説明

ポリエステルおよび不飽和ポリエステルの解重合方法、ならびに当該解重合方法を用いたポリエステルモノマーの回収方法

【課題】本発明は、ポリエステルおよび不飽和ポリエステルを迅速に、かつ簡便な装置で解重合しうる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の解重合方法の一つの態様としては、嵩密度が0.3g/cm3以下の酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルにマイクロ波を照射する。このような本発明の解重合方法を用いることにより、アルキレングリコールや不飽和二塩基酸といった、ポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料を効率的に回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルおよび不飽和ポリエステルを解重合する方法、ならびにその解重合方法を用いてポリエステルモノマーを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステルは、その化学的安定性が優れていることから、繊維、フイルム、シート、あるいは飲料品のボトルなどに使用されている。また、不飽和ポリエステルは、軽量で耐候性、耐薬品性、耐熱性に優れていることから、繊維強化プラスチック(FRP)として、浄化槽、浴槽、あるいは小型船舶といった成形品の製造に使用されている。
【0003】
近年、これらのポリエステル等の廃棄物の処理方法が問題となり、廃棄物を回収して再使用するための各種の方法が検討されているが、その一つとして、ポリエステル等の廃棄物を解重合することによりモノマーに変換して回収し、このモノマーを原料にして再度重合反応によってPET等のポリエステルを製造する、いわゆるケミカルリサイクルが検討されている。このケミカルリサイクルは不純物の分離が可能であり、原料としての品質もバージンのそれとさほど変わらないため、資源の再利用を実現できる手段として期待されている。
【0004】
ポリエステルのモノマーへの解重合方法としては、大別すると、水を溶媒とする加水分解法、アルコールを溶媒とするアルコリシス法、及びグリコールを溶媒とするグリコリシス法の3つの方法が提案されている。
【0005】
加水分解法としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート溶融物を水蒸気と反応させ、ついで水酸化アンモニウムと反応させることにより、テレフタル酸およびエチレングリコールに分解する方法が挙げられる(特許文献1)。この方法は、反応のためにグリコールやアルコールを用いないで済むという利点があるが、高圧の条件下で上記反応が行われるため耐圧の特殊な装置を用いる必要がある。
【0006】
アルコリシス法は、例えば、アルコール溶媒中で(必要に応じて触媒を添加して)加熱することにより、ポリエステルを解重合する方法である(特許文献2、特許文献3)。この方法には、例えばメタノールを溶媒としてPETを解重合した場合、有用で取り扱いやすいモノマーであるジメチルテレフタレート(以下「DMT」と略記することもある。)が解重合反応により直接的に生成し、また解重合反応も比較的早いという利点がある。しかし、その一方、溶媒として用いるアルコールは低沸点であり、反応を進ませるためには加圧が必要であるため(例えば超臨界または亜臨界状態のメタノール中で反応させる)、耐圧の特別の装置が必要であるという問題がある。
【0007】
グリコリシス法は、ポリエステルを、過剰のアルキレングリコール溶媒中で炭酸ナトリウム等の解重合触媒とともに加熱することにより解重合し、ビス(β−ヒドロキシアルキル)テレフタレートとエチレングリコールを生成させる方法である(特許文献4、特許文献5)。例えば、溶媒としてエチレングリコールを用いた場合、解重合反応によりビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下「BHET」と略記することもある。)が生成し、さらにエステル交換触媒の存在下にメタノールを添加し、エステル交換反応をすることにより、DMTを回収することができる。
【0008】
このグリコリシス法は常圧で反応させることができる。しかし、反応時間が比較的長いため(例えば特許文献4の実施例によれば4時間程度)稼働率を上げられず、また、溶媒のグリコールが長時間加熱されることにより劣化するという問題があり、反応時間の短縮が望まれていた。
【0009】
なお、特許文献6には、水酸化ナトリウムおよび水を含むエチレングリコール中でPETを水酸化ナトリウムと反応させることにより、テレフタル酸ナトリウムを生成させる解重合方法が開示されている。この解重合方法によれば、上記グリコリシス法よりも短時間(15分〜1時間程度)で解重合させることが可能であり、例えば、特許文献6の実施例では、180℃前後で1時間程度加熱攪拌することにより、PETを解重合してテレフタル酸ナトリウムが得られたことが記載されている。
【0010】
上記グリコリシス法は、不飽和ポリエステルを解重合する方法としても利用されている。例えば、特許文献7では、不飽和ポリエステル廃棄物を(好ましくはナトリウムエチラート等の触媒の存在下に)エチレングリコール等のグリコール溶媒中で加熱する、不飽和ポリエステルの解重合方法が提案されている。しかしこの方法による不飽和ポリエステルの解重合も、ポリエステルを解重合する場合と同様に、反応に長時間を要する。例えば、この特許文献7の実施例1では、180℃で5時間、ついで200℃で8時間反応させた結果、不飽和ポリエステルの分解率が54.4%であったとが記載されているが、この所要時間および分解率は工業化するには不十分な水準である。
【0011】
また、特許文献8には、不飽和ポリエステル廃棄物をラジカル発生剤の存在下、150〜300℃程度の比較的高温でグリコールと反応させることにより、通常のグリコリシス法では分解しにくいスチレン架橋の一部までをも切断する解重合方法、さらに得られた分解生成物(オリゴマー)を二塩基酸と縮合反応させて不飽和ポリエステルを合成する方法が開示されている。しかしこの解重合方法も高温、高圧、かつ長時間を要し、例えば特許文献8の実施例1では、290℃で2時間反応させ、分解終了時の圧力は3.7MPaであったと記載されている。
【0012】
なお、特許文献9には、ポリエステルをオリゴマー(例えば重合度800以下)に解重合する工程において電子レンジ等によるマイクロ波を照射することにより解重合反応が促進されること、また、この解重合により得られたオリゴマーに不飽和多塩基酸等を添加して共重合させ、不飽和ポリエステル樹脂を製造する工程においても、マイクロ波を照射することで重合反応が促進されることが記載されている。そして、重合反応(エステル化反応)あるいは解重合反応において、マイクロ波は反応物質の温度を上昇させることに加えて、反応そのものにも大きな作用を及ぼすことが示唆されている。
【0013】
より具体的には、特許文献9の実施例Bでは、まず、廃ペットボトルフレーク、プロピレングリコールおよび解重合触媒であるジブチルオキシドを押出機に投入して、分子量が1500程度に解重合したオリゴマーを作成した後、180℃以上の加熱下で撹拌しながら周波数2450MHzのマイクロ波を30分間照射することにより、分子量を700程度にしたことが記載されている。
【0014】
しかし、このような特許文献9に記載の発明によれば、加熱した上で30分程度マイクロ波を照射し続けてポリエステルを解重合しても、得られる物質はあくまでもオリゴマーであり、再利用する上で好適なモノマーは得られていない。しかも、マイクロ波を照射する前に、あらかじめ押出機を用いてある程度の解重合しておく処理が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2003−527363号公報
【特許文献2】特開平11−100336号公報
【特許文献3】特開2003−300916号公報
【特許文献4】特開2002−167468号公報
【特許文献5】特開2004−300115号公報
【特許文献6】特開平11−302208号公報
【特許文献7】特開平8−225635号公報
【特許文献8】特開2005−255780号公報
【特許文献9】特開2003−292594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のような従来公知のポリエステルまたは不飽和ポリエステルの解重合方法は、少なくとも数10分から数時間と長時間を要し、このことがポリエステル廃棄物の大量処理において隘路となっていた。また、従来の方法は高温または高圧条件下で反応を行わなくてはならず、そのような反応条件に耐えうる特殊な装置も必要とされていた。本発明は、このような従来のケミカルリサイクル法における問題点の解決を目的としている。
【0017】
すなわち、本発明は、迅速かつ簡便な装置で行うことができる、ポリエステルおよび不飽和ポリエステルの解重合方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の異なる態様において、そのような解重合方法を用いた、不純物の少ないポリエステルモノマーの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明による解重合方法は、所定の反応溶媒の存在下で、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルにマイクロ波を照射することを特徴とする。このような本発明の解重合方法は、対象物(ポリエステルまたは不飽和ポリエステル)および反応溶媒の態様の違いにより、3通りに大別される。
【0019】
本発明の1番目の解重合方法は、嵩密度が0.3g/cm3以下の酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品にマイクロ波を照射することを特徴とする。このポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを含有する成型品が好適である。
【0020】
上記酸化チタンとしては、アナターゼ型酸化チタンが好ましい。上記アルキレングリコールとしては、エチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールが好ましい。
また、嵩密度が0.3g/cm3以下の酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールに、ポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品を浸漬させる工程、上記1番目の解重合方法を従ってマイクロ波を照射し、ポリエステルを解重合することにより、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス−β−ヒドロキシアルキルエステルとを生成させる工程、さらに、当該飽和二塩基酸のビス−β−ヒドロキシアルキルエステルとメタノールとのエステル交換反応により、飽和二塩基酸のジメチルエステルを生成させる工程などにより、ポリエステルモノマーを回収することができる。また、解重合反応で生成したアルキレングリコールは、この解重合反応の溶媒に加えて再使用することもできる。
【0021】
本発明の2番目の解重合方法は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコールの存在下で、ポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品にマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする。このポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートを含有する成型品が好適である。
【0022】
上記アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、またはリチウムからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属が好ましい。また、アルカリ金属を含有する多価アルコール溶媒は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびリン酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属化合物を、モノアルコールまたは多価アルコール溶媒に添加して得られたものであることが好ましい。
【0023】
一方、上記モノアルコールまたは多価アルコールとしては、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびグリセリンならびにこれらのアルキルエーテル化合物およびベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールを含有することが好ましい。
【0024】
そして、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコールにポリエステルまたはポリエステルを含有する成型品を浸漬させる工程、上記2番目の解重合方法を従ってマイクロ波を照射し、ポリエステルを解重合することにより、アルキレングリコールと、飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩とを生成させる工程、さらに、当該飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩を酸で中和し、飽和二塩基酸を生成させる工程などにより、ポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料を回収することができる。解重合反応で生成したアルキレングリコールは、この解重合反応の溶媒に加えて再使用することもできる。
【0025】
本発明の3番目の解重合方法は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコールの存在下で、不飽和ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを含有する成型品にマイクロ波を照射する工程を含むことを特徴とする。この不飽和ポリエステルを含有する成型品としては、例えば、(ガラス)繊維強化不飽和ポリエステルを含有する成型品が好適である。
【0026】
上記アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、またはリチウムからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属が好ましい。また、アルカリ金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコール溶媒は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびリン酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属化合物を、モノアルコールまたは多価アルコール溶媒に添加して得られたものであることが好ましい。
【0027】
一方、上記モノアルコールまたは多価アルコールとしては、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびグリセリンならびにこれらのアルキルエーテル化合物およびベンジルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコールを含有することが好ましい。
【0028】
そして、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコールに不飽和ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを含有する成型品を浸漬させる工程、上記3番目の解重合方法を従ってマイクロ波を照射し、不飽和ポリエステルを解重合することにより、アルキレングリコールと、不飽和ポリエステルの部分分解物であるオリゴマーのエステル化合物とを生成させる工程などにより、ポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料を回収することができる。解重合反応で生成したアルキレングリコールは、この解重合反応の溶媒に加えて再使用することもできる。
【0029】
なお、詳細は後述するが、上記2番目および3番目の解重合方法では、それぞれにおいて、用いるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属やモノアルコールまたは多価アルコールの供給量の違いにより、2通りの異なる反応形式がみられ、このうち、飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩が生成する反応形式を「アルカリ加水分解型」とよび、飽和二塩基酸のエステル化合物が生成する反応形式を「エステル交換型」とよぶことがある。
【0030】
また、本発明の説明において、ポリエステルを対象とする本発明の1番目の解重合方法および当該方法を用いたモノマーの回収方法を「本発明の第1態様」;ポリエステルを対象とする本発明の2番目の解重合方法のうちアルカリ加水分解型の反応が起こる解重合方法、および当該方法を用いたモノマーの回収方法を「本発明の第2態様」;同じく2番目の解重合方法のうちエステル交換型の反応が起こる解重合方法、および当該方法を用いたモノマーの回収方法を「本発明の第3態様」;不飽和ポリエステルを対象とする本発明の3番目の解重合方法のうちアルカリ加水分解型の反応が起こる解重合方法を「本発明の第4態様」;同じく3番目の解重合方法のうちエステル交換型の反応が起こる解重合方法を「本発明の第5態様」よぶことがある。
【発明の効果】
【0031】
従来のグリコリシス反応等ではポリエステルの解重合に長時間を要していたが、本発明では解重合の反応時間が著しく短縮され、特に本発明の第2〜第5態様では数分〜120分程度で100%近い反応率で解重合させることも可能であり、ポリエステル廃棄物等の解重合を迅速かつ効率的に行うことができるようになった。
【0032】
また、本発明の解重合方法では加熱・加圧装置が不要であり、マイクロ波加熱装置を応用した簡便な装置で実施することができる。このため、回収されたPETボトル等の廃棄物をその地域で減容化し、モノマー化することが容易になり、さらに不飽和ポリエステル工場へ運搬し、再使用することなども可能になる。
【0033】
例えば、本発明の第2態様では、解重合により飽和二塩基酸(芳香族ジカルボン酸等)を金属塩として析出させて分離できるため、ポリエステルの原料用モノマーとして充分再使用が可能な、高純度の飽和二塩基酸が得られる。一方、本発明の第3態様または第5態様では、反応溶媒に用いたアルコール残基を有する、飽和二塩基酸またはオリゴマー(不飽和ポリエステルの部分分解物)のエステル化合物が得られる。このような化合物は、さらにメタノール等とエステル交換してDMTなどに変換した後に、飽和または不飽和ポリエステルの製造の原料とすることが可能である。
【0034】
さらに、本発明の解重合方法を用いれば、マイクロ波の照射によりポリエステル等が加熱されたとしても、その時間は短時間であるため、解重合により生成したアルキレングリコールが劣化することが少なく、純度の高いアルキレングリコールとして回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の解重合方法の対象とするポリエステルおよび不飽和ポリエステル、またはこれらを含む成型品の態様は特に限定されるものではなく、公知の一般的な手段により製造されたものであればよい。以下、ポリエステル、不飽和ポリエステルおよびこれらを含む成型品に関する事項について順次説明する。
【0036】
(ポリエステル)
本発明の第1〜第3態様の解重合方法の対象となる「ポリエステル」は、飽和二塩基酸とアルキレングリコールとを重合してなるポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、またはカプロラクトンを重合してなるポリカプロラクトンである。これらのポリエステルを解重合することにより、飽和二塩基酸、アルキレングリコール、またはカプロラクトンをモノマーとして回収することができる。
【0037】
(不飽和ポリエステル)
本発明の第4および第5態様の解重合方法の対象となる「不飽和ポリエステル」は、例えば、飽和二塩基酸類と、不飽和多塩基酸類と、アルキレングリコール類とを重縮合させて不飽和アルキッド樹脂を生成し、このアルキッド樹脂を重合性ビニルモノマー(架橋モノマー)に溶解させることにより調製することができるような、一般的な不飽和ポリエステルである。
【0038】
(アルキレングリコール)
ポリエステルおよび不飽和ポリエステルを構成する、すなわち本発明の第1〜第5態様により回収することができるアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−へキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ベンゼンジオールなどが挙げられる。例えば、ポリエステルがポリエチレンテレフタレートの場合はアルキレングリコールとしてエチレングリコールを、また、ポリエステルがポリブチレンテレフタレートの場合はブチレングリコールをモノマーとして回収できる。
【0039】
(飽和二塩基酸)
ポリエステルおよび不飽和ポリエステルを構成する、すなわち本発明の第1〜第3態様により回収することができる飽和二塩基酸としては、具体的には、例えばテレフタル酸、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、その他のジカルボン酸、例えばヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、およびコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸なども、上記飽和二塩基酸として挙げられる。
【0040】
(不飽和多塩基酸,重合性ビニルモノマー)
不飽和ポリエステルを構成する不飽和多塩基酸類としては、具体的には、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等を挙げることができ、また、重合性ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メタクリル酸メチル、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート等が挙げられる。
【0041】
(成型品,廃棄物)
本発明の解重合方法およびモノマーの回収方法の産業上の利用においては、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを含有する成型品、特に廃棄物を対象とすることが想定される。この廃棄物とは、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを含有する成型品を使用した後に発生する廃棄物のほか、成形品製造時に発生する残余物、不良品等などをいう。例えば、使用済みのPET製ボトル、カップ、ひも、包装パック等、あるいはこれらを成形する際のバリ、スプルー、真空成形後のカップ切り取り後のシート等が挙げられる。
【0042】
また、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを含有する成型品は、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルのみで構成された成型品であってもよく、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルとその他の成分(着色剤等の公知慣用の添加物)とを含有する成型品であってもよい。
【0043】
さらに、不飽和ポリエステルは、ガラス繊維などと複合化した繊維強化プラスチック(FRP)において広く利用されているが、このようなガラス繊維等の充填剤を含有する成型品を本発明の対象とすることもできる。上記充填剤は、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、ガラスフリット、水酸化アルミニウム、ガラス繊維チョップドストランド、ガラス繊維ロービング、炭素繊維、アラミド繊維等であってもよい。また、このような充填剤は、成型品中、樹脂成分100重量部に対して50〜500重量部程度含有されていてもよい。
【0044】
< 反応溶媒 >
本発明の第1態様の解重合方法では、酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で解重合反応を行う。本発明の第2〜第5態様の解重合方法では、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコールの存在下で解重合反応を行う。
【0045】
以下、これらの解重合反応に用いられるアルキレングリコール、多価アルコール、モノアルコール、酸化チタン微粉末、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびこれらの化合物等について順次説明する。
【0046】
なお、本発明の説明において、第1〜第5態様の解重合方法で用いるアルキレングリコール、多価アルコールおよびモノアルコールを「アルコール類」と総称することがある。また、第1〜第5態様においてこれらのアルコール類に添加して用いる酸化チタン微粉末、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等を「反応触媒」と総称することがある。そして、上記「酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコール」と「アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するモノアルコールまたは多価アルコール」を「反応溶媒」と総称することがある。
【0047】
(アルコール類)
本発明の第1態様で用いられるアルキレングリコールとしては、前述のポリエステルのモノマーとして挙げたアルキレングリコールを使用することができるが、なかでもエチレングリコールまたはプロピレングリコールが安価でかつ低粘度であるため好ましい。これらのアルキレングリコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
一方、本発明の第2〜第5態様で用いられるモノアルコールおよび多価アルコール(2価以上)としては、常温で液体であって、低粘度でしかも高沸点を有するものが好ましい。以下に挙げるようなモノアルコール、多価アルコールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの多価アルコールのうち、沸点が高くて解重合反応中に突沸等のトラブルが発生しにくく、かつ反応性が比較的高いことから、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンが好く、例えば、得られる飽和二塩基酸の色相が優れることなどの点からは、グリセリンが特に好ましい。
【0050】
一方、モノアルコールとしては、上に例示したジオール、トリオール等の多価アルコールのアルキルエーテル化合物(例:ジエチレングリコールモノメチルエーテル)や、ベンジルアルコール、2−エチルヘキサノールなどが挙げられ、なかでも、エチレングリコール、プロピレングリコールn−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等のアルキルエーテル化合物およびベンジルアルコールが好ましい。
【0051】
例えば、ベンジルアルコールは、沸点がやや低いことから不飽和ポリエステルを完全に解重合するためには2時間程度の反応時間を要するものの、不飽和ポリエステルの解重合反応に利用する上で適したマイクロ波の吸収度合を有していること、当該解重合反応により得られる反応物はクロロホルム等の有機溶媒への溶解性が良好であるため容易に分離、回収ができること、また低臭気であり作業性に優れることなどから、本発明の第5態様における特に好ましいモノアルコールである。
【0052】
(酸化チタン微粉末)
一般的な酸化チタンには、白色顔料として用いられている正方晶系のルチル型酸化チタン、光触媒機能に優れた正方晶系のアナターゼ型酸化チタン、および斜方晶型のブルッカイト型酸化チタンの3種類がある。本発明の第1態様における酸化チタンとしては、これらのいずれの酸化チタンを用いることもできるが、反応性および入手のしやすさなどの点から、アナターゼ型酸化チタンを用いることが好ましい。
【0053】
粉末状のアナターゼ型酸化チタンは、公知の各種の方法により調製することが可能である。例えば、気相法、CVD(化学気相蒸着)法や、ゾル−ゲル法、HyCOM(Hydrothermal Crystalization in Organic Media)法および硫酸法といった液相法などの方法により調製することができる。例えば「DegussaP-25」(日本アエロジル株式会社製)は、上記気相法で製造された代表的なアナターゼ型酸化チタンである。
【0054】
また、本発明における微粉末酸化チタンの嵩密度は、通常0.5g/cm3以下、好ましくは0.3g/cm3以下、特に好ましくは0.1g/cm3である。なお、ここでいう微粉末酸化チタンの嵩密度は、JISK5101の方法で測定された値である。酸化チタンの真密度は4.2g/cm3とされているから、本発明で好ましく用いられる酸化チタンは嵩密度が低い、言い換えると空隙率が高いものだと言える。
【0055】
上記嵩密度は、微粉末酸化チタンの粒径または比表面積とも関連する物性である。本発明では、上記嵩密度が低いほど、つまり微粉末酸化チタンの粒径が小さく、比表面積が大きいほど、反応活性が増加する傾向がある。本発明における微粉末酸化チタンの粒径は、通常200nm以下、好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下であり、比表面積は、通常10m2/g以上、好ましくは50m2/g以上、特に好ましくは300m2/g以上である。
【0056】
(アルカリ金属・アルカリ土類金属等)
本発明の第2〜第5態様では、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有するアルコール類の存在下で解重合反応を行う。
【0057】
本発明において「アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有する」アルコール類とは、アルカリ金属単体、アルカリ土類金属単体、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の少なくとも1種をアルコール類に添加することにより得られる反応溶媒である。添加したアルカリ金属単体またはアルカリ金属化合物の少なくとも一部が溶解し、アルカリ金属イオンがアルコール類中に存在していればよく、アルカリ金属化合物等の不溶物が残存していても解重合反応に支障はない。
【0058】
上記アルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1価の金属をいう。これらの中では比較的に安価なナトリウムまたはカリウムが好ましく、中でもナトリウムが安価に入手できるため最も好ましい。一方、上記アルカリ土類金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等の金属をいう。
【0059】
また、本発明の第2〜第5態様で用いる、アルカリ金属・アルカリ土類金属を含有するアルコール類(反応溶媒)は、取り扱い性やコストなどの面から、アルカリ金属化合物・アルカリ土類金属化合物を反応触媒とし、これらをアルコール類に添加して調製することが望ましい。
【0060】
上記アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、前述のアルカリ金属およびアルカリ土類金属それぞれの、酸化物;水酸化物;炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩化物、次亜塩素酸塩、珪酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩等の無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩;あるいはアルコールによるアルコラート等を挙げることができる。なお、これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記化合物の中では、反応を迅速に行え、かつ反応後回収されるモノマーに不純物が混入しないことや、生産コストの点も考慮すると、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩またはリン酸塩、具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸三カリウム(水和物)などが好ましい。
【0062】
例えば、水酸化ナトリウムは、エチレングリコールなどと組み合わせて用いた場合に反応速度や反応率などに優れることから、本発明における代表的なアルカリ金属化合物の一つである。また、ガラス繊維を含有する不飽和ポリエステルの成型品(FRP)を解重合に供する場合、水酸化ナトリウムおよびエチレングリコールを用いると反応条件によってはガラス繊維のアルカリ溶解が時々観測されることがあるが、リン酸三カリウムをベンジルアルコールと組み合わせて用いるとそのような問題を抑制することができるため、リン酸三カリウムは本発明の第5態様における好適なアルカリ金属化合物の一つである。
【0063】
< マイクロ波照射 >
(マイクロ波)
本発明の方法ではポリステルの解重合反応を促進するためにマイクロ波を用いる。マイクロ波は、周波数が100MHz〜100GHz程度の高周波である。例えば、日本においては一般に2450MHzのマイクロ波の使用が家庭用に認められており、食品解凍用としては915MHzのマイクロ波も使用されているが、いずれの波長も本発明において使用できる。
【0064】
(マイクロ波発生装置)
このようなマイクロ波を発生させるための装置としては、例えば家庭用または業務用に用いられている電子レンジの他、公知のバッチ式、あるいはベルトコンベアー等の搬送部を有する連続式の各種マイクロ波発生、処理装置を用いることができる。
【0065】
なお、いずれのマイクロ波発生装置を用いる場合でも、ポリエステルまたは不飽和ポリエステル/反応溶媒からなる反応物は、マイクロ波を吸収しない容器、例えばガラス、セラミックまたはフッ素樹脂製の容器に収容することが望ましい。大型の反応器の場合は、部分的に石英ガラス又は耐熱ガラスの窓を設けて,そこへマイクロ波の発振部を取り付けて反応器内を照射しても良い。発振部から金属の導波管を通してマイクロ波を導いた装置を用いることも可能である。
【0066】
< 解重合方法 >
本発明のポリエステルまたは不飽和ポリエステルの解重合方法は、一般的には、反応溶媒を調製する工程、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルをこの反応溶媒に浸漬する工程、およびマイクロ波を照射して解重合反応を進行させる工程などにより構成される。
以下、本発明のポリエステルまたは不飽和ポリエステルの解重合方法の第1〜第5態様について、ステップを追って説明する。
【0067】
(任意工程:洗浄・粉砕処理等)
回収したポリエステルまたは不飽和ポリエステルの廃棄物を解重合の対象とする場合は、本発明の解重合方法に供する前に、これらの廃棄物を洗浄し、廃棄物に付着している汚れ、例えば内容物、土等を除去することが望ましい。
【0068】
また、本発明における解重合反応は反応速度が速いため、回収したポリエステルまたは不飽和ポリエステルの廃棄物等は比較的大きい切片のまま解重合反応に供することが可能であるが、より効率的に反応を進行させるために、廃棄物等を機械的に切断、粉砕し、粒子状にする粉砕処理を行ってもよい。粉砕処理は、公知の好適な手段を用いて行えばよい。例えば、ハンマーミル等を用いた粉砕処理により、ポリエステル廃棄物を2〜8mm角程度の細片にしてから、解重合反応に供することができる。
【0069】
さらに、必要に応じて、粉砕したチップを水に漬けて水より軽い成分(ポリエステルまたは不飽和ポリエステル以外の樹脂等)を除去する手法、あるいは、粉砕物を風で吹き飛ばして一定の範囲のものを回収する等の手法などを併用してもよい。
【0070】
なお、上述のようにしてキャップ、ラベル、異物などを完全に除去しなくとも、本発明の解重合反応にはなんら影響を及ぼさないので、現状のケミカルリサイクル法のように分別・洗浄・粉砕を綿密に行う必要はない。
【0071】
(工程1:反応溶媒の調製)
本発明の解重合方法では、まず、アルコール類に酸化チタン微粉末やアルカリ金属化合物等を添加し、分散または溶解させ、反応溶媒を調製する。これらの酸化チタン微粉末やアルカリ金属化合物等は、アルコール類を撹拌しながら少しずつ添加することが好ましく、また、それらを迅速に分散または溶解させるために、超音波発生機や通常の加熱器を用いてもよい。なお、アルコール類に溶解するアルカリ金属化合物等を用いる場合は、投入後にマイクロ波を照射すれば解重合反応の進行と共に溶解するので、一般的には前処理的な溶解操作は不要である。
【0072】
本発明の第1態様では、反応触媒(酸化チタン微粉末)をアルキレングリコールに添加して分散させる。酸化チタン微粉末のアルキレングリコールへの合計添加量は、ポリエステル100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1.0〜7重量部の範囲である。
【0073】
本発明の第2および第3態様では、反応触媒(アルカリ金属化合物等)をアルコール類に添加して溶解させる。当該反応触媒のアルコール類への合計添加量は、ポリエステルを構成する飽和二塩基酸1モルに対して、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜10モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルの範囲である。
【0074】
本発明の第4および第5態様でも、反応触媒(アルカリ金属化合物等)をアルコール類に添加して溶解させる。当該反応触媒のアルコール類への合計添加量は、不飽和ポリエステルを構成する有機酸(飽和二塩基酸と不飽和に塩基酸の合計)1モルに対して、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜10モル、特に好ましくは0.8〜1.2モルの範囲である。
【0075】
本発明の第2〜第5態様では、用いる反応触媒(反応溶媒中に放出されるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物)の種類およびポリエステル・不飽和ポリエステルに対する添加量によって、解重合反応がエステル交換型かアルカリ加水分解型かが変化する場合があるが、反応触媒の種類に応じてポリエステル等に対する添加量を適切に調節することにより、所望の態様の解重合反応を行うことが可能である。
【0076】
例えば、水酸化ナトリウムを反応触媒とする場合、ポリエステルに対する添加量を比較的少量(例えば、ポリエステルを構成する飽和二塩基酸1モルに対して0.5〜1モル程度)とすることによりエステル交換型の解重合反応が進行する(本発明の第3,第5態様)。逆に、ポリエステルに対するアルコール類の量を比較的多量(例えば、ポリエステルを構成する飽和二塩基酸1モルに対して2〜3モル程度またはそれ以上)とすることによりアルカリ加水分解型の解重合反応が進行する(本発明の第2,第4態様)。一方、リン酸三カリウムを反応触媒とする場合は、添加量が前述の範囲内であればエステル交換型の反応のみが進行する(本発明の第3,第5態様)。
【0077】
なお、第2〜第5態様においては、アルコール類中に溶解したアルカリ金属等が空気中の二酸化炭素と反応して、消耗されないように雰囲気を窒素置換しておくことが好ましい。
【0078】
(工程2:ポリエステル・不飽和ポリエステルの浸漬)
次に、工程1で調製した反応溶媒に、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルを浸漬させる。この際の反応溶媒とポリエステルまたは不飽和ポリエステルとの重量比は、本発明の第1〜第3態様のいずれにおいても、1〜50:1程度とすればよく、3〜15:1とすることが好ましい。
【0079】
(工程3:マイクロ波の照射による解重合反応)
以上の準備が完了した後、上記反応溶媒/ポリエステル混合体または反応溶媒/不飽和ポリエステル混合体にマイクロ波を照射する。反応形式は、連続反応方式あるいはバッチ方式のいずれでもよい。これらの混合体は、前述のように、セラミック等のマイクロ波を吸収しない容器に収容された状態で反応に供されることが望ましい。
【0080】
解重合反応の時間は特に制限されるものではなく、使用する反応溶媒(アルコール類、反応触媒)および解重合反応に供する対象物の種類や量などに応じて、適宜調整することが可能であるが、一般的には次の通りである。
【0081】
本発明の第1態様における解重合方法は、通常5分間〜10時間、好ましくは10分間〜1時間、特に好ましくは15〜45分間の範囲で行われる。
本発明の第2態様における解重合方法は、通常10秒間〜20分間、好ましくは30秒間〜10分間、特に好ましくは1分間〜5分間の範囲で行われる。
【0082】
本発明の第4態様における解重合方法(加水分解型)は、通常1分間〜60分間、好ましくは3分間〜30分間、特に好ましくは5分間〜15分間の範囲で行われる。
本発明の第5態様における解重合方法(エステル交換型)は、通常1〜12時間、好ましくは1〜6時間、特に好ましくは1〜3時間の範囲で行われる。
【0083】
< モノマーの回収方法 >
本発明の第1態様においてポリエステルを解重合した場合、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス-β-ヒドロキシアルキルエステルとが生成する。
【0084】
本発明の第2態様においてポリエステルを解重合した場合、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩とが生成し、また、第3態様においては、アルキレングリコールと、反応溶媒に用いたアルコール残基を有する飽和二塩基酸のエステル化合物とが生成する。
【0085】
本発明の第4態様において不飽和ポリエステルを解重合した場合、アルキレングリコールと、オリゴマー(不飽和ポリエステルの部分分解物)のジアルカリ金属塩が生成し、また、第5態様においては、アルキレングリコールと、反応溶媒に用いたアルコール残基を有する、上記オリゴマーのエステル化合物が生成する。
【0086】
本発明では、解重合反応の終了後、上述のような反応生成物を回収することができ、さらにエステル交換反応や中和反応を用いることにより、飽和二塩基酸またはオリゴマーを精製することができる。得られたアルキレングリコールや飽和二塩基酸、オリゴマーは、ポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料として再利用することができる。
【0087】
なお、反応生成物の回収の際には、解重合反応に供した成型品や廃棄物等に含有されていた不純物を除去することが望ましい。不純物を除去するための手段は特に制限されず、適切な手法、装置等を用いることができる。例えば、未反応のまま残されたポリエステル以外の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等)、粉末状酸化チタンや溶解しなかったアルカリ金属化合物等の解重合触媒といった固形分は、メッシュ等を用いて除去することができる。また、顔料、充填剤等はメッシュ等では除去できないため、遠心分離、活性炭等の吸着剤による濾過処理等により除去することが好ましい。このようにして分離された、不飽和ポリエステル廃棄物が含有していたガラス繊維等の充填剤は、ふたたびFRP用に再利用することができる。
【0088】
以下、本発明の第1〜第5態様により生成するアルキレングリコールの回収方法、ならびに本発明の第1,第3または第5態様により生成する飽和二塩基酸またはオリゴマーのエステル化合物からさらにエステル交換反応を利用して飽和二塩基酸またはオリゴマーを回収する方法、第2態様により生成する飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩からさらに中和反応を利用して飽和二塩基酸を回収する方法などについて、順次説明する。
【0089】
(アルキレングリコールの回収)
本発明の解重合反応の第1〜第5態様における反応溶媒として、ポリエステルまたは不飽和ポリエステルの構成成分であるアルキレングリコールとは異なるアルコール類を用いた場合、解重合により生成したアルキレングリコールと上記反応溶媒とは一旦混合するが、両者を分離することにより、解重合により生成したアルキレングリコールのみを回収することが可能である。
【0090】
解重合反応で生成したアルキレングリコールと反応溶媒とを分離する方法は、特に制限されず、対象とする化合物に応じて適切な方法を選択すればよいが、例えば、蒸留・濃縮法により行うことが好ましい。この蒸留・濃縮のための手段としては、従来の蒸留・濃縮装置、たとえば減圧連続式蒸留装置、減圧バッチ式蒸留装置などを用いることができる。
【0091】
一方、解重合反応で生成したアルキレングリコールと反応溶媒とが同一種である場合は、生成したアルキレングリコールを分離することなく、解重合工程における反応溶媒として循環させて使用することもできる。
【0092】
(エステル交換による飽和二塩基酸またはオリゴマーの回収)
本発明の第1,第3または第5態様によりポリエステルを解重合した場合、飽和二塩基酸またはオリゴマーのエステル化合物が生成するが、この生成物は解重合反応に用いたグリコールの種類により変化する。例えば、本発明の第1態様において、溶媒としてエチレングリコールを用いてポリエチレンテレフタレートを解重合した場合、モノマーとしてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)が得られ、溶媒としてプロピレングリコールを用いて解重合した場合、モノマーとして主にビス(β-ヒドロキシエチルイソプロピル)テレフタレート(BHEPT)が得られる。
【0093】
また、例えばベンジルアルコールおよびリン酸三カリウムを用いた本発明の第5態様により得られるオリゴマーのエステル化合物は、クロロホルム等への溶解性が極めて良好であるため、溶媒抽出が容易であり、効率的に回収することができる。その他、濾過や蒸留等の手段を用いて飽和二塩基酸またはオリゴマーのエステル化合物を回収してもよい。
【0094】
このようにして得られる飽和二塩基酸またはオリゴマーのエステル化合物(例:BHET)は、さらにメタノールとエステル交換反応させることにより、飽和二塩基酸またはオリゴマーのメチルエステル(例:DMT)として回収することができる。
【0095】
本発明において、解重合反応の生成物として上述のような飽和二塩基酸またはオリゴマーのエステル化合物が得られる点は、従来のグリコリシス法と共通であるため、以下のエステル交換反応については公知の手法を適宜用いることができる。
【0096】
エステル交換反応の概略を示せば、例えば、解重合反応濃縮液とメタノールとをエステル交換反応触媒(アルカリ金属化合物等)の存在下に、65〜85℃程度で0.5〜5時間程度かけてエステル交換反応させることにより、固形状のDMTがメタノールとアルキレングリコール等の混合液中に分散しているスラリーが得られる。さらに固液分離装置などによりDMTを含有するケークを分離し、蒸留精製を施すことにより、精製DMTを回収することができる。
【0097】
(中和反応による飽和二塩基酸の回収)
本発明の第2または第4態様によりポリエステルを解重合した場合、飽和二塩基酸またはオリゴマーのジアルカリ金属塩が生成するが、この生成物は解重合反応に用いたアルカリ金属の種類により変化する。例えば、ポリエチレンテレフタレートを、触媒として水酸化ナトリウムを用いて解重合した場合、エチレングリコールと共にテレフタル酸ナトリウムが生成する。
【0098】
このうち、飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩(例:テレフタル酸ナトリウム)は、反応溶媒であるアルコール類にわずかしか溶解しないで結晶を形成するため、濾過等の方法で容易に溶媒から分離することができる。また、得られた粉末状の粗結晶に付着しているアルコール類は、メタノールやエタノール等のアルコールで洗浄することにより除去することができる。
【0099】
続いて、上記飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩の結晶を水に溶解させた後、酸を混合して中和反応させることにより、飽和二塩基酸(例:テレフタル酸)が生成する。この飽和二塩基酸も水中に結晶として析出するので、遠心分離処理等の方法で水と分離することにより回収することができる。
【0100】
この回収工程の際に添加する水の重量は、飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩の重量の3〜10倍程度とすることが好ましい。一方、飽和二塩基酸を遊離するために供給する酸量は、飽和二塩基酸のジアルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属と等モル以上であることが好ましく、最も好ましい条件はpH2の強酸性である。上記酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、あるいはギ酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸を用いることができるが、なかでも無機酸、特に塩酸または硫酸が生成されるモノマー中の不純物を減少させることができるため好ましい。中和反応温度は、65〜85℃が好ましい。中和反応は、通常0.5〜5時間で完了する。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【0102】
マイクロ波照射のためのマイクロ波発信機としては、次の装置を用いた。
電子レンジ:東芝(株)製,ER−B2(WT),高周波出力500W
電子レンジ:三菱電機(株)製,RO−S5B,高周波出力200W/500W
μ−Reactor:四国計測工業株式会社製,マイクロ波周波数2.45GHz,マイクロ波出力0−700W
また、PETの解重合(エステル交換型)では、下記表に示した2種類の酸化チタンを使用した。
【0103】
【表1】

1.PETの解重合(エステル交換型)およびモノマーの回収
[実施例1−1]
100mL平底フラスコにポリエチレンテレフタレート(PET)0.965g(5mmol)、エチレングリコール(EG)6.21g(100mmol)及び酸化チタン0.0406g(5mmol)を入れた。容器は開放したまま、電子レンジに入れ、30分間マイクロ波を照射した。放冷後、アセトン40mlを用いて、未反応のPETと酸化チタンをろ別した。次に、減圧下でアセトンを留去した。更に未反応のEGを、クーゲルロール蒸留装置を用いて減圧留去し、3.09g(54℃/3.5mmHg〜138℃/2.2mmHg)を得た。結果を表2に示す。残渣としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を白色固体として1.23g得た。収率は96%であった。また、未反応のPETは全く回収されなかったので、反応率は99%以上である。
【0104】
[実施例1−2]
実施例1において、反応容器を100mL平底フラスコから50mLビーカーに変更した以外は実施例1−1と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0105】
[実施例1−3]
実施例1−1において、酸化チタンの配合量を0.0406g(5mmol)から0.0081g(1 mmol)に、反応時間を30分から60分に変更した以外は実施例1−1と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0106】
[実施例1−4]
実施例1−3において、反応時間を60分から90分に変更した以外は実施例1−3と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0107】
[実施例1−5]
実施例1−1において、酸化チタンの配合量を0.0406g(5mmol)から0.004g(0.5mmol)に変更した以外は実施例1−1と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0108】
[実施例1−6]
実施例1−5において、反応時間を30分から90分に変更した以外は実施例1−5と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0109】
[実施例1−7]
三口フラスコにPET1.00g、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DGMM)19.0g、K3PO4・nH2O1.00gを量りとった。μ−Reactorを用いてマイクロ波を20分間照射した。反応後、アセトン50mLを加え、超音波を当てて生成物を溶解させ、吸引濾過をした。濾液を濃縮してクーゲルロール蒸留をしてBMEETを得た。結果を表2に示す。
【0110】
[実施例1−8]
実施例1−7において、溶媒をDGMMからエチレングリコールに変更し、反応時間を20分間から80分間に変更した以外は実施例1−7とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0111】
[比較例1−1]
100mLナス型フラスコにPET0.97g、EG9.36g、酸化チタン0.0400gを入れた。攪拌しながらオイルバス180℃で加熱還流を2時間行った。放冷後、アセトン40mlを用いて、未反応のPETと酸化チタンをろ別した。このとき未反応のPETを0.97g回収した。減圧下でアセトンを留去した。未反応のEGをクーゲルロール蒸留装置を用いて減圧留去し、9.34g(95℃/15mmHg〜157℃/18mmHg)を得た。残渣として白い固体を微量得たが、IR測定の結果、BHETの吸収は全く認められなかった。反応は全く進行しなかった。
【0112】
[比較例1−2]
50mLビーカーにPET0.97g、EG9.32g、酸化チタン0.0412gを入れた。加熱用マグネチックスターラーを用いて攪拌しながら40分間150℃で加熱した。放冷後、アセトン40mlを用いて、未反応のPETと酸化チタンをろ別した。このとき未反応のPETを0.962g回収した。減圧下でアセトンを留去した。未反応のEGをクーゲルロール蒸留装置を用いて減圧留去し、0.44g(67℃/2.2mmHg〜142℃/2.2mmHg)を得た。ほとんど系外へ蒸発した。残渣として白い固体を微量得たが、IR測定の結果、BHETの吸収は全く認められなかった。反応は全く進行しなかった。
【0113】
[参考例1−1]
実施例2において、酸化チタンをチタンAからチタンBに変更した以外は実施例2と同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

2.PETの解重合(加水分解型)およびモノマーの回収
[実施例2−1]
200ml平底丸型フラスコに、反応溶媒として6.37gのエチレングリコール(EG)と、触媒として水酸化ナトリウム(NaOH)0.500gを入れ、超音波を1時間照射して均一溶液にした。次に、0.961gのポリエチレンテレフタレート(PET)片(約3mm×3mm)をこの溶液に浸漬し、フラスコを電子レンジにセットしてマイクロ波を2.0分間照射した。
【0115】
冷却後、アセトン50ml、クロロホルム50 ml、水100mlでそれぞれ可溶物を抽出した。残留物は全く回収されなかった。アセトン及びクロロホルム可溶物はほとんど存在しなかった。水溶液に塩酸を加えてpH2にすると溶液は白濁してテレフタル酸が遊離してきた。ろ過後乾燥して重量を量ったところ0.828g(5mmol, 収率100%)であった。IR測定の結果、乾燥物はテレフタル酸であることが確認された。上記解重合反応において、グリコリシス反応は全く生じず(BHET等は生成しない)、水酸化ナトリウムによる加水分解のみが進行した。
【0116】
[実施例2−2]
実施例2−1において、反応時間を1.0分間に変更した以外は実施例2−1とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0117】
[実施例2−3]
実施例2−1において、反応時間を1.5分間に変更した以外は実施例2−1とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0118】
[実施例2−4]
実施例2−3において、反応溶媒を6.37gのエチレングリコールから10.6gのジエチレングリコールに変更した以外は実施例2−3とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0119】
[実施例2−5]
実施例2−3において、反応溶媒を6.37gのエチレングリコールから10.5gのトリエチレングリコールに変更した以外は実施例2−3とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0120】
[実施例2−6]
実施例2−3において、反応溶媒を6.37gのエチレングリコールから9.99gのポリエチレングリコール(n=300)に変更した以外は実施例3とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0121】
[実施例2−7]
実施例2−6において、反応時間を1.5分間から4.0分間に変更した以外は実施例2−6とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0122】
[実施例2−8]
実施例2−3において、反応溶媒を6.37gのエチレングリコールから9.22gのグリセリンに変更した以外は実施例2−3とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0123】
[実施例2−9]
実施例2−8において、反応時間を1.5分間から2.0分間に変更した以外は実施例2−8とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0124】
[実施例2−10]
実施例2−9において、反応触媒を0.650g(11.6mmol)のKOHに変更した以外は実施例2−8とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0125】
[実施例2−11]
実施例2−9において、反応触媒を0.913g(10.8mmol)のNaHCO3に変更した以外は実施例2−8とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0126】
[実施例2−12]
実施例2−9において、反応触媒を0.603g(5.65mmol)のNa2CO3に変更した以外は実施例2−8とほとんど同様にPETの解重合およびモノマーの回収を行った。結果を表3に示す。
【0127】
[比較例2−1]
200mlナス型フラスコにPET0.962g、グリセリン9.23g、水酸化ナトリウム0.572gを入れた。攪拌しながらオイルバス180℃で加熱還流を2分間行った。放冷後、水100mlを用いて、未反応のPETをろ別した。このとき未反応のPETを0.962g回収した。減圧下で水を留去して、未反応の水酸化ナトリウムを含むグリセリンを9.80g回収した。
【0128】
この加熱還流を行った比較例2−1と、反応触媒、反応溶媒および反応時間が同一でマイクロ波を照射した実施例2−9との対比から、本発明におけるマイクロ波照射は、単なる加熱のための手段ではなく、異なる作用により解重合反応を促進しているものと考察される。
【0129】
[比較例2−2]
200ml平底丸型フラスコに、反応溶媒として9.23gのグリセリンを入れ、0.963gのポリエチレンテレフタレート(PET)片(約3mm×3mm)をこの溶媒に浸漬し、フラスコを電子レンジにセットしてマイクロ波を5.0分間照射した。冷却後、水100mlを加えて、未反応のPETをろ別した。このとき未反応のPETを0.963g 回収した。水溶液に塩酸を加えてpH2にしても何も回収できなかった。
【0130】
【表3】

3.FRPの解重合(加水分解型)および反応生成物の回収
[実施例3−1]
200ml容平底丸型フラスコに6.63gのエチレングリコール(EG)と水酸化ナトリウム(NaOH)0.561g入れ、超音波を1時間照射して均一溶液にした。0.505gのFRP片(約5mm×5mm×5mm)を入れ、フラスコを電子レンジにセットしてマイクロ波を2分間照射した。
【0131】
冷却後、アセトン50ml及びクロロホルム50mlで分解油状物を溶解した。残留したガラス繊維を水100mlで洗浄後乾燥して0.338gを回収した。分解油状物とエチレングリコールを含むアセトン−クロロホルム溶液に塩酸を加えてpH2にして分液抽出した。水相をクロロホルムで50mlさらに抽出して有機相を集めアセトン−クロロホルムを減圧下で留去した。6.828gの褐色油状物を得た。ガスクロマトグラフ分析よりエチレングリコールと一緒に分解物が回収されたことが分かったので、エチレングリコールを減圧下で留去した。6.558gのエチレングリコールと0.251gの褐色油状物を得た。褐色油状物のIR測定の結果、有機酸由来のカルボニル炭素が確認されたことより、得られた褐色油状物はFRPの架橋ポリエステル由来であることが分かった。
【0132】
[実施例3−2]
実施例3−1において、反応溶媒としてエチレングリコールの代わりにプロピレングリコールを用いた以外は実施例3−1と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0133】
[実施例3−3]
実施例3−1において、反応溶媒としてエチレングリコールの代わりに1.6倍量のジエチレングリコールを用い、反応時間を3.5分間とした以外は実施例3−1と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0134】
[実施例3−4]
実施例3−1において、反応溶媒としてエチレングリコールの代わりに1.5倍量のポリエチレングリコールを用い、反応時間を10分間とした以外は実施例3−1と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0135】
[実施例3−5]
実施例3−1において、解重合触媒としてNaOHの代わりにKOHを用い、反応時間を5分間とする以外は実施例3−1と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0136】
[実施例3−6]
実施例3−1において、反応溶媒としてエチレングリコールの代わりに1.4倍量のグリセリンを用いる以外は実施例3−1と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0137】
[実施例3−7]
実施例3−6において、解重合触媒としてNaOHの代わりにKOHを用いる以外は実施例3−6と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0138】
[実施例3−8]
実施例3−6において、解重合触媒としてNaOHの代わりにLiOHを用いる以外は実施例3−6と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0139】
[実施例3−9]
実施例3−6において、解重合触媒としてNaOHの代わりにK3PO4を用い、反応時間を11分間に変更した以外は、実施例3−6と同様にしてFRPの解重合反応を行なった。結果を表4に示す。
【0140】
[実施例3−10]
100ml平底丸型フラスコにFRP0.53g、ベンジルアルコール10g、およびリン酸三カルシウム水和物1.1gを入れ、電子レンジを用いて2時間マイクロ波を照射した。
【0141】
冷却後、クロロホルム50mlを入れ、濾過操作により溶解物と不溶物により分けた。不溶物はガラス繊維であり、反応による溶融や分解は全く見られなかった。含有重量よりほぼ100%回収された。一方、クロロホルム溶解物から溶媒類を減圧下で濃縮、蒸留し、固体有機物0.41gを回収した。この中にはフィラーも含まれている。フィラーは微粒子に変化して、上記濾過操作では分離できなかった。回収した固体有機物についてのIRおよびNMR測定により、この固体有機物にはベンジルエステル構造が存在することが分かった。
【0142】
[比較例3−1]
100mlナス型フラスコにFRP0.513g、グリセリン9.23g、水酸化ナトリウム0.580gを入れた。攪拌しながらホットマグネットスターラーを用いて200℃、20分間反応した。放冷後、処理を実施例3−1の操作にしたがって行った。反応率は70%であった。
【0143】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵩密度が0.3g/cm3以下の酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物にマイクロ波を照射することを特徴とする、ポリエステルの解重合方法。
【請求項2】
前記酸化チタンがアナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの解重合方法。
【請求項3】
前記アルキレングリコールがエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールであることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの解重合方法。
【請求項4】
前記ポリエステルを含有する成型品または廃棄物が、ポリエチレンテレフタレートを含有する成型品または廃棄物であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエステルの解重合方法。
【請求項5】
嵩密度が0.3g/cm3以下の酸化チタン微粉末が分散したアルキレングリコールに、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物を浸漬させる工程、および
請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルの解重合方法を用いて、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス−β−ヒドロキシアルキルエステルとを生成させる工程
を含むことを特徴とする、ポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料の回収方法。
【請求項6】
さらに、飽和二塩基酸のビス−β−ヒドロキシアルキルエステルとメタノールとのエステル交換反応により、飽和二塩基酸のジメチルエステルを生成させる工程を含むことを特徴とする、請求項5に記載のポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料の回収方法。
【請求項7】
解重合反応で生成したアルキレングリコールを、解重合反応の分散媒として再使用することを特徴とする、請求項5に記載のポリエステル、不飽和ポリエステルまたはポリウレタンの原料の回収方法。

【公開番号】特開2010−174249(P2010−174249A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58897(P2010−58897)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【分割の表示】特願2007−549032(P2007−549032)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】