説明

ポジティブおよび/またはネガティブCプレートのための薄膜設計

【課題】ポジティブおよび/またはネガティブCプレートのための薄膜設計を提供する。
【解決手段】例えば高屈折率材料および低屈折率材料の交互になった層を有する薄膜コーティングが、入射光に応じてポジティブCプレートおよびネガティブCプレートの両方として機能することが示される。特に、リターダンス対入射角特性の形状が、少なくとも部分的には、薄膜コーティングの位相厚(すなわち、度、ラジアンで、または1/4波長の数として表され得る入射光の波長の観点での光学的厚さ)によって決定されることが認められる。これらの薄膜コーティングは場合によっては、効率および/または機能性を向上させるために反射防止コーティング、薄膜干渉フィルタおよび/または他の部品に組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年6月2日出願の米国仮特許出願第60/803735号、および2006年8月23日出願の米国仮特許出願第60/823326号からの優先権を主張するものであり、いずれも参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は一般に薄膜に関し、特には、ポジティブおよび/またはネガティブCプレート部品を提供するために設計された薄膜コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
反射防止(anti−reflection)コーティングおよび干渉フィルタにおける薄膜の使用はよく知られている。反射防止コーティングに関し、1つまたは複数の薄膜層の厚さおよび屈折率は、基板から反射される光を低減するように選択される。干渉フィルタに関し、層の厚さ、屈折率、および/または数は、所望のフィルタ特性を提供するように選択される。
【0004】
更に最近では、薄膜を用いて光学部品において複屈折を提供することに関心が高まっている。複屈折性は、異なる多様な屈折率によって特徴付けられ、直交線形偏光を有する光(例えば、sおよびp偏光された光)を、ある媒体を異なる速度で伝搬させる。速度が変わる結果、2つの直交偏光の間には位相差が生じる。この位相差は一般にリターダンスと呼ばれ、1つの波の部分として度またはナノメートルのいずれかで表すことができる。一般に、リターダンスの大きさは複屈折要素の用途を決定する。例えば、約1/2波のリターダンスを提供する光学部品(すなわち、半波長板)は、線形偏光された光の偏光状態を変えるのに典型的に用いられる。約1/4波のリターダンスを提供する光学部品(すなわち、1/4波長板)は、線形的に偏光された光を円形的に偏光された光に転換するのに、線形的に偏光された光の偏光状態を変えるための反射に、および/または光学ディスク・ピックアップなどの他の種々の用途に共通して用いられる。より低い大きさ(例えば、1/10以下の波)のリターダンスを提供する光学部品は、(例えば、LCD投影系における)偏光応答光学系の不完全さを補償するのに典型的に用いられる。
【0005】
一般に、複屈折光学部品は、Aプレート、Cプレート、またはOプレートの対称性を有するものとして特徴付けられ得る。Aプレートは、その異常軸が該プレートの平面に対して平行に配向された一軸複屈折光学要素である。Cプレートは、その異常軸が該プレートの平面に対して直交(すなわち、法線入射光の方向に対して平行である)するように配向された一軸複屈折光学要素である。Oプレートは、その異常軸(すなわち、その光学軸またはc軸)が該プレートの平面に対して斜角に配向された、一軸複屈折光学要素である。Cプレートは、法線入射光に対するどのような正味のリターデーションも生じさせないことは明白である(すなわち、法線入射光はこの複屈折性の影響を受けない)。対照的に軸から外れて(すなわち、異常軸に対してある角度で)入射する光線は、入射角に比例した正味のリターデーションを経験する。Cプレートは、リターダンスが入射角に伴って増大する場合には正であるとみなされ、リターダンスが入射角に伴って低減する場合には負であるとみなされる。この文脈において言及される場合、リターダンスはリターデーションと互換的に用いられ、2つの直交する線形偏光部品間の符号の付いた位相差を含む。ポジティブCプレートは正の複屈折を必要とし、同様に、ネガティブCプレートは負の複屈折を必要とする。
【0006】
Aプレートとして機能する複屈折光学部品は面内リターダンスを提供/補償するのに用いられることが多いが、Cプレートとして機能する部品は、面外リターダンスを提供/補償するのに用いられることが多い。位相差ではなく光路長差として表される面内リターダンスとは、光学要素の物理的厚さを掛け合わせた、2つの直交する面内屈折率の差を指す。光路長差としても表される面外リターダンスとは、光学要素の物理的厚さを掛け合わせた、光学要素の厚さ方向(z方向)に沿った屈折率と1つの面内屈折率(または面内屈折率の平均)との差を指す。
【0007】
光学部品における複屈折は従来、分子複屈折結晶によって、等方性がなくなるまで等方性材料を延伸または曲げることによって、および/または電界を印加して異方性を引き起こすことによって提供されてきた。上記のように、薄膜を用いて光学部品に複屈折を提供することにも関心が高まっている。薄膜の使用は、それが経済的代替を提供し、有機および/またはポリマー材料に関連する信頼性の問題を回避し、且つ、特定用途のために調整するのに設計のさらなる柔軟性が提供されるので有利である。例えば、複屈折結晶はそれらの有機および/またはポリマー同等物と比較して高い耐久性および/または安定性がある一方で、大きな結晶プレートを成長および研磨するコストは相当なものになり得る。また、約100μm未満の物理的厚さを有する複屈折結晶を製造することは難しいため、これらの本質的に複屈折要素は典型的には、補償用途には一般に適していない。例えば、少なくとも100μm厚さおよび0.009の複屈折を有する単結晶プレートのCプレート・リターダンス値は、可視領域においては最小900nmに制限されてしまう。
【特許文献1】米国特許第7170574号
【特許文献2】米国特許出願第20070070276号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄膜を用いて複屈折を提供する上手く行った試みが、米国特許第7170574号および米国特許出願第20070070276号に報告されており、共に参照により本願に援用する。これらの参照物においては、薄膜コーティングを用いて、LCDパネルの固有の複屈折を補償するトリム・リターダが製造される。更に具体的には、薄膜コーティングを用いて、個々の層の光学的厚さが入射光の波長よりも非常に小さい形態複屈折薄膜積層体が創生される。形態複屈折(FB)積層体は高い耐久性がありCプレートとして働き、ARコーティング設計(FBAR)に組み入れて全機能A/Cプレート・トリム・リターダを提供することができるので便宜的である。残念なことに、層厚が制限されるので、該FBARはネガティブCプレートとしてしか働くことができない。
【0009】
本発明は、入射光の波長よりも非常に小さい層厚に制限されず、耐久性があり、且つポジティブおよび/またはネガティブCプレートとして働く薄膜設計に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、多層積層体を備える薄膜コーティングが提供され、該多層積層体は対照的な(contrasting)屈折率を有する少なくとも2つの等方性材料の交互になった層を含む基本周期を有し、該基本周期はλにおいてπの等価位相厚を有し、該基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率は、該多層積層体が所定波長でCプレートとして機能するように、且つ該所定波長における基本周期の等価位相厚がπを超えるように選択される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、対照的な屈折率を有する少なくとも2つの等方性材料の交互になった層を含む基本周期を有する多層積層体を含んだ薄膜コーティングを、基板の上に被着させるステップを含む方法が提供され、該基本周期はλにおいてπの等価位相厚を有し、該基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率は、多層積層体が所定波長でCプレートとして機能するように、且つ該所定波長における基本周期の等価位相厚がπを超えるように選択される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、ポジティブCプレート機能性を有する多層誘電体薄膜積層体を含む薄膜コーティングが提供され、該多層誘電体薄膜積層体は、異なる屈折率を有する複数の交互になった薄膜層を含み、該多層薄膜積層体中の各薄膜層の物理的厚さおよび屈折率は所定波長の入射の所定の法線外角度にて所定のリターダンスを提供するように選択される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、透明基板上に支持され、且つ1つまたは複数の薄膜コーティングに結合された面内リターダンスを有する複屈折要素を備える、光学リターダが提供され、該1つまたは複数の薄膜コーティングは、対照的な屈折率を有する少なくとも2つの等方性材料の交互になった層を含む基本周期を有する多層積層体を含み、該基本周期はλにおいてπの等価位相厚を有し、該基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率は、多層積層体が所定波長でCプレートとして機能するように、且つ該所定波長における基本周期の等価位相厚がπを超えるように選択される。
【0014】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付図面と共に以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
添付図面を通して、類似する特徴は類似する参照番号によって識別されることに留意されたい。
【0016】
上記のように、薄膜は反射防止コーティングおよび/または干渉フィルタ(例えば、薄膜干渉フィルタ)に用いられることが多い。各場合において、薄膜コーティングは典型的には、層の光学的厚さ(n×d)が入射光の波長の1/4に等しくなるように選択された屈折率nおよび物理的厚さdを有する少なくとも1つの層を含む。これらの1/4波長(QW)層は、所望の光学的効果を得るために干渉の原理を使用する。
【0017】
例えば、従来技術の図1を参照すると、屈折率nを有する薄膜層10が、屈折率nを有する基板20の上に示されている。nがn未満で、且つ、nおよび薄膜層dの厚さが入射光λの1/4波に等しい光学的厚さを提供するように選択されている場合、空気/薄膜界面および薄膜/基板界面から反射される光は、正確に180°の位相外れになる。この180°の位相差の結果、弱め合い干渉が生じ、λにおける反射光の量が著しく低減される。
【0018】
したがって、最も単純な反射防止コーティングは、基板の上に直接被着された透明な誘電体材料の単一の1/4波長層から構成される。更に具体的には、この透明な誘電体材料の層は、該層が該基板の屈折率未満の屈折率を有するように、且つ、該層が、光学的厚さを、反射率を低減させるスペクトル領域の中心波長の約1/4にする物理的厚さを有するように選択される。
【0019】
更に複雑な反射防止コーティングは、透明な誘電体材料の2つ以上の層を基板上に被着させることによって作られる。例えば、反射防止コーティングの1つのタイプによれば、基板の屈折率よりも高い屈折率を有する第1の層がその光学的厚さが中心波長の約1/4になるように基板上に被着され、他方、基板の屈折率より低い屈折率を有する第2の層が、その光学的厚さも中心波長の約1/4になるように、第1の層上に被着される。このタイプの反射防止コーティングは、それが一般に中心波長においてゼロ反射率を達成し、中心波長のいずれかの側では反射率が急に増大するので、Vコート設計と呼ばれることが多い。
【0020】
広帯域用途に更に適した多層反射防止コーティングは、高屈折率材料および低屈折率材料が交互に共に積層された少なくとも3つの誘電層を有する。例えば、特に一般的な1つの広帯域用反射防止コーティングは、高屈折率を有し、且つ基板上に被着された中心波長の約1/8の光学的厚さを有する材料から形成された第1の層と、低屈折率を有し、且つ第1の層上に被着された中心波長の約1/8の光学的厚さを有する材料から形成された第2の層と、高屈折率を有し、且つ第2の層上に被着された中心波長の1/2の光学的厚さを有する材料から形成された第3の層と、低屈折率を有し、且つ第3の層上に被着された中心波長の1/4の光学的厚さを有する材料から形成された第4の層とを含む。第1および第2の層の光学的厚さは、組み合わされた光学的厚さが、反射率を低減させるスペクトル領域の中心波長の約1/4になるように選択される。
【0021】
干渉フィルタは一般に、帯域通過フィルタ、短波長通過フィルタ(SWP)、長波長通過フィルタ(LWP)、またはノッチ・フィルタに分類される。放射光を所与の波長帯で通過させ、その他のすべての波長を反射するように設計された最も単純な帯域通過フィルタは、スペーサ(すなわち、エタロンに類似する)によって分離された2つの部分反射器またはセミ・ミラーから簡単に構成される。全誘電体フィルタにおいては、部分反射器は誘電体材料の1つまたは複数の1/4波長層を用いて作られ、スペーサは透明な誘電体材料の半波長層または多数の半波長層である。例えば、一実施形態によれば、各部分反射器は、高屈折率の材料および低屈折率の材料が交互になり、各層が1/4波長に等しい光学的厚さを有する層を用いて形成される。これらの単純な全誘電体構造体をカスケードにし、通過帯域の遷移が急勾配の多孔干渉フィルタを形成することができるので便利である。各干渉フィルタの帯域幅は、構造体における1/4波長の積層体の反射率の関数であり、他方、半波長のスペーサは通過帯域の中心波長を決定する。
【0022】
本発明は、例えば高屈折率の材料および低屈折率の材料の交互の層を有する薄膜コーティングがポジティブおよびネガティブ両方の面外複屈折を示すこともできること、この複屈折は有用であること、および薄膜を反射防止コーティング、薄膜干渉エッジ・フィルタおよび/または他の部品に組み込んで効率および/または機能性を向上させることができることを認識する。また、本発明は、面外複屈折の符号および大きさは薄膜コーティングの位相厚(すなわち、入射光の波長の点での光学的厚さであり、例えば、度、ラジアンとして、または1/4波長の数として表すことができる)によって決定されることを認識する。
【0023】
例示のために、図2に示した対称的な薄膜積層体を考察する。該対称的な積層体は、形態(aba)である(式中、(aba)は基本周期であり、材料aは屈折率nを有し、材料bは屈折率nを有し、Qは積層体(1つを示す)における周期の数である)。一般に、屈折率nは、屈折率nに対して低いかまたは高いとみなされる(すなわち、屈折率に差異がある)。該対称積層体は、波長λに中心がある(すなわち、物理的厚さdおよびdは、それらの光学的厚さが、法線入射の1/4波長積層体に対してλにおいて定義されるように選択される(例えば、nd=λ/4))。
【0024】
数学的には、上記の対称的な積層体は、単一の等価層によって表され得る(例えば、該対称的な積層体はHerpinの等価積層体とみなされ得る)。この単一層の等価屈折率Nおよび等価位相厚γは、以下の式を用いて算出される。
【0025】
【数1】

【0026】
【数2】

式中、法線入射の個々の層の位相厚は、φ=2πn/λおよびφ=2πn/λ、dおよびdは基本周期における層aおよびbの物理的厚さ、λは、等価屈折率および等価位相厚が算出されるときの波長である。該等価屈折率Nは周期の数とは独立したものであり、等価位相厚γは基本周期の位相厚を周期Qの数で掛け合わせたものであることに留意されたい。
【0027】
上式は法線入射光についてのものである。非法線入射では、該薄膜は複屈折である。P偏光は異常波(extraordinary wave)になり、S偏光は正常波(ordinary wave)のままである。また、軸外入射光に関しては、屈折率nおよびnは、それぞれp平面(例えば、neffpa=n/cosθ)およびs平面(例えば、neffsa=ncosθ)に対する実効屈折率と置き換えられる。同様に、各層φおよびφに対する位相厚は、それに対応する非法線入射位相厚の式(例えば、φ=2πncosθ/λおよびφ=2πncosθ/λ、θおよびθはスネルの法則から算出され(すなわち、sinθ=nsinθ)、θは空気中の入射の角度である)と置き換えられる。また、1/4波長光学的厚さは、角度:ndcosθ=λ/4において定義される。したがって、式(1)は:
【0028】
【数3】

になり、式(2)は:
【0029】
【数4】

になる。
【0030】
該コーティングのp平面に対する透過位相δtpは、
【0031】
【数5】

である。式中、rp12は次式
【0032】
【数6】

によって得られ、rp23は、
【0033】
【数7】

によって得られる。式中、nは基板の屈折率であり、θは基板における光線角度である。
【0034】
s平面に対する透過位相δtsは、式(5)に類似する式を有するが、この場合ではrs12は、
【0035】
【数8】

であり、rs23は、
【0036】
【数9】

である。
【0037】
次いで、異常波対正常波の位相差として定義される、角度の透過された正味のリターダンスΓ(ナノメートル)は、
【0038】
【数10】

として表される。
【0039】
図3は、図2に示したものに類似する対称的な積層体のsおよびp平面(例えば、γ−γ)についての等価位相厚の理論上の差を示すプロットである。本明細書では1000(0.5L H 0.5L)と呼ばれるこの対称的な積層体においては、材料aは、法線入射における1000nmにおいて1/4波長の0.5に等しい光学的厚さ(すなわち、ある波長の1/8;nd=1000/8)を有する低屈折率材料Lであり、材料bは、法線入射における1000nmにおいて1/4波長に相当する光学的厚さを有する高屈折率材料Hである。層の厚さは1000nmにおいて定義されるので、積層体は1000nmに中心があると考えられる。対称積層体は、空気中で入射し、屈折率1.52の基板の上に設けられていると仮定する(層は法線入射において適合されている)。LおよびH材料は、非分散性であり、それぞれ1.46および2.2の屈折率を有するものと仮定する。等価位相厚差は15°の入射角について算出される。実線の曲線は該積層体の1周期に関するものであり、点線の曲線は5周期に関するものである。この対称積層体のストップバンドは、基本周期の等価位相厚が180°および540°(すなわちπおよび3π)である領域になる。ある角度においては、これらの薄膜コーティングの各々は、入射光の波長に応じて、ポジティブCプレートおよび/またはネガティブCプレートとして機能すると想定されることは明らかである。等価位相厚差が正である領域は、ポジティブCプレート領域と記され、等価位相厚差が負の領域はネガティブCプレート領域と記される。これらの領域の場所は、積層体の周期の数に関しては変わらないが、リターダンスの大きさは変わる。この大きさは、周期の数に伴って線形的に上昇する。
【0040】
図4においては、マトリクス・ベースの薄膜計算アルゴリズムを用いて算出される1000(0.5L H 0.5L)積層体の理論上の透過リターダンスを、図3に示した15°における等価位相厚における差に関して示した。ポジティブおよびネガティブ・リターダンス領域は、等価積層体の位相厚差から決定されたポジティブおよびネガティブCプレート領域と合致する。この透過リターダンスは、15°における光線入射に関して、850nmにおける約10nmから1225nmにおけるほぼ−20nmまで変化すると予想されることは明白である。
【0041】
ポジティブCプレートの機能性は、この実施形態においては高屈折率および低屈折率が交互になった薄膜層の積層体を含む薄膜構造体によってのみ提供されることが有利である。したがって、本発明の薄膜コーティングは、空隙が無く且つ空隙に関連する問題(例えば、層間剥離、カラムの崩壊および/または空隙に水が入ること)の無い緻密なマイクロ層に被着された、従来の等方性材料(例えば、無機誘電体)から製造され得る。例えば、等方性材料が実質的にすべて無機である場合、得られる薄膜はポジティブCプレート部品を有し、高い耐久性がある(例えば、長期の時間間隔および機械的取扱いに対して、高い光束および高温に耐える)。
【0042】
図5においては、15°の入射における1000(0.5L H 0.5L)の積層体の理論上の透過リターダンスが、非対称積層体1000(1.16H 0.8L)および中間屈折率の材料Mの非分散率が1.8である3つの材料の積層体1000(0.4L 0.4M 0.4H 0.4M 0.4L)と比較されている。これら3つの積層体に関し、法線入射における基本周期の位相厚は、それぞれ近似的に同じ波長979nm、968nmおよび983nmにおいてπに等しい。
【0043】
有利には、図5は、基本周期(すなわち、繰り返し単位)が2つの層のみを含むとき、基本周期が非対称的であるとき、および/または基本周期が3つ以上の材料(すなわち、様々な周期で層化された媒体について)を含むときに、ポジティブCプレート設計が達成されることを示している。ポジティブおよびネガティブ・リターダンス領域は、図5に示された各設計について類似していることは明白である。
【0044】
更に有利には、図5は、本発明の薄膜コーティングが、一緒に積層された対照的な屈折率の交互になった薄膜層が比較的少数でも(例えば、15〜25層)、有意な面外複屈折を呈することを示している。これは、動作波長の一部において厚さを有する交互になった高/低屈折率の薄膜層を多数(例えば、50を超え最大で約2000層まで)必要とする、従来技術のFBARコーティングとは正反対である。より少ない数でより厚い層を有する薄膜コーティングは、数が多くより薄い層を有する薄膜コーティングよりも製造が簡単であることは明白である。
【0045】
図3を再び参照し、基本周期の等価位相厚が1000nm付近でπに等しくなるように設計されていたことを思い起こすと、等価位相厚の観点で透過リターダンスを考察することもできる。例えば、領域1においては、基本周期の等価位相厚はπ未満であり、領域2においては、基本周期の等価位相厚はπより大きいが2π未満であり、領域3においては、基本周期の等価位相厚は2πより大きいが3π未満であり、示していない(短波長の方への)他の領域についても同様である。
【0046】
図6A、6B、6Cおよび6Dは、上記1000(0.5L H 0.5L)設計に関する種々の入射波長(例えば、それぞれ1500nm、650nm、450nm、および310nm)についての理論上のリターダンス対入射角を示している。これらの波長の各々は、図3の異なる位相厚および異なる領域に相当することは明白である。例えば、1500nmは領域1(−Cプレートおよびπ未満の等価位相厚に相当)内にあり、650nmは領域2(+Cプレートおよびπより大きいが2π未満の等価位相厚に相当)内にあり、450nmは領域3(−Cプレートおよび2πより大きいが3π未満の等価位相厚に相当)内にあり、310nmは符号の付いていない領域にあり、+Cプレートおよび3πより大きいが4π未満の等価位相厚に相当するように思われる。
【0047】
図6Aを参照すると、リターダンスは入射角が法線入射から離れる方に動くにつれて減少し、この領域(すなわち、基本周期の等価位相厚がπ未満である領域1)においては、薄膜積層体はネガティブCプレートとして働くことが確認される。実際、この領域においては、該設計の例(例えば、d=86nmおよびd=114nm)の物理的層厚は、入射光の波長未満である。光の波長よりも非常に小さい厚さを有する層に関して、該積層体は、ゼロ次有効媒質理論(EMT)によって説明され得る形態複屈折積層体である。このタイプの構造を用いたネガティブCプレート・コーティングの設計は、米国特許第7170574号およびK.D.Hendrix、K.L.Tan、M.Duelli、D.M.Shemo、およびM.Tilschの「Birefringent films for contrast enhancement of LCoS projection systems」、J.Vac.Sci.Technol.A24(4)、1546〜1551頁、2006年で考察されており、いずれも参照により本明細書に援用する。
【0048】
図6Bを参照すると、リターダンスは入射角が法線入射から離れるにつれて増大すること、および該積層体がこの領域(すなわち、基本周期の等価位相厚が2π未満であるがπより大きい領域2)においてはポジティブCプレートとして働くことが明白である。
【0049】
図6Cを参照すると、リターダンスは入射角が法線入射から離れるにつれて減少すること、および該積層体がこの領域(すなわち、基本周期の等価位相厚が3π未満であるが2πより大きい領域3)においてはネガティブCプレートとして働くことが明白である。
【0050】
図6Dを参照すると、リターダンスは入射角が法線入射から離れるにつれて増大すること、および該積層体がこの領域(すなわち、基本周期の等価位相厚が4π未満であるが3πより大きい)においてはポジティブCプレートとして働くことが明白である。
【0051】
要約すると、基本周期の位相厚γp,sは、薄膜積層体が以下の式に従ってポジティブCプレートまたはネガティブCプレートとして働くかどうかを決定する。
(m−1)π<γp,s<mπ (11)
特に、該薄膜積層体は、mが偶数である領域においてはポジティブCプレートとして働き、mが奇数である領域においてはネガティブCプレートとして働く。
【0052】
上記のHerpin等価位相分析を通して、2つの直交偏光(例えば、異常波および正常波、また、P偏光およびS偏光)の透過および反射位相差から算出された(入射の斜角における)正味のリターダンスについて言及している。薄膜設計および材料系の選択にある程度の柔軟性を持たせるために、多層薄膜積層体の軸外リターデーション効果を、それに対応する単層複屈折性媒体の軸外リターデーション効果と比較する。等価複屈折単一層は、実際の薄膜設計と同一の軸外リターデーション特性を有する。等価モデルに利用される一軸性材料屈折率(nおよびn)は、(液晶混合物の屈折率などの)実際の材料の屈折率または仮想的な材料の屈折率であり得る。該等価材料系は、多層薄膜積層体の平均屈折率、実効屈折率nおよびnの同じ値を有してもよいか、または有さなくてもよい。等価層Dの物理的厚さは、多層積層体の実際の全体的な膜厚Dとは異なってもよい。図7に概略的に示すこの等価モデルの特に重要な1つの結果は、実際の薄膜設計は、屈折率整合層(反射防止機能)に浸漬した(aba)積層体などの、1つまたは複数の異なった薄膜サブ積層体を組み入れてもよいことである。該積層体全体の軸外特性は単一層に合致し、リターデーション効果を分析的に解析することができる反復積層体および該リターデーション効果を解析するのにマトリクスに基づく計算を必要とするAR積層体に相当する。
【0053】
単一層Cプレート・リターダの固有伝搬屈折率は、以下の式によって求められる。
【0054】
【数11】

【0055】
【数12】

式中、σおよびσは、軸外入射における単一層Cプレートの固有屈折率であり、nおよびnはそれぞれ、正常および異常な固有屈折率であり、θは照射の波長λの空気中の入射角である。長さ単位のCプレート・リターダの正味のリターデーションは、以下の式で求められるように屈折率差および物理的厚さDを用いて計算される。
Γ(θ;λ)=[σ(θ;λ)−σ(θ;λ)]×D (14)
長さ単位で表されるCプレート・リターダンスは、屈折率差と物理的層厚との積であり、以下の式のように求められる。
Γ(λ)=[n(λ)−n(λ)]×D (15)
上述のように、これは光路長差として表される面外リターダンスである。故に、所定の入射角における正味のリターダンスを考えると、公称Cプレート・リターダンス量(長さ単位)は、
【0056】
【数13】

によって表される。式中、neqは実際の膜のリターデーション特性を単一層Cプレート・リターダに一致させるのに必要な等価屈折率であり、neqは単一層Cプレート・リターダのnとnとの間に存在し、neqは近似的にnである。例えば、λ=550nmにおいて{n,n}が{1.50,1.65}であるポジティブCプレート・リターダのリターデーション特性は、neq1.60を用いて正確にモデル化されるが、λ=550nmにおいて{n,n}が{1.65,1.50}であるネガティブCプレート・リターダのリターデーション特性は、neq1.53を用いて正確にモデル化される。neqの全分散は、{n,n}の全分散データを用いて求められる。
【0057】
上記の単一層Cプレート・モデルおよび適したリターデーション特性(ポジティブおよびネガティブ)に対するnを用いて、図6のリターデーション特性についてΓをモデル化した。図6Aに示した1500nmにおけるリターダンス特性(profile)に関し、等価単一層Cプレートは−1680nmである。同様に、図6B、6Cおよび6Dに関する等価単一層Cプレートはそれぞれ、+396nm、−82nmおよび+1121nmである。
【0058】
本発明の薄膜コーティングを用いて、ポジティブおよび/またはネガティブCプレート部品を透過構成または反射構成のいずれかで偏光デバイスに導入することは有利である。場合によっては、Cプレート薄膜コーティングは、機能性を高めるために、反射防止コーティング、短波長通過(SWP)コーティング、および長波長通過(LWP)コーティングなどの別の種類のコーティングに、法線入射または角度を付けて組み込まれる。
【0059】
ポジティブおよびネガティブCプレート機能性は高、中および/または低屈折率材料の交互の層によって導入されるので、本発明の薄膜コーティングは、空隙が無く且つ空隙に関連する問題(例えば、カラムの崩壊および/または空隙に水が入ること)の無い緻密なマイクロ層に被着された、従来の等方性材料から製造され得ることが更に有利である。例えば、等方性材料が実質的にすべて誘電体の場合、Cプレート・コーティングは高い耐久性および信頼性があり、長時間にわたって(例えば、10000時間以上)高い光束密度(例えば、40Mluxを超える)および高温(例えば、120℃を超える)に耐え得る。
【0060】
基本周期の光学的厚さが、(FBARなどの形態複屈折ネガティブCプレート要素に必要とされるような)光の波長よりも著しく小さいものに限定されないので、設計が更に柔軟になり更に有利である。実際、本発明による薄膜コーティングは、目的の用途に適するように、透過リターダンスおよび/または反射リターダンスのレベルを変えために容易に調整される。例えば、リターダンスの大きさを増大させるために、反復光学ユニットの数を増やすことができる。入射角に対してリターダンスが増大するか、または減少するかを変えるために、対象の波長における等価位相厚が変えられる(すなわち、中心波長λは、薄膜積層体がポジティブおよび/またはネガティブCプレートとして機能するための所定波長に基づいて選択される)。例えば、本発明による薄膜コーティングは、電磁スペクトルの可視領域および近赤外線領域における一般的な軸外補償要件に対して、50〜5000nmのポジティブおよび/またはネガティブCプレート・リターダンスを提供することが想定される。当然、本発明による薄膜コーティングはまた、この範囲外の波長に対してポジティブおよび/またはネガティブCプレート・リターダンスを提供する。
【0061】
本発明の薄膜設計は便宜的には、面内リターダンスを有する、例えば形態複屈折構造または分子複屈折要素のいずれかである別の複屈折要素に容易に結合される。AプレートまたはOプレートのいずれかとして構成された好適な面内リターダのいくつかの例には、延伸ポリマー・フィルム、液晶ポリマー、複屈折結晶、円柱構造を有する斜めに蒸着された形態複屈折薄膜、ナノ構造およびマイクロ構造の形態複屈折格子、ならびに一軸および/または二軸複屈折媒体が挙げられる。図8に得られた化合物のリターダを概略的に示す。該化合物光学リターダ100は、透明基板109上に設けられた面内リターダ101を含む。典型的にはAプレートまたはOプレートとして構成されるこの面内リターダ101は場合によっては、該基板の一方の側または両側に配設された、多数の同質のリターダ層から形成される。該リターダの複屈折分類は、一軸または二軸である。また、その複屈折はポジティブまたはネガティブである。一般に、面内リターダ101は、透明基板109上に一体的に被覆されているか、または光学的接着層を用いて基板109に積層されている。場合によっては、該面内リターダはカバー・プレートを含む。
【0062】
面内リターダ101の軸外リターデーション特性のために、角度応答の強化が必要となることが多い。例えば、面内リターダ101が真にポジティブのAプレート一軸層である場合、その遅軸に沿った正味の線形リターダンスは、入射角の増大に伴ってロール・オフする。同様に、その速軸に沿った面内リターダ101の総線形リターダンスは、入射角の増大に伴ってピック・アップする。他の入射の方位面に関する面内リターダ101の線形リターダンス特性は、入射の遅軸面と速軸面の極端な特性の間に存在する。この軸外特性を成形するための洗練された解決策は、面内リターダ101を本発明の薄膜コーティング設計に結合することである。したがって、多層薄膜積層体102Aおよび102Bは、面内リターダ101/基板109アセンブリの両外面上に設けられる。あるいは、単一の多層薄膜積層体(図示せず)は該アセンブリの一方の側のみに設けられる。2つの多層積層体を使用すれば、応力のマッチングをコーティングすることが可能となるが、反射動作モードが必要とするのは唯一の多層積層体であるのは明らかである。前述のように、本発明の多層積層体薄膜コーティングは場合によっては、反射防止、エッジ・フィルタリング、短および長帯域通過等などの他のフィルタ機能を組み込む。
【0063】
角度リターダンス特性は、薄膜コーティングを付加することによって強化され、その結果、(フラットなリターダンス特性対入射角を含む)応答が調整されることは有利である。光線が、デバイスの法線115に対して角度111を定める110として入射するとき、この軸外光線のリターダンスは要件に正確に適合し、任意の所要の方位面において設けられた面内リターダ光学軸に対して軸上照明のリターダンスと等しいか、それより大きいか、またはそれより小さくなり得る。一実施形態によれば、結果的に得られる増強された光学リターダは、全機能A/C光学リターダとして使用される。
【0064】
本発明に従って記載の薄膜コーティングの別の用途は、入射角に対してリターダンスの変動を呈する種々の偏光部品の視野を増大させることである。
【0065】
例えば、眼科用器具において785nmで使用される70nm波長板を考える。該波長板は、Aプレート構成の2枚のガラス板に挟まれた、785nmにおいて約0.097の複屈折Δnを有する液晶ポリマー(LCP)材料(該LCPの正常軸および異常軸は光学軸に直交する)を使用する。該波長板は法線入射においてf/1.6ビームで使用される。この入射ビームは空気中では法線入射から±18°変化する。この角度範囲にわたって許容可能に動作するためには、面内(Aプレート)リターダンスの所望の70nmは、角度に対して1nmを超えて変化すべきではない。
【0066】
図9を参照すると、0°のAプレートの上記遅軸配向(入射面に対して平行でもある)に関するリターダンス対入射角は、実際は入射角の増大に伴って1nm超だけ小さくなることが示されている。特に、18°におけるリターダンスは、遅軸が入射面に対して平行に整列されている場合は、法線入射時未満で約1.6nmである。±20°においては、リターダンスは法線入射時未満で約2nmである。
【0067】
この波長板の視野を改善するために、18°における正味のリターダンスが少なくとも0.6nmで2.6nm以下の、ポジティブCプレート部品を有する薄膜コーティングを用いて、波長板の角度に対するリターダンス変動を1nm未満まで低減させる。明白なことに、同じポジティブCプレート設計がガラス板の各外面に被覆されている場合、各表面の18°におけるリターダンスは、2表面からの量が追加になるので標的値の半分だけで済む。各ガラス板は典型的には785nmにおける反射防止コーティングを必要とするので、ポジティブCプレート(PC)コーティングが場合によっては反射防止(AR)コーティング(すなわち、PCARを形成するため)に組み込まれる。あるいは、ポジティブCプレート・コーティングはLWPコーティングまたはSWPコーティングなどの他のコーティングに組み込まれる。
【0068】
例示のために、薄膜積層体1320(0.6L 0.7H 0.6L)について考える。このポジティブCプレート・コーティングは、1320nmに中心があり、18°において約0.4nmのリターダンスを提供する。このリターダンスを計算する際、該積層体は屈折率1.52を有する基板上の空気中にあると仮定し、低屈折率材料Lは屈折率1.46を有するものと仮定し、高屈折率材料Hは屈折率2.2を有するものと仮定し、L材料およびH材料は共に非分散性であるものと仮定する。
【0069】
このポジティブCプレート・コーティング積層体を、図10に示すような785nmにおける反射率に対して最適化した2層反射防止コーティングに組み込むと、0〜18°まで785nmにおいて0.04%未満のガラス表面からの反射率、および18°において0.62nmの透過リターダンスを有するコーティング設計が得られる。ガラスの両外面を被覆すると、前述のように、18°における総透過リターダンスは1.24nmになる。70nm波長板のリターダンス(左軸、実線)と比較して、ガラス両面に被覆されたこの設計の総透過リターダンス対角度を図11に示す(右軸、点線)。
【0070】
図12には、PCARを外面上に有する積層LCP構造体に対するAプレートの種々の遅軸配向の入射角の関数として、理論上の総リターダンスをプロットしている。該リターダンスは、偏光部品の視野が増大されながら、照明の入射の円錐形にわたって非常に一定に保たれ得ることは明白である。特に、入射f/1.6ビームにわたるリターダンス変動は、約3nmから1nm未満まで低減され、有効視野は約±10°から約±20°まで増大された。
【0071】
これらの設計を用いた70nmリターダの実験結果を図13に示す。測定された±18°の入射角範囲にわたるリターダンスの実際の変動は1.2nmとなり、該設計によって予測された変動よりも大きい。この測定されたリターダンス・データは、図12の理論上のデータのような法線入射に関しては対称的ではない。これは、測定されたリターダンスの変動を理論上よりも大きくさせる、AプレートLCPの僅かな面外傾斜によるものと思われる。それにもかかわらず、ポジティブCプレートARコーティングは、波長板の入射ビームにわたって角度に対するリターダンス変動を著しくは低減しない。
【0072】
本発明に従って記載された薄膜コーティングの別の用途は、アクロマティック波長板を創生することである。更に具体的には、該薄膜コーティングのポジティブおよび/またはネガティブCプレート領域は、2つ以上の波長において同じ大きさのリターダンスを有するデバイスを創生するのに用いられる。
【0073】
例えば、45°において適合され、且つ480nmおよび660nmにおいて高い透過性を有するように反射防止された、薄膜積層体556(2H L 2H L 2H)を含んだ波長板について考える。図14を参照すると、薄膜積層体556(2H L 2H L 2H)は、基本周期の等価位相厚が4π未満であるが3πを超える領域が660nmに位置するように、且つ、基本周期の等価位相厚が5π未満であるが4πを超える領域が480nmに位置するように設計されている。また、該薄膜積層体は、各々45°の入射角において測定したときに、660nmにおける透過リターダンスが約+90°になるように、且つ480nmにおいて−90°になるように設計される。すなわち、該透過リターダンスは、これら2つの波長について大きさが同じである(しかし、符号は反対である)。したがって、該薄膜コーティングは、(480nmおよび660nmについて)透過性アクロマティック1/4波長板を実現する。
【0074】
動作中、薄膜コーティングの平面が透過軸に対して45°の向きである場合、且つ、速/遅軸が線形的に偏光された入射光に対して方位角的に45°の向きである場合、該薄膜コーティングは偏光された入射光を、円形的に偏光された光に転換する。この2つの波長における光は、反対の円形的配向(時計回りおよび反時計回り)を有することは明らかである。
【0075】
本発明の薄膜コーティングを用いて製造された別のタイプのアクロマティック波長板は、反射波長板である。例えば、ポジティブおよび/またはネガティブCプレート設計を有する薄膜コーティングは場合によっては、高反射器などの反射フィルタに組み込まれる。光を再方向付けするときに偏光に影響を及ぼす該反射波長板は、コーティング積層体のストップバンドにおいて動作する。周期の数は、反射率が100%付近になるまで増大される。位相を制御するために、反射器の上部には層が付加される。これらの付加的な層は、反射位相差を該ストップバンドにわたって所望の特性に調整するために最適化される。
【0076】
反射アクロマティック1/4波長板の一実施形態を図15に示す。この実施形態においては、薄膜コーティングは、ストップバンドにわたって比較的フラットな反射位相差特性を提供するように最適化された、形式535(0.5H L 0.5H)12および屈折率が交互の複数の付加的な層を有する反射多層積層体を含む。光は45°で該波長板に入射する。この平均反射率は約500〜600nmと高い。この同じ波長領域にわたって、反射位相差を90°になるように最適化した。すなわち、1/4波長板である。該波長板の速/遅軸に対して方位角的に45°に向けられた45°で入射する線形的に偏光された光は、該フィルタから反射された後、円形的に偏光された光に転換される。
【0077】
反射アクロマティック1/4波長板の別の実施形態を図16に示す。406nm、660nmおよび790nmの3つの線形的に偏光されたレーザ線は、該波長板に45°で入射する。この入射角においては、これら3つのレーザ線の反射位相差は−90°または+90°のいずれかである。該波長板の速/遅軸に対して方位角的に45°に向けられた線形的に偏光された光に対して45°の入射で動作するとき、該デバイスは該3波長に対して反射アクロマティック1/4波長板として働く。
【0078】
本発明に従って記載された薄膜コーティングの別の用途は、ある光学部品または光学部品の組合せの残りのネガティブCプレート・リターダンスを補償することである。
【0079】
例えば、(例えば、それらの光学軸を90°ずらして設置された)交差したAプレートのセットを考える。この2つのプレートの面内リターダンスがほぼ適合されている場合、該セットの共通のリターダンスの大きさはネガティブCプレート効果を呈することが一般に知られている。望ましくないかもしれないこの残りのネガティブCプレート・リターダンス部品は、ポジティブCプレート部品を有する薄膜コーティングをAプレートの一方または両方に適用することによって補償される。場合によっては、Aプレートの一方または両方に適用されたポジティブCプレート(CP)薄膜コーティングは、ARコーティング、LWPコーティング、またはSWPコーティングに組み込まれる。
【0080】
本発明に従って記載された薄膜コーティングの更に別の用途は、偏光顕微鏡に使用されるベレック補償板(Berek compensator)である。ベレック補償板は、光学顕微鏡の試料の複屈折を測定するのに用いられるポジティブCプレートである。特に、該Cプレート要素は、その異常波光学軸が、ポジティブCプレート要素の平面に対して直交するように、且つ顕微鏡の光学軸に対して平行になるように向けられる。該ポジティブCプレートを法線入射(0°)で通過する偏光された光は、偏光の方向とは無関係な速度で該ポジティブCプレートを伝搬する。該ポジティブCプレート要素が入射する偏光光の方向に対して回転されるにしたがって、該偏光光の速度は偏光依存性になり、速度が変化する。この結果、生じる位相差は、ポジティブCプレートの厚さ、入射波長、複屈折、および傾斜角に依存したものであり、顕微鏡を較正し、サンプルの複屈折を測定するのに次いで用いられる。この用途においては、ポジティブCプレート薄膜コーティングは、基板に直接適用され得るか、または該基板上に被着されたARコーティング、LWPコーティング、またはSWPコーティングに組み込まれ得る。
【0081】
上記の例の各々においては、本発明による薄膜コーティングは、場合によってはARコーティングに組み込まれることが検討される。一実施形態によれば、これは、基板上に第1のAR積層体を被着し、該第1のAR積層体上にポジティブCプレート薄膜積層体を被着し、該ポジティブCプレート薄膜積層体上に第2のAR積層体を被着することによって達成される(すなわち、ポジティブCプレート(PC)は2枚のAR積層体に挟み込まれてPCAR積層体を形成する)。ポジティブCプレート薄膜積層体が形態(0.5L H 0.5L)である場合、PCAR積層体は実質的に短波長フィルタであることは明白である。該PCAR積層体のリターダンス対入射角(AOI)性能は、反射防止コーティング機能性を維持しながらも、機能性を強化するために容易に調整されることは便宜的である。
【0082】
上記の例の各々においては、本発明による薄膜コーティングは、これらに限定するものではないが、化学気相成長(CVD)、プラズマ強化CVD、電子ビーム蒸着、熱蒸着、スパッタリング、および/または原子層堆積などの真空蒸着法を用いて製造される。場合によっては、該薄膜は、対象の波長領域にわたって透明である基板上に被着され、また、これらに限定するものではないが、ガラス、石英、透明なプラスチック、シリコン、およびゲルマニウムなどの多様な材料から製造されてよい。更に場合によっては、該基板は別の光学部品に組み込まれる。一般に、該薄膜に用いられる材料は、550nmにおいて1.3から4.0を超える範囲の屈折率を有する無機または有機誘電体材料である。例えば、いくつかの適した材料には、シリカ(SiO、n=1.46)、タンタル(Ta、n=2.20)、アルミナ(Al、n=1.63)、ハフニア(HfO、n=1.85)、チタニア(TiO、n=2.37)、ニオビア(Nb、n=2.19)、およびフッ化マグネシウム(MgF、n=1.38)が挙げられる。当然、他の誘電体材料および/またはポリマーも同様に働くであろう。場合によっては、該フィルタは、Software Spectra社のTFCalc(商標)などの市販のコンピュータ・プログラムを利用して設計される。
【0083】
当然、上記実施形態は例示として記載したに過ぎない。当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、種々の変更、代替的構成および/または同等物が採用されるであろうことが理解されよう。例えば、上記透過実施形態に類似する反射実施形態も想定される。実際、上記反射1/4波長板などの、反射に用いられる薄膜コーティングは、多数の市販用途において有用であると想定される。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】弱め合い干渉を提供する従来技術の1/4波長層を示す図である。
【図2】形態(aba)(Qは1に等しい)の対称積層体を示す断面図である。
【図3】各々屈折率1.52の基板上の空中1000nmに中心がある対称積層体(0.5L H 0.5L)および(0.5L H 0.5L)(層は法線入射において適合されている)の15°におけるs平面とp平面との間の等価位相厚の差を示すグラフである。
【図4】図3に示す等価位相厚の差に対する、1000(0.5L H 0.5L)積層体の15°における透過リターダンスを示すグラフである。
【図5】非対称積層体1000(1.16H 0.8L)の15°における透過リターダンスおよび3つの材料の対称積層体1000(0.4L 0.4M 0.4H 0.4M 0.4L)の15°における透過リターダンスに対する、1000(0.5L H 0.5L)積層体の15°における透過リターダンスを示すグラフである。
【図6A】対称積層体1000(0.5L H 0.5L)についての1500nmにおける透過リターダンス対入射角を示すグラフであり、薄膜積層体がこの波長において−1680nmのネガティブCプレートとして機能していることを示している。
【図6B】対称積層体1000(0.5L H 0.5L)についての650nmにおける透過リターダンス対入射角を示すグラフであり、薄膜積層体がこの波長において+396nmのポジティブCプレートとして機能していることを示す。
【図6C】対称積層体1000(0.5L H 0.5L)についての450nmにおける透過リターダンス対入射角を示すグラフであり、薄膜積層体がこの波長において−82nmのネガティブCプレートとして機能していることを示す。
【図6D】対称積層体1000(0.5L H 0.5L)についての310nmにおける透過リターダンス対入射角を示すグラフであり、薄膜積層体がこの波長において1121nmのポジティブCプレートとして機能していることを示す。
【図7】単一層Cプレート・リターダに対する薄膜積層体の等価性を示す断面図である。
【図8】軸外リターダンス特性形状を提供するために別のリターダ要素と組み合わされた、本発明の一実施形態による薄膜積層体を示す断面図である。
【図9】遅軸が0度の方位角を向いていた785nmにおける70nmAプレート・リターダの透過リターダンス対入射角を示すグラフである。
【図10】薄膜積層体と基板との間に2枚の反射防止層を含んだ本発明の一実施形態によるポジティブCプレート薄膜コーティングの層構造を示す断面図である。
【図11】図10に示したポジティブCプレートARコーティングのリターダンスと、図9に関して記載の70nmAプレート・リターダのリターダンスとの比較を示すグラフである。
【図12】外側の溶融シリカ表面上にポジティブCプレートARコーティングを有する70nmAプレート遅軸の異なる方位角の配向に関する、理論上のリターダンス対入射角を示すグラフであり、入射f/1.43ビームにわたる総リターダンス変動が約3.5nmから1nm未満まで低減されたことを示す。
【図13】外側の溶融シリカ表面上がポジティブCプレートARコーティングで被覆された波長板の70nmAプレート遅軸の異なる方位角の配向に関する、測定されたリターダンス対入射角と、被覆していない積層波長板の理論上のリターダンスとを示すグラフである。
【図14】480nm、660nmにおいて高い透過率を有し、これらの波長においておよび+90または−90°の透過リターダンスを有する設計の45°における理論上の透過率および透過リターダンスを示すグラフである。
【図15】500〜600nmの波長帯域に対して反射1/4波長板(90°リターダンス)である薄膜コーティング設計の45°における、理論上の反射率および反射リターダンスを示すグラフである。
【図16】垂直のラインで示した3つの波長:406nm、660nmおよび790nmにおいて90°リターダンス(1/4波長板)を有する設計の45°における理論上の反射率および反射リターダンスを示すグラフである。
【符号の説明】
【0085】
10 薄膜層
20 基板
a、b 材料
膜厚
物理的厚さ
100 化合物光学リターダ
101 面内リターダ
102A、102B 多層薄膜積層体
109 透明基板
110 光線
111 角度
115 法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層積層体を備える薄膜コーティングであって、前記多層積層体が対照的な屈折率を有する少なくとも2つの等方性材料の交互になった層を含む基本周期を有し、前記基本周期がλにおいてπの等価位相厚を有し、前記基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率が、前記多層積層体が所定波長でCプレートとして機能するように、且つ前記所定波長における基本周期の等価位相厚がπを超えるように選択される、薄膜コーティング。
【請求項2】
前記基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率が、前記多層積層体が前記所定波長でポジティブCプレートとして機能するように、且つ前記所定波長における前記基本周期の前記等価位相厚がπを超えるが2π未満であるか、または3πを超えるが4π未満であるように選択される請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項3】
前記基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率が、前記多層積層体が前記所定波長でネガティブCプレートとして機能するように、且つ前記所定波長における前記基本周期の前記等価位相厚が2πを超えるが3π未満であるように選択される請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項4】
前記多層積層体が、高屈折率および低屈折率の誘電体材料の交互になった層を含む請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項5】
前記基本周期がQ回反復され、λおよびQの少なくとも1つが、前記所定波長における所定の法線外入射角において、所定のリターダンスを提供するように選択される請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項6】
前記基本周期がQ回反復され、λおよびQの少なくとも1つが、前記所定波長において、所定のリターダンス特性対入射角を提供するように選択される請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項7】
前記所定のリターダンス特性対入射角が、前記所定波長において、波長板の入射角に対するリターダンスの変動を補償するように選択される請求項6に記載の薄膜コーティング。
【請求項8】
前記所定のリターダンス特性対入射角が、異なる物理的厚さを有する第1および第2の交差したAプレートの残りのネガティブCプレート・リターダンスを補償するように選択される請求項6に記載の薄膜コーティング。
【請求項9】
前記所定のリターダンス特性対入射角が、ベレック補償板のためのCプレート・リターダンスを提供するように選択される請求項6に記載の薄膜コーティング。
【請求項10】
前記多層積層体が、同じ入射角に対して、前記所定波長および他の第2の所定波長において同じ大きさのリターダンスを提供する請求項1に記載の薄膜コーティング。
【請求項11】
前記多層積層体が反射フィルタに組み込まれる請求項10に記載の薄膜コーティング。
【請求項12】
前記多層積層体が、反射防止コーティング、長波長通過コーティングおよび短波長通過コーティングの少なくとも1つに組み込まれる請求項1乃至10のいずれかに記載の薄膜コーティング。
【請求項13】
前記多層積層体が、反射防止コーティングに組み込まれる請求項1乃至10のいずれかに記載の薄膜コーティング。
【請求項14】
前記多層積層体が、中心がλにある多層干渉構造であり、前記所定波長がλ未満である請求項1乃至10のいずれかに記載の薄膜コーティング。
【請求項15】
前記多層積層体が、法線外入射角に使用されるアクロマティック1/4波長板を提供するように基板上に被着される請求項1乃至5のいずれかに記載の薄膜コーティング。
【請求項16】
前記多層積層体が反射フィルタに組み込まれ、前記アクロマティック1/4波長板が反射アクロマティック1/4波長板である請求項15に記載の薄膜コーティング。
【請求項17】
前記多層積層体が面内リターダンスを有する複屈折要素上に被着され、前記基本周期における各層の物理的厚さおよび屈折率が、前記複屈折要素の角度リターダンス特性を調整するように選択される請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記複屈折要素が、延伸箔、形態複屈折格子、結晶石英、および液晶ポリマー・リターデーション要素のうちの1つである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1乃至14のいずれかに記載の薄膜コーティングを基板上に被着させるステップを含む方法。
【請求項20】
前記所定波長で偏光されたビーム光において前記基板をある角度に配向するステップを含む請求項19に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2007−323073(P2007−323073A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−146651(P2007−146651)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(502151820)ジェイディーエス ユニフェイズ コーポレーション (90)
【氏名又は名称原語表記】JDS Uniphase Corporation
【住所又は居所原語表記】1768 Automation Parkway,San Jose,California,USA,95131
【Fターム(参考)】