説明

ポリイミド化合物の製造方法

【課題】
本発明の課題は、酸二無水物とジアミンとの重合反応により合成されるポリイミド化合物の製造において、重合反応中に、ワイゼンベルグ効果によって反応溶液がせりあがる現象を抑制することができるポリイミド化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、重合反応により生成する水を反応系内に還流させることで、反応溶液の粘度の増加が抑制され、反応溶液のせりあがりの現象を抑制することができる。また、その重合反応により生成する水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように還流させることで、10μm以上の膜厚を有するポリイミドフィルムを製造できる程度に高い重合度を有するポリイミド化合物を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶媒に可溶なポリイミド化合物は、酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとを、例えばトリグライムやγ−ブチロラクトンなどの極性溶媒中で付加重合させることでポリイミド前駆体を生成させた後、環化脱水反応によってイミド化することで合成することができる。
【0003】
しかしながら、水酸基、アミド基、カルボン酸基、スルホン酸基といった極性基を有するモノマーを使用することで極性基を導入し、溶媒に可溶としたポリイミド化合物の場合、トリグライムやγ−ブチロラクトンなどの溶媒を使用すると、ポリイミド化合物の主鎖に導入された極性基同士の相互作用(水素結合)によって、溶液イミド化中に反応溶液の粘度が増加する。そして、粘度の増加した反応溶液が、ワイゼンベルグ効果によって撹拌機のシャフトにせりあがってしまう。そのため、イミド化反応を中断しなければならない。
【0004】
このような反応溶液のせりあがりの現象を抑制するために、下記に示す種々の方法が提案されている。例えば、イミド化を行う際に、リチウムブロマイドなどの塩を添加し、極性基を介して主鎖同士が水素結合することを阻害することで、良好なワニスを製造する方法がある。また、溶液中に占めるポリイミド固形分の割合を減少させる方法もある。また、合成時に使用する窒素やアルゴンなどの不活性ガスに湿度を持たせ、その水分にて水素結合を切断し、良好なワニスを製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−12664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イミド化の際に塩を添加する方法で製造されるポリイミド化合物は、半導体や基板材料といった電子材料に使用する場合、添加された塩によって絶縁抵抗の低下や導体腐食などの悪影響を及ぼすため、例えば再沈殿などの精製工程を経て、ポリイミドワニスから塩を完全に除去しなければならない。
【0007】
また、ポリイミドワニス中の固形分濃度を低下させる方法で製造されるポリイミド化合物は、固形分濃度が低下しているため厚い膜を形成することが困難となる。特に、ソルダーレジストやカバーレイなどといったように、基板材料にて10μm以上の膜厚を必要とする分野では、この方法を適用することができない。
【0008】
そして、特許文献1に記載された方法では、合成時の露点管理が難しく、新たな設備導入が不可欠であり製造コスト上、好ましくない。
【0009】
そこで、本発明の発明者等は、上記実状に鑑み鋭意研究を進めた結果、重合反応によって生成する水を反応系内に還流させることで、反応溶液のせりあがりの現象を抑制することができるポリイミド化合物の製造方法を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のポリイミド化合物の製造方法は、所定の溶媒に溶解させた酸二無水物と、シロキサンジアミンと、極性基を有するジアミンとの重合反応により合成されるポリイミド化合物の製造方法であって、上記重合反応は、上記重合反応により生成する水の重量が、反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように、上記重合反応で生成する水を反応系内に還流しながら行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリイミド化合物の製造方法によれば、重合反応により生成する水を反応系内に還流させることで、反応溶液の粘度の増加が抑制され、反応溶液のせりあがりの現象を抑制することができる。また、その重合反応により生成する水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように還流させることで、10μm以上の膜厚を有するポリイミドフィルムを製造できる程度に高い重合度を有するポリイミド化合物を製造できる。したがって、反応溶液のせりあがりの現象を抑制するために、反応溶液中の固形分濃度を低下させたり、反応溶液中に塩を添加及び除去したり、新たな設備の導入する必要が無くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリイミド化合物の製造方法について説明する。なお、本発明は、下記の説明に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0013】
本発明のポリイミド化合物の製造方法は、酸二無水物とジアミンとの重合反応において、反応溶液がせりあがる現象を抑制するために、重合反応で生成した水を還流させて、ポリイミド化合物を有する反応溶液の粘度を低下させるものである。
【0014】
このような本発明のポリイミド化合物の製造方法に使用される酸二無水物は、任意のものが用いられるが、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、以下単にDSDAと称する)を用いることができる。その他の酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等といった芳香族酸二無水物や脂環式酸二無水物が挙げられる。重合反応に用いる酸二無水物の量としては、下記に示す極性基を有するジアミンとシロキサンジアミンとの総量に対して等モル量であってもよく、それより多くても少なくてもよく、合成するポリイミド化合物の分子量に応じて適宜変更される。
【0015】
酸二無水物と重合反応するジアミンには、極性基を有するジアミンと、シロキサンジアミンとが用いられる。極性基を有するジアミンの極性基とは、極性を有する官能基で、例えば水酸基、アミド基、カルボン酸基、スルホン酸基などが挙げられる。極性基を有するジアミンとしては、極性基を有していれば任意のものを用いることができるが、例えば極性基として水酸基を有するジアミンを用いることができる。水酸基を有するジアミンとしては、例えば、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BSDA)、又は、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(Bis−Ap−Af)、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノー4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノフェノール、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0016】
重合反応に用いる極性基を有するジアミンの量としては、モノマーである酸二無水物、極性基を有するジアミン、シロキサンジアミンの総重量に対して0.1wt%以上25wt%以下であることが好ましい。下記に詳細に説明するが、重合反応によって主に還流させる水は、この極性基を有するジアミンの量によって調整されるため、極性基を有するジアミンの重量を上記範囲とすることで、重合反応により生成する水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となる。すなわち、この極性基を有するジアミンを反応溶液に投入する際に、反応溶液を還流させるようにすることで、容易に反応溶液中の水の重量が上記範囲を満たす。
【0017】
シロキサンジアミンは、例えば、少なくとも分子内にジメチルシリレン骨格を有している下記構造式1(構造式1中mは0又は1以上の整数を示し、nは1以上の整数を示す)に示されるシロキサンジアミンが好ましい。また、末端のアミノ基が所定の保護基で保護されたシロキサンジアミンも使用することができ、下記構造式1に示されるシロキサンジアミンと、末端が保護されたシロキサンジアミンとを併用してもよい。このようなシロキサンジアミンの具体例としては、KF−8010、X−22−9409(いずれも信越化学工業製)などが挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
重合反応に用いるシロキサンジアミンの量としては、モノマーである酸二無水物、極性基を有するジアミン、シロキサンジアミンの総重量に対して20wt%以上80wt%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明のポリイミド化合物の製造方法で使用される溶媒は、非プロトン性の極性溶媒が使用できるが、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトンなどのラクトン系の溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TriGL)、テトラグライム、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、又は、これらラクトン系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒が使用できる。
【0021】
また、この溶媒の量は、酸二無水物、シロキサンジアミン及び極性基を有するジアミンが投入された際の反応溶液の全重量に対して、酸二無水物、シロキサンジアミン及び極性基を有するジアミンの総重量(固形分濃度)が10wt%以上60wt%以下となるような量であることが好ましい。この範囲を満たすことで、合成されるポリイミド化合物を有するワニスからポリイミドフィルムを形成する際に、十分な膜厚が得られる。
【0022】
本発明のポリイミド化合物の製造方法は、上記モノマーと溶媒を使用して行うことができる。その詳細について下記に示す。本発明のポリイミド化合物の製造方法は、反応溶液中の水が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように、酸二無水物とジアミンとの重合反応によって生成する水を還流するものである。
【0023】
詳細には、重合反応によって生成する水を回収する第1の重合工程と、重合反応によって生成する水を還流する第2の重合工程とに分かれるが、第1の重合工程は、必要に応じて省略することもできる。すなわち、本発明は、第1の重合工程と第2の重合工程とからなる2ステップ法と、第2の重合工程とからなる1ステップ法との2つの方法がある。
【0024】
まず、2ステップ法(2ステップ発明法)について説明する。第1の重合工程では、重合反応によって生成する水を回収するために、例えばディーン・スターク・トラップ(Dean−Stark−Trap)が備えられた反応容器を用いる。溶媒に酸二無水物とシロキサンジアミン、そして必要に応じて極性基を有するジアミンとを投入した反応溶液をこの反応容器に入れ、所定の温度で加熱する。これにより、酸二無水物とジアミンとが反応することで、アミック酸(イミド前駆体)成分が生成し、反応溶液中にてイミド化を進めることでアミック酸成分が閉環(溶液イミド化)する。この第1の重合工程では、ポリイミド化合物よりも重合度が小さく、ポリイミド化合物の中間体であるイミドオリゴマーを合成する。この場合、第2の重合工程を考慮して、酸二無水物又はジアミンが過剰となるような組成とすることが好ましい。酸二無水物を過剰とするような組成の場合、イミドオリゴマーの末端がジアミンと反応する酸無水物を有するイミドオリゴマー(酸無水物末端イミドオリゴマー)となる。一方、ジアミンを過剰となるような組成の場合、合成されるイミドオリゴマーの末端が酸二無水物と反応するアミノ基を有するイミドオリゴマー(アミノ基末端イミドオリゴマー)となる。
【0025】
溶液イミド化の手段としては、環化脱水反応が行える条件であればよく、例えば、溶液中での加熱イミド化や脱水剤による化学イミド化が挙げられる。例えば、加熱イミド化は、イミド前駆体中にトルエン、キシレン等の共沸剤を添加し、180℃以上に加熱撹拌することで、アミック酸成分の脱水反応を行い、閉環したイミド成分を形成することができる。このとき、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸等の酸触媒をイミド化の触媒として添加してもよい。また、例えば、脱水環化試薬である無水酢酸/ピリジン系やジシクロヘキシルカルボジイミド等の化学イミド化剤によってもアミック酸を閉環することができる。
【0026】
酸無水物末端イミドオリゴマーが合成されると、第2の重合工程に移る。第2の重合工程では、還流管を備えた反応容器を用いる。酸無水物末端イミドオリゴマーが合成された反応溶液に極性基を有するジアミン、必要に応じてシロキサンジアミンを投入した溶液を還流管を備えた反応容器に入れ、所定の温度に加熱する。この反応容器には、還流管が備えられているため、重合反応によって生成する水が還流することになり、反応溶液中に水が存在する状態で重合反応が進行することになる。この還流は、反応溶液中に存在する水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように調整される。これは、第2の重合工程で投入する極性基を有するジアミン、必要に応じてシロキサンジアミンを投入する量によって調整することができる。一方、アミノ基末端イミドオリゴマーの場合は、第2の重合工程で投入する酸二無水物を投入する量によって調整することができる。そして、この範囲を越えて水が反応溶液に存在すると、高い重合度のポリイミド化合物が得られなくなり、例えば、ポリイミド化合物を有するワニスからポリイミドフィルムを製造する際に10μmといった十分な膜厚のフィルムを形成することができない。一方、反応溶液内の水がこの範囲よりも少ない場合、重合反応中に反応溶液のせりあがりの現象が起こってしまうため、重合反応を中断しなければならなくなる。
【0027】
次に、1ステップ法(1ステップ発明法)について説明する。1ステップ法では、上述の第2の重合工程で使用した還流管を備えた反応容器を用いる。溶媒に酸二無水物とシロキサンジアミン、極性基を有するジアミンとを投入した反応溶液を還流管を備えた反応容器に入れ、所定の温度で加熱する。この反応容器には、還流管が備えられているため、重合反応によって生成する水が還流することになり、反応溶液中に水が存在する状態で重合反応が進行することになる。この還流は、反応溶液中に存在する水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように調整される。これは、第2の重合工程で投入する極性基を有するジアミン及びシロキサンジアミンを投入する量によって、調整することができる。
【0028】
なお、第1の重合工程で生成した酸二無水物末端イミドオリゴマーを経由する場合、反応溶液全重量に対する反応溶液内の水の重量は、還流管を備えた反応容器を用いた際に投入されるジアミンモノマー(極性基を有するジアミン、シロキサンジアミン)の量に基づいて、理論値として算出できる。この重合反応によって、ジアミンモノマー1分子あたり、2分子の水が生成する。一方、第1の重合工程で生成したアミノ基末端イミドオリゴマーを経由する場合、反応溶液全量に対する反応溶液内の水の重量は、還流管を備えた反応容器を用いた際に投入される酸二無水物モノマーの量に基づいて、理論値として算出できる。この重合反応によって、酸二無水物モノマー1分子あたり、2分子の水が生成する。還流管を備えることで、重合反応によって生成する水は、反応系内にあるため、還流管を備えた際に投入したジアミンモノマーの量から、反応溶液に存在する水の重量が算出でき、反応溶液全重量に対する水の重量の割合を得られる。
【0029】
1ステップ法及び2ステップ法のように、重合反応によって生成する水を還流させることで、反応溶液中に水が含まれる状態となる。この反応溶液中の水が、合成されるポリイミド化合物に導入された極性基同士の水素結合を切断する。したがって、合成されるポリイミド化合物の見かけ上の分子量が増加せず、粘度の増加を防ぐことができるため、反応溶液のせりあがりの現象が起こらない。また、露点を管理した窒素を導入する従来技術では、反応溶液と加湿窒素との界面付近で水が作用すると考えられるのに対し、本発明の方法では、反応溶液全体に水を作用させることができる。このことから、本発明のポリイミド化合物の製造方法は、極性の高い置換基を有するモノマーを使用する際に有効となり、特に、溶解性や極性の大きさから重合が難しいBSDAをモノマーに使用する場合に極めて有効な方法である。
【0030】
ポリイミド化合物の機械物性を高めるには重合度を高くする必要がある。従来は、高重合度のポリイミド化合物を得るために、酸二無水物とジアミンとの重合により生成する水を共沸剤などを利用して完全に系外に除去していた。しかしながら、本発明では、上記1ステップ法及び上記2ステップ法のように、重合により生成する水をあえて反応溶液中に残し、その還流イミド化水量が、反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲とすることで、フィルムとした際に10μm以上の膜厚となるようなの高い重合度と高い固形分濃度が確保できる。
【0031】
このように、本発明の製造方法は、重合によって生成する水を還流させることで、極性基同士の水素結合を切断し、反応溶液の粘度の増加を抑制することができ、ワイゼンベルグ効果により反応溶液のせりあがりの現象を抑制することができる。したがって、反応溶液のせりあがりの現象を抑制するために、従来技術のような露点を管理した窒素を導入するような特別な設備や塩を除去する工程を加える必要がない。また、この方法で製造されるポリイミド化合物は、高い重合度と、高い固形分濃度が確保できるため、電子材料への適用が十分に可能なもとなり、特に、10μm以上の厚い膜を必要とする分野にも適用することが可能である。
【実施例】
【0032】
本発明のポリイミド化合物の製造方法の有効性を実験結果に基づいて説明する。本実施例では、還流によって反応溶液内の還流イミド化水量を調整する発明法(1ステップ発明法、2ステップ発明法)と、生成した水を完全に系外に除去する比較法(1ステップ比較法、2ステップ比較法)とを比較した。
【0033】
まず、極性基を有するジアミンとしてBSDAを用いたポリイミド化合物について検討した。
【0034】
実施例1は、本発明の1ステップ発明法によってポリイミド化合物を合成した。還流管を取り付けた500mlの四つ口セパラブルフラスコに、66.620g(0.049mol)のシロキサンジアミン(X22−9409)、7.890g(0.028mol)のBSDA(純度99.5%)を投入し、窒素雰囲気下、118.000gのトリグライム(TriGL)と29.500gのγ−ブチロラクトン(GBL)との混合溶媒に完全に溶解させた。その溶液に、27.990g(0.078mol)のDSDA(純度99.7%)を加え、オイルバスにて180℃で撹拌機にて撹拌しながら3時間保持還流し、ポリイミド化合物を合成した。
【0035】
実施例2は、本発明の2ステップ発明法によってポリイミド化合物を合成した。まず、第1の重合工程として、ディーン・スターク・トラップ(Dean−Stark−Trap)を取り付けた500mlの四つ口セパラブルフラスコに、66.620g(0.049mol)のX22−9409を投入し、窒素雰囲気下、118.000gのTriGLと29.500gのGBLとの混合溶媒に完全に溶解させた。その溶液に、27.990g(0.078mol)のDSDA(純度99.7%)を加え、室温で12時間撹拌させた後、イミド化によって生成する水を系外で回収するための共沸剤であるトルエン50mlを加え、オイルバスにて180℃で撹拌機にて撹拌しながら3時間保持還流し、撹拌終了間際に減圧脱水によって、残留する水及びトルエンを完全に除去することで、酸無水物を末端に有するイミドオリゴマーを合成した。なお、この時のGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)によるポリスチレン標準換算分子量は、数平均分子量として3570であった。また、得られた化合物を100℃で10分乾燥させた時のIRスペクトルは図1のようになり、末端が酸二無水物であることが確認された。
【0036】
続いて、第2の重合工程として、室温まで降温させた反応溶液に、7.890g(0.028mmol)のBSDA(純度99.5%)を分散させた。そして、四つ口セパラブルフラスコに備えられているディーン・スターク・トラップを取り外し、代わりに還流管を取り付け、180℃で撹拌機にて撹拌しながら3時間保持還流し、反応溶液内に重合反応によって生成した水を残存させて、ポリイミド化合物を合成した。得られたポリイミド化合物を100℃で10分乾燥させた時のIRスペクトルは図1のようになり、完全にポリイミドへの反応が完了していることが確認された。
【0037】
実施例3は、反応溶液中の水の重量が反応溶液全重量に対して0.01wt%となるように、BSDAを第1の重合工程と第2の重合工程と分けて投入し、実施例2の2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。詳細には、第1の重合工程では、X22−9409に加え、実施例2の混合溶媒に7.694g(0.027mol)のBSDA(純度99.5%)を投入し、第2の重合工程では、0.196g(0.001mol)のBSDA(純度99.5%)を投入し、ポリイミド化合物を合成した。
【0038】
実施例4は、実施例2で示した2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、実施例4は、TriGLとGBLとの混合溶媒に投入するDSDA、X22−9409、BSDAの総量が反応溶液の全重量に対する割合を示す固形分濃度を45%とした。
【0039】
実施例5は、実施例2で示した2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、実施例5は、実施例4と同じ固形分濃度とし、溶媒として、90%のTriGLと10%のGBLとの混合溶媒を使用した。
【0040】
実施例6は、実施例2で示した2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、実施例6は、実施例4と同じ固形分濃度とし、溶媒として、95%のTriGLと5%のGBLとの混合溶媒を使用した。
【0041】
実施例7は、実施例2で示した2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、実施例7は、実施例4と同じ固形分濃度とし、使用する溶媒としてTriGLを単独で使用した。
【0042】
比較例1は、重合反応により生成する水を還流させない1ステップの製造方法である1ステップ比較法によってポリイミド化合物を合成した。比較例1の方法では、実施例1で使用した還流管の代わりにディーン・スターク・トラップを500mlの四つ口セパラブルフラスコに取り付け、共沸剤のトルエンを使用して、重合反応によって生成する水を反応系外に完全に除去するものである。なお、比較例1では、溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を単独で使用した。
【0043】
比較例2は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例2は、溶媒として、GBLを単独で使用した。
【0044】
比較例3は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例3は、溶媒として、TriGLを単独で使用した。
【0045】
比較例4は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例3は、溶媒として、TriGLを単独で使用し、固形分濃度を20%とした。
【0046】
比較例5は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例5は、比較例4と同じ溶媒を使用し、固形分濃度を10%とした。
【0047】
比較例6は、重合反応により生成する水を還流させない2ステップの製造方法である2ステップ比較法によってポリイミド化合物を合成した。比較例6の方法では、実施例2の第2の重合工程で使用した還流管の代わりにディーン・スターク・トラップを500mlの四つ口セパラブルフラスコに取り付け、共沸剤のトルエンを使用して、重合反応によって生成する水を反応系外に完全に除去するものである。なお、比較例6は、DSDA、X22−9409、BSDA、及び、使用する溶媒、並びに、固形分濃度を比較例4と同じとした。そして、DSDA及びX22−9409をGBL及びTriGLの混合溶媒に溶解して、生成する水を完全に回収しながらイミドオリゴマーを合成した。そして、合成されたイミドオリゴマーを有する反応溶液にBSDAを分散させて、生成する水を完全に回収しながら、ポリイミド化合物の合成を行った。
【0048】
BSDAをモノマーとしたポリイミド化合物のモノマー組成や各評価の結果について下記表1及び表2に示す。
【0049】
重合反応中、反応溶液がせりあがる現象が起こるか否かの観察を行った。重合中ワイゼンベルグ効果で撹拌機のシャフトに反応溶液のせりあがりの現象が確認された場合を×とし、反応溶液のせりあがりの現象が確認されなかった場合を○とし、僅かなせりあがりが確認された場合は、△として、表1のワニスの状態(重合中のせりあがり)の欄に記した。
【0050】
また、合成されたポリイミド化合物を含むワニスをスライドガラス上に滴下し、温度30℃、湿度70%の状況下に30分間曝し、ワニスが吸湿し、白化が起こるか否かを観察した。30分後、ワニスが白化した場合を×とし、ワニスが透明な状態である場合を○として、表1のワニスの吸湿(白化)の欄に記した。
【0051】
さらに、合成されたポリイミド化合物を含むワニスを12μmの銅箔にコーティングし、100℃10分乾燥させ、形成されるポリイミドフィルムの状態について評価を行った。乾燥後、形成されるポリイミドフィルムが10μm以上の膜厚を有し、平滑性が良好で、かつ、銅箔を折り曲げても形成された膜に亀裂が入らないものを○とし、膜厚が10μ未満、平滑性が不良、又は、銅箔を折り曲げることで亀裂が入る場合を×としてポリイミドフィルムの状態の欄に記した。
【0052】
そして、合成されたポリイミド化合物を合成されたポリイミド化合物をGPC測定によりポリスチレン標準換算による数平均分子量及び重量平均分子量を算出し、表1、2に記した。
【0053】

【表1】

【0054】

【表2】

【0055】
反応溶液のせりあがりの現象は、実施例3において、僅かに確認されたものの、重合反応を中断するものではなかった。実施例1及び実施例2並びに実施例4乃至実施例7は、反応溶液のせりあがりの現象は確認されなかった。また、実施例1乃至実施例7は、ワニスの吸湿の評価において、ワニスが透明のままであった。さらに、実施例1乃至実施例7は、数平均分子量も重量平均分子量も高く、ポリイミドフィルムの状態は、10μm以上の膜厚を有し、平滑性が良好で、かつ、銅箔を折り曲げても形成された膜に亀裂が入らず、良好な結果が得られた。
【0056】
一方、比較例2乃至比較例4及び比較例6は、反応溶液のせりあがりの現象が確認された。なお、比較例1及び比較例5に関しては反応溶液のせりあがりの現象は確認されなかったが、比較例1はワニスが白化し、比較例5は乾燥後の膜厚制御が難しく、厚さ10μmの平滑な膜を製膜することが困難であった。
【0057】
比較例1に示す方法のように、NMPのような非プロトン性のアミド系溶媒を用いて、酸二無水物とジアミンとの重合反応によりポリイミド化合物を合成する場合、反応溶液のせりあがりの現象は確認されない。しかしながら、非プロトン性のアミド系溶媒は、吸湿性が高いため、ポリイミド化合物を有するワニスの印刷時又はコーティング時にワニスが白化してしまう。そのため、ポリイミド化合物を有するワニスを印刷又はコーティング用として使用する場合は、アミド系溶媒を除く非プロトン性の極性溶媒、特に、GBLのようなラクトン系溶媒やTriGLのようなエーテル系溶媒やその混合溶媒を使用することが好ましい。
【0058】
この結果から、本発明のポリイミド化合物の製造方法では、反応溶液中の水の重量が、反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下となるように、重合反応によって生成する水を還流させることで、反応溶液のせりあがりの現象が起こらないことがわかった。また、この方法によって、ポリイミド化合物は、フィルムとした際に10μm以上の膜厚となるようなの高い重合度と高い固形分濃度が確保できることがわかった。
【0059】
次に、極性基を有するジアミンとしてBis−Ap−Afを用いたポリイミド化合物について検討した。なお、下記に示す実施例8及び比較例7乃至比較例11において、各モノマーの組成は、DSDAが101mol%、X22−9409が66.2mol%、Bis−Ap−Afが33.8mol%である。
【0060】
実施例8は、実施例2で示した2ステップ発明法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、実施例8は、固形分濃度を43%とし、溶媒としてTriGLを単独で使用した。
【0061】
比較例7は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。
【0062】
比較例8は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例8は、溶媒として、50%のTriGLと50%のGBLとの混合溶媒を使用した。
【0063】
比較例9は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例9は、溶媒として、TriGLを単独で使用した。
【0064】
比較例10は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例10は、比較例9と同じ溶媒を使用し、固形分濃度を45%とした。
【0065】
比較例11は、比較例1で示した1ステップ比較法と同様にポリイミド化合物を合成した。なお、比較例10は、比較例9と同じ溶媒を使用し、固形分濃度を43%とした。
【0066】
Bis−Ap−Afをモノマーとしたポリイミド化合物のモノマー組成や各評価の結果については、下記表3に示す。各評価については、上記表1及び表2と同様である。
【0067】

【表3】

【0068】
実施例8は、BSDAを用いた実施例と同様に、反応溶液のせりあがりの現象が確認されなかった。また、ワニスの吸湿の評価において、ワニスが透明のままであった。さらに、数平均分子量も重量平均分子量も高く、ポリイミドフィルムの状態は、10μm以上の膜厚を有し、平滑性が良好で、かつ、銅箔を折り曲げても形成された膜に亀裂が入らず、良好な結果が得られた。
【0069】
一方、比較例8乃至比較例11は、反応溶液のせりあがりの現象が確認された。なお、比較例7に関しては比較例1と同様に反応溶液のせりあがりの現象が確認されなかったが、比較例1はワニスが白化し、比較例5は、乾燥後の膜厚が10μm未満であった。
【0070】
この結果から、極性基を有するジアミンとしてBis−Ap―Afを用いても、BSDAを用いた場合と同様の効果が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例2における第1の重合工程で得られた酸無水物末端オリゴマーと、第2の重合工程で得られたポリイミド化合物のIRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の溶媒に溶解させた酸二無水物と、シロキサンジアミンと、極性基を有するジアミンとの重合反応により合成されるポリイミド化合物の製造方法であって、
上記重合反応は、上記反応溶液中の水の重量が、反応溶液全重量に対して0.01wt%以上1.1wt%以下の範囲となるように、上記重合反応で生成する水を反応系内に還流しながら行うことを特徴とするポリイミド化合物の製造方法。
【請求項2】
上記重合反応は、
上記重合反応によって生成する水を回収する第1の重合工程と、
上記重合反応によって生成する水を還流する第2の重合工程とを有し、
上記重合反応により生成する水の重量は、上記第2の重合工程で反応させる極性基を有するジアミンの量によって調整されることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド化合物の製造方法。
【請求項3】
上記酸二無水物、上記シロキサンジアミン及び上記極性基を有するジアミンの総重量は、上記反応溶液の全重量に対して、10wt%以上60wt%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリイミド化合物の製造方法。
【請求項4】
上記溶媒は、ラクトン系溶媒又はエーテル系溶媒あるいはその混合溶媒であることを特徴とする請求項1乃至3に記載のポリイミド化合物の製造方法。
【請求項5】
上記極性基は、水酸基であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のポリイミド化合物の製造方法。
【請求項6】
上記シロキサンジアミンの重量は、上記酸二無水物、上記シロキサンジアミン及び上記極性基を有するジアミンの総重量に対して、20wt%以上80wt%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のポリイミド化合物の製造方法。
【請求項7】
上記極性基を有するジアミンの重量は、上記酸二無水物、上記シロキサンジアミン及び上記極性基を有するジアミンの総重量に対して、0.1wt%以上25wt%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のポリイミド化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−24033(P2009−24033A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185277(P2007−185277)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】