説明

ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物並びにそれを用いて得られるポリイミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂被覆体及び導電性部材

【課題】 ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物に導電性ポリアニリンを高分散させても経時的にゲル化や粘度低下を起すことなく、貯蔵安定性に優れたポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物の提供。
【解決手段】 導電性ポリアニリンとポリイミド及び/又はポリイミド前駆体とを含んでなり、導電性ポリアニリンに対する遊離した非結合酸ドーパントの割合が、ポリアニリンの単位ユニット当りのモル比で、0.2以下であるポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物並びにそれを用いて得られるポリイミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂被覆体及び導電性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物及びその応用に関し、更に詳しくは導電性ポリアニリンを高分散させてもゲル化や低粘度化が起らず、貯蔵安定性に優れたポリイミドワニス組成物(即ちポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物)並びにそれを用いて得られるポリイミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂被覆体及び導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリアニリンとポリアミド酸からなるポリイミド前駆体組成物は、脱ドープしたポリアニリンとポリアミド酸とスルホン酸を例えばN−メチルピロリドン(NMP)中で混合することにより製造することができる。しかしながら、ポリアミド酸中で形成された導電性ポリアニリンは、ポリアミド酸に対する分散性が悪く、凝集沈澱が起るという問題があった。また、添加したスルホン酸の一部は、ポリアニリンと塩を形成できずに組成物中に残存するため、ポリアミド酸を加水分解し、組成物を低粘度化する問題があった。また、市販されている導電性ポリアニリン分散液とポリアミド酸を混合したポリイミド前駆体組成物では、ポリアニリンの凝集沈殿物が形成されること、ゲル化が進行する問題があった。
【0003】
かかる状態下に、ポリアミド酸溶液と脱ドープしたポリアニリンとスルホン酸を混合する方法(特許文献1、特許文献2参照)や脱ドープしたポリアニリンを分散、溶解させたポリアミド酸溶液からポリイミドフィルムを形成させた後、そのフィルムをドーパント溶液に浸漬して導電化する方法(特許文献1参照)等が提案されているが、これらには経時的にポリアミド酸組成物の低粘度化やゲル化が進行すること、導電化処理が煩雑であること等の問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−226765号公報
【特許文献2】特開2004−205617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、導電性ポリアニリンを高分散させても経時的にゲル化やポリイミド及び/又はポリイミド前駆体の加水分解による低粘度化が起すことなく、貯蔵安定性に優れたポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従えば、導電性ポリアニリンとポリイミド及び/又はポリイミド前駆体とを含んでなり、導電性ポリアニリンに対する遊離した非結合酸ドーパントの割合が、式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
で示されるポリアニリンの単位ユニット当りのモル比で、0.2以下であるポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物が提供される。
【0009】
本発明に従えば、また前記導電性ポリアニリンが、水層及び有機層からなる混合層において、分子量調整剤及び、必要に応じ、相間移動触媒の存在下にスルホン酸と、アニリン又はその誘導体とを酸化重合し、得られた有機溶媒中に安定に分散した導電性ポリアニリンの分散液中に残存する遊離の酸ドーパントを水又はアルカリ水溶液で洗浄することによって得られるものである前記ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物が提供される。
【0010】
本発明に従えば、更にフィルムの表面抵抗値が106〜1013Ω/□である前記ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂フィルム並びにそれを用いたポリイミド樹脂被覆体及び導電性部材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば導電性ポリアニリンが高分散したポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を製造する際、導電性ポリアニリンに対する遊離した非結合酸ドーパントの割合が、ポリアニリンの(I)式に示す単位ユニットあたりのモル比で0.2以下である導電性ポリアニリン分散液を用いることにより、室温で1ヶ月放置してもゲル化やポリアミド酸の加水分解による低粘度化が進行せず、貯蔵安定性に優れたポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく研究を進めた結果、水層及び有機層からなる混合層において、分子量調整剤及び、必要に応じ、相間移動触媒の存在下に、スルホン酸とアニリン又はその誘導体とを酸化重合し、得られた有機溶媒中に安定に分散した導電性ポリアニリンの分散液中に残存する遊離の酸ドーパントを水又はアルカリ水溶液で洗浄することによって得られた導電性ポリアニリンが高分散したポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物は、室温で1ヶ月放置してもゲル化又はポリイミド及び/又はポリイミド前駆体の加水分解による低粘度化が進行せず、貯蔵安定性に優れたものであることを見出した。このポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を基板上に塗布後、加熱処理することによりポリイミド樹脂フィルムが得られ、このフィルムの表面抵抗値は導電性ポリアニリンの含有量により106〜1013Ω/□の範囲内で制御可能であることを見出した。
【0013】
本発明のポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物に配合する導電性ポリアニリンは、ポリアニリンを製造する際、スルホン酸の存在下に、分子量調整剤及び、必要に応じ、相間移動触媒を共存させることにより、高収率で有機溶媒に安定に分散する導電性ポリアニリンを合成することができる。
【0014】
本発明に従った有機溶媒に分散可能な導電性ポリアニリンは、通常、アニリンもしくはその誘導体又はこれらの任意の混合物を酸化重合することによって得られる。上記アニリン誘導体としては、4位以外の位置に、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基を置換基として少なくとも一つ有するアニリン誘導体が例示できる。好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、好ましくは炭素数6〜10のアリール基を置換基として少なくとも一つ有するアニリン誘導体が例示できる。
【0015】
上記酸化重合のための酸化剤としては、上記アニリン又はその誘導体を重合し得うるものであれば特に限定はなく、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸類;過酸化水素;塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の金属塩類;過酸化水素−第一鉄塩等のレドックス開始剤等が好ましく用いられる。これら酸化剤は単独で使用しても2種又はそれ以上併用してもよい。これら酸化剤の用いる量としては、上記アニリン又はその誘導体を酸化重合し得うる量であれば特に限定はないが、アニリン又はその誘導体1モルに対して好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.1〜5モルである。
【0016】
本発明においては、アニリン又はその誘導体の酸化重合に際して、スルホン酸の存在下に、分子量調整剤及び、必要に応じ、相間移動触媒を共存させ、重合は水層及び有機層の混合層で実施する。本発明において使用するスルホン酸としては従来からアニリンの酸化重合に使用されている任意のスルホン酸を用いることができ、具体的には一つ又は複数のスルホン酸基を有する脂肪族又は芳香族スルホン酸及びこれらの塩であり、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、高級脂肪酸エステルのスルホン酸、(ジ)アルキルスルホコハク酸、高級脂肪酸アミドのスルホン酸、カンファースルホン酸及びこれらの塩類をあげることができる。また、スルホン酸基を有する有機高分子化合物及びこれらの塩も挙げられ、具体的には、スルホン酸基を有する水不溶性有機高分子化合物であり、スルホン酸基を有する複数の側鎖と有機溶媒に対して親和性を示す複数の側鎖が主鎖に結合した構造のものである。スルホン酸基は側鎖末端に限らず、側鎖の途中に複数存在していてもよい。スルホン酸基を有する高分子化合物としては、上記構造を満たしていれば特に限定されないが、スルホン酸基を有するエチレン系不飽和モノマーと有機溶媒に対して親和性を示す側鎖を有するエチレン系不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。スルホン酸基を有するエチレン系不飽和モノマーとしては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−1−スルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパン−1−メチル−1−スルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパン−1−スルホン酸、4−メタクリロイルオキシブタン−1−スルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルスルホン酸等を挙げることができる。また、これらスルホン酸基を有するエチレン系不飽和モノマーのスルホン酸基がアンモニウム塩、アルカリ金属塩もしくは有機アミン塩等の塩になっていてもよい。有機溶媒に対して親和性を示す側鎖を有するエチレン系不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル及び炭素数1〜30で、ヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基を有するスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体、カルボン酸ビニルエステル誘導体を挙げることができる。上記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。上記重合体は公知の重合法を用いることにより得ることができる。
【0017】
これらのスルホン酸の使用量には特に限定はないが、スルホン酸のスルホン酸基がアニリン又はその誘導体のアミノ基に対するモル比で0.01〜5モル使用するのが好ましく、0.1〜3モル使用するのが更に好ましい。前記重合に際しては、スルホン酸に加えて、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸、m−ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸などの有機酸等のプロトン酸を必要に応じて添加してもよい。
【0018】
本発明において使用する分子量調整剤としては、4位に置換基を有するアニリン誘導体、チオール化合物、ジスルフィド化合物及び/又はα−メチルスチレンダイマーが挙げられる。分子量調整剤の使用量には特に限定はないが、アニリン又はその誘導体1モル当り5.0×10-5〜5.0×10-1モル使用するのが好ましく、2.0×10-4〜2.0×10-1モル使用するのが更に好ましい。
【0019】
本発明の好ましい態様において使用する相間移動触媒としては、一般に相間移動触媒として用いられているものであれば特に限定されないが、例えば、テトラアルキルアンモニウムハライド類、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイド類、テトラアルキルホスホニウムハライド類、クラウンエーテル類等が挙げられ、このうち反応後の触媒の除去等の取り扱い易さの点でテトラアルキルアンモニウムハライド類が好ましく、特には工業的に安価に入手できるテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド又はテトラ−n−ブチルアンモニウムクロライドが好ましい。本発明において、必要に応じ、使用する相間移動触媒の量は、特に限定されないが、酸化剤に対して、好ましくは、0.0001モル倍量以上、更に好ましくは0.005モル倍量以上用いられるが、相間移動触媒を過剰に用いすぎると反応終了後の単離、精製工程が困難になるため、使用する場合には、好ましくは5モル倍量以下、更に好ましくは、等モル量以下の範囲で用いられる。
【0020】
本発明に従ってアニリン又はその誘導体を酸化重合させる方法については、前記反応成分を使用すること以外は従来通りの方法を採用することができ、その他の汎用添加剤も本発明の目的を損なわない限り、従来通りとすることができる。本発明の重合媒体は、水及び有機溶媒といった2種類の液体媒体を溶媒として用いる。上記有機溶媒としては、アニリン又はその誘導体とを溶解し、非水溶性であれば特に限定されず、その具体例としては、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類が挙げられ、このうち好ましくは、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類及びケトン類であり、特に好ましくは、安価で毒性の低いトルエン、キシレン、ペンダノン、ヘキサノン及びヘプタノンである。上記有機溶媒は、2種又はそれ以上を混合して用いても良い。液体媒体の使用量としては撹拌可能な量があれば良く、通常は、アニリン又はその誘導体に対して、1〜500重量倍量用いられ、好ましくは2〜300重量倍量である。ここで、有機溶剤の使用量は、水に対して、0.05〜30重量倍量用いられ、好ましくは、0.1〜10重量倍量用いられる。
【0021】
反応温度には特に制限はないが、好ましくは−10〜80℃である。本発明に従って酸化重合されたポリアニリンは収率が非常に高く、通常は80%以上であり、またその電気伝導度は10-9Scm-1以上である。得られた有機溶媒に安定的に分散するポリアニリンは、例えば得られた反応溶液に水及び/又は極性有機溶媒を添加し、有機層及び水層に分離した反応溶液から水層のみを、例えば分液ロート、液液抽出装置によって除去することにより有機溶媒に分散しているポリアニリンを単離することができる。本発明によれば、水層を分離した有機層を水、メタノール水溶液などのアルコール水溶液、更には、そして好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等を水に溶解させたアルカリ水溶液で洗浄する。本洗浄操作を複数回行うことにより生成物中に残存する遊離の酸ドーパントを除去する。かかる洗浄により、導電性ポリアニリン中の遊離した非結合酸ドーパントの量を導電性ポリアニリンに対して(前記式(I)で示されるポリアニリンの単位ユニット当り)モル比で0.2以下、好ましくは0.1以下にする。この残存量が多いと前述のようなトラブルが発生するおそれがあるので好ましくない。
【0022】
本発明で用いられるポリイミド及び/又はポリイミド前駆体は特に限定されないが、溶媒に溶解及び/又は分散可能なポリイミド及び/又はポリイミド前駆体であることが好ましい。
【0023】
ポリイミドとしては、有機溶媒に溶解及び/又は分散可能なポリイミド、有機溶媒に溶解及び/又は分散しているポリイミドワニス、有機溶媒に溶解及び/又は分散可能なポリアミドイミド、有機溶媒に溶解及び/又は分散しているポリアミドイミドワニスを例示することができる。ポリイミドとしては、例えば、特開平6−136120、特開2001−48983で開示されているポリイミドが挙げられ、市販品としては新日本理化社製「リカコート」等を例示できる。また、ポリアミドイミドとしては、例えば、特開2002−212290で開示されているポリアミドイミドが挙げられ、市販品としては東洋紡績社製「バイロマックス」等を例示できる。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジオキソラン、ブチルセルソルブアセテートあるいはこれらの混合物等を使用することができる。
【0024】
ポリイミド前駆体としては、通常テトラカルボン酸誘導体と一級ジアミンを溶媒中で反応、重合させたものであり、テトラカルボン酸及び1級ジアミンとしては特開2001−48983で開示されている化合物及び/又は日本ポリイミド研究会編「最新ポリイミド〜基礎と応用〜」p515−p528に例示されている化合物を用いることができる。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジオキソラン、ブチルセルソルブアセテートあるいはこれらの混合物等を使用することができる。テトラカルボン酸誘導体と一級ジアミンを反応させる温度としては、−20〜150℃、好ましくは−5〜100℃で行なうことが好ましい。ポリイミド前駆体の市販品としては、宇部興産(株)製「ポリイミドワニス U−ワニス」等を用いることができる。
【0025】
本発明のポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物は、前記ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体と導電性ポリアニリンとを混合することにより得られる。具体的には、有機溶媒に溶解及び/又は分散しているポリイミド及び/又はポリイミド前駆体と前記導電性ポリアニリン分散液を混合することにより得られる。ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体が溶解及び/又は分散している溶媒と導電性ポリアニリン分散液の溶媒とは同一あるいは相溶することが好ましい。ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体が溶解及び/又は分散している溶媒と導電性ポリアニリン分散液の溶媒とが異なる場合、用いた溶媒の内で低沸点溶媒を除去することによりポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物が得られるが、本発明の目的を満たすならば、必ずしも溶媒を除去する必要はない。ポリイミド及び/又はポリイミド前駆体に対する導電性ポリアニリンの配合量は、ポリイミド100重量部(ポリイミド前駆体の場合、イミド転化後のポリイミド換算)に対して0.1〜100重量部である。導電性ポリアニリンの配合量が少ないとポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂フィルム及びポリイミド樹脂被覆体の表面抵抗値が本発明の目的を満たすことができないために好ましくなく、逆に多いとポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物から形成されるポリイミド樹脂フィルムの機械的強度が低下するため好ましくない。
【0026】
本発明のポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物からは、例えばポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を平滑な支持基板表面上に塗布し、加熱処理することにより、基板上に均一膜厚のポリイミド樹脂フィルムが形成されたポリイミド樹脂被覆体が得られる。ポリイミド樹脂被覆体からポリイミド樹脂フィルムを剥離し、均一膜厚のポリイミド樹脂フィルムを得ることが出来る。
【0027】
基板としては、金属箔、金属線、ガラス板、透明導電膜付きガラス(導電ガラス)、半導体、シリコン基板、プラスチックフィルム等が挙げられる。金属としては金、銀、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0028】
ポリイミド組成物を用いる場合の加熱処理温度は、組成物中の溶媒が蒸発できる温度であれば特に限定されないが、好ましくは80〜300℃であり、特に好ましくは100〜250℃である。また、ポリイミド前駆体組成物を用いる場合の加熱処理温度は、ポリイミド前駆体がポリイミドへと転化できる温度であれば特に限定されないが、好ましくは100〜450℃、好ましくは150〜350℃である。またポリイミド前駆体組成物を用いた場合、公知の脱水閉環触媒を用いた化学的処理によってもポリイミド樹脂フィルム、及びポリイミド被覆体を得ることができる。
【0029】
本発明のポリイミド樹脂フィルム及びポリイミド被覆物の表面抵抗値は、好ましくは106〜1013Ω/□、更に好ましくは106〜1012Ω/□である。本発明のポリイミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂被覆物は、半導電性とポリイミドの特徴である機械的強度、耐熱性、耐溶剤性、耐摩耗性を有していることから、例えば電磁シールド材、静電吸着用フィルム、帯電防止材、電極等の電子デバイス用材料等の導電部材として有用である。
【0030】
本発明に係るポリイミド系前駆体組成物には、前記した成分に加えて、例えばカーボンブラック、シリカ、タルクなどの補強剤(フィラー)、シランカップリング剤、各種オイル、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤などの樹脂用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、更にその他の成分として、イオン導電剤(例えば第4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤等)、電子導電剤(例えば導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、導電性酸化スズ、グラファイト等)を配合しても差し支えない。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1〜2
導電性ポリアニリントルエン分散液の調製
アニリン3g、ドデシルベンゼンスルホン酸6.3g及びトリメチルアニリン0.01gを溶解したトルエン溶液に、6mol/L塩酸水溶液5.4mlとテトラブチルアンモニウムブロマイド1gを添加した後、混合液を0℃まで冷却した。このトルエン/水混合液に14重量%過硫酸アンモニウム水溶液52.4gを添加し、得られた混合液を0℃に維持した状態で10時間撹拌下に反応させた。反応終了後、この反応液にトルエンを加え、次にアンモニア濃度1mol/Lのアンモニアメタノール水溶液の順に加え撹拌、静置した。得られた反応液を分液ロートに移し、トルエン及び水の2層に分離した後、水層を除去した。次にトルエン層をメタノール水溶液による洗浄操作を4回繰り返すことにより、以下の例で使用するポリアニリントルエン分散液を得た。
【0033】
ポリアニリン分散ポリアミド酸組成物1の調製
ポリアミド酸ワニス(宇部興産(株)製U−ワニスA)20g(ポリアミド酸20重量%)に、N−メチルピロリドン(NMP)4gを添加したポリアミド酸NMP溶液に、上で合成した導電性ポリアニリントルエン分散液23g(ポリアニリン含有量0.19g)を滴下した。滴下終了後、50℃及び真空下でトルエンを除去することによりポリアニリン分散ポリアミド酸組成物1を得た。
【0034】
ポリアニリン分散ポリアミド酸組成物2の調製
ポリアミド酸ワニス(宇部興産(株)製U−ワニスA)20g(ポリアミド酸20重量%)に、N−メチルピロリドン(NMP)4gを添加したポリアミド酸NMP溶液に、前記導電性ポリアニリントルエン分散液34.5g(ポリアニリン含有量0.28g)を滴下した。滴下終了後、50℃真空下でトルエンを除去することによりポリアニリン分散ポリアミド酸組成物2を得た。
【0035】
ポリアニリン分散ポリアミド酸組成物3の調製
脱ドープポリアニリン(アルドリッチ製polyaniline(emeraldine base))0.56gをN−メチルピロリドン(NMP)8gに溶解させ、脱ドープ状態のポリアニリンが溶解したポリアニリンNMP溶液を得た。このポリアニリン溶液4gとトルエンスルホン酸0.28gとポリアミド酸(宇部興産(株)製U−ワニスA)20g(ポリアミド酸20重量%)を混合することによりポリアニリン分散ポリアミド酸組成物3を得た。
【0036】
ポリアニリン分散ポリアミド酸組成物4の調製
ポリアミド酸(宇部興産(株)製U−ワニスA)20g(ポリアミド酸20重量%)に、N−メチルピロリドン(NMP)4gを添加したポリアミド酸NMP溶液に、前記導電性ポリアニリンキシレン分散液15g(ORMECON製D1010)を滴下した。滴下終了後、60℃真空下でキシレンを除去することによりポリアニリン分散ポリアミド酸組成物4を得た。
【0037】
ポリアニリン分散ポリイミド組成物5の調製
ポリイミドワニス(新日本理化(株)製リカコート SN−20)20g(ポリイミド18.5重量%)に、N−メチルピロリドン(NMP)4gを添加したポリイミドNMP溶液に、上で合成した導電性ポリアニリントルエン分散液34.5g(ポリアニリン含有量0.28g)を滴下した。滴下終了後、50℃真空下でトルエンを除去することによりポリアニリン分散ポリイミド組成物5を得た。
【0038】
ポリアニリン分散ポリアミドイミド組成物6の調製
ポリアミドイミド(東洋紡績(株)製バイロマックスHR11NN)25g(ポリアミドイミド15重量%)に、上で合成した導電性ポリアニリントルエン分散液34.5g(ポリアニリン含有量0.28g)を滴下した。滴下終了後、50℃真空下でトルエンを除去することによりポリアニリン分散ポリアミドイミド組成物6を得た。
【0039】
上記得られた組成物1〜6に存在するスルホン酸の中でポリアニリンと結合していない非結合型スルホン酸(ドーパントとして働いていない遊離しているスルホン酸)は、以下の手法により算出した。上記組成物から真空下60℃でNMPを留去し、組成物を乾固した。得られた乾固物をメタノールで洗浄し、このメタノール洗浄液からメタノールを真空留去することにより非結合型スルホン酸量を算出した。
【0040】
得られたポリアミド酸組成物、ポリイミド組成物、ポリアミドイミド組成物を25℃で密栓保存し、粘度の経日変化を追跡した。なお粘度の測定は東機産業製E型粘度計を用いて25℃の温度下で行なった。結果は表Iに示す。
【0041】
【表1】

【0042】
前記ポリアニリン分散ポリアミド酸組成物1〜6をアルミニウム基板(厚さ1mm)上に塗布後、先ず150℃で60分、次いで300℃で30分加熱処理することによりフィルムを作製した。前記ポリアニリン分散ポリイミド組成物5、ポリアニリン分散ポリイミドアミド組成物6をアルミニウム基板(厚さ1mm)上に塗布後、先ず150℃で60分、次いで210℃で30分加熱処理することによりフィルムを作製した。得られたフィルムの表面抵抗値、アルミニウム基板への汚染性、フィルムの表面状態、引っ張り弾性率及び伸びを測定し、結果を表IIに示した。
【0043】
【表2】

【0044】
試験方法
表面抵抗値:三菱化学(株)製ハイレスタUP MCP−HT450型、プローブURを用いて印加電圧100Vで測定を行った。
【0045】
アルミニウム基板への汚染性:ポリイミドフィルムを剥離後、目視でアルミニウム基板表面に液状物質が残存している場合及びアルミニウム基板が腐食している場合を汚染性ありとした。
【0046】
フィルムの表面状態:アルミニウム基板上に形成されたポリイミドフィルムを目視で観察し、フィルム中にポリアニリンに由来する凝集物が形成されている場合を凝集物ありとした。
引っ張り試験(弾性率及び伸び):JIS K6301に準じて、ダンベル3号の打ち抜き試験片(幅5mm)について調べた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上の通り、本発明に従えば、遊離した非結合酸ドーパントの割合を、ポリアニリンの単位ユニット当りのモル比で、0.2以下とした導電性ポリアニリンを含むポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を用いることによって、導電性ポリアニリンを高分散させた貯蔵安定性に優れたポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物を得ることができ、電磁シールド材、静電吸着用部材、帯電防止材などのポリイミド樹脂被覆体、ポリイミド樹脂フィルム及び導電性部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリアニリンとポリイミド及び/又はポリイミド前駆体とを含んでなり、導電性ポリアニリンに対する遊離した非結合酸ドーパントの割合が、式(I):
【化1】

で示されるポリアニリンの単位ユニット当りのモル比で、0.2以下であるポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物。
【請求項2】
前記導電性ポリアニリンが、水層及び有機層からなる混合層において、分子量調整剤及び、必要に応じ、相間移動触媒の存在下に、スルホン酸とアニリン又はその誘導体とを酸化重合し、得られた有機溶媒中に安定に分散した導電性ポリアニリンの分散液中に残存する遊離の酸ドーパントを水又はアルカリ水溶液で洗浄することによって得られるものである請求項1に記載のポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミド及び/又はポリイミド前駆体組成物より得られるポリイミド樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載のポリイミド樹脂フィルムを基板上に設けてなるポリイミド樹脂被覆体。
【請求項5】
フィルムの表面抵抗値が106〜1013Ω/□である請求項3に記載のポリイミド樹脂フィルム。
【請求項6】
フィルムの表面抵抗値が106〜1013Ω/□である請求項4に記載のポリイミド樹脂被覆体。
【請求項7】
請求項3もしくは5に記載のポリイミド樹脂フィルム又は請求項4もしくは6に記載のポリイミド樹脂被覆体を用いた導電性部材。

【公開番号】特開2007−16176(P2007−16176A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200822(P2005−200822)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】