説明

ポリイミド金属積層板の製造方法

【課題】キャスト法においても安価かつ簡易にポリイミド金属積層板を製造でき、金属箔を薄型化した場合においても熱処理後のシワの発生を抑制可能なポリイミド金属積層板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のポリイミド金属積層板の製造方法は、金属箔と、この金属箔上に塗工され、揮発成分の含有量が10重量%以下に調整されたポリイミド前駆体層と、を備えた積層体を円柱管に30kgf/cmの張力で巻き上げする巻き上げ工程と、巻き取り工程で巻き上げされた積層体を熱処理炉に入れ、ポリイミド前駆体層をイミド化する熱処理工程とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド金属積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、及び優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線板、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜など、様々な電子デバイスに広く利用されている。また、ポリイミドは、これらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、といったことから、近年、益々その重要性が高まっている。
【0003】
電子機器の軽薄短小化が進むにつれて、ポリイミドへの要求特性も年々厳しさを増し、半田耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属基板との接着強度、成型加工性、スルーホールなどの微細加工性など、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。近年、フレキシブルプリント配線板用基板としてのポリイミドの需要が飛躍的に増加している。
【0004】
ポリイミドを用いたポリイミド金属積層板の製造方法としては、キャスト法、ラミネート法、スパッタめっき法などがあり、盛んに開発が行われている。その中でもキャスト法は、高耐熱性、ポリイミド膜厚の選択性の幅などのメリットがあり、各方面で使用されている。また、近年のポリイミド金属積層板への高屈曲性、微細配線性などの要求に対し、より膜厚が小さいポリイミド及び金属箔の製造が検討されている。
【0005】
キャスト法では、高重合度のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニスを銅箔などの金属箔上への塗布する工程、及び250℃〜450℃でポリイミド前駆体を脱水閉環(イミド化)してポリイミド層を製膜する高温熱処理の工程などを経てポリイミド金属積層板が製造される。キャスト法によるポリイミド金属積層板の製造方法としては、高温熱処理方法が異なる(A)〜(C)の製造方法が使用されている。
【0006】
(A)の製造方法においては、高温熱処理は、連続的な熱処理方法で行う。すなわち、金属箔上にポリアミド酸を塗布した後、これをロール状に巻いたりすることなく、そのままの状態で赤外線または熱風炉中で熱処理(「連続的な熱処理」という)する。通常、赤外線または熱風炉の最高温度は300℃以上であり、この熱処理後、冷却中に金属箔とポリイミドとの熱膨張差からカールが発生しやすくなる。(A)の製造方法でカールを抑えるためには、長時間の熱処理をすることが考えられる。このためには熱風炉の長さを長くする、またはライン速度を下げる、の2つが考えられるが、前者はコストが大幅に上がるという問題があり、後者は生産性が向上しにくいという問題がある。
【0007】
(B)の製造方法においては、高温熱処理は、連続的な熱処理方法及び非連続的な熱処理方法の2つの熱処理方法を組み合わせて行う(特許文献1、特許文献2)。まず、連続的な熱処理方法においては、金属箔上にポリアミド酸を塗布し、ポリアミド酸中の溶媒を、べたつきがない程度まで乾燥させる。次に、シート状の材料をロール状に巻いた状態で熱処理(「非連続的な熱処理」という)をする。この際、材料同士が接触面で癒着する問題があり、これを解決するために、伴巻き用のスペーサーを用いていることが開示されている。その後、揮発性の溶媒を含んだフィルムと伴巻き用のスペーサーとを一緒に巻き上げ、赤外線又は熱風炉若しくは真空乾燥機により、300℃以上の条件でポリアミド酸を脱水環化してポリイミドにする。しかしながら、(B)の製造方法では、スペーサー由来のシワが発生し、収率が低下してしまうという懸念点が考えられる。
【0008】
(C)の製造方法においては、(B)の製造方法と同様に、高温熱処理は、連続的な熱処理方法と非連続的な熱処理方法の2つの熱処理方法を組み合わせて行う(特許文献3)。まず、連続的な熱処理方法においては、(B)の製造方法と同様に金属箔上にポリアミド酸を連続的に塗布してポリアミド酸中の溶媒を乾燥させる。ここで、(C)の製造方法では、ポリアミド酸中の溶媒を、揮発成分含量が10重量%以下にまで乾燥させる。次いで、非連続的な熱処理において、張力を20kgf/cm以下に調整して巻き上げ、熱処理炉に入れ、勾配温度昇温方式により加熱し、ポリアミド酸を脱水環化してポリイミドにする。
【0009】
(C)の製造方法においては、張力を20kgf/cm以下にして巻き上げることで、ロールに巻かれたシート状の材料を弛ませた状態にする。その際、張力が小さいので巻き上げ時に横ずれが発生しやすく、少しでも横ずれが発生するとパスライン中のロールでシワが発生しやすく、安定して巻き上げすることが困難となる。また、シワなく巻き取れたとしても、その後の非連続的な熱処理の工程において揮発成分が除去されるため、更に弛む。製品状態にして出荷する際は、一般的に張力をかけて巻き上げた状態にするが、弛んだロールから張力をかけて巻き上げる際、フィルム中の接触面の摩擦によりシワの発生可能性は高く、収率が大きく下がるという問題があると共に、横ずれによるシワ発生の問題も生じる。この点に関して、銅箔膜厚が18μm以上の厚い金属箔を用いる条件では、金属箔自身の自己支持性からシワ発生確率を下がることも考えられる。しかしながら、上述したように、ポリイミド金属積層板においては、近年の微細配線性の要求から、より薄い金属箔を使用することが望まれており、この場合シワ発生を避けることができないという懸念点がある。
【0010】
以上をまとめると、より薄い金属箔を用いたとき,連続的な熱処理と非連続的な熱処理の組み合わせた製造工程において、伴巻き用のスペーサーを使用せず、熱処理後の弛みを発生させにくいポリイミド金属積層板の製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3307661号公報
【特許文献2】特許第3684249号公報
【特許文献3】特開2006−137918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、キャスト法において、安価かつ簡易にポリイミド金属積層板を製造でき、金属箔を薄型化した場合においても熱処理後のシワの発生を抑制可能なポリイミド金属積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0014】
ポリイミド金属積層板の製造方法は、金属箔と、前記金属箔上に塗工され、揮発成分の含有量が10重量%以下に調整されたポリイミド前駆体層と、を備えた積層体を、円柱管に30kgf/cmの張力で巻き上げする巻き上げ工程と、前記巻き上げ工程で巻き上げられた前記積層体の前記ポリイミド前駆体層をイミド化する熱処理工程とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法は、金属箔と、前記金属箔上に設けられたポリイミド層と、を備えたポリイミド金属積層板の製造方法であって、前記金属箔上に揮発成分を含むポリアミド酸を塗布する工程(1)と、前記工程(1)で前記金属箔上に塗布したポリアミド酸中の揮発成分を10重量%以下になるように連続的な熱処理を行う工程(2)と、前記工程(2)で熱処理した前記金属箔及び前記ポリアミド酸を円柱管に30kgf/cm以上の張力で巻き上げる工程(3)と、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れて、前記ポリアミド酸中の揮発成分を除去して脱水閉環する非連続的な熱処理を行う工程(4)と、を具備することを特徴とする。
【0016】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法においては、前記工程(4)では、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れた後に昇温し、最終的には300℃以上の温度で熱処理することが好ましい。
【0017】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法においては、前記金属箔が12μm以下の銅箔であることが好ましい。
【0018】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法においては、前記工程(4)が、真空で行われることが好ましい。
【0019】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法においては、前記工程(2)では、熱処理が250℃以下で行われることが好ましい。
【0020】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法においては、前記工程(4)では、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れる際に、円柱管の芯が地面と略垂直方向になるように縦置きにして熱処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、キャスト法において、安価かつ簡易にポリイミド金属積層板を製造でき、金属箔を薄型化した場合においても熱処理後のシワの発生を抑制可能なポリイミド金属積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るポリイミド金属積層板の製造工程の一例を示す概略図である。
【図2】(a)、(b)本発明の実施の形態に係るポリイミド金属積層板の工程(3)に係る張力調整機構の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るポリイミド金属積層板の製造工程の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態に係るポリイミド金属積層板の製造方法は、金属箔、及びこの金属箔上に形成され、揮発成分量の含有量が10重量%以下のポリイミド前駆体層、を備えた積層体を、円柱管に30kgf/cm以上の張力で巻き上げする巻き上げ工程と、円柱管に巻き上げされた円柱管を熱処理によりイミド化する熱処理工程と、を具備する。これらの工程により、熱処理工程における基板の弛みを抑制できるので、膜厚が薄いポリイミド金属積層板を製造する場合に顕著となるシワの発生を抑制できる。このため、キャスト法においても安価かつ簡易にポリイミド金属積層板を製造することが可能となる。
【0024】
次に、本実施の形態に係るポリイミド金属積層板の製造工程の一例について説明する。
本実施の形態においては、以下の工程(1)から工程(4)含む製造工程により、ポリイミド金属積層板を製造する。
工程(1)、金属箔上に溶媒等の揮発成分を含むポリイミド前駆体としてのポリアミド酸を直接塗布する工程(ここで得られたフィルムを「フィルム(1)」とする)。
工程(2)、工程(1)で塗布されたフィルム(1)のポリアミド酸中の揮発成分量が10重量%以下に調整するための連続的な熱処理工程(ここで得られたフィルムを「フィルム(2)」とする)。
工程(3)、工程(2)で熱処理されたフィルム(2)を円柱管に30kgf/cm以上の張力で巻き上げる工程(ここで得られたフィルムを「フィルム(3)」とする)。
工程(4)、工程(3)で巻き上げたフィルム(3)を熱処理炉に入れて、ポリアミド酸中の揮発成分を除去する非連続的な熱処理工程(ここで得られたフィルムを「フィルム(4)」とする)。
【0025】
次に、図1を参照して上述した製造工程の概略について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るポリイミド金属積層板の製造工程の概略を示す図である。同図には、工程(1)〜工程(4)で用いる製造装置を模式的に示している。本実施の形態においては、塗着装置1で工程(1)及び工程(2)を実施し、フィルム(1)及びフィルム(2)を連続的に製造する。次いで、巻き取り機2で工程(3)を実施してフィルム(3)を製造する。次に、熱処理炉3で工程(4)を実施してフィルム(4)を製造する。以下、各装置の概略について簡単に説明する。
【0026】
塗着装置1は、金属箔を巻き出す原反ロール11と、この原反ロール11から巻き出しされた金属箔を巻き取る巻き取りロール12とを備える。原反ロール11と巻き取りロール12との間には、金属箔の搬送方向の上流側から下流側に向けて塗工機13及び乾燥機14が順に配置されている。
【0027】
原反ロール11は、金属箔を水平に巻き出しするように、回転軸が水平に配置されている。巻き取りロール12は、原反ロール11から巻き出しされた金属箔を巻き取り可能となるように、原反ロール11と回転軸が略同一方向になるように配置される。巻き取りロール12としては、少なくとも乾燥機14で乾燥されたフィルム(2)を巻き取り可能な程度の耐熱性を有する材料であれば良く、各種円柱管部材を用いることができる。
【0028】
塗工機13は、ポリアミド酸を金属箔上に直接塗工できるように、金属箔の上面側に配置される。本実施の形態では、この塗工機13によって金属箔上にポリアミド酸を塗工することにより工程(1)を実施してフィルム(1)を製造する。塗工機13としては、金属箔上にポリアミド酸溶液を直接塗布可能な塗工機であれば特に限定されず、従来公知の各種塗工機を用いることができる。
【0029】
乾燥機14は、工程(1)で金属箔上に塗工されたフィルム(1)のポリアミド酸中の揮発成分を連続的な熱処理乾燥により低減してフィルム(2)を製造する。ここで、連続的な熱処理乾燥とは、例えば、フィルム(1)を挿通可能な連通孔を備えた箱型の乾燥機を使用し、原反ロール11から巻き取りロール12に連続的に搬送しながら乾燥することにより行うものである。なお、この場合においては、必要に応じてフィルム(1)の搬送を停止してもよく、原反ロール11と巻き取りロール12との間でフィルム(1)を搬送しながら熱処理乾燥できるものであれば乾燥条件は特に限定されない。
【0030】
乾燥機14としては、フィルム(1)のポリアミド酸溶液中の揮発成分を除去できる乾燥機であれば特に限定されず、熱風乾燥機など各種乾燥機を用いることができる。本実施の形態においては、フィルム(1)を連続搬送しながらポリアミド酸中の揮発成分を低減する観点から、熱風乾燥機を用いることが好ましい。
【0031】
次に、巻き取り機2について説明する。巻き取り機2は、フィルム(2)を巻き出しする原反ロール21と、この原反ロール21から巻き出しされたフィルム(2)を所定の張力で巻き上げる巻き上げロール22(以下、ロール部材に巻きつける張力を巻き上げ張力とする)とを備える。巻き上げロール22の前段には、フィルム(3)の巻き上げ張力を調整する張力調整機構23が設けられている。なお、巻き上げロール22の材質としては、後述する熱処理炉3内で巻き上げロールと共にフィルム(3)の加熱処理を行うため、熱処理炉3での加熱処理に応じた耐熱性の円柱管を用いることが好ましい。
【0032】
図2(a)は、張力調整機構23の概略を示す図である。図2(a)に示すように、張力調整機構23は、フィルム(2)の上面側及び下面側に一対に配置されるニップロール31と、このニップロール31と巻き上げロール22との間に少なくとも1つ設けられる搬送ロール32とを備える。
【0033】
ニップロール31は、フィルム(2)を上下の面から挟着可能に配置される。このニップロール31により、巻き上げロール22へ搬送するフィルム(2)の位置決めと巻き上げ張力の調整が行われる。ニップロール31と巻き上げロール22との間には、少なくとも1つの搬送ロール32が設けられ、フィルム(2)を巻き上げロール22に搬送可能に構成されている。
【0034】
次に、巻き上げ張力の測定について説明する。本実施の形態においては、巻き上げロール22での巻き上げ張力は、ニップロール31と巻き上げロール22との間のフィルム(2)の張力を測定される。巻き上げ張力の測定方法は、通常用いられるフィルム基板の張力測定法であれば特に限定されず、各種条件で測定したものを用いることができる。本実施の形態においては、巻き上げロール22の回転に伴うトルクを基にフィルム(2)の巻き上げ張力を測定し、巻き上げ張力を30kgf/cm以上に調整してフィルム(3)を製造する。
【0035】
フィルム(2)の巻き上げ張力は、ニップロール31によりニップロール31の前段及び後段でそれぞれ調整可能である。例えば、ニップロール31によりフィルム(2)を上下方向から挟圧し、ニップロール31によるフィルム(2)への押圧力を調整することにより、ニップロール31の前段部におけるフィルム(2)の張力と、後段部であるニップロール31と巻き上げロール22との間のフィルム(2)の張力と、をそれぞれ調整できる。このようにして、ニップロール31と巻き上げロール22との間のフィルム(2)の張力を調整することにより、工程(3)における巻き上げ張力を30kgf/cm以上に設定する。
【0036】
次に、熱処理炉3について説明する。熱処理炉3では、巻き取り機2で巻き上げされた巻き上げロール22を、ロールの状態で加熱処理してイミド化を行い、フィルム(4)を製造する。熱処理炉3としては、フィルム(3)の揮発成分を除去してイミド化できるものであればよく、各種の熱処理装置が用いられる。
【0037】
次に、上述した塗着装置1、巻き取り機2及び熱処理炉3を使用したポリイミド金属積層板の工程(1)〜工程(4)の条件について詳細に説明する。
【0038】
<工程(1)について>
工程(1)では、まず、金属箔を巻回した原反ロール11から金属箔を巻き取りロール12との間に張架して金属箔を搬送する。次いで、塗工機13により金属箔上に溶媒等の揮発成分を含むポリアミド酸を直接塗布し、フィルム(1)を得る。ここで、ポリアミド酸とは、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミンとを用いて、公知の有機極性溶媒中で重合したものである。
【0039】
テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物またはピロメリット酸二無水物などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これら以外の公知のテトラカルボン酸二無水物を用いことができ、二種以上を組み合わせて用いることもできる。ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、これら以外の公知のジアミンを用いることができ、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
有機極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレア、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスホルアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン、ジグライム、トリグライムなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、これら以外の公知の有機極性溶媒を用いることができる。これらの有機極性溶媒は、トルエン、ベンゾニトリル、キシレン、メシチレンなどの他の有機溶媒と混合して使用することもできる。また、線熱膨張係数の調整や、金属箔との接着強度向上のために添加剤を添加してもよく、添加しなくてもよい。
【0041】
作製したポリアミド酸の金属箔への塗布は、ブレードコーター、ナイフコーター、コンマコーター、含浸コーター、グラビアコーター、リバースロールコーターなどの塗工機を使用して行うことができるが、特にこれらに制限されるものではない。ここで、金属箔種としては、耐熱性や抵抗率なども考慮して銅箔が好ましい。また、微細配線可能な用途へ適応可能にするため、金属箔の膜厚は12μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは9μm以下である。以上よりフィルム(1)を得る。
【0042】
<工程(2)について>
工程(2)では、工程(1)で得られたフィルム(1)に対して連続的に熱処理を行い、ポリアミド酸中の揮発成分量を10重量%以下に調整してフィルム(2)を得る。ここでの連続的な熱処理は、金属箔上にポリアミド酸を塗布したもの(フィルム(1))、をロール状に巻いたりすることなく、そのまま伸ばした状態で実施する。
【0043】
揮発成分量とは、ポリアミド酸を熱処理してポリイミドになった際のポリイミド重量を100としたときにおける、ポリアミド酸中に含まれる溶媒や添加剤など、熱処理工程で揮発する成分の合計を意味する。
【0044】
工程(2)では、ポリアミド酸を塗布後、ポリアミド酸に含有する溶媒や添加物を除去し、ポリアミド酸中の揮発成分量が10重量%以下となるように熱処理する。揮発成分量が10重量%以下となるように熱処理することにより、熱処理炉での熱処理後、巻き上げたフィルム(3)同士の接触面でのポリアミド酸と金属箔との癒着を抑制することができる。また、揮発成分量が2%以上となるように熱処理することにより、ポリイミドと金属箔との熱膨張差を低減することができるので、カールが発生を抑制することができ、この後の高温乾燥を行ってもカールの発生を抑止することができる。そこで、揮発性分量は、2重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0045】
揮発性分量は以下のようにして測定した。フィルム(2)を10cm角に切り出し、フィルム(5)とし、電子天秤を用いて該フィルム(5)の重量(W)を測定した。このフィルム(5)を酸素濃度0.1%以下の不活性ガス雰囲気中で350℃、60分乾燥した後、23℃±2℃、相対湿度50%±5%の環境下、24時間以上調湿して乾燥後の重量(X)を測定した。このフィルム(5)の銅箔を塩化第二鉄によるエッチングにて除去後、105℃、30分乾燥した後、23℃±2℃、相対湿度50%±5%の環境下、24時間以上調湿して乾燥後の重量(Y)を測定した。以上の重量(W)、重量(X)及び重量(Y)を用いて、下記式(α)から残存揮発性分量Z(%)を算出した。
Z=(W−X)/(X−Y)×100…式(α)
【0046】
より揮発成分量を正確に算出するには、ポリアミド酸がイミド化する際に発生する水分揮発量を考慮する必要があるが、残存揮発性成分10重量%以下の場合には、水分量の影響は軽微である。このため、本実施の形態では上記式(α)を用いて揮発成分量を算出した。
【0047】
工程(2)においては、金属箔の酸化を防ぐため、熱処理炉の雰囲気は250℃以下で行うことが好ましく、より酸化を防ぐ観点から250℃以下の不活性ガス又は空気中で行うことがより好ましい。不活性ガスとしては窒素などを用いることができるが、コストの点から、250℃以下の空気中がさらに好ましい。空気中では、金属箔の酸化の可能性が懸念されるが、250℃以下にすることで金属箔の酸化を抑制することができる。熱処理の温度の下限は特に限定されないが、ポリアミド酸中の揮発性分量を10重量%以下にする観点から、200℃以上が好ましい。熱処理の時間、風量などについては、金属箔の酸化しやすさ、量産性を考慮して適宜設定できる。以上より、フィルム(2)を得る。
【0048】
<工程(3)について>
工程(3)では、工程(2)で製造したフィルム(2)を巻回した巻き取りロール12を巻き取り機2の原反ロール21として設置する。次いで、原反ロール21と巻き上げロール22との間にフィルム(2)を張架して巻き上げを行う。ここで、巻き上げロール22としては円柱管を用い、30kgf/cm以上の張力で巻き上げてフィルム(3)を得る。この際に、フィルム(3)の金属箔側は円柱管に対して内側にしてもよく、外側にしてもよい。円柱管に巻きつけたフィルム(3)の金属箔側の配置は、フィルム(4)のカール等の物性に影響を与える。一般的には、ポリイミドフィルムより金属箔の線熱膨張係数が大きい場合には、金属箔側を内側にし、ポリイミドフィルムより金属箔の線熱膨張係数が大きい場合には、金属箔側を外側にした方がカールは小さくなるが、その他の物性も考慮していずれを選択してもよい。
【0049】
巻き上げロール22として用いる円柱管の材質としては、工程(4)の熱処理温度で耐熱性があり、繰り返し使用できるものがよく、好ましくはステンレス管だが、熱処理温度で耐熱性があり、繰り返し使用できるものであれば、別の材質でも構わない。工程(3)において、フィルム(3)を巻き上げる長さは、ポリイミド金属積層板の一般的な製品長さを考慮すると20m以上が好ましい。
【0050】
工程(3)においては、巻き上げ張力を30kgf/cm以上に調節する。巻き上げ張力が小さい場合、後述する工程(4)において、熱処理後に得られたフィルム(4)に弛みが発生する。これを再度、巻き替えて製品の状態にする際にフィルムに張力をかけると弛みは解消されるが、このとき、フィルム(4)同士の接触面で摩擦が発生し、それに伴うシワが発生する。このシワの発生を避けるという点から、工程(3)では、高い張力での巻き上げが好ましく、具体的には巻き上げ張力を30kgf/cm以上に調節することが好ましい。以上より、フィルム(3)を得る。
【0051】
<工程(4)について>
工程(4)では、工程(3)で得られたフィルム(3)を巻回した巻き上げロール22に対して熱処理炉3で非連続的な熱処理を行い、熱処理炉3中で溶媒を完全に除去してフィルム(4)を得る。ここで、非連続的な熱処理とは、巻き上げた状態のもの(フィルム(3))を、伸ばした状態に戻すことなく、巻き上げた状態のまま熱処理を行うことである。巻き上げた状態のまま熱処理を行うことで、大規模な熱処理装置を必要としないので、低コストかつ簡易に製造することが可能となる。
【0052】
熱処理中、主に溶媒を中心とする揮発成分が除去されるが、30kgf/cm以上の張力で巻き上げられているため、ポリイミドフィルム同士の接触面では揮発成分が除去されにくい状態となっている。また、熱処理の際には、金属箔の酸化を防ぐ必要があることから、「揮発成分の除去」と「金属箔の酸化防止」の2つを両立する必要がある。そこで、「揮発成分の除去」を重要視した場合、真空による熱処理が考えられ、「金属箔の酸化防止」を重要視した場合、不活性化ガス中での熱処理が考えられる。
【0053】
また、熱処理の際に窒素などの不活性ガス中で熱処理した場合、空気中の酸化成分による酸化は防ぐことが可能となる。一方、真空度の低い条件で熱処理した場合、揮発成分除去が促進されないため、材料同士が接着面で癒着することがある。また、癒着しなかった場合でも、溶媒が分解したときに発生するガスの影響で金属箔表面が酸化し、金属箔をエッチングする際に問題になることがある。
【0054】
このため、本実施の形態では真空にできる熱処理炉を用いることが好ましい。真空中で熱処理することで揮発成分除去が促進されるため、材料同士の癒着の抑制、及び溶媒分解時に発生したガスの除去も可能となり、ロール状に巻いた状態でもポリイミド中に含有される揮発成分の除去が可能となる。真空度は、金属箔が酸化しない程度に維持すればよいが、乾燥中に揮発成分が揮発する際、真空度が悪化することがある。そこで、フィルム(3)の温度が100℃以上の環境下においては、500Pa以下にするように熱処理の昇温条件などをコントロールすることが好ましく、より好ましくは250Pa以下となるように熱処理の昇温条件などをコントロールすることが好ましい。
【0055】
熱処理炉中での熱処理温度については、ポリアミド酸の組成、及び添加物を使用したときには添加物の飛散温度によって任意に変えることが出来るが、耐熱性や後工程での熱処理温度を考慮するとポリアミド酸が300℃以上で熱処理されることが好ましい。
【0056】
またフィルム(3)を熱処理炉に設置する際、円柱管(巻き上げロール22)の芯が地面(水平面)と垂直となるように縦置きにすることが好ましい。熱処理炉中に横置きで円柱管を設置して乾燥した場合、ポリイミドフィルム同士の接触面、特にステンレス管の直上の部分には金属箔の自重がかかることとなる。一般的に金属箔は高温下に置かれると熱膨張するので、この場合には、金属箔自身が熱膨張する際に、それに抵抗する力が働くこととなり、その結果、高温乾燥後に円柱管の円周長とほぼ同一の周期でシワとなって現れる。
【0057】
また、工程(4)で円柱管を縦置きで熱処理した場合でも、熱処理中の熱膨張、熱収縮、さらには揮発成分の除去による弛み発生の影響から、フィルム(3)の外周部分がずり落ち、シワが発生することがある。そのため、工程(3)では、フィルム(2)の一方の長辺が円柱管(巻き上げロール22)の一端と略一致するように巻きつけることが好ましい。工程(4)では、上述したフィルム(2)を巻きつけた円柱間の一端側を下にして縦置きすることにより、フィルム(3)のずり落ちを防止することも出来る。
【0058】
最後に、以上の工程(1)〜工程(4)により得られたフィルム(4)を、製品用の管に巻き替えポリイミド金属積層板とする(不図示)。この製品用の管に巻き替える際にも、工程(3)と同様に巻き上げ張力を30kgf/cm以上とすることにより、フィルム(4)の強い弛みの発生を抑制することができ、最終的にシワなく、張力をかけた状態で巻き替えることが容易となる。
【0059】
なお、上述した実施の形態においては、工程(3)のために張力調整機構23を備えた巻き取り機2を用いる構成としたが、工程(3)は、塗着装置1における巻き取りロール12での巻き取りの際に実施することもできる。この場合、例えば、図3に示すように、塗着装置1の巻き取りロール12を巻き上げロール41に置換し、この巻き上げロール41の前段に張力調整機構42を備えた塗着装置4を使用する。図2(b)に示すように、塗着装置4においては、乾燥機14の後段に張力調整機構42のニップロール43が配置され、このニップロール43と巻き上げロール41との間に搬送ロール44が配置される。この張力調整機構42によって巻き上げ張力を調整し、30kgf/cm以上の張力で巻き上げられた巻き上げロール41に対し、熱処理炉3で工程(4)を実施することによりフィルム(4)を製造できる。これにより、工程(3)を工程(1)及び工程(2)と同一の装置で実施可能になると共に、工程(1)〜工程(3)を連続的に実施することも可能となる。なお、この場合においては、巻き上げロール41を直接熱処理炉3で熱処理するため、巻き上げロール41の材質としては、高温熱処理に耐えられるものを用いる。
【0060】
このように、工程(1)〜工程(3)を塗着装置4及び熱処理炉3を用いて実施することにより、工程を簡略化できるので、さらに安価かつ簡易にポリイミド金属積層板を製造することができる。
【0061】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
本実施例では、揮発性分量は以下のようにして測定した。フィルム(2)を10cm角に切り出し、フィルム(5)とした。次に電子天秤を用いて該フィルム(5)の重量(W)を測定した。このフィルム(5)を酸素濃度0.1%以下の不活性ガス雰囲気中で350℃60分乾燥した後、23℃±2℃、相対湿度50%±5%の環境下に24時間以上調湿して乾燥後の重量(X)を測定した。このフィルム(5)の銅箔を塩化第二鉄によるエッチングにて除去後、105℃30分乾燥した後、23℃±2℃、相対湿度50%±5%の環境下に24時間以上調湿して乾燥後の重量(Y)を測定した。以上の重量(W)、重量(X)及び重量(Y)を用いて、下記式(α)から残存揮発性分量Z(%)を算出した。
Z=(W−X)/(X−Y)×100…式(α)
【0063】
より正確には、ポリアミド酸がイミド化の際に発生する水分揮発量を考慮する必要があるが、残存揮発性成分10重量%以下であるため、水分揮発量の影響は軽微である。よって、本実施例では式(α)を用いて揮発成分量を算出した。
【0064】
(実施例1)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にパラフェニレンジアミン(精工化学社製)760g、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化社製)603gを入れ、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)28.1Lを加え、溶液を60℃に加温し溶解させた。溶解後に、この溶液に3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(三菱化学社製)3000gを徐々に加えた。30分間攪拌することで、溶液粘度が急激に増加した。さらに4時間撹拌させ、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。得られたポリイミド前駆体溶液をGPCにて測定した結果、重量平均分子量はポリスチレン換算で196000であった。
【0065】
この溶液を540mm幅の銅箔(三井金属鉱業社製、NA−DFF(9μm厚))にコンマコーターを用いて、幅が520mm、乾燥後の樹脂膜厚が12μmとなるように塗布した。次いで、熱風乾燥機で徐々に温度を上昇させた状態で熱処理を行い、最終的には230℃中で乾燥した。ポリアミド酸中の残存揮発成分量は5重量%だった。次に、ポリアミド酸を塗布した面が外側になるように内径6インチ、幅600mmのステンレス管に張力40kgf/cmに調整して巻き上げた。巻き上げの際、外観上に目立ったシワは発生しなかった。巻き上げには、明産社製スリッティングマシーンST−102型を使用した。
【0066】
このステンレス管を真空乾燥機中にステンレス管の芯が地面と垂直となるように縦置きし、乾燥機内全体を真空引きして、100Pa以下となってから昇温を開始した。真空乾燥機の温度設定、及びを下記乾燥温度条件1〜5に示す。また、乾燥温度条件1〜5のそれぞれの段階が終了した時点での到達温度を下記に併記する。ここで、到達温度は、ステンレス管に貼り付けた熱電対で読み取った。一般的に、直方体の形状をした真空乾燥機内は、ヒーターが壁6面の全てまたは一部に設置されているが、真空中では熱を伝える媒体が非常に限られているため、ヒーターの温度と被熱処理物の温度との間には温度乖離が生じる。本実施例でも例外ではなく、設定温度とステンレス管の実測温度には乖離が発生した。なお、100℃以上において真空度が一番悪化したときの真空度は200Paだった。
【0067】
乾燥温度条件(ステンレス管の実測温度、下記の括弧内の温度が各々の到達温度)
1.室温から150℃まで15℃/分の昇温速度で昇温。(30℃)
2.150℃から290℃まで、1℃/分の昇温速度で昇温。(265℃)
3.290℃で120分保持。(285℃)
4.290℃から360℃まで、15℃/分の昇温速度で昇温。(285℃)
5.360℃で180分保持。(355℃)
6.冷却降温。
【0068】
冷却降温終了後、乾燥終了後のステンレス管を再び明産社製スリッティングマシーンST−102型にセットし、最終的に500mm幅となるように、銅箔の両側20mmずつをスリットしながら巻き替え、製品とした。その際、乾燥後のフィルムは弛みが小さく、巻き替え中にシワが発生しなかった。また、銅箔には目立った変色は見られず、酸化が確認されなかった。
【0069】
(実施例2)
実施例1で熱風乾燥機での最終的な熱処理温度を200℃にした以外は実施例1と同様の条件で熱処理を行った。ポリアミド酸中の残存揮発成分量は6重量%だった。この場合でも製品にはシワはなく、銅箔にも酸化が確認されなかった。
【0070】
(比較例1)
熱風乾燥機での最終的な熱処理温度が150℃にした以外は実施例1と同様の条件でポリアミド酸の合成、銅箔への塗工を行った。ポリアミド酸中の残存揮発成分量は約40重量%だった。
【0071】
ステンレス管への巻き上げ張力を20kg/cmにした以外は実施例1と同様の条件で巻き上げた。この際、張力が小さいため、フィルムの巻き上げ中に不連続的に横ずれが発生し、パスライン中のロールでシワが発生した。シワの発生を防ぐために様々な工夫を行ったが、不連続的なシワを防ぐための制御をすることが出来なかった。
【0072】
真空乾燥機での熱処理は、実施例1と同様に行った。熱処理後、フィルムは大きく弛んでおり、巻き替えのために少し巻き締めしようと引っ張るとシワが発生した。このため、製品形態への巻き替えは非常にゆっくりと手作業で巻き替えを実施したが、不連続的にシワが発生し、生産性は非常に悪かった。また、熱処理前に発生したシワは熱処理後に修復されておらず、残ったままだった。
【0073】
(比較例2)
熱処理前におけるステンレス管への巻き上げ張力を40kg/cmにした以外は比較例1と同様に熱処理を行った。熱処理前にはシワが発生していなかったが、熱処理後、比較例1と同じレベルの弛みが発生しており、製品形態への巻き替えは手作業で実施し、不連続的にシワが発生した。
【0074】
(比較例3)
熱風乾燥機での最終的な熱処理温度が180℃にした以外は実施例1と同様の条件でポリアミド酸の合成、銅箔への塗工を行った。ポリアミド酸中の残存揮発成分量は約15重量%だった。
【0075】
ステンレス管への巻き上げは、張力40kg/cmで実施し、実施例1と同様の方法で巻き上げた。真空乾燥機での熱処理は実施例1と同様に行った。熱処理後、フィルムの弛みは比較例1、比較例2ほどではないが弛んでおり、巻き替えのために少し巻き締めしようと引っ張ったところ、若干ではあるがシワが発生した。このシワは製品形態にしたときには修復せず、残ったままだった。
【0076】
(比較例4)
実施例1と同様の条件でポリアミド酸の合成、銅箔への塗工、熱処理を行った。ステンレス管への巻き上げ張力を20kg/cmにした以外は実施例1と同様の条件で巻き上げた。この際、張力が小さいため、巻き上げ中にフィルムが不連続的に横ずれしてシワが発生した。シワの発生を防ぐために様々な工夫を行ったが、不連続的なシワを防ぐための制御をすることが出来なかった。
【0077】
真空乾燥機での熱処理は実施例1と同様に行った。熱処理後、フィルムの弛みは比較例1、比較例2ほどではないが弛んでおり、巻き替えのために少し巻き締めしようと引っ張ったところ、若干ではあるがシワが発生した。このシワは製品形態にしたときには修復せず、残ったままだった。
【0078】
(比較例5)
比較例3において、ステンレス管への巻き上げは機械を用いず、手動による巻き替えを実施した。手動のため、正しい張力を測定することは出来なかったが、10kg/cm以下であった。このとき、巻き替えはシワが発生しないように注意深く行ったが、若干ではあるがシワが発生した。また、作業性は悪く、非効率的であった。
【0079】
熱処理炉に入れる際、ステンレス管の芯が地面と平行となるように横置きし、熱処理を行った。熱処理後、フィルムにはステンレス管の外径とほとんど同じ周期で2cm〜3cmのシワが発生した。これは、熱膨張で金属箔自身が動こうとしているのに対し、ステンレス管の直上の部分には金属箔の自重がかかっているため、金属箔が動こうとする力に抵抗する力が働くことによって、高温乾燥後に、ステンレス管の円周の長さとほとんど同じ周期でシワとなって現れたため、と考えられる。
【0080】
(比較例6)
熱風乾燥機での最終的な熱処理温度を150℃にした以外は実施例1と同様の条件でポリアミド酸の合成、銅箔への塗工を行った。ポリアミド酸中の残存揮発成分量は約40重量%だった。ステンレス管への巻き替えは比較例5と同様に手動による巻き替えを実施した。
【0081】
真空乾燥機で熱処理する際、窒素ガスを導入し酸素含量を0.1%以下に調整したオーブン中で乾燥する以外は、熱処理に関しては実施例1と同様の条件で実施した。熱処理の温度プロファイルは実施例1で記載したステンレス管の実測温度と±5℃以内になるように設定し、実際にステンレス管の実測温度は実施例1の実測温度と比較して、±5℃とした。
【0082】
熱処理後、銅箔には酸化と思われる変色が認められた。これは、窒素下で行ったことが主な原因と考えられる。管の円周の長さとほとんど同じ周期でシワとなって現れたと思われる。以上の実施例ならびに比較例で実施したことをまとめて下記表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、非連続的な熱処理工程において、200℃以上の温度で熱処理し、揮発成分量を10重量%以下にすると共に、工程(3)での巻き上げ張力を30kgf/cm以上で実施したポリイミド金属積層板は、シワ及び銅箔の酸化がなく良好なポリイミド金属積層板が得られた(実施例1及び実施例2)。
【0085】
一方、工程(2)の連続的な熱処理工程において、揮発成分量を40重量%とし、工程(3)での巻き上げ張力を20kgf/cmで行った場合には、巻き上げ時にもシワの発生がみられ(比較例1)、巻き上げ張力を40kgf/cmで行った場合には、巻き上げ時にはシワが生じなかったものの、工程(4)の熱処理後にはシワが発生した(比較例2)。また、工程(2)の連続的な熱処理工程において、揮発成分量を15重量%とし、巻き上げ張力を40kgf/cmとした場合にも工程(4)の熱処理後には、シワが発生した(比較例3)。これらの結果は、工程(2)における揮発成分量が多かったためと考えられる。また、工程(2)において、揮発成分量を10%以下とし、巻き上げ張力を20kgf/cmとした場合には、巻き上げ後にシワが発生し、このシワが工程(4)の熱処理後にも残存した(比較例4)。これらの結果は、巻き上げ工程において、巻き上げ張力が低かったため、巻き上げ時にシワが発生したためと考えられる。
【0086】
また、工程(3)の巻き上げ時に、円筒管を横置きにした場合、巻き上げ張力を10kgf/cm以下とした場合にも巻き上げ時にシワが発生することが分かる(比較例5)。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリイミド金属積層板の製造方法を用いると、コストが安く、簡易に製造することができるので、フレキシブルプリント配線板の製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1、4 塗着装置
2 巻き取り機
3 熱処理炉
11、21 原反ロール
12 巻き取りロール
13 塗工機
14 乾燥機
22、41 巻き上げロール
23、42 張力調整機構
31、43 ニップロール
32、44 搬送ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と、前記金属箔上に塗工され、揮発成分の含有量が10重量%以下に調整されたポリイミド前駆体層と、を備えた積層体を、円柱管に30kgf/cmの張力で巻き上げする巻き上げ工程と、前記巻き上げ工程で巻き上げられた前記積層体の前記ポリイミド前駆体層をイミド化する熱処理工程とを具備することを特徴とするポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項2】
金属箔と、前記金属箔上に設けられたポリイミド層と、を備えたポリイミド金属積層板の製造方法であって、前記金属箔上に揮発成分を含むポリアミド酸を塗布する工程(1)と、前記工程(1)で前記金属箔上に塗布したポリアミド酸中の揮発成分を10重量%以下になるように連続的な熱処理を行う工程(2)と、前記工程(2)で熱処理した前記金属箔及び前記ポリアミド酸を円柱管に30kgf/cm以上の張力で巻き上げる工程(3)と、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れて、前記ポリアミド酸中の揮発成分を除去して脱水閉環する非連続的な熱処理を行う工程(4)と、を具備することを特徴とするポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)では、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れた後に昇温し、最終的には300℃以上の温度で熱処理することを特徴とする請求項2に記載のポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項4】
前記金属箔が12μm以下の銅箔であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項5】
前記工程(4)が、真空で行われることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)では、熱処理が250℃以下で行われることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれかに記載のポリイミド金属積層板の製造方法。
【請求項7】
前記工程(4)では、前記工程(3)で巻き上げた前記金属箔及び前記ポリアミド酸を熱処理炉に入れる際に、円柱管の芯が地面と垂直方向になるように縦置きにして熱処理することを特徴とする請求項2から請求項6のいずれかに記載のポリイミド金属積層板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−88088(P2011−88088A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244527(P2009−244527)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】