説明

ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法

【課題】オイル類、特にトランスミッションオイル中で長期に亘って接着性を維持可能な、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法を提供する。
【解決手段】
ポリアミド樹脂表面にシラン系プライマーを塗布し、100℃〜200℃で加熱処理後、形成されたプライマー皮膜上に室温〜100℃で液状フッ素エラストマー組成物を塗布し、これを100℃〜200℃で加熱硬化させ、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとを接着することを特徴とするポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル類、特にトランスミッションオイル中で長期に亘って接着性を維持可能な、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルケニル基とヒドロシリル基との付加反応を利用した硬化性液状フッ素エラストマー組成物は公知であり、該組成物にヒドロシリル基とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基を有するオルガノポリシロキサンとカルボン酸無水物を添加してポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂に対する接着性を向上させた組成物(特許文献1,2:特開2001−72868号公報、特開2002−105319号公報)が提案されている。
【0003】
上記組成物は短時間の加熱により硬化させることができ、得られた硬化物は、耐熱性、低温特性、耐ガソリン性、耐溶剤性、耐油性、耐薬品性、低透湿性、電気特性等に優れているので、これらの特性が要求される各種工業分野の接着用途に幅広く使用されている。特に、自動車工業において電装部品の保護封止剤用途に多用されている。
【0004】
しかしながら、上記組成物は、自動車用途における各種電子制御回路の収納ケース材料として好適に使用されるガラス充填ポリアミド樹脂に対しては、紫外線処理やプラズマ処理等の前処理を実施しても、上記組成物を直接塗布した場合、硬化後に気泡が接着界面に残留することが多く十分な接着性が得られなかった。
【0005】
また、このような気泡対策として、上記組成物を塗布する直前に100〜200℃で加熱処理を実施すると接着界面の気泡は消失するものの、そもそも上記組成物のポリアミド樹脂に対する接着性が不十分なため、エンジンオイル、ギアオイル、トランスミッションオイル等のオイル中への長期浸漬には耐えられず接着性を維持できないという問題があった。
【0006】
このため、上記オイル類、特にトランスミッションオイルと高温下で接触する可能性がある封止剤用途において、該オイル中への長期浸漬でも接着耐久性に優れる接着方法の出現が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2001−72868号公報
【特許文献2】特開2002−105319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、オイル類、特にトランスミッションオイル中で長期に亘って接着性を維持可能な、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂表面にシラン系プライマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱処理後、形成されたプライマー皮膜上に室温〜100℃で液状フッ素エラストマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱硬化させ、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとを接着することを特徴とするポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法によれば、該接着がオイル類、特にトランスミッションオイル中でも長期に亘って接着性を維持可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法を提供する。
[1]ポリアミド樹脂表面にシラン系プライマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱処理後、形成されたプライマー皮膜上に室温〜100℃で液状フッ素エラストマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱硬化させ、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとを接着することを特徴とするポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
[2]上記シラン系プライマー組成物が、
(I)脂肪族飽和炭化水素、
(II)下記一般式(1)で示されるテトラアルコキシシラン
Si(OR14 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基を示す。)、
(III)下記一般式(2)で示されるトリアルコキシシラン
(R2O)3−Si−CHR3−COOR4 (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基、R3は水素原子又はメチル基、R4は1価炭化水素基を示す。)、
(IV)アルキルチタネート
を含有するシラン系プライマー組成物である[1]記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
[3]上記液状フッ素エラストマー組成物が、
(A)下記一般式(3)で示される直鎖状ポリフルオロ化合物
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (3)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化1】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。]
ここで、Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル基であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)、
(B)1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基、又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有し、かつケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基をそれぞれ1個以上有するオルガノシロキサン、
(F)カルボン酸無水物
を含有する液状フッ素エラストマー組成物である[1]又は[2]記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
[4](E)成分のオルガノシロキサンが、更に炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有するものである[1]〜[3]のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オイル類、特にトランスミッションオイル中で長期に亘って接着性を維持可能な、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
シラン系プライマー組成物
〔(I)成分〕
(I)成分の脂肪族飽和炭化水素は、後述する(II)成分〜(IV)成分を均一に溶解し、乾燥後に均質なプライマー皮膜を形成させるための希釈用溶剤として使用される。該成分の構造は、鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、大気圧下の沸点が30℃〜200℃の範囲内にあるものが好適に用いられる。
【0013】
このような(I)成分としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、i−オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン等が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。
【0014】
(I)成分のシラン系プライマー組成物全体に対する含有量は、基材への塗工性、硬化皮膜の厚さに応じて適宜調整すればよいが、70〜90質量%、好ましくは75〜90質量%の範囲である。70質量%未満では、乾燥時にプライマー皮膜にクラックが発生することがあり、90質量%を超えるとプライマー皮膜とポリアミド樹脂との界面で剥離することがあるため好ましくない。
【0015】
〔(II)成分〕
(II)成分のテトラアルコキシシランは、下記一般式(1)で示されるテトラアルコキシシランであり、
Si(OR14 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基を示す。)
乾燥後にシリカ質皮膜を形成する主成分であり、被塗布体との接着成分としても作用するものである。
【0016】
ここで、上記式(1)中のR1としては、炭素数1〜8の、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが例示される。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基である。
【0017】
(II)成分として用いられるテトラアルコキシシランとしては、具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
【化3】

【0019】
(II)成分のシラン系プライマー組成物全体に対する含有量は、5〜15質量%、好ましくは5〜10質量%の範囲である。5質量%未満では、塗布と同時にプライマー皮膜が粉体化することがあり、15質量%を超えるとプライマー皮膜とポリアミド樹脂との界面で剥離することがあるため好ましくない。
【0020】
〔(III)成分〕
(III)成分のトリアルコキシシランは、下記一般式(2)で示されるトリアルコキシシランであり、
(R2O)3−Si−CHR3−COOR4 (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基、R3は水素原子又はメチル基、R4は1価炭化水素基を示す。)
【0021】
本発明に係るシラン系プライマー組成物の保存安定剤として使用されるが、皮膜形成成分としても作用し、更には被塗布体との接着成分としても作用するものである。
【0022】
ここで、上記式(2)中のR2としては、炭素数1〜8の、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが例示される。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基である。
【0023】
上記式(2)中の−CHR3−COOR4で表される基におけるR3としては水素原子又はメチル基が挙げられる。
【0024】
また、R4としては上記R1として例示したものと同様の炭素数1〜8の、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基を挙げることができる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが例示される。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基である。
【0025】
上記式(2)で表されるトリアルコキシシランは、公知の方法で製造することができる。但し、式(2)中のR3によって製法が異なる。
【0026】
3が水素原子の場合、例えば、下記一般式(4)
(R2O)4−Si (4)
(R2は上記と同じ)
で表されるテトラアルコキシシランと下記一般式(5)
BrCH2−COOR4 (5)
(R4は上記と同じ)
で表されるブロモ酢酸エステルを亜鉛末の存在下に反応させることによって得ることができる。
【0027】
3がメチル基の場合は、下記一般式(6)
(R2O)3−Si−H (6)
(R2は上記と同じ)
で表される有機ケイ素ハイドライドを下記一般式(7)
CH2=CH−COOR4 (7)
(R4は上記と同じ)
で表されるアクリル酸エステルに白金触媒の存在下に反応させることによって得ることができる。
【0028】
本発明におけるこのトリアルコキシシランの製造に際しては、反応終了後に目的物質を蒸留操作等によって単離、精製することが好ましい。
【0029】
(III)成分として用いられるトリアルコキシシランとしては、具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
【化4】

【0031】
(III)成分のシラン系プライマー組成物全体に対する含有量は、1〜6質量%、好ましくは1〜4質量%の範囲である。1質量%未満では、塗布時にプライマー皮膜表面が白化することがあり、6質量%を超えるとプライマー皮膜とポリアミド樹脂との界面で剥離することがあるため好ましくない。
【0032】
〔(IV)成分〕
(IV)成分のアルキルチタネートは、空気中で(II)成分及び(III)成分の縮合反応を促進する触媒として作用すると共に、皮膜形成成分としても作用し、更には接着成分としても作用するものである。
【0033】
具体的な化合物としては、例えば、テトラ(n−プロピル)チタネート、テトラ(i−プロピル)チタネート、テトラ(n−ブチル)チタネート、テトラ(i−ブチル)チタネート、テトラ(s−ブチル)チタネート、テトラ(t−ブチル)チタネート等が挙げられる。これらの中ではテトラ(i−プロピル)チタネート、テトラ(n−ブチル)チタネートが好適に使用される。
【0034】
(IV)成分のシラン系プライマー組成物全体に対する含有量は、1〜9質量%、好ましくは3〜6質量%の範囲である。1質量%未満では、プライマー皮膜とポリアミド樹脂との界面で剥離することがあり、9質量%を超えると塗布と同時にプライマー皮膜が粉体化することがあるため好ましくない。
【0035】
本発明に係るシラン系プライマー組成物には上記した(II)〜(IV)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で従来公知のシランカップリング剤や着色剤を添加することができる。
【0036】
シランカップリング剤としては、炭素官能基としてエポキシ基、ビニル基、又はアミノ基等を含有するアルコキシシラン類が挙げられる。
【0037】
本発明に係るシラン系プライマー組成物は、脱水処理された(I)成分の脂肪族飽和炭化水素系溶剤中に(II)〜(IV)成分を添加し、混合撹拌することにより容易に調製することができる。
【0038】
液状フッ素エラストマー組成物
〔(A)成分〕
(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有する直鎖状ポリフルオロ化合物であり、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (3)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化5】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化6】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル基であり、aは独立に0又は1である。]
【0039】
ここで、Rとしては、水素原子以外の場合、炭素数1〜12、特に1〜10のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基等が挙げられる。
【0040】
ここで、上記一般式(3)のRf1は、2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物が好ましい。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは1,2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。tは上記と同じである。)
【0041】
Rf1基の好ましい例としては、例えば、下記の3つのものが挙げられるが、中でもより好ましくは1番目の式の構造を有する2価の基([化7])である。
【化7】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【化8】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n(平均)=2〜200である。)
【化9】

(式中、mは1〜200の整数、nは1〜50の整数である。)
【0042】
(A)成分の好ましい例として、下記一般式(8)で表される化合物が挙げられる。
【化10】

[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化11】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基、Rは水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化12】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基、Rは上記と同じである。aは独立に0又は1、Lは2〜6の整数、b及びcはそれぞれ0〜200の整数である。]
【0043】
一般式(8)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【0044】
【化13】

(式中、m及びnはそれぞれ0〜200、m+n=6〜200を満足する整数を示す。)
【0045】
なお、上記一般式(3)の直鎖状ポリフルオロ化合物の粘度(23℃)は、100〜100,000mPa・s、より好ましくは500〜50,000mPa・s、更に好ましくは1,000〜20,000mPa・sの範囲内にあることが、本組成物をシール、ポッティング、コーティング等に使用する際に、硬化後においても適当な物理的特性を有しているので望ましい。該粘度範囲内で、用途に応じて最も適切な粘度を選択することができる。
【0046】
これらの直鎖状ポリフルオロ化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
〔(B)成分〕
(B)成分は、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサンであり、上記(A)成分の架橋剤ないし鎖長延長剤として機能するものである。
【0048】
また、(B)成分は、(A)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基等のフッ素含有基を有する。
【0049】
このフッ素含有基としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]f−Ch2h
(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100の整数、hは1〜3の整数である。)
−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]i−O−CF2CF2−O−[CF(CF3)CF2O]j−CF(CF3)−
(式中、i及びjは1以上の整数、i+jの平均は2〜200、好ましくは2〜100である。)
−(CF2O)r−(CF2CF2O)s−CF2
(式中、r及びsはそれぞれ1〜50の整数である。)
【0050】
また、これらパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基とケイ素原子とをつなぐ2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、或いはこれらの基にエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合等を介在させたものであってもよく、例えば、
−CH2CH2
−CH2CH2CH2
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−(但し、Phはフェニル基である。)
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−
−CH2CH2CH2−O−CO−
等の炭素数2〜12のものが挙げられる。
【0051】
このようなフッ素含有基を有する(B)成分としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。また、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0052】
【化14】

【0053】
【化15】

【0054】
【化16】

【0055】
【化17】

【0056】
【化18】

【0057】
【化19】

【0058】
【化20】

【0059】
【化21】

【0060】
【化22】

【0061】
【化23】

【0062】
【化24】

【0063】
【化25】

【0064】
上記(B)成分の配合量は、(A)成分を硬化する有効量であり、通常(A)成分中に含まれるビニル基、アリル基、シクロアルキル基等のアルケニル基の合計1モルに対し、(B)成分中のヒドロシリル基(即ちSi−H基)が好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルとなる量である。ヒドロシリル基が少なすぎると、架橋度合が不十分となる結果、硬化物が得られない場合があり、また、多すぎると硬化時に発泡してしまう場合がある。
【0065】
〔(C)成分〕
(C)成分は、ヒドロシリル化反応触媒であり、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進する触媒である。このヒドロシリル化反応触媒は、一般に貴金属の化合物であり、高価格であることから、比較的入手し易い白金又は白金化合物がよく用いられる。
【0066】
白金化合物としては、例えば、塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、アルコール、ビニルシロキサンとの錯体、及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金を挙げることができる。白金化合物以外の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等を例示することができる。なお、前記式中、Phはフェニル基である。
【0067】
これらの触媒の使用にあたっては、それが固体触媒であるときには固体状で使用することも可能であるが、より均一な硬化物を得るためには塩化白金酸や錯体を適切な溶剤に溶解したものを(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物に相溶させて使用することが好ましい。
【0068】
この(C)成分の使用量は、触媒量でよいが、例えば(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜500ppm(白金族金属原子換算)を配合することが好ましい。
【0069】
〔(D)成分〕
(D)成分は、疎水性シリカ粉末であり、上記組成物から得られる硬化物に適切な物理的強度を付与すると同時に、後述する(E)成分のオルガノシロキサン、及び(F)成分のカルボン酸無水物を該組成物中に均一に分散させる作用を有するものである。
【0070】
この(D)成分の疎水性シリカ粉末は、シリコーンゴム用充填剤としてBET比表面積が50m2/g以上、特に50〜400m2/gの微粉末シリカを疎水化処理したものである。BET比表面積が50m2/g未満の場合は、得られる硬化物の物理的強度が不十分であり、また、(E)成分、(F)成分が均一に分散しないことがある。400m2/gを超えると(D)成分の分散が不均一になり配合が困難となる。
【0071】
微粉末シリカとしては、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、コロイドシリカ等が例示されるが、これらの中では煙霧質シリカが最も好ましい。
【0072】
また、上記微粉末シリカの疎水化処理剤としては、オルガノクロロシラン、オルガノジシラザン、環状オルガノポリシラザン、線状オルガノポリシロキサン等が例示されるが、これらの中ではオルガノクロロシランが好ましい。
【0073】
この(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し、2.0〜30質量部、特に4.0〜25質量部の範囲であることが好ましい。配合量が2.0質量部未満の場合には、組成物中の(E)成分の分散状態が経時変化することがあり、接着性が不安定になる場合がある。また、得られる硬化物の物理的特性も低下する。一方、30質量部を超えると組成物の流動性が悪くなり、得られる硬化物の物理的強度も低下する場合がある。
【0074】
〔(E)成分〕
(E)成分であるオルガノシロキサンは、これを配合することによって上記組成物に自己接着性を発現させるためのものである。このようなオルガノシロキサンは、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシ基をそれぞれ1個以上有するオルガノシロキサンであり、好ましくは更に加えてケイ素原子に結合した炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有するオルガノシロキサンである。
【0075】
このようなオルガノシロキサンのシロキサン骨格は、環状、鎖状、分岐状などのいずれでもよく、またこれらの混合形態でもよい。
【0076】
具体的には、下記平均組成式で表わされるものを用いることができる。
【化26】

(式中、R5はハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基であり、A、Bは下記に示す。wは0≦w≦100、xは1≦x≦100、yは1≦y≦100、zは0≦z≦100を示す。)
【0077】
5のハロゲン置換又は非置換の1価炭化水素基としては、炭素数1〜10、特に1〜8のものが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基などが挙げられ、この中で特にメチル基が好ましい。
【0078】
wは0≦w≦20が好ましく、xは1≦x≦20が好ましく、yは1≦y≦20が好ましく、zは1≦z≦20が好ましく、3≦w+x+y+z≦50が好ましい。
【0079】
Aは炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基を示し、具体的には、下記の基を挙げることができる。
【0080】
【化27】

[式中、R6は酸素原子が介在してもよい炭素数1〜10、特に1〜5の2価炭化水素基(アルキレン基、シクロアルキレン基等)を示す。]
−R7−Si(OR83
[式中、R7は炭素数1〜10、特に1〜4の2価炭化水素基(アルキレン基等)を示し、R8は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示す。]
【化28】

[式中、R9は炭素数1〜8、特に1〜4の1価炭化水素基(アルキル基等)を示し、R10は水素原子又はメチル基、kは2〜10の整数を示す。]
【0081】
Bは、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基を示す。1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基の例としては、例えば、下記一般式で表されるもの等を挙げることができる。
s2s+1
(式中、sは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]n'−Ct2t
(式中、n’は2〜200、好ましくは2〜100の整数、tは1〜3の整数である。)
【0082】
これらのオルガノシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンにビニル基、アリル基等の脂肪族不飽和基とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とを含有する化合物、更に必要により脂肪族不飽和基とパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基とを含有する化合物を、常法に従って部分付加反応させることにより得ることができる。なお、上記脂肪族不飽和基の数は、Si−H基の数より少ない必要がある。
【0083】
このオルガノシロキサンの製造に際しては、反応終了後に目的物質を単離してもよいが、未反応物及び付加反応触媒を除去しただけの混合物を使用することもできる。
【0084】
(E)成分として用いられるオルガノシロキサンとしては、具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、Meはメチル基である。
【0085】
【化29】

【0086】
【化30】

(o,q,rは正の整数、pは0以上の整数。)
【0087】
【化31】

【0088】
【化32】

(o,q,rは正の整数、pは0以上の整数。)
【0089】
【化33】

【0090】
(E)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、0.05〜5.0質量部、好ましくは0.1〜3.0質量部の範囲であることが望ましい。0.05質量部未満の場合には十分な接着性が得られず、5.0質量部を超えると組成物の流動性が悪くなり、得られる硬化物の物理的強度が低下し、また硬化性を阻害することが多いので好ましくない。
【0091】
〔(F)成分〕
本発明の(F)成分であるカルボン酸無水物は、これを配合することによって(E)成分の接着付与能力を向上させ、本発明の組成物の接着性発現を促進させるためのものである。このような成分としては、エポキシ樹脂用の硬化剤として使用されているものはすべて包含され、室温で固体状でも液体状でもよく、トリアルコキシシリル基を含んでいてもよい。
【0092】
具体的には下記の構造式で示されるものが例示される。なお、これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
【化34】

【0094】
(F)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、0.1〜2.0質量部、好ましくは0.1〜1.0質量部の範囲であることが望ましい。0.1質量部未満の場合には十分な接着促進効果が得られず、2.0質量部を超えると組成物の保存性が悪くなり、得られる硬化物の物理的強度が低下し、かつ経時変化することが多いので好ましくない。
【0095】
〔その他の成分〕
本発明に係る液状フッ素エラストマー組成物においては、その実用性を高めるために上記(A)〜(F)成分以外にも、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤、無機質充填剤、接着促進剤、シランカップリング剤等の各種配合剤を必要に応じて添加することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲、及び組成物の特性及び硬化物の物性を損なわない限りにおいて任意である。
【0096】
可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤としては、下記一般式(9)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物及び/又は下記一般式(10)、(11)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物を併用することができる。
Rf2−(X’)a−CH=CH2 (9)
[式中、X’、aは上記と同じ、Rf2は、下記一般式(iii)である。
F−[CF(CF3)CF2O]w−Ct2t− (iii)
(式中、wは1以上の整数、tは上記と同じであり、かつ上記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)]
D−O−(CF2CF2CF2O)c−D (10)
(式中、Dは式:Cs2s+1−(sは1〜3)で表される基であり、cは1〜200の整数であり、かつ上記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)
D−O−(CF2O)d(CF2CF2O)e−D (11)
(式中、Dは上記と同じであり、d及びeはそれぞれ1〜200の整数であり、かつdとeの和は上記(A)成分のRf1基に関するp+q(平均)及びrの和、並びにu及びvの和のいずれかの和以下である。)
【0097】
上記一般式(9)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、例えば下記のものが挙げられる(なお、下記mは上記要件を満足するものである。)
【0098】
【化35】

【0099】
上記一般式(10)、(11)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる(なお、下記n又はnとmの和は、上記一般式(10)、(11)の要件を満足するものである。)。
CF3O−(CF2CF2CF2O)n−CF2CF3
CF3−[(OCF2CF2n(OCF2m]−O−CF3
(m+n=1〜200、m=1〜200、n=1〜200)
【0100】
上記一般式(6)〜(8)のポリフルオロ化合物の配合量は、本組成物中の上記一般式(1)の直鎖状ポリフルオロ化合物100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部である。また、粘度(23℃)は、5〜50,000mPa・sの範囲であることが望ましい。
【0101】
また、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤としては、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノール等のアセチレン性アルコールや、上記の1価含フッ素置換基を有するクロロシランとアセチレン性アルコールとの反応物、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン、トリアリルイソシアヌレート等、あるいはポリビニルシロキサン、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0102】
無機質充填剤としては、例えば石英粉末、溶融石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化珪素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤等を添加することができる。
【0103】
また、アルキルチタネート等の接着促進剤、エポキシ基含有シラン等のシランカップリング剤を添加することができる。
【0104】
本発明に係る液状フッ素エラストマー組成物は、上記した(A)〜(F)成分とその他の任意成分とをプラネタリーミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサー等の混合装置、必要に応じてニーダー、三本ロール等の混練装置を使用して均一に混合することによって製造することができる。
【0105】
ポリアミド樹脂との接着方法
本発明の接着方法は、ポリアミド樹脂表面に上記プライマー組成物を塗布し、次いで得られた塗膜面に上記液状フッ素エラストマー組成物を塗布した後、硬化させることからなる。
【0106】
詳述すると、まず、ポリアミド樹脂表面に上記プライマー組成物を塗布し、塗膜を形成する。塗布する方法は、特に限定されず、刷毛塗り、スプレー塗布、浸漬塗布等が挙げられる。
【0107】
次に、得られた塗膜を100℃〜200℃、好ましくは105℃〜180℃で加熱乾燥させる。100℃未満での乾燥では液状フッ素エラストマー組成物の硬化物との界面に気泡が残留し易い。乾燥時間は塗膜厚み及び樹脂厚みにより変わるが、通常10〜90分間でよい。加熱処理後、材料温度が室温〜100℃になるまで放冷する。
【0108】
次に、周囲の湿度にもよるが、通常、加熱処理後1時間以内にプライマー塗膜の上に上記液状フッ素エラストマー組成物を塗布する。1時間以上経過してから塗布すると、液状フッ素エラストマー組成物の硬化物との界面に気泡が残留することがある。
【0109】
上記液状フッ素エラストマー組成物を塗布後、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃にて数分〜数時間加熱することにより、該液状フッ素エラストマー組成物をフッ素エラストマーに転化(架橋・硬化)させ、上記プライマー皮膜を介して、上記ポリアミド樹脂と該フッ素エラストマーを強固に接着させることができ、更には、長期に亘る接着耐久性を付与することが可能である。
【0110】
本発明の接着方法は、ポリアミド樹脂を収納ケース材料又は基板材料として使用する自動車関連部品、各種電気・電子部品等において、特に耐油性、耐薬品性に優れる液状フッ素エラストマー組成物を封止剤・コーティング剤等として適用する場合に有用な方法である。例えば、自動車の各種制御系、各種ガス、温水、薬品などに曝される圧力センサーや温度センサー等の電気・電子回路の保護封止や保護コーティング用途に液状フッ素エラストマー組成物を使用する場合の接着方法として好適に用いることができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示す。また、粘度、接着力等は23℃における測定値を示す。
【0112】
プライマー溶液の調製
下記表1に示す成分混合比(質量比)のプライマー1及び2を調製した。
【表1】

【0113】
液状フッ素エラストマー組成物の調製
下記式(13)で示されるポリマー(粘度10,000mPa・s)100部をプラネタリーミキサー内に仕込み、そこへジメチルジクロロシランで表面処理された煙霧質シリカ(BET比表面積110m2/g)10部を添加し、加熱せずに1時間混練した。引き続き混練しながら装置を加熱し、内温が150℃に達してから150℃〜170℃に保持しながら2時間減圧下(60Torr)で熱処理した。次に、内容物を40℃以下に冷却後、そこに下記式(12)で示されるカルボン酸無水物0.2部を添加し、均一に分散するまで混練した。その後、三本ロールを2回通してベースコンパウンドを得た。
【0114】
【化36】

【0115】
<組成物1>
上記ベースコンパウンド110.2部に対して白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.15部、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.30部、下記式(14)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン1.4部、下記式(15)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン1.1部、下記式(16)で示される接着付与剤2.5部を順次添加し、均一になるように混合した。その後、脱泡操作を行うことにより組成物1を調製した。
【0116】
【化37】

【0117】
<組成物2>
組成物1の式(16)で示される接着付与剤2.5部の代わりに式(16)で示される接着付与剤2.0部及び下記式(17)で示される接着付与剤0.1部を用いた以外は、組成物1と同様の方法で組成物2を調製した。
【0118】
【化38】

【0119】
次に、得られた各組成物をカートリッジに充填し、下記の実施例、比較例で使用した。
【0120】
[実施例1]
恒温恒湿室(25℃、50%RH)内で、ガラス繊維30%充填66ナイロン樹脂製の試験片(100mm×25mm×1mm)を2枚準備し、各々の片面に長尺方向の端部から20mmまでプライマー1をスプレー塗布した。それらを30分間放置後に120℃で1時間加熱処理した。その後、上記室内で放冷し、1時間以内に各々のプライマー処理部分が端部から10mmずつ重複するように厚さ1mmの組成物1の層を挟んで重ね合わせ、150℃で1時間加熱することにより該組成物を硬化させ接着試験片を作製した。次いで、これらの試料について引張剪断接着試験(引張速度50mm/分)を行い、接着界面での気泡有無、接着強度及び破壊モードを評価した。それらの結果を表2に示す。
また、別途作製した上記の接着試験片を用いてトランスミッションオイル浸漬試験(試験油DEXRON III、150℃、1,000時間)を実施した。
試験後に取り出した試料について、上記と同じ方法で接着試験を行い、接着強度及び破壊モードを評価したところ、表2に示すような結果が得られた。なお、オイル浸漬試験に供した試料は試験終了1日後に接着試験を行った。
【0121】
[実施例2]
実施例1のプライマー1の代わりにプライマー2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表2に示す。
【0122】
[実施例3]
実施例1の組成物1の代わりに組成物2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表2に示す。
【0123】
[実施例4]
実施例1の組成物1の代わりに組成物2を使用し、プライマー1の代わりにプライマー2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表2に示す。
【0124】
[実施例5]
実施例1のプライマー塗布後の加熱条件を120℃、1時間から150℃、30分間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表2に示す。
【0125】
[実施例6]
実施例2のプライマー塗布後の加熱条件を120℃、1時間から150℃、30分間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表2に示す。
【0126】
[比較例1]
実施例1において、試験片にプライマーを塗布せず、また、加熱処理もしないこと以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験を実施した。この場合は接着界面に気泡が多く存在したため、オイル浸漬試験は実施しなかった。接着試験結果のみ表3に示す。
【0127】
[比較例2]
実施例1において、試験片にプライマーを塗布しないが、120℃で1時間加熱処理すること以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表3に示す。
【0128】
[比較例3]
実施例1において、試験片にプライマーを塗布しないが、150℃で30分間加熱処理すること以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表3に示す。
【0129】
[比較例4]
実施例1のプライマー塗布後の加熱条件を120℃、1時間から60℃、2時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表3に示す。
【0130】
[比較例5]
実施例1のプライマー塗布後の加熱条件を120℃、1時間から80℃、1時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表3に示す。
【0131】
[比較例6]
実施例5においてプライマー塗膜の加熱処理後の放置時間を、1時間以内から2時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で接着試験片を作製し、実施例1と同様の接着試験及びオイル浸漬試験を実施した。結果を表3に示す。
【0132】
【表2】

【0133】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂表面にシラン系プライマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱処理後、形成されたプライマー皮膜上に室温〜100℃で液状フッ素エラストマー組成物を塗布し、100℃〜200℃で加熱硬化させ、ポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとを接着することを特徴とするポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
【請求項2】
上記シラン系プライマー組成物が、
(I)脂肪族飽和炭化水素、
(II)下記一般式(1)で示されるテトラアルコキシシラン
Si(OR14 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基を示す。)、
(III)下記一般式(2)で示されるトリアルコキシシラン
(R2O)3−Si−CHR3−COOR4 (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基、R3は水素原子又はメチル基、R4は1価炭化水素基を示す。)、
(IV)アルキルチタネート
を含有するシラン系プライマー組成物である請求項1記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
【請求項3】
上記液状フッ素エラストマー組成物が、
(A)下記一般式(3)で示される直鎖状ポリフルオロ化合物
CH2=CH−(X)a−Rf1−(X’)a−CH=CH2 (3)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化1】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。]
ここで、Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル基であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和の平均は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)、
(B)1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基、又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有し、かつケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)1分子中にケイ素原子に直結した水素原子と、炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基をそれぞれ1個以上有するオルガノシロキサン、
(F)カルボン酸無水物
を含有する液状フッ素エラストマー組成物である請求項1又は2記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。
【請求項4】
(E)成分のオルガノシロキサンが、更に炭素原子又は炭素原子と酸素原子を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基を1個以上有するものである請求項1〜3のいずれか1項記載のポリアミド樹脂とフッ素エラストマーとの接着方法。

【公開番号】特開2009−120733(P2009−120733A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296578(P2007−296578)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】