説明

ボロメータ型非冷却赤外線センサおよびその駆動方法

【課題】熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させることを可能にする。
【解決手段】半導体基板上に入射赤外線を検出する1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素1が行列状に配列された撮像領域3と複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、それぞれが、撮像領域内に検出画素の各列に対応して設けられて対応する列のダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、複数の信号線に対応して設けられて対応する信号線に発生した信号電圧を読み出す電圧読み出し回路と各信号線と対応する電圧読み出し回路との間に設けられた結合容量と、電流源からの2つの異なる電流値に対する同一の検出画素の出力に対応する、電圧読み出し回路によって読み出された2つの信号電圧の差を演算する演算部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータ型非冷却赤外線センサおよびその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を利用したイメージ・センサは、昼夜に拘わらず撮像可能であると共に、可視光よりも煙や霧に対して透過性が高いという特長を有し、更に被写体の温度情報をも得られるという特長を有する。このため、防衛分野を初め監視カメラや火災検知カメラとして広い応用範囲を有する。
【0003】
従来の主流素子である量子型赤外線固体撮像素子の最大な欠点は低温動作のための冷却機構を必要とすることであるが、近年このような冷却機構を必要としない非冷却型赤外線イメージ・センサが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、赤外線イメージ・センサは、可視光によるイメージ・センサと比較して、感度、ダイナミックレンジにおいて不十分といえる。例えば、監視カメラに用いようとすると、0.1K程度のNETD(Noise Equivalent Temperature Difference)と30K程度のダイナミックレンジを持ったセンサが要求されており、センサ出力の線形性を高めて、より一層の高感度かつ広ダイナミックレンジのセンサの開発が待たれている。
【0005】
一方、イメージ・センサにおいて発生するノイズの種類としては、大きくランダム・ノイズと固定パターン・ノイズに分類することができる。ランダム・ノイズにはパワースペクトルが周波数fに反比例する1/fノイズや、静電容量起因の熱雑音であるkTCノイズがあり、固定パターン・ノイズとしては、ダイオードの特性バラツキやトランジスタの閾値バラツキが主な原因となっている。
【特許文献1】特許第3793033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなノイズを低減させるためには、リセットする前後での信号電圧と基準信号の差分を取ることで、原理的に打ち消すことが可能である。このような電気的なリセット・スイッチを用いた相関二重サンプリング(CDS)回路は、フォト・ダイオードを用いた可視領域のイメージ・センサの場合では一般的に用いられているが、ボロメータを用いた熱型センサの場合には熱的なリセット機構を作製しなくてはならず、現実的ではなかった。
【0007】
上述の如く、今までのボロメータ型非冷却赤外線センサでは固定パターン・ノイズや1/fノイズが支配的にもかかわらず、有効な手立てがなく、問題となっていた。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させることのできるボロメータ型非冷却赤外線センサおよびその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によるボロメータ型非冷却赤外線センサは、半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、前記複数の信号線に対応して設けられて対応する信号線に発生した信号電圧を読み出す電圧読み出し回路と、前記各信号線と対応する前記電圧読み出し回路との間に設けられた結合容量と、前記電流源からの2つの異なる電流値に対する同一の検出画素の出力に対応する、前記電圧読み出し回路によって読み出された2つの信号電圧の差を演算する演算部と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第2の態様によるボロメータ型非冷却赤外線センサは、半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、前記撮像領域内に行方向に配置され、赤外線感度を有さない無感度画素の一行と、前記複数の信号線に対応して設けられて対応する信号線に発生した信号電圧と、前記無感度画素の出力との差を読み出す電圧読み出し回路と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様によるボロメータ型非冷却赤外線センサの駆動方法は、半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、を備えているボロメータ型非冷却赤外線センサの駆動方法であって、前記複数の行選択線から一つの行選択線を選択するステップと、前記選択された行選択線に接続された前記ダイオードに第1バイアス電流を流すステップと、前記第1バイアス電流によって前記信号線に発生する第1電圧を読み出し、保持するステップと、前記選択された行選択線に接続された前記ダイオードに前記第1バイアス電流と異なる第2バイアス電流を流すステップと、前記第2バイアス電流によって前記信号線に発生する第2電圧を読み出すステップと、前記第1電圧と前記第2電圧との差を求めるステップと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。
【0014】
物体より放出された赤外線は、センサ前面に設置された光学レンズにより集光されて、外部に熱が逃げないように中空領域に設置されたシリコンからなるダイオードの温度を上昇させる。例えば、波長域8μm〜12μmで透過率90%、F値1.0のGeレンズを用いた場合、物体1K当りのダイオードの温度上昇は約1mKとなる。ダイオードには定電流源8により一定電流Iが流されているが、ダイオードを流れる電流Iは絶対温度Tの関数として、
【数1】

と表される。ここでqは電荷素量(=1.602×10−19C)、kはボルツマン定数(=1.38×10−23J/K)である。exp(qV/(kT))の値が十分に大きければ(1)式の最後の−1は無視をすることができ、
【数2】

と変形される。Iは定数Aを用いて、
【数3】

で表される。ここでEはシリコンのバンドギャップ(約 1.11eV)である。(3)式を(2)式に代入すると、
【数4】

となり、両辺をAで割り、両辺を対数取ってVについて解くと、
【数5】

と求まる。Iは一定に保たれているので、(5)式はT以外すべて定数となるので単純に微分できて、
【数6】

となる。これに(4)式を入れると、ボロメータの感度を決定する温度係数は、
【数7】

と求まる。ここでV=E/q はバンドギャップ電圧と呼ばれ、その値はシリコンで約 1.11Vとなる。
【0015】
このようにダイオードの温度が上昇することで、ダイオードにおける電圧降下Vは低下し、感度は電流が小さいほど(=順方向電圧が小さいほど)大きく、高温ほど小さくなる。図5にダイオードの温度計数のグラフを示すが、温度300K、順方向電圧0.65Vのとき、約−1.5mV/K、温度300K、順方向電圧 0.51Vのとき、約−2mV/Kとなる。なお、絶対零度(T=0)の時にVはVに等しくなることが示される。
【0016】
(7)式によれば、温度変化による電圧降下の変化量は、
【数8】

で与えられる。一方、定電流源の動作点を変化させると、
【数9】

となり、(8)式−(9)式より次の(10)式が得られる。
【数10】

【0017】
この(10)式から、本発明者達は以下のことを発見した。動作点の異なる電流値に対して複数回読み出せば、Vに含まれるバイアス成分と自己加熱成分を打ち消すことが可能となり、信号成分のみを抽出することができる。このため、ダイオードのバラツキによる固定パターン・ノイズと1/fノイズ、リセット・ノイズを除去することができることになる。
【0018】
次に、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるボロメータ型非冷却赤外センサの回路を図1に示す。図1では、説明を簡単にするために2行2列の2×2画素構成を示しているが、より多数行,多数列のm×n画素構成に適用できるのは云うまでもない。
【0020】
入射赤外線を電気信号に変換する赤外線検出画素1ij(i、j=1,2)が半導体基板上に2次元的に配置されて撮像領域3を構成している。撮像領域3の内部には、複数本の行選択線4、4と、複数本の垂直信号線5、5とが配置されている。
【0021】
画素選択のために、行選択回路40と水平選択回路6が撮像領域3の行方向と列方向に各々隣接配置され、行選択回路40には行選択線4、4が接続され、水平選択回路6には水平選択線7、7が接続されている。画素出力電圧を得るための定電流源として、各列の垂直信号線5には負荷MOSトランジスタ8、8が接続されている。負荷MOSトランジスタ8、8のソースには基板電圧GL1_Vssが印加され、ゲートにはゲート制御電圧GL1が印加される。
【0022】
行選択回路40により選択された行選択線(例えば4)には電源電圧Vが印加され、行選択回路40により選択されない行選択線(例えば4)にはVsが印加される。その結果、選択された行の赤外線検出画素1内部のpn接合が順バイアスとなりバイアス電流が流れ、画素内部のpn接合の温度と順バイアス電流とにより動作点が決まり、各列の垂直信号線5(j=1,2)に画素信号出力電圧が発生する。このとき、行選択回路40によって選択されない画素1のpn接合は逆バイアスとなる。即ち、画素内部のpn接合は画素選択の機能を持っている。
【0023】
垂直信号線5(j=1,2)に発生する電圧は、極めて低電圧であり、被写体の温度変化dTsと画素温度変化dTdとの比として5×10−3を仮定し、この値と画素のpn接合が8個のpn接合を直列接続した場合の熱電変換感度dV/dTd=10mV/Kとにより、dTs=0.1Kのときには僅かに5μVであることが分かる。従って、この被写体温度差を認識するためには、垂直信号線5に発生する雑音を5μV以下にすることが必要になる。この雑音の値は、MOS型の可視光イメージ・センサであるCMOSセンサの雑音の約1/80と、非常に低い。
【0024】
この低電圧の信号電圧を増幅するために、列毎に増幅読み出し回路9(j=1,2)が配置されている。各増幅読み出し回路9(j=1,2)は、増幅トランジスタ10と、結合容量11と、蓄積容量12と、リセット・トランジスタ13と、サンプル・トランジスタ15と、第1および第2選択トランジスタ31、32とを備えている。各増幅読み出し回路9(j=1,2)の増幅トランジスタ10のゲートと対応する列の垂直信号線5とは、結合容量11により容量結合している。この結合容量11により、垂直信号線5と増幅読み出し回路9とはDC的に分離される。
【0025】
増幅トランジスタ10(j=1,2)のソース側には、第1選択トランジスタ31のドレインが接続され、この第1選択トランジスタ31のソースには制御信号HAMPが印加されている。また、増幅トランジスタ10(j=1,2)のドレイン側には、電流増幅した信号電流を積分し蓄積するための蓄積容量12が第2選択トランジスタ32を介して接続されている。第1および第2選択トランジスタ31,32(j=1,2)のゲートには制御信号HASEL1、HASEL2がそれぞれ印加される。
【0026】
信号電流を積分する蓄積時間は、行選択回路40により行選択線4(j=1,2)に印加される行選択パルスにより決定される。蓄積容量12(j=1,2)の一端には、該蓄積容量12の電圧をリセットするためのリセット・トランジスタ13のドレインが接続され、水平選択トランジスタ14による信号電圧の読み出しが完了した後にリセット動作を行うようになっている。蓄積容量12(j=1,2)の他端は接地電源VSSに接続される。また、リセット・トランジスタ13のゲートにはリセット信号VRSTが印加され、ソースには電圧VRSが印加される。なお、水平選択トランジスタ14(j=1,2)のゲートには水平選択線7が接続され、水平選択回路6からの選択信号Hが入力される。また、水平選択トランジスタ14(j=1,2)のドレインが接続された出力信号線24から読出し信号SOUTが出力される。なお、この出力信号線24には出力リセット・トランジスタ33のドレインが接続され、この出力リセット・トランジスタ33のゲートに制御信号HRSTが印加され、ソースに制御信号HRSが印加される。また、出力信号線24にはメモリ50と、差分演算部60とが接続されている。
【0027】
増幅トランジスタ10(j=1,2)のドレインは、サンプル・トランジスタ15を介して増幅トランジスタ10のゲートに接続されており、サンプル・トランジスタ15をオンすることにより、増幅トランジスタ10のゲートとドレインが同電位となる。このサンプル・トランジスタ15(j=1,2)のゲートには制御信号VFBが印加される。なお、図1では接続されているダイオードの数は1個となっているが、複数個接続することで入射する赤外線に対して感度を増加させることができる。
【0028】
図2(a)、2(b)に、本実施形態の赤外センサにおける赤外線検出画素の断面構造と、平面構造をそれぞれ示す。熱電変換のためのpn接合を含むセンサ部16は、単結晶シリコン支持基板17の内部に形成された中空構造18の上に形成された、赤外線吸収層22と、熱電変換のために形成されたSOI層19内部のpn接合と、このSOI層19を支持している埋め込みシリコン酸化膜層20とから成る。また、このセンサ部16を中空構造18上に支持すると共にセンサ部16からの電気信号を出力するために支持部21が設けられ、センサ部16と垂直信号線5、5及び行選択線4、4とを接続する接続部(不図示)が設けられている。
【0029】
このように、センサ部16及び支持部21が中空構造18上に設けられることにより、入射赤外線によるセンサ部16の温度の変調を効率良く行う構造になっている。なお、図2では、pn接合が2個直列接続される場合の構造を示している。
【0030】
次に、本実施形態の赤外線センサの駆動方法を図3および図4を参照して説明する。 図3に本実施形態の赤外線センサの駆動方法の手順を示し、図4にタイミングチャートを示す。
【0031】
本実施形態の赤外線センサの駆動方法は、動作点の異なる電流値に対して複数回、読み出す構成となっている。
【0032】
まず、図3のステップS1に示すように、リセットを行う。すなわち、リセット・トランジスタ13(j=1,2)および第2選択トランジスタ32をオンすることで蓄積容量12が充電され、Q=C×VRSの電荷が蓄積される(図4のリセット期間100参照)。
【0033】
次に、行選択回路40によって行選択線(例えば行選択線4)を選択し、この選択した行選択線に第1バイアス電流条件を設定する(ステップS2)。すなわち、リセット・トランジスタ13(j=1,2)および第2選択トランジスタ32をオフした後、サンプル・トランジスタ15および第1選択トランジスタ31をオンさせることで、増幅トランジスタ10のソース電圧およびゲート電圧Vgは、それぞれVhamp、Vhamp+Vthに設定される。ここで、Vhampは制御信号HAMPの電圧を示し、Vthは増幅トランジスタ10のしきい値電圧を示す。
【0034】
次に、赤外線信号読み出しを行い、読み出した信号を蓄積・保持する(ステップS3、S4)。すなわち、Vhamp=0に設定し、サンプル・トランジスタ15(j=1,2)をオフした後、行選択回路40から、選択した行選択線4(i=1,2)に電圧を印加すると、この行選択線に接続された画素1の複数の直列に接続されたダイオードと、負荷トランジスタ8(j=1,2)とを通じて電流が流れるが、負荷トランジスタ8のゲート電圧の値を適当に選ぶことによりダイオードには一定電流Iが流れる。赤外線の入射によるダイオードの温度上昇ΔTによって生じるダイオードの電圧降下の変化ΔVは結合容量11(j=1,2)を通じて増幅トランジスタ10のゲート電圧VgをVhamp+Vth+ΔVに変化させる。増幅トランジスタ10(j=1,2)のゲート電圧Vgの変化は蓄積容量12から流れ出る電荷量を変化させるが、制御信号HAMPの電圧Vhampを適当に設定することにより、この電荷量を制御することが可能である。その後、水平選択トランジスタ14(j=1,2)を順次オンすることで、蓄積容量12の電位Voutを、出力信号線24を通じて順次読み取ることができ、それらの値を一時的にメモリ50に保持しておく(図4の読み出し期間101参照)。メモリ50には選択された行選択線に接続された画素1行分のそれぞれの画素の出力に対応する蓄積容量の電位Voutが記憶される。
【0035】
次に、上記選択された行選択線に、第1バイアス電流条件と動作点が異なる第2バイアス電流条件を設定し(ステップS5)、上述したと同様にして赤外線信号の読み出しを行って(図4の読み出し期間102参照)、ダイオードの電圧降下の変化ΔV’による蓄積容量12の電位Voutと、読み取り(ステップS6)、メモリ50に記憶されている第1バイアス電流条件の動作点における電位Voutとの差分を差分演算部60によって求めることで(ステップS7)、ノイズの少ない赤外光信号を得ることができる(ステップS8)。上記ステップ1からステップ8の工程を各選択行線に対して順次行う。
【0036】
なお、図4において、制御電圧Vs1はダイオードの出力電圧であり、Vintは蓄積容量12(i=1,2)の蓄積電圧であり、Vgは増幅トランジスタ10(i=1,2)のゲート電圧であり、制御電圧Vxは増幅トランジスタ10(i=1,2)のドレイン電圧である。
【0037】
上記第1および第2バイアス電流条件における動作点に対してシミュレーションを行った結果を、図6に示す。図6は、横軸がダイオードのアノードとカソード間の電圧VFを示し、縦軸がダイオード間を流れる電流Iを示しており、グラフgが室温300KにおけるダイオードのI−V特性を示し、グラフgが310KにおけるダイオードのI−V特性を示す。第1バイアス電流条件における動作点におけるダイオードの電圧降下の変化ΔVと、第2バイアス電流条件における動作点におけるダイオードの電圧降下の変化ΔV’とが示されている。
【0038】
次に、本実施形態において、垂直信号線5に接続される画素111、112のみを赤外線感度を有さない無感度画素2からなる参照セルに置き換えたものとして、第1および第2バイアス電流条件における動作点に対してシミュレーションを行った波形図を、図7に示す。図7において、読み出し期間100、102は参照セル2(図1参照)を読み出す期間であり、読み出し期間101、103は画素セル1を読み出す期間であり、交互に読み出される。
【0039】
次に、一行が12個の画素からなる本実施形態の赤外線センサを作成し、画素一行分(12ビット分)のデータを2つのバイアス電流値に対して実験的に得られた信号およびその差分を図7に示す。図7のグラフgは、負荷MOSトランジスタ8(i=1,2)に制御電圧GL1として1.01Vを印加したときの信号波形図であり、グラフgは、負荷MOSトランジスタ8(i=1,2)に制御電圧GL1として1.02Vを印加したときの信号波形図であり、グラフgは、それらの差分を示す信号波形図である。グラフg、gのバラツキを示す標準偏差σは951、905であり、グラフgのバラツキを示す標準偏差σは450であった。これから、これから信号の差分をとることで、バラツキを半分程度に抑えることができることがわかる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させることができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるボロメータ型非冷却赤外線センサの回路を図9に示す。本実施形態の赤外線センサは、第1実施形態の赤外線センサのように信号電圧を読み出す機構が蓄積コンデンサの電位変化を読み取るのではなく、差動増幅器を用いて直接ダイオードの電圧を読み出している。このため、図1に示す第1実施形態の赤外線センサの増幅読み出し回路9(j=1,2)を削除し、代わりに差動増幅器(オペアンプ)41(j=1,2)を設け、更に撮像領域3に、赤外線感度を有さない無感度画素2からなる参照セルが1行配置され、これらの参照セルに接続される参照垂直信号線5と、この参照垂直信号線5に接続される負荷MOSトランジスタ8と、を設けた構成となっている。負荷MOSトランジスタ8のソースには基板電圧GL1_Vssが印加され、ゲートにはゲート制御電圧GL1が印加される。各差動増幅器41(j=1,2)は、選択したセルに接続された信号線から読み出された信号電圧と、参照セルに接続された参照垂直信号線5からの参照電圧とを比較し、その出力が、水平選択回路6によってオンされた水平選択トランジスタ14を介して読み出される。
【0042】
本実施形態も第1実施形態と同様に、熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させることができる。
【0043】
また、本実施形態の赤外線センサは、複数のトランジスタを有する増幅読み出し回路の代わり差動増幅器41を用いているので、第1実施形態の場合に比べて、制御信号を大幅に減らすことができる。
【0044】
以上に説明したように、本発明の各実施形態によれば、熱的なリセット機構を作製することなく、固定パターン・ノイズや1/fノイズを低減させたボロメータ型非冷却赤外線センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1実施形態の赤外線センサの回路図。
【図2】本発明の各実施形態の赤外線センサの検出画素の構造を示す図。
【図3】第1実施形態の赤外線センサの駆動方法を説明するフローチャート。
【図4】第1実施形態の赤外線センサの駆動方法を説明するタイミングチャート。
【図5】ダイオードの温度係数のバイアス電圧依存性を示す図。
【図6】第1実施形態の赤外線センサの電流―電圧特性のシミュレーション結果を示す図。
【図7】第1実施形態の赤外線センサの、2つのバイアス電流値に対して実験的に得られた信号波形およびその差分を示した図。
【図8】第2実施形態の赤外線センサの示す回路図。
【図9】第2実施形態の赤外線センサの駆動方法を説明するタイミングチャート駆動シミュレーション結果を示す波形図。
【符号の説明】
【0046】
1 赤外線検出画素
2 無感度画素
3 撮像領域
、4 行選択線
40 行選択回路
、5 垂直信号線
6 水平選択回路
、7 水平選択線
、8 負荷MOSトランジスタ
、9 増幅読み出し回路
10、10 増幅トランジスタ
11、11 結合容量
12、12 蓄積容量
14、14 水平選択トランジスタ
15、15 サンプル・トランジスタ
16 センサ部
17 支持基板
18 中空構造
19 SOI単結晶シリコン層
20 埋め込み酸化シリコン層
21 支持部
22 赤外線吸収層
24 出力信号線
31、31 第1選択トランジスタ
32、32 第2選択トランジスタ
33 出力リセット・トランジスタ
41、41 差動増幅器(オペアンプ)
50 メモリ
60 差分演算部
100 リセット期間
101 第1バイアス電流条件読出し期間
102 第2バイアス電流条件読出し期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、
それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、
前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、
それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、
前記複数の信号線に対応して設けられて対応する信号線に発生した信号電圧を読み出す電圧読み出し回路と、
前記各信号線と対応する前記電圧読み出し回路との間に設けられた結合容量と、
前記電流源からの2つの異なる電流値に対する同一の検出画素の出力に対応する、前記電圧読み出し回路によって読み出された2つの信号電圧の差を演算する演算部と、
を備えていることを特徴とするボロメータ型非冷却赤外線センサ。
【請求項2】
前記電圧読み出し回路は、
対応する信号線に発生した信号電圧により変調される増幅トランジスタと、
前記増幅トランジスタのドレインに接続され前記増幅トランジスタからの信号電荷を蓄積する蓄積容量と、
前記増幅トランジスタのドレインの電位をリセットするリセット部と、
前記蓄積容量に保持された信号電荷を読み出す信号電荷読み出し部と、
前記増幅トランジスタのドレインとゲートとの間に設けられたサンプリングトランジスタと、
を備えていることを特徴とする請求項1記載のボロメータ型非冷却赤外線センサ。
【請求項3】
半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、
それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、
前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、
それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、
前記撮像領域内に行方向に配置され、赤外線感度を有さない無感度画素の一行と、
前記複数の信号線に対応して設けられて対応する信号線に発生した信号電圧と、前記無感度画素の出力との差を読み出す電圧読み出し回路と、
を備えていることを特徴とするボロメータ型非冷却赤外線センサ。
【請求項4】
電圧読み出し回路は差動増幅器であることを特徴とする請求項3記載のボロメータ型非冷却赤外線センサ。
【請求項5】
前記半導体基板上に設けられた読み出し配線部と、
前記半導体基板の表面部分に形成された凹部の上方に配置され、前記読み出し配線部と電気的に接続された接続配線を有する支持構造部と、
前記凹部の上方に配置され、前記支持構造部によって支持されたセル部と、
を更に備え、
前記撮像領域は、セル部上に設けられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のボロメータ型非冷却赤外線センサ。
【請求項6】
半導体基板上に、入射赤外線を検出する、1つまたは複数の直列接続されたダイオードからなる検出画素が行列状に配列された撮像領域と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各行に対応して設けられて対応する行の前記ダイオードのアノードに接続される複数の行選択線と、前記複数の行選択線のそれぞれに一定電流を流すことのできる電流源と、それぞれが、前記撮像領域内に前記検出画素の各列に対応して設けられて対応する列の前記ダイオードのカソードに接続される複数の信号線と、を備えているボロメータ型非冷却赤外線センサの駆動方法であって、
前記複数の行選択線から一つの行選択線を選択するステップと、
前記選択された行選択線に接続された前記ダイオードに第1バイアス電流を流すステップと、
前記第1バイアス電流によって前記信号線に発生する第1電圧を読み出し、保持するステップと、
前記選択された行選択線に接続された前記ダイオードに前記第1バイアス電流と異なる第2バイアス電流を流すステップと、
前記第2バイアス電流によって前記信号線に発生する第2電圧を読み出すステップと、
前記第1電圧と前記第2電圧との差を求めるステップと、
を備えていることを特徴とする駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−74898(P2009−74898A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243632(P2007−243632)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】