1内部で終端されて外部には漏れないようにされている。例えば、ボアサイト装置1の筐体の内面は、反射を抑えるためのコーティング処理が施されている。
また、退避位置では、ボアサイト装置1を、レーザ装置2の光軸と、赤外線カメラ3の光軸とから外して、観測に支障のない状態とされる。
【0036】
次に、図1乃至図4を参照して、この例のボアサイト装置1を用いたボアサイト調整方法について説明する。
まず、ボアサイト装置1において、図1に示すように、アパーチャ5と、レーザ用反射鏡6と、レーザ用集光レンズ7と、光学フィルタ8と、赤外線用集光レンズ9と、赤外線用反射鏡11とは、光学的に同軸となるように予め調整して固定される。
【0037】
ボアサイト調整時には、図3に示すように、ボアサイト装置1を、アパーチャ5がレーザ装置2に、赤外線用反射鏡11が赤外線カメラ3に向いた調整位置に配置する。
レーザ照射装置2からレーザ光が発射されると、レーザ光は、アパーチャ5を通過して、ビーム径が細くなる。アパーチャ5によって、レーザスポットが小さくなり、ビーム中心が視認容易となる。
【0038】
アパーチャ5を通過したレーザ光は、レーザ用反射鏡6に入射して反射し、90°向きを変えて出射する。
レーザ用反射鏡6から出射したレーザ光は、レーザ用集光レンズ7によって集光されて、焦点位置に配置された光学フィルタ8(の入射面8a)に集光される。レーザ光は、光学フィルタ8に吸収され、熱に変換される。これによって、光学フィルタ8から赤外線が発せられる。
【0039】
ここで、レーザ光の入射位置(すなわち、レーザ装置2の光軸位置)に対応する反対面8bの位置が最高温度位置となる。
光学フィルタ8は、赤外線用集光レンズ9の焦点位置にも合わせられていることによって、光学フィルタ8から発せられた赤外線は、赤外線用集光レンズ9を通り、赤外線用反射鏡11に入射して赤外線カメラ3へ向けて90°向きを変えて反射し、赤外線カメラ3に入射する。
【0040】
すなわち、光学フィルタ8の熱画像(サーマルイメージ)が、赤外線カメラ3の出力画像3aとして、図2に示すように得られる。
ここで、熱画像の最も明るい位置(画像中心)に、レチクルの中心を一致させると、レーザ装置2の光軸(すなわち、レーザ測距装置の光軸)と、赤外線カメラ3の光軸とが一致することなる。
【0041】
この後、図4に示すように、ボアサイト装置1を、回動軸X1の周りに90°回転させて退避位置に回転変位させ、アパーチャ5がレーザ装置2から離れ、赤外線用反射鏡11が赤外線カメラ3から離れるように配置する。
こうして、ボアサイト装置1を、レーザ装置2の光軸と、赤外線カメラ3の光軸とから外して、観測に支障のない状態として、レーザ装置2からレーザ光A1を目標物へ向けて発射し、目標物から赤外線A2を受光可能な状態として、運用を開始する。
【0042】
このように、この例の構成によれば、レーザ装置2から発射されたレーザ光は、光学フィルタ8に集光され、吸収されて熱に変換され、赤外線カメラ3において、熱画像の最も明るい位置に、レチクルの中心を一致させると、レーザ装置2の光軸と、赤外線カメラ3の光軸とを一致させることができるので、従来技術におけるように、ヒータ等の補助手段を用いることなく、レーザ光の位置を、直接、赤外線カメラ3で確認することができる。
したがって、簡単に、かつ、迅速に、ボアサイト調整を行うことができる。すなわち、ボアサイト調整のために要する空間、時間、及び労力(作業人員等)を低減することができる。
【0043】
また、ボアサイト装置1は、調整位置では、遮光構造によりレーザ光が周囲に拡散しないようにされている。すなわち、ボアサイト調整時に、外部空間に、レーザ光を照射する必要がないので、防護処置が不要となる。
また、コントローラが、所定の制御プログラムを実行して、赤外線カメラ3におけるレチクル調整を行うことによって、自動的にボアサイト調整をすることが可能となる。したがって、自動化によって、一段と、作業時間を短縮し、かつ、正確に、ボアサイト調整を行うことができる。
【0044】
また、ボアサイト装置1は、自動化が可能であると共に、回動軸X1の周りに回転させることによって、運用時に、容易にボアサイト装置1の退避が可能であるので、ボアサイト装置1を移動体に搭載した状態で、点検や再調整が可能となる。
例えば、航空機内にレーザ測距装置を設置する場合には、飛行中であっても、容易に調整を行うことができる。
【0045】
しかも、光熱変換部材としての光学フィルタ8は、薄板状のガラス製部材からなり、レーザ光を良く吸収して熱に変換すると共に、熱伝導率が比較的低い部材が選択されるので、レーザ光の入射位置(すなわち、レーザ装置2の光軸)が最も温度が高い温度分布を示すと共に、レーザ光の入射面8aに背向する反対面8bにも熱が容易に伝導し、入射面8aと同様の温度分布を示し、反対面8bの最高温度位置が、赤外線カメラ3によって容易に観測可能となるので、最高温度位置(熱画像の最も明るい位置)にレチクルの中心を一致させることによって、正確に光軸を合わせることができる。
【実施例2】
【0046】
図5は、この発明の第2の実施例であるボアサイト装置の退避時の配置状態を示す斜視図である。
この例が上述した第1の実施例と大きく異なるところは、第1の実施例では、ボアサイト装置をレーザ装置の光軸及び赤外線カメラの光軸に略平行な回動軸の周りに回転させて退避させたのに対して、上記光軸に直交する回動軸の周りに回転させて例えば上方に退避させるように構成した点である。
これ以外の構成は、上述した第1の実施例の構成と略同一であるので、第1の実施例と同一の構成要素については、図5において、図3及び図4で用いた符号と同一の符号を用いて、その説明を簡略にする。
【0047】
図5に示すように、この例のボアサイト装置1は、切換機構(不図示)によって、レーザ装置2の光軸及び赤外線カメラ3の光軸に略直交する回動軸X2の周りに回動可能とされ、ボアサイト調整時の調整位置と、運用時の退避位置とで切り換えが行われる。
【0048】
この例の構成によれば、上述した第1の実施例と略同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0049】
図6は、この発明の第3の実施例であるボアサイト装置の構成を説明するための説明図、図7は、同ボアサイト装置と組み合わされた可視光TVカメラによって撮影された可視画像の例を示す図、また、図8は、同ボアサイト装置と組み合わされた赤外線カメラによって撮影された熱画像の例を示す図である。
【0050】
この例が上述した第1の実施例と大きく異なるところは、第1の実施例では、赤外線カメラと組み合わせたのに対して、可視光カメラとも組み合わせるように構成した点である。
これ以外の構成は、上述した第1の実施例の構成と略同一であるので、第1の実施例と同一の構成要素については、図6において、図1で用いた符号と同一の符号を用いて、その説明を簡略にする。
【0051】
この例のボアサイト装置1Bは、図6に示すように、例えば、レーザ測距装置を構成し、レーザ光を発射するレーザ装置15の光軸(第1の光軸)と、可視光を受光する可視光TVカメラ16の光軸(第3の光軸)、又は赤外線を受光する赤外線カメラ17の光軸(第2の光軸)とを合わせるために用いられる。
【0052】
ボアサイト装置1Bは、レーザ装置15から照射されたレーザ光を集光させると共に、可視光を集光する共用集光レンズ18と、レーザ光を受光し吸収して発熱し、かつ、レチクルが刻まれた光学フィルタ19と、光学フィルタ19から発せられた赤外線を集光する赤外線用集光レンズ21とを有している。光学フィルタ19は、共用集光レンズ18及び赤外線用集光レンズ21の焦点位置に配置されている。
【0053】
この例では、レーザ装置15及び可視光TVカメラ16は、共用集光レンズ18側に配置され、赤外線カメラ17は、赤外線用集光レンズ21側に配置された状態で用いられる。
この例のボアサイト調整方法では、レーザ装置15の光軸と、可視光TVカメラ16の光軸とを合わせるために、ボアサイト装置1Bと赤外線カメラ17とを用いる。
【0054】
すなわち、レーザ装置15からレーザ光B1を発射し、可視光TVカメラ16によって、光学フィルタ19から到来する可視光B2を受光して、光学フィルタ19に刻まれたレチクルを観測する。一方、光学フィルタ19から発せられた赤外線B3は、赤外線用集光レンズ21を通り、赤外線カメラ17に入射する。
【0055】
これにより、レチクルの可視画像が、可視光TVカメラ16の出力画像16aとして、図7に示すように得られ、光学フィルタ19の熱画像が、赤外線カメラ17の出力画像17aとして、図8に示すように得られる。
可視画像を、赤外線カメラ17の熱画像と比較して、レーザ光の入射位置を知り、レチクル像上のレーザ光の入射位置に、可視光TVカメラ16のレチクルの中心を合わせることによって、レーザ装置15の光軸と、可視光TVカメラ16の光軸とを調節して一致させる。
【0056】
この例の構成によれば、上述した第1の実施例と略同様の効果を得ることができる。
加えて、可視光TVカメラ16との組合せでも、ボアサイト調整を確実に行うことができる。すなわち、赤外光、可視光を問わず、ボアサイト調整を確実に行うことができる。
【0057】
以上、この発明の実施例を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
例えば、上述した実施例では、レーザ測距装置のレーザ装置の光軸と、赤外線カメラや可視光TVカメラの光軸とを合わせるための調整に適用する場合について述べたが、レーザ測距装置に限らず、例えば、様々な用途のレーザ照射装置等と、組み合わせて用いる場合に適用できる。
【0058】
また、光学フィルタとして、ガラスに限らず、例えば、耐熱性のプラスチック製の部材を用いる場合にも適用できる。
また、光学フィルタは、必ずしも正確に両集光レンズの焦点位置に配置しなくても、若干ずらして配置されていても良い。
【0059】
また、ボアサイト装置1の筐体内面には、光の反射を抑えるために、ベルベットコート処理を施しても良いし、植毛シートを配置しても良い。
また、レーザ装置から発射させるレーザ光の強度を、ボアサイト調整時と、運用時とで変化させるようにしても良い。
また、第3の実施例で、レーザ装置と可視光TVカメラとを一体化させた装置を用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0060】
ボアサイト装置と、レーザ装置と、赤外線カメラとを、観測装置のほか、例えば、監視装置等に組み込んで用いる場合に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の第1の実施例であるボアサイト装置の構成を説明するための説明図である。
【図2】同ボアサイト装置と組み合わされた赤外線カメラによって撮影された熱画像の例を示す図である。
【図3】同ボアサイト装置のボアサイト調整時の配置状態を示す斜視図である。
【図4】同ボアサイト装置の退避時の配置状態を示す斜視図である。
【図5】この発明の第2の実施例であるボアサイト装置の退避時の配置状態を示す斜視図である。
【図6】この発明の第3の実施例であるボアサイト装置の構成を説明するための説明図である。
【図7】同ボアサイト装置と組み合わされた可視光TVカメラによって撮影された可視画像の例を示す図である。
【図8】同ボアサイト装置と組み合わされた赤外線カメラによって撮影された熱画像の例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,1B ボアサイト装置
2,15 レーザ装置
3,17 赤外線カメラ(撮像装置)
6 レーザ用反射鏡(第1の光学系の一部)
7 レーザ用集光レンズ(第1の光学系の一部、第1の集光レンズ)
8,19 光学フィルタ(光熱変換部材)
9,21 赤外線用集光レンズ(第2の光学系の一部、第2の集光レンズ)
11 赤外線用反射鏡(第2の光学系の一部)
16 可視光TVカメラ(可視光撮像装置)
18 共用集光レンズ(第1の光学系の一部、第1の集光レンズ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を目標物に照射するレーザ装置の第1の光軸と、前記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する撮像装置の第2の光軸とを合わせるためのボアサイト装置であって、
レーザ光を受光して熱に変換する光熱変換部材と、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を前記光熱変換部材へ導く第1の光学系と、前記光熱変換部材から発せられた赤外線を前記撮像装置へ導く第2の光学系とを備え、
前記第1の光軸に対応するレーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示す赤外線画像が、前記撮像装置によって得られるようにされていることを特徴とするボアサイト装置。
【請求項2】
前記第1の光軸と、前記第2の光軸又は前記目標物の可視光画像を撮像する可視撮像装置の第3の光軸とを合わせるために用いられ、
前記第1の光学系は、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を前記光熱変換部材へ導くと共に、前記光熱変換部材から到来した可視光を前記可視撮像装置に導くために用いられ、
前記第1の光軸に対応するレーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示す可視光画像が、前記可視撮像装置によって得られるようにされていることを特徴とする請求項1記載のボアサイト装置。
【請求項3】
前記光熱変換部材にはレチクルが形成され、レチクル像を含む前記可視光画像と、レーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示すと共にレチクル像を含む前記赤外線画像との比較によって、前記第1の光軸と前記第3の光軸との光軸合せがなされることを特徴とする請求項2記載のボアサイト装置。
【請求項4】
前記光熱変換部材は、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を集光するための前記第1の光学系を構成する第1の集光レンズと、到来した赤外線を集光して前記撮像装置に入射させるための前記第2の光学系を構成する第2の集光レンズとの焦点位置に配置されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載のボアサイト装置。
【請求項5】
前記光熱変換部材は、所定値以下の厚さの熱伝導率が比較的低い板状部材からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載のボアサイト装置。
【請求項6】
前記光熱変換部材は、熱線吸収ガラスからなることを特徴とする請求項5記載のボアサイト装置。
【請求項7】
前記第1の光学系、前記第2の光学系及び前記光熱変換部材を、内部に配置する遮光構造の筐体を備えてなっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のボアサイト装置。
【請求項8】
前記筐体は、所定の回動軸の周りに回動可能とされ、ボアサイト調整を行う際の調整位置と、前記レーザ装置が、レーザ光を前記目標物に照射し、前記撮像装置が、前記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する際の退避位置とで切換可能とされていることを特徴とする請求項7記載のボアサイト装置。
【請求項9】
レーザ光を目標物に照射するレーザ装置の第1の光軸と、前記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する撮像装置の第2の光軸とを合わせるためのボアサイト調整方法であって、
レーザ光を受光して熱に変換する光熱変換部材と、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を前記光熱変換部材へ導く第1の光学系と、前記光熱変換部材から発せられた赤外線を前記撮像装置へ導く第2の光学系とを配置し、
前記レーザ装置からレーザ光を出射し、前記第1の光学系を介して前記光熱変換部材に照射し、前記第1の光軸に対応するレーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示す赤外線画像を、前記第2の光学系を介して、前記撮像装置によって得て、前記第1の光軸と前記第2の光軸とを合わせることを特徴とするボアサイト調整方法。
【請求項10】
前記第1の光軸に対応する前記赤外線画像の位置に、前記撮像装置のレチクルの中心を合わせることを特徴とする請求項9記載のボアサイト調整方法。
【請求項11】
前記第1の光軸と、前記第2の光軸又は前記目標物の可視光画像を撮像する可視撮像装置の第3の光軸とを合わせるために用いられ、
前記第1の光学系は、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を前記光熱変換部材へ導くと共に、前記光熱変換部材から到来した可視光を前記可視撮像装置に導くために用いられ、
前記第1の光軸に対応するレーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示す可視光画像を、前記可視撮像装置によって得て、前記第1の光軸と前記第3の光軸とを合わせることを特徴とする請求項9又は10記載のボアサイト調整方法。
【請求項12】
レチクルが形成された前記光熱変換部材を用い、レチクル像を含む前記可視光画像と、レーザ光の前記光熱変換部材への入射位置を示すと共にレチクル像を含む前記赤外線画像との比較によって、前記第1の光軸と前記第3の光軸とを合わせることを特徴とする請求項11記載のボアサイト調整方法。
【請求項13】
前記光熱変換部材は、前記レーザ装置から出射されたレーザ光を集光するための前記第1の光学系を構成する第1の集光レンズと、到来した赤外線を集光して前記撮像装置に入射させるための前記第2の光学系を構成する第2の集光レンズとの焦点位置に配置されていることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1に記載のボアサイト調整方法。
【請求項14】
前記光熱変換部材は、所定値以下の厚さの熱伝導率が比較的低い板状部材からなることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1に記載のボアサイト調整方法。
【請求項15】
前記光熱変換部材は、熱線吸収ガラスからなることを特徴とする請求項14記載のボアサイト調整方法。
【請求項16】
前記第1の光学系、前記第2の光学系及び前記光熱変換部材を、遮光構造の筐体の内部に配置することを特徴とする請求項9乃至15のいずれか1に記載のボアサイト調整方法。
【請求項17】
前記筐体を、所定の回動軸の周りに回動可能とし、ボアサイト調整を行う際の調整位置と、前記レーザ装置が、レーザ光を前記目標物に照射し、前記撮像装置が、前記目標物の少なくとも赤外線画像を撮像する際の退避位置とで切り換えることを特徴とする請求項16記載のボアサイト調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−249912(P2008−249912A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89853(P2007−89853)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】