説明

ボールねじ及び電動シリンダ

【課題】寿命、作動精度、静音性等を向上させることができるボールねじ、及びこのボールねじを備える電動シリンダを提供する。
【解決手段】ボールねじ1は、夫々の表面が、硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等に優れるDLC膜に被覆されている複数の鋼球、ねじ軸11及びナット12を備え、これらの鋼球が、ねじ軸11の外周面に形成されているねじ溝111とナット12の内周面に形成されているねじ溝との間で転動する。このため、ねじ軸11、ナット12、又は隣り合う鋼球との接触による鋼球の変形、損傷、摩耗等が抑制される。しかも、DLC膜に被覆されて劣化が抑制されている鋼球は、作動効率が維持される。以上の結果、鋼球の劣化によるボールねじ1、延いてはボールねじ1を備える電動シリンダ2の性能の低下が抑制され、ボールねじ1及び電動シリンダ2の寿命、作動精度、静音性等が向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナットとの間で金属球が転動するボールねじ、及びボールねじを備える電動シリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、ねじ軸の外周面に形成されているねじ溝と、ナットの内周面に形成されているねじ溝との間で、複数の鋼球が転動するよう構成されている。
潤滑剤の使用が困難な環境においてもボールねじの寿命、作動精度等を向上させるために、従来、ナットの内周面にDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜が形成されているボールねじが提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1のボールねじを製造する際には、ナットが分割されてなるナット分割体の内周面にDLC膜を成膜してからナット分割体を接合してナットとなす。このようなナットの内周面はナット分割体同士の接合部分で連続性、円滑性等が低下しているため、鋼球の転動が阻害されることがある。この結果、ボールねじの作動精度の悪化、騒音の発生等の問題が生じることがあった。
【0003】
この問題を解決するために、ナットではなくねじ軸に成膜することが考えられるが、DLC成膜装置の寸法上の制約から、特に長尺のねじ軸には十分な範囲に成膜できないことがある。
また、ナット及びねじ軸の一方にのみDLC膜を成膜しても、成膜されていない方と鋼球とがDLC膜によって保護されていないため、ボールねじの寿命、作動精度等は向上し難い。
以上のような事情から、表面に鍍金が施された鋼球を備えるボールねじが提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、従来、鋼を用いてなるベアリング球に負電圧を印加しつつ、炭素を含むプラズマ雰囲気中でベアリング球を転動させることによって、ベアリング球の表面全体にDLC膜を成膜する装置が提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−48842号公報
【特許文献2】特開平8−129938号公報
【特許文献3】特許第3834617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示されているようなボールねじの鋼球表面に形成されている鍍金膜は、DLC膜と比べて、硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等に劣るという問題がある。
また、従来、表面に成膜されている鋼球は、AI、SUS304等の低炭素鋼を用いてなり、機械部品としては硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等に劣るという問題もある。
【0006】
本発明は斯かる問題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、表面がDLC膜に被覆されている金属球がねじ軸とナットとの間で転動する構成とすることにより、寿命、作動精度、静音性等を向上させることができるボールねじ及び電動シリンダを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高炭素鋼を用いてなる金属球を備えることにより、更に寿命を向上させることができるボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係るボールねじは、ねじ軸の外周面に形成されているねじ溝とナットの内周面に形成されているねじ溝との間で複数の金属球が転動するボールねじにおいて、各金属球の表面が、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜に被覆されていることを特徴とする。
【0009】
第2発明に係るボールねじは、前記金属球は高炭素鋼を用いてなることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る電動シリンダは、電動モータと、該電動モータが発生させる回転運動がねじ軸(又はナット)に伝達されて、伝達された回転運動をナット(又はねじ軸)の直線運動に変換するボールねじとを備える電動シリンダにおいて、前記ボールねじは、第1発明又は第2発明のボールねじであることを特徴とする。
【0011】
第1発明にあっては、夫々の表面がDLC膜に被覆されている複数の金属球が、ねじ軸とナットとの間で転動する。
即ち、硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等に優れるDLC膜が、ねじ軸の外周面に形成されているねじ溝と金属球との間、ナットの内周面に形成されているねじ溝と金属球との間、及び、金属球同士の間の夫々に介在していることになるため、ボールねじを構成するねじ軸、ナット、及び複数の金属球が互いに直接接触することが防止されている。この結果、ねじ軸、ナット、又は隣接する金属球との接触による作動効率の低下や金属球の劣化(変形、損傷、摩耗等)が抑制される。
しかも、DLC膜に被覆されることによって劣化が抑制されている金属球は、作動効率が維持される。
【0012】
第2発明にあっては、S45C、SUJ2及びSUS440C等の高炭素鋼を用いてなり、夫々の表面がDLC膜に被覆されている複数の金属球が、ねじ軸とナットとの間で転動する。
即ち、金属球自身が低炭素鋼を用いてなる金属球に比べて金属球が硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等に優れており、更に劣化が抑制されている。
【0013】
第3発明にあっては、電動モータが発生させる回転運動が、本発明のボールねじが備えるねじ軸に伝達されて、伝達された回転運動が、ボールねじのナットの直線運動に変換される。
又は、電動モータが発生させる回転運動が、本発明のボールねじが備えるナットに伝達されて、伝達された回転運動が、ボールねじのねじ軸の直線運動に変換される。
このねじ軸は、ボールねじが備える金属球の劣化が抑制されているため、金属球の劣化による電動シリンダの性能の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
第1発明のボールねじによる場合、DLC膜に被覆されている金属球表面の硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等を向上させることができ、ねじ軸、ナット、又は他の金属球との接触による金属球の劣化を抑制することができる。このため、ねじ軸の外周面に形成されているねじ溝及びナットの内周面に形成されているねじ溝の両方にDLC膜を形成することなく、ボールねじの寿命、作動精度等を向上させることができる。
【0015】
金属球の表面がDLC膜に被覆されているため、ボールねじは、内周面がDLC膜に被覆されているナット分割体を接合してなるナットを供える必要がない。このため、ナットの内周面の連続性、円滑性等が低下せず、金属球の転動が阻害されない。この結果、ボールねじの作動精度の悪化、騒音の発生等を防止することができる。
また、外周面がDLC膜に被覆されているねじ軸を用いる必要がなく、しかも金属球の表面には、例えば特許文献3に開示されているDLC成膜装置を用いて容易に成膜することができる。このため、小型のDLC成膜装置を用いて、長尺のねじ軸を備えるボールねじを簡易に構成することができる。
【0016】
第2発明のボールねじによる場合、金属球の硬度、摺動性、転動性、耐摩耗性等を更に向上させることができ、ねじ軸、ナット、又は他の金属球との接触による金属球の劣化を抑制することができる。このため、ボールねじの寿命、作動精度等を更に向上させることができる。
【0017】
第3発明の電動シリンダによる場合、ボールねじが備える金属球の劣化が抑制されているため、金属球の劣化による電動シリンダの性能の低下が抑制されて、電動シリンダの寿命、作動精度、静音性等を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0019】
実施の形態 1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るボールねじ1の外観を示す側面図である。
ボールねじ1は、円柱状のねじ軸11、円筒状のナット12、及び多数の金属球である鋼球13,13,…(1個のみ図示)を備える。各鋼球13は、高炭素鋼を用いてなり、鋼球13の表面は、厚さ約0.2〜2.0μmのDLC膜に被覆されている。
【0020】
ねじ軸11は金属製であり、一端部から中央部までの外周面に螺旋状のねじ溝111が設けられ、ねじ軸11の他端部に、例えば後述する電動モータ21の出力軸211に連結するための連結軸112が設けられている。ここで、ねじ溝111と連結軸112との間の中間部113には、ねじ溝は形成されていない。
ナット12は金属製であり、ねじ軸11のねじ溝111に対向する図示しない螺旋状のねじ溝(以下、ナットねじ溝という)が内周面に設けられている。そして、ねじ溝111とナットねじ溝とによって形成される螺旋状の鋼球循環路に、鋼球13,13,…が転動自在に装填された状態で、ナット12はねじ軸11に螺合している。
【0021】
ナット12の前記一端部の側(即ち連結軸112の逆側)には、例えば後述するロッド23を取り付けるための取付部121が設けられている。
また、ナット12の外周面にはリターンチューブ14が設けられている。このリターンチューブ14の両端部は、ナット12を貫通して鋼球循環路に連結しており、鋼球循環路を転動する鋼球13,13,…がリターンチューブ14内を通過して鋼球循環路を循環するようになっている。
【0022】
ボールねじ1においては、ナット12の周方向に対してねじ軸11が螺旋状に相対回転し(図中矢符方向)、この結果、ナット12はねじ軸11の軸長方向に相対移動する(図中白抜矢符方向)。
このとき、ねじ軸11のねじ溝111とナット12のナットねじ溝との間で鋼球13,13,…が転動して鋼球循環路を移動し、ねじ軸11の周りを複数回周回してから、ナット12の一端側に配されているリターンチューブ14の一端部に至り、リターンチューブ14内を通過して、ナット12の他端側に配されているリターンチューブ14の他端部から再び鋼球循環路へ戻る。このように、鋼球13,13,…の転動を介することで、ねじ軸11とナット12との相対回転及び相対移動が円滑に実現する。
【0023】
以上のようなボールねじ1は、DLC膜の介在によって、金属同士(ねじ軸11と鋼球13と、又はナット12と鋼球13と、或いは隣接する鋼球13,13)の直接接触が防止されている。このため、鋼球13に亀裂、剥離等が発生することが抑制されている。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1に係る電動シリンダ2の内部構成を示す側断面図である。
電動シリンダ2は、本発明のボールねじ1と、電動モータ21、夫々円筒状のカップリング22及びロッド23等とを備える。
電動モータ21は、外筒20の一端部に、電動モータ21の出力軸211が外筒20内部に挿入されるよう取り付けられている。
また、ボールねじ1は、外筒20の中央部から他端部に亘って配されており、ボールねじ1、外筒20の内部、電動モータ21の出力軸211、カップリング22、及びロッド23夫々の中心軸は略一直線上に位置している。
【0025】
ボールねじ1は、ねじ軸11の連結軸112が電動モータ21の出力軸211に対向配置されており、連結軸112と出力軸211とは、カップリング22によって連結されている。このため、電動モータ21が発生させる順方向及び逆方向夫々の回転運動は、出力軸211から連結軸112、即ちボールねじ1のねじ軸11に、カップリング22を介して伝達される。
ボールねじ1は、回動可能に外筒20に支持されている。このために、ねじ軸11の中間部113が、外筒20内部に配設されているベアリング24,24によって支持されている。
【0026】
外筒20内部において、ねじ軸11に螺合しているナット12の取付部121(図1参照)には、円筒状のロッド23の一端部が取り付けられており、ロッド23の他端部は、外筒20の他端部開口(電動モータ21配設側の逆側の開口)から外筒20外部へ突出している。
ロッド23には凸状のスライダ231が設けられており、スライダ231は、外筒20内面に設けられている凹状のガイドレールに嵌合して摺動することによって、ロッド23の軸長方向の移動を案内する。
【0027】
電動モータ21が発生させる回転運動がボールねじ1のねじ軸11に伝達されることによって、ねじ軸11が回転し、ねじ軸11の回転に伴い、ナット12がねじ軸11の軸長方向に移動する。
ナット12に取り付けられているロッド23は、ナット12の軸長方向の移動に伴って、軸長方向に移動する。つまり、電動モータ21から伝達された回転運動がナット12、延いてはロッド23の直線運動に変換されて、ロッド23の外筒20からの突出量が増大又は減少する。
このような電動シリンダ2は、例えば水平方向に配されて、ロッド23の先端に対向配置された物品を水平方向に押し出すプッシャとして利用される。
【0028】
以上のようなボールねじ1、並びにボールねじ1を備える電動シリンダ2は、高炭素鋼を用いてなる鋼球13,13,…、及び各鋼球13表面を被覆しているDLC膜によって、鋼球13,13,…の硬度、耐摩耗性、摺動性、転動性等が向上されているため、潤滑剤を使用しなくても長寿命であり、作動精度が低下し難い。このため、ボールねじ1及び電動シリンダ2は、潤滑剤の使用が困難な環境においても長寿命で作動精度が低下し難い。また、ボールねじ1及び電動シリンダ2は、潤滑剤の補充が不要であるためメンテナンスフリーである。
【0029】
しかも、ねじ軸11のねじ溝111及びナット12のナットねじ溝夫々に接合部分がない(鋼球循環路の連続性、円滑性等が保たれている)ため、鋼球13,13,…の転動が阻害されず、ねじ軸11とナット12との円滑な相対回転が実現され、更に、静音性が高い。
なお、ボールねじ1は、電動シリンダ2以外の機械(例えば手動シリンダ)に備えられてもよい。
【0030】
また、電動シリンダ2は、電動モータ21が発生させる回転運動がボールねじ1のねじ軸11に伝達されて、伝達された回転運動がナット12の直線運動に変換される構成に限らず、電動モータ21が発生させる回転運動がナット12に伝達されて、伝達された回転運動がねじ軸11の直線運動に変換される構成でもよい。
【0031】
この場合、ボールねじ1の中心軸と電動モータ21の出力軸211の中心軸とは略平行に配され、出力軸211とナット12との間に歯車を介在する。このとき、出力軸211の回転に伴い歯車を介してナット12が回転し、ナット12の回転に伴い、ねじ軸11が軸長方向に移動する。
【0032】
以上のようなボールねじ1及び電動シリンダ2に備えられている鋼球13,13,…は、以下に示すようなDLC成膜装置を用いて未成膜の鋼球B,B,…にDLCを成膜することによって製造することが望ましい。
【0033】
図3は、本発明の実施の形態1に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置7の構成を示す縦断面図である。
また、図4は、DLC成膜装置7が備える載置皿91及び攪拌翼31近傍の構成を示す縦断面図であり、図5は、同じく平面図である。
【0034】
鋼球Bは、炭素鋼を用いてなる外径約10mmの転動体である。複数の鋼球B,B,…の表面全体にDLC膜を成膜すべく、DLC成膜装置7は、炭素を含むプラズマ雰囲気中で転動自在に保持された鋼球B,B,…を略ランダムに転動させつつ、鋼球B,B,…に負電圧を印加する。
このために、DLC成膜装置7は、図3に示すように、真空排気装置61によって内部の気体が排出され、ガス流入装置62によって、炭素を含む原料ガスが供給されるチャンバC1を備える。
【0035】
チャンバC1は、略水平な天板及び載置板、並びに4枚の側板で構成されている密封容器であり、例えばアルゴンガスのような不活性ガスによって内部を洗浄されてから、メタンガス、アセチレンガス、トルエンガス等の原料ガスを供給される。
このような原料ガスはチャンバC1へ連続的に供給される。そして、後述するようにRF(高周波)パルス及びパルス状の負電圧が印加されることによって、チャンバC1内でプラズマが発生し、各鋼球Bの表面にDLCが堆積する。
【0036】
チャンバC1の中央部には、導電性を有する載置皿91が配されている。載置皿91は、基材としての鋼球B,B,…を転動自在に保持する基材ホルダであって、本実施の形態においてはステンレスを用いてなり、図4及び図5に示すように、約200mmの直径を有する平面視円形状の略平坦な載置面91aと、載置面91aの周縁から立ち上がる平面視円環状の側壁91bとを備える。
【0037】
載置皿91の載置面91aは略水平に配され、載置面91aには鋼球B,B,…が載置される。載置皿91に載置すべき鋼球B,B,…の個数は、載置面91aに対する鋼球B,B,…の投影面積が、載置面91aの面積の30%以下を占める程度の個数が好ましい。仮に、30%を上回る場合は鋼球B,B,…同士が互いに接触又は接近することが多くなり、各鋼球Bの周辺にプラズマが回りきらないため、鋼球B,B,…の表面全体に均一、均質なDLC膜が成膜され難くなる。
【0038】
載置面91a上の鋼球B,B,…のランダムな転動を促進するために、図3〜図5に示すように、載置皿91内部には、載置皿91に載置されている鋼球B,B,…を載置面91aの周方向(図5中白抜矢符方向)に攪拌するステンレス製の攪拌翼31が、載置面91aから僅かに上方に離隔して配されている。
具体的には、攪拌翼31は、ステンレス製の略鉛直な回転軸41の下端部外周面に、略水平に配された4本の矩形棒材311,311,…の各基端部を溶接してなる平面視十字状の回転部材である。対向する2本の矩形棒材311,311の先端部同士の距離は載置面91aの直径よりも僅かに短く、また、回転軸41の下端部は載置面91aの中心点の上方に離隔配置されているため、回転軸41及び攪拌翼31が載置皿91に摺動することはない。
【0039】
攪拌翼31の矩形棒材311,311,…によって、載置皿91は4個の区画に分割されるため、これらの区画に鋼球B,B,…が略均等に配分されていることが望ましい。なお、形状、寸法、材質等が異なる転動体(例えば鋼球B,B,…と、鋼球Bより小さい複数の鋼球と)を、区画毎に配分してもよい。
【0040】
攪拌翼31に攪拌される鋼球B,B,…のランダムな転動を更に促進するために、載置皿91の載置面91aには、互いに略平行な2本のV字溝D,Dが形成されている。V字溝D,Dは載置面91aの中心点の両側に配されている凹条部であり、各V字溝Dの幅は鋼球Bの直径よりも充分に短い。このため、鋼球BはV字溝D内に落ち込むことなく、V字溝Dを乗り越え、又は、V字溝Dに沿って、転動可能である。
【0041】
例えば、図5に示すように、互いに隣接して転動している鋼球B,Bの内、一方の鋼球BのみがV字溝D上に位置した場合、攪拌翼31の回転に伴い、V字溝D上の鋼球BはV字溝Dに沿って直進するが、他方の鋼球B(即ちV字溝D上にない鋼球B)は円弧状に進行するため、隣接していた鋼球B,Bが離隔し、互いに接触していた部分がプラズマ雰囲気に暴露される。
【0042】
仮に、V字溝D,Dが形成されていない場合、鋼球B,Bは互いに接触したまま円弧状の転動を継続することがあり、互いに接触している部分がプラズマ雰囲気に暴露され難く、この部分にDLC膜が成膜されないことがある。
なお、V字溝Dに限らず、他の形状の凹条部及び/又は凸部(例えば転動する鋼球Bが乗り越え可能な逆V字状の凸条部)が載置面91aに形成されていてもよいが、攪拌翼31の回転を阻害しないために、凸部よりは凹条部が好ましい。
【0043】
前述のようにして下端部が攪拌翼31と連結されている回転軸41は、図3に示すように、回転軸41の上端部が、継ぎ手71を介して、電動モータM1の出力軸と連結されている。電動モータM1は、毎分数回転の回転運動を出力する。
回転軸41と電動モータM1の出力軸とは略一直線上に配されており、継ぎ手71は、回転軸41の上端部と電動モータM1の出力軸とを連結するナイロン製のカップリングであって、絶縁部材としての機能を有する。即ち、継ぎ手71は、導電性を有する回転軸41に漏電した電力が、出力軸を介して電動モータM1へ更に漏電して電動モータM1に悪影響を与えることを防止している。
【0044】
電動モータM1が出力した回転運動を、継ぎ手71及び回転軸41を介して伝達されることによって、攪拌翼31は毎分数回転で回転して鋼球B,B,…を攪拌する。
【0045】
ここで、チャンバC1天板外面には、外筒641が略鉛直に立設されており、電動モータM1は、外筒641の上端部に、取付フランジ642を介して取り付けられている。電動モータM1の出力軸及び回転軸41夫々は、外筒641の内部に配されている。
【0046】
この外筒641内部には支持筒51が略鉛直に配されており、回転軸41は、両端部が支持筒51の両端開口から突出するよう配されて、支持筒51内部で回転可能に支持されている。支持筒51はステンレス製であって導電性を有し、支持筒51の軸長方向を略鉛直方向に配して、チャンバC1の天板を貫通した状態で、チャンバC1に取り付けられている。このため、支持筒51の上端部はチャンバC1の外部に配され、支持筒51の下端部はチャンバC1の内部に配されている。図4に示すように、支持筒51の下端部には、回転軸41が挿通されている円筒部材511の上端部がネジ留めされている。
【0047】
図3に示すように、回転軸41の外周面と支持筒51の上部内周面との間にOリング631を配することによって、回転軸41と支持筒51との空隙は密閉されており、回転軸41はOリング631に摺動しつつ回転する。また、支持筒51の外周面と、チャンバC1天板の内面及び外面夫々との間にOリング632,632を配することによって、支持筒51とチャンバC1との空隙は密閉されている。以上の結果、支持筒51がチャンバC1の天板を貫通していることによってチャンバC1に対し気体が流入出することはない。
【0048】
図4及び図5に示すように、載置皿91の側壁91bには、載置面91aの周縁を4等分する位置に、4個の支持部材911,911,…の一端部が着脱可能にネジ留めされている。このため、載置皿91は支持部材911,911,…に対して取り付け及び取り外しが容易である。
各支持部材911は、矩形平板を変形Z字状に折り曲げてなり、各支持部材911の他端部は、円筒部材511の下端部にネジ留めされている。
【0049】
このような支持部材911,911,…は載置皿91を、載置面91aを略水平にした状態でチャンバC1内に、着脱可能に吊り下げ支持している。つまり、支持筒51は、円筒部材511及び支持部材911,911,…を介して、支持筒51の外部で載置皿91を着脱可能に支持している。
円筒部材511、支持部材911,911,…及び支持部材911,911,…をネジ留めするネジは、夫々ステンレス製であって、導電性を有する。
【0050】
鋼球B,B,…に印加すべき負電圧は、支持筒51に印加され、支持筒51、円筒部材511、支持部材911,911,…及び載置皿91を介して、鋼球B,B,…に印加される。つまり、支持筒51、円筒部材511、支持部材911,911,…及び載置皿91は、チャンバC1外部からチャンバC1内部の鋼球B,B,…に負電圧を印加するためのフィードスルー(電流導入端子)としても機能する。
また、本実施の形態では、原料ガスをプラズマにするためのRFパルスも支持筒51に印加される。
【0051】
このために、支持筒51には、重畳整合回路66を介してパルスRF電源67とパルス電源68とが電気的に接続されており、パルスRF電源67が出力するプラズマ発生用のRFパルスと、パルス電源68が出力する負の高電圧パルスとが、鋼球B,B,…に対して重畳的に印加されるようにしてある。
重畳整合回路66は、パルスRF電源67及びパルス電源68夫々の出力を制御する制御部を備え、パルスRF電源67とパルス電源68との相互干渉を防止し、また、パルスRF電源67と鋼球B,B,…とのインピーダンスを整合するように構成されている。
【0052】
以上のようなDLC成膜装置7においては、載置皿91に対して相対的に回転する攪拌翼31と、V字溝D,Dとによって、各鋼球Bが自公転し、載置皿91及び他の鋼球Bとの接触点を連続的且つ略ランダムに変化させて転動する。このため、各鋼球Bの表面が満遍なくプラズマ雰囲気に暴露され、所定の成膜条件下で、各鋼球Bの表面全体に、厚さ約1.0μmの略均一、均質なDLC膜が成膜される。
なお、DLC膜の膜厚は、成膜条件を変更することによって、0.2μ〜2.0μmの範囲で変更することが可能である。
【0053】
また、載置皿91は取り付け及び取り外しが容易であるため、同一の載置皿91を使用して成膜作業を繰り返した後、作業者は、DLCが不要に付着した載置皿91を、新たな載置皿91と取り替える。この結果、載置皿91の導電性が向上されるため、鋼球B,B,…に対する成膜不良が抑制される。
【0054】
実施の形態 2.
図6は、本発明の実施の形態2に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿92及び攪拌翼31近傍の構成を示す縦断面図である。
実施の形態1のDLC成膜装置7においては、載置皿91は、載置面91aが略水平となるよう支持部材911,911,…によって吊り下げ支持されていたが、本実施の形態のDLC成膜装置においては、載置皿92は、水平面に対して傾斜した状態で支持されている。
【0055】
載置皿92、載置皿92の載置面92a及び側壁92b、並びに支持部材921,921,…は、実施の形態1の載置皿91、載置皿91の載置面91a及び側壁91b、並びに支持部材911,911,…に対応する。
ただし、支持部材921,921,…は、載置皿92を、載置面92aが水平面に対して僅かに傾斜した状態で吊り下げ支持している。
このため、攪拌翼31の回転に伴って、傾斜の上側に移動した鋼球Bは、重力によって自然と傾斜の下側へ移動するため、鋼球B,B,…のランダムな転動が更に促進される。
【0056】
ところで、載置面92aに形成されているV字溝D,Dの長手方向は、載置面92aの傾斜方向と交差する方向に配される。このため、例えば前述のように重力によって移動する鋼球Bが、傾斜の上側から下側へ真っ直ぐ移動することなく、V字溝Dに沿って斜めに移動することがあり、鋼球B,B,…のランダムな転動が促進される。
仮に、V字溝D,Dの長手方向を載置面92aの傾斜方向に沿って配した場合は、鋼球B,B,…はV字溝D,Dが形成されていない場合と略同様の動きをする。
【0057】
その他、実施の形態1に対応する部分には同一符号を付してそれらの説明を省略する。
【0058】
以上のようなDLC成膜装置においても、各鋼球Bの表面全体に略均一、均質なDLC膜が成膜される。また、DLCが不要に付着した載置皿92を適宜のタイミングで新たな載置皿92に取り替えることが可能である。
【0059】
実施の形態 3.
図7は、本発明の実施の形態3に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿91及び攪拌翼33近傍の構成を示す縦断面図であり、図8は、同じく平面図である。
実施の形態1,2のDLC成膜装置7が備える攪拌翼31は十字状であったが、DLC成膜装置が備えるべき攪拌翼の形状は、十字状に限定されるものではない。このため、本実施の形態においては、他の形状の攪拌翼を例示する。
【0060】
本実施の形態のDLC成膜装置は、実施の形態1の攪拌翼31及び回転軸41に夫々対応する攪拌翼33及び回転軸43を備える。
攪拌翼33は、回転軸43の下端面に、略水平に配された1本の矩形棒材331の中心部を溶接し、更に、矩形棒材331の両端部下面に、略水平に配された4本の矩形棒材332,332,…の上面を溶接してなる回転部材である。攪拌翼33の平面視の形状は、回転軸43を中心とする点対称形状である。
【0061】
矩形棒材331,332,332,…及び回転軸43は、載置皿91から夫々適長離隔配置されている。
矩形棒材331の下面と載置面91aとの離隔距離は鋼球Bの直径よりも大きいため、矩形棒材331は鋼球B,B,…に当接しない。
一方、矩形棒材332,332,…の下面と載置面91aとの離隔距離は鋼球Bの直径よりも小さい。即ち、矩形棒材332,332,…が鋼球B,B,…に当接することによって、攪拌翼33は、図8中白抜矢符方向の回転に伴い、鋼球B,B,…を攪拌する。
このような攪拌翼33は載置皿91を複数の区画に分割しないため、鋼球B,B,…は、載置皿91内を更に自由に移動する。
【0062】
その他、実施の形態1,2に対応する部分には同一符号を付してそれらの説明を省略する。
【0063】
以上のようなDLC成膜装置においても、各鋼球Bの表面全体に略均一、均質なDLC膜が成膜される。
【0064】
実施の形態 4.
図9は、本発明の実施の形態4に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置700の構成を示す縦断面図であり、図10は、DLC成膜装置700が備える電動モータM4近傍の構成を示す側面図である。
また、図11は、DLC成膜装置700が備える載置皿94及び攪拌翼34近傍の構成を示す縦断面図であり、図12は、同じく平面図である。更に詳細には、図11は、図12に示すX−Y線の断面図である。
【0065】
本実施の形態のDLC成膜装置700は、実施の形態1のDLC成膜装置7と同様、複数の鋼球B,B,…の表面全体にDLC膜を成膜すべく、炭素を含むプラズマ雰囲気中で転動自在に保持された鋼球B,B,…を略ランダムに転動させつつ、鋼球B,B,…に負電圧を印加する。
【0066】
このために、DLC成膜装置700は、図9に示すように、図示しない真空排気装置によって内部の気体が排出され、図示しないガス流入装置によって、炭素を含む原料ガスが供給される金属製のチャンバC4を備える。
チャンバC4は、実施の形態1のチャンバC1同様、略水平な天板及び載置板、並びに4枚の側板で構成されている密封容器であり、例えばアルゴンガスのような不活性ガスによって内部を洗浄されてから、メタンガス、アセチレンガス、トルエンガス等の原料ガスを供給される。
【0067】
チャンバC4の中央部には、導電性を有する載置皿94が配されている。載置皿94は、基材としての鋼球B,B,…を転動自在に保持する基材ホルダであって、本実施の形態においてはステンレスを用いてなり、図9、図11及び図12に示すように載置面94aと側壁94bとを備える。
載置面94a上の鋼球B,B,…のランダムな転動を促進するために、載置皿94内部には、載置皿94に載置されている鋼球B,B,…を載置面94aの周方向(図12中白抜矢符方向)に攪拌する攪拌翼34が配されている。
このような載置皿94及び攪拌翼34は、実施の形態1の載置皿91及び攪拌翼31と略同様である。
【0068】
ただし、実施の形態1においては載置皿91が支持筒51に固定支持され、攪拌翼31が、支持筒51内部で回転する回転軸41に連結されて回転する構成であったが、本実施の形態においては、攪拌翼34が支持筒54に固定支持され、載置皿94が支持筒54内部で回転する回転軸44に着脱可能に連結されて回転する構成である。
【0069】
このために、実施の形態1の支持筒51の下端は載置皿91の載置面91aから大きく離隔していたが、本実施の形態の支持筒54の下端は載置皿94の載置面94aに接近配置されている。また、実施の形態1の回転軸41の下端は載置皿91の載置面91aから僅かに離隔していたが、本実施の形態の回転軸44の下端は載置皿94の載置面94aの中心部に略垂直に、着脱可能にネジ留めされている。この結果、載置皿94は回転軸44に対して取り付け及び取り外しが容易である。
【0070】
また、攪拌翼31と攪拌翼34とは、作用及び効果は略同じであるが、形状及び寸法が大きく異なる。
具体的には、攪拌翼34は、中心部に孔を有し、更に、羽根部341,341と羽根部342,342とを有する平面視十字状の部材が、ステンレス製の略鉛直な支持筒54の下端部外周面に外嵌及び溶接されてなる。
羽根部341,341は、支持筒54を中心に対向配置されている。各羽根部341の先端と載置皿94の側壁94b内面とは鋼球Bの外径よりも僅かに長く離隔されており、各羽根部341の先端と側壁94b内面との間が、1個の鋼球Bが通過可能な鋼球通路W1 となるようにしてある。
【0071】
また、羽根部342,342は、羽根部341,341から約90°離隔して、支持筒54を中心に対向配置されており、各羽根部342の中途には、鋼球Bの外径よりも僅かに長い高さ及び幅(ここでは載置面94aの径方向の長さ)を有するアーチ部34aが形成されている。このアーチ部34aの内側は、1個の鋼球Bが通過可能な鋼球通路W2 となる。
以上のような羽根部341,341,342,342の側面は、鋼球B,B,…を鋼球通路W1 ,W2 へ案内する案内面としての機能も有する。
【0072】
各羽根部342の先端と載置皿94の側壁94b内面と、並びに、羽根部341,341,342,342夫々の最下面及び支持筒54の下端夫々と載置皿94の載置面94aとは、僅かに離隔している。このため、支持筒54及び攪拌翼34に対して載置皿94が摺動することはない。
【0073】
回転軸44の両端部は、支持筒54の両端開口から突出しており、支持筒54の下端開口から僅かに突出している回転軸44の下端部は、前述のように、載置皿94と連結されている。
【0074】
一方、支持筒54の上端開口から突出している回転軸44の最上端部には、図9及び図10に示すように、歯数が100の絶縁歯車72が外嵌してあり、この絶縁歯車72と、歯数が50の絶縁歯車73とが噛合している。更に、この絶縁歯車73が、電動モータM4の出力軸に外嵌してある。ここで、電動モータM4の出力軸と回転軸44とは略平行に配されている。電動モータM4はブラシレスDCモータを用いてなり、毎分数回転の回転運動を出力する。
【0075】
絶縁歯車72,73夫々はナイロン製の絶縁部材である。つまり、回転軸44は、上端部が、絶縁部材である絶縁歯車72,73を介して電動モータM4の出力軸と連結されている。
回転軸44と電動モータM4との間に絶縁歯車72,73が介在しているため、導電性を有する回転軸44に通電された電力が、出力軸を介して電動モータM4へ漏電して電動モータM4に悪影響を与えることが防止されている。
【0076】
電動モータM4が出力した回転運動を、絶縁歯車72,73及び回転軸44を介して伝達されることによって、載置皿94は毎分数回転で回転する。この結果、攪拌翼34が載置皿94に対して相対回転して、鋼球B,B,…を攪拌する。
攪拌された鋼球B,B,…は、各羽根部341と羽根部342との間で転動し、また、例えば互いに接触して転動する鋼球B,Bが、他の鋼球Bに押されたり羽根部341,341,342,342の側面に案内されたりして1個ずつ鋼球通路W1 ,W2 を通過することによって離隔するため、鋼球B,B,…のランダムな転動が促進される。
【0077】
ところで、チャンバC4天板には、内部に回転軸44が配された支持筒54が挿通されている開口が形成されており、この開口の周縁部の天板外面側に、外筒651が略鉛直に立設されている。
【0078】
チャンバC4天板と支持筒54との空隙を密封するために、金属板を用いてなる保護カバー652が備えられている。保護カバー652は、中央部に支持筒54が貫通する孔が形成されており、この孔の周縁部と支持筒54の外周面とが溶接されている。更に、保護カバー652は、チャンバC4天板の孔を閉鎖して、チャンバC4天板内面に溶接されている。
このような保護カバー652は、チャンバC4外の各部(チャンバC4外に配されている支持筒54の外周面、外筒651内周面等)にDLCが付着することを防止している。
【0079】
支持筒54の上端開口から突出している回転軸44の下部は、テフロン(登録商標)製の絶縁筒654に囲繞されており、同じく上部は、ジュラコン(登録商標)製の絶縁筒655に囲繞されている。回転軸44は、絶縁筒654,655内で、ベアリングを用いて回転可能に支持されており、また、絶縁筒654,655によって、回転軸44からの漏電が防止されている。更に、絶縁筒654内周面と回転軸44外周面との空隙は、バイトン(登録商標)を用いてなるゴム製のパッキンとオイルシールとで密封してある。
ここで、支持筒54の上端部は、絶縁筒654の下部に固定されている。
【0080】
外筒651の上部には、回転軸44上部に取り付けられている絶縁歯車72と、絶縁歯車73と、電動モータM4とを収容する収容箱653が配されている。収容箱653の下面には開口が設けられており、回転軸44及び回転軸44を囲繞する絶縁筒654は、収容箱653下面の開口を貫通している。
絶縁筒654,655は取付フランジ656の下面及び上面にネジ留めされており、この取付フランジ656が、収容箱653の下面開口を閉鎖して収容箱653の下面にネジ留めされている。
絶縁筒654と取付フランジ656との空隙は、バイトンを用いてなるゴム製のOリングで密封されている。
【0081】
以上のように、各空隙が密封されているため、チャンバC4に対し気体が流入出することはない。
【0082】
ところで、鋼球B,B,…に印加すべき負電圧は、図11に示すように、回転軸44に印加され、回転軸44及び載置皿94を介して、鋼球B,B,…に印加される。つまり、回転軸44及び載置皿94は、チャンバC4外部からチャンバC4内部の鋼球B,B,…に負電圧を印加するためのフィードスルー(電流導入端子)としても機能する。
また、本実施の形態では、原料ガスをプラズマにするためのRFパルスも回転軸44に印加される。
【0083】
このために、回転軸44には、実施の形態1と同様に、重畳整合回路66を介してパルスRF電源67とパルス電源68とが電気的に接続されている。
【0084】
その他、実施の形態1〜3に対応する部分には同一符号を付してそれらの説明を省略する。
【0085】
以上のようなDLC成膜装置700においては、載置皿94に対して相対的に回転する攪拌翼34によって、各鋼球Bが自公転し、載置皿94及び他の鋼球Bとの接触点を連続的且つ略ランダムに変化させて転動する。このため、各鋼球Bの表面が満遍なくプラズマ雰囲気に暴露され、各鋼球Bの表面全体に略均一、均質なDLC膜が成膜される。
なお、DLC成膜装置700が備えるべき攪拌翼は、攪拌翼34に限定されるものではない。
【0086】
また、載置皿94は回転軸44に対する取り付け及び取り外しが容易であるため、同一の載置皿94を使用して成膜作業を繰り返した後、作業者は、DLCが不要に付着した載置皿94を、新たな載置皿94と取り替える。この結果、載置皿94の導電性が向上されるため、鋼球B,B,…に対する成膜不良が抑制される。
なお、載置皿94と回転軸44とをネジ留めする構成ではなく、例えば、回転軸44の下端部を雄ネジとし、この雄ネジと対応する雌ネジを載置皿94の載置面94aの中心部に形成する構成でもよい。
【0087】
実施の形態 5.
図13は、本発明の実施の形態5に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿95近傍の構成を示す縦断面図であり、図14は、同じく平面図である。
本実施の形態のDLC成膜装置は、実施の形態4のDLC成膜装置700と略同様である。つまり、実施の形態4において、回転軸44の下端部と載置皿94とが連結されていた構成と同様に、本実施の形態においては、傾斜回転軸45の下端部と載置皿95の底面である載置面95aとが略垂直に連結されている。
【0088】
また、鋼球B,B,…に印加すべき負電圧及び原料ガスをプラズマにするためのRFパルスは、夫々傾斜回転軸45に印加される。このために、傾斜回転軸45には、実施の形態4と同様に、重畳整合回路66を介してパルスRF電源67とパルス電源68とが電気的に接続されている。
更に、傾斜回転軸45の上端部は、実施の形態4の絶縁歯車72,73のような絶縁部材を介して、実施の形態4の電動モータM4のような電動モータの出力軸と連結されている。
【0089】
更にまた、本実施の形態のDLC成膜装置は、実施の形態4の支持筒54に対応する図示しない支持筒を備えており、傾斜回転軸45は、この支持筒内部で回転する。
しかしながら、実施の形態4のDLC成膜装置700とは異なり、本実施の形態のDLC成膜装置は攪拌翼を備えていない。このため、実施の形態4の支持筒54の下端には攪拌翼34が固定されているが、本実施の形態の支持筒には攪拌翼が固定されておらず、実施の形態4の支持筒54の下端は載置皿94の載置面94aに接近配置されているが、本実施の形態の支持筒は載置皿95から上方に大きく離隔して配されている。
また、傾斜回転軸45は、水平面に対して僅かに傾斜した状態で配されている。このために、載置皿95を回転させる回転機構全体が、実施の形態4のチャンバC4のようなチャンバに対して傾斜して取り付けられている。
【0090】
載置皿95は、実施の形態4の載置皿94と同様、基材としての鋼球B,B,…を転動自在に保持する基材ホルダであって、載置面95aと側壁95bとを備える。
載置皿95には、載置面95aを二等分に区画するための隔壁951,951が、傾斜回転軸45の径方向両側に配されている。
また、隔壁951,951によって分割されている各区画には、載置面95aから突出する凸条部Pが1本形成されている。
凸条部P,Pは、実施の形態1のV字溝D,D同様に鋼球B,B,…のランダムな転動を促進するために載置面95aに形成されている凸部である。
【0091】
その他、実施の形態1〜4に対応する部分には同一符号を付してそれらの説明を省略する。
【0092】
以上のようなDLC成膜装置においては、鋼球B,B,…は一方の区画から隔壁951,951を越えて他方の区画へ移動することなく、また、凸条部P,Pに沿って、載置面95aで転動する。特に、隔壁951,951は、傾斜の下側に滑り落ちた鋼球B,B,…を、載置皿95の回転に伴って傾斜の上側へ運ぶ役割も果たし、傾斜の上側へ移送された鋼球B,B,…が、重力に従って自動的に傾斜の下側へ移動する。このため、鋼球B,B,…のランダムな転動が更に促進される。
このようにして各鋼球Bが自公転し、載置皿95及び他の鋼球Bとの接触点が連続的且つ略ランダムに変化する。この結果、各鋼球Bの表面全体に略均一、均質なDLC膜が成膜される。
【0093】
また、載置皿95は傾斜回転軸45に対する取り付け及び取り外しが容易であるため、同一の載置皿95を使用して成膜作業を繰り返した後、作業者は、DLCが不要に付着した載置皿95を、新たな載置皿95と取り替える。この結果、載置皿95の導電性が向上されるため、鋼球B,B,…に対する成膜不良が抑制される。
【0094】
なお、本実施の形態1〜5においては、回転軸41〜45は載置皿91〜95の上側に配されているが、これに限定されず、載置皿の下側に配される構成でもよい。
また、回転軸41〜45及び載置皿91〜95両方を回転(例えば互いに逆方向に回転)させる構造でもよい。
更に、本実施の形態1〜5における載置皿91、攪拌翼31、回転軸41、傾斜回転軸45、支持筒51等の各部材はステンレス製であるが、これに限定されず、例えばDLCが付着し難い銅製の部材を用いてもよい。
更にまた、鋼球Bに限定されず、鉄、セラミック等を用いてなる転動体にDLC膜を成膜してもよい。
【0095】
実施の形態 6.
図15は、本発明の実施の形態6に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿96の平面図である。
実施の形態1〜5においては、DLCが不要に付着した場合に、載置皿91〜95全体を取り替えていたが、DLCの付着は載置皿91〜95全面ではなく、部分的に生じることがある。このため、載置皿91〜95に関し、DLCが付着した部分だけを取り替える方が効率がよい。
【0096】
本実施の形態における載置皿96は、実施の形態1〜5の載置皿91〜95と略同様であり、例えば実施の形態1の載置皿91の代わりに、支持部材911,911,…に着脱可能にネジ留めされる。このために、載置皿96の載置面96a及び側壁96bは、実施の形態1の載置皿91の載置面91a及び側壁91bに対応し、載置面96aにはV字溝D,Dが形成されている。
【0097】
ところで、載置皿96は、載置皿96を周方向に3等分してなる皿部材961,962,963を組み合わせてなる。各皿部材961,962,963は、夫々自身と略同一形状の皿部材961,962,963と取り替え可能にしてある。
このため、例えば皿部材963が、DLCの不要な付着によって導電性が悪化した場合、DLCが付着した皿部材963と新たな皿部材963とが取り替えられる。
ここで、皿部材961,962,963同士は、例えば載置皿96の外側から、板状の補助部材とネジとで連結してある。
【0098】
以上のようなDLC成膜装置においては、載置皿96全体を取り替えることなく、DLCが付着した皿部材961,962,963の何れか1つ又は2つを個々に取り替えることが可能であるため、無駄がない。
【0099】
実施の形態 7.
図16は、本発明の実施の形態7に係るボールねじ1が有する鋼球13,13,…の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿97の斜視図である。
実施の形態6においては、3分割された載置皿96を用い、DLCが付着した皿部材961,962,963の何れか1つ又は2つを個々に取り替えていたが、DLCの付着による導電性の悪化が鋼球B,B,…の成膜に悪影響を及ぼすのは主に載置皿96の底面である載置面96aに対するDLCの付着である。このため、皿部材961,962,963ではなく、DLCが付着によって鋼球B,B,…の成膜に悪影響を及ぼす載置面96aだけを取り替える方が効率がよい。
【0100】
本実施の形態における載置皿97は、実施の形態1〜6の載置皿91〜96と略同様であり、例えば実施の形態1の載置皿91の代わりに、支持部材911,911,…に着脱可能にネジ留めされる。このために、載置皿97の底面97a及び側壁97bは、実施の形態1の載置皿91の載置面91a及び側壁91bに対応する。
ここで、底面97aには直接的に鋼球B,B,…が載置されないので、例えばV字溝D,Dが形成されている必要はないが、後述する載置板8の敷設に影響がなければ、凸部、凹条部等が形成されていても問題はない。
【0101】
この底面97a上には、底面97aと略同一形状同一寸法の(又は僅かに直径が小さい)円形薄板であるステンレス製の載置板8が着脱可能に敷いてある。載置板8の底面97aに対する取り付けは、自重による載置のみであってもよく、導電性を有する着脱可能な部材で固定してもよい。なお、載置板8はアルミニウム製、銅製等でもよい。
【0102】
載置板8は、載置板8を周方向に3等分してなる板部材81,82,83を組み合わせてなる。各板部材81,82,83は、夫々自身と略同一形状の板部材81,82,83と取り替え可能にしてある。
このため、例えば板部材83が、DLCの不要な付着によって導電性が悪化した場合、DLCが付着した板部材83と新たな板部材83とが取り替えられる。
ここで、板部材81,82,83同士は互いに連結される構成でもよく、連結されず個々に底面97aに載置される構成でもよい。
【0103】
以上のようなDLC成膜装置においては、載置皿97全体又は載置板8全体を取り替えることなく、DLCが付着した板部材81,82,83の何れか1つ又は2つを個々に取り替えることが可能であるため、無駄がない。
なお、載置板8の全面にDLCが付着するような場合は、分割されていない一枚板を用いてなる載置板と取り替える構成でもよい。
【0104】
ところで、各鋼球Bを、載置板8及び他の鋼球Bとの接触点を連続的且つ略ランダムに変化させつつ転動させるために、載置板8にも凸部及び/又は凹条部が形成してあることが好ましい。
【0105】
図17及び図18は、板部材81の一例を示す平面図及び側面図であり、図19は、板部材81の他の一例を示す平面図であり、図20は、板部材81の更に他の一例を示す平面図である。
図17及び図18に示すように、載置板8の各板部材81(82,83)夫々には、夫々長手方向が楕円弧状のV字溝(凹条部)D1及び山形に突出する凸条部(凸部)P1が形成されている。
又は、図19に示すように、載置板8の各板部材81(82,83)には、径方向に交差するV字溝Dが形成されている。
或いは、図20に示すように、載置板8の各板部材81(82,83)には、放射状のV字溝(凹条部)D2,D2が形成されている。
【0106】
以上のようなV字溝D1及び凸条部P1、V字溝D、又はV字溝D2,D2と接触しつつ転動することによって、各鋼球Bの表面が満遍なくプラズマ雰囲気に暴露される。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態1に係るボールねじの外観を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電動シリンダの内部構成を示す側断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置の構成を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す縦断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す縦断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す平面図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置の構成を示す縦断面図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える電動モータ近傍の構成を示す側面図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す縦断面図である。
【図12】本発明の実施の形態4に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿及び攪拌翼近傍の構成を示す平面図である。
【図13】本発明の実施の形態5に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿近傍の構成を示す縦断面図である。
【図14】本発明の実施の形態5に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿近傍の構成を示す平面図である。
【図15】本発明の実施の形態6に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の平面図である。
【図16】本発明の実施の形態7に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の斜視図である。
【図17】本発明の実施の形態7に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の板部材の一例を示す平面図である。
【図18】本発明の実施の形態7に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の板部材の一例を示す側面図である。
【図19】本発明の実施の形態7に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の板部材の他の一例を示す平面図である。
【図20】本発明の実施の形態7に係るボールねじが有する鋼球の製造に好適なDLC成膜装置が備える載置皿の板部材の更に他の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 ボールねじ
11 ねじ軸
12 ナット
13 鋼球(金属球)
2 電動シリンダ
21 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸の外周面に形成されているねじ溝とナットの内周面に形成されているねじ溝との間で複数の金属球が転動するボールねじにおいて、
各金属球の表面が、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜に被覆されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記金属球は高炭素鋼を用いてなることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
電動モータと、
該電動モータが発生させる回転運動がねじ軸(又はナット)に伝達されて、伝達された回転運動をナット(又はねじ軸)の直線運動に変換するボールねじと
を備える電動シリンダにおいて、
前記ボールねじは、請求項1又は2に記載のボールねじであることを特徴とする電動シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−180286(P2008−180286A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14222(P2007−14222)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000150800)株式会社ツバキエマソン (102)
【Fターム(参考)】