説明

ボールジョイント及びその製造方法

【課題】耐久性及びトルク安定性を確保できるボールジョイントを提供する。
【解決手段】ソケット本体21の内室24に、粉体と流体とのいずれかの合成樹脂P1を付着させる。付着させた合成樹脂P1を固化させてボールシート17を形成する。ボールシート17の内部にボール部41を摺動可能に組み付ける。ソケット本体21の内室24とボールシート17の外面とを密着させて、ソケット本体21とボールシート17との寸法のばらつきに起因するボールシート17の劣化などを防止して耐久性を確保できる。ボール部41の表面にボールシート17が固着することを防止して、トルク安定性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソケットの内部に収容されたベアリングシートに摺動可能に保持されたボール部を備えたボールジョイント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車などの車両の懸架装置、あるいは操舵装置に用いられるこの種のボールジョイントは、金属製の筒状のソケットと、このソケットの内部、すなわち内室に収容された合成樹脂製のベアリングシートであるボールシートと、このボールシートの内部の球面状の摺動面に摺動(回動)可能に保持されたボール部を有するボールスタッドとを備えている。
【0003】
このようなボールジョイントを製造する際には、例えば鋳造、あるいは鍛造によりソケットを形成し、このソケットの内室に、別途射出成形したボールシート及び別途形成したボール部をそれぞれ組み付ける方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−293572号公報(第4−7頁、図2−5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の製造方法では、ソケットの内室とボールシートの外面との寸法のばらつきなどにより、ソケットの内室とボールシートの外面とが密着しないことがあり、このような場合、ボールシートが劣化しやすく、すなわちへたりやすくなり、耐久性が低下するおそれがあるという問題点を有している。
【0006】
そこで、例えば鋳造、あるいは鍛造によりソケットを形成し、このソケットの内室に、別途形成したボール部を組み付け、このボール部とソケットの内室との間をキャビティとして合成樹脂を射出することによりボールシートを形成する構成が考えられる。
【0007】
しかしながら、このような製造方法では、ボール部の表面とソケットの内室とにそれぞれボールシートが固着するため、トルク安定性が低下するおそれがあるとともに、合成樹脂の流動性から、均一な厚みのボールシートを得ることが容易でないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、耐久性及びトルク安定性を確保できるボールジョイント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載のボールジョイントは、筒状のソケットと、このソケットの内部に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させて固化することにより形成された筒状のベアリングシートと、このベアリングシートの内部に摺動可能に保持されたボール部とを具備したものである。
【0010】
請求項2記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、ソケットは、ベアリングシートの外部と接触する内部の少なくとも一部に凹凸部を備えているものである。
【0011】
請求項3記載のボールジョイントは、請求項1または2記載のボールジョイントにおいて、ベアリングシートを構成する合成樹脂は、固体の潤滑部材を含んでいるものである。
【0012】
請求項4記載のボールジョイントの製造方法は、筒状のソケットと、このソケットの内部に収用された筒状のベアリングシートと、このベアリングシートの内部に摺動可能に保持されたボール部とを具備したボールジョイントの製造方法であって、ソケットの内部に、粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させる付着工程と、この付着させた合成樹脂を固化させて前記ベアリングシートを形成する固化工程と、このベアリングシートの内部に前記ボール部を摺動可能に組み付ける組み付け工程とを具備したものである。
【0013】
請求項5記載のボールジョイントの製造方法は、請求項4記載のボールジョイントの製造方法において、付着工程の前に、ソケットのベアリングシートと接触する内部の少なくとも一部に凹凸部を形成する凹凸部形成工程を備えているものである。
【0014】
請求項6記載のボールジョイントの製造方法は、請求項4または5記載のボールジョイントの製造方法において、付着工程に用いる合成樹脂に、固体の潤滑部材を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のボールジョイントによれば、ソケットの内部に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させて固化することによりベアリングシートを形成することで、ソケットの内部とベアリングシートの外面とを密着させて、ソケットとベアリングシートとの寸法のばらつきに起因するベアリングシートの劣化などを防止して耐久性を確保できるとともに、ボール部の表面にベアリングシートが固着することを防止して、トルク安定性を確保できる。
【0016】
請求項2記載のボールジョイントによれば、請求項1記載のボールジョイントの効果に加えて、ベアリングシートの外部と接触するソケットの内部の少なくとも一部に凹凸部を形成することにより、ソケットの内部に合成樹脂を付着させて固化する際に、形成されたベアリングシートの外部とソケットの内部との密着性をより向上し、耐久性をより向上できる。
【0017】
請求項3記載のボールジョイントによれば、請求項1または2記載のボールジョイントの効果に加えて、ベアリングシートを形成する合成樹脂に固体の潤滑部材を含むことにより、ベアリングシートの内部とボール部との摺動性を向上し、トルク安定性をより向上できる。
【0018】
請求項4記載のボールジョイントの製造方法によれば、ソケットの内部に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させて固化することによりベアリングシートを形成することで、ソケットの内部とボールシートの外面とを密着させて、ソケットとベアリングシートとの寸法のばらつきに起因するベアリングシートの劣化などを防止して耐久性を確保できるとともに、ボール部の表面にベアリングシートが固着することを防止して、トルク安定性を確保できる。
【0019】
請求項5記載のボールジョイントの製造方法によれば、請求項4記載のボールジョイントの製造方法の効果に加えて、ベアリングシートの外部と接触するソケットの内部の少なくとも一部に凹凸部を形成することにより、ソケットの内部に合成樹脂を付着させて固化させる際に、形成されたベアリングシートの外部とソケットの内部との密着性をより向上し、耐久性をより向上できる。
【0020】
請求項6記載のボールジョイントの製造方法によれば、請求項4または5記載のボールジョイントの製造方法の効果に加えて、付着工程に用いる合成樹脂に固体の潤滑部材を含むことにより、ベアリングシートの内部とボール部との摺動性を向上し、トルク安定性をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールジョイントの製造方法を示し、(a)はソケット形成工程を示す説明図、(b)は凹凸部形成工程を示す説明図、(c)は付着工程を示す説明図、(d)は固化工程を示す説明図、(e)は組み付け工程を示す説明図である。
【図2】同上ボールジョイントの一部を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態のボールジョイントの製造方法を示し、(a)はソケット形成工程を示す説明図、(b)は凹凸部形成工程を示す説明図、(c)は付着工程を示す説明図、(d)は固化工程を示す説明図、(e)は組み付け工程を示す説明図である。
【図4】同上ボールジョイントの一部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施の形態の構成を図1及び図2を参照して説明する。
【0023】
図2において、11はボールジョイントを示し、このボールジョイント11は、例えば自動車などの車両の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるものである。
【0024】
そして、このボールジョイント11は、ハウジングであるソケット16と、このソケット16の内部に収容されたベアリングシートであるボールシート17と、このボールシート17に取り付けられたクッションシート18と、これらボールシート17及びクッションシート18に一部が摺動(回動)可能に保持されたボールスタッド19と、ソケット16の外周面からボールスタッド19の外周面に亘って配置された図示しないダストカバーとを備えている。
【0025】
ソケット16は、金属製などの円筒状のソケット本体21と、このソケット本体21に一体的に固定される金属製などの円板状の閉塞部材としてのプラグ22とを有している。
【0026】
ソケット本体21は、ボールシート17及びクッションシート18を収容する内室24を内部に備えているとともに、一端部(図2中、上端部)に、この内室24をソケット本体21の外部と連通する挿通開口部としての一方の開口部である第1ソケット開口部25を備え、さらに、他端部(図2中、下端部)に、内室24をソケット本体21の外部と連通する連通開口部としての他方の開口部である第2ソケット開口部26を備えている。また、このソケット本体21は、一端側(図2中、上端側)の外周面に、ダストカバーの端部を固定するカバー固定溝28が周方向に形成されている。さらに、このソケット本体21は、内室24と第2ソケット開口部26との連続部に、プラグ22を保持する保持部32が段差状に形成されている。そして、ソケット本体21は、保持部32よりも他端側(図2中、下端側)の部分が、かしめ変形されることによってプラグ22を固定することによりボールシート17、クッションシート18及びボールスタッド19をソケット16に固定するための固定部であるかしめ固定部33となっている。なお、ソケット本体21は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成されている。
【0027】
内室24は、表面に、微細な凹凸部24aが多数形成されている。これら凹凸部24aは、例えば直径が5〜10μm程度の粒子を加速してぶつけるショットブラストなどの工法により形成されたものであり、幅及び頂部すなわちピークの高さがランダム(不規則)にばらついた山部及び谷部が連続的、あるいは不連続的に多数形成されることで線条の皺を形成して内室24aの表面積を拡大している。なお、図中において凹凸部24aは便宜的に誇張して均一に記載している。
【0028】
また、プラグ22は、保持部32に周縁部が保持された状態でかしめ固定部33によりかしめ固定されることにより、内室24の他端側(図2中、下端側)、すなわち第2ソケット開口部26を閉塞するものである。
【0029】
ボールシート17は、ある程度の緩衝性(弾性)を有し、耐摩耗性に優れたもので、例えば弾性率が高い粉体、あるいは流体の合成樹脂P1(図1(c))をソケット16の内室24に付着させて固化することにより内室24の内部に円筒状に形成されている。すなわち、このボールシート17は、内部に少なくとも一部が球面状の摺動面35を備えているとともに、一端部(図2中、上端部)に、この摺動面35と連続してソケット本体21の第1ソケット開口部25と同軸状に連通するシート挿通開口部としての一方のシート開口部である第1シート開口部36を備え、また、他端部(図2中、下端部)に、摺動面35と連続してソケット本体21の第2ソケット開口部26と同軸状に連通するシート連通開口部としての他方のシート開口部である第2シート開口部37を備えている。そして、このボールシート17は、ソケット本体21の内室24にプラグ22により保持されている。なお、ボールシート17を形成する合成樹脂P1(図1(c))は、内部に固体の潤滑部材を含むことが好ましい。固体の潤滑部材としては、例えば二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、あるいは炭素繊維(カーボンファイバ)などを好適に用いることができる。
【0030】
クッションシート18は、例えば弾性を有するポリウレタン、ポリエステル、あるいはゴムなどの合成樹脂製であり、略円筒状に形成され、ボールスタッド19に外部から加わる軸方向荷重の少なくとも一部を受け、軸方向に可撓変形することで、この荷重を吸収するものである。このクッションシート18は、ボールシート17の第2シート開口部37側の摺動面35の内側に取り付けられており、このボールシート17に対して周方向に回り止め保持されているとともに、このボールシート17の第1シート開口部36側の摺動面35とともにボール部41の外周面を摺動可能に保持する球面状の保持摺動面39を内周側に備えている。また、このクッションシート18は、ソケット16のプラグ部22により支持され、ボールスタッド19側へと弾性的に圧接されている。
【0031】
ボールスタッド19は、例えば鋼鉄製などであり、球状のボール部41と、このボール部41に連結された軸状のスタッド部42とを一体に備えている。
【0032】
ボール部41は、その赤道(最大径位置)を含む例えば1/3程度の外周面がボールシート17の摺動面35に摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部41は、ボールシート17及びクッションシート18とともにソケット16の内室24に収容されている。また、ボール部41は、赤道の外径寸法、すなわち最大外径寸法が、ボールシート17の摺動面35の最大内径寸法と略等しく形成されている。すなわち、ボール部41の外周面の形状は、ボールシート17の摺動面35の第1シート開口部36側及びクッションシート18の保持摺動面39の形状と略一致している。さらに、このボール部41の外周面には、図示しないが、例えば潤滑剤(グリース)を保持するための凹凸、あるいは溝部などが形成されている。
【0033】
スタッド部42は、外部からの圧縮荷重、あるいは引っ張り荷重が加わる部分であり、丸軸状に形成されている。このスタッド部42は、ボール部41の外周面に、このボール部41の中心すなわち球心と同軸に連結されている。このため、スタッド部42の軸方向、すなわち軸心は、無負荷状態でソケット本体21(ソケット16)の中心軸に沿っており、ボール部41の赤道に対して正面視で直交(交差)している。なお、このスタッド部42は、ボール部41と一体に成形してもよいし、ボール部41と別体で成形した後、ボール部41に溶接などにより一体化してもよい。また、このスタッド部42には、ボールジョイント11を図示しない被取付部に取り付けるための取付部であるねじ部、あるいは、この被取付部と接触する座面を形成する鍔部などを一体に形成してもよい。
【0034】
また、ダストカバーは、ダストシール、あるいはブーツなどとも呼ばれるもので、例えば軟質ゴム、あるいは軟質合成樹脂などにより円筒状に形成されている。このダストカバーは、一端側(図2中、上端側)がスタッド部42の外周に亘って、中心軸方向に圧接されるように取り付け固定され、他端側(図2中、下端側)がソケット16のカバー固定溝28に取り付け固定されている。したがって、このダストカバーは、ボールスタッド19の揺動に拘らずソケット16の第1ソケット開口部25(ボールシート17の第1シート開口部36)を覆い、ソケット16あるいはボールシート17の内部への塵埃などの侵入を阻止している。
【0035】
次に、上記第1の実施の形態のボールジョイント11の製造方法を説明する。
【0036】
まず、図1(a)に示すように、ソケット16(ソケット本体21)を、鍛造、あるいは鋳造によって形成する(ソケット形成工程)。
【0037】
次いで、図1(b)に示すように、このソケット本体21の内室24に、ショットブラストなどによって微細な凹凸部24aを形成する(凹凸形成工程)。なお、この凹凸形成工程は、ソケット本体21の内室24に以下の合成樹脂P1を充分に密着させることができれば、不要な場合もある。
【0038】
この後、図1(c)に示すように、ソケット本体21の内室24内に、合成樹脂P1を一定厚みに付着させる(付着工程)。この合成樹脂P1の付着には、例えば塗装(静電塗装、粉体塗装など)、浸漬、あるいは溶射などの各方法を用いることが可能である。
【0039】
さらに、この塗布した合成樹脂P1を固化させることにより、図1(d)に示すようにソケット16(ソケット本体21)の内室24に外部(外面)が密着したボールシート17を形成する(固化工程)。この合成樹脂P1の固化には、例えば加熱、冷却、加圧、あるいは常温放置などの各方法を用いることが可能である。なお、この固化工程の際に、所定の型材などを合成樹脂P1の内面側に圧接させた状態で合成樹脂P1を固化させることにより、ボールシート17の摺動面35に潤滑剤をボール部41の外周面との間に保持するための溝部を形成してもよい。
【0040】
そして、図1(e)に示すように、ボールシート17の摺動面35へとクッションシート18とともにボール部41を挿入(圧入)して組み付けるとともに、ソケット本体21の保持部32にプラグ22の周縁部を保持した状態でソケット本体21の他端(図中、下端)の周縁をかしめ変形(塑性変形)させることにより、プラグ22をソケット本体21に固定して、ボールシート17、クッションシート18及びボール部41をソケット16の内部に保持した状態とする。なお、潤滑剤(グリース)は、この組み付け工程において、挿入(圧入)するボール部41の表面に予め塗布しておいてもよいし、ボール部41が挿入(圧入)されるボールシート17の摺動面35、あるいはクッションシート18の保持摺動面39に予め塗布しておいてもよい。
【0041】
この後、例えばボール部41に対して第1ソケット開口部25側からスタッド部42を溶接するとともに、このスタッド部42とソケット本体21のカバー固定溝28との間にダストカバーを取り付けるなどして、図2に示すボールジョイント11を完成する。
【0042】
このように、上記第1の実施の形態では、ソケット16(ソケット本体21)の内室24に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂P1を付着させて固化することによりボールシート17を形成する構成とした。このため、ソケット16(ソケット本体21)の内部とボールシート17の外面とが密着するので、ソケット16(ソケット本体21)とボールシート17との寸法のばらつきに起因するボールシート17の劣化(へたり)などを防止して耐久性を確保できるとともに、ボール部41の表面にボールシート17が固着することを防止して、トルク安定性を確保できる。
【0043】
また、ボールシート17は、上記のように製造することにより、略均一な厚みで薄肉化できるため、コストを低減できるとともにソケット16(ソケット本体21)の内室24からのボールシート17の抜け(脱落)、すなわちシートフローを抑制できる。
【0044】
しかも、ボールシート17の製造の際には、例えば塗装、浸漬、あるいは溶射などの方法で合成樹脂P1を付着させ、過熱、冷却加圧、あるいは常温放置などの方法で合成樹脂P1を固化させるだけの簡単な工程のみで済むため、例えばプラズマCVD、あるいはPVDなどの複雑かつ効果な製造方法を用いる必要がなく、製造コストを抑制できるとともに、例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの皮膜と比較すると、必要以上に薄肉でない、緩衝性を確保できる程度の厚膜に形成することが可能であり、緩衝性を要求されるボールジョイント11のボールシート17の製造に適している。
【0045】
さらに、ボールシート17の外部と接触するソケット16(ソケット本体21)の内室24に凹凸部24aを形成することにより、ソケット16(ソケット本体21)の内室24に合成樹脂P1を付着させて固化する際に、形成されたボールシート17の外部とソケット16(ソケット本体21)の内室24との密着性をより向上してボールシート17の劣化(へたり)をより低減でき、耐久性をより向上できる。
【0046】
そして、付着工程に用いられボールシート17を形成する合成樹脂P1に固体の潤滑部材を含むことにより、ボールシート17の内部(摺動面35)とボール部41との摺動性を向上し、トルク安定性をより向上できる。
【0047】
次に、第2の実施の形態を図3及び図4を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
この第2の実施の形態のボールジョイント11は、上記第1の実施の形態のソケット16に代えて、図4に示すように、有底円筒状のソケット56を有するとともに、このソケット56の内部に、ボールシート17及びクッションシート18に代えて、ボールスタッド19のボール部41を摺動可能に保持したベアリングシートであるボールシート57を備えるものである。
【0049】
ソケット56は、例えば金属製などであり、ボールシート57を収容する内室61を内部に備えているとともに、一端部(図4中、上端部)に、この内室61をソケット56の外部と連通する挿通開口部としてのソケット開口部62を備え、他端部(図4中、下端部)に、内室61を閉塞する底部63を備えている。また、このソケット56の底部63には、図示しない潤滑剤(グリース)を保持する保持凹部64が形成されている。さらに、このソケット56の底部63の外部には、円柱状の接続部65が突設されており、この接続部65の外周には、ボールジョイント11を図示しない被取付部に取り付けるための取付部であるねじ部66が形成されている。したがって、ソケット56の底面67は、被取付部と接触する座面となっている。そして、ソケット56は、一端側(図4中、上端側)の部分が、ボールシート57とともに中心軸方向へとかしめ変形されるかしめ部68となっており、このかしめ部68のかしめ変形により、ソケット開口部62の開口径がボール部41の径寸法よりも小さくなり、ボールシート57及びボールスタッド19をソケット56に固定可能となっている。なお、ソケット56は、例えば(冷間)鍛造、あるいは鋳造などにより形成されている。
【0050】
内室61は、表面に、微細な凹凸部61aが多数形成されている。これら凹凸部61aは、例えば直径が5〜10μm程度の粒子を加速してぶつけるショットブラストなどの工法により形成されたものであり、幅及び頂部すなわちピークの高さがランダム(不規則)にばらついた山部及び谷部が連続的、あるいは不連続的に多数形成されることで線条の皺を形成して内室24aの表面積を拡大している。なお、図中において凹凸部61aは便宜的に誇張して均一に記載している。
【0051】
また、ボールシート57は、上記第1の実施の形態のボールシート17と同様に、ある程度の緩衝性(弾性)を有し、耐摩耗性に優れたもので、例えば弾性率が高い粉体、あるいは流体の合成樹脂P2(図3(c))をソケット56の内室61に付着させて固化することにより内室61の内部に円筒状に形成されている。すなわち、このボールシート57は、ボール部41を摺動(回動)可能に保持する球面状の摺動面71を内部に備えているとともに、一端部(図4中、上端部)に、この摺動面71と連続してソケット56のソケット開口部62と同軸状に連通するシート挿通開口部としての一方のシート開口部である第1シート開口部72を備え、また、他端部(図4中、下端部)に、摺動面71と連続してソケット56の保持凹部64と連通するシート連通開口部としての他方のシート開口部である第2シート開口部73を備えている。そして、このボールシート57は、ソケット56の内室61に保持されている。なお、ボールシート57を形成する合成樹脂P2(図3(c))は、上記第1の実施の形態の合成樹脂P1と同様に固体の潤滑部材を内部に含むことが好ましい。
【0052】
次に、上記第2の実施の形態のボールジョイント11の製造方法を説明する。
【0053】
まず、図3(a)に示すように、ソケット56を、鍛造、あるいは鋳造によって形成する(ソケット形成工程)。
【0054】
次いで、図3(b)に示すように、このソケット56の内室61に、ショットブラストなどによって微細な凹凸部61aを形成する(凹凸形成工程)。なお、この凹凸形成工程は、ソケット56の内室61に以下の合成樹脂P2を充分に密着させることができれば、不要な場合もある。
【0055】
この後、図3(c)に示すように、ソケット56の内室61内に、合成樹脂P2を一定厚みに付着させる(付着工程)。この合成樹脂P2の付着には、例えば塗装(静電塗装、粉体塗装など)、浸漬、あるいは溶射などの各方法を用いることが可能である。
【0056】
さらに、この塗布した合成樹脂P2を固化させることにより、図3(d)に示すようにソケット56の内室61に外部(外面)が密着したボールシート57を形成する(固化工程)。この合成樹脂P2の固化には、例えば加熱、冷却、加圧、あるいは常温放置などの各方法を用いることが可能である。なお、この固化工程の際に、所定の型材などを合成樹脂P2の内面側に圧接させた状態で合成樹脂P2を固化させることにより、ボールシート57の摺動面71に潤滑剤をボール部41の外周面との間に保持するための溝部を形成してもよい。
【0057】
そして、図3(e)に示すように、ボールシート57の摺動面71へとボールスタッド19のボール部41を挿入して組み付けるとともに、ソケット56のかしめ部68を中心軸方向へとかしめ変形(塑性変形)させて縮径することにより、ボールシート57及びボール部41をソケット56の内部に保持した状態とし、図4に示すボールジョイント11を完成する。なお、潤滑剤(グリース)は、この組み付け工程において、挿入するボール部41の表面に予め塗布しておいてもよいし、ボール部41が挿入されるボールシート57の摺動面71に予め塗布しておいてもよい。
【0058】
このように、上記第2の実施の形態では、ソケット56の内室61に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂P2を付着させて固化することによりボールシート57を形成するなど、上記第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。特に、この第2の実施の形態のように、ソケット56を変形させてボールシート57とともにボール部41を抜け止め保持するタイプのボールジョイント11でも、上記第1の実施の形態と同様に対応できる。
【符号の説明】
【0059】
11 ボールジョイント
16,56 ソケット
17,57 ベアリングシートであるボールシート
24a,61a 凹凸部
41 ボール部
P1,P2 合成樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のソケットと、
このソケットの内部に粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させて固化することにより形成された筒状のベアリングシートと、
このベアリングシートの内部に摺動可能に保持されたボール部と
を具備したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
ソケットは、ベアリングシートの外部と接触する内部の少なくとも一部に凹凸部を備えている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
ベアリングシートを構成する合成樹脂は、固体の潤滑部材を含んでいる
ことを特徴とする請求項1または2記載のボールジョイント。
【請求項4】
筒状のソケットと、このソケットの内部に収用された筒状のベアリングシートと、このベアリングシートの内部に摺動可能に保持されたボール部とを具備したボールジョイントの製造方法であって、
ソケットの内部に、粉体と流体とのいずれかの合成樹脂を付着させる付着工程と、
この付着させた合成樹脂を固化させて前記ベアリングシートを形成する固化工程と、
このベアリングシートの内部に前記ボール部を摺動可能に組み付ける組み付け工程と
を具備したことを特徴とするボールジョイントの製造方法。
【請求項5】
付着工程の前に、ソケットのベアリングシートと接触する内部の少なくとも一部に凹凸部を形成する凹凸部形成工程を備えている
ことを特徴とする請求項4記載のボールジョイントの製造方法。
【請求項6】
付着工程に用いる合成樹脂に、固体の潤滑部材を含む
ことを特徴とする請求項4または5記載のボールジョイントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−163460(P2011−163460A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27542(P2010−27542)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】