説明

ポリイミド複合フレキシブルシートとその製造方法

【課題】粘着剤を使用しないで、優れた粘着性としての機械の性質、高耐熱性、サイズ安定性の優異な、しかも反りや曲りの問題のないポリイミド複合フレキシブルシートが得られるポリイミド樹脂複合フレキシブルシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより大きい第一のポリアミド酸と、環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより小さい値を有するポリアミド酸とを、或る特定の比率で混合した後、金属箔上に塗布し、次に、加熱によりポリアミド酸を環化させてポリイミドを形成し、その後、高温圧着により更に金属箔を粘着して、二面に金属箔を有するプリント回路用フレキシブルシートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂複合フレキシブルシートの製造方法および該方法により製造されるポリイミド複合フレキシブルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドフィルムは、耐高温性、優れた化学特性、高絶縁性および優異な機械強度など優れた特性を有するので、多くの技術分野において広く使用されている。例えば、芳香族ポリイミドフィルムは、連続式芳香族ポリイミドフィルム/金属フィルムの複合シートとして、フレキシブルプリント配線板(FPC)の製造に使用され、自動粘着テープのキャリヤーテープ(TAB)およびリード
オン チップ(lead-on-chip)(LOC)テープなどに用いられ、特に、フレキシブルプリント配線板はすでにノート型コンピューター、消費型電子製品、携帯電話などの通信設備材料として広く利用されている。
【0003】
プリント配線板の製造中、すでに多くの耐熱性プラスチックフィルム(例えば、芳香族ポリイミドフィルム)が金属箔との積層に使用されている。金属箔との積層に際し、現在多くの周知の芳香族ポリイミドフィルムは、通常、熱硬化性接着剤を用いて、芳香族ポリイミドフィルムと金属箔とを積層させている。その方法としては、主にエポキシ樹脂やアクリル酸系樹脂などを熱硬化性接着剤として用い、これをポリイミドフィルムの両面に塗装し、次に、オーブン中で溶剤を除去し、接着剤をBステージ(即ち、熱硬化性樹脂の中間反応段階)に保ち、更に、加熱圧合方法により金属箔をフィルムの上下両面に張り合わせ、最後に、オーブン中高温下で熱硬化させ、Cステージ(即ち、熱硬化性樹脂の最終反応段階)を経て、フレキシブル両面配線板を製造する。
【0004】
しかし、熱硬化性接着剤の耐熱性は、通常、不足勝ちであり、多くは、高くとも200℃以下でしかその接着性を保つことが可能である。故に、多くの周知の接着剤は、高温処理を必要とする複合フィルムの製作には用いることができず、例えば、溶接を必要とする場合や高温下で使用されるプリント配線フレキシブルシートなどには用いられない。利用上必要とする耐熱性と難燃性を獲得するためには、ハロゲン含有の難燃剤と臭素含有樹脂やハロゲンフリーの含リン系樹脂などが熱硬化性樹脂として、現在使用されている。しかし、ハロゲン含有の熱硬化性樹脂は焼却の際、ダイオキシンなどの有毒ガスを生じ、環境を汚染する問題がある。又、熱硬化性樹脂接着剤を介して貼り合わせたフレキシブルシートは、膨張係数が高く、耐熱性不良で、サイズ安定性も悪いなど欠点が多い。
【0005】
上記の熱硬化性粘着を介してフレキシブルシートを製造する欠点に鑑みて、すでに、ポリイミドの前駆体である各種類のポリアミド酸を銅箔上に塗布し、次に、ポリアミド酸を環化してポリイミドを形成して目的とする粘着を行うことにより、高粘着性、高耐熱性と優れたサイズ安定性を有し、且つ、ハロゲンと燐を含有しないフレキシブルシートが研究開発されているが、ポリイミド樹脂の種類によっては、金属箔と貼り合わせた後、高温の製造工程において、ポリイミドと金属箔との膨張係数(CTE)値の差異により、シートの反りや曲げが発生し、その後の製造工程としての加工面に不利となる問題がある。
【0006】
本発明者らは、ポリイミド構造について検討した結果、金属箔のCTE値に匹敵するCTE値を有するポリイミドを発見し、最後に本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリイミド樹脂複合フレキシブルシートの製造方法に関し、その方法としては、環化後、膨張係数(CTE)がそれぞれ20ppmより大きいのと20ppmより小さい2種類のポリアミド酸(PAA)とを、或いは一定した比率で混合した混合物を金属箔上に塗布し、次に、加熱によりポリアミド酸を環化してポリイミドを形成し、その後、高温圧着或いは更に金属箔と粘着して、二面の金属箔を有するプリント回路用複合フレキシブルシートを得る方法に関する。
【0008】
本発明の方法によると、粘着剤を使用せずに、粘着性の優れた機械的性質、高耐熱性と優異なサイズ安定性を有し、反りや曲りの無いポリイミド複合フレキシブルシートを得ることができる。
【0009】
これにより、本発明は下記の工程からなるポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法を提供するものである。(a)環化後のCTE値が20ppmより大きい第一のポリアミド酸樹脂と、環化後のCTE値が20ppmより小さい第二のポリアミド酸樹脂とを、第一のポリアミド酸樹脂:第二のポリアミド酸樹脂の重量比を2:98〜30:70の比率で混合した後、金属箔上に均一に塗布し、オーブン内で、先に90〜140℃で、次に150〜200℃で加熱して溶剤を除去し;(b)次に得られたポリアミド酸塗層を有する金属箔を、窒素ガス雰囲気のオーブン内に入れ、先に160〜190℃の温度で、次に190〜240℃の温度で、更に270〜320℃の温度と、最後に330〜370度の温度により、この順に加熱して、ポリアミド酸のポリイミド化(環化)反応を行い、ポリイミド軟性複合フレキシブルシートを製造する。
【0010】
本発明は、又、金属箔とポリイミドフィルムを積層してポリイミド複合フレキシブルシートに関し、該ポリイミド複合フレキシブルシートのCTE値が(金属箔のCTE値−8ppm)〜(金属箔のCTE値+8ppm)範囲内に介在することを特徴とする。
【0011】
本発明のポリイミド複合フレキシブルシートにおいて、そのポリイミド層は、環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより大きい第一のポリアミド酸と、環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより小さい第二のポリアミドとを、第一のポリアミド酸樹脂:第二のポリアミド酸樹脂の重量比率が2:98〜30:70の比率で混合した環化して製造したものである。
【0012】
本発明は、更に、金属箔とポリイミドフィルムを先に積層して得たポリイミド複合フレキシブルシートを、又別の金属箔と積層して得た二面に金属箔を有するポリイミド複合フレキシブルシートにも関し、そのポリイミド複合フレキシブルシートのCTE値が(金属箔のCTE値−8ppm)〜(金属箔+8ppm)範囲内に介在することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法において、使用されるポリアミン酸樹脂は、下記式(I)のジアミン:
【化5】


と下記式(II)のジカルボン酸無水物との反応により得られる:
【化6】

【0014】
本発明のポリイミド複合フレキシブルシート及びその製造方法において、環化後の熱膨張係数(CET)が20ppmより大きい第一のポリアミド酸樹脂は、ベンゼン環を含有するジアミンモノマーと、ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応により得られ、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が0.5〜2.0範囲内にあることを条件とする。その中、より好ましくは0.75〜1.25範囲内である。且つ、ベンゼン環を含有するジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が60/40〜20/80範囲内にあり;ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が40/60〜20/80範囲内にあることを条件とする。
【0015】
本発明のポリイミド複合フレキシブルシート及びその製造方法において、環化後の熱膨張係数(CET)が20ppmより小さい第二のポリアミド酸樹脂は、ベンゼン環を含有するジアミンモノマーと、ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応により得られ、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が0.5〜2.0範囲内にありことを条件とする。その中、より好ましくは0.75〜1.25範囲内である、且つ、ベンゼン環を含有するジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が95/5〜80/20範囲内にあり;ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が80/20〜60/40範囲内にあることを条件とする。
【0016】
本発明において、ポリアミン酸を製造する際に使用されるジカルボン酸無水物の具体例としては、例えば、ピロメリト酸ジ無水物(PMDA)、4、4’−オキソジフタル酸ジ無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−
ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)、エチレンテトラカルボン酸ジ無水物、ブチルテトラカルボン酸ジ無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸ジ無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパンジ無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパンジ無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテルジ無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホンジ無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタンジ無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタンジ無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンジ無水物、4,4’−(パラ−フェニルジオキシ)ジフタル酸ジ無水物、4,4’−(メタ−フェニルジオキシ)ジフタル酸ジ無水物、2,3,6,7−ナフチルテトラカルボン酸ジ無水物、1,4,5,8−ナフチルテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,5,6−ナフチルテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸ジ無水物、3,4,9,10−ペリリンテトラカルボン酸ジ無水物、2,3,6,7−アンスリルテトラカルボン酸ジ無水物と1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸ジ無水物などの芳香族ジカルボン酸無水物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらジカルボン酸無水物は単独で用いても良く、2種以上混合して使用しても良い。その中、好ましくピロメリト酸ジ無水物(PMDA)、4,4’−オキソジフタル酸ジ無水物(OPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明において、ポリアミン酸の製造に用いられるジアミンの具体例としては、芳族ジアミン例えば、パラ−フェニレンジアミン(PDA)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(BAPS)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(BAPB)、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、1,1−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフォキシド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテルなどの芳香族ジアミンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記のジアミンは単独で用いても良く、又2種以上混合して使用しても良い。その中、好ましくはパラーフェニルジアミン(PDA)、4,4’−オキシジアニリン(ODA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(BAPS)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(BAPB)などが用いられる。
【0018】
上記のジカルボン酸無水物とジアミンとの反応は、非プロトン極性溶剤中で行われるが、非プロトン極性溶剤としては、特に限定はなく、反応物と反応生成物と反応しないものであれば良い。その具体例としては、例えば、N,N’−ジメチルアセチルアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタンなどが挙げられる。その中、好ましくはN−メチルピロリドン(NMP)とN,N’−ジメチルアセチルアミド(DMAc)などが使用される。
【0019】
通常、該ジカルボン酸無水物とジアミンとの反応は、室温〜90℃で行なわれ、30〜75℃の温度範囲で行われるのがより好ましい。又、該芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸無水物とのモル比率(芳香族ジアミン/芳香族ジカルボン酸無水物)は0.5〜2.0範囲であり、より好ましくは0.75〜1.25範囲内である。各ポリアミド酸を製造する際に使用されるそれらジカルボン酸無水物とジアミンは、それぞれ2種類以上用いられ、特にその種類には制限は無く、必要とするポリイミドの最終用途により決定される。
【0020】
より好ましくは、環化後のCTE値が20ppmより大きい第一のポリアミド酸に用いられるベンゼン環を含有するジアミンとしては、少なくともパラ−フェニルジアミン(PDA)と4,4’−オキソジフェニルアミン(ODA)の一種又は多種類を含み、且つ、用いられるベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物としては、少なくともピロメリト酸無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゼンフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)の一種又は多種類を含み、且つ、下記条件を満足すべく:ベンゼン環を含有するジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が60/40〜20/80範囲内にあり、ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が40/60〜20/80範囲内にある。
【0021】
又、環化後のCTE値が20ppmより小さい第二のポリアミド酸に用いられるベンゼン環を含有するジアミンとしては、少なくともパラフェニルジアミン(PDA)と4,4’−オキソジフェニルアミン(ODA)の一種又は多種類を含み、且つ、用いられるベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物としては、少なくともピロメリト酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物(BPDA)の一種又は多種類を含み、且つ、下記条件を満足すべく:ベンゼン環を含有するジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が95/5〜80/20範囲内にあり、ベンゼン環を含有するジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が80/20〜60/40範囲内にあることがより好ましい。
【0022】
本発明のポリイミド複合フレキシブルシートとその製造方法において、使用される金属箔、例えば銅箔の厚さには特に制限はなく、複合フレキシブルシートの最終用途により決定されるが、通常、12〜70ミクロン範囲内である。
【0023】
本発明の方法により製造したポリイミド複合フレキシブルシート、環化後のCTE値が異なる2種類のポリアミド酸を混合し、金属箔上に塗布し、環化後、必要とする最終CTE値を有するポリイミド複合フレキシブルシートであり、より好ましくは、最終製品のポリイミド複合フレキシブルシートのCTE値が(金属箔のCTE値−8ppm)〜(金属箔のCTE値+8ppm)範囲内にあり、これによりサイズを安定させ、且つ、反りや曲りの問題を解消する。
【実施例】
【0024】
なお、特性粘度(Inherent Viscosity、以下IVと略す)およびガラス転移温度は、以下の条件に従って求めた。
《固有粘度(IV)》
(a)ポリアミド酸溶液の調製
ポリアミド酸0.5gを計りとり、15mlフラスコに入れ、N−メチルピロリドンを加えて全量を15mlとし、攪拌によってポリアミド酸を溶解させた。得られたポリアミック酸溶液を毛細管粘度計(#100 Ubbehold Viscometer)に入れ、25℃の恒温槽に15分間保持した。安全バルブを用いて、該溶液を吸引した後、バルブを開放し、該溶液が2つのマーク間を通過する時間を3回測定し、これらの平均値(t:単位秒)を求めた。また、溶液としてN−メチルピロリドンのみを用い、上記と同様に平均値(t0:単位秒)を求めた。
(b)固形分の測定
まず、アルミニウム基材の重量(W1)を測定した。さらにポリアミド酸溶液10gを該アルミニウム基材に塗布し、再度重量(W2)を測定した。次いで、ポリアミド酸溶液を塗布したアルミニウム基材を190℃のオーブンに入れ、5時間経過後に取り出し、乾燥させた後、10分間冷却した。このポリアミド酸溶液を塗布したアルミニウム基材の重量(W3)を再度測定した。得られたW1〜W3の値より、次式を用いて固形分の重量(SC)を算出した。
【数1】

上記値より、次式を用いて固有粘度(IV)を算出した。
【数2】

【0025】
[合成例]
(a)ポリアミド酸(1−1)(環化後のCTE値が20ppmより大きいポリアミド酸)の合成
撹拌機と窒素ガス導入管を備えた四口反応フラスコ内に、窒素ガスを20cc/分間の通気量で通しながら、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)41g(0.1モル)を加え、N−メチルピロリドン(NMP)を用いて溶解させ、溶解後、15分間経てから、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)2.94g(0.01モルをNMP15gに前もって溶解している別のフラスコ内の溶液を、上記の反応フラスコ内に加え、窒素ガスを導入しながら、撹拌し反応を1時間行う。又、別のフラスコに3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)22.54g(0.07モル)を加え、NMP15gを用いて溶解し、その後、これを前記の反応フラスコに加え、窒素ガスを導入しながら、更に1時間撹拌し反応を行う。更に、別のフラスコに4,4’−オキソジフタル酸二無水物(ODPA)6.2g(0.02モル)を加え、NMP30gを用い撹拌し溶解させ、その後、この溶液を上記の反応フラスコ内に加え、窒素ガスを導入しながら、15℃の条件下で4時間反応を行うことによりポリアミド酸樹脂(1−1)を得る。
【0026】
このポリアミド酸樹脂0.5gを取り、100mlのNMPに溶かし、25℃で固有粘度(IV)を測定した結果0.95dl/gを示した。次に、このポリアミド酸樹脂を用い12.5ミクロンの厚さのフィルムを作製し、環化後、熱機械分析装置(TMA Thermo Mechanical Analysis, Du-Pont TA会社製品、Q400型)を用い、升温速度10℃/minで400℃まで升温し、0.5ニュートンのフォース(force)で、100〜200℃温度範囲の環化後のCTE値を測定したところ65ppmであった。
【0027】
表1に記載の組成と用量で、同様な方法により、ポリアミド酸(1−2)、(1−3)、(1−4)と(1−5)をそれぞれ合成し、その固有粘度(IV)と環化後のCTE値を測定し、その結果を表1に示す。
【表1】

上記の表中、各符号は下記の意味を示す:
BPDA:3,3’,4,4’− ビフェニルテトラカルボン酸無水物;
BTDA:3,3’,4,4’− ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物;
OPDA:4,4’−オキソジフタル酸ジ無水物
DSDA:3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸ジ無水物;
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン;
BAPB:4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3’−ジヒドロキシビフェニル;
BAPS:ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン;
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン;
APB:1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン。
【0028】
(b)ポリアミド酸(2−1)の合成
撹拌機と窒素ガス導入管を備えた四口反応フラスコ内に、窒素ガスを20cc/分間の流速で通しながら、パラフェニルジアミン(PDA)9.72g(0.09モル)を加え、N−メチルピロリドン(NMP)で溶解させ、溶解後15分間を経てから、更に4,4’−オキソジアニリン(ODA)2g(0.01モル)を加え、それを溶解させると共に15℃に保つ。別に撹拌端子を有する第一フラスコ内に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)5.88g(0.02モル)とNMP15gを加え、撹拌して溶かし、その後、この第一フラスコ内の溶液を上記の反応フラスコに加え、窒素ガスを導入、撹拌しながら反応を1時間続ける。別に第二フラスコを取り、ピロメリト酸二無水物(PMDA)17.44g(0.08モル)とNMP30gを加え、撹拌により溶解させる。この第二フラスコ内の溶液を上記の反応フラスコ内に入れ、窒素ガスを通しながら撹拌し1時間反応させる。次に、15℃温度下で、更に4時間反応を続けて、ポリアミド酸樹脂2−1を得る。このポリアミド酸樹脂0.5gを取り、100ml NMPに溶かして、25℃下で固有粘度(IV)を測定し、その結果は0.65dl/gであり、上記の(a)項と同様にして、熱比重分析装置で環化後のCTE値を測定したところ、10ppmであった。
【0029】
表2に記載の組成と用量で、同様な方法により、ポリアミド酸(2−2)と(2−3)をそれぞれ合成し、その固有粘度(IV)と環化後のCTE値を測定し、その結果を表1に示す。
【表2】

【0030】
[実施例1〜実施例9及び比較例1〜3]
上記の合成例(a)と(b)項で得たポリアミド酸(1)とポリアミド酸(2)とを表3に示す重量比率で混合した後、厚さ12ミクロンの銅箔上に、塗布厚さ25ミクロンとして、線棒を用いて均一に塗布し、オーブン内で、先に120℃で3分間、次に180℃で5分間加熱して溶剤を除去する。ポリアミド酸を塗布し、すでに乾燥した銅箔を取り出し、窒素ガス雰囲気のオーブンに入れ、180℃で1時間、次に220℃で1時間、更に300℃で0.6時間、最後に350℃で0.5時間それぞれ放置して、ポリアミド酸のポリイミド化(環化)反応を行い、冷却後、取り出してポリイミド複合フレキシブルシートを得る。
【0031】
次に、上記合成例中(a)に記載のポリイミドフィルムと同様なCTE値の測定方法で、このポリイミド複合フレキシブルシート全体のCTE値を測定し、その結果を表3に示した。
【0032】
又、上記で得たポリイミド複合フレキシブルシートは、更に別の金属箔と圧着、或いは別のポリイミド複合フレキシブルシートと互いにポリイミド面を向かい合わせた状態で圧着して、二面に金属箔を有するフレキシブルプリント回路板を得る。二面シートのフレキシブルプリント回路板圧着銅箔の通常の製造過程を図1に示す。先に各種のポリアミド酸樹脂を合成し、次にポリアミド酸樹脂を塗布し、更にポリアミド酸樹脂を環化してポリイミドし、その後、ポリイミド樹脂を積層したフレキシブルシート及び銅箔とを貼り合わせて圧着し、フレキシブルシートの物性と外観を検査した後、個別に包装する。
【0033】
上記の複合フレキシブルシートの製造には、図2〜4で示される装置を使用して製造することができる。先に、図2に示された塗布装置でポリアミド酸樹脂を塗布し、巻き戻しローラー(15)により銅箔を塗布装置に送り、塗工ヘッド(16)により位置(11)で塗工し、オーブン(14)を通りながら加熱により溶剤を除去し、別の一端を巻き取りローラー(17)で巻き取ることで、ポリアミド酸樹脂層を塗布したロール状の金属箔を得る。
【0034】
次に、図3に示される環化装置により、上記のローラー状の金属箔を巻き戻しローラー(21)に置き、オーブン(24)の入口と出口にそれぞれ設置されているがガイドローラー(22,22)によりオーブン(24)と窒素ガス雰囲気のオーブン(25)を通り、ヒーター(26)により加熱環化して、別の一端を巻き取りローラー(23)を用いて巻き取り、ポリイミド層を有するロール状の金属箔を得る。
【0035】
IPC−TM650 2.2.9に記載の方法により、上記で得た金属箔の剥離強度を測定し、熱比重分析計を用いて複合フレキシブルシート全体の熱膨張係数を測定し、更に、IPC−TM650 2.2.4に記載の方法によりサイズ安定性を測定し、それらの結果を表3に示す。
【0036】
又、本発明のポリイミド複合フレキシブルシートは、更に図4に示される圧着装置を利用して、上記で得たポリイミド層を有するロール状の金属箔を巻き戻しローラー(32)上に置き、同時に別の巻き戻しローラー(31)上に別のロール状の金属箔を放置し、それぞれガイドローラー(33と34)によりプレスローラー(35)を通し、圧着して二面に銅箔を有するロール状の銅箔を得て、更に、ガイドローラー(36と37)により巻き取りローラー(39)に巻き取る。上記において、巻き戻しローラー(31)上のロール状の金属箔は、第二のポリイミド酸複合フレキシブルシートであっても良く、同時にポリイミド層を互いに向かい合わせた状態で圧着する。又、ガイドローラー(33,34と36)及び高温圧着ローラー(35)は、窒素ガス雰囲気のオーブン(39)内に収納される。
【表3】

【0037】
本発明により、環化後、それぞれ異なるCTE値を有する二種類のポリアミド酸樹脂を使用し、特定の比率で混合した後、金属箔と複合フレキシブルシートを形成し、これにより得たポリアミド酸樹脂の混合物が、環化後、必要とするCTE値を有し、金属箔のCTE値と一定範囲内にその差異を保ち、最後に得た複合フレキシブルシートのCTE値が(金属箔のCTE値−8ppm)〜(金属箔のCTE値+8ppm)範囲内に介在することで、優れた熱安定性とサイズ安定性を有し、且つ、反りや曲りの問題がないプリント回路用のポリイミド複合フレキシブルシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】両面シートからなるフレキシブルプリント配線銅箔シートの商業的生産過程を示す。
【図2】本発明の製造方法を実施する際に使用される塗布設備の概観図を示す。
【図3】本発明の製造方法を実施する際に使用される環化装置の概観図を示す。
【図4】本発明の製造方法を実施する際に使用されるプレス装置の概観図を示す。
【符号の説明】
【0039】
11 ポリアミド酸樹脂1の塗布位置。
12 ポリアミド酸樹脂2の塗布位置。
14 オーブン
24 オーブン
25 オーブン
39 オーブン
15 巻取ローラー
21 巻取ローラー
31 巻取ローラー
32 巻取ローラー
16 塗布ヘッド
17 巻取ローラー
23 巻取ローラー
22 ガイドローラー
33 ガイドローラー
34 ガイドローラー
36 ガイドローラー
37 ガイドローラー
26 ヒートプレート
35 プレスローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔とポリイミドフィルムを積層して形成されるポリイミド複合フレキシブルシートであって、ポリイミド複合フレキシブルシートの熱膨張係数(CTE)は、(金属箔のCTE値−8ppm)と(金属箔のCTE値+8ppm)の範囲内に介在することを特徴とするポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項2】
前記ポリイミド層は、環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより大きい第一のポリアミド酸と、環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより小さい第二のポリアミド酸とを、第一のポリアミド酸樹脂:第二のポリアミド酸樹脂との重量比率2:98〜30:70の割合で混合した後、環化して得たものであることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項3】
前記環化後の熱膨張係数(CTE)が20ppmより大きい第一のポリアミド酸は、ベンゼン環を含むジアミンモノマーとベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応により得られ、その条件としては、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が0.5〜2.0範囲内にあり、且つ、ベンゼン環を含むジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が60/40〜20/80の範囲内にあり、ベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が40/60〜20/80の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項4】
前記環化後の膨張係数(CTE)が20ppmより小さい第二のポリアミド酸は、ベンゼン環を含むジアミンモノマーと、ベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応と環化により得られ、その条件としては、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が0.5〜2.0の範囲内にあり、且つ、ベンゼン環を含むジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が95/5〜80/20の範囲内にあり;ベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が、80/20〜60/40の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項5】
前記第1ポリアミン酸樹脂および第2ポリアミン酸樹脂が、下記式(I)で表されるジアミン;
【化1】

と下記式(II)で表されるジカルボン酸無水物;
【化2】

との反応により得られる請求項3または4に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項6】
前記金属箔の厚さは、12〜70μm範囲にある請求項1に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項7】
前記金属箔は、銅箔である請求項1に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項8】
前記ポリイミド複合フレキシブルシートは更に別の金属箔と積層して形成される請求項1に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項9】
前記ポリイミド複合フレキシブルシートは、更に同様又は異なる別の第二のポリイミド複合フレキシブルシートと、互いのポリイミド層を向い合わせて圧着して形成されることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド複合フレキシブルシート。
【請求項10】
下記の工程よりなるポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法:(a)環化後のCTE値が20ppmより大きい第一のポリアミド酸樹脂と、環化後のCTE値が20ppmより小さい第二のポリアミド酸樹脂とを、第一のポリアミド酸樹脂:第二のポリアミド酸樹脂を重量比2:98〜30:70の比率で混合した後、金属箔上に均一に塗布し、オーブン内で先に90〜140℃、次に150〜200℃で加熱して溶剤を除去し;(b)次に得られたポリアミド酸塗層を有する金属箔を、窒素ガス雰囲気のオーブン内で、先に160〜190℃の温度で、次に190〜240℃の温度で、更に270〜320℃の温度で、最後に330〜370℃の温度でこの順に加熱することにより、ポリアミド酸のポリイミド化(環化)を行い、ポリイミド軟性複合フレキシブルシートを製造する。
【請求項11】
環化後、CTE値が20ppmより大きい第一のポリアミド酸樹脂は、ベンゼン環を含むジアミンモノマーと、ベンゼン環をジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応により得られ、その条件としては、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物とのモル比率が、0.5〜2.0の範囲内にあり、且つ、ベンゼン環を含むジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が60/40〜20/80の範囲内にあり、又、ベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が40/60〜20/80の範囲内にあることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
環化後、CTE値が20ppmより小さい第二のポリアミド酸樹脂は、モノベンゼン環を含むジアミンモノマーと、モノベンゼン環を含むジカルボン酸無水物モノマーと、その他のジアミンモノマー及びその他のジカルボン酸無水物モノマーとの反応により得られ、その条件としては、総ジアミンモノマー/総ジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が0.5〜2.0の範囲内にあり、且つ、ベンゼン環を含むジアミンモノマー/その他のジアミンモノマーとのモル比率が95/5〜80/20の範囲内にあり、又、モノベンゼン環のジカルボン酸無水物モノマー/その他のジカルボン酸無水物モノマーとのモル比率が、80/20〜60/40の範囲内にあることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1ポリアミン酸樹脂および第2ポリアミン酸樹脂が、下記式(I)で表されるジアミン;
【化3】

と下記式(II)で表されるジカルボン酸無水物;
【化4】

との反応により得られる請求項11または12に記載のポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法。
【請求項14】
該金属箔の厚さが12〜70ミクロン範囲内にあることを特徴とする請求項10に記載のポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法。
【請求項15】
該金属箔が銅箔であることを特徴とする請求項14に記載のポリイミド複合フレキシブルシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−114579(P2008−114579A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111476(P2007−111476)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(506253012)長春人造樹脂廠股▲ふん▼有限公司 (9)
【Fターム(参考)】