説明

ポリイミド樹脂の分解方法

【課題】廃棄物処理に有効でしかも分解物を有効に使用し得るポリイミド樹脂の分解方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂を含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で500〜650℃の温度で熱分解させるポリイミド樹脂の分解方法。ポリイミド樹脂層と金属層とが積層された積層体の場合には、含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で200〜400℃の温度で加熱して、金属層から剥離されたポリイミド層について、含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で500〜650℃の温度での熱分解が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂の分解方法に関する。さらに詳しくは、廃棄物処理に有効でしかも分解物が多孔質体として得られるポリイミド樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年プラスチックを回収して、資源化することが盛んに行われてきており、一部の樹脂は既に実用化に向けて進んでいるものもある。しかしながら、分解温度が最も高い樹脂であるポリイミド樹脂に関しては、耐熱性である反面難分解性でもあり、高エネルギーを駆使しても、分解はされても炭化したりして、再資源化するのが困難な状況にある。そのため、炭化しないように窒素雰囲気中での高温加熱処理が必要とされているが、回収、再利用がうまくいかず、現在は埋立てて廃棄している。
【0003】
ポリイミド樹脂を分解する方法としては、これ以外にも次のような方法で提案されている。
(1) 一部にポリイミド樹脂を有する部材を、水を入れたオートクレーブ中で200〜400℃でかつその温度での水の飽和水蒸気圧以上の条件で分解する方法
(2) ポリイミドを含有する高分子含有固体を、特定の溶解パラメーターを有する溶剤を含有する高分子分解材料に200℃以上の温度で接触させ、これを分解させる方法
(3) 熱硬化性樹脂を金属化合物触媒の存在下に250〜600℃の高温水蒸気と接触反応させて分解し、再利用可能な低乃至中分子化合物を得る方法
(4) 熱硬化性樹脂製品を超臨界状態または亜臨界状態の水で処理して可溶成分を抽出・分離した後、その不溶または難溶成分を超臨界状態または亜臨界状態の単核フェノールまたはそれと水との混合物を溶媒として可溶化することにより、オリゴマーを主体とする低〜中分子量化合物迄分解する方法
【特許文献1】特開2002−284924号公報
【特許文献2】特開2002−256104号公報
【特許文献3】特開2003−55498号公報
【特許文献4】特開2003−96233号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献3〜4記載の方法(3)、(4)では、熱硬化性樹脂の例としてポリイミド樹脂が記載されてはいるものの、具体的な実施例はすべてエポキシ樹脂(3)またはフェノール樹脂(4)のみであって、耐熱性にすぐれたポリイミド樹脂がこれらの熱硬化性樹脂と同様に熱分解するものとは考えられない。また、上記特許文献1記載の方法(1)では、高温高圧の水中での熱分解が行われ、ポリイミド樹脂が部材から除去されてはいても、それがどのように再利用されるのかについての言及がない。同様に、上記特許文献2記載の方法(2)では、特定溶解パラメーターを有する溶剤、例えばシクロヘキサノンを含有する高分子含有材料を高温で接触させることにより高分子含有固体を分解させているが、やはりポリイミド成分が除去され、電子回路を形成していた銅箔が分離、回収されたと述べられているだけであって、ポリイミド成分がどのように再利用されるのかについての言及がみられない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、廃棄物処理に有効でしかも分解物を有効に使用し得るポリイミド樹脂の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ポリイミド樹脂を含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で500〜650℃の温度で熱分解させるポリイミド樹脂の分解方法によって達成され、ポリイミド樹脂層と金属層とが積層された積層体の場合には、含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で200〜400℃の温度で加熱して、金属層から剥離されたポリイミド層について、含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で500〜650℃の温度での熱分解が行われる。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、特に窒素雰囲気中などとすることなく、コストのかからない空気雰囲気中で、緩和な条件下で効率良く中分子量化合物に分解することができ、炭化することもなく、再利用可能な多孔質体分解物を提供することができるので、環境負荷を低減することができる。しかも、分解物は多孔質体として、耐熱性充填材あるいは活性炭の如き吸着材などとして使用することができ、すなわち難分解性の廃材を有用材料に変貌させるという効果を奏する。なお、窒素雰囲気中で熱分解処理が行われると、多孔質体が形成され難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
熱分解処理されるポリイミド樹脂としては、市販品、例えばカプトン(東レ・デュポン製品)、アピカル(カネカ製品)、ユーピレックス(宇部興産製品)等のフィルム状あるいはこれと金属などとの積層物であるポリイミド樹脂であって、使用済み製品(廃材)、成形時の不良品やバリなどの余分な成形部分などが挙げられる。
【0009】
これらのポリイミド樹脂の熱分解処理は、フィルム状のものなどを含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で、電気炉などを用い、500〜650℃、好ましくは530〜600℃で、一般に約5〜60分間程度行われる。これよりも低い熱分解温度では、ポリイミド樹脂分解物はフィルム状などの形状を保持したままで多孔質体とはならず、一方これよりも高い熱分解温度では、温度分布により部分的に燃焼を起すこともあるので、電気炉内の温度分布がこの特定された温度範囲内に制御されることが重要である。
【0010】
ポリイミド樹脂の層が金属層と積層された積層体を形成している場合、例えば回路基板や銅張り板である場合には、上記温度範囲内での熱分解処理に先立って、積層体を含酸素雰囲気中、一般には空気雰囲気中で、電気炉などを用い、200〜400℃、好ましくは250〜350℃で、一般に約0.5〜6時間程度加熱され、ポリイミド樹脂層を金属層から剥離させる処理が行われる。
【0011】
熱分解処理されたポリイミド樹脂は、高収率で、容易に粉砕できる褐色の多孔質体を与える。この多孔質体は、ミクロ孔内比表面積、外表面積および細孔容量がいずれも大きい値を示すので、耐熱性充填材あるいは活性炭の如き吸着材などとして使用される。
【実施例】
【0012】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0013】
実施例1〜7
厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルム(東レ・デュポン製品カプトン)の廃材を電気炉中へ投入し、空気雰囲気下で所定温度に加熱して、所定時間熱分解処理した。熱分解ポリイミド樹脂について、重量減少率を測定すると共に、窒素吸着等温線を測定することにより、ミクロ孔内比表面積、外表面積および細孔容量を算出した。
【0014】
実施例8
ポリイミド樹脂積層銅張り材(ニッカン工業製品ニカフレックスE-30VC1)の廃材ロール品を、空気雰囲気中350℃に3時間加熱処理してポリイミド樹脂層を銅箔から剥し、このポリイミド樹脂について、実施例1〜7と同様の熱分解処理が行われた。
【0015】
参考例1〜3
実施例1〜7において、空気雰囲気が窒素雰囲気に変更された。
【0016】
比較例1〜2
実施例1〜7において、熱処理温度が変更された。
【0017】
以上の各実施例、参考例、比較例での熱処理条件および性状は、次の表に示される。

熱処理条件 重量減少 ミクロ孔内比 外表面積 細孔容量
温度(℃) 時間(分) 率(%) 表面積(m2/g) (m2/g) (ml/g)
実施例1 540 10 22 480 50 −
〃 2 560 10 20.6 300 24 0.17
〃 3 570 5 12.8 240 17 0.15
〃 4 570 10 29.6 440 26 0.24
〃 5 570 14 27 590 35 0.33
〃 6 570 30 67 710 15 0.37
〃 7 580 5 29.6 160 17 0.13
〃 8 570 5 28 1050 50 −
参考例1 550 60 − − − 0
〃 2 600 60 − − − 0
〃 3 900 20 − 506 63 0.24
比較例1 450 30 (熱分解処理物はフィルム状を保持していた)
〃 2 700 5 (熱分解処理物には部分的燃焼がみられた)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂を含酸素雰囲気中で500〜650℃の温度で熱分解させることを特徴とするポリイミド樹脂の分解方法。
【請求項2】
ポリイミド樹脂層と金属層とが積層された積層体を、含酸素雰囲気中で200〜400℃の温度に加熱してポリイミド樹脂層を金属層から剥離させ、剥離されたポリイミド樹脂層を含酸素雰囲気中で500〜650℃の温度で熱分解させることを特徴とするポリイミド樹脂の分解方法。
【請求項3】
ポリイミド樹脂層と金属層との積層体が回路基板または銅張り板である請求項2記載のポリイミド樹脂の分解方法。
【請求項4】
含酸素雰囲気が空気雰囲気である請求項1または2記載のポリイミド樹脂の分解方法。
【請求項5】
熱分解ポリイミド樹脂が多孔質体として得られる請求項1または2記載のポリイミド樹脂の分解方法。


【公開番号】特開2006−169344(P2006−169344A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362366(P2004−362366)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000230249)日本メクトロン株式会社 (216)
【Fターム(参考)】