説明

ポリウレタン系ポリマーを用いた長期薬物輸送装置の製造

【課題】ある長期間一定の割合で、生物学的に活性な化合物を輸送するための薬物輸送装置の提供。
【解決手段】1)容器を有し、前記容器は、2)少なくとも1つの活性成分と、任意で3)少なくとも1つの薬学的に許容な担体とから構成され、ポリウレタン系ポリマーで覆われている容器。ポリウレタン系ポリマーとしては好ましくは、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンから選択され、それらは更に好ましくは、マクロジアル(macrodials)、ジイソシアン酸塩、二官能鎖エキステンダー(difunctional chain extenders)、又はそれらの混合物から作られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物輸送装置の分野に関するものであり、より明確には、ポリウレタン系ポリマーから作られる移植可能な薬物輸送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
その素晴らしい生物学的適合性、生物学的安定性、及び物性により、ポリウレタン類又はポリウレタン含有ポリマー類が、ペースメーカーリード線、人工心臓、心臓弁、ステント被覆剤、人工腱、人工動脈、人工静脈を含む、数多くの移植可能な装置の製造に使用されている。例えば、www.polymertech.comや,www.cardiotech−inc.com,およびwww.thermedicsinc.comを参照のこと。また、Hsuら、Soc.Biomaterials Trans.,April 1998も参照のこと。
【0003】
その分野で知られていることは、薬学的活性剤を含む移植物を作るためのポリウレタンの使用を開示している米国特許番号第US3,975,350号である。この特許は、管、棒、膜などを含む多くの形態に鋳造される(又は形作られる)前に、前記活性剤がポリウレタンポリマーと混合されることを開示している。
【0004】
また、身体部分への薬物の、調節され継続的な投与のための輸送装置を開示している米国特許番号第US3,993,073号が知られている。そこに開示されている前記装置は、体液に不溶性な壁状で覆われた溶解された薬物を含む容器から構成される。
【0005】
米国特許番号第US3,498,254号は、薬物投与のための薬物輸送装置を開示している。その薬物はある容器内に含まれ、前記装置は、前記薬物経路に対して透過性のある液体で満たされた細孔から構成される。
【0006】
本発明者らは、固体での薬物を含むことができるポリウレタンを基とする薬物輸送装置、および0オーダーレートで薬物拡散のための液体媒体又は液体担体を必要としないポリウレタンを基とする薬物輸送装置の従来技術を認知していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、ポリウレタンを基とする長期薬物輸送装置を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、生体における薬物または他の化合物の輸送のための、生物学的適合性があり、生物学的に安定なポリウレタンを基とする装置を提供することである。
【0009】
これは、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、1つ又はそれ以上の薬物を、長期間にわたって調節された速度で放出するための薬物輸送装置を通して達成され、前記薬物輸送装置は、
a)前記容器を完全に囲うポリウレタン系ポリマーと、
b)少なくとも1つの活性成分と、選択的に
c)少なくとも1つの薬学的に許容な担体と
を有する容器を持つものである。
【0010】
好ましくは、前記薬物輸送装置は、円柱状の容器を有する。
【0011】
また好ましくは、前記ポリウレタン系ポリマーは、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとからなる群から選択される。さらにより好ましくは、前記熱可塑性ポリウレタンが、マクロジアル(macrodials)、ジイソシアン酸塩、二官能鎖エキステンダー(difunctional chain extenders)又はそれらの混合物から作られる。
【0012】
好ましくは、前記熱硬化性ポリウレタンが、多官能基多価アルコール(multifunctional polyols)、イソシアン酸塩、鎖エキステンダー又はそれらの混合物から作られる。
【0013】
また好ましくは、前記熱硬化性ポリウレタンが高分子鎖と架橋員類とを有し、前記熱硬化性ポリウレタンは、前記高分子鎖中に不飽和結合と、架橋員類としての適切な架橋剤および/又は開始剤(initiators)を含む。
【0014】
好ましくは、前記薬物輸送装置は、親水性ペンダント基と疎水性ペンダント基とから選択される官能基を有するポリウレタンで作られる。より好ましくは、前記親水性ペンダント基が、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基、及びそれらの混合物とから選択される。さらにより好ましくは、前記疎水性ペンダント基が、アルキル基、シロキサン基、及びそれらの混合物とから選択される。
【0015】
本発明の別の目的は、薬物輸送装置の製造方法であり、前記方法は、
a)所望の物理的大きさの二つの開口端を有し、熱可塑性ポリウレタンで作られる中空管を生産するための、精密な成形工程又は注入塑造工程と、
b)前記中空管の前記開口端の1つを封止する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の第二の開口端を封止する工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0016】
好ましくは、前記封止する工程が、熱又は溶媒で前記中空管の前記開口端上に挿入される前もって準備されたプラグを用いることによって、又は、封止しながら熱又は溶媒を加えることによって、または前記端部を封止する他の手段を利用することによって実施されることもでき、不変であることが好ましい。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法であり、前記方法は、
a)二つの開口端を有する中空管を、精密な反応で注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)前記中空管の一つの端部を封止する工程と、
d)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
e)前記中空管の第二の端部を封止する工程と、
f)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法であり、前記方法は、
a)一つの開口端を有する中空管を、精密な反応注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の前記開口端を封止する工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0019】
本発明の別の目的は、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法であって、前記中空管の製造と1つの開口端を封止する工程が、適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤と、前記光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を光及び/又は熱で開始させ硬化させる工程、または前記端部を封止する他の手段でなされ、不変であることが好ましい。
【0020】
また本発明の別の目的には、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法を含み、前記一つの開口部の封止が、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを、例えば米国特許番号第US5,292,515号に述べられているような適切な手段により挿入することによってなされる。そのような適切な手段は、好ましくは薬学的に許容されうる粘着剤である。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法であって、前記1つの開口端を封止する工程が、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを挿入することによって、また適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を、前記前もって準備された端部プラグと前記開口端の間の界面に使用し、光及び/又は熱で開始させ硬化させることによって、または前記端部を封じる他の手段によってなされ、不変であることが好ましい。
【0022】
1つの実施例では、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、ある長期間調節された割合で1つ又はそれ以上の薬物を放出するための薬物輸送装置が提供されており、前記薬物輸送装置はある容器を有し、前記容器は、
i)少なくとも1つの活性成分と、任意で
ii)少なくとも1つの薬学的に許容な担体と、
iii)前記容器を完全に囲うポリウレタン系ポリマーとから構成される。
【0023】
好ましくは、前記薬物輸送装置は、円柱状の容器を有する。
【0024】
好ましくは、前記ポリウレタン系ポリマーは、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとからなる群から選択される。より好ましくは、前記熱可塑性ポリウレタンが、マクロジアル、ジイソシアン酸塩、二官能鎖エキステンダー又はそれらの混合物から作られる。またより好ましくは、前記熱硬化性ポリウレタンが、多官能基多価アルコール、イソシアン酸塩、鎖エキステンダー又はそれらの混合物から作られる。
【0025】
さらにより好ましくは、前記熱硬化性ポリウレタンが高分子鎖と架橋員類とを有し、前記熱硬化性ポリウレタンは、前記高分子鎖中に不飽和結合と、架橋員類としての適切な架橋剤および/又は開始剤(initiators)を含む。
【0026】
好ましくは、前記ポリウレタンは、親水性ペンダント基と疎水性ペンダント基とから選択される官能基を有する。より好ましくは、前記親水性ペンダント基が、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基、及びそれらの混合物とから選択される。また好ましくは、前記疎水性ペンダント基が、アルキル基、シロキサン基、及びそれらの混合物とから選択される。
【0027】
1つの実施例では、熱可塑性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法を提供し、前記方法は、
a)所望の物理的大きさの二つの開口端を有し、熱可塑性ポリウレタンで作られる中空管を生産するための、精密な成形工程又は注入塑造工程と、
b)前記中空管の前記開口端の一つを封止する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の第二の開口端を封止する工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0028】
好ましくは、前記封止する工程が、熱又は溶媒で前記中空管の前記開口端上に挿入される前もって準備されたプラグを用いることによって、又は、封止しながら熱又は溶媒を加えることによって、または前記端部を封じる他の手段を利用することによって、実施されることもでき、不変であることが好ましい。
【0029】
1つの実施例では、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法が提供され、前記方法は、
a)二つの開口端を有する中空管を、精密な反応注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)前記中空管の一つの端部を封止する工程と、
d)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
e)前記中空管の第二の端部を封止する工程と、
f)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0030】
別の実施例では、熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置の製造方法が提供され、前記方法は、
a)一つの開口端を有する中空管を、精密な反応で注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の前記開口端を封止する工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理し、起動する工程とから構成される。
【0031】
好ましくは、前記中空管の製造と1つの開口端を封止する工程が、適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤と、前記光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を光及び/又は熱で開始させ硬化させる工程、または前記端部を封じる他の手段でなされ、不変であることが好ましい。
【0032】
より好ましくは、前記1つの開口部を封止する工程が、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを、例えば米国特許番号第US5,292,515号に述べられているような適切な手段により挿入することによってなされる。そのような適切な手段は、好ましくは薬学的に許容されうる粘着剤である。さらにより好ましくは、前記1つの開口端を封止する工程が、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを挿入することによって、また適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を、前記前もって準備された端部プラグと前記開口端の間の界面に使用し、光及び/又は熱で開始させ硬化させることによって、または前記端部を封止する他の手段によってなされ、不変であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明において用いられる、二つの開口端を有する移植物の側面図である。
【図2】図2は、本発明による前記移植物を差し込むために使用される前記前もって準備された端部プラグの側面図である。
【図3】図3は、本発明において用いられる、1つの開口端を有する移植物の側面図である。
【図4】図4は、本発明による移植物を用いるヒストレリン(histrelin)溶出速度の図である。
【図5】図5は、本発明による移植物類を用いるナルトレキソン(naltrexone)溶出速度の図である。
【図6】図6は、本発明によるポリウレタン移植物類からのナルトレキソンの溶出速度の図である。
【図7】図7は、本発明によるポリウレタン移植物からのLHRH作用薬(ヒストレリン)の溶出速度の図である。
【図8】図8は、本発明によるポリウレタン移植物からのクロニジン(clonidine)の溶出速度の図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ポリウレタン系ポリマーの前記素晴らしい諸特性を利用して、この発明は、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、薬物類を、ある長期間調節された割合で放出する為の薬物輸送装置として、ポリウレタン系ポリマーを用いる。前記薬物輸送装置は、好ましくは、ポリウレタン系ポリマーによって囲まれた円柱状のある容器で構成され、それを通して、前記容器内の前記薬物の輸送速度を調節する。前記容器は、活性成分と、任意で薬学的に許容な担体を含む。前記担体は、前記ポリマーを通した前記活性成分の拡散を促進し、前記容器内の前記薬物類の安定性を確保するように調製される。
【0035】
本発明は、下記の目的を達成できる薬物輸送装置を提供し、前記目的は、治療効果を最大限にし、不要な副作用を最小限とするように調節された放出速度(0オーダーの放出速度)、その治療を終えることが必要なときの前記装置を回収する簡単な方法、吸収時の変化が少なく、生物学的利用性が大きいこと、第一通過代謝(first pass metabolism)でないことである。
【0036】
前記薬物の放出速度は、円柱状の容器装置(カートリッジ)に適用される場合、Fickの拡散法則(Fick’s Law of Diffusion)に規定される。下記の方程式は、種々のパラメータ間の相関を示している。
【0037】
【数1】

【0038】
ここにおいて、
【0039】
【数2】

【0040】
前記透過係数は、主に、前記ポリマーの親水性/疎水性、前記ポリマーの構造、薬物と前記ポリマーの相互作用によって規定される。前記ポリマーと前記活性成分が選択されれば、pは定数となり、前記円柱状装置が製造されればh,r,及びrが決まり一定となる。ΔCは、前記容器内の前記担体によって一定に維持される。
【0041】
できるだけ正確に前記装置の幾何構造を保つために、好ましくは前記円柱状装置は、熱可塑性ポリウレタンポリマー用の精密な成型工程又は精密な塑造工程によって、及び熱硬化性ポリウレタンポリマー用の反応注入塑造又はスピン鋳造工程によって製造されることができる。
【0042】
前記カートリッジは、一端が閉じているか、又は両端が開いているように作ることができる。前記開口端は前もって準備された端部プラグで差し込まれて、なめらかな端部と堅固な封止を実現する。前記固体の活性体と担体は、前記活性体の装填を最大化とするように小丸薬形態に圧縮することができる。
【0043】
前記移植物の位置を特定するために、放射線非透過材料材料を前記容器内に挿入することによって、又は前記カートリッジを封じるために使用される端部プラグ中にそれを入れることによって、前記放射線非透過材料を前記輸送装置内に組み入れることができる。
【0044】
前記カートリッジが充填された容器で両端で封止されると、前記カートリッジはある一定の輸送速度とするためにある適切な期間、予備処理(conditioned)され、
起動(primed)される。
【0045】
前記薬物輸送装置の予備処理には、前記容器を取り囲むポリウレタン系ポリマー中に前記活性体(薬物)を装填することを含む。前記起動は、ポリウレタン系ポリマー中への前記薬物の装填を止めるようになされ、その結果、前記移植物の実際の使用の前の前記活性体の損失を防ぐ。前記予備処理と起動工程に用いられる条件は、実施される活性体、温度、および媒体に依存する。前記予備処理と起動の条件は、幾つかの例では同じである。
【0046】
前記薬物輸送装置の準備工程における前記予備処理と起動工程は、ある特定の薬物の決められた放出速度が得られるようになされる。親水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、好ましくは水性媒体中で実施され、より好ましくは塩類溶液中である。疎水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、通例オイルを基とする媒体のような疎水性媒体中で実施される。予備処理と起動工程は、3つの特定の因子、すなわち温度、媒体、期間を調節することによって実施される。
【0047】
前記薬物輸送装置の予備処理と起動工程が、前記装置が置かれる媒体に影響されることは、当業者であれば理解できるであろう。前述のように、親水性薬物は好ましくは水性溶液、より好ましくは塩類溶液中で予備処理され、起動される。例えば、ヒストレリン(Histrelin)とナルトレキソン(Naltrexone)移植物は、塩類溶液中で予備処理され起動されているが、より好ましくは、0.9%ナトリウム含有の塩類溶液中で予備処理され、1.8%塩化ナトリウム含有の塩類溶液中で起動される。
【0048】
前記薬物輸送装置の予備処理と起動に用いられる温度は、広い温度範囲にわたるが、ある幾つかの例では、37℃が好ましく使用されている。
【0049】
前記薬物輸送装置の前記予備処理と起動に用いられる期間は、1日から数週間まで様々であってよく、前記特定の移植物又は薬物の所望の放出速度に依存する。
【0050】
前記移植物の予備処理と起動工程は、前記移植物内に含まれる前記薬物の放出速度を最適化するためであることが、当業者であれば理解できるであろう。よって、薬物輸送装置の予備処理と起動にかかる期間が短いほど、長い予備処理と起動工程がなされた同様の薬物輸送装置に比べて、前記薬物の放出速度が小さくなる。
【0051】
前記予備処理と起動工程の温度もまた放出速度に影響し、温度が低いほど、より高い温度で処理された同様の薬物輸送装置に比べて、薬物輸送装置中に含まれる薬物の放出速度を小さくする。
【0052】
同様に、水性溶液の場合、幾つかの例では好ましくは塩類溶液中で、前記溶液中の塩化ナトリウム含有量もまた、前記薬物輸送装置で得られる放出速度のタイプを決定するであろう。より詳しくは、塩化ナトリウムの含有量が小さいほど、より大きな塩化ナトリウム含有量の予備処理と起動工程が行われた薬物輸送装置に比べて、薬物の放出速度が大きくなる。
【0053】
同条件が疎水性薬物に適用されるが、予備処理と起動工程における主な違いは、前記予備処理と起動用媒体が疎水性媒体であり、より詳しくはオイルを基とする媒体であることである。
【0054】
輸送される前記薬物(活性体)には、中枢神経系、精神精力剤、精神安定剤、抗痙攣剤(anti−convulsants)、筋弛緩剤、抗パーキンソン薬、鎮痛剤、抗炎症剤、麻酔薬、抗痙攣剤(anntispasmodic)、筋収縮剤、抗微生物剤、抗マラリア剤、ホルモン剤、交感神経作用薬、心臓血管、利尿剤、抗寄生物剤などで作用することができる薬物類が含まれる。
【0055】
本発明は、長期間調節された速度で生物学的に活性な化合物を輸送するための、移植可能な薬物装置の創作に対する、ポリウレタン系ポリマー、熱可塑性又は熱硬化性物の応用に着目している。使用されるポリウレタンの種類に応じて、成型、(反応)注入塑造、圧縮塑造、又はスピン鋳造(例えば、米国特許番号第5,266,325号と米国特許番号第5,292,515号参照)によって、ポリウレタンポリマーは、好ましくは、1つ又は2つの開口端を有する円柱状中空管に作られる。
【0056】
熱可塑性ポリウレタンは、成型、注入塑造または圧縮塑造によって加工することができる。熱硬化性ポリウレタンは、反応注入塑造、圧縮塑造、またはスピン鋳造によって加工することができる。前記円柱状中空管の大きさは、非常に重大で、できるだけ精密である必要がある。
【0057】
ポリウレタン系ポリマー類は、多官能基多価アルコール類、イソシアン酸類、鎖エキステンダー類から合成される。各ポリウレタンの諸特性は、その構造に帰する。
【0058】
熱可塑性ポリウレタン類は、マクロジアル類(macrodials)、ジイソシアン酸塩類、及びニ官能鎖エキステンダー類(difunctional chain extenders)(例えば、米国特許4,523,005と米国特許5,254,662参照)から作られる。マクロジアル類は、柔らかいドメインを作る。ジイソシアン酸塩類と鎖エキステンダー類は、硬いドメインを作る。固いドメインは、前記ポリマーの物理的架橋部位として作用する。これら2種類のドメインの割合を変化させることによって、前記ポリウレタン類の物理的諸特性を変えることができる。
【0059】
熱硬化性ポリウレタン類は、多官能基(ニ官能基よりも多い)多価アルコール類及び/又はイソシアン酸塩類及び/又は鎖エキステンダー類(例えば、米国特許番号第4,386,039号と米国特許番号第4,131,604号)から作られる。熱硬化性ポリウレタン類もまた、前記ポリマー鎖中に不飽和結合と、化学的架橋をするための適切な架橋剤及び/又は開始剤(例えば、米国特許番号第4,751,133号)を導入することによって作られる。架橋部位の量と、架橋部位の分布を調節することによって、前記活性体の放出速度を調節することができる。
【0060】
所望の特性に応じて、多価アルコールの骨格の修飾によって、前記ポリウレタンポリマー鎖中に、種々の官能基類を導入することができる。前記装置が水溶性薬物の輸送に用いられるとき、前記ポリマーの親水性を増すために前記多価アルコール中に、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基のような親水性ペンダント基が組み込まれる(例えば、米国特許番号第4,743,673号と米国特許番号第5,354,835号)。前記装置が疎水性薬物の輸送に用いられるとき、前記ポリマーの疎水性を増すために前記多価アルコール中に、アルキル基、シロキサン基のような疎水性ペンダント基が組み込まれる(例えば、米国特許番号第6,313,254号)。前記活性体の放出速度もまた、前記ポリウレタンポリマーの親水性/疎水性によって調節することができる。
【0061】
適切なポリウレタンポリマーが選択されたら、次の工程は、前記円柱状移植物を作る最良の方法を決定することである。
【0062】
熱可塑性ポリウレタン類では、精密な成型及び注入塑造が、一定の物理的大きさをもち2つの開口端を有する中空管(図1参照)を製造するための好ましい選択である。前記容器は、活性体と担体を含む適切な製剤で自由に装填されるか、または前記活性体の装填を最大にするために前もって準備された小丸薬で充填されることもできる。前記中空管中への前記製剤の装填前に、まず1つの開口端が封止される必要がある。2つの開口端を封じるために、二つの前もって準備された端部プラグ(図2参照)が用いられる。封止工程は、熱又は溶媒又は前記両端を封止する他の手段を利用することによって達成されることができ、不変であることが好ましい。
【0063】
熱硬化性ポリウレタン類では、硬化メカニズムに応じて、精密な反応注入塑造又はスピン鋳造が好ましい選択である。硬化メカニズムが熱によって実施される場合には、反応注入塑造が用いられ、硬化メカニズムが光及び/又は熱によって実施される場合には、スピン鋳造が用いられる。1つの開口端を有する中空管(図3参照)は、スピン鋳造によって作られることが好ましい。二つの開口端を有する中空管は、反応注入塑造によって作られることが好ましい。前記容器は、熱可塑性ポリウレタンの場合と同様の方法で装填されることができる。
【0064】
好ましくは、1つの開口端を封止するために、適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤が、前記開口端を満たすように使用され、これは光及び/又は熱で硬化される。
【0065】
より好ましくは、前もって準備された端プラグと前記開口端の界面に、適切な光開始性及び/又は熱開始性熱硬化性ポリウレタン製剤を適用することによって、前もって準備された端部プラグも前記開口端を封じるために使用することができ、それは、光及び/又は熱、又は前記端部を封じる他の手段によって硬化され、不変であることが好ましい。
【0066】
最後の工程には、前記活性体類に必要な輸送速度を達成するように、前記移植物類を呼び処理し起動させる工程が含まれる。活性成分の種類、親水性か疎水性かによって、適切な予備処理用と起動用媒体が選択される。水を基とする媒体が親水性活性体に好ましく、オイルを基とする媒体が疎水性活性体に好ましい。
【0067】
当業者であれば容易にわかるように、本発明の概念から逸脱することなく、本発明の好適な例に多くの変更が加えられることができる。ここに含まれる全ての事項は本発明の説明に役立つものと考えられ、それに限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0068】
テコフィリック(Tecophilic)ポリウレタンポリマー管が、Thermedics Polymer Productsによって供給され、精密な成型法によって製造される。テコフィリックポリウレタンは、乾燥樹脂重量の150%までの種々の平衡含水比に調合することができる脂肪族ポリエーテルを基とする熱可塑性ポリウレタンの系統群である。成型グレード組み立て(Extrusion grade formulations)が、熱形成された管又は他の部品の物理的特性を最大限とするように設計される。
【0069】
Thermedics Polymer Productsから入手し作成される、前記ポリマー類の物理的データを下記に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
Hp−60D−20は、厚さ0.30mm、内径1.75mmの管に成型されている。次に前記管は、25mmの長さに切断される。前記管の一端が、熱封止機を用いて熱で封じられる。その封止時間は1分未満である。4錠の酢酸ヒストレリン(histrelin)小丸薬が前記チューブ内に装填される。各小丸薬の重さは約13.5mgであり、合計で54mgである。各錠は、98%のヒストレリンと2%のステアリン酸の混合物から構成される。前記管の第2の開口端も、第1の端部での場合と同様の方法で、熱で封じられる。装填された移植物は、次に、予備処理されて起動される。予備処理(conditioning)は、室温で、0.9%の塩類溶液(saline)中で1日間行われる。前記予備処理が完了したら、前記移植物は起動(priming)を受ける。前記起動は、室温で、1.8%の塩類溶液中で1日間行われる。各移植物は、人体で見受けられるpHに類似して選択された媒体中で、in vitroで試験される。選択された媒体の温度は、試験期間中、約37℃に保たれた。放出速度を図4に示す。
【0072】
【表2】

【実施例2】
【0073】
HP−60D−35は、厚さ0.30mm、内径1.75mmの管に成型される。次に前記管は、32mmの長さに切断される。前記管の一端が、熱封止機を用いて熱で封じられる。その封止時間は1分未満である。6錠のナルトレキソン(naltrexone)の小丸薬が前記管内に装填され、前記管の両開口端が熱で封じられる。各錠は重さが約15.0mgで、合計で91mgである。前記管の第2の開口端が、第1の端部での場合と同様の方法で、熱で封じられる。装填された移植物は、次に予備処理されて起動される。予備処理は、室温で、0.9%の塩類溶液中で1週間行われる。前記予備処理が完了したら、前記移植物は起動を受ける。起動は、室温で、1.8%塩類溶液中で1週間行われる。各移植物は、人体において見受けられるpHに類似して選択された媒体中で、in vitroで試験される。選択された媒体の温度は、試験期間中、約37℃に保たれた。放出速度を図5に示す。
【0074】
【表3】

【実施例3】
【0075】
図6には、2つの異なる含水比で2つのグレードのポリマーを用いた、in vitroでのナルトレキソン(naltorexone)の放出速度の比較を示す。移植物のポリマーが含水比24%である場合を3回実施して分析され、移植物のポリマーが含水比230%である場合も3回実施して分析された。その放出速度を時間に対してプロットした。含水比24%での実施に用いられたポリマーは、Thermedics製のテコフィリックHP−60−D35であった。この例で得られたデータは、本発明によって準備された移植物の良好な再現性を明示している。
【実施例4】
【0076】
図7は、ヒストレリン(histrelin)(LHRH作用薬)の放出速度を時間に対してプロットしてものを示している。この例のポリマーは、15%の含水比を有していた。使用されたポリマーは、Thermedics製のテコフィリックHP−60−D20であった。データは1週間ごとに採られた。
【実施例5】
【0077】
図8は、クロニジン(clonidine)の放出速度を時間に対してプロットしたものを示している。この例のポリマーは、15%の含水比を有する。使用されたポリマーは、Thermedics製のテコフィリックHP−60−D20であった。データは1週間ごとに採られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、長期間にわたって調節された速度で1若しくはそれ以上の薬物を放出するための薬物輸送装置であって、前記薬物輸送装置は、
i)少なくとも1つの活性成分と、選択的に、
ii)少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体と、
iii)前記容器を完全に囲うポリウレタン系ポリマーと
を有する容器を有するものである、薬物輸送装置。
【請求項2】
請求項1記載の薬物輸送装置において、前記容器は円柱状である、薬物輸送装置。
【請求項3】
請求項2記載の薬物輸送装置において、前記ポリウレタン系ポリマーは、熱可塑性ポリウレタンと熱硬化性ポリウレタンとからなる群から選択されるものである、薬物輸送装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の薬物輸送装置において、前記熱可塑性ポリウレタンは、マクロジアル(macrodials)、ジイソシアン酸塩、二官能鎖エキステンダー(difunctional chain extenders)、又はそれらの混合物から作られるものである、薬物輸送装置。
【請求項5】
請求項2または3記載の薬物輸送装置において、前記熱硬化性ポリウレタンは、多官能基多価アルコール(multifunctional polyols)、イソシアン酸塩、鎖エキステンダー、又はそれらの混合物から作られるものである、薬物輸送装置。
【請求項6】
請求項5記載の薬物輸送装置において、前記熱硬化性ポリウレタンは、高分子鎖と架橋員類とを有し、前記熱硬化性ポリウレタンは、前記高分子鎖中に不飽和結合と、架橋員類としての適切な架橋剤および/又は開始剤(initiators)を含むものである、薬物輸送装置。
【請求項7】
請求項2または3記載の薬物輸送装置において、前記ポリウレタンは、親水性ペンダント基と疎水性ペンダント基とから選択される官能基を有するものである、薬物輸送装置。
【請求項8】
請求項7記載の薬物輸送装置において、前記親水性ペンダント基は、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基、及びそれらの混合物から選択されるものである、薬物輸送装置。
【請求項9】
請求項2または3記載の薬物輸送装置において、前記疎水性ペンダント基は、アルキル基、シロキサン基、及びそれらの混合物から選択されるものである、薬物輸送装置。
【請求項10】
熱可塑性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法であって、前記方法は、
a)所望の物理的大きさで二つの開口端を有し、熱可塑性ポリウレタンで作られる中空管を生産するための、精密な成形工程又は注入塑造工程と、
b)前記中空管の前記開口端の一つを封印する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の第二の開口端を封じる工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理(conditioning)し、起動(priming)する工程と
を有するものである、方法。
【請求項11】
請求項10記載の熱可塑性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法において、
前記封印する工程は、熱又は溶媒で前記中空管の前記開口端上に挿入される、前もって準備されたプラグを用いることによってなされるか、又は、封印しながら熱又は溶媒を加えることによって、または前記端部を封じる他の手段を利用することによってなされるものである、方法。
【請求項12】
熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法であって、前記方法は、
a)二つの開口端を有する中空管を、精密な反応注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)前記中空管の一つの端部を封印する工程と、
d)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
e)前記中空管の前記第二の端部を封印する工程と、
f)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理(conditioning)し、起動(priming)する工程と
を有するものである、方法。
【請求項13】
熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法であって、前記方法は、
a)一つの開口端を有する中空管を、精密な反応注入塑造する又はスピン鋳造する工程と、
b)前記中空管を硬化する工程と、
c)活性体と任意で担体を含む所望の製剤を含む容器を詰める工程、又は前もって準備された小丸薬で容器を充填する工程と、
d)前記中空管の前記開口端を封印する工程と、
e)前記活性体の所望の輸送速度を達成するために、前記薬物輸送装置を予備処理(conditioning)し、起動(priming)する工程と
を有するものである、方法。
【請求項14】
請求項12または13記載の熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法において、
前記中空管を製造する工程と1つの開口端を封印する工程は、適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を有し、前記光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を光及び/又は熱、または前記端部を封印する他の手段で開始させ硬化させる工程で実行されるものである、方法。
【請求項15】
請求項12または13記載の熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法において、
前記1つの開口部を封印する工程は、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを挿入することによってなされるものである、方法。
【請求項16】
請求項12または13記載の熱硬化性ポリウレタンを用いて作られる薬物輸送装置を製造する方法において、
前記1つの開口端を封印する工程は、前記中空管の前記開口端に、前もって準備された端部プラグを挿入することによって、また適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤を、前記前もって準備された端部プラグと前記開口端の間の界面に使用し、光及び/又は熱、または前記端部を封じる他の手段による硬化によってなされるものである、方法。
【請求項17】
請求項2または3記載の薬物輸送装置において、
前記適切な予備処理(conditioning)と起動(priming)のパラメーター(時間、温度、予備処理用媒体、媒起動用媒体)は、前記活性体の所望の輸送速度を確立するように選択されるものである、薬物輸送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−49678(P2013−49678A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−219869(P2012−219869)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2011−31294(P2011−31294)の分割
【原出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(505369011)エンド ファーマシューティカルズ バレラ インク. (4)
【Fターム(参考)】