説明

ポリアミド樹脂の製造法

【課題】従来のポリオキサミド樹脂の製造に必要であった溶媒中での前重縮合工程を行うことなく、高分子量(ポリアミド樹脂濃度1.0g/dlの96%硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが2.2〜6.0)のポリオキサミド樹脂を製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジカルボン酸成分がシュウ酸であるポリアミド樹脂の製造法において、容器内に原料のシュウ酸ジエステルをあらかじめ仕込み、次いでジアミンを混合することを特徴とする、ポリアミド樹脂製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂の製造法に関する。詳しくは、ジカルボン酸成分がシュウ酸であるポリアミド樹脂の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸成分がシュウ酸であるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、飽和吸水率が低いこと(特許文献1)が知られる。
【0003】
これまでに、ジアミン成分として種々のジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。ポリオキサミド樹脂は、シュウ酸もしくはシュウ酸ジエステルと脂肪族もしくは芳香族ジアミンとの重縮合により得られる。しかしながら、モノマーとしてシュウ酸を用いる場合は、シュウ酸自体が180℃を超えると熱分解すること、およびシュウ酸末端も熱分解によって末端封止することから高分子量のポリオキサミド樹脂が得られた合成例は無い。
【0004】
一方で、シュウ酸ジアルキルなどのシュウ酸ジエステルをモノマーとして用いたポリオキサミド樹脂の製造法も公知であり、種々のジアミンとの重縮合によるポリオキサミド樹脂が提案されている。例えば、ジアミン成分として1,10−デカンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,8−オクタンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(いずれも特許文献2)や1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(非特許文献1)など数多くのポリオキサミド樹脂が提案されている。
【0005】
しかしながら公知のポリオキサミド樹脂は、原料のジアミンを、トルエンなどを溶媒としてあらかじめ仕込み、次いで蓚酸ジエステルを混合してプレポリマーを得る前重縮合工程と、ここで得られるプレポリマーから溶媒を留去した後に溶融重合、もしくは固相重合してポリマーを得る後重縮合工程の2段階の重合工程が必要であった。このため、ポリオキサミド樹脂の製造は溶媒を留去させるために多くのエネルギーと時間を必要とするという問題があり、工業的な製造には適していない。また、仕込み順序に関する具体的な記述もなかった。
【特許文献1】特開2006−57033
【特許文献2】特表平5−506466
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のポリオキサミド樹脂の製造に必要であった溶媒中での前重縮合工程を行うことなく、高分子量(ポリアミド樹脂濃度1.0g/dlの96%硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが2.2〜6.0)のポリオキサミド樹脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、容器内に原料のシュウ酸ジエステルをあらかじめ仕込み、次いでジアミンを混合することを特徴とするポリアミド樹脂製造法を見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂製造法により、従来技術においてポリオキサミド樹脂の製造に必要となる溶液重合工程を行うことなく、高分子量(ポリアミド樹脂濃度1.0g/dlの96%硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが2.2〜6.0)のポリオキサミド樹脂を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)ポリアミドの構成成分
本発明で製造の対象となるポリオキサミド樹脂のシュウ酸源としては、シュウ酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジフェニル等の芳香族アルコールのシュウ酸ジエステル等が挙げられる。これらのうち、前重縮合工程における重縮合反応により発生するアルコールに生成ポリアミド樹脂が良好に溶解し、続く溶融重合、固相重合温度においてアルコールを完全に取り除くことができるアルコールを生成するシュウ酸ジエステルが好ましく用いられる。このようなシュウ酸ジエステルの例としては、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチルを挙げることができる。
【0010】
原料のジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミン等から選ばれる1種または2種以上の任意の混合物が挙げられる。
【0011】
(2)ポリアミドの製造法
以下、本発明の製造方法を具体的に説明する。まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に(仕込み、窒素置換する。)(仕込む。溶液中を、不活性ガス、例えば窒素ガスに、置換しても良い。)容器は、後に行う重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は33℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、6:94〜85:15の場合、常温で液状か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいのためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。シュウ酸ジエステルとジアミンの仕込み比は、シュウ酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.2(モル比)、好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0012】
次に、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0013】
本発明から得られるポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0014】
(3)ポリアミドの性状および物性
本発明から得られるポリアミドの分子量に特別の制限はないが、ポリアミド樹脂濃度1.0g/dlの96%硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが2.2〜6.0の範囲内である。ηrが2.2より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
【0015】
(4)ポリアミド樹脂に配合できる成分
本発明から得られるポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0016】
また、本発明には本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類を混合することが可能である。更に、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維、各種添加剤を同様に配合することができる。
【0017】
さらに、本発明により得られるポリアミド樹脂には必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0018】
(5)ポリアミド樹脂の成形加工
本発明により得られるポリアミド樹脂の成形方法としては、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0019】
(6)ポリアミド成形物の用途
本発明によって得られるポリアミドの成形物は、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。
【実施例】
【0020】
[評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の構造解析、数平均分子量の算出、末端基濃度の算出、相対粘度の測定は以下の方法により行った。
【0021】
(1)構造解析
一次構造の同定は、1H−NMRにより行った。1H−NMRは、ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE500を使用して、溶媒:重硫酸、積算回数:1024回の条件で測定した。
【0022】
(2)数平均分子量(Mn)
数平均分子量(Mn)は、H−NMRスペクトルから求めたシグナル強度をもとに、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂〔以下、PA92(NMDA/MODA=85/15)と略称する〕の場合は下式により算出した。
Mn=np×212.30+n(NH2)×157.28+n(OBu)×129.14+n(NHCHO)×29.14
【0023】
また、前記式中の各項は以下のように規定される。
・np=Np/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NH2)=N(NH2)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NHCHO)=N(NHCHO)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(OBu)=N(OBu)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・Np=[(Sp/sp)−1]/sp−N(NHCHO)
・N(NH2)=S(NH2)/s(NH2)
・N(NHCHO)=S(NHCHO)/s(NHCHO)
・N(OBu)=S(OBu)/s(OBu)
【0024】
但し、各項は以下の意味を有する。
・Np:PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ユニットを除いた、分子鎖中の繰り返しユニット総数。
・np:分子1本当たりの分子鎖中の繰り返しユニット数。
・Sp:PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端を除いた、分子鎖中の繰り返しユニット中のオキサミド基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(3.1ppm付近)の積分値。
・sp:積分値Spにカウントされる水素数(2個)。
・N(NH2):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端アミノ基の総数。
・n(NH2):分子1本当たりの末端アミノ基の数。
・S(NH2):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端アミノ基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(2.6ppm付近)の積分値。
・s(NH2):積分値S(NH2)にカウントされる水素数(2個)。
・N(NHCHO):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ホルムアミド基の総数。
・n(NHCHO):分子1本当たりの末端ホルムアミド基の数。
・S(NHCHO):PA92(NMDA/MODA=85/15)のホルムアミド基のプロトンに基づくシグナル(7.8ppm)の積分値。
・s(NHCHO):積分値S(NHCHO)にカウントされる水素数(1個)。
・N(OBu):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ブトキシ基の総数。
・n(OBu):分子1本当たりの末端ブトキシ基の数。
・S(OBu):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ブトキシ基の酸素原子に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(4.1ppm付近)の積分値。
・s(OBu):積分値S(OBu)にカウントされる水素数(2個)。
【0025】
(3)末端基濃度:蓚酸ジブチルを用いた場合、末端アミノ基濃度[NH]、末端ブトキシ基濃度[OBu]、末端ホルムアミド基濃度[NHCHO]は次の式に従ってそれぞれ求めた。
・末端アミノ基濃度[NH]=n(NH)/Mn
・末端ブトキシ基濃度[OBu]=n(OBu)/Mn
・末端ホルムアミド基濃度[NHCHO]=n(NHCHO)/Mn
【0026】
(4)相対粘度(ηr)
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0027】
[実施例1]
撹拌機、窒素導入管、原料投入口、ブタノール留出管を備えた内容積が500mLのセパラブルフラスコの容器内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次いで純度が99.9999%の窒素ガスを常圧まで導入する操作を5回繰り返した後、漏斗を用いてシュウ酸ジブチル110.9g(0.5484モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、60℃のオーブンで融解した1,9−ノナンジアミン73.79g(0.4662モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン13.02g(0.08227モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)を30秒間かけて容器内に仕込んだ。このとき、重縮合反応により生成した重合物が容器内に析出し、同時に生成したブタノールの一部が留出した。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は100ml/分の窒素気流下で行った。
【0028】
上記操作によって得られた前重合物約10gを撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち次いで純度が99.9999%の窒素ガスを常圧まで導入する操作を5回繰り返した後に、190℃に保った塩浴に移し、50ml/分の窒素気流下、3時間重縮合反応を行った。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、さらに2時間反応させた。続いて塩浴から取り出し、50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却して生成物を得た。得られたものは白色の強靭な重合物であった。
【0029】
[実施例2]
シュウ酸ジブチルを111.4g(0.5507モル)、1,9−ノナンジアミンを5.229g(0.03304モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミンを81.93g(0.5176モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)、ジアミン注入時の容器内の温度を27℃としたほかは、実施例1と同様に反応を行い、生成物を得た。得られたものは白色の強靭な重合物であった。
【0030】
[実施例3]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた1Lの耐圧容器に、シュウ酸ジブチル247.58g(1.2242モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。30分間かけて内部温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン11.63g(0.07349モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン182.24g(1.1513モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速13ml/分で17分間かけて反応容器内に注入すると同時に昇温した。注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.35MPaまで上昇し、内部温度は170℃まで上昇させた。注入直後から生成したブタノールの放圧を開始し、内圧を0.25MPaに保持したまま、1時間かけて内部温度を235℃にした。内部温度が235℃に達した直後から放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを20分間かけて抜き出した。放圧後、50ml/分の窒素気流下において昇温を開始し、1時間かけて内部温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色のポリマーであった。
【0031】
[比較例1]
撹拌機、窒素導入管、原料投入口、ブタノール留出管を備えた内容積が500mLのセパラブルフラスコの容器内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次いで純度が99.9999%の窒素ガスを常圧まで導入する操作を5回繰り返した後、60℃のオーブンで融解させた1,9−ノナンジアミン74.56g(0.4710モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン13.16g(0.08312モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)を、漏斗を用いて仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、シュウ酸ジブチル112.1g(0.5542モル)を30秒間かけて容器内に仕込んだ。このとき、重縮合反応により生成した重合物が容器内に析出し、同時に生成したブタノールの一部が留出した。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は100ml/分の窒素気流下で行った。
【0032】
上記操作によって得られた前重合物約10gを撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち次いで純度が99.9999%の窒素ガスを常圧まで導入する操作を5回繰り返した後、50ml/分の窒素気流下190℃に保った塩浴に移し、3時間重縮合反応を行った。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、さらに2時間反応させた。続いて塩浴から取り出し、50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却して生成物を得た。得られたものは黄色のもろい重合物であった。
【0033】
[比較例2]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた1Lの耐圧容器に、1,9−ノナンジアミン59.76g(0.3776モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン10.55g(0.06663モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次いで常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。2時間かけて内部温度を210℃にした後、シュウ酸ジブチル89.33g(0.4417モル)を原料フィードポンプにより流速5ml/分で17分間かけて反応容器内に注入した。この時、耐圧容器内の内圧は重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.95MPaまで上昇し、内部温度は217℃まで上昇した。シュウ酸ジブチルを注入後直ちに昇温を開始し、1.5時間かけて内部温度を260℃にした。この時、容器内の内圧は2.25MPaであった。内部温度が260℃に達した直後に攪拌を停止し、放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを17分間かけて抜き出した。系内圧力を常圧に戻した後に窒素気流下とし、重合物を容器下部より抜き出した。得られた重合物は白色のポリマーであった。
【0034】
実施例1〜3、および比較例1〜2によって得られたポリオキサミド樹脂のηr、末端基濃度、数平均分子量を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1により得られたポリオキサミド樹脂の重硫酸中でのNMRスペクトルと得られたピークの帰属を図1に示す。図1において、化学式に記載した符号a〜oは、NMRスペクトルのピークに示した符号a〜oが対応する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の方法は、以上詳述したように、容器内に原料のシュウ酸ジエステルをあらかじめ仕込み、次いでジアミンを混合することにより、高分子量のポリオキサミド樹脂を得る事ができる。また、従来公知の溶媒中での前重合工程を省略するとともに、溶媒を留去する工程およびこれにかかる時間、エネルギーをも省略することが可能となり、高分子量のポリオキサミド樹脂を高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ポリオキサミド樹脂の重硫酸中でのNMRスペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分がシュウ酸であるポリアミド樹脂の製造法において、容器内に原料のシュウ酸ジエステルをあらかじめ仕込み、次いでジアミンを混合することを特徴とする、ポリアミド樹脂製造法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアミド樹脂製造法において、重縮合反応により発生するアルコールを溶媒として用いることを特徴とする、ポリアミド樹脂製造法。
【請求項3】
炭素数6〜12のジアミンを原料とする、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂の製造法。
【請求項4】
原料ジアミンが1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分からなる、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂の製造法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂製造法において、耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する工程を含むことを特徴とする、ポリアミド樹脂製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のポリアミド樹脂製造方法において、縮合反応によって生成したアルコールによって加圧された耐圧容器内からアルコールを抜き出して放圧した後に、常圧下または減圧下において重縮合反応を行うことを特徴とする、ポリアミド樹脂の製造法。
【請求項7】
ポリアミド樹脂濃度1.0g/dlの96%硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが2.2〜6.0である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造法により製造されるポリアミド樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235224(P2009−235224A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82610(P2008−82610)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】