説明

ポリエステル樹脂の製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュール

【課題】溶融混練時におけるベントアップを抑えて、樹脂品質の安定化が図られたポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融混練されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Yが下記式で表される領域を満たす範囲でスクリュ回転数Nを調節し、Yを変化させながらQminからQmaxへ増加又はQmaxからQminへ減少させて溶融押出する〔Y:単位押出量Q/N、Yunder=9.01×10−7×D、Yover=6.93×10−6×D、D:スクリュ径、Q:定常運転時の押出量、Qmax、Qmin:増減時の最大又は最小押出量〕。
・0≦Q≦0.5×Qのとき、(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/(0.5×Q
・0.5×Q<Qのとき、Y≦Yover
・Y≧Yunder
・0.6×Q≦Qmax≦1.2×Q
・0.15×Q≦Qmin≦0.4×Q

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、電気絶縁用途や光学用途などの種々の用途に適用されている。そのうち、電気絶縁用途として、近年では特に、太陽電池の裏面保護用シート(いわゆるバックシート)などの太陽電池用途が注目されている。
【0003】
一方、ポリエステルは通常、その表面にカルボキシ基や水酸基が多く存在しており、水分が存在する環境条件下では加水分解反応を起こしやすく、経時で劣化する傾向がある。例えば太陽電池モジュールが一般に使用される設置環境は、屋外等の常に風雨に曝されるような環境であり、加水分解反応が進行しやすい条件に曝されるため、ポリエステルの加水分解性が安定的に抑制された状態に制御されていることが望まれる。
【0004】
ところが、例えば、原料の切り替え時や、押出機のスクリュ停止後の再起動時などの立上げ時には、ダイに付着している異物を追い出すために、押出量の上げ下げが有効な方法として行なわれている。従来、このような押出量の上げ下げを行なう場合、押出変動に対して、押出される樹脂の押出量Q/N[kg/hr/rpm]が一定となるような条件にスクリュの回転数Nを設定して行なわれていた。しかしながら、Q/Nが一定となる条件では、溶融樹脂がベントに充満(逆流)したり、更にはベントに繋がる吸引用のベント配管にまで溶融樹脂が吸い込まれて配管詰まりを起こす等の、いわゆるベントアップを引き起こしやすいという問題がある。
【0005】
上記ベントアップを防止する方法の1つとして、例えば、シリンダ内の脱気部に配設された圧力センサの出力によりベントアップの兆候を検知し、スクリュ回転数や供給量をベントアップしない範囲に制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、押出機のスクリュの停止後、再び起動する際に、押出機内部の樹脂の性状や加熱・混練状態が連続運転時と異なったものとなったり、再起動時に押出量が変動すること等に対して、スクリュ停止時間に応じて定められた始動時回転数となるように変速機構を制御し、スクリュ回転数を適宜変更する押出装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−254945号公報
【特許文献2】特開2004−358695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術によっても、例えば押出機内部の劣化物、滞留物を除去するために、吐出量を増減させて断続運転する場合に起きやすいベントアップを完全に解消できるまでには至っていないのが実情である。ベントアップが起きると、品質低下を招きやすく、特に例えば太陽電池モジュールの用途などのように安定した耐候性能が求められる場合には、所定の性能を確保できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、溶融混練(特にポリエステル樹脂を断続的に溶融押出する断続運転)時におけるベントアップが抑えられ、残留異物が少なく樹脂品質の安定化が図られたポリエステル樹脂の製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲でシリンダ内のスクリュの回転数を調節し、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少させて溶融押出を行なう溶融押出工程を有するポリエステル樹脂の製造方法である。
【0011】
(1)0≦Q≦0.5×Qのとき、
(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/(0.5×Q
(2)0.5×Q<Qのとき、
Y≦Yover
(3)Y≧Yunder
(4)0.6×Q≦Qmax≦1.2×Q
(5)0.15×Q≦Qmin≦0.4×Q
【0012】
関係式(1)〜(5)において、Yは、スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]を表し、Yunder及びYoverは、Yunder[kg/hr/rpm]=9.01×10−7×D、Yover[kg/hr/rpm]=6.93×10−6×Dである。Dは、スクリュ径[mm]を表す。Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、増減変化もしくは減増変化を行なっていない定常運転時の押出量を表す。Qmax、Qminはそれぞれ、増減変化もしくは減増変化させる際の最大押出量、最小押出量を表す。Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。
なお、NがNmax又はNminを表す場合、NmaxはQmaxでの最小回転数を、NminはQminでの最小回転数をそれぞれ表すものとする。
【0013】
<2> 単位押出量YのQminでのYminに対する、QmaxでのYmaxの比率は、下記の関係式(6)を満たす前記<1>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
1.1≦Ymax/Ymin≦5.0 ・・・(6)
関係式(6)において、Yminは、Qmin/Nminを、YmaxはQmax/Nmaxを表す。
【0014】
<3> Yを変化させながらQminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少する過程において、Yが一定となる時間を5秒以内とする前記<1>又は前記<2>に記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
【0015】
<4> 溶融押出工程は、ポリエステル樹脂の押出量Qの増加又は減少に要する時間をt[hr]とすると、押出量QをQminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少する速度(Q/t、単位:kg/hr)の絶対値が、下記の関係式(7)を満たす前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
0.50×D≦|Q/t|≦6.48×D ・・・(7)
関係式(7)において、Qは、押出量が減少する場合、負の値を示す。
【0016】
<5> ポリエステル樹脂がシリンダ内を通過して押出される迄の間に押出量Qを増減もしくは減増する回数をnとし、増減もしくは減増が完了したときに回数nを1回とした場合に、nが下記の関係式(8)を満たす前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
1<n<10 ・・・(8)
【0017】
<6> 溶融押出工程は、ポリエステル樹脂を断続的に溶融押出する断続運転時において、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少させる前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法である。
【0018】
<7> 前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂を延伸して得られ、1m中における最大長さが50μm以上の異物の個数が1個未満であるポリエステルフィルムである。
【0019】
<8> 前記<7>に記載のポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シートである。
【0020】
<9> 太陽光が入射する透明性の基板と、基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の基板が配された側と反対側に配された前記<8>に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶融混練(特にポリエステル樹脂を断続的に溶融押出する断続運転)時におけるベントアップが抑えられ、残留異物が少なく樹脂品質の安定化が図られたポリエステル樹脂の製造方法を提供することができる。
また、断続運転したときには、断続運転する時間の短縮化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】二軸押出機の概略の構成例を示す断面図である。
【図2】縦軸を単位押出量Yとし、横軸を溶融樹脂の押出量Qとした二次元座標軸において、関係線(a)〜(d)で囲まれる範囲を示す図である。
【図3】実施例1の条件を示す図である。
【図4】実施例2の条件を示す図である。
【図5】実施例3の条件を示す図である。
【図6】実施例4の条件を示す図である。
【図7】実施例5の条件を示す図である。
【図8】実施例6の条件を示す図である。
【図9】実施例7の条件を示す図である。
【図10】実施例8の条件を示す図である。
【図11】実施例9の条件を示す図である。
【図12】実施例10の条件を示す図である。
【図13】実施例11の条件を示す図である。
【図14】実施例12の条件を示す図である。
【図15】実施例13の条件を示す図である。
【図16】実施例14の条件を示す図である。
【図17】比較例1の条件を示す図である。
【図18】比較例2の条件を示す図である。
【図19】比較例3の条件を示す図である。
【図20】比較例4の条件を示す図である。
【図21】比較例5の条件を示す図である。
【図22】比較例6の条件を示す図である。
【図23】比較例7の条件を示す図である。
【図24】比較例8の条件を示す図である。
【図25】比較例9の条件を示す図である。
【図26】(A)実施例1、(B)実施例2、(C)実施例3、(D)実施例4における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図27】(A)実施例5、(B)実施例6、(C)実施例7、(D)実施例8における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図28】(A)実施例9、(B)実施例10、(C)実施例11における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図29】(A)実施例12、(B)実施例13、(C)実施例14における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図30】(A)比較例1、(B)比較例2、(C)比較例3、(D)比較例4における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図31】(A)比較例5、(B)比較例6、(C)比較例7、(D)比較例8における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【図32】比較例9における溶融押出時のQ、N、及びQ/Nを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のポリエステル樹脂の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲となるように、シリンダ内のスクリュの回転数を調節することにより、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加又はQmaxからQminへ減少させて溶融押出を行なう溶融押出工程を有している。
【0024】
ここで、単位押出量Yと押出量Qとの関係は、二次元座標軸上の一方の軸(例えば縦軸)に単位押出量Y[kg/hr/rpm]を、他方の軸(例えば横軸)に押出量Q[kg/h]をとって引いた関係線に基づくものでもよい。例えば、下記関係式(1)〜(5)は、縦軸に単位押出量Yをとり、横軸に押出量Q[kg/h]をとった二次元座標軸上に関係線を引いた場合の関係を示すものでもよい。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、溶融押出工程のほか、押出されたポリエステル樹脂をシート状に成形し、例えばキャスティングドラム上で冷却するシート成形工程や、シート状のポリエステル樹脂を延伸する延伸工程などの他の工程が設けられてもよい。
【0026】
本発明においては、溶融されたポリエステル樹脂(以下、単に溶融樹脂ともいう。)を押出すにあたり、溶融樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、Yを連続的に変化させながらQがQminからQmaxへ増加又はQmaxからQminへ減少するように、増減変化もしくは減増変化させる過程を設け、この過程において、押出されるポリエステル樹脂の押出量Qを、Y(=Q/N)が一定になるような制御ではなく、スクリュの1回転あたりの単位押出量Yが以下に示す関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲でスクリュの回転数を制御し、増減変化もしくは減増変化させるようにする。これにより、ポリエステル樹脂の溶融混練(特にポリエステル樹脂を断続的に溶融押出する断続運転)時のベントアップの発生が防止され、品種の変更等で原料樹脂を切り替える等の有無に拘わらず、安定的な樹脂の製造が可能になり、樹脂中の残留異物が軽減され、樹脂品質の安定化が図れる。
【0027】
−溶融押出工程−
本発明における溶融押出工程は、二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲でシリンダ内のスクリュの回転数を調節することにより、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加又はQmaxからQminへ減少させて溶融押出を行なう。
【0028】
用いる二軸押出機による溶融混練は、基本的には、溶融樹脂を押し出すための二軸スクリュを備えた従来公知の二軸押出機を用い、所望とするポリエステル樹脂を得るために必要な条件を設定して行なえる。二軸押出機は、小型ないし大型のいずれの装置を使用してもよい。
【0029】
本発明に好適な二軸押出機の構成例を図1に示す。図1は、本発明に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施する際に使用することができる二軸押出機の構成例を概略的に示す概略断面図である。
【0030】
溶融押出し法によりポリエステルフィルムを製造する場合、一般的に用いられる押出機は、大別して単軸と多軸がある。多軸としては、二軸押出機(二軸スクリュ押出機)が広く使用されている。二軸押出機として、例えば図1に示すように、原料樹脂を供給する供給口12及び溶融樹脂が押出される押出機出口14を有するシリンダ10(バレル)と、それぞれ140mm以上の外径を有し、シリンダ10内で回転する2つのスクリュ20A,20Bと、シリンダ10の周囲に配置され、シリンダ10内の温度を制御する温度制御手段30とを備えた二軸押出機100であってもよい。なお、供給口12の手前には原料供給装置を設けることができ、また押出機出口14の先には、フィルタ42とダイ40が設けられている。また、押出機出口14の先には、図示しないが更にギアポンプが設けられてもよい。
【0031】
<シリンダ>
シリンダ10は原料樹脂を供給するための供給口12と、加熱溶融された樹脂が押し出される押出機出口14を有する。
シリンダ10の内壁面は、耐熱、耐磨耗性、及び耐腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材が用いられる。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、タングステン等の耐腐食性、耐磨耗性素材合金をシリンダ10の内壁面にライニングさせたバイメタリックシリンダを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
【0032】
シリンダ10には真空を引くためのベント16A,16Bが設けられている。ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダ10内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント16A,16Bを適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレークなど)や製膜途中で出たフィルムの粉砕屑(フラフ)等をそのまま原料樹脂として使用することができる。
ベント16A,16Bは脱気効率との関係で、開口面積やベントの数を適正にすることが求められる。二軸押出機100は、1箇所以上のベント16A,16Bを有することが望ましい。なお、ベント16A,16Bの数が多過ぎると、ベントアップのおそれが大きくなり、滞留劣化異物増加の懸念がある。したがって、ベントは、1箇所又は2箇所に設けることが好ましい。
また、ベント付近の壁面に滞留した樹脂や析出した揮発成分が押出機100(シリンダ10)の内部に落下すると、製品に異物として顕在化する可能性があり、注意が必要である。滞留については、ベント蓋の形状の適正化や、上部ベント、側面ベントの適正な選定が有効であり、揮発成分の析出は、配管等の加熱で析出を防止する手法が一般的に用いられる。
【0033】
例えば、PETを押出す場合、加水分解、熱分解、酸化分解の抑制が製品(フィルム)の品質に大きな影響を及ぼす。例えば、樹脂供給口12を真空化したり、窒素パージを行なうことで酸化分解を抑えることができる。
また、ベント16A,16Bを複数箇所に設けることで、原料水分量が2000ppm程度の場合でも、50ppm以下に乾燥した樹脂を単軸で押出した場合と同様の押出しが可能である。
また、剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲でニーディング等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュ出口(押出機出口)14の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベント16A,16Bによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口14の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0034】
<二軸スクリュ>
シリンダ10内には、φ140mm以上のスクリュ径(外径)Dを有し、モータ及びギアを含む駆動手段21によって回転する2つのスクリュ20A,20Bが設けられている。スクリュ径Dがφ140mm以上となる大型の二軸押出機では、大量生産が可能である一方、ベントアップが発生しやすく、溶融ムラが生じて品質の低下を招きやすい。しかし、本発明においては、外径140mm以上のスクリュを備えた大型の二軸押出機を用いた場合でも、ベントアップを防ぎ、溶融ムラが抑制されるともに、異物の発生や加熱による末端COOHの増加を抑制することができる。
【0035】
二軸押出機は、2つのスクリュ20A,20Bの噛み合い型と非噛み合い型に大別され、噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きい。本発明では、噛み合い型と非噛み合い型のいずれのタイプでもよいが、原料樹脂を十分混練して溶融ムラを抑制する観点から、噛み合い型を用いることが好ましい。
2つのスクリュ20A,20Bの回転方向もそれぞれ同方向と異方向に分かれる。異方向回転スクリュ20A,20Bは同方向回転型よりも混練効果が高く、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。
さらに軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。
【0036】
本発明で用いる二軸押出機では、様々な形状のスクリュセグメントが用いられる。スクリュ20A,20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリュが用いられる。
加熱溶融部に、ニーディングディスクやローターなどの剪断を付与するセグメントを用いることで、原料樹脂をより確実に溶融することができる。また、逆スクリュやシールリングを用いることにより、樹脂をせき止め、ベント16A,16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。例えば、図1に示すように、ベント16A,16B付近に、上記のような原料樹脂の溶融を促進する混練部(ニーディングディスク)24A,24Bを設けることができる。
【0037】
押出機100の樹脂押出方向下流側では、溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)を設けた形態が有効である。剪断発熱よりもシリンダ10の伝熱効率が高い場合は、温調ゾーン(冷却部)にピッチの短いスクリュ28を設けることで、シリンダ10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。冷却効果を高める観点から、冷却部に位置するスクリュ28のピッチは、スクリュ径Dに対し、0.5D〜0.8Dであることが好ましい。
【0038】
<温度制御手段>
シリンダ10の周囲には、温度制御手段30が設けられている。図1に示す押出機100では、原料供給口12から押出機出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9が温度制御手段30を構成している。このようにシリンダ10の周囲に分割して配置された加熱/冷却装置C1〜C9によって、例えば加熱溶融部C1〜C7と冷却部C8,C9の各領域(ゾーン)に区画し、シリンダ10内を領域ごとに所望の温度に制御することができる。
【0039】
加熱は、通常バンドヒーター又はシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、これらに限定されず、例えば熱媒循環加熱方法も用いることができる。一方、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、シリンダ10の周囲に巻き付けたパイプに水又は油を流す方法もある。
【0040】
<ダイ>
シリンダ10の押出機出口14には、押出機出口14から押出された溶融樹脂をフィルム状(帯状)に吐出するためのダイ40が設けられている。また、シリンダ10の押出機出口14とダイ40との間には、フィルムに未溶融樹脂や異物が混入することを防ぐためのフィルタ42が設けられている。
【0041】
<ギアポンプ>
厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機100とダイ40との間にギアポンプを設けてもよい。ギアポンプから一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸スクリュ押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプによる押出安定化を図ることが好ましい。
【0042】
ギアポンプを用いることにより、ギアポンプの2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュ先端部の圧力を上げることなしにフィルタによる濾過が可能なことから、樹脂温度の上昇の防止、輸送効率の向上、及び押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルタの濾圧上昇が原因で、スクリュから供給される樹脂量が経時変動することも防止できる。ただし、ギアポンプを設置すると、設備の選定方法によっては設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり注意が必要である。
【0043】
ギアポンプは1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプの負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内、好ましくは15MPa、更に好ましくは10MPa以内とする。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプの一次圧力を一定にするために、押出機のスクリュ回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0044】
本発明における溶融押出工程では、例えば図1に示すように構成された二軸押出機とポリエステル原料樹脂を用意し、温度制御手段30によりシリンダ10を加熱し、スクリュ20A,20Bを回転させ、供給口12から原料樹脂を供給する。なお、供給口12は、原料樹脂のペレット等が加熱されて融着しないようにすることと、モータなどのスクリュ駆動設備を保護するため、伝熱防止として冷却することが好ましい。
シリンダ内に供給された原料樹脂は、温度制御手段30による加熱のほか、スクリュ20A,20Bの回転に伴なう樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュ20A,20Bやシリンダ10との間の摩擦などによる発熱によって溶融されると共に、スクリュの回転に伴なって押出機出口14に向けて徐々に移動する。
シリンダ内に供給された原料樹脂は、融点Tm(℃)以上の温度に加熱されるが、樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイ40からの吐出が困難になるおそれがある。逆に樹脂温度が高過ぎると、熱分解によって末端COOHが著しく増加し、耐加水分解性の低下を招くおそれがある。これらの観点から、温度制御手段30による加熱温度及びスクリュ20A,20Bの回転数を調整することにより、二軸押出機内の長手方向(樹脂押出方向)における最大樹脂温度(Tmax;[℃])を、(Tm+40)℃〜(Tm+60)℃にすることが好ましく、(Tm+40)℃〜(Tm+55)℃とすることがより好ましく、(Tm+45)℃〜(Tm+50)℃とすることがさらに好ましい。
【0045】
二軸押出機内の長手方向(樹脂押出方向)における最大樹脂温度Tmaxは、二軸押出機100のスクリュ20A,20Bが配設されたシリンダ10内で加熱されている原料樹脂の温度であり、剪断発熱があるときはその発熱による局所的高温部を含む温度である。Tmaxは、シリンダ内の樹脂温度の測定により得られる。Tmaxは、末端COOHの増加を抑える観点から、290℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。また、Tmaxの下限温度は、樹脂の溶融不足を防止する観点から、260℃が望ましい。
【0046】
−ベント圧力−
ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることで、シリンダ内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がシリンダ10の外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベント16A,16Bから溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は1.333Pa〜666.5Pa(0.01Torr〜5Torr)とすることが好ましく、1.333Pa〜533.2Pa(0.01Torr〜4Torr)とすることがより好ましい。
【0047】
−平均滞留時間−
シリンダ内で原料樹脂を加熱溶融し、押出機出口14を出た後、ダイ40からフィルム状に押出されるまでの平均滞留時間を10分〜20分とすることが好ましい。原料樹脂を加熱溶融して、押出機100の押出機出口14を出てからダイ40から押出されるまでの平均滞留時間が10分以上であると、未溶融樹脂の残留が少なく抑えられる。また、該平均滞留時間が20分以下であると、熱分解による末端COOH量の増加を防ぐことができ、より優れた耐加水分解性が得られる。このような観点から、原料樹脂を加熱溶融して押出機出口14から押出され後の平均滞留時間は、10分〜15分がより好ましい。
なお、平均滞留時間は下記の式で定義される。
平均滞留時間(秒)={押出機下流配管容積[cm]×溶融体密度[g/cm]×3600/1000}/押出量[kg/h]
【0048】
−冷却−
上記のように原料樹脂をシリンダ内で加熱溶融する一方、温度制御手段30によりシリンダ10の押出機出口14側の内壁がポリエステル樹脂(原料樹脂)の融点Tm(℃)以下の冷却部となるように制御する。シリンダ10の押出機出口14側の内壁を冷却部として原料樹脂の融点Tm(℃)以下に制御すれば、樹脂が過剰に加熱されて末端COOH量が増加することを抑制することができる。末端COOH量の増加を確実に抑制する観点から、かかる冷却部における温度は、(Tm−100)℃〜Tm℃の範囲内が好ましく、(Tm−50)℃〜(Tm−10)℃の範囲内がより好ましい。
【0049】
冷却部の長さは、スクリュ径Dに対し、4D〜11Dにすることが好ましい。冷却部の長さが4D以上であれば、溶融加熱された樹脂を効果的に冷却して末端COOHの増加を抑制する。一方、冷却部の長さが11D以下であれば、樹脂を冷却し過ぎて固化することを防ぎ、溶融押出しを円滑に行なうことができる。
なお、押出機出口14における樹脂温度ToutがTm+30℃以下となるようにすることが好ましい。ただし、押出機出口14における樹脂温度Toutが低過ぎると溶融樹脂の一部が固化するおそれもあるため、押出機出口14における樹脂温度ToutはTm〜(Tm+25)℃以下とすることがより好ましく、(Tm+10)℃〜(Tm+20)℃とすることがさらに好ましい。
【0050】
シリンダ10の押出機出口14から押し出されたポリエステル樹脂は、フィルタ42を通ってダイ40から(例えばキャスティングドラム等の冷却ロールに)押し出され、シート状に成形されると共に、冷却される。
ダイ40からメルト(溶融樹脂)を押出した後、例えば冷却ロールに接触させるまでの間(エアギャップ)は、湿度を5%RH〜60%RHに調整することが好ましく、15%RH〜50%RHに調整することがより好ましい。エアギャップでの湿度を上記範囲にすることで、フィルム表面のCOOH量やOH量を調節することが可能である。また、低湿度に調節することで、フィルム表面のカルボン酸量を減少させることができる。
【0051】
また、樹脂温度を一度上げてから冷却することで、末端COOH量の増加を抑制すると共に、未溶融異物の発生を抑制することができる。更に、シート状に成形したポリエステル樹脂のヘイズ上昇を抑制する効果が得られる。特に、厚手のシートに成形をする場合は、冷却速度の不足よりヘイズ上昇しやすいが、その場合の上昇が抑えられる。
なお、フィルムの厚みは、2mm〜8mmが好ましく、より好ましくは2.5mm〜7mmであり、さらに好ましくは3mm〜6mmである。厚みを厚くすることで、押出されたメルトがガラス転移温度(Tg)以下に冷却するまでの所要時間を長くすることができる。この間に、フィルム表面のCOOH基はポリエステル内部に拡散され、表面COOH量を低減することができる。
【0052】
本発明においては、ポリエステル原料の末端COOH量と溶融押出しされたシート状のポリエステル樹脂の末端COOH量との差(ΔAV)は、3eq/t以下であることが好ましい。例えば、末端COOH量が25eq/t(トン)以下のポリエステルシートが得られる。末端COOH量が25eq/トン以下であると耐加水分解性に優れ、長期耐久性が得られる。耐加水分解の観点から、末端COOH量は低いことが望ましいが、成形されたシートを被着物に密着させる場合の密着性を高める点からは、押出後のシート状に成形されたポリエステル樹脂のAVの下限値は2eq/トンが好ましく、好ましいAVの範囲は10〜20eq/トンである。
末端COOH量の測定は、既述の方法と同様にして行なうことができる。
なお、「eq/t」は、1トンあたりのモル当量を表す。
【0053】
次に、押出量Qの増減変化過程について詳述する。
【0054】
本発明において二軸押出機により溶融押出を行なう場合、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程(本明細書中において、これを「増減変化過程」ともいう。)を設ける。押出量Qに増減変化もしくは減増変化を与えることにより、例えば品種や溶融粘度などの物性等が異なる原料への切り替えなど、二軸押出機の運転始動時(スクリュを停止し再起動する場合も含む)又はポリエステル樹脂を断続的に押出す断続運転時において生じやすいベントアップが抑制される。
特に、原料樹脂のポリエステル品種の切り替え、固有粘度(IV)の異なる原料樹脂への切り替えなどの場合に、ベントアップの発生を効果的に抑制することができる。
【0055】
このとき、押出量Qの増減変化もしくは減増変化は、スクリュの1回転あたりの単位押出量Yが以下に示す関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲内において、シリンダ内のスクリュの回転数を調節することによって行なわれる。
【0056】
(1)0≦Q≦0.5×Qのとき、
(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/(0.5×Q
(2)0.5×Q<Qのとき、
Y≦Yover
(3)Y≧Yunder
(4)0.6×Q≦Qmax≦1.2×Q
(5)0.15×Q≦Qmin≦0.4×Q
【0057】
関係式(1)〜(5)において、Yは、スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]を表す。また、式中のYunder及びYover[kg/hr/rpm]は、それぞれ、Yunder=9.01×10−7×D、Yover=6.93×10−6×Dであり、Dは、スクリュ径[mm]を表す。
【0058】
Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、増減変化もしくは減増変化を行なっていない定常運転時の押出量を表し、Qmax、Qminはそれぞれ、増減変化もしくは減増変化させる際の最大押出量、最小押出量を表す。
【0059】
Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。ここで、Nが、最大回転数Nmax又は最小回転数Nminを表す場合、NmaxはQmaxでの最小回転数を、NminはQminでの最小回転数をそれぞれ表す。
【0060】
上記の関係式(1)〜(5)について、図2を参照して説明する。
図2は、縦軸に単位押出量Y(=Q/N;単位:[kg/hr/rpm])をとり、横軸に溶融樹脂の押出量Q(単位:[kg/h])をとった二次元座標軸において、関係線(1)〜(5)で囲まれる範囲を示す図である。
【0061】
まず、二軸押出機から押出されるポリエステル樹脂の押出量Qを、関係式(4)、(5)で表されるQminとQmaxの範囲に定義する。
【0062】
このとき、押出量Qの増減変化もしくは減増変化は、単位押出量Y(=Q/N)が関係式(1)〜(2)を満たす範囲で行なう。すなわち、
単位押出量Yは、図2中の線分(a)、(b)上のY値以下の範囲とする。Yが、線分(a)上のY値を超える、又はYover(=6.93×10−6×D[kg/hr/rpm])を超える範囲(図2中の線分(b)上のY値を超える領域)であると、スクリュの1回転あたりの押出量が大きくなり過ぎるので、ベントアップが生じやすくなる。
【0063】
本発明では、樹脂粘度や原料樹脂の供給量などを考慮し、回転数Nを調節することで、関係式(1)〜(2)を満たす範囲に調整することができる。
【0064】
また、押出量Qの増減変化もしくは減増変化は、単位押出量Y(=Q/N)が関係式(3)を満たす範囲で行なう。すなわち、
単位押出量Yの最小値はYunder(=9.01×10−7×D[kg/hr/rpm])であり、図2中の線分(c)で表されるY値以上の範囲である。Yが、Yunder未満の範囲(図2中の線分(c)上のY値を下回る領域)であると、スクリュの回転数が大きすぎるため、樹脂が劣化し、残留異物となりやすくなる。残留異物が増えると、ポリエステル樹脂の耐候性の低下、フィルム特性の低下につながる。
中でも、Yunderは、ベントでの真空がブレイクせず、ベントアップしない範囲の値であるのが好ましい。
【0065】
本発明では、樹脂粘度や原料樹脂の供給量などを考慮し、回転数Nを調節することで、関係式(3)を満たす範囲に調整することができる。
【0066】
したがって、本発明においては、単位押出量Y(=Q/N)が関係式(1)〜(3)、すなわち図2中の台形で示される領域内に収まるように、押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる制御を行なうことにより、溶融混練時におけるベントアップを防止することができる。これにより、ポリエステル樹脂の品質が安定的に保持される。
【0067】
minからQmaxへ減増変化もしくはQmaxからQminへ増減変化させる過程において、Yで表されるQ/Nを連続的に変化させる。これにより、迅速な増減変化もしくは減増変化が可能であり、断続運転時間の短縮、効果的な異物の除去が可能となる。
このとき、Q/Nが一定となる時間は5秒以内が好ましい。
【0068】
上記のQmin、Qmaxは、増減変化もしくは減増変化を行なっていない定常運転時の押出量Qに対して増減変化もしくは減増変化させたときの最小値、最大値であるが、ポリエステル樹脂の最大押出量Qmaxについては関係式(4)を、最小押出量Qminについては関係式(5)を、それぞれ満たす。Qは、増減変化後又は減増変化後の、増減変化もしくは減増変化を行なっていない定常運転時の設定押出量[kg/h]を表す。
【0069】
min、Qmaxは、劣化物の除去効果を高める要因である。押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程における関係式(1)〜(5)において、Qmaxに着目すると、定常運転時に比べて押出量は多い領域であり、したがってQmaxの下限は0.6Qである。Qmaxが0.6Q未満であると、劣化物の除去効果が低減する。一方、Qmaxが1.2Qを超えると、圧力が急上昇し、ベントアップを回避できないおそれがある。
また、Qminに着目すると、定常運転時に比べて押出量は少ない領域であり、したがってQminの下限は、0.15Qである。Qminが0.15Q未満であると、真空が維持できず異物が増加するおそれや、ベントアップするおそれがある。一方、Qminが0.4Qを超える範囲であると、吐出量の増減幅を大きくできず、樹脂中から異物を追い出す効果が期待できなくなる。
【0070】
中でも、Qmaxは、0.6×Q≦Qmax≦1.05×Qを満たすことが好ましく、0.6×Q≦Qmax≦0.8×Qを満たすことがより好ましい。
【0071】
本発明においては、単位押出量Yの最小値Yminに対する最大値Ymaxの比率としては、下記の関係式(6)を満たす範囲とすることが好ましい。
1.1≦Ymax/Ymin≦5.0 ・・・(6)
関係式(6)において、Yminは、Qmin/Nminを、YmaxはQmax/Nmaxを表す。
【0072】
押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程では、単位押出量Yは、Ymax/Yminの比が1.1以上であることで、押出量が小さいときの未溶融物の発生が抑えられ、ベントアップを防止することができる。また、Ymax/Yminの比が5.0以下であることで、スクリュの回転数が大きくなり過ぎないように抑え、樹脂の劣化を防いで残留異物を低減することができる。
【0073】
中でも、Ymax/Yminの比は、1.5以上3.0以下が好ましく、1.5以上2.2以下がより好ましい。
【0074】
また、ポリエステル樹脂の押出量Qを増加又は減少させる場合、その増加又は減少を開始してから所望量に増加又は減少が完了するのに要する時間をt[hr]とすると、押出量Qを増減もしくは減増する速度(Q/t)は、下記の関係式(7)を満たすことが好ましい。
0.50×D≦|Q/t|≦6.48×D ・・・(7)
関係式(7)において、Dはスクリュ径[mm]を表し、押出量が減少する場合のQは負の値を示す。なお、||は絶対値を表す。
【0075】
押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程では、その速度|Q/t|が0.50×D以上であることで、増減速度又は減増速度が適度に維持されるので、総運転時間を短縮し、原料ロスを少なく抑えることができる。また、増減もしくは減増する速度|Q/t|が6.48×D以下であることで、押出量が増加する速度が早くなり過ぎないため、ベントアップを防ぐことができる。
【0076】
中でも、|Q/t|は、0.57×D以上5.04×D以下が好ましく、0.85×D以上4.37×D以下がより好ましく、更に好ましくは1.34×D以上4.23×D以下である。
【0077】
押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程では、ポリエステル樹脂がホッパーやフィーダー等の供給口からシリンダ内を通過して押出される迄の間に押出量Qを増減もしくは減増する回数をnとし、増減もしくは減増が完了したときに回数nを1回とカウントした場合、そのnが下記の関係式(8)で表される範囲を満たしていることが好ましい。
1<n<10 ・・・(8)
【0078】
関係式(8)から、nが2回以上、すなわち押出量Qを増加し減少し終わる迄又は減少させ増加し終わる迄の操作を2回以上設けることで、ベントアップを効果的に防止できる。また、nが9回以下、すなわち前記操作を9回以下とすることで、断続運転にかける時間を短縮でき、生産性を向上できる点で有利である。
中でも、nは、2<n<6を満たす場合が好ましい。
【0079】
押出量Qを増減変化もしくは減増変化させる過程では、シリンダ内のスクリュの回転数を調節することにより行なえる。回転数の調節は、例えば図1に示すように、スクリュに接続されたモータ及びギアを含む駆動手段21で行なうことができる。駆動手段21には、これに信号を出して制御するための制御手段(不図示)が電気的に接続されている。
【0080】
本発明における溶融押出工程では、ポリエステル樹脂の押出量Qの増減もしくは減増、すなわち本発明における前記「QminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少」させる操作を、断続的に行なうのではなく、連続的に行なう。ポリエステル樹脂の押出量の増減もしくは減増を断続的に行なうと総運転時間が長くなり原料ロスに繋がるが、押出量の増減もしくは減増を連続的に行なうことで、総運転時間の短縮が図れ、原料ロスを低減できると共に、品質の安定性が向上する。
【0081】
次に、ポリエステル樹脂の製造に用いるポリエステル原料樹脂(以下、単に原料樹脂ともいう。)について説明する。
【0082】
(ポリエステル原料樹脂)
ポリエステル原料樹脂は、ポリエステルフィルムの原料となり、ポリエステルを含んでいる材料であれば、特に制限されず、ポリエステルのほかに、無機粒子や有機粒子のスラリーを含んでいてもよい。また、ポリエステル原料樹脂は、触媒由来のチタン元素を含んでいてもよい。
ポリエステル原料樹脂に含まれるポリエステルの種類は、特に制限されるものではなく、例えばジカルボン酸成分とジオール成分とを用いて合成されたものでもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0083】
原料樹脂としては、極限粘度(IV)が0.7〜0.9であるポリエステル樹脂が好ましい。
原料樹脂のIVが0.7以上であることで、原料の末端COOHも少なく抑えられ、フィルム品質を良好に維持することができる。また、IVが0.9以下であると、末端COOHの増加が少なく、フィルム品質が良好である。原料樹脂のIVは、好ましくは0.70〜0.85であり、より好ましくは0.70〜0.80である。
【0084】
原料樹脂のIVは、重合方式及び重合条件によって調整することができる。例えば、液相重合の後に固相重合を行なうことによって極限粘度を上記範囲に調整することができる。
【0085】
原料樹脂の末端COOH量(AV)は、25eq/t(当量/トン)以下であることが好ましく、15eq/t以下がより好ましい。また、例えば被着物との間の密着性を得る観点から、原料樹脂の末端COOH量は2eq/t以上であることが望ましい。
末端COOH量は、以下の方法により測定される値である。すなわち、
原料樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下する。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基量を求める。
なお、「eq/t」は、1トンあたりのモル当量を表す。
また、複数種の樹脂を混合して用いる場合は、原料樹脂の末端COOH量は混合状態での量を表す。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)として、そのペレットの1種又は2種以上やPETフィルムの粉砕屑であるチップ材などを混合する場合、ペレットの末端COOH量の総量、又はペレットの末端COOH量とチップの末端COOH量との合計量である。
【0086】
原料樹脂の融点(Tm)は、250℃〜260℃の範囲であることが好ましい。Tmは示差走査熱量測定により求められる値である。複数の樹脂を混合するときは、融点の平均値が上記範囲内にあることが好ましい。
【0087】
原料樹脂の嵩比重は、0.6〜0.8の範囲が好ましい。嵩比重が0.6以上であると、押出しをより安定的に行なうことができ、比重が0.8以下であると、局所的な発熱を効果的に抑制することができる。
原料樹脂の嵩比重とは、粉末を一定容積の容器の中に一定状態で入れる等して、所定形状にした粉末の質量を、そのときの体積で除算して求められる比重(単位体積あたりの質量)をいい、嵩比重が小さいほど嵩張る。
上記の中でも、押出時の発熱の抑制により末端COOHの増加をより抑える点で、原料樹脂の嵩比重は0.7〜0.75の範囲が特に好ましい。
【0088】
原料樹脂を構成するポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体とジオール化合物とを、公知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
ジカルボン酸又はそのエステル誘導体としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
【0089】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンゼンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0090】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン系化合物、コバルト系化合物、アルミニウム系化合物、アンチモン系化合物、チタン系化合物、リン系化合物などが挙げられる。通常は、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン系化合物、ゲルマニウム系化合物、チタン系化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム系化合物を例に挙げると、ゲルマニウム系化合物の粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0091】
好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、1,4−シクロヘキサンジメタノール構造を有するポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)であり、より好ましくはPETである。
【0092】
1,4−シクロヘキサンジメタノール構造を有するポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)の場合、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)由来の構造の含有比率は、ジオール成分由来の構造の総量(全ジオール中)に対して、0.1〜100モル%の範囲が好ましい。中でも特に、CHDM由来の構造の含有比率は、0.1〜20モル%又は80〜100モル%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜16モル%又は83〜98モル%の範囲であり、特に好ましくは1〜12モル%又は86〜96モル%の範囲である。CHDM由来の構造が低い領域(0.1〜20モル%)及び高い領域(80〜100モル%)の二つの領域が存在するのは、これら領域において結晶が形成され易く、結晶間に取り込まれた非晶が橋渡しするタイチェーンを形成しやすいためである。CHDMが20モル%を超え80%未満の領域では、CHDMとEGが混在し得、規則性が低下して結晶が生成し難い。
なお、CHDM系ポリエステルを含むポリエステル層の組成の詳細については、後述する。
【0093】
PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0094】
Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にPETが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。本発明においては、ポリエステルフィルムの末端COOH量を30eq/トン以下の範囲に調整するのに好適である。
【0095】
Ti系触媒を用いた重合により得たTi触媒系PETの製造には、例えば、特開2005−340616号公報、特開2005−239940号公報、特開2004−319444号公報、特許3436268号公報、特許3979866号公報、特許3780137号、特開2007−204538号公報等に記載の重合方法を用いることができる。
【0096】
Ti系触媒としてチタン系化合物を用いる場合、チタン系化合物の使用量としては、チタン元素換算値で1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用い、重合を行なうことが好ましい。この場合、ポリエステルフィルムは、好ましくは1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
チタン系化合物の量は、1ppm以上であると好ましいIVが得られ、30ppm以下であると、末端COOHを低く抑えることができ、耐加水分解性の向上に有利である。
【0097】
また、原料樹脂は、樹脂フィルムの粉砕片を混合して調製されるのが好ましい。
樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムが好適であり、原料樹脂中のポリエステル樹脂と同種のポリエステルのフィルムが好ましい。樹脂フィルムの粉砕片は、例えば不要となったフィルムを粉砕して小片(いわゆるチップ)や屑片等にした粉砕物であり、嵩高さを与え、嵩比重を例えばペレットのみの場合よりも低下させることができる。
【0098】
この粉砕片のサイズとしては、嵩変化が与えられる範囲であれば制限はないが、厚みが20〜5000μmであるものが好ましい。中でも、嵩比重が大きくなり過ぎて充満率が低下しすぎないようにし、溶融不足を回避する観点から、100〜1000μmの範囲、更には100〜500μmの範囲がより好ましい。
【0099】
また、製膜されるポリエステルフィルムの末端COOH量をより低減する点で、粉砕片のサイズのバラツキは小さい方が好ましく、例えば粉砕片の厚みでは、バラツキが±100%以内であることが好ましく、より好ましくは±50%以内であり、更には±10%以内である。粉砕片を用いる場合、厚みなどのサイズのバラツキを小さく抑えることで、得られるポリエステルフィルムの末端COOH量の変動を低く抑えることができる。
【0100】
粉砕片の原料樹脂中における質量比率としては、原料樹脂の全質量に対して、50質量%以下であるのが好ましく、その質量比率の下限値は10質量%が望ましい。粉砕片の割合を50質量%以下にすることで、得られるポリエステルフィルムの末端COOH量の変動幅をより低く抑えることができる。中でも、同様の理由から、粉砕片の質量比率は10〜30質量%がより好ましく、20〜30質量%が特に好ましい。
【0101】
粉砕片の嵩比重としては、原料樹脂の嵩比重が前記範囲を満たす範囲において、0.3〜0.7の範囲であることが好ましい。嵩比重は、既述の原料樹脂の嵩比重と同義であり、既述の方法と同様にして測定される。
【0102】
本発明においては、更に、末端封止剤を含有していることが好ましい。ポリエステル結晶間を橋架けする分子(タイチェーン)を有する構造であることで、強固な構造となり、耐候性に優れる。ポリエステルフィルムが末端封止剤を含有していることで、タイチェーンが発達し過ぎることがなく、脆化を抑えつつも耐熱性を高めることができる。これにより、成膜した際に生じやすい弊害の懸念も小さくなる。
【0103】
末端封止剤は、ポリエステル中にポリエステルの全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下の範囲で含有されていることが好ましい。末端封止材の含有量は、0.2質量%以上5質量%以下の範囲がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下の範囲が更に好ましい。末端封止剤がカルボン酸末端と反応(封止)することで、末端の極性が低下し、結晶間に取り込まれた非晶が橋渡しするタイチェーンが形成されやすくなる。末端封止剤の量は、0.1質量%以上であると上記効果が得られやすく、また10質量%以下であることで、ポリエステル中で不純物とならずに結晶生成が促され、タイチェーンが形成されやすい。
【0104】
末端封止剤とは、ポリエステル樹脂の末端のカルボキシル基と反応し、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量を減少させる添加剤である。
末端封鎖剤としては、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カーボネート化合物などが挙げられる。本発明では、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物から選ばれる一種又は複数種を含むことが好ましく、カルボジイミド化合物を含むことがより好ましい。末端封止剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。
【0105】
末端封鎖剤は、製膜時にポリエステル樹脂と共に添加するとより効果が高い。また、固相重合を施すと共に末端封鎖剤を含有するようにしてもよい。具体的には、末端封止剤は、二軸押出機の原料供給口に供給する前にポリエステル原料樹脂と混合してもよいし、二軸押出機でポリエステル原料樹脂を溶融混練しているときに混合してもよいし、二軸押出機から溶融樹脂を排出してから溶融樹脂に混合してもよい。
【0106】
末端封止剤の中でも、環状構造を分子内に有するカルボジイミド化合物が好ましい。環状構造を有するカルボジイミド化合物は、カルボジイミドの反応性が高く、効率よくポリエステル末端と反応するためである。
【0107】
末端封止剤の中でも、カルボジイミド基を1つ有し、カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む環状カルボジイミド化合物が好ましい。
【0108】
−環状カルボジイミド化合物−
環状カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基を1個有し、カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物である。
ここで、第一窒素とは、カルボジイミド基(−N=C=N−)が有する2つの窒素原子のうち、一方の窒素原子を指し、第二窒素とは、他方の窒素原子を指す。
環状カルボジイミド化合物は、末端封止剤として、ポリエステルの末端カルボキシル基を封止するため、本発明のポリエステルフィルムが環状カルボジイミド化合物を含有することにより、ポリエステルフィルムの耐候性、特に湿熱耐久性を改善することができる。
【0109】
環状カルボジイミド化合物を用いることによりポリエステルフィルムの耐候性が向上するのは、次の理由によるものと考えられる。
カルボジイミド化合物を環状構造にすることにより、下記のように、ポリエステルに、より一層タイチェーンの形成を促すことができる。
・環状カルボジイミドが解裂し、ポリエステル(PET−1という)の末端カルボン酸と反応する。
・解裂したカルボジイミドの他の一端はイソシアネート基となり、他のポリエステル(PET−2という)の末端水酸基と反応する。
・環状カルボジイミド化合物は環状構造のため、水酸基と反応した部位とカルボン酸と反応した部位は繋がっている。この結果、2本のPET分子鎖(PET−1及びPET−2)が環状カルボジイミドを介し、繋がったタイチェーン構造を形成する。
環状カルボジイミド化合物は、ポリエステル原料樹脂に対して0.05質量%〜20質量%の割合で用いることが好ましい。
以下、環状カルボジイミド化合物の詳細について説明する。
【0110】
環状カルボジイミド化合物は、重量平均分子量(Mw)が400以上であることが好ましく、500〜1500であることがより好ましい。
【0111】
また、環状カルボジイミド化合物は、環状構造を複数有していてもよい。
具体的には、環状カルボジイミド化合物の環状構造は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有するが、例えば、スピロ環など、分子中に複数の環状構造を有する場合にはスピロ原子に結合するそれぞれの環状構造中に1個のカルボジイミド基を有していれば、化合物として複数のカルボジイミド基を有していてよいことはいうまでもない。環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、特に、10〜15が好ましい。
【0112】
ここで、環状構造中の原子数とは、環状構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合があるためである。また反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より環状構造中の原子数は好ましくは、10〜30、より好ましくは10〜20、特に好ましくは10〜15の範囲が選択される。
【0113】
環状構造は、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【化1】

【0114】
式(1)中、Q(以下、結合基Qともいう)は、脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択されるいずれか1つの2〜4価の結合基、又は、脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである2〜4価の結合基である。なお、2つ以上の基の組み合わせは、芳香族基と芳香族基のように、同種の基を組み合わせた態様であってもよい。
Qを構成する脂肪族基と脂環族基と芳香族基とは、各々独立にヘテロ原子又は1価の置換基を含んでいてもよい。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、Pを指す。結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価又は4価の結合基である場合、環状構造は、単結合、二重結合、原子、又は原子団を介して、ポリマー又は他の環状構造と結合している。
【0115】
結合基Qは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、もしくは2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、又は、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、及び2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基から選択される2つ以上の基の組み合わせであることが好ましい。
結合基Qを構成する脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
結合基Qは、下記式(1−1)、式(1−2)又は式(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【0116】
【化2】

【0117】
式(1−1)中、Ar及びArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。Ar及びArは、各々独立に、さらに、ヘテロ原子又は1価の置換基を含んでいてもよい。
Ar又はArとして表される芳香族基としては、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていてもよい。
芳香族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0118】
式(1−2)中、R及びRは、各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、もしくは2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、又は、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基と2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基との組み合わせ、あるいは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基と2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである。R及びRを構成する脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、各々独立に、さらに、ヘテロ原子又は1価の置換基を含んでいてもよい。
【0119】
又はRとして表される脂肪族基としては、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていてもよい。
脂肪族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0120】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。シクロアルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。シクロアルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていてもよい。
脂肪族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0121】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていてもよい。
芳香族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0122】
上記式(1−1)及び式(1−2)において、X及びXは、各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、もしくは、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、又は、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基と2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである。X及びXを構成する脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、各々独立に、さらに、ヘテロ原子又は1価の置換基を含んでいてもよい。
【0123】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていてもよい。
脂肪族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0124】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。シクロアルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。シクロアルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていてもよい。
脂環族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0125】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていてもよい。
芳香族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0126】
上記式(1−1)及び式(1−2)においてs及びkは、各々独立に、0〜10の整数であり、好ましくは0〜3の整数であり、より好ましくは0〜1の整数である。
s及びkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0〜3の範囲が選択される。なお、s又はkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。
【0127】
上記式(1−3)においてXは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、もしくは2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、又はこれらの組み合わせである。
を構成する脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、各々独立に、さらに、ヘテロ原子又は1価の置換基を含んでいてもよい。
【0128】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は1価の置換基を含んでいてもよい。
脂肪族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0129】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。シクロアルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。シクロアルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は1価の置換基を含んでいてもよい。
脂環族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0130】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていてもよい。
芳香族基が有し得る1価の置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0131】
また、Ar、Ar、R、R、X、X及びXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、X及びXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、X及びXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、X及びXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0132】
環状カルボジイミド化合物としては、以下に示す環状カルボジイミド化合物(a)〜(c)が挙げられる。
【0133】
[環状カルボジイミド化合物(a)]
環状カルボジイミド化合物(a)は、下記式(2)で表される化合物である。
【0134】
【化3】

【0135】
式(2)中、Qは、脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択されるいずれか1つの2価の結合基又は脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである2価の結合基であり、さらにヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、式(2−2)又は式(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0136】
【化4】

【0137】
式(2−1)〜式(2−3)中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、s及びkは、各々式(1−1)〜式(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、s及びkと同じである。但し、これらは全て2価である。
かかる環状カルボジイミド化合物(a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0138】
【化5】

【0139】
[環状カルボジイミド化合物(b)]
環状カルボジイミド化合物(b)は、下記式(3)で表される化合物である。
【0140】
【化6】

【0141】
式(3)中、Qは、脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択されるいずれか1つの3価の結合基又は脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである3価の結合基であり、さらにヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(3)の化合物においては、Qを構成する基のうちの一つは3価である。
式(3)中、Yは、環状カルボジイミド化合物の環状構造を担持する担体である。
は、下記式(3−1)、式(3−2)又は式(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0142】
【化7】

【0143】
式(3−1)〜式(3−3)中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、s及びkは、各々式(1−1)〜式(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、s及びkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団又はポリマーであることが好ましい。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(b)としては、下記化合物が挙げられる。
【0144】
【化8】

【0145】
[環状カルボジイミド化合物(c)]
環状カルボジイミド化合物(c)は、下記式(4)で表されるである。
【0146】
【化9】

【0147】
式中、Qは、脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択されるいずれか1つの4価の結合基又は脂肪族基と脂環族基と芳香族基とから選択される2つ以上の基の組み合わせである4価の結合基であり、さらにヘテロ原子を保有していてもよい。Z及びZは、環状構造を担持する担体である。Z及びZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
脂肪族基、脂環族基、及び芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、これらの基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
は、下記式(4−1)、式(4−2)又は式(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0148】
【化10】

【0149】
式(4−1)〜式(4−3)中の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、s及びkは、各々式(1−1)〜式(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、s及びkと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、X及びXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。Z及びZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団又はポリマーであることが好ましい。Z及びZは結合部であり、複数の環状構造がZ及びZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(c)としては、下記化合物を挙げることができる。
【0150】
【化11】

【0151】
(環状カルボジイミド化合物の製造方法)
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報の段落番号[0075]に記載の方法などに基づいて合成することができる。
【0152】
本発明におけるポリエステル樹脂は、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
【0153】
光安定化剤を含有すると、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、樹脂が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤を含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、樹脂中の紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0154】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、樹脂中に均一分散できることが望まれる。
【0155】
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ・t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ・t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0156】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0157】
更に、本発明のポリエステルフィルムは、光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤などを添加剤として含有することができる。
【0158】
上記のほか、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)構造を有するポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)の製造は、例えばWO2009/125701の段落番号0089〜0090、0120〜0121に記載の方法を参照することができる。また、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)の製造は、例えば特開2011−153209の段落番号0170、特開2008−39803の段落番号0046、0060に記載の方法を参照することができる。
【0159】
<ポリエステルフィルム・太陽電池用保護シート>
本発明のポリエステルフィルムは、既述の本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂をシート状に成形した未延伸のポリエステルシートを縦延伸及び/又は横延伸して得られるものである。また、本発明の太陽電池用保護シートは、既述の本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂から得られたポリエステルフィルムを備えている。
【0160】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂が用いられるので、延伸を経て得られたポリエステルフィルム(太陽電池用保護シート)は、安定的に良好な品質を有しており、したがって所望とする耐加水分解性をそなえ、ひいては耐候性に優れている。
【0161】
また、本発明のポリエステルフィルムは、既述の本発明のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂で成形されるため、フィルム化したときの異物の混入が少なく、安定した品質を有している。フィルム中の異物の混入は、耐候性の低下を招来するため、異物の混入のないことが望まれる。具体的には、1m中における最大長さが50μm以上の異物の個数が1個未満であることが好ましい。具体的には、フィルム1m中に存在する50μm以上の異物数を顕微鏡で検出し、この異物数を複数箇所について求め、その平均値から「異物の個数が1個未満」であるか否かを判定する。
【0162】
縦延伸は、例えば、未延伸ポリエステルシートを挟む1対のニップロールにフィルムを通して、フィルムの長手方向(MD方向)にフィルムを搬送しながら、フィルムの搬送方向に並べた2対以上のニップロール間で緊張を与えることにより行なうことができる。縦延伸工程において、縦延伸倍率は2〜5倍が好ましく、2.5〜4.5倍がより好ましく、2.8〜4倍がさらに好ましい。
【0163】
また、横延伸は、予熱されたポリエステルを長手方向(MD方向)と直交する幅方向(TD方向)に緊張を与えて行なうことができる。
【0164】
延伸後のポリエステルフィルムには、更に、縦延伸及び横延伸が施された後のポリエステルを加熱して結晶化させることで熱固定する熱固定工程や、熱固定工程で固定されたポリエステルフィルムを加熱し、ポリエステルフィルムの緊張を緩和し、残留歪みを除去する熱緩和工程が設けられてもよい。
【0165】
本発明のポリエステルシートは、所望の延伸処理を施した後、電池側基板との接着性を高める易接着性層、紫外線吸収層、白色顔料等を含んで光反射性に構成された反射層等の白色層(着色層)などの機能性層を少なくとも1層設けることで、太陽電池用保護シートを構成することができる。例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに機能性層を塗布形成してもよい。塗布形成には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0166】
本発明のポリエステルフィルムは、ジオール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を用い、CHDM由来の構造を樹脂中に含むCHDM系ポリエステルを含むポリエステル層を有してもよい。この場合、ポリエステルフィルムは、CHDM系ポリエステルを含むCHDM系ポリエステル層のみで構成されてもよいし、このCHDM系ポリエステル層と他の樹脂層(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))を含む二層又は三層以上の重層構造に構成されてもよい。具体的には、例えば1,4−シクロヘキサンジメタノール構造を有するポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)とPETとを含む重層構造(例:PCT/PETの重層構造やPCT/PET/PCTの重層構造など)に構成することができる。
【0167】
〜CHDM系ポリエステルを含むポリエステル層の組成〜
(1)CHDM系ポリエステル
CHDM系ポリエステルは、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分(全ジオール中)に、0.1〜20モル%または80〜100モル%含むことが好ましく、より好ましくは、0.5モル%以上16モル%以下あるいは83モル%以上98モル%以下含むことがより好ましく、1モル%以上12モル%以下あるいは86モル%以上96モル%以下含むことが特に好ましい。このようにCHDM由来の構造が低い領域(0.1〜20モル%)、高い領域(80〜100モル%)の二つの領域が存在するのは、この領域に於いてポリエステルが結晶構造を取りやすく、高い力学強度、耐熱性を発揮し易いためである。
これらのCHDM系ポリエステルを用いることにより、耐熱性が改善され、異物が残留することを抑制することで樹脂品質を安定化する効果が得られる。
【0168】
CHDM系ポリエステルの1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造以外のユニットを形成するための材料として、ジオール成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンゼンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオールなどが代表例としてあげられるが、これらに限定されるものではない。その中でも、エチレングリコールを用いることが好ましい。
【0169】
CHDM系ポリエステルの1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造以外のユニットを形成するための材料として、ジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体などが代表例としてあげられるが、これらに限定されるものではない。
CHDM系ポリエステルのジカルボン成分として、少なくともテレフタル酸由来の構造を含むことが好ましい。
本発明ではCHDM系ポリエステルのジカルボン酸成分にテレフタル酸以外にイソフタル酸(IPA)を加えてもよい。好ましいIPA量は全ジカルボン酸中0モル%以上15モル%以下が好ましく、より好ましくは0モル%以上12モル%以下、さらに好ましくは0モル%以上9モル%以下である。
【0170】
〜積層構造〜
本発明のポリエステルフィルムは、上記の通り、CHDM系ポリエステルを含むポリエステル層を少なくとも1層有していてもよく、CHDM系ポリエステルを含むポリエステル層と他の層とが積層された積層構造を有するものでもよい。特に、ポリエステル中に占めるCHDM由来の構造の比率が80〜100モル%のとき、積層構造に構成されることが好ましい。これは、CHDM由来の構造の比率が高くなると、ポリエチレンテレフタレート(PET)に対し、耐候性(耐加水分解性)は高くなり易いが、力学強度が弱くなり易い。このため、他の樹脂層(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))と積層することで相補される点で好ましい。
【0171】
本発明のポリエステルフィルムは、CHDM系ポリエステルを含むポリエステル層(以下、P1層という)と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを含むポリエステル層(以下、P2層という)とが積層された態様も好ましい。
【0172】
P2層は、ジカルボン酸ユニット中におけるテレフタル酸ユニットの比率が95%以上であり、ジオールユニット中におけるエチレングリコールユニットの比率が95モル%以上であるものをさす。
また、P2層のIVは、0.7以上0.9以下が好ましく、より好ましくは0.72以上0.85以下であり、さらに好ましくは0.74以上0.82以下である。このようにIVを高めにすることで、湿熱環境(ウェットサーモ環境)、高温低湿環境(ドライサーモ環境)での分解(分子量低下)を抑制することができる。
【0173】
本発明のポリエステルフィルムは、P1層とP2層の層数の和が2以上であることが好ましく、より好ましくは2層以上5層以下、さらに好ましくは2層以上4層以下である。中でも好ましくは、2層のP1層でP2層を挟んだ3層構造、あるいは2層のP2層でP1層を挟んだ3層構造、P2層とP1層とが積層された2層構造である。
【0174】
本発明のポリエステルフィルムが2層以上に構成される場合、厚みはP1層の総和が全厚みの5%以上40%以上であることが好ましく、より好ましくは7%以上38%以上であり、さらに好ましくは10%以上35%以下である。総和が5%以上であることで、高い耐候性が発現され、また総和が40%以下であることで、高い力学強度が発現され易い。
このような積層構造は、常法により製造することができる。具体的には、積層構造は、複数の押出機から供給されたメルト(樹脂の融体)をマルチマニフォールドダイ、フィードブロックダイを用いて積層されるように押出することにより製造される。
ポリエステルフィルムの各層の厚みは、フィルムの断面を二次イオン質量分析法(SIMS)により測定し、P1層の特徴フラグメント、P2層の特徴フラグメントでイメージングすることにより求められる。
【0175】
<太陽電池モジュール>
太陽電池モジュールは、一般に、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。具体的な実施態様として、電気を取り出すリード配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様であってもよい。
【0176】
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【実施例】
【0177】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0178】
(実施例1〜実施例11、比較例1〜9)
−二軸押出機−
溶融押出機として、図1に示すように、2箇所にベント16A、16Bが設けられたシリンダ10内に下記構成のスクリュを備え、シリンダの周囲に樹脂の押出方向に9つのゾーン(C1〜C9)に分割して温度制御を行なうことができるヒータ30を備えた二軸押出機100を準備した。この二軸押出機の詳細を以下に示す。
<二軸押出機>
・ダブルベント式同方向回転噛合型二軸押出機
・長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(シリンダ1ゾーンが3.5D)
・サイズ:180mm
・吐出量:3000kg/h
・スクリュ回転数:60rpm
・バレル温度−C1:70℃,C2:270℃,C3:270℃,C4:270℃,C5:270℃,C6:270℃,C7:270℃,C8:270℃,C9:250℃
・スクリュ形状:第1ベント直前にニュートラルニーディング2D、逆スクリュ1D
第2ベント直前にニュートラルニーディング2D
【0179】
二軸押出機100の樹脂の押出方向には、図1に示すように、金属繊維フィルタ42及びダイ40が接続されており、さらにスクリュと金属繊維フィルタとの間には、図示しないギアポンプが備えられている。ダイを加熱するヒータの設定温度は280℃であり、平均滞留時間は10分とした。
・ギアポンプ:2ギアタイプ
・フィルタ:金属繊維焼結フィルタ(孔径20μm)
・ダイ:リップ間隔4mm
【0180】
−原料−
原料樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(融点Tm:257℃、極限粘度IV:0.78、末端COOH量:10当量/t、ヘンシェルミキサーにて160℃で結晶化)のペレット(以下、PETペレットという。)を用いた。
PETペレットには、平均長径:4.5mm、平均短径:1.8mm、平均長さ:4.0mmのサイズのものを用いた。
【0181】
−溶融押出−
準備した二軸押出機を用い、供給口12から原料樹脂を供給して加熱溶融して溶融混練を行なうと共に、下記表1に示す条件にて溶融押出を行なった(溶融押出工程)。ここで、下記表1に示される実施例及び比較例の各々の条件について、図3〜図25に示す。このときのQ、N、及びQ/Nを図26〜図32に示す。
【0182】
押出機出口から押出されたメルト(溶融樹脂)は、ギアポンプ、金属繊維フィルタ(孔径20μm)を通した後、ダイから20℃の冷却ロール(キャスティングドラム)に押出され、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールに密着することで、メルトをシート状に成形すると共に冷却した。冷却ロールには中空のチルロールを用いた。このチルロールは、内部に熱媒として水を通して温調できるようになっている。
なお、ダイ出口から冷却ロールまでの搬送域(エアギャップ)は、この搬送域を囲い、この中に調湿空気を導入することにより、湿度を30%RHに調節してある。二軸押出機の押出量及びダイのスリット幅の調整により、メルト厚みを3000μmとした。
以上のようにして、未延伸のPETシート(非晶性シート)を得た。
【0183】
−縦延伸・横延伸−
得られた未延伸のPETシートに対し、2対のニップロールを用いてニップロールの一方と他方との間に周速差を付与することで縦延伸を行なった。延伸が開始される延伸開始点での温度を90℃とし、縦延伸倍率は3.5倍とした。縦延伸後、100℃にて4.2倍に横延伸した。
【0184】
−熱固定・熱緩和−
その後、平均温度を200℃として熱固定を行ない、熱固定の際に幅方向に5%の緩和を行なった。
以上のようにして、所望とする2軸延伸PETフィルムを作製した。
【0185】
−評価−
(1)ベントアップ
溶融押出工程で溶融押出している過程でのベントアップの有無を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表1に示す。
<評価基準>
A:ベントアップは認められなかった。
B:ベントアップが認められた。
C:ベントアップが著しく発生した。
【0186】
(2)品質安定性
上記で作製した2軸延伸PETフィルムの1m中に残留する50μm以上の異物の有無を顕微鏡で検出し、異物の個数を求める作業を、3回(n=3)繰り返して行ない、得られた異物個数の平均値を求めた。この平均値をもとに、下記の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表1に示す。異物のサイズは、各粒子の最大長さが50μm以上であるか否かで判定した。
<評価基準>
A:キャスト1m中に50μm以上の異物の発生が、平均1個未満であった。
B:キャスト1m中に50μm以上の異物の発生が、平均1〜5個であった。
C:キャスト1m中に50μm以上の異物の発生が、平均6個以上であった。
【0187】
(実施例12〜13)
−CHDM系ポリエステルの調製−
[第1工程]
ジカルボン酸成分としてイソフタル酸(IPA)及びテレフタル酸(TPA)と、ジオール成分としてシクロヘキサンジメタノール(CHDM)及びエチレングリコール(EG)とをに供給し、さらに触媒として酢酸マグネシウム及び三酸化アンチモンを供給し、150℃の窒素雰囲気下で溶融した。その後、攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させてエステル交換反応を終了した。このとき、IPA、CHDMの供給量を下記表2に示す量になるように変えることで、2種のCHDM系ポリエステルを得た。
[第2工程]
エステル交換反応の終了後、この二種のポリエステル中に、リン酸をエチレングリコールに溶解したエチレングリコール溶液を添加した。
[第3工程]
得られたエステル化反応生成物に対し、重縮合反応を最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行ない、CHDM系ポリエステル(CHDM−2)を得た。そして、各ポリエステルをそれぞれペレット化した。
[第4工程]
その後、得られたポリエステルペレットの一部を取り出し、160℃で6時間、乾燥させ、結晶化処理を施した。引き続き、窒素気流中、210℃で24時間かけて固相重合し、CHDM系ポリエステル(CHDM−1)を得た。
【0188】
−溶融押出−
実施例1の「溶融押出」において、原料樹脂を上記で得たCHDM−1又はCHDM−2(CHDM系ポリエステル)に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、未延伸のPETシート(非晶性シート)を得ると共に、評価を行なった。評価結果を下記表1に示す。
【0189】
なお、上記で得たCHDM系ポリエステルについて、ジオール成分中のシクロヘキサンジメタノール含率、及びジカルボン酸成分中のイソフタル酸含率を下記方法で測定した。
<組成測定>
CHDM系ポリエステル(CHDM−1、CHDM−2)のペレットを、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した後、H−NMRにより定量した。標品(CHDM、テレフタル酸、EG、イソフタル酸)を予め測定し、これを用いてシグナルを同定した。
得られたイソフタル酸(IPA)残基の量及びCHDM残基の量は、下記表2に示す通りである。なお、テレフタル酸含率及びEG含率は、以下により示される。
テレフタル酸含率(モル%)=「100モル%−イソフタル酸含率(モル%)」
EG含率(モル%)=「100(モル%)−CHDM率(モル%)」
【0190】
また、下記表2において、CHDM系ポリエステル(CHDM−1、CHDM−2)のIV、AVは、下記の方法で測定した。
ア)固有粘度(IV;単位:dL/g):
得られたポリエステルを、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解し、該混合溶媒中の25℃での溶液粘度から求めた。
イ)末端COOH量(AV;単位:eq(当量)/トン):
得られたポリエステルをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その適定量から算出した。
【0191】
(実施例14)
実施例1の「溶融押出」において、二軸押出機の供給口(ホッパー)12に、主フィーダーで原料樹脂を、副フィーダーで下記の環状カルボジイミド(1)を供給して溶融混練に供し、280℃で溶融押出を行なったこと以外は、実施例1と同様にして、未延伸のPETシート(非晶性シート)を得ると共に、評価を行なった。このとき、環状カルボジイミド(1)の供給量は、原料樹脂に対して1.0質量%の比率とした。評価結果を下記表1に示す。
なお、環状カルボジイミド(1)は、分子量516の化合物であり、特開2011−258641号公報の参考例2に記載の合成方法に基づいて合成した。
【0192】
【化12】

【0193】
【表1】



【0194】
【表2】

【0195】
前記表1に示すように、実施例では、ベントアップが防止されており、製造されたポリエステル樹脂は、品質上安定したものが得られた。これに対し、比較例では、ベントアップが防げないか、あるいはベントアップが抑えられても品質の安定化の点で劣っていた。
【符号の説明】
【0196】
10・・・シリンダ
12・・・供給口
14・・・押出機出口
16A,16B・・・ベント
20A,20B・・・スクリュ
22・・・フライト
30・・・温度制御手段
40・・・ダイ
42・・・フィルタ
100・・・二軸押出機
C1〜C9・・・加熱/冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸押出機に投入されたポリエステル原料樹脂をシリンダ内で溶融混練すると共に、溶融されたポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量Qを、単位押出量Y[kg/hr/rpm]と押出量Q[kg/h]との関係から、単位押出量Yが下記関係式(1)〜(5)で表される領域を満たす範囲で前記シリンダ内のスクリュの回転数を調節し、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少させて溶融押出を行なう溶融押出工程を有するポリエステル樹脂の製造方法。
(1)0≦Q≦0.5×Qのとき、
(Y−Yunder)/Q≦(Yover−Yunder)/(0.5×Q
(2)0.5×Q<Qのとき、
Y≦Yover
(3)Y≧Yunder
(4)0.6×Q≦Qmax≦1.2×Q
(5)0.15×Q≦Qmin≦0.4×Q
〔式中、Yは、スクリュの1回転あたりの単位押出量Q/N[kg/hr/rpm]を表し、Yunder及びYoverは、Yunder[kg/hr/rpm]=9.01×10−7×D、Yover[kg/hr/rpm]=6.93×10−6×Dである。Dは、スクリュ径[mm]を表す。Qは、運転時における溶融ポリエステル樹脂の単位時間あたりの押出量[kg/h]を表し、Qは、増減変化もしくは減増変化を行なっていない定常運転時の押出量を表し、Qmax、Qminはそれぞれ、増減変化もしくは減増変化させる際の最大押出量、最小押出量を表す。Nは、スクリュの回転数[rpm]を表す。〕
【請求項2】
単位押出量YのQminでのYminに対する、QmaxでのYmaxの比率は、下記の関係式(6)を満たす請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
1.1≦Ymax/Ymin≦5.0 ・・・(6)
〔YminはQmin/Nminを、YmaxはQmax/Nmaxを表す。NmaxはQmaxでの最小回転数を、NminはQminでの最小回転数をそれぞれ表す〕
【請求項3】
Yを変化させながらQminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少する過程において、Yが一定となる時間を5秒以内とする請求項1又は請求項2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記溶融押出工程は、ポリエステル樹脂の押出量Qの増加又は減少に要する時間をt[hr]とすると、押出量QをQminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少する速度(Q/t、単位:kg/hr)の絶対値が、下記の関係式(7)を満たす請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
0.50×D≦|Q/t|≦6.48×D ・・・(7)
〔Qは、押出量が減少する場合、負の値を示す。〕
【請求項5】
ポリエステル樹脂がシリンダ内を通過して押出される迄の間に押出量Qを増減もしくは減増する回数をnとし、増減もしくは減増が完了したときに前記回数nを1回とした場合に、nが下記の関係式(8)を満たす請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
1<n<10 ・・・(8)
【請求項6】
前記溶融押出工程は、ポリエステル樹脂を断続的に溶融押出する断続運転時において、Yを連続的に変化させながら、QminからQmaxへ増加もしくはQmaxからQminへ減少させる請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法により作製されたポリエステル樹脂を延伸して得られ、1m中における最大長さが50μm以上の異物の個数が1個未満であるポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シート。
【請求項9】
太陽光が入射する透明性の基板と、前記基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の前記基板が配された側と反対側に配された請求項8に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−18284(P2013−18284A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−135019(P2012−135019)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】