説明

ポリアミド酸組成物およびその応用

【課題】様々な構造を有するポリイミドについて、耐熱性や透明性、フィルムの表面平滑性や機械的強度などの優れた特性を維持しながら、簡便に比誘電率を低下させることができる新規な手段およびその応用を提供すること。
【解決手段】ポリアミド酸とフッ素含有アルコキシシランとを含有するポリアミド酸組成物を用いれば、比誘電率が低下したポリイミドが得られる。フッ素含有アルコキシシランとしては、好ましくは、フッ素化アルキル基含有アルコキシシランが用いられる。比誘電率が低下したポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層すれば、情報伝達能力に優れたプリント基板が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸組成物およびその応用に関し、さらに詳しくは、比誘電率が低下したポリイミドを与えるポリアミド酸組成物およびそれから得られるポリイミドフィルム、ならびに、プリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド、特に縮合型のポリイミドは、電気絶縁材料として、C種(最高使用温度限界180〜200℃)以上の耐熱性を有すると共に、熱膨張係数が小さいので、例えば、プリント基板の基材などに広く用いられている。
【0003】
近年、通信の高周波化やコンピューターシステムの高速度化が求められており、プリント基板の基材を構成するポリイミドの比誘電率を低下させると、例えば、プリント基板上に組み込まれた回路の高周波特性を向上させることができることや、ポリイミド基材上に積層された配線層を流れる信号の遅延時間を短くすることができることから、ポリイミドの比誘電率を低下させる方法の開発が望まれている。
【0004】
ポリイミドの比誘電率を低下させる方法としては、例えば、ポリイミドにシリカなどの無機微粒子を分散させることが提案されている。しかし、このような方法では、ポリイミドに無機微粒子をナノレベルで微分散させることが困難であるので、ポリイミドをフィルム状に成形した場合にフィルムの表面平滑性や透明性が損なわれるという問題がある。表面平滑性が損なわれると、ポリイミドフィルムをプリント基板の基材に用いた場合に、金属層を構成する銅箔に対する密着性が劣り、プリント基板の品質が低下することになる。
【0005】
そこで、特許文献1には、側鎖に分極率が小さいt−ブチル基を有する2個のジフェニルエーテル構造が連結基で相互に連結された芳香族ジアミン化合物を用いることにより、比誘電率が低下した特定構造のポリイミドが開示されている。しかし、このような方法では、特定構造の芳香族ジアミン化合物を用いる必要があるので、様々な構造を有するポリイミドに適用できるという汎用性に欠けると共に、芳香族ジアミン化合物の構造とポリイミドの比誘電率との間に相関関係が認められないので、ポリイミドの比誘電率を所望の値に調節することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、高耐熱性の芳香族ポリイミド層を有する熱圧着性多層ポリイミドフィルムに低誘電率フッ素樹脂フィルムを積層させた高耐熱性の低誘電率ポリイミド基板が開示されている。このような方法では、両者のフィルムを有機フッ素化合物の存在下に減圧プラズマ放電処理した熱圧着性の芳香族ポリイミド層面を介して熱および圧力によりラミネートする必要があるので、製造工程が煩雑になると共に、ポリイミドフィルムに加えてフッ素樹脂フィルムを用いる必要があるので、製造コストが上昇するという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献3には、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させて溶液状態のポリアミド酸を得た後、このポリアミド酸を急速に加熱し、残存溶剤や発生する縮合水を揮発させることにより、均一に発泡したポリイミド発泡体が開示されている。しかし、このような方法では、ポリアミド酸をフィルム状に成形することが困難であると共に、発泡体であることから表面平滑性や透明性が損なわれ、また、気泡を有することから機械的強度が低下するという問題がある。
【特許文献1】特開2001−323061号公報
【特許文献2】特開2004−216830号公報
【特許文献3】特開2004−342541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、様々な構造を有するポリイミドについて、耐熱性や透明性、フィルムの表面平滑性や機械的強度などの優れた特性を維持しながら、簡便に比誘電率を低下させることができる新規な手段およびその応用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討の結果、ポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物にフッ素含有アルコキシシランを配合すれば、耐熱性や透明性、フィルムの表面平滑性や機械的強度などの優れた特性を維持しながら、比誘電率が低下したポリイミドが簡便に得られることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリアミド酸とフッ素含有アルコキシシランとを含有することを特徴とするポリアミド酸組成物を提供する。前記フッ素含有アルコキシシランは、好ましくは、フッ素化アルキル基含有アルコキシシランである。
【0011】
また、本発明のポリアミド酸組成物は、好ましくは、さらに窒素含有アルコキシシランを含有する。前記窒素含有アルコキシシランは、好ましくは、アミノ基含有アルコキシシランである。
【0012】
さらに、本発明は、前記ポリアミド酸組成物から得られることを特徴とするポリイミドフィルム、ならびに、該ポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層してなることを特徴とするプリント基板を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物にフッ素含有アルコキシシランを配合するだけであるので、比誘電率が低下したポリイミドを簡便に得ることができる。なお、この手段は、特定のポリイミドに限定されないので、汎用性があり、様々な構造を有するポリイミドに適用することができる。
【0014】
また、ポリアミド酸組成物を製造する際に、フッ素化アルコキシシランに加えて、さらに窒素含有アルコキシシランを配合すれば、フッ素含有アルコキシシランを組成物中に略均一に分散させることができる。それゆえ、得られたポリイミドの比誘電率を全体にわたって略均一に低下させることができる。
【0015】
さらに、ポリアミド酸組成物からポリイミドフィルムを作製する場合には、フッ素化アルコキシシランがナノレベルで分散しているので、例えば、シリカなどの無機微粒子を添加したり、ポリイミドを発泡させたりする従来技術の場合と異なり、フィルムの表面平滑性を損なうことがなく、機械的強度が低下することもない。このようなポリイミドフィルムを基材とするプリント基板は、金属層に対するポリイミドフィルムの密着性が向上すると共に、ポリイミドフィルム上に積層された配線層を流れる信号の遅延時間を短くできるなど、優れた品質を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
≪ポリアミド酸組成物≫
本発明のポリアミド酸組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)は、ポリアミド酸とフッ素含有アルコキシシランとを含有することを特徴とする。本発明のポリアミド酸組成物は、好ましくは、さらに窒素含有アルコキシシランを含有する。
【0017】
本発明のポリアミド酸組成物は、加熱処理、減圧乾燥などの処理、好ましくは加熱処理を行うと、ポリアミド酸からポリイミドが生成する。得られたポリイミドは、その中に分散したフッ素含有アルコキシシランがポリイミドの比誘電率を低下させる。なお、フッ素含有アルコキシシランは、例えば、シリカなどの無機微粒子を添加する従来技術の場合と異なり、ナノレベルで分散している。また、フッ素含有アルコキシシランに加えて、さらに窒素含有アルコキシシランを配合すれば、窒素含有アルコキシシランは、ポリアミド酸を含有する組成物中にフッ素含有アルコキシシランを略均一に分散させる作用を有する。
【0018】
以下に、本発明の組成物に配合されるポリアミド酸、フッ素含有アルコキシシラン、窒素含有アルコキシシランなどについて、詳しく説明する。
【0019】
<ポリアミド酸>
本発明の組成物は、加熱処理、減圧乾燥などの処理によってポリイミドを生成する前駆体として、ポリアミド酸を含有する。
【0020】
ポリアミド酸の配合量は、組成物の合計量に対して、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは20〜95質量%、さらに好ましくは30〜90質量%である。ポリアミド酸の配合量が10質量%未満であると、ポリイミドフィルムを形成した場合、機械的強度が低下することがある。逆に、ポリアミド酸の配合量が99質量%を超えると、得られるポリイミドの比誘電率を充分に低下させることができないことがある。
【0021】
本発明の組成物に配合されるポリアミド酸は、特に限定されるものではないが、具体的には、下記式(1):
【0022】
【化1】

【0023】
[式中、Xは4価の有機基、Yは2価の有機基である;該有機基はハロゲン原子を含有していてもよい]
で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸である。
【0024】
上記式(1)において、Xで表される4価の有機基としては、例えば、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコールなどに由来する4価の脂肪族有機基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼンなどに由来する4価の芳香族有機基;などが挙げられる。これらの4価の有機基のうち、4価の芳香族有機基が好適である。
4価の芳香族有機基としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式:
【0025】
【化2】

で示される4価の基が挙げられる。
【0026】
上記5種類の式において、RおよびRは、水素原子またはハロゲン原子(すなわち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)を表す。4価の基がRおよびRを有する場合、これらのRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、また、それぞれ、各ベンゼン環において同一であっても異なっていてもよい。
また、上記5種類の式において、Zは、直接結合または下記式:
【0027】
【化3】

【0028】
で示される2価の基である。上記「Z」を示す式において、X’は、水素原子またはハロゲン原子(すなわち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)を表す。上記「Z」を示す式において、2個以上のハロゲン原子が存在する場合、これらのハロゲン原子は同一であっても異なっていてもよく、また、各ベンゼン環上で同一であっても異なっていてもよい。これらの2価の基のうち、Zは、直接結合または下記式:
【0029】
【化4】

で示される2価の基が好ましい。
【0030】
一般に、耐熱性、耐薬品性、撥水性および低誘電性を考慮すると、炭素−水素結合が少ないポリイミドが好ましい。それゆえ、ポリイミドの用途によっては、ポリイミド前駆体として、炭素−水素結合の全部または一部が炭素−ハロゲン結合に置換されたポリアミド酸を用いることが好ましい。この場合、例えば、4価の有機基は、炭素−水素結合の水素原子がハロゲン原子(すなわち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)に置換されている。置換されるハロゲン原子の種類は、4価の有機基において、同一でも異なっていてもよい。4価の有機基がハロゲン原子を含有する場合、4価のフッ素化芳香族有機基が好ましく、4価の全フッ素化芳香族有機基がより好ましい。
【0031】
上記式(1)において、Yで表される2価の有機基としては、例えば、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコールなどに由来する2価の脂肪族基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼンなどに由来する2価の芳香族基;2個以上の該脂肪族基や該芳香族基が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子などの炭素原子以外の異種原子で結合した2価の有機基;などが挙げられる。
【0032】
2価の有機基が2個以上のハロゲン原子を含有する場合、これらのハロゲン原子は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
上記式(1)において、Yで表される2価の有機基としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式:
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
で示される2価の基が挙げられる。これらの2価の基のうち、耐熱性、耐薬品性、撥水性および低誘電性を考慮すると、ポリイミドの用途によっては、上記ii)に示す2価の有機基が好ましい。
【0037】
上記i)において、Y’は、水素原子またはハロゲン原子(すなわち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子)を表す。上記i)において、ハロゲン原子が2個以上存在する場合、これらのハロゲン原子は同一であっても異なっていてもよく、また、各ベンゼン環上で同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
上記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸の製造方法については、以下に詳述する。この記載から、ポリアミド酸の末端は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸誘導体の添加量(モル比)によって異なるものの、アミン末端または酸誘導体末端のいずれかであると考えられる。なお、ポリアミド酸は、同一の繰り返し単位からなるものであっても異なる繰り返し単位からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰り返し単位はブロック状であってもランダム状であってもよい。
【0039】
ポリアミド酸は、従来公知の技術またはその組合せによって製造することができ、その方法は、特に限定されるものではない。一般的には、有機溶媒中で、下記式(2)で示されるジアミン化合物(以下、単に「ジアミン化合物」ということがある。)を、下記式(3)で示されるテトラカルボン酸、その酸無水物もしくは酸塩化物、またはそのエステル化物(以下、単に「テトラカルボン酸類」ということがある。)などと反応させる方法が好適に使用される。なお、下記式(2)における「Y」および下記式(3)における「X」は、上記式(1)における定義と同様である。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
ジアミン化合物は、テトラカルボン酸類と反応して上記式(2)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸が製造できるような構造を有するものであれば、特に限定されるものではない。ジアミン化合物としては、例えば、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、4,5,6−トリクロロ−1,3−ジアミノ−2―フルオロベンゼン、5−ブロモ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラブロモ−1,3−ジアミノベンゼンなどが挙げられる。これらのジアミン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのジアミン化合物のうち、パラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼンが好適である。
【0043】
他方、テトラカルボン酸類は、特に限定されるものではなく、特開平11−147955号公報に記載の方法など、従来公知の技術またはその組合せによって製造することができる。テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリト酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)スルフィド、ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェニル)スルフィド、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、3,6−ジフルオロピロメリト酸、3,6−ジクロロピロメリト酸、3−クロロ−6−フルオロピロメリト酸などのテトラカルボン酸;対応する酸二無水物;対応する酸塩化物;メチルエステル、エチルエステルなどの対応するエステル化物;などが挙げられる。これらのテトラカルボン酸類は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのテトラカルボン酸類のうち、ピロメリト酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、ならびに、これらの対応する酸二無水物および酸塩化物が好適である。
【0044】
有機溶媒中で、ジアミン化合物をテトラカルボン酸類と反応させる方法により、所望のポリアミド酸を製造することができる。
【0045】
ジアミン化合物の添加量は、テトラカルボン酸類と効率よく反応できる量であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、ジアミン化合物の添加量は、化学量論的には、テトラカルボン酸類と等モルであるが、テトラカルボン酸類などの全モル数を1モルとした場合に、好ましくは0.8〜1.2モル、より好ましくは0.9〜1.1モルである。この際、ジアミン化合物の添加量が0.8モル未満であると、テトラカルボン酸類が多量に残存してしまい、精製工程が複雑になることがあり、また、重合度が大きくならないことがある。逆に、ジアミン化合物の添加量が1.2モルを超えると、ジアミン化合物が多量に残存してしまい、精製工程が複雑になることがあり、また、重合度が大きくならないことがある。
【0046】
反応は、有機溶媒中で行うことができる。有機溶媒は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応が効率よく進行でき、かつこれらの原料に対して不活性であれば、特に限定されるものではない。使用可能な有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの極性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、有機溶媒の量は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応が効率よく進行できる量であれば、特に限定されるものではないが、有機溶媒中のジアミン化合物の濃度が1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%となるような量であることが好ましい。
【0047】
ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応条件は、これらの反応が充分進行できる条件であれば、特に限定されるものではない。例えば、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃である。また、反応時間は、通常、1〜192時間、好ましくは2〜144時間である。また、反応は、加圧下、常圧下または減圧下のいずれの圧力下で行ってもよいが、好ましくは常圧下で行われる。また、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応は、反応効率および重合度などを考慮すると、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。この際の反応雰囲気における相対湿度は、好ましくは10%RH以下、より好ましくは1%RH以下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが使用できる。
【0048】
<フッ素含有アルコキシシラン>
本発明のポリアミド酸組成物は、ポリアミド酸に加えて、フッ素含有アルコキシシランを含有する。このフッ素含有アルコキシシランは、ポリアミド酸組成物から得られるポリイミドの比誘電率を低下させる作用を有する。
【0049】
フッ素含有アルコキシシランとしては、ポリイミドの比誘電率を低下させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(4):
【0050】
【化9】

【0051】
[式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rはフッ素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基は少なくとも1個のフッ素原子を含有する;nは1〜3の整数である]
で示されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0052】
上記式(4)において、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基は、少なくとも1個のフッ素原子を含有するが、好ましくはフッ素化アルキル基、より好ましくは全フッ素化アルキル基である。
【0053】
上記式(4)において、Rで表される炭素数1〜4のアルキル基や、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜10のアリール基は、置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基およびハロゲン原子などが挙げられる。
【0054】
フッ素含有アルコキシシランの具体例としては、例えば、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(1H、1H、2H、2H−パーフルオロオクチル)トリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、(1H、1H、2H、2H−パーフルオロオクチル)トリエトキシシラン、(1H、1H、2H、2H−パーフルオロデシル)トリエトキシシラン、{3−(ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル}トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン、(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)メチルジメトキシシランなどが挙げられる。これらのフッ素含有アルコキシシランは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのフッ素含有アルコキシシランのうち、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシランが特に好適である。
【0055】
フッ素含有アルコキシシランの配合量は、組成物中のポリアミド酸に対して、1〜90質量%、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%の範囲内である。フッ素含有アルコキシシランの配合量が1質量%未満であると、得られるポリイミドの比誘電率を充分に低下させることができないことがある。逆に、フッ素含有アルコキシシランの配合量が90質量%を超えると、得られるポリイミドの外観が劣ることがある。
【0056】
<窒素含有アルコキシシラン>
本発明のポリアミド酸組成物は、ポリアミド酸およびフッ素含有アルコキシシランに加えて、好ましくは、窒素含有アルコキシシランを含有する。この窒素含有アルコキシシランは、ポリアミド酸に対する親和性が良好であることから、ポリアミド酸を含有する組成物中にフッ素含有アルコキシシランを略均一に分散させる作用を有する。フッ素含有アルコキシシランが組成物中に略均一に分散していれば、この組成物から得られるポリイミドの比誘電率を全体にわたって略均一に低下させることができる。
【0057】
窒素含有アルコキシシランは、組成物中にフッ素含有アルコキシシランを略均一に分散させることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(5):
【0058】
【化10】

【0059】
[式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基は少なくとも1個の窒素原子を含有する;mは1〜3の整数である]
で示されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0060】
上記式(5)において、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜10のアリール基は、少なくとも1個の窒素原子を含有するが、好ましくはアミノ基を含有する。
【0061】
上記式(5)において、Rで表される炭素数1〜4のアルキル基や、Rで表される炭素数1〜10のアルキル基および炭素数6〜10のアリール基は、置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基およびハロゲン原子などが挙げられる。
【0062】
窒素含有アルコキシシランの具体例としては、例えば、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、(3−メチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、(N−メチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、{3−(2−アミノエチル)アミノプロピル}トリメトキシシラン、{3−(フェニルアミノ)プロピル}トリメトキシシラン、(2−シアノエチル)トリメトキシシラン、(3−イソシアノプロピル)トリメトキシシラン、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン、(2−シアノエチル)トリエトキシシラン、(3−シアノプロピル)トリエトキシシラン、(3−イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン、{3−(2−アミノエチル)アミノプロピル}メチルジメトキシシラン、(3−アミノプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アミノプロピル)ジメチルエトキシシランなどが挙げられる。これらの窒素含有アルコキシシランは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの窒素含有アルコキシシランのうち、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、(3−アミノプロピル)トリエトキシシランが特に好適である。
【0063】
窒素含有アルコキシシランの配合量は、組成物中のポリアミド酸に対して、好ましくは0.01〜80質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは1〜20質量%の範囲内である。窒素含有アルコキシシランの配合量が0.01質量%未満であると、組成物中にフッ素含有アルコキシシランを略均一に分散させる効果が小さいことがある。逆に、窒素含有アルコキシシランの配合量が80質量%を超えると、得られるポリイミドの外観が劣ることがある。
【0064】
≪ポリアミド酸組成物の製造≫
本発明のポリアミド酸組成物は、必須成分であるポリアミド酸と、フッ素含有アルコキシシランと、必要に応じて配合する窒素含有アルコキシシランとを適当な割合で混合し、充分に攪拌し、脱泡することにより、ワニスの形態として製造することができる。本発明のポリアミド酸組成物の製造に使用する装置や条件としては、従来公知の装置や条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。
【0065】
≪ポリイミドフィルム≫
本発明のポリアミド酸組成物をフィルム状に成形した後、加熱処理、減圧乾燥などの処理を行って、該組成物中のポリアミド酸を閉環させることにより、本発明のポリイミドフィルムが得られる。
【0066】
本発明のポリアミド酸組成物をフィルム状に成形する方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法などが挙げられる。
【0067】
本発明のポリアミド酸組成物をフィルム状に成形する際に使用する基板としては、無機材料、有機材料を問わず、従来公知の材料を使用することができるが、例えば、ポリイミドを加熱処理して焼成する場合には、加熱処理時の温度で熱変形を起こさないという観点から、シリコンなどの半導体基板;石英、パイレックス(登録商標)などのガラス基板;アルミニウム、銅などの金属基板;金属酸化物基板;ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂基板;有機・無機ハイブリッド基板;などを使用することが好ましい。また、本発明のポリアミド酸組成物をフィルム状に成形する際に、ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂フィルムを使用することも好ましい。本発明のポリイミドフィルムを、ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂フィルム上に形成した場合には、得られたポリイミドフィルムを樹脂フィルムから剥離することなく使用することができる。樹脂フィルムとしては、例えば、カプトン(デュポン社の登録商標)フィルムなどを使用することができる。
【0068】
フィルム状に成形された本発明のポリアミド酸組成物に加熱処理、減圧乾燥などの処理を行う方法や条件は、該組成物中のポリアミド酸が効率よく閉環して、所望のポリイミドフィルムを製造できる方法や条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、加熱処理は、通常、空気中、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、好ましくは、70℃〜350℃程度の温度で、好ましくは、2〜5時間程度行われる。また、加熱処理は、連続的に行っても、あるいは段階的に行ってもよい。減圧乾燥は、通常、常温、冷却または加熱下、好ましくは1.33×10−1Pa(1×10−3Torr)〜1.01×10Pa(760Torr)未満程度の減圧下で、好ましくは2〜24時間程度行われる。また、減圧乾燥は、連続的に行っても、あるいは段階的に行ってもよい。
【0069】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは、その用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、フレキシブル基板に用いる場合には、好ましくは10〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。この場合、ポリイミドフィルムの厚さが10μm未満であると、フレキシブル基板の強度が低下することがある。逆に、ポリイミドフィルムの厚さが500μmを超えると、フレキシブル基板の可撓性が低下することがある。また、例えば、リジッド基板に用いる場合には、好ましくは500μm〜3mm、より好ましくは1mm〜2mmである。この場合、ポリイミドフィルムの厚さが500μm未満であると、リジッド基板の剛性が低下することがある。逆に、ポリイミドフィルムの厚さが3mmを超えると、リジッド基板の経済性が低下することがある。さらに、本発明のポリイミドフィルムを、ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂フィルム上に形成する場合には、好ましくは0.5〜500μm、より好ましくは1〜300μmである。
本発明のポリイミドフィルムを構成するポリイミドは、具体的には、下記式(6):
【0070】
【化11】

【0071】
[式中、XおよびYは上記式(1)における定義と同様である]
で示される繰り返し単位を有するポリイミドである。なお、本発明においては、フッ素含有アルコキシシランや窒素含有アルコキシシランを含有するポリイミドを単に「ポリイミド」といい、フッ素含有アルコキシシランや窒素含有アルコキシシランを含有するポリイミドフィルムを単に「ポリイミドフィルム」ということがある。
【0072】
上記式(6)において、Xで表される4価の有機基やYで表される2価の有機基の具体例は、例えば、ポリアミド酸について説明した際に列挙した上記の具体例が挙げられる。
【0073】
本発明のポリイミドフィルムは、その前駆体であるポリアミド酸組成物にフッ素含有アルコキシシランを配合しているので、比誘電率が低下している。本発明においては、フッ素含有アルコキシシランの種類や配合量を調節することにより、得られたポリイミドフィルムの比誘電率を制御することができる。このような方法によれば、フッ素含有アルコキシシランを含有するポリアミド酸組成物から得られたポリイミドフィルムの比誘電率は、フッ素含有アルコキシシランを含有しないポリアミド酸組成物から得られたポリイミドフィルムの比誘電率に比べて、例えば、25℃、1MHzで1〜20%程度低下させることができる。
【0074】
≪プリント基板≫
本発明のプリント基板は、上記のようなポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層してなることを特徴とする。すなわち、本発明のポリイミドフィルムは、プリント基板の基材として用いることができる。金属層としては、配線層として機能するので、電気伝導率が高い金属または合金から構成されていれば、特に限定されるものではないが、例えば、銅箔、無電解メッキによる銅メッキ層などが用いられる。金属層は、例えば、ポリイミドフィルムに接着剤で銅箔を貼付するか、あるいは、ポリイミドフィルムに無電解メッキにより銅メッキ層を形成すればよい。また、金属層は、例えば、銅メッキ層からなる単一層であってもよいし、例えば、ニッケルメッキ層上に銅メッキ層や金・銀メッキ層を形成したような2層またはそれ以上の層からなる複数層であってもよい。なお、金属層の厚さは、フレキシブル基板やリジッド基板などの種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0075】
本発明のプリント基板は、1枚のポリイミドフィルムの片面または両面に金属層が積層された単層プリント基板、あるいは、複数枚の単層プリント基板を、例えば、接着剤などを用いて、貼り合わせた複層プリント基板とすることができる。また、用いるポリイミドフィルムの厚さに応じて、折り曲げることができるフレキシブル基板、堅い板状のリジッド基板、あるいは、その両者を組み合わせたリジッドフレキシブル基板またはフレックスリジッド基板とすることができる。
【0076】
本発明のプリント基板は、金属層を積層する基材が上記のようなポリイミドフィルムであること以外は、従来公知のプリント基板と同様である。それゆえ、本発明のプリント基板は、上記のようなポリイミドフィルムを基材として用いること以外は、従来公知のプリント基板と同様にして製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
まず、ポリイミドフィルムの比誘電率を求める方法について説明する。
【0079】
<比誘電率>
ポリイミドフィルムの比誘電率は、ヒューレット・パッカード社製のインピーダンスアナライザ4294Aを用いて、25℃、空気雰囲気下、周波数1MHzで、フィルムの静電容量を測定し、次式から算出した。
C=ε×ε×S/d
ここで、Cはフィルムの静電容量[F]、εはフィルムの比誘電率、εは真空の誘電率=8.85419×10−12[F/m]、Sはフィルムの面積[m]、dはフィルムの膜厚[m]を表す。
【0080】
≪合成例1≫
容量50mLの三ツ口フラスコに、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン1.80g(10.0mmol)、下記式(7):
【0081】
【化12】

【0082】
で示される4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)5.82g(10.0mmol)およびN,N−ジメチルアセトアミド12.4gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中、室温で6日間攪拌することにより、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:38.0質量%)を得た。
【0083】
≪合成例2≫
容量50mLの三ツ口フラスコに、ビス(4−アミノフェニル)エーテル2.00g(10.0mmol)、無水ピロメリト酸2.18g(10.0mmol)およびN−メチル−2−ピロリジノン9.75gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中、50℃で6時間攪拌することにより、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:30.0質量%)を得た。
【0084】
≪実施例1≫
合成例1で得られたポリアミド酸溶液10.0gに、N、N−ジメチルアセトアミド3.00g、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン1.63g、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン0.33gおよび純水0.33gを添加し、自公転遠心式混合装置(商品名「あわとり練太郎(登録商標)」;(株)シンキー製)を用いて、攪拌し、脱泡し、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0085】
得られたポリアミド酸組成物をシリコン基板上に滴下し、スピンコーティング法で製膜し、この被膜を窒素置換された320℃の焼成炉で連続的に加熱処理を行って、厚さ30μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの比誘電率を求めたところ、2.8であった。結果を表1に示す。
【0086】
≪比較例1≫
合成例1で得られたポリアミド酸溶液のみをシリコン基板上に滴下し、スピンコーティング法で製膜し、この被膜を窒素置換された320℃の焼成炉で連続的に加熱処理を行って、厚さ30μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの比誘電率を求めたところ、2.9であった。結果を表1に示す。
【0087】
≪実施例2≫
合成例2で得られたポリアミド酸溶液10.0gに、N−メチル−2−ピロリジノン3.00g、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン1.29g、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン0.26gおよび純水0.26gを添加し、自公転遠心式混合装置(商品名「あわとり練太郎(登録商標)」;(株)シンキー製)を用いて、攪拌し、脱泡し、ポリアミド酸組成物を調製した。
【0088】
得られたポリアミド酸組成物をシリコン基板上に滴下し、スピンコーティング法で製膜し、この被膜を窒素置換された320℃の焼成炉で連続的に加熱処理を行って、厚さ30μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの比誘電率を求めたところ、3.3であった。結果を表1に示す。
【0089】
≪比較例2≫
合成例2で得られたポリアミド酸溶液のみをシリコン基板上に滴下し、スピンコーティング法で製膜し、この被膜を窒素置換された320℃の焼成炉で連続的に加熱処理を行って、厚さ30μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの比誘電率を求めたところ、3.6であった。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1から明らかなように、実施例1および2のポリイミドフィルムは、その原料であるポリアミド酸組成物にフッ素含有アルコキシシランを配合しているので、それぞれ、比較例1および2のポリイミドフィルムに比べて、比誘電率が低下している。このように、ポリイミドが実施例1のようにハロゲン化ポリイミドであっても、実施例2のように非ハロゲン化ポリイミドであっても、その原料であるポリアミド酸組成物にフッ素含有アルコキシシランを配合することにより、フッ素含有アルコキシシランを配合しない場合に比べて、比誘電率が低下したポリイミドが得られる。得られたポリイミドは、フッ素含有アルコキシシランがナノレベルで分散しているので、ポリイミドの物性に悪影響を与えることはなく、耐熱性や透明性などの優れた特性を維持している。
【0092】
かくして、ポリアミド酸とフッ素含有アルコキシシランとを含有するポリアミド酸組成物は、加熱処理や減圧乾燥などの処理を行うことにより、様々な構造を有するポリイミドについて、耐熱性や透明性、フィルムの表面平滑性や機械的強度などの優れた特性を維持しながら、比誘電率が低下したポリイミドを簡便に与える。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリアミド酸組成物は、加熱処理、減圧乾燥などの処理を行うことにより、耐熱性や透明性、フィルムの表面平滑性や機械的強度などの優れた特性を維持しながら、比誘電率が低下したポリイミドを簡便に与える。本発明のポリイミドフィルムは、このように比誘電率が低下しているので、例えば、プリント基板の基材に用いれば、ポリイミドフィルム上に積層された配線層を流れる信号の遅延時間を短くすることができる。本発明のプリント基板は、このように信号の伝搬速度が大きいので、通信の高周波化やコンピューターシステムの高速度化に対応することができると共に、各種のエレクトロニクス機器において、その性能を飛躍的に向上させることができる。それゆえ、本発明は、通信やコンピューターハードウェア、各種のエレクトロニクス機器の分野において多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸とフッ素含有アルコキシシランとを含有することを特徴とするポリアミド酸組成物。
【請求項2】
前記フッ素含有アルコキシシランがフッ素化アルキル基含有アルコキシシランである請求項1記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
さらに窒素含有アルコキシシランを含有する請求項1または2記載のポリアミド酸組成物。
【請求項4】
前記窒素含有アルコキシシランがアミノ基含有アルコキシシランである請求項3記載のポリアミド酸組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のポリアミド酸組成物から得られることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項5記載のポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層してなることを特徴とするプリント基板。

【公開番号】特開2008−56897(P2008−56897A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139561(P2007−139561)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】