説明

ポリイミド前駆体溶液及びその製造方法、並びに該ポリイミド前駆体溶液を用いて製造したポリイミドフィルム、接着用フィルム、および金属ポリイミド積層体

【課題】均一で、高濃度かつ低粘度であるポリイミド前駆体溶液を得ることにより、基板への塗工性やフィルム等の成形性を改善する製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド前駆体溶液が、下記一般式〔1〕で表される化合物Iと、下記一般式〔2〕で表される化合物IIと、溶媒とを含む。




(式中、A、Bは4価の有機酸、Xは2価の有機酸、Xは同一でも異ってもよく、nは繰り返し数であり2以上の整数、を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体溶液及びその製造方法、さらには該ポリイミド前駆体溶液を用いて製造したポリイミドフィルム、金属ポリイミド積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリイミド樹脂は、エレクトロニクス分野において絶縁フィルム(絶縁層)や保護コーティング材料(保護膜)として用いられている。特に、全芳香族ポリイミド樹脂は、その優れた耐熱性、機械的特性および電気的特性から、フレキシブル回路基板、リジット回路基板、半導体用途等に広く用いられている。
【0003】
上記のような絶縁層や保護膜の形成には、従来からポリイミド前駆体溶液が用いられている。このようなポリイミド前駆体溶液として、具体的には、ポリアミド酸を有機溶媒中に溶解させたポリアミック酸ワニス等が知られている。
【0004】
中でも、全芳香族ポリイミド樹脂を形成するポリアミック酸ワニスは、溶媒中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる溶液であり、通常、高重合度のポリマー溶液である。
【0005】
ポリイミド層や絶縁膜は、一般的に、上記ポリマー溶液を銅、ステンレス、フィルム、ガラス等の基材上に塗工、加熱乾燥することにより溶媒を除去すると共に、イミド化反応を進行させることにより形成される。
【0006】
しかしながら、ポリアミック酸ワニスは、高重合度のポリマー溶液であるため粘度が高く、ポリアミック酸ワニスを塗工できる粘度まで下げる必要がある。特に、全芳香族ポリイミド樹脂のポリイミド前駆体溶液は、溶質濃度を高くすると粘度が高くなりやすく、塗工性が著しく低下するという問題があった。ポリアミック酸ワニスの粘度を下げる一般的な手段は、溶質濃度を低くすることである。一方で、ポリアミック酸ワニスの生産性や加熱乾燥効率を高めるためには、溶質濃度が高いことが有利である。
【0007】
これに対し、高濃度かつ低粘度のポリイミド前駆体溶液を得る方法として、例えば、下記一般式に示すアミノ基を有する化合物と、カルボキシル基を有する化合物との塩を溶媒中に溶解させることが提案されている(特許文献1を参照)。
【0008】
【化1】

【0009】
すなわち、上記一般式に示すアミノ基を有する化合物は、ポリイミド前駆体溶液中に一定以上の濃度で存在すると、ポリイミド前駆体溶液の粘度が著しく上昇し、塗工性や成形性が低下すること、保管状態によってはポリイミド前駆体溶液がゲル化すること等の不具合があった。そこで、上記一般式に示すカルボキシル基を有する化合物を用いて塩として溶解させることで、粘度を下げたものである。
【0010】
また、全芳香族ポリイミドは一般的に金属や樹脂との接着性が低いという性質がある。そこで、接着性を改善する方法として、下記一般式に示される芳香族四塩基酸誘導体と、ジアミンと、両末端がアミノ基であるシロキサン化合物と、を反応させて得られるポリイミド酸をイミド化する方法が提案されている(特許文献2および3を参照)。
【0011】
【化2】

【特許文献1】特開平11−1614号公報
【特許文献2】特開2005−146074号公報
【特許文献3】特開2005−146085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1のポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布した後の乾燥、加熱条件によっては、上記アミノ基を有する化合物とカルボキシル基を有する化合物との反応が十分に進行せず、これによりポリイミドフィルム等の成形性が極めて悪く、十分な機械強度が得られないという問題があった。
【0013】
また、上記特許文献2および3の方法では、ポリイミド樹脂の線膨張係数が高くなり寸法安定性が著しく低下し、ガラス転移点温度が極端に下がることで耐熱性が低下する等、の問題があった。
【0014】
本発明は、かかる点を考慮してなされたものであり、均一で、高濃度かつ低粘度であるポリイミド前駆体溶液を得ることにより、基板への塗工性やフィルム等の成形性を改善すると共に、十分な機械的強度、金属との接着強度を有するフィルム等を得ることができるポリイミド前駆体溶液及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の酸二無水物および特定のジアミン化合物から得られる一定以上の繰り返し単位を有する下記一般式〔1〕で表される化合物Iと、4つのカルボキシル基を有する下記一般式〔2〕で表される化合物IIと、を含むポリイミド前駆体溶液を用いてポリイミドを得ることにより、上記課題が良好に解決されることを見出した。
【0016】
すなわち本発明の第1は、以下に示されるポリイミド前駆体溶液に関する。
1)下記一般式〔1〕で表される化合物Iと、下記一般式〔2〕で表される化合物IIと、溶媒と、を含むことを特徴とするポリイミド前駆体溶液である。
【0017】
【化3】

【0018】
以下、2)〜5)は、いずれも、第1の発明の好ましい実施形態の1つである。
2)前記化合物Iの繰り返し数nの平均値が、6〜100である。
3)前記化合物Iのジアミン単位のモル数をX、テトラカルボン酸二無水物単位のモル数をYとし、前記化合物IIのモル数をZとしたとき、(Y+Z)/Xが0.955以上1.1以下である。
4)前記ポリイミド前駆体溶液に含まれる化合物Iの少なくとも一部のA、または化合物IIの少なくとも一部のBが、以下に示される4価の有機基から選ばれる基である。
【0019】
【化4】

〔−Y−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【0020】
5)前記化合物Iの少なくとも一部のXが、以下に示される2価の有機基から選ばれる基である。
【0021】
【化5】

〔−Z−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【0022】
また、本発明の第2は、以下に示されるポリイミド前駆体溶液の製造方法に関する。
6)下記一般式〔3〕で表される化合物IIIと、下記一般式〔4〕で表される化合物IVと、下記一般式〔2〕で表される化合物IIとを、溶媒に配合するステップを含む、ポリイミド前駆体溶液の製造方法であって、
前記配合される化合物III、前記化合物IV、前記化合物IIのモル数をそれぞれa(モル)、x(モル)、b(モル)としたとき、a/xが0.9以上1.0以下であり、かつ(a+b)/xが0.955以上1.1以下である、ポリイミド前駆体溶液の製造方法である。
【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
以下の7)は、第2の発明の好ましい実施形態の1つである。
7)ポリイミド前駆体溶液を、6)に記載のポリイミド前駆体溶液の製造方法により製造する。
【0027】
本発明の第3は、以下に示されるポリイミドフィルムなどに関する。
8)1)〜5)および7)の何れかに記載のポリイミド前駆体溶液に含まれる前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることにより得られるポリイミドフィルムである。
9)1)〜5)および7)の何れかに記載のポリイミド前駆体溶液の塗膜を基板上に形成するステップと、前記塗膜中の前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることによりポリイミドフィルムを形成するステップとを備える、ポリイミドフィルムの製造方法である。
10)8)に記載のポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルム上に形成された接着層とを備える接着用フィルムである。
11)金属層と、1)〜5)および7)の何れかに記載のポリイミド前駆体溶液に含まれる前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることにより得られるポリイミドを含む樹脂層と、を備える金属ポリイミド積層体である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、均一で、高濃度かつ低粘度であるポリイミド前駆体溶液を得ることができる。このポリイミド前駆体溶液により、基板への塗工性やフィルム等の成形性を改善することができる。また、十分な機械的強度、金属との接着強度を有するフィルム等を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
1.本発明のポリイミド前駆体溶液
本発明のポリイミド前駆体溶液は、溶媒中に、ポリアミック酸化合物と、テトラカルボン酸化合物とを含有する。
【0031】
本発明のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリアミック酸化合物は、以下の式〔1〕で表されるように、ポリアミック酸のオリゴマーであるが、両末端がアミノ基である。
【0032】
【化9】

〔式中、Aは4価の有機基を示し、Xは2価の有機基を示し、それぞれのXは同一でも異なっていてもよく、nは繰り返し数であり2以上の整数を示す〕
【0033】
上記Aは、「芳香環を含む4価の基」であることが好ましい。より具体的に、Aは、「4価の芳香環基であって、Aに結合するカルボニル基のすべてが1の芳香環に結合している基(4価の芳香環基)」であるか、または「2以上の芳香環を含む4価の基であり、Aに結合するカルボニル基のうちの2つが一方の芳香環に結合し、残りの2つがもう一方の芳香環に結合している基(2以上の芳香環を含む4価の基)」である。
【0034】
芳香環は、芳香族炭化水素であっても、芳香族複素環であってもよいが、好ましくは芳香族炭化水素である。芳香族炭化水素の例には、ベンゼン、ナフチレンや、3以上のベンゼン環が縮合した芳香環などが含まれる。「2以上の芳香環を含む4価の基」とは、2つの芳香族炭化水素、例えば、2つのベンゼンが直接結合したビフェニルや、COを介して結合したベンゾフェノンや、O、SO、S、CH、C(CH、CF、C(CFなどを介して結合した基などが含まれる。
【0035】
一般式〔1〕におけるAを、芳香環を含む基とすると、化合物Iの立体安定性が高まる。そのためポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミドの、加熱による線膨張係数が低減し、寸法安定性が向上し、且つガラス転移点が上がり、耐熱性が向上する。
【0036】
具体的には、式中のAが以下に示される4価の有機基の少なくとも1つから構成されることが好ましい。
【0037】
【化10】

〔−Y−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【0038】
上記一般式で示される4価の有機基のうち、得ようとするポリイミドフィルムの特性に応じて、好ましい有機基を選択することができる。例えば、上記一般式で示される4価の有機基のうち、ベンゼンテトライル基とナフチルテトライル基は、成形後のポリイミドフィルムの熱膨張係数を低くし、機械的強度を高めることができる。一方、Yを含む基は、成形後のポリイミドフィルムの接着性を高めることができる。
【0039】
上記一般式〔1〕におけるAの構造は、例えばポリイミド前駆体溶液の所望の粘度に応じて選択することができる。例えば、上記一般式で示される4価の有機基のうち、ベンゼンテトライル基とナフチルテトライル基は、ポリイミド前駆体溶液の粘度を上げることができる。一方、Yを含む基は、ポリイミド前駆体溶液の粘度を下げることができる。このように、目的に応じて上記一般式で示される4価の有機基のうちから適切な有機基を選択または組み合わせることが好ましい。
【0040】
上記「4価の芳香環基」は、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸無二水物(ピロメリット酸二無水物)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物から誘導される基が好ましい。
上記「2以上の芳香環を含む4価の基」は、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸二無水物、ビフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物から誘導される基が好ましい。
【0041】
一方、式〔1〕におけるXは、「芳香環を含む2価の基」であることが好ましい。より具体的に、Xは、「2価の芳香環基であって、Xに結合するカルボニル基の全てが1の芳香環に結合している基(2価の芳香環基)」であるか、「2以上の芳香環を含む2価の基であり、Xに結合するカルボニル基のうちの1つが一方の芳香環に結合し、残りのカルボニル基がもう一方の芳香環に結合している基(2以上の芳香環を含む2価の基)」である。
【0042】
芳香環は、芳香族炭化水素であっても、芳香族複素環であってもよいが、好ましくは芳香族炭化水素である。芳香族炭化水素の例には、ベンゼン、ナフチレンや、3以上のベンゼン環が縮合した芳香環などが含まれる。「2以上の芳香環を含む2価の基」とは、2つの芳香族炭化水素、例えば、2つのベンゼンが直接結合したビフェニルや、またはCOで結合したベンゾフェノン、O、SO、S、CH、C(CH、CF、C(CFなどを介して結合した芳香環基などが含まれる。
【0043】
一般式〔1〕におけるXを、芳香環を含む基とすると、化合物Iの立体安定性が高まる。そのためポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミドの、加熱による線膨張係数が低減し、寸法安定性が向上し、且つガラス転移点が上がり、耐熱性が向上する。
【0044】
具体的には、式中のXが以下に示される2価の有機基の少なくとも1つから構成されることが好ましい。
【0045】
【化11】

〔−Z−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【0046】
上記Xの有機基は、上記Aの有機基と同様、上記一般式で示される2価の有機基のうち、得ようとするポリイミドフィルムの特性に応じて、好ましい有機基を選択することができる。例えば、上記一般式で示される2価の有機基のうち、フェニレン基とナフチレン基は、成形後のポリイミドフィルムの熱膨張係数を低くし、機械的強度を高めることができる。一方、Zを含む基、なかでもZに対してアミノ基がメタ位に結合している基は、成形後のポリイミドフィルムの接着性を高めることができる。
【0047】
上記一般式〔1〕におけるXの構造は、例えばポリイミド前駆体溶液の塗工方式に応じて選択することができる。例えば、上記一般式で示される2価の有機基のうち、フェニレン基とナフチレン基は、ポリイミド前駆体溶液の粘度を上げることができる。一方、Zを含む基、なかでもZに対してアミノ基がメタ位に結合している基は、ポリイミド前駆体溶液の粘度を下げることができる。このように、目的に応じて上記一般式で示される2価の有機基のうちから適切な有機基を選択または組み合わせることが好ましい。
【0048】
上記「2価の芳香環基」は、1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、ベンジジン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン等のジアミノ化合物から誘導される基であることが好ましい。
上記「2以上の芳香環を含む2価の基」は、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン等のジアミノ化合物から誘導される基であることが好ましい。
【0049】
一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の繰り返し単位において、AおよびXは、異なる構造の組合せであってもよい。また、異なる構造が、互いに一定の規則性をもって配列していてもよいし、ランダムに配列していてもよい。
【0050】
一般式〔1〕におけるnは、テトラカルボン酸ユニットとジアミンユニットからなる繰り返しユニットの繰り返し数である。繰り返し数nは2以上であり、6以上100以下が好ましい。nの平均値が100以上の化合物を得ることは、実際には困難である。
【0051】
一般式〔1〕におけるnが1以下であると、加熱および乾燥条件によっては、ポリイミド前駆体溶液の一般式〔1〕で表される化合物Iと、一般式〔2〕で表される化合物IIとが十分に重合反応することができない。そのため、得られるポリイミドフィルムの成形性が極端に低下し、機械的強度が低く脆弱なフィルムとなりやすく、加熱条件の調整が困難である。
これに対して、一般式〔1〕におけるnが2以上であると、ポリイミド前駆体溶液の一般式〔1〕で表される化合物Iと、一般式〔2〕で表される化合物IIとが充分に分散し、容易に重合反応する。その結果、フィルム等の成形性や機械的強度を向上させることができる。さらに、nの平均値の増加とともに、フィルムの機械的強度は向上するので、nの平均値が6以上100以下であるとより好ましく、10以上90以下であるとさらに好ましい。
【0052】
具体的には、nが1以下の一般式〔1〕で表される化合物を含むポリイミド前駆体溶液を加熱してポリイミドフィルムを得ようとするときに、加熱時間を1時間未満として250℃以上で加熱した場合や、昇温速度を1℃/分以上とした場合に、フィルムへの成形が困難となり、十分な機械的強度を有する均一なポリイミドフィルムを得ることができない。
【0053】
一般式〔1〕におけるnは、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物を合成するときのテトラカルボン酸とジアミンとのモル比率を調整することにより制御することができる。つまり、テトラカルボン酸とジアミンとのモル比率を1に近づけるほど、nの値は大きくなる。
nの平均値は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)で分子量を測定することにより求めることができる。
【0054】
また、一般式〔1〕におけるnを調整することにより、ポリイミド前駆体溶液の粘度を調整することができる。つまり、nの値を大きくすればポリイミド前駆体溶液の粘度は高まる。ポリイミド前駆体溶液の粘度は、例えばそれを塗膜にするための塗工方式に応じて設定されればよい。例えば、塗布機としてコンマコータを用いる場合は、ポリイミド前駆体溶液の粘度を5,000mPa・s以上50,000mPa・s以下とすることが好ましく;ロールコータを用いる場合は、10mPa・s以上1,000mPa・s以下とすることが好ましい。
【0055】
前記のとおり、本発明のポリイミド前駆体溶液には、テトラカルボン酸化合物が含まれる。テトラカルボン酸化合物は、式〔2〕で表される。
【0056】
【化12】

〔式中Bは4価の有機基を示す〕
【0057】
上記Bの有機基は、上記Aの有機基と同様である。
【0058】
一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物を用いることで、ポリアミック酸からなるポリイミド前駆体溶液と比較して、本発明のポリイミド前駆体溶液の粘度を低くすることができる。すなわち、上記一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物と、上記一般式〔4〕で表されるジアミノ化合物の一部とが塩となり、溶解しやすくなる。したがって、ポリイミド前駆体の粘度が低下する。
【0059】
本発明のポリイミド前駆体溶液を乾燥および加熱すると、一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物が、一般式〔1〕で示されるポリアミック酸をさらに高重合化させて、ポリイミドを形成する。
【0060】
ポリイミド前駆体溶液に含まれる一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の少なくとも一部のA、または一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物の少なくとも一部のBが、上記一般式に示される4価の有機基から選ばれる基であればよい。
一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物は、目的に応じて適切なBの有機基が選択または組み合わされる。中でも、入手が容易であり、得られるポリイミドの加熱による線膨張係数が低く、寸法安定性に優れるテトラカルボン酸化合物として、ピロメリット酸が好ましい。
【0061】
ポリイミド前駆体溶液に含まれる一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物のジアミン単位のモル数をX、テトラカルボン酸二無水物単位のモル数をYとし、かつポリイミド前駆体溶液に含まれる一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物のモル数をZとしたとき、(Y+Z)/Xが0.955以上1.1以下であることが好ましい。
これにより、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物とを十分に重合させることができ、十分な機械強度、接着強度を有するポリイミド樹脂を得ることができる。
【0062】
ポリイミド前駆体溶液に用いられる溶媒は、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物、および一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物が、溶解または分散可能であればどのような溶媒でもよい。溶媒の例には、非プロトン性溶媒や、水溶性アルコール系溶媒が含まれる。
【0063】
非プロトン性極性溶媒の例には、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド等;エーテル系化合物である、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が含まれる。水溶性アルコール系溶媒の例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が含まれる。
【0064】
これらの溶剤を単独、もしくは二種以上を混合して用いることができる。なかでも、溶媒の好ましい例としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンもしくはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
ポリイミド前駆体溶液において、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物の合計濃度(固形分濃度)は、特に限定されない。溶媒量を少なくすると、溶媒を乾燥により除去し易くなるので、固形分濃度を15重量%以上とすることが好ましい。一方、ポリイミド前駆体溶液の固形分濃度の上限は、塗工が可能であり、所望の特性を有するポリイミドフィルムが得られる範囲であれば特に限定はされないが、50重量%以下であればよい。
【0066】
前述のとおり、ポリイミド前駆体溶液の粘度は、塗布方式によって好ましい値が異なるので、採用する塗布方式に適した粘度であれば特に限定されない。
【0067】
このように、本発明のポリイミド前駆体溶液は、高濃度かつ低粘度であり、かつ前駆体成分の分散性がよいので、ポリイミド前駆体溶液の塗工性、成形性が向上されている。さらに、このポリイミド前駆体溶液を乾燥および加熱することで、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物とが反応してポリイミド重合体となり、十分な機械的強度、金属との接着強度を有するポリイミドフィルムを得ることができる。
【0068】
2.本発明のポリイミド前駆体溶液の製造方法
本発明のポリイミド前駆体溶液は、例えば、
A)まず、下記一般式〔3〕で表されるテトラカルボン酸二無水物と、下記一般式〔4〕で表されるジアミン化合物とを混合攪拌して、上記一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物を合成し、
B)一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物を添加して混合攪拌する、
ことにより製造することができる。
【0069】
【化13】

〔式中、Aは上記した4価の有機基を示す〕
【化14】

〔式中、Xは上記した2価の有機基を示す〕
【0070】
繰り返し数nが2以上である一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物を得るには、例えば、一般式〔3〕で表されるテトラカルボン酸二無水物と、一般式〔4〕で表されるジアミン化合物との配合比(モル比率)を調整すればよい。また、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の末端がアミノ基であるので、一般式〔3〕で表されるテトラカルボン酸二無水物の配合モル量を、一般式〔4〕で表されるジアミン化合物の配合モル量と同じか、または少なくすることが好ましい。
したがって、一般式〔3〕で表されるテトラカルボン酸二無水物をa(モル)、一般式〔4〕で表されるジアミン化合物をx(モル)としたとき、モル比率a/xを0.90以上1.0以下とすることが好ましい。さらにモル比率a/xを、0.96以上1.0以下、0.97以上1.0以下、0.98以上1.0以下、0.99以上1.0以下とすることがより好ましい。
【0071】
また、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物とを十分に重合させ、機械的強度、金属や樹脂との接着強度の高いフィルムを得るため、一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物をb(モル)としたとき、(a+b)/xを0.955以上1.1以下とすることが好ましい。(a+b)/xは、1.0以上1.05以下が好ましく、1.0以上1.03以下がより好ましく、1.0以上1.01以下が更に好ましい。
【0072】
ポリイミド前駆体溶液の製造方法の一例としては、まず、撹拌機及び窒素導入管を備えた容器を用意する。窒素置換した容器内に前述の溶媒を投入し、一般式〔4〕で表されるジアミン化合物をポリイミド前駆体溶液の固形分濃度が30重量%となるように加えて、0℃〜80℃に温度調整して攪拌及び溶解させる。この溶液に、ジアミン化合物(xモル)に対して、モル比率が0.975となるように一般式〔3〕で表されるテトラカルボン酸二無水物(aモル)を加え、−20℃〜60℃に温度を調整して1〜50時間程度攪拌することにより、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物を得る。
【0073】
次いで、ポリアミック酸化合物を含む上記溶液に、(a+b)/xが1.01となるように、一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物(bモル)を加える。具体的には、ジアミン化合物(xモル)に対して、モル比率が0.035相当となるように一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物(bモル)を加える。そして、0℃〜80℃で温度調整して1〜500時間程度攪拌することにより、本発明のポリイミド前駆体溶液を得る。
【0074】
本発明のポリイミド前駆体溶液を製造する方法は、上記方法に限定されるものではなく、例えば、一般式〔3〕、〔2〕および〔4〕で表される化合物と上記溶媒とを一括して混合攪拌することによりポリイミド前駆体溶液を調製してもよい。
【0075】
3.ポリイミドフィルムおよびその用途
(ポリイミドフィルム)
本発明のポリイミド前駆体溶液は、ポリイミドの製造に用いられるが、特にポリイミドフィルムの製造に好適に用いられる。本発明のポリイミド前駆体溶液は、粘度が適切に制御されているため塗布性に優れており、かつポリイミド前駆体成分の重合性がよいので、本発明のポリイミド前駆体溶液の塗膜を重合させると、成形性よく、強度の高いフィルムが得られる。
【0076】
本発明のポリイミド前駆体溶液を用いてフィルムを製造するには、例えば、金属やガラス等の基板上に、成形後のポリイミドフィルムの厚さが0.1μm〜1mm程度となるようにポリイミド前駆体溶液を塗布した後、20℃〜500℃、1秒〜10時間程度加熱および乾燥することにより重合させればよい。その後、基板からポリイミドフィルムを剥離する、もしくは基板を溶解除去する等により、ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0077】
本発明のポリイミド前駆体溶液の塗布手段としては、特に限定されないが、例えば、ダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等の公知のものが使用できる。
【0078】
このように、本発明のポリイミド前駆体溶液により得られたポリイミドフィルムは、例えば、以下の用途に使用することができる。
【0079】
(接着フィルム)
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、熱可塑性ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の接着層を形成し、接着フィルムとすることができる。このような接着フィルムは、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の前駆体溶液やワニスを、ポリイミドフィルム上に前述と同様に、塗布、乾燥、および加熱させて接着層を形成することができる。
【0080】
(金属ポリイミド積層体)
本発明のポリイミド前駆体溶液を用いた金属ポリイミド積層体は、金属層上に、本発明のポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミド樹脂層を一層以上有する樹脂層が形成されている。
【0081】
金属ポリイミド積層体において、本発明のポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミド樹脂層を形成する方法としては、例えば、前述の接着フィルムに金属層を加熱圧着する方法、金属層に直接、本発明のポリイミド前駆体溶液を既述と同様の方法で塗布、乾燥及び加熱してポリイミド樹脂層を形成する方法、本発明のポリイミドフィルムへ直接金属をスパッタリング、めっき、又は蒸着させる方法等が挙げられる。
【0082】
また、金属層とポリイミド樹脂層との間の密着性を一層高める上で、金属層とポリイミド樹脂層との間に前述の熱可塑性ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の接着層を形成することも好ましい。このような接着層を形成する方法として、金属層もしくはポリイミド樹脂層に、接着層となる樹脂を直接塗布、乾燥および加熱して接着層を形成する方法、接着層となるフィルムを金属層とポリイミド樹脂層との間に挟んで加熱圧着する方法、表面に接着層を有する金属ポリイミド積層体と金属、または同様の金属ポリイミド積層体同士を加熱圧着させる方法等が挙げられる。
【0083】
加熱圧着方法としては、接着層を構成する熱可塑性ポリイミド樹脂等のガラス転移点温度以上に保ちながら加圧することが好ましい。加熱圧着装置としては、例えば、加熱プレス機や加熱ラミネート機等が挙げられる。ラミネート方法としては、特に制限はないが、ロールとロールの間に挟み込んで張り合わせる方法が好ましい。接着層の表面には、プラズマ処理、コロナ放電処理等を施してもよい。
【0084】
ラミネート後、またはラミネートを行いながら、金属積層体を更に150〜500℃に加熱保持することより、プレス・ラミネート面の密着力が優れたポリイミド金属積層板を得ることができる。
【0085】
加熱装置としては、通常の加熱炉、オートクレーブ等を使用することができる。加熱雰囲気として、空気、イナートガス(窒素、アルゴン)等が用いられる。加熱方法としては、連続的に加熱する方法、またはポリイミド金属積層板をコアに巻いた状態で加熱炉に放置する方法等が挙げられる。加熱方式としては、例えば、伝導加熱方式、輻射加熱方式、およびこれらの併用方式等が挙げられ、加熱時間は、例えば0.05〜5000分程度とすることができる。
【0086】
金属ポリイミド積層体に用いられる金属としては、特に限定はされないが、銅、ニッケル、コバルト、クロム、亜鉛、アルミニウム及びステンレス鋼、並びにこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属であることが好ましい。中でも、銅および銅合金、ステンレス鋼およびその合金、ニッケルおよびニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムおよびアルミニウム合金等がより好ましい。
【0087】
本発明によれば、一定以上の固形分濃度を有してもポリイミド前駆体溶液の粘度を低く保つことができるので、塗工、乾燥、加熱キュア等の加工条件を調整し易くなる。具体的には、乾燥・加熱工程での昇温速度を上げることができるので、乾燥・加熱時間を短縮することができる。
【0088】
本発明のポリイミド前駆体溶液により得られるポリイミド樹脂層は、フレキシブル回路基板、リジット回路基板、半導体用の絶縁層や保護コーティング等に広く適用できる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限されるものではない。
【0090】
(実施例1)
撹拌機及び窒素導入管を備えた容器に、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド3365gを加え、これにジアミン化合物(x)として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(x)を400g加え、溶解するまで室温で撹拌した。その後、ジアミン化合物に対して、テトラカルボン酸二無水物(a)のモル比率a/xが0.96となるように、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(a)を418.3g加えて、60℃にて8時間撹拌した。
【0091】
得られたポリアミック酸溶液について、ポリアミック酸の平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)により以下の条件で測定した。そして、得られた平均分子量に相当する一般式(1)に示す繰り返し数nの平均値を計算した結果、nは12であった。
【0092】
〔GPC測定前処理〕
上記ポリアミック溶液の試料3mgに3mLのGPC測定用移動相を加えて溶解し、0.45μmの親水性PTFEメンブランフィルターカートリッジ(Millex−LH:日本ミリポア)でろ過した。
【0093】
〔GPC測定条件〕
カラム :TSKgel Super AWM−H 6.0mm(ID)×15.0cm(L) 2本(東ソー)
カラム温度:室温
移動相 :30mM LiBr、60mM H-PO添加DMF(HPLC用;関東化学)
流量 :0.6mL/min
検出 :RI
注入量 :20μL
分子量校正:単分散ポリスチレン;EasiCal PS−1(ポリマーラボラトリーズ)
測定装置 :515ポンプ、717plus自動注入装置(日本ウォーターズ)、RI−101示差屈折計(昭和電工)
【0094】
次に、ジアミン化合物(x)に対して、テトラカルボン酸二無水物(a)とテトラカルボン酸化合物(b)の合計モル比率(a+b)/xが1.005となるように、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸(b)を22.8g加えて、60℃にて8時間撹拌した。これにより、固形分濃度が20%であるポリイミド前駆体ワニスを得た。得られたポリイミド前駆体溶液の粘度をコーン&プレート型(E型)粘度計により測定したところ、6532mPa・sであった。
【0095】
次に、得られたポリイミド前駆体ワニスを、18μm厚の銅箔(日鉱マテリアルズ社製BHY)上に、得られるポリイミドフィルム厚が20μmとなるようにコンマコータで塗工した後、イナートオーブン中で、3℃/分で昇温し、300℃で4時間加熱した。その後、ワニスを塗工した銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムを得た。
【0096】
得られたポリイミドフィルムの4mm×20mmの試料に、3gの加重をかけて、熱機械分析装置(TMA)を用いて150℃〜250℃にて測定したところ、ポリイミドフィルムの線膨張係数は32ppm/℃であった。
【0097】
同様に、得られたポリイミドフィルムのガラス転移点温度をTMAにより測定したところ、390℃に変曲点が確認された。
【0098】
さらに、得られたポリイミドフィルムの破断強度を引張試験JIS C 2318に準拠して測定したところ、253MPaであった。
【0099】
次に、上記のポリイミドフィルムを用いて以下の金属積層体を作製し、ポリイミド層のピール強度を以下のように測定した。
【0100】
得られたポリイミドフィルムの両面に、下記条件で合成した熱可塑性ポリイミド前駆体ワニスを塗布した後、200℃で5分間乾燥することにより、上記ポリイミドフィルムの両面に3μmの接着層を形成した。このポリイミドフィルムの両面の接着層上に、18μm厚の銅箔(日鉱マテリアルズ社製BHY)該当面を積層し、280℃、3MPaで3時間加熱プレスし、金属積層体を得た。
【0101】
〔熱可塑性ポリイミド前駆体の合成〕
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン69.16gと3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物75.84gを秤量し、1000mlのセパラブルフラスコの中で、溶媒であるN,N’−ジメチルアセトアミド855gに窒素気流下にて溶解させた。溶解後、6時間攪拌を続けて重合反応を行ない、ポリアミック酸溶液を得た。ポリアミック酸溶液におけるポリアミック酸含有率は15重量%であった。
【0102】
そして、上記ポリアミック酸溶液の一部500gに、1,3−ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン48.3gを加え、室温にて撹拌溶解させたものをビスマレイミド化合物含有ポリアミック酸ワニスとした。これを熱可塑性ポリイミド前駆体ワニスとした。
【0103】
得られた金属積層体の長さ100mm、幅3.2mmの試料について、JIS C−6471に準拠し、試料の短辺の端から銅箔もしくは熱可塑性ポリイミド層と、ポリイミドフィルム層を剥離速度50mm/minにて剥離し、その応力を測定した。この結果、金属積層体のピール強度は1.2kN/mであった。
【0104】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
ポリイミド前駆体ワニスの組成を、図1の表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にポリイミド前駆体ワニスを調製し、ポリイミド前駆体ワニスの塗工性、ポリイミドフィルムまたはポリイミド層の諸特性を評価した。これらの結果を図1の表1に示す。
【0105】
実施例1〜6は、ポリイミド前駆体ワニスが、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物とを含み、かつ一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の繰り返し数nが2以上である場合である。
【0106】
比較例1は、ポリイミド前駆体ワニスが、一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物と一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物とを含み、かつ一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の繰り返し数nが1である場合である。比較例2および3は、ポリイミド前駆体ワニスが、一般式〔2〕で表されるテトラカルボン酸化合物を含まない場合である。
【0107】
図1の表1に示されるように、実施例1〜6では、いずれも一般式〔1〕で表されるポリアミック酸化合物の繰り返し数nが2以上であり、粘度が82〜12500mPa・sであり、塗工性の良好なワニスが得られた。また、上記ワニスにより成形したポリイミドフィルムまたはポリイミド層は、いずれも高い破断強度、高いピール強度、低い熱膨張係数を有することがわかった。
【0108】
これに対して、比較例1〜3では、いずれも十分な破断強度、ピール強度を有するポリイミドフィルムを得ることができなかった。
【0109】
すなわち、比較例1のポリイミド前駆体ワニスは低粘度であったが、モノマーを用いるため、本例の乾燥および加熱条件では、アミノ基を有する化合物とカルボキシル基を有する化合物とを十分に重合させ難く、加熱、銅エッチング除去した後、ポリイミドフィルムを得ることができなかった。
【0110】
また、比較例2および3のポリイミド前駆体ワニスは、ポリアミック酸化合物のみを多く含むため、粘度が高く、塗工性が低かった。特に、比較例3のポリイミド前駆体ワニスは、ポリアミック酸化合物を構成するジアミン化合物(x)に対してテトラカルボン酸二無水物成分(a)のモル比率a/xが1であり、ポリイミド前駆体ワニスがゲル化したため、塗工が不可能であり、ポリイミドフィルムを得ることはできなかった。
【0111】
また、実施例2のポリイミドフィルムまたはポリイミド層は、実施例5、6と比較して熱膨張係数を低くすることができ、破断強度も高いことがわかった。これは、実施例2で用いられるテトラカルボン酸二無水物成分(a)の立体安定性が、実施例5や6で用いられるテトラカルボン酸二無水物成分(a)よりも高いことによるものと考えられる。
また、実施例5、6のワニスは、実施例2のワニスと比較して極めて低粘度であり、塗工性に優れることがわかった。また、実施例5、6のポリイミドフィルムまたはポリイミド層は、実施例2と比較してピール強度が高く、接着性を向上させる効果もあることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明より、ポリイミド前駆体溶液の濃度を向上させることができ、加熱および乾燥効率の向上、溶剤コストの低減を図ることができる。さらに、本発明のポリイミド前駆体溶液から得られるポリイミドフィルム等の成形品は、機械強度、寸法安定性、耐熱性、接着性に優れ、エレクトロニクス分野を含めて幅広く応用することができる。特に、電気電子機器の回路基板や半導体用途等に用いられるポリイミドを形成する技術に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の実施例の結果を示す表図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式〔1〕で表される化合物Iと、下記一般式〔2〕で表される化合物IIと、溶媒とを含む、ポリイミド前駆体溶液。
【化1】

〔式中、Aは4価の有機基を示し、Xは2価の有機基を示し、それぞれのXは同一でも異なっていてもよく、nは繰り返し数であり2以上の整数を示す〕
【化2】

〔式中Bは4価の有機基を示す〕
【請求項2】
前記化合物Iの繰り返し数nの平均値が6〜100である、請求項1に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項3】
前記ポリイミド前駆体溶液に含まれる化合物Iのジアミン単位のモル数をX、テトラカルボン酸二無水物単位のモル数をYとし、かつ前記ポリイミド前駆体溶液に含まれる化合物IIのモル数をZとしたとき、(Y+Z)/Xが0.955以上1.1以下である、請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体溶液。
【請求項4】
前記ポリイミド前駆体溶液に含まれる化合物Iの少なくとも一部のA、または化合物IIの少なくとも一部のBが、以下に示される4価の有機基から選ばれる基である、請求項1〜3の何れか一項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化3】

〔−Y−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【請求項5】
前記化合物Iの少なくとも一部のXが、以下に示される2価の有機基から選ばれる基である、請求項1〜4の何れか一項に記載のポリイミド前駆体溶液。
【化4】

〔−Z−は、直結,−CO−,−O−,−SO−,−S−,−CH−,−C(CH−,−CF−,−C(CF−を示す〕
【請求項6】
下記一般式〔3〕で表される化合物IIIと、下記一般式〔4〕で表される化合物IVと、下記一般式〔2〕で表される化合物IIとを、溶媒に配合するステップを含む、ポリイミド前駆体溶液の製造方法であって、
前記配合される化合物III、前記化合物IV、前記化合物IIのモル数をそれぞれa(モル)、x(モル)、b(モル)としたとき、a/xが0.9以上1.0以下であり、かつ(a+b)/xが0.955以上1.1以下である、ポリイミド前駆体溶液の製造方法。
【化5】

〔式中、Aは4価の有機基を示す〕
【化6】

〔式中、Xは2価の有機基を示す〕
【化7】

〔式中、Bは4価の有機基を示す〕
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミド前駆体溶液の製造方法により製造される、ポリイミド前駆体溶液。
【請求項8】
請求項1〜5および請求項7のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体溶液に含まれる前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることにより得られるポリイミドフィルム。
【請求項9】
請求項1〜5および請求項7のいずれか一項に記載のポリイミド前駆体溶液の塗膜を基板上に形成するステップと、
前記塗膜中の前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることによりポリイミドフィルムを形成するステップとを備える、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載のポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルム上に形成された接着層とを備える、接着用フィルム。
【請求項11】
金属層と、請求項1〜5および7の何れか一項に記載のポリイミド前駆体溶液に含まれる前記化合物Iと前記化合物IIとを重合させることにより得られるポリイミドを含む樹脂層とを備える、金属ポリイミド積層体。


【図1】
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【公開番号】特開2010−1412(P2010−1412A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162507(P2008−162507)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】