説明

ボールスプライン付きボールねじ

【課題】 軸を異径とすることなく、しかも、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供する。
【解決手段】 ねじ軸2は、断面形状が丸型とされている。保持器15の各ポケット17に、ねじ軸2の円筒面よりも径方向内方に位置する補強部20が形成されるとともに、ねじ軸2に、該補強部20との干渉を防止するための干渉防止みぞ21が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプライン付きボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプライン付きボールねじとして、ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように設けられたねじ軸と、ねじ軸のねじみぞにボールを介してねじ合わされたボールねじナットと、ねじ軸のスプラインみぞにボールを介して嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えているものが知られており、(特許文献1参照)、このようなボールスプライン付きボールねじは、電動アクチュエータ用や緩衝器用としてよく使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−300106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されているようなボールスプライン付きボールねじにおけるボールスプラインでは、ねじ軸の外周にスプラインみぞを形成するに際し、対となるスプラインみぞで挟まれた肩部の外径を大きくしたもの(すなわち、基準となる軸の円筒面に加えて、肩部の外径をつないだ大径の円筒面が存在する異径ねじ軸)が考えられている。しかしながら、このような異径のねじ軸を得るには、肩部以外が小径となるように、機械加工で削る必要があり、取り代が大となるために長時間の加工が必要となり、加工コストが増加するという問題がある。
【0005】
一方、ねじ軸を断面形状が丸型のものにすると、これに伴って、保持器の内径も丸型となるが、スプラインみぞとねじみぞとが交差している部分がねじ軸に存在し、スプラインみぞに比べてねじみぞの方が深く形成されていることから、保持器のポケットの剛性が不足していると、スプラインみぞに沿って移動中のスプライン用ボールが交差部においてねじみぞに落ち込む可能性がある。スプライン用ボールがねじみぞに落ち込むと、ボールスプラインがロックして動作しなくなるという問題があり、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性の解消が望まれている。
【0006】
この発明の目的は、軸を異径とすることなく、しかも、スプライン用ボールのねじみぞへの落ち込みの解消が図られたボールスプライン付きボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように設けられたねじ軸と、ねじ軸のねじみぞにボールを介してねじ合わされたボールねじナットと、ねじ軸のスプラインみぞにボールを介して嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、ねじ軸のスプラインみぞに対応するスプラインみぞが形成された外筒本体と、スプライン用ボールを所定位置に保持するポケットを有しスプライン外筒本体内に嵌め入れられた保持器とからなるボールスプライン付きボールねじにおいて、ねじ軸は、断面形状が丸型とされており、保持器の各ポケットに、ねじ軸の円筒面よりも径方向内方に位置する補強部が形成されるとともに、ねじ軸に、該補強部との干渉を防止するための干渉防止みぞが形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
ねじ軸の断面形状が丸型とは、ねじ軸が2つの円筒面(ねじみぞが形成される基準となる円筒面と、スプラインみぞが形成される肩部が基準円筒面よりも突出させられることで必要となる大径の円筒面との2つ)を有するものに対して、ねじみぞが形成される基準となる円筒面だけを有するものを意味し、この基準円筒面に、スプラインみぞが形成され、また、補強部との干渉を防止するための干渉防止みぞもこの基準面に形成される。
【0009】
スプライン外筒の保持器の各ポケットは、その径方向外方側の開口が径方向内方側の開口よりも大きいテーパ状とされ、その径方向中間部分がスプライン用ボールの径と等しくされることで、スプライン用ボールを所定位置に保持してそれ以上径方向内方に移動することを防止する。保持器は樹脂製とされ、若干変形可能であり、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合には、スプライン用ボールは、保持器ポケット面から受ける摩擦力に抗して、径方向内方への移動が可能となっている。通常、スプライン用ボールがねじ軸のスプラインみぞとスプライン外筒本体のスプラインみぞとによって保持されていることで、スプライン用ボールの径方向内方への移動は阻止されているが、ねじみぞがスプラインみぞよりも深く形成されているため、これらの交差部においては、径方向内向きの力によって、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性がある。スプライン用ボールがねじみぞに落ち込むと、スプライン用ボールのスプラインみぞに沿う移動が止まり、ボールスプラインがロックして動作しないことになる。この発明によるボールスプライン付きボールねじでは、保持器の各ポケットにねじ軸の円筒面よりも径方向内方に位置する補強部が形成されていることで、ポケットの径方向内方側開口における剛性が上がり、スプライン用ボールがねじみぞに落ち込む可能性が解消されている。
【0010】
補強部は、ボール両側にあるポケット面のいずれか一方に設けられてもよく、両方に設けられてもよい。ねじ軸の外周には、ねじ軸の時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとねじ軸の反時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとが複数対形成され、スプライン外筒本体の内周には、これらの各スプラインみぞに対向するように、時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞと反時計方向の回転を受けるためのスプラインみぞとが形成される。これにより、ボール両側にあるポケット面のうち、一方がトルクを受ける側、他方はトルクを受けない側となるが、上記補強部は、トルクを受ける側のポケット面だけに設けられることがより好ましい。
【0011】
ねじみぞの数は、1条でもよく、2条でもよく、それより多くてもよい。
【0012】
ねじ軸、ボールねじナットおよびボールスプライン外筒本体は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【0013】
この発明によるボールスプライン付きボールねじは、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0014】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のボールスプライン付きボールねじによると、ねじ軸は、断面形状が丸型とされているので、ねじ軸の加工が容易であり、また、保持器の各ポケットに、ねじ軸の円筒面よりも径方向内方に位置する補強部が形成されているとともに、ねじ軸に、該補強部との干渉を防止するための干渉防止みぞが形成されているので、保持器のポケットの開口部が補強されることで、スプライン用ボールがこの開口を越えて径方向内方に移動することが抑制され、スプライン用ボールが交差部においてねじみぞに脱落することが防止される。補強部との干渉を防止するための干渉防止みぞの加工は容易であり、これにより、ねじ軸の加工が容易である特徴を維持して、スプライン用ボールに径方向内向きの大きな力が作用した場合におけるボールスプラインのロックを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明によるボールスプライン付きボールねじを示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールスプライン付きボールねじのボールスプライン部分の正面図である。
【図3】図3は、図2の拡大図である。
【図4】図4は、従来のボールスプライン付きボールねじのボールスプライン部分を示す図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。また、時計方向および反時計方向は、図2についていうものとする。
【0018】
図1から図3までは、この発明によるボールスプライン付きボールねじの1実施形態を示している。
【0019】
ボールスプライン付きボールねじ(1)は、2条のねじみぞ(2a)および上下方向にのびる複数のスプラインみぞ(2b)(2c)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のねじみぞ(2a)にボールを介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプラインみぞ(2b)(2c)にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内するボールスプライン外筒(4)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる中空軸(5)と、軸受(7)を介して中空軸(5)を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒(4)を支持するハウジング(6)と、中空軸(5)に固定された円筒状のモータロータ(9)およびハウジング(6)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなるモータ(8)とを備えている。
【0020】
モータ(8)は、永久磁石型三相同期モータとされており、モータロータ(9)が永久磁石とされて、モータステータ(10)にU相、V相およびW相の三相のコイル(10a)が巻かれている。
【0021】
ねじ軸(2)と中空軸(5)とは、同心状に配置されており、ボールスプライン付きボールねじ(1)は、ボールねじナット(3)、中空軸(5)およびモータロータ(9)を回転させて、ねじ軸(2)を直線移動させる形態で使用される。
【0022】
中空軸(5)は、ねじ軸(2)を案内する小径部(11)と、内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(7)を保持する大径部(12)とからなる。
【0023】
ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の回転を防止してその上下移動を案内するために、回り止め部(例えばキー)(13)によってハウジング(6)に対して回り止めされる。
【0024】
図2に示すように、ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)のスプラインみぞ(2b)(2c)に対応する複数の直線状スプラインみぞが形成された略円筒状の金属製外筒本体(14)と、外筒本体(14)の内周に固定された略円筒状の保持器(15)とを備えている。ねじ軸(2)は、断面形状が丸型の中空軸とされている。
【0025】
保持器(15)には、ねじ軸(2)のスプラインみぞ(2b)(2c)とボールスプライン外筒本体(14)のスプラインみぞとの間を転動するスプライン用ボール(16)を保持するためのポケット(17)が形成されている。ポケット(17)を介して対向するねじ軸(2)のスプラインみぞ(2b)(2c)とボールスプライン外筒本体(14)のスプラインみぞとの間の空間が、スプライン用ボール(16)が転動する主通路(18)となっている。保持器(15)には、主通路(18)の左右両端部と連通する戻し通路(19)がさらに形成されている。
【0026】
保持器(15)の各ポケット(17)は、その径方向外方側の開口が径方向内方側の開口よりも大きいテーパ状とされており、その径方向中間部分がスプライン用ボール(16)の径と等しくされていることで、スプライン用ボール(16)が主通路(18)を転動可能な位置に保持され、それ以上の径方向内方への移動が防止されている。
【0027】
保持器(15)の各ポケット(17)に、ねじ軸(2)の円筒面(2d)よりも径方向内方に位置する補強部(20)が形成されるとともに、ねじ軸(2)に、該補強部(20)との干渉を防止するための干渉防止みぞ(21)が形成されている。
【0028】
スプライン用ボール(16)は、主通路(18)および戻し通路(19)内に配設され、主通路(18)を転動するスプライン用ボール(16)がねじ軸(2)とボールスプライン外筒(4)の相対直線運動を案内するようになっている。主通路(18)および戻し通路(19)により、スプライン用ボール循環路が構成されている。スプライン用ボール循環路は、全部で6つ設けられており、1対の主通路(18)同士が互いに接近して設けられ、1対の主通路(18)のうち反時計方向側にあるものについてはその反時計方向側に戻し通路(19)が設けられ、時計方向側にあるものについてはその時計方向側に戻し通路(19)が設けられることで、1対のスプライン用ボール循環路が形成され、これが周方向に等間隔で計3対配置されている。
【0029】
上記の状態で、ボールねじナット(3)を回転させることにより、ねじ軸(2)がボールスプライン外筒(4)を案内にして、回転はせずに、軸方向に直線移動する。このとき、ボールねじナット(3)の部分では、ねじ用ボールがねじ用ボール循環路を循環させられる。また、ボールスプライン外筒(4)の部分では、スプライン用ボール(16)がスプライン用ボール循環路を循環させられる。
【0030】
このボールスプライン付きボールねじ(1)は、ボールスプライン外筒(4)を軸方向の一定位置に回転も移動もしないように固定し、ボールねじナット(3)を軸方向の一定位置において回転はするが移動はしないように支持した状態で使用される。ここで、スプライン用ボール(16)とねじ用ボールとは同じ大きさとされているが、ねじ軸(2)の回転を防止するボールスプラインにおけるスプライン用ボール(16)が転動する主通路(18)は、ねじ用ボールが転動する主通路に比べると、ボール(16)と主通路(18)との隙間が小さいものとされており、したがって、ねじ軸(2)においては、スプラインみぞ(2b)(2c)に比べてねじみぞ(2a)の方が深く形成されている。このため、ねじみぞ(2a)とスプラインみぞ(2b)(2c)との交差部では、スプライン用ボール(16)が保持器(15)のポケット面から受ける摩擦力に抗して、径方向内方へ移動することで、スプラインみぞ(2b)(2c)に沿って移動中のスプライン用ボール(16)がねじみぞ(2a)に落ち込む可能性がある。スプライン用ボール(16)がねじみぞ(2a)に落ち込むと、スプライン用ボール(16)のスプラインみぞ(2b)(2c)に沿う移動が止まり、ボールスプラインがロックして動作しなくなる。
【0031】
従来のものでは、図4に示すように、同じねじ軸(2)に対して、保持器(35)の内周面(35a)には、このねじ軸(2)の円筒面(2d)よりも径方向内方に位置する部分は存在していない。この場合でも、スプライン用ボール(16)のねじみぞ(2a)への落ち込みは、ボールスプライン外筒(4)の保持器(15)によって防止されるが、スプライン用ボール(16)に径方向内向きの大きな力が作用した場合に、スプライン用ボール(16)が径方向内方へ移動しやすいものとなっている。
【0032】
これに対し、この発明によるボールスプライン付きボールねじ(1)では、スプライン用ボール(16)に径方向内向きの大きな力が作用した場合であっても、図3に拡大して示すように、保持器(15)の各ポケット(17)に補強部(20)が設けられていることで、ポケット(17)の開口部が補強されており、スプライン用ボール(16)が径方向内方へ移動しにくいものとなっている。
【0033】
なお、図3に示されているスプラインみぞ(2b)は、ねじ軸(2)の時計方向の回転を受けるためのものであり、補強部(20)は、ねじ軸(2)が時計方向に回転しようとした際に、このトルクを受ける側のポケット面(時計方向側ポケット面)(17a)に形成されている。そして、拡大図は省略するが、ねじ軸(2)の反時計方向の回転を受けるスプラインみぞ(2c)では、補強部(20)は、ねじ軸(2)が反時計方向に回転しようとした際に、このトルクを受ける側のポケット面(反時計方向側ポケット面)に形成されている。
【符号の説明】
【0034】
(1) ボールスプライン付きボールねじ
(2) ねじ軸
(2a) ねじみぞ
(2b)(2c) スプラインみぞ
(3) ボールねじナット
(4) ボールスプライン外筒
(14) 外筒本体
(15) 保持器
(16) スプライン用ボール
(17) ポケット
(20) 補強部
(21) 干渉防止みぞ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじみぞおよびスプラインみぞが互いに交差するように設けられたねじ軸と、ねじ軸のねじみぞにボールを介してねじ合わされたボールねじナットと、ねじ軸のスプラインみぞにボールを介して嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、ねじ軸のスプラインみぞに対応するスプラインみぞが形成された外筒本体と、スプライン用ボールを所定位置に保持するポケットを有しスプライン外筒本体内に嵌め入れられた保持器とからなるボールスプライン付きボールねじにおいて、
ねじ軸は、断面形状が丸型とされており、保持器の各ポケットに、ねじ軸の円筒面よりも径方向内方に位置する補強部が形成されるとともに、ねじ軸に、該補強部との干渉を防止するための干渉防止みぞが形成されていることを特徴とするボールスプライン付きボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122642(P2011−122642A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280061(P2009−280061)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】