説明

ポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダー

【課題】透明性を有し、また、流動性と耐衝撃性を備えたポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーを提供することである。
【解決手段】 ポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱下で混練する工程S1及びS2と、ポリエステル系樹脂と多価アルコールにポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程S3及びS4とを有するものであり、ポリエステル系樹脂100部に対して、多価アルコールを5〜10部、ポリスチレン系樹脂を5〜10部の割合で配合し、加熱は250℃以上320℃以下の温度範囲とし、混練は1.0×10sec−1以上の剪断速度で行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、またはその廃棄物を原料とするポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料容器においては、ポリエチレンテレフタレートを原料とするペットボトルが急速に普及し、これに伴って使用後のペットボトルが廃棄物として大量に排出されている。このような使用後の廃棄ペットボトルは自治体等による回収が定着しつつあり、回収された廃棄ペットボトルは一部では単に廃棄物処理場に投棄されたり、燃料として燃やされたりしているが、環境保全の見地からもこれらの廃棄ペットボトルを再利用する処理技術の開発研究が多岐に亘って行われている。
ケミカルリサイクル処理では、粉砕した廃棄ペットボトルを解重合して得られるモノマーからペットボトルの原料であるテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルを生成し、廃棄ペットボトルから再びペットボトルを製造することが検討されている。また、別の製品に再利用する一つの方法としては、粉砕した廃棄ペットボトルを舗装用バインダーやアスファルト改質材として利用することが考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「舗装用バインダとその製造方法」という名称で、ペットボトルとタイヤの廃棄物を主原料として用いた舗装用バインダーとその製造方法に関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された発明は、1種又は2種以上の多価アルコール又は糖類と廃PETとを触媒存在下で反応させて粘性化PETを生成し、廃タイヤゴム粉と油系軟化剤とを混練して粘性化ゴムを生成し、粘性化PETと粘性化ゴムと改質剤とを混練して舗装用バインダーを製造するものであり、得られる舗装用バインダーは、粘性化PETと粘性化ゴムと改質剤と不可避不純物を含有するものである。
廃PETとは主に廃棄されたペットボトルであり、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする合成樹脂である。この廃PETに、トリエチレングリコールやペンタエリスリトール等の多価アルコールを19.2重量%から79.2重量%の割合で加えて触媒存在下で加熱混練し、エステル交換反応を進めて、粘性化PETを生成している。ここで、粘性化PETとは、多価アルコールによるエステル交換反応においてポリエチレンテレフタレートに分岐構造が生じ、この分岐構造が流動性を阻害して粘性を発揮しているものと推察される。一方、廃棄されたタイヤから得られる廃タイヤゴム粉に芳香族系油やナフテン系油等の油系軟化剤を20重量%から80重量%の割合で加えて加熱下で混練すると、粘性を備える粘性化ゴムが得られる。そして、炭化水素樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマー等の改質剤を10重量%から60重量%、粘性化PETを5重量%から65重量%、粘性化ゴムを5重量%から65重量%の割合で加熱下で混練すると、針入度、軟化点、15℃における伸度、タフネス及びテナシティなどの舗装用バインダーとして必要な特性を十分に備えた舗装用バインダーを製造することができる。この発明では、不用となったペットボトルやタイヤを舗装用バインダーに再生することができるので、資源の有効利用を可能にしている。
【0004】
また、特許文献2には、「舗装材用プラスチック組成物の製造方法」という名称で、廃棄ペットボトルを低コストで大量に処理可能な舗装用バインダーやアスファルト改質材等の舗装材用プラスチック組成物の製造方法に関する発明が開示されている。
この特許文献2に開示された発明は、廃PETと、1種又は2種以上の多価アルコール又は糖類とを触媒存在下でエステル交換させて、エステル交換反応後に、多価アルコール又は糖質を蒸留して除去するものである。
特許文献1と同様に、廃PETには廃棄ペットボトルが主に用いられ、廃棄ペットボトルを構成するポリエチレンテレフタレートに多価アルコールをエステル交換反応させると、適度な粘性を備えた組成物が得られ、この組成物は舗装用バインダーやアスファルト改質材に適用することができる。なお、多価アルコールにペンタエリスリトールを用いると、粘性の高い組成物を製造することができ、また、グリセリンを用いると反応時間を著しく低減することが可能になっている。
【0005】
そして、特許文献3には、「改質アスファルト、舗装用アスファルト混合物、舗装」という名称で、ポリエチレンテレフタレートと油とアスファルトとからなり、これらの組成範囲を調整した改質アスファルトと舗装用アスファルト混合物と舗装に関する発明が開示されている。
この特許文献3に開示された発明は、アスファルトとポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンテレフタレートの廃棄物と食用油又はエンジンオイルからなる廃油から構成される改質アスファルトであって、この改質アスファルトは、アスファルトを40重量%から100重量%、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンテレフタレートの廃棄物を0重量%から60重量%、食用油又はエンジンオイルからなる廃油を0重量%から60重量%とし、これらの組成範囲を重量%で示す三角図を用いて細かく限定しているものである。
そして、粉砕してフレーク状のペットボトルと廃食用油を300℃の加熱下で混合し、続いて、160℃に調整されたアスファルトと混合して得られる改質アスファルトにおいて、混合状態とマーシャル安定度を調べると、所望の組成範囲の試料では、従来ではペットボトルのフレークがアスファルト中に沈殿していたが、この沈殿が解消され、また、十分なマーシャル安定度を確保している。
【特許文献1】特開2005−263901号公報
【特許文献2】特開2006−96799号公報
【特許文献3】特開2003−12932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された従来の技術では、製造される舗装用バインダーや舗装用プラスチック組成物は着色しており、アスファルト等の黒色系の舗装用途においては問題ないが、透明性を必要とする組成物が求められる場合には、不向きであるという課題があった。特許文献1や特許文献2で示されるような舗装用途で例示すれば、廃材であるガラスカレットを用いる舗装においては、せっかくのガラスカレットの透明性と美観を損なう恐れがあり、また、透明性ゆえに発揮される光の反射作用を利用した視認性を損ねてしまうという課題もあり、無色あるいはそれに近い有色で、しかも透明という特徴を備えることのニーズに応えられないという課題があった。
【0007】
また、特許文献3に記載された従来の技術においては、アスファルト用途に限定されるものであり、製造される改質アスファルトは黒色であり、特許文献1及び特許文献2と同様に、透明性が必要とされる用途には不向きであるという課題があった。
【0008】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、透明性を有し、また、流動性と靭性を備えたポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱下で混練する工程と、ポリエステル系樹脂と多価アルコールにポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程とを有し、前記加熱は、250℃以上320℃以下の範囲の温度で行うものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱下で混練する工程では、ポリエステル系樹脂のエステル基に多価アルコールの水酸基が反応してポリエステル系樹脂の主鎖が切断されるという作用を有する。また、ポリエステル系樹脂の主鎖に多価アルコールが反応することにより、ポリエステル系樹脂に分岐構造を与えるように作用する。そして、ポリエステル系樹脂と多価アルコールにポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程では、主鎖が切断されたポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散するという作用を有する。また、250℃以上320℃以下の温度範囲の加熱は、ポリエステル系樹脂の結晶を融解して溶融状態とし、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとの反応を促進させるように作用するとともに、ポリスチレン系樹脂を流動させるように作用する。
【0010】
また、請求項2に記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程を有し、前記加熱は、250℃以上320℃以下の範囲の温度で行うものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂のエステル基に多価アルコールの水酸基が反応してポリエステル系樹脂の主鎖が多価アルコールに切断されて分岐構造を生成しながら、ポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散するという作用を有する。また、250℃以上320℃以下の温度範囲の加熱は、請求項1記載の発明と同様にポリエステル系樹脂の結晶を融解して溶融状態とし、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとの反応を促進させるように作用するとともに、ポリスチレン系樹脂を流動させるように作用する。
【0011】
そして、請求項3に記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、ポリエステル系樹脂100部に対して、多価アルコールを5〜10部、ポリスチレン系樹脂を5〜10部の割合で配合するものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、これらの配合割合においては、ポリエステル系樹脂と多価アルコールは効率よく反応するように作用し、ポリスチレン系樹脂はポリエステル系樹脂に一部溶解すると同時に均一に微細分散するように作用する。
【0012】
請求項4に記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、混練は、1.0×10sec−1以上の剪断速度で行うものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、1.0×10sec−1以上の剪断速度では、ポリエステル系樹脂及びポリスチレン系樹脂の溶融時の流動性を良好にするように作用する。
【0013】
そして、請求項5に記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法によって製造されるものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物は、分子量が低下して分岐構造を有するポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散したものとなる。
【0014】
最後に、請求項6に記載の発明であるポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーは、請求項5に記載のポリエステル系樹脂組成物を含有するものである。
上記構成のポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーは、分子量が低下して分岐構造を有するポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散したポリエステル系樹脂組成物を含有するものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱下で混練する工程において、ポリエステル系樹脂のエステル基に多価アルコールの水酸基が反応してポリエステル系樹脂の主鎖が切断して分子量が低下するので、製造されるポリエステル系樹脂組成物は溶融時の流動性が良好になる。また、ポリエステル系樹脂に分岐構造を与えることにより、結晶性が低下するので結晶化による白濁を防止することができる。そして、ポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂を一部溶解させると同時に微細分散させることによって、低分子量となったポリエステル系樹脂の強度を補強し、ポリエステル系樹脂組成物に靭性を付与することができる。また、250℃以上320℃以下の温度範囲の加熱によって、ポリエステル系樹脂、多価アルコール及びポリスチレン系樹脂を流動させながら混練して、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとの反応効率を高めるとともに、ポリエステル系樹脂にポリスチレン系樹脂を微細に分散させることができる。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂の低分子化及び分岐構造の形成と、ポリエステル系樹脂中へのポリスチレン系樹脂の溶解と微細分散を同時に行うので、製造工程が簡略化でき作業効率が良好となる。また、請求項1に記載の発明と同様に250℃以上320℃以下の温度範囲の加熱によって、ポリエステル系樹脂、多価アルコール及びポリスチレン系樹脂を流動させながら混練して、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとの反応効率を高めるとともに、ポリエステル系樹脂にポリスチレン系樹脂を微細に分散させることができる。
【0017】
そして、本発明の請求項3に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂100部に対して、多価アルコールを5〜10部、ポリスチレン系樹脂を5〜10部の割合で配合することにより、ポリエステル系樹脂と多価アルコールの反応によるポリエステル系樹脂の低分子化及び分岐構造化が所望のレベルとなり、また、ポリスチレン系樹脂の適量の溶解と微細分散により製造されるポリエステル系樹脂組成物に適度に靭性を付与することができる。
【0018】
本発明の請求項4に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、1.0×10sec−1以上の剪断速度では、ポリエステル系樹脂及びポリスチレン系樹脂の粘度を小さくして溶融時の流動性を高め、ポリエステル系樹脂へのポリスチレン系樹脂の分散性を良好にすることができる。
【0019】
本発明の請求項5に記載のポリエステル系樹脂組成物では、ポリエステル系樹脂を低分子化して良好な流動性を確保し、また、ポリスチレン系樹脂を一部溶解すると同時に微細分散させることにより靭性を備えるものとなる。
【0020】
本発明の請求項6に記載のポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーは、成形が容易で、透明性や靭性を兼ね備えるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法の第1の実施の形態を図1に基づき説明する。(特に、請求項1、請求項3及び請求項4に対応)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法工程を示す概念図である。
図1において、ポリエステル系樹脂組成物の製造方法では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを投入して加熱下で混練し、さらに、ポリスチレン系樹脂を加えて、同様に加熱下で混練して得られる生成物を冷却することにより、舗装用バインダー等に用いられる流動性と靭性を有し、透明なポリエステル系樹脂組成物を製造することができる。以下に、詳細な製造方法について説明する。
【0022】
まず、ステップS1では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールをラボプラストミル等の混練装置に投入する。ポリエステル系樹脂には、ポリエチレンテレフタレートやイソフタル酸成分等を含んだ共重合体やポリブチレンテレフタレートを用いる。また、バージン樹脂を用いてもよいが、例えば、粉砕したペットボトルなどの廃棄物を用いることもできる。多価アルコールには、3価のグリセリンや4価のペンタエリスリトールを用いる。特に、グリセリンは沸点が高く、ハンドリングが容易である。なお、効果は小さくなるが、エチレングリコール等の2価のアルコールを用いてもよい。また、配合する割合は、ポリエステル系樹脂100部に対して、多価アルコールを5〜10部とするのが好ましい。
【0023】
次に、ステップS2では、投入されたポリエステル系樹脂と多価アルコールを混練する。このステップS2では、ラボプラストミル、2軸押出機、バンバリーミキサー及びベッセル等の混練装置を用いて、250℃から320℃の温度範囲の加熱下で混練する。このステップS2においては、ポリエステル系樹脂に多価アルコールが反応し、ポリエステル系樹脂の分子量が低下するとともに、ポリエステル系樹脂に分岐構造を形成する。したがって、ステップS2では、最初は高粘度であったポリエステル系樹脂は、序々に分子量低下によって粘度が低下して、液状になる。
一般に、加熱下でポリエステルにアルコールを加えると、加アルコール反応の解重合により、ポリエステルの主鎖のエステル結合にアルコールの水酸基が反応し、ポリエステルの主鎖が切断されて分子量が低下する。その一方で、縮重合も起こり、再度、エステル結合が形成される。
本第1の実施の形態では、ポリエステル系樹脂に多価アルコールを反応させており、1個の炭素原子に複数の水酸基を備える多価アルコールの複数の水酸基によって解重合と縮重合が繰り返され、その結果、ポリエステル系樹脂は低分子化されながら、主鎖に分岐構造が形成される。この分岐構造は、最終的に製造されるポリエステル系樹脂組成物の結晶性を低下させるので、結晶化による白濁を防止することができる。
また、通常、ポリエステル系樹脂は、数平均重合度が約40から60で使用されているが、この範囲では、溶融時の粘度が高く、流動性が極めて小さいので、数平均重合度が約20から30になるようにポリエステル系樹脂の低分子化を計るとよい。なお、解重合が進んで低分子化し過ぎると、高分子としての特性を維持できなくなるので、ポリエステル系樹脂と多価アルコールの反応効率から考えて、多価アルコールの水酸基はポリエステル系樹脂のエステル基に対してモル比で1/10以下であることが好ましい。
【0024】
次に、ステップS3では、ポリスチレン系樹脂を投入する。ポリスチレン系樹脂には、汎用のポリスチレン(以下、GPPSという。)やゴム成分を導入した耐衝撃性ポリスチレン(以下、HIPSという。)を用いる。また、これらの廃棄物を利用してもよい。なお、ポリスチレン系樹脂は、ポリエステル系樹脂100部に対して、5〜10部の割合になるように配合する。
【0025】
そして、ステップS4は、混練工程を示している。このステップS4は、ステップS2と同様に、250℃から320℃の温度範囲で加熱して行う。ステップS3において投入されたポリスチレン系樹脂は非晶性の樹脂であり、このような温度範囲においては軟化し、ステップS2において液状になったポリエステル系樹脂中に微細に分散させることができる。なお、混練時の剪断速度を大きくすると、溶融樹脂の粘度が小さくなるので、ポリエステル系樹脂中へのポリスチレン系樹脂の分散が良好となる。したがって、剪断速度は、1.0×10(1/sec)以上である方が好ましい。
【0026】
最後に、ステップS5は、冷却工程である。このステップS5では、ステップS4において加熱下の混練によりポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散した溶融樹脂を装置から外部に取り出して冷却する。冷却後には、無色透明で硬く強靭な固体のポリエステル系樹脂組成物が得られた。
【0027】
このような構成の本第1の実施の形態においては、ポリエステル系樹脂に多価アルコールを加えて加熱下で反応させることによって、ポリエステル系樹脂は主鎖が切断されて低分子化するので、製造されるポリエステル系樹脂組成物は加熱時の流動性が良好なものとなる。また、低分子化によって強度が低下したポリエステル系樹脂にポリスチレン系樹脂を一部溶解させると同時に微細分散させることによって、強度を補強し靭性を備えたポリエステル系樹脂組成物を製造することができる。
【0028】
次に、本発明に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法の第2の実施の形態を図2に基づき説明する。(特に、請求項2乃至請求項4に対応)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法工程を示す概念図である。
図2において、本第2の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法は、前述の図1に示した第1の実施の形態の場合におけるステップS1とステップS3を同時に行うものであり、ポリエステル系樹脂と多価アルコールと、さらにポリスチレン系樹脂を同時に投入して加熱下で混練して得られる生成物を冷却することにより、流動性と靭性を備え、透明なポリエステル系樹脂組成物を製造することができる。
【0029】
まず、ステップS1では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとポリスチレン系樹脂を混練装置に投入する。前述の第1の実施の形態と同様に、ポリエステル系樹脂には、ポリエチレンテレフタレートやその共重合体やポリブチレンテレフタレートのバージン樹脂及び廃棄物を利用したものを用いる。また、多価アルコールには、3価のグリセリンや4価のペンタエリスリトール等を用い、そして、ポリスチレン系樹脂には、HIPSやGPPSを用いる。なお、配合する割合は、ポリエステル系樹脂100部に対して、多価アルコールを5〜10部、ポリスチレン系樹脂を5〜10部とするのが好ましい。
【0030】
次に、ステップS2は、混練工程を示している。このステップS2では、ラボプラストミル等の混練装置を用いて250℃から320℃の温度範囲で加熱して混練する。加熱下の混練によって、ポリエステル系樹脂と多価アルコールが反応して、ポリエステル系樹脂が低分子化されるとともに、ポリエステル系樹脂に分岐構造が形成される。そして、同時に、ポリエステル系樹脂中に軟化したポリスチレン系樹脂の一部が溶解し、一部がブレンドされて微細分散する構造を形成していく。
【0031】
そして、ステップS3は、冷却工程を示している。このステップS3では、ステップS2において生成したポリエステル系樹脂中にポリスチレン系樹脂が一部溶解すると同時に微細分散した溶融樹脂を装置から外部に取り出して冷却すると、無色透明で硬く強靭な固体のポリエステル系樹脂組成物を得ることができる。
【0032】
このように構成された本第2の実施の形態においては、ポリエステル系樹脂組成物を製造するにあたって、ポリエステル系樹脂と多価アルコールの反応と、ポリスチレン系樹脂のブレンドを一つの工程で同時に進めるので、製造工程の簡略化と製造時間の短縮が可能で、作業効率を高めることができる。
【0033】
続いて、本第2の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法によって製造されたポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダーの実施例について説明する。(特に、請求項5及び請求項6に対応)
【実施例1】
【0034】
ポリエステル系樹脂として共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂45gと、多価アルコールとしてグリセリン4.5gと、ポリスチレン系樹脂として耐衝撃性ポリスチレン樹脂4.5gとをラボプラストミル(東洋精機製作所製、ミキサータイプヘッド付き)に投入し、270℃の温度で、回転数を50rpmとして30分間混練した。溶融した樹脂は高粘度であったが、次第に低粘度になり液状を示した。これを取り出して冷却すると硬く強靱な無色透明の固体状のポリエステル系樹脂組成物が得られた。この固体状のポリエステル系樹脂組成物は、加熱すると105℃で粘稠な液体となり、さらに、冷却すると80℃で再び固体状となった。
次に、このポリエステル系樹脂組成物を舗装用バインダーとして使用するために、ポリエステル系樹脂組成物10gと平均直径4mmのガラスカレット90gとを120℃に加熱して混合し、10mmの厚さの板状に延ばして冷却した。得られた板は、強固で透水性を示し、透明なガラスカレットの美観を保持したものであった。
【0035】
このように得られるポリエステル系樹脂組成物は、加熱すると軟化して流動性を示し、冷却すると、硬く強靭な固体となるので、舗装用バインダーに適用することができる。また、比較的低温の加熱で容易に軟化し、冷却するだけで再度固体になるので、煩雑な舗装作業を簡略化することができる。そして、無色透明であるので、ガラスカレットのように透明で美観に優れる舗装においてもその美観を損ねずに舗装することができる。また、例えば横断歩道や歩道に備えられる点字ブロック等、特に注意を引く必要のある舗装部分に用いることで、透明性に加えて期待される反射性によってより視認性を高めた設備とすることができる。さらに、透水性を示すので、雨水などが貯留しにくい水はけの良好な舗装を提供することができる。
なお、本実施例では、ポリエステル系樹脂と多価アルコールとポリスチレン系樹脂を同時に投入して混練しているが、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを混練した後にポリスチレン系樹脂を投入して得られるポリエステル系樹脂組成物においても、本実施例で得られるポリエステル系樹脂組成物と同様の特性を示し、舗装用バインダーとして適用できるものである。
【0036】
次に、本第2の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法において製造条件を変更した場合の実施例について説明する。
【実施例2】
【0037】
ポリエステル系樹脂45gと、多価アルコール4.5gと、ポリスチレン系樹脂5gとをラボプラストミル(東洋精機製作所製、ミキサータイプヘッド付き)に投入し、250〜350℃の温度範囲で、回転数を50rpmとして10〜60分間混練した。混練後の生成物を冷却して特性を評価した結果を表1に示す。なお、ポリエステル系樹脂には、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという。)、共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、共重合PETという。)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという。)を用いた。また、多価アルコールにはグリセリンとペンタエリスリトールを用いた。そして、ポリスチレン系樹脂にはHIPS、GPPS及びスチレンブタジエンラバー(以下、SBRという。)と、ポリスチレン系樹脂に代わってポリエチレン(以下、PEという。)とポリプロピレン(以下、PPという。)を用いた。
【0038】
なお、結果の評価は以下の方法で行った。
着色については、目視し、無色をなしとし、白色を呈したものは白とした。また、透明性は、10mmの厚みの板を通して下の文字が判別できるものを透明とし、判別できないものを不透明とした。また、流動性は、180℃に加熱した際に容易に滴下するか否かを判断した。そして、強靱性は、ガラスカレットを用いて固めたブロックを1mの高さからコンクリート床面に落下させて割れない場合を強靭とし、割れた場合を脆いとした。最後に、接着性は、ガラスカレットを用いて固めたブロックのガラス片が相間で剥離しないものを良好とし、剥離したものを劣るとした。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、試料No.1から試料No.4においてポリエステル系樹脂を変更した場合、共重合PET、PET及びPBTにPETを加えたものでは、得られたポリエステル系樹脂組成物は全ての結果が良好であり、特性を満足するものであった。一方、PBTを単独に用いた試料No.3においては、得られたポリエステル系樹脂組成物は白色かつ不透明で溶解性に問題があった。PBTは結晶性が高い樹脂であるので、単独に用いた場合では冷却時等に結晶化が進行し、白色や不透明になったと考えられる。
図3に符号1として、上記の試料No.1を用いて製造された実施例に係るポリエステル系樹脂を示す。図3の右半分で下の文字である「スチック」が読み取れる部分を覆うものが試料No.1を用いて製造されたポリエステル系樹脂である。厚さは約1cmであるが、透明性が高く下の文字がはっきり読み取れることがわかる。
【0041】
また、多価アルコールにペンタエリスリトールを用いた試料No.5では、グリセリンの場合と同様に、結果が良好で特性を満足するポリエステル系樹脂組成物が得られている。
ポリスチレン系樹脂を変更した場合では、HIPSに代わってGPPSを用いた試料No.6においても良好な結果が得られている。一方、SBRを用いた試料No.9と、ポリスチレン系樹脂に代わってPEとPPを用いた試料No.7と試料No.8では、着色、流動性、透明性、強靭性、接着性及び溶解性のいずれも結果が不良であり、満足するポリエステル系樹脂組成物は得られなかった。
そして、混練の温度と時間を変更した試料No.10から試料No.15について説明する。温度が若干低い250℃の試料No.10では、着色、流動性、透明性及び接着性が不良となり特性のほとんどが劣ったが、試料No.11では、時間をNo.10の30分から60分と長くすることで、流動性と接着性がそれぞれ改善され評価として良好となった。すなわち、混練の温度が低い場合には、混練の時間を長くして反応時間を稼ぐことで特性の向上を図ることができることが理解された。また、温度は270℃であるが時間が10分と短い試料No.12では、いずれの特性も満足できなかった。前述の試料No.1を示した図3の右半分に対して、図3の左半分には、符号2としてこの試料No.12が示されている。透明度が低く白く着色されているため、下の文字を読み取ることができない。
また、温度を高温にした場合、300℃の試料No.13と320℃の試料No.14では、いずれも結果が良好であったが、350℃の試料No.15では、褐色に着色しており、ポリエステル系樹脂の熱分解が進行して、強靭性や接着性に不具合を生じていると考えられる。
また、ポリエステル系樹脂とポリスチレン系樹脂の配合割合を変更した試料No.16及び試料No.17では、いずれも結果が不良であり、これらの樹脂の配合量には適正値があることを示唆する結果となった。
【実施例3】
【0042】
2軸押出機(スクリュウ径:30mm、軸間距離:27mm、L/D:40、同方向回転、プラスチック工学研究所製)を用いてポリエステル系樹脂組成物を連続的に製造した。なお、Lはスクリュウの長さを意味し、Dはスクリュウ径を意味している。
共重合PET樹脂19kg、グリセリン1kg、耐衝撃性ポリスチレン樹脂1kgを混合し、温度を270℃とし、回転数を250rpmとする条件で2軸押出機に供給した。樹脂は、連続的に供給されるが、2軸押出機における平均の混練時間は、5分である。2軸押出機の出口ノズルからは、低粘度の溶融樹脂として排出された。これを取り出して冷却すると強靭な無色透明の固体となった。
得られた個体をフライパン上で加熱すると、105℃で粘稠な液体となった。再度冷却すると80℃で固体となった。10gの上述の無色透明の固体と90gの平均直径4mmのガラスカレットをフライパンに取り、120℃に加熱して混合した。10mm厚さに延ばし板状に冷却すると、強固な板となり、透水性を発揮した。
【0043】
以上説明したとおり、本実施例では混練に2軸押出機を用いることで、2軸に設けられるスクリュウ間のクリアランスを狭くすることができ、もって剪断速度の効果をより強く働かせることができる。1軸であったり、2軸であってもクリアランスが広い場合には、剪断速度を理論的に高く設定しても実際のポリエステル系樹脂組成物の製造時には、樹脂原料が軸に付着して回転してしまったり、剪断速度が伝わらなかったりすることで、剪断速度の効果が発揮されないことも多くなってしまうが、2軸押出機であれば、クリアランスが狭く、剪断速度の効果がより発揮され、その結果、先の実施例2における試料No.1よりも特性の優れたポリエステル系樹脂組成物を製造することができた。
【実施例4】
【0044】
共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂45gと、グリセリン4.5gと、耐衝撃性ポリスチレン樹脂4.5gとをラボプラストミル(東洋精機製作所製、ミキサータイプヘッド付き)に投入し、270℃の温度で、回転数を10〜50rpmの範囲で変化させて30分間混練した。得られたポリエステル系樹脂組成物を冷却して特性を評価した結果を表2に示す。なお、評価方法は、実施例2と同様の方法で行った。
【0045】
【表2】

【0046】
表2において、回転数が小さい試料では、透明性、強靭性、接着性及び溶解性の結果が不良であることがわかる。一方、回転数が大きい試料ほど、結果が良好になる傾向があり、特性を満足するポリエステル系樹脂組成物を製造するためには、回転数を上げて、剪断速度を大きくする必要があるといえる。具体的には、本実施例の条件では、撹拌翼先端部の剪断速度が約1×10sec−1以上であることが望ましいことが理解される。
回転数を上げた試料においては、透明性、流動性、強靭性、接着性及び溶解性も良好であり、実施例1や実施例3に示されるポリエステル系樹脂組成物と同様に、舗装用バインダーに適用すると同時に、ガラスカレットのように透明で美観に優れる舗装においてもその美観を損ねずに舗装することができるという効果を発揮する。
なお、これまで説明した実施の形態においては、触媒を用いずにポリエステル系樹脂組成物を製造しているが、発明者らは試験段階において触媒を用いた実験も行っている。反応触媒として酢酸亜鉛をPETに対して0.1w%使用し、表1の試料No.1と同条件にて実験を行った。その結果、生成されたポリエステル系樹脂組成物は、強靭性や接着性は良好であったものの、粘度の低下した黒褐色の液状物質であり、特に透明性が発揮されなかった。これは、触媒によって反応が促進されると同時に、着色性も促進されたためであり、ガラスカレットのように透明で美観に優れる舗装を目的とする場合には、美観を損ねることなく舗装することが困難であると考えられた。そこで、発明者らは、鋭意研究を重ねて触媒の使用を避け、温度も可能な限り上げることなく、剪断速度を上げた撹拌装置を用いることで着色を抑制したのである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項6に記載された発明は、透明で強度と流動性を備えるポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそれを用いたバインダーを提供可能であり、ペットボトル等の廃棄物のリサイクル処理等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法の工程を示す概念図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係るポリエステル系樹脂組成物の製造方法の工程を示す概念図である。
【図3】本発明の実施例に係るポリエステル系樹脂組成物(試料No.1)とその比較対象物(試料No.12)を示す写真である。
【符号の説明】
【0049】
1…試料No.1 2…試料No.12


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱下で混練する工程と、前記ポリエステル系樹脂と前記多価アルコールにポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程とを有し、前記加熱は、250℃以上320℃以下の範囲の温度で行うことを特徴とするポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂と多価アルコールとポリスチレン系樹脂を加えて加熱下で混練する工程を有し、前記加熱は、250℃以上320℃以下の範囲の温度で行うことを特徴とするポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂100部に対して、前記多価アルコールを5〜10部、前記ポリスチレン系樹脂を5〜10部の割合で配合することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記混練は、1.0×10sec−1以上の剪断速度で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のポリエステル系樹脂組成物の製造方法によって製造されることを特徴とするポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のポリエステル系樹脂組成物を含有することを特徴とするバインダー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−29878(P2009−29878A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193512(P2007−193512)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(304022632)株式会社 イチキン (7)
【Fターム(参考)】