説明

ポリエステル樹脂の製造方法、それにより得られた接着剤用ポリエステル樹脂、接着剤並びに積層体

【課題】 耐熱性、耐湿熱性、透明性に優れた接着剤用ポリエステル樹脂及びそれを製造する方法を提供する。
【解決手段】
ジカルボン酸とグリコールからエステル化反応、重縮合反応の工程を経てポリエステル樹脂を製造する方法において、グリコール成分として分子量が1500以上で、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上であるポリアルキレンエーテルグリコールを、得られるポリエステル樹脂中の全グリコール成分に対して1〜10モル%となるように添加し、グリコール成分がジカルボン酸成分に対してモル比で1.8倍以上となるようにしてエステル化反応又はエステル交換反応を行う方法、およびそれにより得られる接着剤用ポリエステル樹脂、接着剤並びに積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、耐湿熱性、透明性が良好で接着剤に好適なポリエステル樹脂の製造方法及びそのポリエステル樹脂に関するものである。更に詳しくは、耐湿熱性が要求される自動車関連の配線材用接着剤として有用であり、接着性、透明性が良好な接着剤用ポリエステル樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂は、その優れた機械的強度、熱安定性、疎水性、耐薬品性を生かし、繊維、フィルム、成形材料等として各種分野で広く利用されている。
【0003】
また、その構成成分であるジカルボン酸及びグリコールの種類を変更することにより種々の特徴を有する共重合ポリエステル樹脂を得ることが可能であり、接着剤、コーティング剤、インキバインダー、塗料等に広く使用されている。このような共重合ポリエステル樹脂は一般的にポリエステル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル樹脂等のプラスチック類、あるいはアルミニウム、銅等の金属箔に優れた接着性を有している。
【0004】
これらの特性を利用して、2枚のポリエステルフィルムの中間に線状の金属導体を被覆した構造のフラットケーブルなどの接着剤用途でも、共重合ポリエステル樹脂が好適に使用されている。そして、このようなフラットケーブルは近年の高密度化されたAV機器やコンピュータ機器の配線あるいは自動車用の配線材として広く利用されるようになり、その需要は急速に伸びている。
【0005】
しかしながら、ポリエステル樹脂を適当な溶剤に溶解したワニスをポリエステルフィルムに塗布し、金属ケーブルと接着することにより形成したフラットケーブルは、ポリ塩化ビニルのものと比較して金属ケーブルとの接着強度は強いが、溶剤可溶のポリエステル樹脂では耐熱性が劣り、60℃以上の温度では、溶融してフラットケーブルの屈曲部でデラミネーションを起こすという問題があった。
【0006】
このような状況から、接着層としてポリオールとイソシアネートよりなる2液反応型の接着剤を使用することにより、接着層の耐熱性を高める方法が提案されている (例えば特許文献1参照) 。
【0007】
しかし、この方法では主剤となるポリオール自体の耐熱性、耐湿熱性が十分でないため、自動車用途など更に厳しい耐熱性が要求される用途に対しては、まだ不十分なものであった。
【0008】
また、耐熱性、耐湿熱性を向上させるために、ポリアルキレンエーテルグリコールをポリエステル樹脂に共重合することが一般的に行われている。しかし、耐熱性、耐湿熱性を更に向上させるためにポリアルキレンエーテルグリコールの分子量が大きいものを使用すると、ポリエステル樹脂との相溶性が低いため、ポリアルキレンエーテルグリコールとポリエステルとの共重合反応が十分に進行せず、得られる共重合体樹脂は濁ったものとなり、透明性が要求される用途に対しては、適用できないという問題があった。
【特許文献1】特開平9−201913号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリエステル接着剤が有する上記の種々の問題点を解消し、特に透明性、耐湿熱性、接着性に優れたポリエステル樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記問題を解決するために種々検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)ジカルボン酸とグリコールからエステル化反応、重縮合反応の工程を経てポリエステル樹脂を製造する方法において、グリコール成分として分子量が1500以上で、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上であるポリアルキレンエーテルグリコールを、得られるポリエステル樹脂中の全グリコール成分に対して1〜10モル%となるように添加し、グリコール成分がジカルボン酸成分に対してモル比で1.8倍以上となるようにしてエステル化反応又はエステル交換反応を行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
(2)(1)に記載の製造方法で得られたポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸50〜100モル%であり、グリコール成分が分子量が1500以上で、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上であるポリアルキレンエーテルグリコール1〜10モル%、炭素数3以上のアルキレングリコール30〜99モル%であり、かつ、トルエンとメチルエチルケトンの8/2(質量比)混合溶媒中に30質量%で溶解したときの溶液ヘーズが5%以下、極限粘度が0.60以上であることを特徴とする接着剤用ポリエステル樹脂。
(3)(2)のポリエステル樹脂を含有することを特徴とする接着剤。
(4)(A)ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートシートの層、(B)(3)記載の接着剤の層、(C)金属体で構成されていることを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた透明性、耐熱性、耐湿熱性を有し、金属板及びポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又はPETシートに対して良好な接着性を有するポリエステル接着剤を製造することができる。従って、本発明のポリエステル樹脂は、電気、電子分野、機械分野、食品分野、建築分野、自動車分野の接着剤、具体的には、電線被覆剤、フラットケーブル等の電気部品、PCM塗料、建材、食品や医薬品等の包装材の接着剤用樹脂として特に好適に利用することができる。更に、優れた透明性を有しているため、透明性が必要とされる用途に対しても好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において使用されるポリアルキレンエーテルグリコールは、分子量が1500以上で、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上である必要があり、分子量が2000〜5000のものがポリエステル樹脂との相溶性、反応性の点で特に好ましい。分子量が1500に満たない場合には、得られるポリエステル樹脂中のエステル基濃度が高いため、耐加水分解性が不十分となり好ましくない。また、炭素数が3に満たないポリアルキレンエーテルグリコールを用いた場合は、得られるポリエステル樹脂の親水性が高くなるため、耐湿熱性の改良効果を付与することができないため好ましくない。
【0014】
なお、ポリアルキレンエーテルグリコールの分子量が1500未満の場合には、ポリアルキレンエーテルグリコールとポリエステル樹脂との相溶性は悪くはないため、公知の方法で製造しても透明性が良好なポリエステル樹脂を得ることが可能である。
【0015】
ポリアルキレンエーテルグリコールの添加量は、ポリエステル樹脂を形成する全グリコール成分に対して1〜10モル%とすることが必要であり、好ましくは2〜8モル%である。ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合量が1モル%に満たない場合には、ポリエステル樹脂中のエステル基濃度が高くなり、耐湿熱性の改良効果が乏しくなるとともに接着性が低下するため好ましくない。また、ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合量が10モル%を越える場合には、ガラス転移温度が低くなりすぎるため、高温下での接着強力が低下して好ましくない。
【0016】
このようなポリアルキレンエーテルグリコールとしては、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリペンタメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、中でも好ましくは、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールであり、特に好ましくはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。更にポリプロピレングリコールの場合、重縮合反応の反応性の点で、末端水酸基の一級化率が50%以上のものが好ましい。
【0017】
このようなポリアルキレンエーテルグリコールをポリエステル樹脂中に共重合する場合、従来はポリアルキレンエーテルグリコールをエステル化反応工程又はエステル交換反応工程から重縮合反応工程までの任意の段階で添加する方法が採用されており、ポリアルキレンエーテルグリコールをポリエステル樹脂の分子鎖中に積極的に導入する試みはほとんどなされていない。その結果、本来ポリエステル樹脂との相溶性が十分でないポリアルキレンエーテルグリコールは、余剰のアルキレングリコールが存在する重縮合反応の初期までは、ポリエステル樹脂中に溶解しているが、重縮合反応の中期以降はポリエステル樹脂の分子鎖中に導入されなかったポリアルキレンエーテルグリコールが溶解できなくなり、得られるポリエステル樹脂には濁りが生じていた。このため、得られるポリエステル樹脂を溶剤に溶解し接着剤とした場合にも接着層が均一に形成され難く、接着強力の低下を招いていた。
【0018】
本発明は、ポリアルキレンエーテルグリコールとポリエステル樹脂との反応性、相溶性について鋭意検討した結果、エステル化反応工程又はエステル交換反応工程におけるジカルボン酸成分とグリコール成分の添加比率を適切に調整することにより、良好な透明性を有するポリエステル樹脂が得られることを見いだした。
【0019】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては、ジカルボン酸成分に対するグリコール成分のモル比を1.8倍以上となるようにしてエステル化反応又はエステル交換反応を行うことを要件とするものである。モル比を1.8倍以上とすることにより、本発明の目的を達成することができるが、生産性やコストの面から、モル比を5倍未満とすることが好ましい。このように反応系内にグリコール成分を過剰に添加することにより、エステル化反応時に生成するポリエステルオリゴマーに対するポリアルキレンエーテルグリコールの相溶性が向上し、ポリアルキレンエーテルグリコールがポリエステル樹脂の分子鎖中に組み込まれ易くなる。
【0020】
また、ポリアルキレンエーテルグリコールとジカルボン酸成分及びポリエステル樹脂との反応性を向上させるために、エステル化反応触媒及び/又は、エステル交換反応触媒を添加することが好ましい。これらの触媒の添加量は得られるポリエステル樹脂のジカルボン酸成分1モルに対して1×10−5〜1×10−3モルが好ましく、更に好ましくは5×10−5〜5×10−4モルである。
【0021】
このようなエステル化反応触媒及びエステル交換反応触媒としては、従来公知の金属化合物を用いることができる。具体的には、チタン、スズ、マンガン、コバルト、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の有機酸塩、酸化物、アルコキシド、アルキル化合物等が挙げられ、好ましくはチタン化合物、スズ化合物である。
【0022】
更に、本発明のポリエステル樹脂の製造方法におけるエステル化反応又はエステル交換反応の反応条件としては、反応温度150〜260℃、圧力0〜0.5MPa、反応時間10分〜12時間であることが好ましい。
【0023】
また、重縮合反応は従来公知のポリエステル樹脂の製造方法によって実施することができるが、前記のエステル化反応又はエステル交換反応後、重縮合触媒を添加し5hPa以下の減圧下、200〜280℃、好ましくは230〜260℃の温度で重縮合反応を行うことが好ましい。
【0024】
上記のポリエステル樹脂を製造する際に使用する触媒としては、従来公知の金属化合物を用いることができる。具体的には、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、アルミニウム、コバルト等の有機酸塩、酸化物、アルコキシド、アルキル化合物等が挙げられ、好ましくはチタン化合物、スズ化合物である。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、例えば次のように実施することができる。テレフタル酸等のジカルボン酸及び/又はそのエステルとポリアルキレンエーテルグリコール及びアルキレングリコール等のグリコールをグリコール成分がジカルボン酸成分の2倍モルとなるようにエステル化反応槽に供給し、250℃の温度で0.3MPaの加圧化で3時間、その後放圧し常圧にて1時間エステル化反応を行う。次いで、得られたエステル化物を重合缶に移送し、重縮合触媒を添加し、徐々に系内を減圧し最終的に1.3hPa以下の減圧下、250℃の温度で所望の極限粘度のポリエステル樹脂が得られるまで溶融重縮合反応する。
【0026】
なお、ポリエステル樹脂を製造する際には、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、リン酸等の安定剤や、ヒンダードフェノール化合物、硫黄化合物、ホスファイト化合物、ヒンダードアミン化合物のような酸化防止剤、二酸化チタン等の艶消し剤等を、本発明の特性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法を用いることで、優れた透明性、耐湿熱性を有するポリエステル樹脂が得られるのである。
【0028】
次に、本発明のポリエステル樹脂について説明する。本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸成分、グリコール成分として特定のポリアルキレンエーテルグリコール、アルキレングリコールを含有するものである。
【0029】
ジカルボン酸成分としては、耐熱性の点から芳香族ジカルボン酸がポリエステル樹脂を構成する全酸成分に対して50〜100モル%共重合されていることが必要であり、好ましくは70〜100モル%である。芳香族ジカルボン酸の共重合量が50モル%に満たない場合には、ポリエステル樹脂のガラス転移温度と軟化温度が低下するため、高温雰囲気下の接着強力が低下するため好ましくない。
【0030】
このようなジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸及びその無水物等が挙げられ、好ましくはテレフタル酸とイソフタル酸である。
【0031】
また、本発明のポリエステル樹脂には、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコールとアルキレングリコールを共重合する必要がある。これらのグリコール成分の割合を適切に選択することで、軟化温度を所望とする温度に制御することができる。更に軟化温度を高く保持しながらガラス転移温度を下げることができるため耐熱性を向上させることができる。
【0032】
また、本発明のポリエステル樹脂には、炭素数3以上のアルキレングリコールがポリエステル樹脂を形成する全グリコール成分に対して30〜99モル%共重合されていることが必要であり、好ましくは50〜98モル%である。
【0033】
炭素数3以上のアルキレングリコールの共重合量が30モル%に満たない場合には、ポリエステル樹脂の疎水性が低くなるためポリエステル樹脂の耐湿熱性が低下する。また、共重合量が30モル%に満たない場合には、有機溶剤への溶解性が低下するため、溶剤型の接着剤とすることが困難となるため好ましくない。また、炭素数3以上のアルキレングリコールの共重合量が99モル%を超える場合には、ポリアルキレンエーテルグリコールの共重合量が低すぎるため、ポリエステル樹脂中のエステル基濃度が高くなり、耐湿熱性の改良効果が乏しくなるため好ましくない。
【0034】
このような炭素数3以上のアルキレングリコールとは、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5− ペンタンジオール等を挙げることができる。
【0035】
また、本発明の特性を損ねない範囲で、必要に応じて以下のような酸成分、グリコール成分を共重合してもよい。酸成分としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物等の多価カルボン酸、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン等の脂肪族ラクトン、4−オキシ安息香酸、4−(ヒドロキシエトキシ)安息香酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。これら酸成分はアルキルエステル、酸塩化物等の誘導体を用いてもよく、単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール等の脂環族ジオール、キシリレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。これらグリコール成分は、単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、有機リン化合物などの反応性難燃剤を共重合してもよい。
【0037】
また、本発明のポリエステル樹脂は、極限粘度が0.60以上であることが必要である。極限粘度が0.60に満たない場合には、接着力が低くなるため好ましくない。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が−30〜40℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0〜35℃である。ガラス転移温度が−30℃に満たない場合には、接着剤としての性能、特に高温領域(50〜160℃)での接着強力が低下し好ましくない。一方、ガラス転移温度が40℃を越える場合には、接着剤を塗布したフィルムを熱ラミネートする場合に、軟化し難いためラインスピードを上げられない等、生産性が低下するだけでなく、低温領域(20℃以下)で十分な接着強力が得られない。更には、溶剤への溶解性も低下するため好ましくない。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂は、軟化温度が60〜120℃の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは70〜100℃である。軟化温度が60℃に満たない場合には、接着剤としての性能、特に高温領域(50〜120℃)での接着強力が低下し好ましくない。また、接着剤を塗布したフィルムがブロッキングしやすく、ブロッキング防止剤などを添加しても改良することが実質的にできなくなり好ましくない。一方、軟化温度が120℃を越える場合には、低温での接着強力が低下するとともに、接着剤を塗布したフィルムを熱ラミネートする場合に、軟化し難いためラインスピードを上げられない等生産性が低下するだけでなく、軟化温度以上の温度に加熱する必要があるため、基材のPETフィルムが収縮し寸法安定性が悪くなる、あるいは反りが発生するなどの問題があり好ましくない。
【0040】
また、本発明のポリエステル樹脂は、トルエンとメチルエチルケトンの8/2(質量比)混合溶媒中に30質量%で溶解したときの溶液ヘーズが5%以下であることが必要である。溶液ヘーズが5%を越える場合には、ポリアルキレンエーテルグリコールがポリエステル樹脂の分子鎖中に十分に組み込まれていないため、接着剤とした際に、その溶液が相分離したり、接着性が低下するため好ましくない。
【0041】
次に、本発明の接着剤について説明する。本発明の接着剤は上記ポリエステル樹脂を含有したものである。本発明の接着剤は、単独で使用することもできるが、必要に応じてイソシアネート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の硬化剤と併用して使用することもできる。特に好ましくはイソシアネート樹脂である。このような硬化剤を併用することで、接着剤の耐熱性、耐湿熱性を更に高めることができる。
【0042】
また、難燃性を付与するために以下のような難燃剤を添加してもよい。例えばハロゲン化フェニル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ハロゲン化芳香族ビスイミド化合物、ハロゲン化芳香族エポキシ化合物、ビスフェノールAの低分子量有機ハロゲン化合物、ハロゲン化ポリカーボネート、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化ベンジルアクリレート化合物等のハロゲン含有有機難燃剤、ここでハロゲンは一般にブロムであることが好ましい。更には、トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)フォスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニル)フォスフェート、有機フォスフィンオキサイド、赤燐等のリン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、フォスファゼン、シクロフォスファゼン、トリアジン、メラミンシアヌレート、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、シアヌル酸トリアジニル塩、メラム、メレム、硫酸グアニルメラミン、硫酸メラム、硫酸メレム等の窒素系難燃剤、芳香族スルホンイミド金属塩などの金属塩系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ等の水和物金属系難燃剤、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ソーダ等のアンチモン系難燃助剤、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ビスマス、酸化スズ、酸化タングステン、硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫化亜鉛等の無機系難燃剤、硫化亜鉛等の金属硫化物、ポリアルキルシリコーン、ポリアリールシリコーン、シリコーンパウダー等のケイ素系難燃剤である。
【0043】
さらに、本発明の接着剤には必要に応じて、リン酸等の熱安定剤、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、チオエーテル化合物のような酸化防止剤、タルクやシリカ等の滑剤、酸化チタン等の顔料、充填剤、帯電防止剤、発泡剤等の従来公知の添加剤を含有させても差し支えない。
【0044】
また、本発明の接着剤は、有機溶剤に溶解した溶液であることが好ましい。このような有機溶剤としては、本発明のポリエステル樹脂を溶解させるものなら特に限定されるものではないが、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系の溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系の溶剤、酢酸エチル、イソホロン、γ−ブチロラクトン等のエステル系の溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系の溶剤、ジエチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系の溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系の溶剤、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素系の溶剤、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系の溶剤等が挙げられる。これらは単独で用いることもできるが、複数種混合して使用することもできる。
【0045】
有機溶剤に溶解させる場合の濃度としては、20質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは25〜50質量%である。20質量%未満では、接着剤を塗布後に除去すべき有機溶剤が多いため、生産性が低下するため好ましくない。
【0046】
このようにして得られた接着剤は、PETフィルム又はPETシートの層、本発明の接着剤からなる層及び金属体の層の順序で構成された積層体として、電気、電子分野、機械分野、食品分野、建築分野、自動車分野で用いられ、特に耐熱性、安定性が要求される自動車用途に好適に用いられる。
【0047】
次に、本発明の積層体及びその製造方法について説明する。ここで、PETフィルムとは、JIS Z-0108に記載されているように厚み 0.25mm以下のものをいい、PETシートとは、厚み0.25mmを超えるものであり、その表面にコロナ処理を施したり、あるいは、易接着樹脂層を設ける等の易接着処理を施しても差し支えない。
【0048】
また、金属体としては、特に限定されないが、銅、鉄、アルミニウム、ブリキ等の線材及び金属板が好ましく、汎用に使用されている種々の金属体でもよい。また、これらのスズ、亜鉛などのメッキ品、あるいはリン酸亜鉛、クロメートなどの化成処理品であってもよい。
【0049】
本発明の積層体における接着剤の層の形成方法は、如何なる方法で行ってもよいが、有機溶剤の溶液とした上記の接着剤を、PETフィルム又はPETシートの層上に塗布し、次いで溶媒を除去することで、接着層を形成することができる。また、金属体の層に接着剤を塗布し、溶媒を除去することにより接着層を形成することもできる。
【0050】
次に、PETフィルム又はPETシートの接着剤層の上に金属体を所定の間隔で配置し、更にその上に接着層同士が接触するように接着剤を塗布したPETフィルム又はPETシートを重ね合わせヒートシール、ロール接着、加熱圧着等従来公知の方法によって接着させ積層体とする。
【0051】
この際、接着剤の層(B)を介して被着体同士を接着する際の被着体の予熱温度は、100〜220℃の範囲とすることが好ましく、150℃〜200℃の範囲とすることがより好ましい。予熱温度が100℃未満である場合には、圧力をいくら上昇させても接着強力が大きいものが得られない。一方、予熱温度が 220℃を超える場合には、被着体であるPETフィルム又はPETシートの層が変形したり、しわ等が発生するので好ましくない。また、接着する際の圧力は 20kPa以上とすることが好ましく、50〜300kPaとすることがより好ましい。接着時の圧力が20kPa未満では、予熱温度を高くし、かつ圧着時間を長くしても接着強力が大きいものが得られない。さらに、接着時の圧着時間は 0.2〜5秒であることが好ましい。圧着時間が0.2秒未満では、予熱温度を上昇させても接着強力が大きいものが得られない。一方、圧着時間が5秒を超えると、得られる積層体の接着強力には問題がないが、生産性に劣るので好ましくない。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂は、PETフィルム又はPETシートと金属材料に特に良好な接着性を有するが、被着体に用いられる材料はこれに限定されず、種々のプラスチックに対する接着剤としても使用することができる。具体的には、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂等に対する接着剤として好適に用いられる。また、被着体の形状は、フィルム状、シート状、板状には限定されず、繊維状、円筒状、その他のいかなる形状になっていても構わない。
【実施例】
【0053】
次に、実施例をあげて本発明を記述する。
(1)極限粘度[η]
ポリエステル樹脂をフェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、20℃で測定した溶液粘度から求めた値である。
(2)ポリエステル樹脂の組成
日本電子工業社製1H-NMRスペクトロメータJNM-LA400型を用いて行った。
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)
セイコー電子工業社製の示差走査熱量計SSC5200型を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
(4)ポリエステル樹脂の軟化温度(Ts)
柳本製作所社製の自動軟化点測定装置AMP-2型を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
(5)ポリエステル樹脂の溶液ヘーズ(Hz)
ポリエステル樹脂を、トルエンとメチルエチルケトンの8/2(質量比)混合溶媒中に濃度30質量%で、40℃にて溶解させ、日本電色工業社製の濁度計Σ-80型を用いて測定し、5%以下を合格とした。
(6)耐熱性
ポリエステル樹脂を150℃の乾燥機中に入れ168時間処理し、その前後の極限粘度を上記の方法で測定した。次いで、この結果を基に、熱処理前後での極限粘度の保持率を次式により求めた。
[η]保持率=(熱処理後の[η]/熱処理前の[η])×100 (%)
極限粘度の保持率が95%以上を合格とした。
(7)耐湿熱性
ポリエステル樹脂を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に入れ168時間処理し、その前後の極限粘度を上記の方法で測定した。次いで、この結果を基に、湿熱処理前後での極限粘度の保持率を次式により求めた。
[η]保持率=(湿熱処理後の[η]/湿熱処理前の[η])×100 (%)
極限粘度の保持率が95%以上を合格とした。
(8)積層体の接着強力
オリエンテック社製テンシロンRTC-1210型を用いて20、60℃の雰囲気下、積層体を85℃-95%RHの恒温恒湿槽中に入れ128時間処理した後20℃の雰囲気下で、引張速度50mm/分でサンプル幅10mmの積層体の接着強力をそれぞれ測定した。接着強力が10N/cm以上を合格とした。
【0054】
実施例1
テレフタル酸14.8kg(89.1モル部)、イソフタル酸14.8kg(89.1モル部)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2000)10.7kg(5.4モル部)、エチレングリコール14.6kg(235.1モル部)、ネオペンチルグリコール19.4kg(170.0モル部)をエステル化反応槽に仕込み(ジカルボン酸成分に対するグリコール成分の比率は2.3倍)、圧力0.1MPaG、温度240℃で4時間エステル化反応を行った。
【0055】
得られたエステル化物を重縮合反応槽に移送した後、重縮合触媒としてテトラブチルチタネート30g(ポリエステル樹脂を構成する酸成分1モルに対して5×10−4モル)を添加した。次いで、60分間で反応系内を最終的に0.4hPaとなるまで徐々に減圧し、250℃で5時間重縮合反応を行いポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の組成はテレフタル酸成分50モル%、イソフタル酸成分50モル%、ポリテトラメチレンエーテルグリコール3モル%、エチレングリコール40モル%、ネオペンチルグリコール57モル%で、極限粘度0.90、ガラス転移温度12℃、軟化温度89℃、溶液ヘーズが1.2%であった。表1に得られたポリエステル樹脂の特性値を示す。
【0056】
比較例1
アルキレングリコールの仕込量をエチレングリコール6.8kg(109.5モル部)、ネオペンチルグリコール13.4kg(117.4モル部)とし、ジカルボン酸成分に対するグリコール成分の比率を1.3倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂の組成はテレフタル酸成分50モル%、イソフタル酸成分50モル%、ポリテトラメチレンエーテルグリコール3モル%、エチレングリコール40モル%、ネオペンチルグリコール57モル%で、極限粘度0.93、ガラス転移温度5℃、軟化温度95℃、溶液ヘーズが83.6%であった。表1に得られたポリエステル樹脂の特性値を示す。
【0057】
実施例2〜4及び、比較例 2〜4
ポリエステル樹脂の組成が表1に示した割合となるように、原料化合物の種類と仕込量を変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。表1に得られたポリエステル樹脂の組成と特性値、および熱処理試験、湿熱処理試験を行った結果を示す。
【0058】
【表1】

実施例5〜8、比較例5〜8
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた共重合ポリエステル樹脂を、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒(体積比1/1)に30質量%の濃度となるように溶解し、ポリエステル樹脂の溶液を得た。その溶液を25μmのPETフィルム上に塗布後、乾燥機に入れ、80℃で2分間、引き続き 150℃で3分間乾燥して溶媒を除去し、厚み10μmの接着剤層を形成した。次いで、300μmの銅板を接着剤層と接するように重ね合わせ、150℃に加熱した2本の熱ローラーの間を2m/秒の速度で通過させることにより、PETフィルム/ポリエステル接着剤層/銅板からなる積層体を得た。表2に得られた積層体の特性を示す。
【0059】
【表2】

表1及び表2から明らかなように、実施例1〜4のポリエステル樹脂は耐熱性及び耐湿熱性が良好なものであり、これらのポリエステル樹脂を使用した実施例5〜8の積層体は接着性、耐熱性及び耐湿熱性とも良好なものだった。これに対して、比較例1では、ジカルボン酸成分に対するグリコール成分の配合比率が1.3倍と低かったため、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの相溶化が不十分であり、透明性(溶液ヘーズ)が悪いポリエステル樹脂が得られた。また、接着層を形成する際に均質な接着層が得られず、比較例5に示すように、積層体としたときには被着材との密着性が低くなった。
【0060】
比較例2では、ポリエチレンエーテルグリコール(繰り返し単位中の炭素数2)を共重合しているため、ポリエステル樹脂が親水性となり、耐湿熱性が悪かった。また、比較例6に示すように、積層体としたときにも、湿熱処理により被着材との密着性が低くなった。比較例3は、ポリプロピレンエーテルグリコールの共重合比率が多いため、ガラス転移温度、軟化温度とも低く、耐熱性が悪かった。また、比較例7に示すように、積層体としたときに被着材との密着性が低くなった。比較例4は、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの共重合比率が少ないため、耐湿熱性が不十分であった。また、ガラス転移温度が高いため、比較例8に示すように積層体としたときに20℃雰囲気下での接着強力が十分に得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とグリコールからエステル化反応、重縮合反応の工程を経てポリエステル樹脂を製造する方法において、グリコール成分として分子量が1500以上で、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上であるポリアルキレンエーテルグリコールを、得られるポリエステル樹脂中の全グリコール成分に対して1〜10モル%となるように添加し、グリコール成分がジカルボン酸成分に対してモル比で1.8倍以上となるようにしてエステル化反応又はエステル交換反応を行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られたポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸30〜100モル%であり、グリコール成分が、分子量1500以上、かつ、繰り返し単位中の炭素数が3以上であるポリアルキレンエーテルグリコール1〜10モル%、炭素数3以上のアルキレングリコール50〜99モル%からなり、かつ、トルエンとメチルエチルケトンの8/2(質量比)混合溶媒中に30質量%で溶解したときの溶液ヘーズが5%以下、極限粘度が0.60以上であることを特徴とする接着剤用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項2のポリエステル樹脂を含有することを特徴とする接着剤。
【請求項4】
(A)ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートシートの層、(B)請求項3記載の接着剤の層、(C)金属体で構成されていることを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2006−37013(P2006−37013A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221943(P2004−221943)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】