説明

ポリエステル樹脂ペレットおよびその製造方法、並びにポリエステル樹脂水性分散体

【課題】 重合完了後、気泡の巻き込みがなく、ストランド切れを抑制したポリエステル樹脂ペレットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 数平均分子量12000以上、酸価が2mgKOH/g以上、ガラス転移温度が45℃以上のポリエステル樹脂であって、多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成され、前記ポリエステル樹脂の製造において、容量2〜5000L重合釜を用いて、エステル化反応の後に、解重合反応および/または付加反応を行い、130Pa以下の減圧状態で重縮合を行った後、払出し量2〜2000kg/hの条件のもと、溶融粘度20Pa・s以上でストランド形状に払い出し、切断することを特徴とするポリエステル樹脂ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量のポリエステル樹脂ペレットとその製造方法、前記ポリエステル樹脂ペレットを用いて得られるポリエステル樹脂水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成される高分子量のポリエステル樹脂は、被膜形成用樹脂として、被膜の加工性、有機溶剤に対する耐性(耐溶剤性)、耐候性が良好で、また、PET、PBT、塩化ビニル、各種金属等の成形品やフィルムへの密着性に優れていることから、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等に用いるバインダー成分として有機溶剤に溶解させ大量に使用されている。しかし近年、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善等の理由で、有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、上記用途に使用できるポリエステル樹脂系バインダーとして、ポリエステル樹脂を水性媒体に微分散させたポリエステル樹脂水性分散体の開発が盛んに行われている。
【0003】
ポリエステル樹脂水性分散体を得る方法としては、たとえば、ポリエステル樹脂が有するカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより、水性媒体中に微分散させたポリエステル樹脂水性分散体が提案されており、特許文献1には、ポリエステル樹脂の酸価が8mgKOH/g以上のポリエステル樹脂が提案されているが、ポリエステル樹脂の分子量が制限されて、加工性や密着性が不十分になる。
【0004】
高分子量であるポリエステル樹脂になると、結果的に、その樹脂が有する酸価が制限されて、塩基性化合物で中和されるカルボキシル基が不十分であることから、均一な水性分散体を得ることが困難である。また、高酸価のポリエステル樹脂を得るためには、重縮合後に多塩基酸、および/または、その無水物を加えて、解重合反応、および/または、付加反応をおこなう方法があるが、その時、釜内の気泡がポリエステル樹脂に巻き込まれ、ポリエステル樹脂を重合釜からストランドとして払い出す場合、ポリエステル樹脂に巻き込んだ気泡を起点にストランド切れが多発し、引取りのための操業性が悪くなる問題があった。
【特許文献1】特開2002−173582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、重縮合完了後、気泡の巻き込みが少なく、ストランド切れを抑制したポリエステル樹脂ペレット、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、高分子量のポリエステル樹脂を製造する際、解重合反応、および/または、付加反応した後、2段階の減圧操作で減圧状態とし、再び重縮合を行った後、払い出しを行うことで、気泡の巻き込みがなく、ストランド切れを抑制したポリエステル樹脂ペレットが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0008】
(1) 数平均分子量12000以上、酸価が2mgKOH/g以上、ガラス転移温度が45℃以上のポリエステル樹脂であって、多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成され、前記ポリエステル樹脂の製造において、容量2〜5000L重合釜を用いて、エステル化反応の後に、解重合反応および/または付加反応を行い、130Pa以下の減圧状態で重縮合を行った後、払出し量2〜2000kg/hの条件のもと、溶融粘度20Pa・s以上でストランド形状に払い出し、切断することを特徴とするポリエステル樹脂ペレット。
(2) エステル化反応の後に、解重合反応および/または付加反応を行い、130Pa以下の減圧状態とする際に、0.1MPa〜0.01MPaの減圧状態を第一段階とし、0.01MPa未満の減圧状態を第二段階とするときに、第一段階での減圧速度が9000〜5000Pa/minであり、第二段階での減圧速度が1000Pa/min以下であることを特徴とする(1)のポリエステル樹脂ペレットの製造方法。
(3) (1)に記載のポリエステル樹脂ペレットを有機溶剤に溶解し、転相乳化して得られるポリエステル樹脂水性分散体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高分子量、高酸価を有するポリエステル樹脂ペレットの製造に際し、ポリエステル樹脂を解重合反応、および/または、付加反応した後、2段階の減圧操作で減圧状態とし、再び重縮合を行った後、払い出しを行うことで、気泡の巻き込みがなく、ストランド切れを抑制したポリエステル樹脂ペレットを得ることができ、ポリエステル樹脂ペレットの製造時の効率が向上し、また歩留まりも高い、ポリエステル樹脂ペレットおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分より実質的に構成されており、多塩基酸と多価アルコールより重縮合されるものである。
【0012】
ポリエステル樹脂を構成する多塩基酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上の多塩基酸などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸や、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物などが挙げられる。3官能以上の多塩基酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0013】
多塩基酸としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸が割合を増すことにより、水性分散体から形成される樹脂被膜の硬度、耐水性、耐溶剤性、加工性などが向上する。芳香族ジカルボン酸としては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、テレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール、3官能以上の多価アルコールなどが挙げられる。脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールなどが挙げられ、脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。また、多価アルコールとして、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA)のエチレンオキシド付加体やビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS)のエチレンオキシド付加体なども使用することができる。
【0015】
多価アルコールとしては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、エチレングリコールやネオペンチルグリコールを使用することが好ましく、エチレングリコールは特に樹脂被膜の耐薬品性を向上させ、ネオペンチルグリコールは特に樹脂被膜の耐候性を向上させるという長所を有するので、ポリエステル樹脂の多価アルコール成分として好ましい。
【0016】
ポリエステル樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体などが挙げられる。また、ポリエステル樹脂には3官能以上の多価オキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、リンゴ酸、グリセリン酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂の数平均分子量は12,000以上である必要がある。数平均分子量が12,000未満である場合には、得られるポリエステル樹脂は非常に脆く、払い出す際に、ほとんどストランド状では得ることができず、また、樹脂被膜の加工性等が不十分となって、塗膜強度や接着強度が不足する。
【0018】
ここで、数平均分子量とはポリエステル樹脂の分子量分布において、下記式(1)に定義される平均分子量である。
Mn=ΣN/ΣN (1)
[ただし、式(1)中、Mは樹脂中の分子鎖iの分子量、Nは樹脂中の分子鎖iの個数を示す。]
【0019】
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価は2mgKOH/gである必要がある。 酸価が2mgKOH/gに満たないと、水性化が困難になり、また、たとえできたとしても体積平均粒径が大きくなり、保存安定性が悪くなる。
【0020】
本発明におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度は、45℃以上である必要がある。45℃未満であると、得られたポリエステル樹脂ペレット同士が融着してしまうため、取り扱いが困難になり、水性分散体の製造工程のうち、溶解工程において非常に時間がかかり非効率的になる等の問題がある。
【0021】
次に、本発明におけるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0022】
たとえば、前記した多塩基酸の少なくとも1種類以上と多価アルコールの少なくとも1種類以上とを公知の方法により重縮合させることにより製造することができる。全モノマー成分、および/または、その低重合体を不活性ガス雰囲気下で180〜260℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。
【0023】
また、本願発明においては、ポリエステル樹脂の重縮合時に重合触媒を添加することができる。ポリエステルの重合触媒は特に限定されず、酢酸亜鉛や三酸化アンチモン等の公知の化合物を用いることができる。
【0024】
ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸をさらに添加し、不活性ガス雰囲気下、解重合反応をおこなう方法などを挙げることができる。
【0025】
また、ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸無水物をさらに添加し、不活性ガス雰囲気下、ポリエステル樹脂の水酸基と付加反応する方法を用いることもできる。
【0026】
解重合反応、および/または、付加反応で用いる多塩基酸としては、3官能以上の多塩基酸、およぼ/または、その無水物が好ましい。3官能以上の多塩基酸等を使用することにより、解重合によるポリエステル樹脂の分子量低下を抑えながら、所望の酸価を付与することができる。また、その理由が十分解明できているわけではないが、3官能以上の多塩基酸を使用することにより、貯蔵安定性の優れた水性分散体を得ることができる。
【0027】
解重合反応、および/または、付加反応で用いる多塩基酸等としては、ポリエステル樹脂の構成成分で説明した多塩基酸やその無水物が挙げられるが、その中でも、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸や3官能の多塩基酸であるトリメリット酸、無水トリメリット酸が特に好ましい。
【0028】
本発明においては、解重合反応、および/または、付加反応の後、再度、130Pa以下の減圧下におく必要がある。減圧下におくことで、内容物に巻き込まれた気泡を除去することができるだけでなく、重縮合を進行させて所望の分子量、酸価を有するポリエステル樹脂を得ることができる。減圧度が130Paを超えてしまうと、十分に気泡を除去できなくなり、ストランドに気泡が巻き込まれたまま払い出すことになる。払出しのためのストランドにテンションをかけて引き取る際、ストランド中に気泡が点在すると、そこを起点として、ストランド切れが起こり、テンションがフリーとなり、特に冷却前の溶融状態の近接する他のストランドとの溶着が起こり、ストランドの引取りが困難になる。ストランドの引取りを再開するためには、ストランド末端をハサミ等で切り出し、ストランドの状態を整えた上で、新たに引取りを開始しなくてはならない等、引取り作業における労力の負担が大きくなり、ペレット状で得られるポリエステル樹脂の収率も非常に低くなる。
【0029】
本発明においては、払い出し時のポリエステル樹脂の溶融粘度は、20Pa・s以上である必要がある。溶融粘度が20Pa・s未満の場合、払い出し時に、溶融状態の近接する他のストランドとの溶着が起こるなど、ストランドを引くことができず、ペレット状にポリエステル樹脂を得られない。
【0030】
また、ポリエステル樹脂の引取りに際しては、払い出し量に留意する必要がある。通常単位時間当たりの、払い出し量を増やし、ストランドを高速で引き取る場合は、1本当たりのストランドの太さが細くなり、ストランド切れの懸念が増す。また、反対に、単位時間当たりの、払い出し量を減らすと、1本当たりのストランドの太さは太くなり、ストランド切れの懸念は減るものの、単位時間あたりの払い出し量が少なくなり収率が低下する、払い出し時間が長くなる等、効率的ではない。また、ストランドが太くなることによって、ストランドの冷却が不十分となり、ストランド、または、ペレットの融着への懸念が増す。したがって、本願発明においては、払い出し量2〜2000kg/hの条件で払い出しを行うことが必要である。
【0031】
払い出し量は、重合釜のスケールによっても、最適払い出し量が異なる。例えば、2〜50L容量の重合釜においては、2〜50kg/hが最適であり、50〜500L容量の重合釜においては、50〜500kg/hが最適であり、500L容量以上の重合釜においては、500〜2000kg/hが最適である。
【0032】
また、解重合反応、および/または、付加反応をした後、130Pa以下に減圧する際、その減圧条件は、0.1MPa〜0.01MPaの減圧状態を第一段階として、0.01MPa未満の減圧状態を第二段階とするときに、第一段階での減圧速度が9000Pa/min以下であり、第二段階での減圧速度が1000Pa/min以下とすることが好ましい。急激に減圧することは、多量の発泡、または、突沸による配管詰まりを引き起こす要因となるため、2段階に分けて行うことが好ましい。減圧のステップの第一段階として、0.1MPa〜0.01MPaまでの減圧状態では9000〜5000Pa/minの速度で行ない、減圧のステップの第二段階として、0.01MPa未満の減圧状態では、それまでの減圧工程から液面が上昇しており、特に注意して、1000Pa/min以下の緩やかな速度で行うことが好ましい。
【0033】
減圧のステップの第一段階を5000未満の緩やかな速度で減圧を行った場合には、減圧が完了するまでの時間が余計にかかり非効率的であり、また、減圧のステップの、第一段階で9000Pa/minを、第二段階で1000Pa/minを越える急激な速度で減圧を行った場合には、ポリエステル樹脂に巻き込まれた気泡が急激に真空ポンプに引かれることになり、多量の発泡、または、突沸による配管詰まりを起こしやすくなる。
【0034】
また、本発明によって得られるポリエステル樹脂は、特に水性分散体として使用するのに適している。水性分散体を得る方法としては、たとえば、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液を塩基性化合物とともに、水に分散させて転相乳化後、常圧下で有機溶剤を除去する方法が挙げられる。なお、本発明において転相乳化とは、ポリエステル樹脂の有機溶剤溶液に、この溶液に含まれる有機溶剤量を超える量の水を添加して、有機溶剤よりも水を多く含む液相にポリエステル樹脂を分散させることを意味する。
【0035】
塩基性化合物としては、塗膜の耐水性に鑑み、容易に揮散させることができるものが好ましく、アンモニアや、モノエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン等の有機アミンなどが挙げられる。また、有機溶剤としては、たとえば、メチルエチルケトン(以下MEKと記す)、アセトン、ジエチルケトン等のケトン系有機溶剤、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系有機溶剤、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
1.測定方法
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂の構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。また、H−NMRスペクトル上に帰属、定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
(2)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂1gあたりに換算した値を酸価として求めた。
(3)ポリエステル樹脂の数平均分子量
GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶剤:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)により求めた。
(4)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
(5)ポリエステル樹脂の溶融粘度
島津製作所のCFT-500A高化式フローテスターを用い、直径0.5mm、長さ2mmのノズルを取り付けて、荷重:5kgf/cm(=0.49MPa)の条件下、剪断速度(γ)2000sec-1で測定した。測定温度は、各製造例における払い出し温度に準ずるものとする。
(6)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を約1g秤量(Xgとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Ygとする)、次式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y/X)×100
(7)樹脂被膜の加工性
下記の例より製造された水性分散体を、ティンフリースチール(0.3mm厚)上に、卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケーターNo.542―AB型、バーコーター装着)を用いてコーティングした後、130℃に設定されたオーブン中で3分間加熱することにより、厚さ4μmの樹脂被膜を形成した。このように、コートしたティンフリースチールを150mm×50mmに切り出し、試験片とした。測定はJISK5600−5−1に準じて次のようにおこなった。塗膜性能評価装置(安田精機製、No.514塗料被膜屈曲試験機)に、被膜面を曲率芯棒に対して外側になるように試験片を差し込み、1秒間で180°折り曲げた後、折り曲げた部分を目視により判断した。
○:樹脂被膜が割れたり、剥がれたりしておらず、折り曲げに耐えている。
×:樹脂被膜が割れる、もしくは、剥がれている。
2.製造例
製造例1
酸成分として、テレフタル酸2077g(12.5モル)、イソフタル酸2077g(12.5モル)を、アルコール成分としてエチレングリコール877g(14.3モル)、ネオペンチルグリコール1666g(16.0モル)を17L容量のオートクレーブ中に仕込み、圧力0.4MPa、250℃で4時間加熱して、エステル化反応を行った。ついで、触媒として酢酸亜鉛二水和物3.3g(酸成分1モルに対して6.0×10−4モル)を添加し、系の温度を255℃に昇温し、系の圧力を徐々に減じて1時間後に130Paとした。この条件下でさらに3時間重縮合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、250℃になったところで有水トリメリット酸42g(0.20モル)を添加し、圧力0.05MPa、250℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。それから、再度系の圧力を徐々に減じて(0.01MPaまでを7000Pa/minの減圧速度で、0.01MPa以下になったら、800Pa/minの減圧速度とし)、1時間後に130Paとして減圧、重縮合反応をおこなった。その後、系の温度を下げ、240℃になったところで、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてストランド状に樹脂を払い出し量40kg/hで払い出し、水温が35℃のクエンチングバスを経由してペレタイザー(ナカタニ機械株式会社製、型式ST)でカッティングすることで、ペレット状のポリエステル樹脂P−1を得た。H−NMRで分析したところ、樹脂構成は表1に示すとおりであった。また、その他の分析結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
製造例2〜5
樹脂の組成、および、解重合後の重縮合の減圧度、払い出し温度、払い出し量を表1に示したように変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂P−2〜P−5を得た。
【0039】
製造例6
5000L容量の重合釜を用い、各々の仕込みの原料を300倍に増やした以外は、製造例1と同様の原料配合比、手順にしたがって、ポリエステル樹脂P−6を得た。
【0040】
製造例7、8
樹脂の組成、払い出し温度を表2に示したように変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂の製造を行った。ただし、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低いために、ストランドとして払い出しが出来なかったため、シート状で払い出し、ポリエステル樹脂P−7、ポリエステル樹脂P−8を得た。
【0041】
製造例9
樹脂の組成、払い出し温度を表2に示したように変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂の製造を行った。ポリエステル樹脂の数平均分子量が12000を下回っているため、ポリエステル樹脂として脆いものとなり、ストランドとして払い出しができなかったため、塊状のポリエステル樹脂P−9を得た。
【0042】
製造例10
樹脂の組成、払い出し温度、および、樹脂払い出し形状を表2に示したように変更した以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂P−10を得た。
【0043】
【表2】

【0044】
製造例11
ポリエステル樹脂の製造方法として、表2に示したように払い出し温度を270℃でおこなった以外は、製造例1と同様にしてポリエステル樹脂P−11の製造をおこなったが、払い出し温度が高温であり、内容物の溶融粘度が20Pa・s未満となったため、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−11のペレットを得ることができなかった。
【0045】
製造例12
ポリエステル樹脂の製造方法として、表2に示したように解重合後、150Paの減圧下で重縮合を行った以外は、製造例1と同様にして、ポリエステル樹脂P−12の製造を行った。解重合後の減圧度が不十分であったので、払い出し時にポリエステル樹脂P−12に気泡が点在して、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−12のペレットを得ることができなかった。
【0046】
製造例13
500Lの重合釜を用い、払い出し量4000kg/hで払い出した以外は、製造例6と同様にして、ポリエステル樹脂P−13を製造したが、払い出し量が多すぎて、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−13のペレットを得ることができなかった。
【0047】
製造例14
製造例1に準じて重合を進めて、解重合反応、および/または、付加反応をした後、130Pa以下に減圧する際に、第一段階での減圧速度を15000Pa/minでおこなったところ、内容物が突沸し、配管を詰まらせてしまい、ポリエステル樹脂P−14を得ることはできなかった。
【0048】
実施例1
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)にポリエステル樹脂P−1を400gとMEKを600g投入し、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌機(東京理化株式会社製、MAZELA1000)を用いて攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂P−1を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、回転速度600rpmで攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン8.7gを添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を総重量が2000gとなるまで添加して転相乳化をおこなった。蒸留水を全量添加する間、系内温度を常に15℃以下に保った。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで有機溶剤を除去した。蒸留は留去量が約600gになったところで終了し、室温まで冷却後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過した。固形分濃度31.4質量%のポリエステル樹脂水性分散体E−1を990g得た。ポリエステル樹脂水性分散体E−1の塗膜の性能を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例2、実施例3
ポリエステル樹脂P−2、P−3に変更すること以外は、実施例1と同様な方法でポリエステル樹脂水性分散体E−2、E−3を得た。ポリエステル樹脂水性分散体E−2、E−3の塗膜の性能を表3に示す。
【0051】
実施例4
ポリエステル樹脂P−4に変更すること、および、トリエチルアミンの添加量を6.7gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂水性分散体E−4を得た。ポリエステル樹脂水性分散体E−4の塗膜の性能を表3に示す。
【0052】
実施例5、実施例6
ポリエステル樹脂P−5、P−6に変更すること以外は、実施例1と同様な方法でポリエステル樹脂水性分散体E−5、E−6を得た。ポリエステル樹脂水性分散体E−5、E−6の塗膜の性能を表3に示す。
【0053】
比較例1
ポリエステル樹脂P−7に変更すること、および、トリエチルアミンの添加量を7.4gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂水性分散体E−7を得た。ただし、用いたポリエステル樹脂P−7は、シート状で払い出しを行ったため、シート状のポリエステル樹脂P−7をベールカッターで切断し使用した。ポリエステル樹脂水性分散体E−7の塗膜の性能を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
比較例2
ポリエステル樹脂P−8に変更すること、および、トリエチルアミンの添加量を48.7gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂水性分散体E−8を得た。ただし、用いたポリエステル樹脂P−8は、シート状で払い出しを行ったため、シート状のポリエステル樹脂P−8をベールカッターで切断し使用した。ポリエステル樹脂水性分散体E−8の塗膜の性能を表4に示す。
【0056】
比較例3
ポリエステル樹脂P−9に変更すること、および、トリエチルアミンの添加量を12.5gに変更すること以外は、実施例1と同様の方法で、ポリエステル樹脂水性分散体E−9を得た。ただし、用いたポリエステル樹脂P−9は、塊状で払い出しをおこなったため、塊状のポリエステル樹脂P−9をクラッシャーで細かく粉砕後使用した。ポリエステル樹脂水性分散体E−9の塗膜の性能を表4に示す。
【0057】
比較例4
ポリエステル樹脂P−10を用いて、実施例1と同様の方法で、水性分散体E−10を製造しようと試みたが、蒸留水添加中にポリエステル樹脂が攪拌羽に絡まり、均一な水性分散体を得ることができなかった。
【0058】
比較例5
ポリエステル樹脂P−11は、ポリエステル樹脂の製造において、払い出し温度が高温であり、内容物の溶融粘度が20Pa・s未満となったため、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−11のペレットを得ることができなかった。したがって、ポリエステル樹脂水性分散体を作成することは出来なかった。
【0059】
比較例6
ポリエステル樹脂P−12は、ポリエステル樹脂の製造において、解重合後の減圧度が不十分であったので、払い出し時にポリエステル樹脂P−12に気泡が点在して、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−12のペレットを得ることができなかった。したがって、ポリエステル樹脂水性分散体を作成することは出来なかった。
【0060】
比較例7
ポリエステル樹脂P−13は、ポリエステル樹脂の製造において、払い出し量が多すぎて、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂P−13のペレットを得ることができなかった。したがって、ポリエステル樹脂水性分散体を作成することは出来なかった。
【0061】
実施例1〜6は本発明のポリエステル樹脂であるため、高分子量であり、さらに、高酸価であるポリエステル樹脂を、ペレット状に、効率よく製造できている。また、本発明によるポリエステル樹脂ペレットを用いることで、均一であり、さらに、安定な水性分散を製造することができていて、さらに、加工性に優れた、塗膜強度の強い被膜を造りだすことができている。
【0062】
比較例1、比較例2は、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が規定よりも低い温度であったため、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂をペレット状で得ることができなかった。ただし、シート状にして切断することで、ポリエステル樹脂水性分散体を製造することができ、塗膜を得ることはできたが、ポリエステル樹脂の取り扱い性が悪かったため、不適であった。
【0063】
比較例3は、ポリエステル樹脂の数平均分子量が範囲を下回っているため、ストランド切れが多発し、ポリエステル樹脂をペレット状で得ることができなかった。ただし、塊状で得て、粉砕後、ポリエステル樹脂水性分散体とし塗膜を得ることはできたが、ポリエステル樹脂の取り扱い性が悪かったため、不適であった。また、樹脂被膜の加工性が劣っており、塗膜強度が不十分となるものであった。
【0064】
比較例4は、ポリエステル樹脂の樹脂酸価が範囲を下回っているため、均一な水性分散体を得ることができなかった。
【0065】
比較例5〜比較例7は、ポリエステル樹脂の製造を適切な条件で行わなかったため、ポリエステル樹脂をストランド状に払い出しできず、ポリエステル樹脂ペレットを得ることができなかった。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量12000以上、酸価が2mgKOH/g以上、ガラス転移温度が45℃以上のポリエステル樹脂であって、多塩基酸成分と多価アルコール成分とより構成され、前記ポリエステル樹脂の製造において、容量2〜5000L重合釜を用いて、エステル化反応の後に、解重合反応および/または付加反応を行い、130Pa以下の減圧状態で重縮合を行った後、払出し量2〜2000kg/hの条件のもと、溶融粘度20Pa・s以上でストランド形状に払い出し、切断することを特徴とするポリエステル樹脂ペレット。
【請求項2】
エステル化反応の後に、解重合反応および/または付加反応を行い、130Pa以下の減圧状態とする際に、0.1MPa〜0.01MPaの減圧状態を第一段階とし、0.01MPa未満の減圧状態を第二段階とするときに、第一段階での減圧速度が9000〜5000Pa/minであり、第二段階での減圧速度が1000Pa/min以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル樹脂ペレットを有機溶剤に溶解し、転相乳化して得られるポリエステル樹脂水性分散体。





【公開番号】特開2009−242713(P2009−242713A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93505(P2008−93505)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】