説明

ポリアミド酸組成物並びにそれを用いたポリイミドフィルム及びポリイミド被覆物

【課題】 着色や亀裂の発生が防止された透明で平滑なポリイミドフィルムが得られるポリアミド酸組成物の提供。
【解決手段】 ポリアミド酸及び第3級芳香族アミン化合物を含んでなり、ポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミン化合物のモル比が0.01〜0.5の範囲であるポリアミド酸組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド酸組成物並びにそれを用いたポリイミドフィルム及びポリイミド被覆物に関し、更に詳しくはフィルム化したときに着色が防止され、亀裂なども発生しない平滑で透明なポリイミドフィルムを得ることができるポリアミド酸組成物並びにそれを用いたポリイミドフィルム及びポリイミド被覆物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の小型精密機器類に利用されるフレキシブルプリント基板材料として、ポリイミドフィルムが、広く用いられている。フレキシブルプリント基板を小型精密機器に実装する場合には、製造工程時に透過光による正確な位置合わせが必要であるため、透過性の高いポリイミドフィルムが注目されている。また、ラビング処理したポリイミドフィルムは液晶分子の配向材料として利用され、液晶表示材料には必要不可欠な材料である。液晶表示材料はポリイミドフィルムと薄膜トラジスタ等の素子で構成された基板を用いており、ポリイミドフィルム形成時の温度が高いと素子特性の劣化あるいは極端な場合には素子が機能しないという問題があった。また、3級アミンの添加量が多い組成物ではイミド化反応時に割れや膨れ等が進行し平滑なポリイミドフィルムが容易に形成できないという問題があった。
【0003】
特許文献1には、ポリアミド酸のカルボキシル基に対して3級アミン(アルキルアミン類)をモル比0.5〜2の範囲内で添加すると、ポリイミド化反応が200℃程度で進行することが開示されているが、しかし、このフィルムは3級アミンの添加量が多いために形成されるポリイミドフィルムに着色及び膨れが認められた。また、ポリアミド酸アミン塩は高粘度体となってしまうため、取り扱い作業性が悪化するという問題もある。また非特許文献1にはジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタンの強塩基型脂肪族環状アミンをポリアミド酸に触媒量添加した系でポリイミド化反応が200℃程度で進行することが開示されているが、形成されたポリイミドフィルムが着色し、そして厚さ10μm以上のポリイミドフィルムでは加熱処理時に亀裂が進行するという問題があることを認めた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−203953号公報
【非特許文献1】Chem.Lett.,33,1156(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ポリイミドフィルム化したときに、着色が防止され、亀裂などが発生せず、そして透明で平滑なフィルムが得られるポリアミド酸組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従えば、ポリアミド酸及び第3級芳香族アミン化合物を含んでなり、ポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミン化合物のモル比が0.01〜0.5の範囲であるポリアミド酸組成物並びにそれから形成されるポリイミドフィルム及びポリイイミド被覆物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るポリアミド酸と第3級芳香族アミン化合物、特にイミダゾール化合物などの含窒素複素芳香環化合物とからなるポリアミド酸組成物は、イミド化温度が300℃以下の温度でイミド化できるため熱劣化によるポリイミドフィルムの着色が防止でき、そして配合されているアミン化合物が触媒量であるためアミン触媒によるポリイミドフィルムの着色も防止できる。また、本発明のポリアミド酸組成物から厚さ50μm以上のポリイミドフィルムを形成する場合には、フィルム中に亀裂等が進行せず、平滑で透明なポリイミドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、ポリアミド酸と第3級芳香族アミン化合物、特に窒素含有複素芳香環アミン化合物とからなり、ポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミン化合物のモル比が0.01〜0.5の範囲、好ましくは0.02〜0.35の範囲のポリアミド酸組成物が前記課題を解決し得ることを見出し、本発明をするに至った。
【0009】
本発明ではポリアミド酸と第3級芳香族アミン化合物、特にイミダゾール化合物などの窒素含有複素芳香環アミン化合物とを前記した特定のモル比で配合したポリアミド酸組成物を用いることによって、例えば250℃程度の300℃未満の加熱処理で透過性が高く、しかも着色や亀裂のないポリイミドフィルムを得ることができる。
【0010】
本発明では前述の如く、ポリアミド酸に、第3級芳香族アミン化合物、特にイミダゾール化合物などの窒素含有複素芳香環アミン化合物を、ポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミン化合物のモル比で0.01〜0.5、好ましくは0.02〜0.35で配合することによって得られるポリアミド酸組成物が300℃未満、特に200〜280℃の温度での加熱処理で透過性の高いポリイミドフィルムが得られ、添加するアミン化合物が触媒量であるためアミン触媒によるポリイミドフィルムの着色も防止でき、また、厚さ50μm以上のポリイミドフィルムを形成する場合に、亀裂等が進行せず、平滑なポリイミドフィルムが得られる。
【0011】
本発明において使用するポリアミド酸は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを重合反応させて得られるものである。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に制限はなく、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は単独で又は2種以上組合せて用いることができる。次に、芳香族ジアミンとしては、特に制限はなく、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。これらの芳香族ジアミンは単独で又は2種以上組合せて用いることができる。これらはすべて公知の化合物であり、各種市販品を用いることができる。
【0012】
本発明において使用する第3級芳香族アミン化合物としては例えばメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;ピリジン、キノリン、ピロリン、ピラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピラゾール、ピリミジン又はそれらの誘導体などの第3級窒素含有複素環アミン化合物;N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリンなどの芳香族アミンなどを挙げることができ、本発明においては前記イミダゾール化合物の使用が好ましい。
【0013】
本発明の組成物において、ポリアミド酸と第3級芳香族アミン化合物との配合比はポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミンのモル比で0.01〜0.5、好ましくは0.02〜0.35の範囲内である。この配合比が少ないと比較的低温の250℃で高いイミド化率を得るという本発明の特徴が充分発現しないので好ましくなく、逆に多いとポリイミドフィルムがアミンにより着色されてしまい、透過性が低くなる。また、イミド化反応時に割れ膨れ等が進行し平滑なポリイミドフィルムが容易に形成できないので好ましくない。
【0014】
ポリアミド酸のポリイミドへの反応は加熱によりポリアミド酸を閉環させてポリイミドとする。この時必要な温度は、触媒がなければ300℃以上である。アミン触媒があれば、用いるポリアミド酸とアミン触媒に依存するが、150〜300℃の範囲であり、第3級芳香族アミンを適当に選択すれば150〜280℃の範囲でポリイミド化が100%進行する。具体的な化合物を例示すれば以下の通りである。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明に係るポリアミド酸組成物には、前記した必須成分に加えて、必要に応じ、イミド化の化学的転化剤として無水酢酸等の酸無水物などの添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混合して組成物とすることができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0018】
実施例1〜4及び比較例1〜3
サンプルの調製
表Iに示す配合に従って、ポリアミド酸ワニス100重量部(ポリアミド酸固形分20重量部)に対し、各第3級アミンを添加混合することによってポリアミド酸組成物を調製した。次に得られたポリアミド酸組成物を用いて以下に示す試験法でその物性を評価した。結果は表Iに示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表I脚注
*1:宇部興産(株)製U−ワニス−A(20%ポリアミド酸NMP溶液)
*2:アクロス社製1−メチルイミダゾール
*3:アクロス社製1,2−ジメチルイミダゾール
*4:関東化学(株)製トリエチルアミン
*5:関東化学(株)製1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン
【0021】
表Iに示すイミド化率は加熱処理前後の赤外吸収スペクトル変化から以下の式に基づき算出した。
【0022】
【数1】

【0023】
式中A,B,C及びDは以下の通りである。
A:加熱処理後得られるフィルムの1370cm-1の吸光度
B:加熱処理後得られるフィルムの1500cm-1の吸光度
C:第3級アミンを添加しないポリアミド酸ワニスを150℃×1時間、350℃×30分間加熱処理して形成されたポリイミドフィルムの1370cm-1の吸光度
D:第3級アミンを添加しないポリアミド酸ワニスを150℃×1時間、350℃×30分間加熱処理して形成されたポリイミドフィルムの1500cm-1の吸光度
【0024】
物性評価試験法
ポリイミドフィルムの形成
ガラス基板上にポリアミド酸組成物を塗布後、150℃で1時間、250℃で30分間加熱処理することにより厚さ75μmのポリイミドフィルムを形成した。
【0025】
平滑性
上で形成されたポリイミドフィルム表面を目視し、亀裂、膨れが発生した場合を×、発生していない場合を○とした。結果は表Iに示す。
透過性
上で形成されたポリイミドフィルムを紫外可視分光計で400nmにおける透過率を測定した。85%以上の透過率を有するイミドフィルムは透過性が高いと言える。結果は表Iに示す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上の通り、本発明に従えば、着色や亀裂のない平滑で透明なポリイミドフィルムが300℃未満で得られるのでフレキシブルプリント基板、液晶配向膜、モジュール基板用層間絶縁膜に加え、ビルトアップ基板用ビルトアップ層絶縁材料、基板パッケージ用オーバーコート材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸及び第3級芳香族アミン化合物を含んでなり、ポリアミド酸のカルボキシル基に対する第3級芳香族アミン化合物のモル比が0.01〜0.5の範囲であるポリアミド酸組成物。
【請求項2】
第3級芳香族アミン化合物が含窒素複素芳香環化合物である請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
第3級芳香族アミン化合物がイミダゾール化合物である請求項1又は2に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物を300℃未満の熱処理温度で処理して形成されるポリイミドフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のポリイミドフィルムを基板上に被覆してなるポリイミド被覆物。

【公開番号】特開2006−299158(P2006−299158A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125231(P2005−125231)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】