説明

ポリイミド医療用チューブ状部材、及びこれを用いたカテーテル

【課題】チューブ状部材の先端部分から、手元側の後端部分に至る範囲で曲げ弾性率が手元側に向かうにしたがって増大し、耐キンク性に強く、さらに最先端部分が柔軟で施術
時の誘導操作性、及び安全性の高いポリイミド医療用チューブ状部材及びカテーテルを提
供すること。
【解決手段】ポリイミドを主成分とするチューブ状部材であって、前記チューブは基管部と、基管部から長さ方向に所定の間隔で外径が階段状に拡大している、異径部からなる形状を有する。ポリイミド前駆体溶液をステンレス線などの芯材に前記形状に成形し、加熱してイミド化を完成させた後、芯材から分離して得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド前駆体溶液を出発原料とし、チューブ状に成形した後、イミド化し
てなるポリイミド医療用チューブ状部材に関する。詳しくは、比較的小径なチューブで、
長さ方向に外径が階段状に拡大し、チューブの先端部分から手元側の後端部分に至る範囲で、曲げ弾性率が手元側に向かうにしたがって、増大しているポリイミド医療用チューブ状部材、及びこれを用いたカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性、機械的特性、及び化学的特性を有し、その用途はフィルム、チューブ等の成形品あるいは、ポリイミド前駆体溶液状のワニスや塗料などの形態で市販されており、特に内径が比較的小さい(0.1〜5mm)のポリイミドチューブはカテーテルや内視鏡などの医療用チューブ、IC基板等の端子絶縁チューブ、あるいは分析装置類の薬液搬送チューブなどの分野で用途が拡大している。
【0003】
ここでポリイミドチューブの1つの用途である医療用チューブ部材について説明する。近年、めざましい医療技術の進歩より、その治療方法は従来の切開手術に代わり、患者の肉体的、精神的な苦痛や不安を軽減するために、患者の体膣内に直接カテーテル等の医療器具を挿入して治療を行うカテーテル治療方法や、画像診断装置を用いて、患部の観察や診断を行う、内視鏡診断方法が主流になってきている。医療用チューブ部材は、このような新しい医療技術において、疾患部の観察や診断を行うカテーテルや内視鏡などの基幹部材として使用されている。
【0004】
カテーテル治療方法では、人体の細かく複雑に配置されている血管内部を、ガイドワイヤーの誘導によりカテーテルを患部まで導入して治療がなされる。これらの治療においてカテーテルは、迅速、かつ正確に患部に到達させる必要があるため、カテーテルには高い操作性と、十分な機械的特性が要求される。そのためカテーテルの基幹部材である医療用チューブ部材にも、カテーテルを血管の中に押し込み易い特性(プッシャビリティ)、カテーテルの基端部で操作された回転力がカテーテルの先端部まで確実に伝達される特性(トルク伝達性)や、カテーテルの先端で血管を損傷させることを防止するための柔軟性、耐キンク性など多くの特性が求められている。
【0005】
また、患者の肉体的、精神的な苦痛や不安を軽減するために、医療用チューブの外径はできる限り小さく、その内膣は可能な限り大きい方が好ましい。この条件を満たすためには医療用チューブの厚みを薄くすればよいことになる。しかしながら,薄肉化は機械的特性や耐キンク性の低下、それに伴うトルク伝達性の低下を招き、カテーテルの操作性を低下させる問題を持っている。このため、前記した医療用チューブとして要求される個々の特性を最大限に確保しながら、いかにこれらの特性のバランスを取るかということが、医療用チューブ部材あるいはカテーテルを開発する上での重要なポイントであり、特にカテーテルの先端部の柔軟性と、耐キンク性に優れた製品の開発が切望されている。これは治療中にカテーテルの先端で血管内を傷つけたり、突き破るなどの偶発的な事故の撲滅のためである。
【0006】
このような問題を回避するために、特許文献1ではポリアミド、もしくはポリウレタン重合体材料の細長いチューブからなるカテーテルで、その先端部が重合体材料用溶媒からなる膨張剤と、該膨張剤に可溶で高分子量低移動性の可塑剤との溶液に浸して、カテーテル本体部分より軟質化された柔軟性の異なる部分を有し、本体部分と中間部と先端部分とが一体に形成されていて、各部間の硬度の変化がなだらかで、患者の体内に挿入して施術を行っているときに先端部が剥離して脱落するような危険がない、医療用カテーテルとその製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、チューブの先端部分が手元側よりも柔軟なカテーテルとして、前記先端部分を延伸加工により外径を細くして手元側と連続する一体材料で形成した、カテーテルが提案されており、異種材料チューブを接合することなく一体材料で連続的に硬度を変化させることができ、接合面での局部的な硬度変化や、接合剥離等の接合強度の問題がなくなって、操作性がよくトルク伝達性や、押込み性を充分に高めつつ先端部の血管選択性や追従性を高めることができることが開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分としたシームレス状のチューブ体からなるカテーテル用チューブ状部材が開示されており、熱可塑性ポリイミド樹脂55〜95重量%、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂45〜55重量%を含有するシームレス状のチューブ体からなるカテーテル用チューブ状部材でチューブ体が、少なくとも先端部分に向って最先端が細くなるようにテーパー状の形状を有し、効果として体内への挿入距離が長くても、極めてスムーズに、痛みを伴うようなこともなく、迅速に挿入することができ、引抜くときもスムーズに迅速に行えるので、挿入や引抜き操作中に、屈折して医療がストップするようなトラブルが生ずることはないことが、開示されている。
【特許文献1】特許公開平5−64660号公報
【特許文献2】特許公開2004−49431号公報
【特許文献3】特許公開平8−196619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カテーテルや内視鏡等の基幹部材として用いるポリイミド医療用チューブ状部材おいて、チューブ先端部分から、手元側の後端部分に至る範囲で曲げ弾性率が手元側に向かうにしたがって増大し、耐キンク性に強く、さらに先端部分の柔軟性に優れ、施術時の誘導操作性、及び安全性に優れたポリイミド医療用チューブ状部材及びカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはカテーテル治療における施術時の、カテーテルの誘導操作性、トルク伝達性、安全性などの特性を向上させるために、カテーテルの基幹部材となるポリイミド製医療用チューブ部材について研究開発を進めた結果、チューブ状部材の基管部から長さ方向に所定の間隔で外径が階段状に拡大する異径部を設けた形状のポリイミドチューブが、その基管部から手元側の後端部に至る範囲で曲げ弾性率を滑らかに変化させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、上記目的を達成するため、請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材はポリイミドを主成分とするチューブ状部材であって、前記チューブ部材は外径が最小の基管部と、前記基管部から長さ方向に所定の間隔で外径が階段状に拡大する異径部とからなることを特徴とする。前記構造によればカテーテル等に使用した場合、カテーテルの先端部分は柔軟性に富み、手元側に近づくに従って曲げ弾性率が高くなり誘導操作性が著しく向上する。
【0012】
請求項2に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1に記載された発明において、前記外径が階段状に拡大している異径部の境界部分は、外径の小さい部分から、大きい部分に向かって外径が傾斜していることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1に記載された発明において、前記チューブ状部材の長さ方向に少なくとも2つの異径部を有することを特徴とする。請求項4に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1に記載された発明において、前記所定の間隔が10mm以上100mm以下の範囲であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1〜4に記載された発明において、前記ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合させたポリイミド前駆体を、チューブ状に成形した後、イミド化したポリイミドであることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1に記載された発明
において、前記基管部と前記異径部が異なるポリイミド材料からなることを特徴とする。ポリイミドには剛直な特性を有する材料や、あるいは柔軟で曲げ応力に強い特性を持つ材料があり、これらの材料を組み合わせて最も好ましい特性を得ることができる。請求項7に記載されたポリイミド医療用チューブ状部材は、請求項1に記載された発明において、 前記ポリイミドがフッ素樹脂を含むことを特徴とする。カテーテルに使用する医療用チューブ部材は、その内壁がガイドワイヤーと接するため、ポリイミドがフッ素樹脂を含むことによって、医療用チューブ部材の内壁とガイドワイヤーの外面との接触抵抗を下げることができる。
【0016】
請求項8に記載されたカテーテルは、請求項1〜7のいずれかに記載のポリイミド医療用チューブ状部材の外面が、ポリイミドより柔軟な材料で被覆され軟質被覆層を有することを特徴とする。前記構造によれば耐キンク性とともに先端部分がより柔軟なカテーテルを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリイミド医療用チューブ状部材は、ガイドワイヤーなどを挿入するためのルーメンを有し、基管部から長さ方向に外径が階段状に拡大している異径部を有する形状であるため、チューブの先端部分から手元側の後端部分に至る範囲で、曲げ弾性率が手元側に向かうにしたがって、連続的に増大し、カテーテルなどに用いた場合、優れた誘導操作性が得られる。また、ポリイミドを主成分としているため、消毒時の耐薬品性や耐熱性に優れ、人体に対して安全性と信頼性の高いカテーテルを提供できる。また、ポリイミドにフッ素樹脂を混合することによって、チューブ内壁の低摩擦化を図ることができ、チューブの内壁と接触するガイドワイヤーの挿入性を向上できる。さらに本発明のポリイミド医療用チューブ状部材の外面をポリイミドよりも柔軟な材料で被覆することによって、階段状に成形され異径部を有するポリイミド医療用チューブ状部材の外面を、先端から後端まで同一の外径で、あるいは前記チューブ状部材の後端から先端に向かって、先細りのテーパー状の形状に被覆することができるため、血管や膣内への挿入や取出しが極めてスムーズに処理できる。また、施術中カテーテルの挿入によって血管を傷つけたり、破壊する事故を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明のポリイミド医療用チューブ状部材の一例の模式的概略図である。図1の符号1は、ポリイミド医療用チューブ状部材の基管部であり、この基管部から同心円状で、長さ方向に外径が階段的に拡大した異径部2及び3が形成されている。また、図3はポリイミド医療用チューブ状部材表面をポリイミドよりも柔軟な材料で、同一の外径に被覆したカテーテルの、模式的概略断面図である。図3において、符号15はポリイミドよりも柔軟な材料の軟質被覆層、11は基管部分、及び12〜14は異径部を示す。
【0019】
図1に示す本発明のポリイミド医療用チューブ状部材をカテーテルなどに使用するためには、基管部1の内径は、例えば0.1〜5.0mmの範囲が好ましい。より好まし範囲は0.3mm〜3mmである。また基管部の厚みは30μm〜100μmの範囲が好ましい。基管部の長さは特に限定されるものではなく、カテーテルの使用目的に応じて決めることができ30mm〜300mmの範囲である。本発明のポリイミド医療用チューブ状部材は、基管部から同心円状で、長さ方向に外径が階段状に拡大している異径部を有している。チューブ状部材の形状を、基管部分から同心円状で、その外径を階段状に拡大した形状に成形することによって、階段状の1つの異径部分を経るに従って曲げ弾性率が増加し、ポリイミド医療用チューブ状部材の基管部分から後端部(手元側)に対して除々に曲げ弾性率を変化させることができ好ましい形状である。
【0020】
次に、本発明において長さ方向に外径が階段状に拡大している境界部分は、外径の小さい部分から、大きい部分に向かって傾斜していることが好ましい。前記した階段状の境界部分は図3に示す16の部分であり、この部分がチューブの長さ方向に対して、垂直に鋭角な階段状で形成されていると、前記境界部分でキンクが発生しやすく好ましくない。
【0021】
また、前記チューブ状部材の長さ方向に少なくとも2つの異径部を有することが好ましい。図1に示すポリイミド医療用チューブ状部材の2及び3の異径部は、いずれも外径が3段で段階状に拡大しているチューブの一例であり、階段状に外径が大きくなっている異径部分ごとに、曲げ弾性率が大きくなり、耐キンク性を向上させることができ、カテーテルの手元側におけるプッシャビリティやトルク伝達性など特性が改善されるからである。2段から7段の範囲で階段状に外径が拡大した異径部を有することが好ましい。
【0022】
次に、外径が階段状に拡大している階段状部分の所定の間隔は10mm以上100mm以下の範囲であることが好ましい。この範囲であると曲げ弾性率を、ほぼ連続的に増大させることができるからである。より好ましい長さは20mm〜70mmの範囲である。
【0023】
また、前記10mm以上〜100mm以下の間隔で、外径が階段状に拡大している異径部を密に形成している箇所を、少なくとも一ヶ所、有していることが好ましい。カテーテルなどに用いる医療用チューブは、長さが2mに及ぶものもあり、このようなカテーテルを体内に挿入する場合には、チューブの長さ方向において、10〜100mmの間隔で、階段状に外径が2〜7段の数で集中して密に成形されている異径部を設けることが、操作性をより高めることができ好ましい。前述した、異径部が集中して密に成形されている箇所間の間隔は、(図1において2の部分から3の部分までの間隔)は、カテーテルの全長や、内径の大きさによって異なるが100mm〜300mmの範囲が好ましい。カテーテルの長さが長い場合、あるいは内径が2mmを超えて大きい場合には、異径部が集中して密に成形されている箇所を数ヶ所、設けることが好ましい。
【0024】
次に、本発明のポリイミド医療用チューブ状部材において、前記ポリイミドは、芳香族
テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合させたポリイミド前駆体を、チューブ状に成形した後、イミド化したポリイミドであることが好ましい。ポリイミド前駆体は溶液状で、粘度や固形分濃度を容易に変えることが可能で、また、前駆体溶液中にバリウムなどのX線不透過剤やフッ素樹脂、あるいは着色剤などの粉末や微粒子を均一に混合させやすいからである。また、溶液状であるため種々の形状に成形が可能であり、厚みや内径など寸法精度の高いチューブの作製ができるからである。
【0025】
前記ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの略等モルを有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。前記、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。
【0026】
また、前記芳香族ジアミンの代表例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン等を挙げることができる。
【0027】
これら芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンは、単独であるいは混合して使用することができる。またポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらの前駆体溶液を混合して使用することもできる。
【0028】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを反応させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン等があげることができ、これらの溶媒を単独でまたは混合して使用することが好ましい。
【0029】
上記、ポリイミド前駆体溶液は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90℃以下で反応させることによって得られ、溶媒中の固形分濃度は、作製するポリイミドチューブの形状や加工条件によって設定することができるが10〜50重量%である。
【0030】
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合の割合によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては所定の粘度に希釈して使用することができる。製造条件や作業条件によって通常1〜5000ポイズの粘度で使用される。より好まし溶液粘度は100〜1500ポイズの範囲である。
【0031】
また、本発明のポリイミド医療用チューブ状部材において、基管部と異径部が異なるポリイミド材料からなることが好ましい。本発明の医療用チューブ状部材は、ポリイミド前駆体溶液を出発原料とし、チューブ状に成形し、加熱などの手段でイミド化を完結させて得られるが、ポリイミドはそのモノマーの選択によって伸びの大きい材料や、伸びが小さく剛直な特性を持つ材料を選定することができる。例えば3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)からなるポリイミドは、剛直で優れた機械特性を有するが、伸びが小さく、また、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)からなるポリイミドは、伸びが大きく柔軟な特性を持つことから、基管部の材料には後者を用い、異径部には前者を用いることによって、より精度の高いチューブ状部材を作製でき、カテーテルの用途で要求されるプッシャビリティやトルク伝達性、柔軟性、耐キンク性等それぞれの要求特性に対してバランスの取れた構成のチューブ状部材を提供でき、医療現場の多くの要求に対応できる。
【0032】
次に、本発明において、ポリイミドがフッ素樹脂を含むことが好ましい。フッ素樹脂を混合したポリイミド前駆体溶液を用い、チューブ状に成形し、フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱するとイミド化の完結と、フッ素樹脂の焼成が同時に行われ、ポリイミド層の表面にフッ素樹脂が溶融して析出し、摩擦抵抗値を大幅に減少させることができるからである。本発明で基管部のポリイミド層にフッ素樹脂を混合した場合には基管部の内面あるいは内外面にフッ素樹脂が析出して形成され、チューブ内面が低い摩擦係数を有する医療用チューブ状部材を作製でるため、ガイドワイヤー等の出し入れがスムーズに操作でき、また、フッ素樹脂が析出しているため、血栓などの発生も防止でき好ましい。
【0033】
前記ポリイミド前駆体溶液に混合するフッ素樹脂は特に限定するものではなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)などが好ましく、これらの樹脂を単体でまたは混合して使用することが好ましい。PTFE、PFA,FEPは化学的にも安定であり、ポリイミドのイミド化温度でも変質することが無く、人体に対しても安全であることからより好ましい材料である。
【0034】
また、前記フッ素樹脂は粉末状のものがポリイミド前駆体溶液に混合分散させやすく好ましい。前記フッ素樹脂粉末の平均粒径は、0.1μm〜25μmの範囲が好ましい。より好ましい平均粒子径は、1.0μm〜10μmの範囲である。このような範囲内であると粒子の凝集が少なく均一に分散できるため好ましい。また前記フッ素樹脂の混合量はポリイミド前駆体溶液の固形分100重量部に対して3重量部〜50重量部に設定することが好ましい。特に好ましくは10重量部〜40重量部である。
【0035】
次に、本発明のカテーテルは、本発明のポリイミド医療用チューブ状部材の外面を、ポリイミドよりも柔軟な材料で被覆した構造であることが好ましい。ポリイミドは優れた医療用材料であるが、プラスチックの中では比較的硬質の材料であるため、シリコーンゴムなどのように、ポリイミドよりも柔軟な材料で前記医療用チューブ状部材の外面を被覆することが好ましい。ポリイミドよりも柔軟な材料で医療用チューブ状部材の外面を被覆する形状は、先端から後端まで同一の外径に被覆することができ、血管や膣内への挿入や取り出しが極めてスムーズに処理できる。また、ポリイミド医療用チューブ状部材の手元側、すなわち外径の大きいほうから外径の小さい基管部に向かって先細りのテーパー形状に被覆することもでき、このような形状は挿入性、取り出し性において迅速に処理ができ、カテーテル操作におけるトラブルを一掃できる。前記ポリイミドよりも柔軟な材料としてはシリコーンゴム、ウレタンゴム、ラテックスゴム、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマーなどが好ましい。
【0036】
また、前記柔軟な材料からなる被覆層が、前記ポリイミド医療用チューブ状部材の基管部の先端部と同じ長さか、それよりも延長して成形され、カテーテルの最先端部分を形成していることが好ましい。カテーテルの最先端部分が、ポリイミドよりも柔軟な材料で形成されているため、血管内に挿入していく場合、カテーテルの先端部で血管を傷つけたり、破壊することを大幅に改善できるからである。
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は「BPDA」と、パラフェニレンジアミンは「PPD」と、及びピロメリット酸二無水物は「PMDA」と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルは「ODA」とN−メチル−2−ピロリドンは「NMP」と各々略記する。また、本発明で得られたポリイミド医療用チューブ状部材の特性は下記の方法で測定した。
(1)曲げ弾性率の測定方法
図4は曲げ弾性率の測定装置40の概略図である。測定方法は試験台48の側面板43、43'に、試料チューブ41を挿入して保持する貫通口46を設け、試料チューブ41を貫通口に挿入して保持する。両端部を柔軟なワイヤー44で固定した直径2.0mmのステンレス棒42と水平になるように試料チューブ41をセットして、矢印47の方向に、5.0mm/分の速度で引っ張り上げ、試料チューブ41にタワミが発生するときの最大荷重を、ロードセル45で測定して、曲げ弾性率を算出した。貫通口46の直径は2.0mmであり側板43と43'の間隔(試料チューブの保持する長さ)は25mmである。
(2)ポリイミド医療用チューブ状部材内面の動摩擦抵抗値の測定方法
図5に示すように長さ900mmのポリイミド医療用チューブ状部材52に、線径0.33mm,長さ1100mmのナイロン線(ユニチカ社製商品名「グンター4号」)51をあらかじめ挿入し、直径67mmの金属製のチューブ支持体53に前記チューブを4周巻き付け、その両端約25mm部分はそれぞれ垂直に保持して、粘着テープで固定し、この支持体を引張試験機の固定チャック57に取り付けた。その後、前記ナイロン線51の片方の端部を引張試験機55のクリップ54に固定し、矢印56の方向に1分間に200mmの速度で引張り、このときの荷重を測定することにより、医療用チューブ内壁とナイロン線外面との摩擦抵抗値を測定した。引張り荷重が小さいほど摩擦抵抗は小さいことになる。動摩擦抵抗値は、引張り荷重の値を引張り距離間100mmにわたりチャートに記録させ、そのデータの平均値を測定値とした。
【実施例1】
【0038】
ポリイミド医療用チューブ状部材の、基管部を作製するためにポリイミド前駆体溶液として((株)IST社製PyreMLワニス:RC−5019)を用意した。このポリイミド前駆体溶液はNMP中でPMDAとODAを反応させたものであり、固形分濃度17%で、粘度を800ポイズに調整した。前記ポリイミド前駆体溶液を用い、外径0.55mm、長さ2500mmのステンレス線表面に、前記前駆体を付着させ、内径1.55mmのダイスを通過させて500μmの厚みに塗布し、150度Cのイミド化炉中で10分間加熱し、初期イミド化処理を行い、ステンレス線表面全体に基管部を成形した。ステンレス線を含む基管部の外径は1.05mmであった。
【0039】
次に第1段目の異径部(階段状に外径が拡大している部分)を成形するために、前記基管部の長さ200mm部分を残し、前記ポリイミド前駆体溶液を付着させ、ステンレス線の上部より内径1.45mmのダイスを通過させ、200μmの厚みに塗布し、150度Cの温度で10分間加熱して第1段目の異径部を成形した。次いで、第2段目の異径部を作製するために、前記第1段目の異径部の上部の長さ50mm部分を残し、200μmの厚みにダイスにより成形し、150度Cの温度で10分間乾燥して第2段目の異径部を成形した。さらに第3段目の異径部として、前記第2段目の異径部の外面に、第2段目の異径部の長さ50mm部分を残し、第3段目の異径部を200μmの厚みで塗布し、150度Cで10分間乾燥後、20度C/分の昇温速度で400度Cまで昇温し同温度で5分間保持し冷却した。
【0040】
次いで、ステンレス線の両端部を引張り、外径を細くして前記チューブからステンレス線を抜き取り本発明のポリイミド医療用チューブ状部材を作製した。このチューブの内径は0.55mmであり、基管部の外径は0.660mmで、長さが約200mmの基管部を残して、基管部の外面に、50mmの間隔で、3段階で外径が拡大した異径部を有するポリイミド医療用チューブ状部材を得た。第1段目の異径部の外径は0.693mm、第2段目は0.734mm及び、第3段目で最も外径の大きい部分の外径は0.773mmであった。このポリイミド医療用チューブ状部材の基管部から順番に曲げ弾性率を測定した結果、基管部は93.4gf/mm2 であり、第1段階部分は120gf/mm2、第2段階部分は151gf/mm2及び外径の最も大きい、チューブ後端部の曲げ弾性率は206gf/mm2であった。このポリイミド医療用チューブ状部材は、基管部から同心円状で、長さ方向に外径が階段状に拡大している異径部を有する形状であり、前記チューブ状部材の長さ方向の曲げ弾性率は、基管部から後端部分に至る範囲で連続的に増大し、耐キンク性や手元側からの操作性に優れ、カテーテルなどの基幹部材として最適の特性と形状を有していた。また、外径が階段状に拡大している境界部分は、それぞれ外径が小さい部分から大きい部分に向かってテーパー状で成形され、境界部分でチューブが折れ曲がる現象は見られなかった。
【実施例2】
【0041】
実施例1において、基管部の外面に異径部を成形するためのポリイミド前駆体溶液として、((株)IST社製PyreMLワニス:RC−5063)を用いた以外は実施例1と同じ条件でポリイミド医療用チューブ状部材を作製した。このポリイミド前駆体溶液はNMP中でBPDAとPPDを反応させたものであり、固形分濃度17.5%で、粘度を1000ポイズに調整した。このポリイミド医療用チューブ状部材を、基管部から順番に曲げ弾性率を測定した結果、基管部は92gf/mm2であり、第1段階部分は139gf/mm2、第2段階部分は200gf/mm2、及び外径の最も大きいチューブ後端部は310gf/mm2であった。このポリイミド医療用チューブ状部材は、実施例1よりも曲げ弾性率が高く、基管部の柔軟なポリイミド材料(RC−5019)と、異径部の剛直なポリイミド材料(RC−5063)のそれぞれ異なる材料の特徴を生かした効果が得られ、カテーテルの使用条件によって曲げ弾性率や、強度、剛性などの特性でバランスの取れたポリイミド医療用チューブ状部材を得ることができた。
【実施例3】
【0042】
実施例1において、基管部の外面に50mmの間隔で、外径が約40μmずつ、3段階で拡大している異径部の3段目の長さを300mm残し、4段目〜6段目を50mmの間隔で外径が約40μmずつ拡大する異径部を成形した。このチューブ状部材は、異径部が集中して密に成形されている箇所を、チューブ状部材の長さ方向に2ヶ所有するチューブ状部材であり、4段目の外径は0.818mm、5段目の外径は0.860mm、チューブ後端部を構成する6段目の外径は0.900mmであった。また、6段目の曲げ弾性率は455gf/mm2であり、基層部分の先端から約750mmの長さの範囲で曲げ弾性率が手元側に向かうにしたがって変化しているポリイミド医療用チューブ状部材を得ることができた。
【実施例4】
【0043】
基管部を成形するためのポリイミド前駆体溶液として、((株)IST社製PyreMLワニス:RC−5063)を用い、前記ポリイミド前駆体溶液中に平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327度C:デュポン社製商品名「Zonyl MP1200」)をポリイミド前駆体溶液中の固形分100重量部に対して20重量部の割合になるように添加して攪拌し、均一に分散させた。その後250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過してフッ素樹脂粉末混合ポリイミド前駆体溶液を用意した。また、異径部の成形には、前記ポリイミド前駆体溶液RC−5063単体を用いた。その後、実施例1と同じ条件でステンレス線表面に基管部と3段に異径部が成形されたポリイミド医療用チューブ状部材を作製した。このポリイミド医療用チューブ状部材の基管部の内面、及び基管部として露出している外面(長さ200mmで外径が約0.65mmの部分)の表面には、ポリイミド前駆体溶液中に混合したフッ素樹脂が溶融して析出しており、ポリイミド単体の動摩擦抵抗0.64Nに対して、フッ素樹脂を混合した基管部内面の動摩擦抵抗は0.18Nであり、ポリイミド単体と比較して1/3以下の値が得られた。このポリイミド医療用チューブ状部材の内面はガイドワイヤーを挿入した場合、摩擦抵抗が小さくスムーズな挿入ができた。
【実施例5】
【0044】
実施例1で作製したポリイミド医療用チューブ状部材を、ステンレス線に保持した状態で、基管部の最先端のポリイミド層の欠陥部分を5〜6mm剥ぎ取り、その先端部を垂直な断面になるようにカットし、前記チューブ状部材表面全体にプライマー(GE東芝シリコーン社製商品名:XP−81−405)を均一に塗布した後、室温で20分乾燥後150度Cの温度で10分間乾燥した。次に、液状シリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製商品名:XE15−9055)A,Bの2液を予め1:1の割合で混合した液状シリコーンゴムを、基管部から露出しているステンレス線の約100mmの長さ部分に塗布し、ステンレス線の上部から内径0.9mmのダイスを挿入し通過させ、前記リイミド医療用チューブ状部材の外面全体をシリコーンゴムで、約60μmの厚みに被覆した。
【0045】
その後、180度Cの温度で15分間加硫を行い、ステンレス線の両端を引張って縮径してステンレス線を抜き取り、ポリイミド医療用チューブ状部材の外面がシリコーンゴムで被覆された2層構造のカテーテルを得た。このカテーテルの最先端部分のシリコーン単体のチューブ状部分を長さ約5mmにカットして、カテーテルの最先端部分が柔軟なシリコーンゴムで形成されたカテーテルを作製した。このカテーテルはポリイミド単体の前記チューブ状部材よりも柔らかくしなやかであり、且つ、ポリイミドの剛性により手元側での操作性に優れ、またカテーテルの先端が柔軟なシリコーンゴム単体で形成されているため、安全性が高く、血管中に挿入するとき、血管内部を傷つけるなどの事故の解消に対応することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係わるポリイミド医療用チューブ状部材はポリイミドの優れた機械的特性と、基管部から長さ方向に外径が階段状に拡大している異径部を有する構造であることから、柔軟性、及び耐キンク性に優れ、カテーテルや内視鏡など医療用品の基幹チューブ状部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明のポリイミド医療用チューブ状部材であり、実施例3で得られた前記チューブ状部材の模擬的概略図である。
【図2】図2は本発明のポリイミド医療用チューブ状部材であり、実施例2で得られた前記チューブ状部材の模擬的断面図である。
【図3】図3は本発明のポリイミド医療用チューブ状部材であり、実施例5で得られた前記チューブ状部材の模擬的断面図である。
【図4】曲げ弾性率の測定方法を示す説明図である。
【図5】図5は本発明の実施例で作成したポリイミド医療用チューブ状部材内面の動摩擦抵抗値の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1、11、21 基管部
2、3 異径部が密に成形されている箇所
10、20、30 ポリイミド医療用チューブ状部材
21 PMDAとODAからなるポリイミド基管部
22、23、24 PBDAとPPDからなるポリイミド異径部
15 シリコーンゴム軟質被覆層
16 外径の小さい部分から、大きい部分に向かって傾斜している部分
40 曲げ弾性率測定装置
50 動摩擦抵抗測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを主成分とするチューブ状部材であって、前記チューブ部材は外径が最小の基管部と、前記基管部から長さ方向に所定の間隔で外径が階段状に拡大する異径部とからなることを特徴とするポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項2】
前記外径が階段状に拡大している異径部の境界部分は、外径の小さい部分から、大きい部分に向かって外径が傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項3】
前記チューブ状部材の長さ方向に少なくとも2つの異径部を有することを特徴とする請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材
【請求項4】
前記所定の間隔が10mm以上100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項5】
前記ポリイミドは、芳香族テロラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒
中で重合させたポリイミド前駆体を、チューブ状に成形した後、イミド化したポリイミド
であることを特徴とする請求項1〜4に記載のポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項6】
前記基管部と前記異径部が異なるポリイミド材料からなることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項7】
前記ポリイミドがフッ素樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリイミド医療用チューブ状部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリイミド医療用チューブ状部材の外面が、ポリイミ
ドより柔軟な材料で被覆され軟質被覆層を有することを特徴とするカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−185498(P2007−185498A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335243(P2006−335243)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】