説明

ポリエステル組成物およびその製造方法

【課題】平均粒径の小さな真球状シリカ粒子を凝集が少なく極めて均一に分散されたポリエステル組成物およびそれを効率的に製造できるポリエステル組成物の製造方法を提供。
【解決手段】ポリエステルに、平均粒径が0.5μm以下のテトラアルコキシド法によって得られた真球状シリカ粒子と特定のホスホネート化合物とを含有させ、シリカ粒子は2個以上の真球状シリカ粒子が密接した状態にある凝集粒子の割合が高々25%で含有量が0.01〜3.0重量%の範囲にあり、ホスホネート化合物の含有量が10〜180ppmの範囲であるポリエステル組成物およびエステル化反応もしくはエステル交換反応の反応系に、その温度が215℃に上昇する前に粒子を添加し、その後重縮合反応を開始する前に、該ホスホネート化合物を添加する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、真球状シリカ粒子が均一に分散されたポリエステル組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有し、磁気テープ、電気絶縁材料、コンデンサー、写真フィルムまたは包装材等などのフィルム用途に広く用いられている。
【0003】
このようなポリエステルをフィルムなどに用いる場合、得られるフィルムに優れた巻き取り性を付与する目的で、不活性粒子が添加されている。そして、このような不活性粒子の中でも、アルコキシド法や水ガラス法によって得られる真球状シリカ粒子は、形状が極めて真球状で粒度分布がシャープであることから、フィルム表面に突起を均一に形成しやすく好適に用いられている。
【0004】
ところで、近年のフィルムへの要求はますます高度になり、例えば従来よりも高度な表面平坦性が要求されてきている。そのため、含有させる真球状シリカ粒子もより平均粒径の小さな粒子、具体的には平均粒径で0.5μm以下のようなシリカ粒子を使用する必要性が高まってきている。
【0005】
しかしながら、前述のとおり、優れた特性を有する真球状シリカ粒子ではあるが、粒子径が小さくなっていくと、シリカ粒子同士が凝集が発生し易く、フィルム成形時にフィッシュアイなどといった欠点が頻発してくるという問題があった。そのため、ポリエステル組成物には、より平均粒径の小さな真球状シリカ粒子を、凝集を抑制しつつ均一に分散させることが望まれていた。
【0006】
このようなシリカ粒子などの不活性粒子の凝集抑制技術としては、例えば不活性粒子をエチレングリコールスラリーとして加水分解可能な有機金属化合物をグリコール中で加水分解し、更に縮合させた微粒子を添加する方法が特許文献1(特開平7−216068号公報)で、親水性官能基を有するケイ素含有有機物で表面処理したシリカ微粒子をベント式2軸混練押出機にて熱可塑性樹脂と混練する方法が特許文献2(特開平11−216722号公報)で提案され、また、16メッシュ以上のJIS標準ふるいを通過するポリエステル樹脂粉末を無機粒子と同時に添加し混錬する方法特許文献3(特開2003−155351号公報)などが提案されている。しかしながら、これらの公報に提案された方法でも、平均粒径が0.5μm以下といったきわめて小さい真球状シリカ粒子に対しては不十分であり、また不活性粒子を別に処理する工程が必要であることから単に不活性粒子を添加する工程に比べて生産効率が劣るなどといった問題もあった。また不活性粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、温度が150〜260℃で圧力が0.05〜0.3MPaの高温加圧処理する方法も特許文献4(特開2003−238671号公報)で提案されているが、この方法でも平均粒径が0.5μm以下といったきわめて小さい真球状シリカ粒子に対しては、その凝集抑制効果は充分でなく、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
また、不活性粒子の凝集抑制とは関係なく、重合触媒としてチタン触媒を用い、シリカ粒子とカルボキシ基を含むホスホネート化合物を使用する方法が特許文献5(特開2005−239940号公報)で提案されているが、やはり不活性粒子の凝集抑制効果としては充分でなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平7−216068号公報
【特許文献2】特開平11−216722号公報
【特許文献3】特開2003−155351号公報
【特許文献4】特開2003−238671号公報
【特許文献5】特開2005−239940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はかかる従来技術の問題点を解消し、平均粒径の小さな真球状シリカ粒子を凝集が少なく極めて均一に分散されたポリエステル組成物およびそれを効率的に製造できるポリエステル組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のシリカ粒子と特定のホスホネート化合物を特定の条件で添加することによりシリカ粒子の分散性が飛躍的に向上することを見出し本発明に到達したものである。
【0011】
かくして本発明によれば、本発明の目的は、エチレンテレフタレート単位またはエチレン−2、6−ナフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルに、真球状シリカ粒子とリン化合物とを含有させたポリエステル組成物であって、
真球状シリカ粒子は、平均粒径が0.5μm以下のテトラアルコキシド法によって得られた粒子であり、その含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、0.01〜3.0重量%の範囲にあること、
リン化合物は、下記一般式(I)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xは−(CH)m−又は−CH(Y)−(mは0以上4以下の整数、Yはフェニル基)を表す。)
で示すホスホネート化合物で、その含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量で10〜180ppmの範囲となるように添加されていること、そして
2個以上の真球状シリカ粒子が密接した状態にある凝集粒子の割合が、全真球状シリカ粒子の一次粒子の個数を基準として、高々25%であること
を同時に具備するポリエステル組成物によって達成される。
【0012】
また、本発明によれば、本発明の好ましいポリエステル組成物の態様として、マンガン化合物、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、触媒残渣として含有すること、長径が10μm以上の凝集粒子の個数が、高々12個/シリカ1mgであること、真球状シリカ粒子が、ポリエステルのエステル交換反応もしくはエステル化反応の温度が215℃に上昇する前に添加された粒子であること、フィルムへの製膜に用いられることの少なくともいずれか一つをさらに具備するポリエステル組成物も提供される。
【0013】
さらにまた、本発明によれば、テレフタル酸成分又は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とを用いて、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応を経由してポリエステルを製造する際に、
(A)エステル化反応もしくはエステル交換反応の反応系に、その温度が215℃に上昇するのまでの間に、平均粒径が0.5μm以下のテトラアルコキシド法によって得られた真球状シリカ粒子を、得られるポリエステル組成物に対して、0.01〜3.0重量%となる範囲で添加し、かつ
(B)シリカ粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、リン化合物として、上記式(I)で示されるホスホネート化合物を、ポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量で10〜180ppmとなるように添加するポリエステル組成物の製造方法も提供され、さらにその好ましい態様として、エステル化反応もしくはエステル交換反応が、マンガン化合物、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の触媒の存在下で行われることを具備するポリエステル組成物の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定のシリカ粒子と上記式(I)で示すホスホネート化合物を熱安定剤として用いることで、平均粒径が極めて小さい真球状シリカ粒子を、ポリエステル組成物中に均一に分散でき、極めて表面平坦性が求められるフィルムなどの原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明におけるポリエステルは、主たる繰り返し単位、好ましくは繰り返し単位の85mol%以上が、エチレンテレフタレート単位又はエチレン−2、6−ナフタレート単位からなり、本発明の目的を損なわない範囲、例えば芳香族ポリエステルの全繰返し単位に対して、15モル%以下で、10モル%以下で、他の第3成分を共重合した共重合体であっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(主たる繰り返し単位がエチレン−2、6−ナフタレート単位の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位の場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0016】
また、本発明のポリエステル組成物は、エチレンテレフタレート単位又はエチレン−2、6−ナフタレート単位とは異なる他の樹脂を、本発明の目的を損なわない範囲、例えばポリエステル組成物の重量を基準として、20重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲でブレンドしたものであってもよい。
【0017】
本発明のポリエステル組成物は、平均粒径0.5μm以下の真球状シリカ粒子を含むことが必要である。本発明における真球状とは、例えば走査型電子顕微鏡により、用いたシリカ粒子のサイズに応じた倍率にて各粒子の写真を撮影し、画像解析処理装置ルーゼックス500(日本レギュレーター社製)を用い、投影面最大径(D)(μm)および粒子の体積(V)(μm)を測定し、VをDで割ることにより体積球状係数(f)を算出した。そして、本発明における真球状粒子とは、fが0.4〜π/6といった粒子を意味する。
【0018】
また、本発明におけるシリカ粒子は、フィルムとしたときに比較的均一な突起高さの突起を形成しやすい球状の形状を有する粒子が好ましいことから、シリカ粒子の長径の平均値(D)を、シリカ粒子の短径の平均値(D)で割った粒径比(D/D)が1.0〜1.2の範囲にあることが好ましい。
【0019】
ところで、真球状シリカ粒子を製造する方法としては、テトラアルコキシシランを加水分解・重縮合することによって製造するアルコキシド法やケイ酸ソーダを原料として加水分解・重縮合することによって得る水ガラス法やゲル法がある。そして、本発明で使用する真球状シリカ粒子は、その理由は不明であるが、テトラアルコキシシランを加水分解・重縮合することによって製造するアルコキシド法であることが、分散性を高めるために必要である。なお、アルコキシド法によって得られたシリカ粒子は、例えば濃度20重量%のエチレングリコールスラリーとしたとき、該スラリー中のNa含有量は総じて低く20ppm以下となり、水ガラス法やゲル法によって得られるシリカ粒子と区別することができる。すなわち、アルコキシド法によって得られるシリカ粒子はナトリウム元素の含有量が、20ppm以下、好ましくは10ppm以下、特に1ppm以下とできるが、原料としてケイ酸ソーダを使用する水ガラス方法やゲル法によって得られるシリカ粒子は、これほどナトリウム元素量を少なくすることは困難であるからである。なお、アルコキシド法によって製造されたシリカ粒子は、スラリー状であり、表面電位が高くて安定性があることから、さらに凝集を抑制しやすいという利点もある。
【0020】
本発明によるシリカ粒子の分散性向上効果は、より平均粒径の小さいシリカ粒子で発現し易い、換言すれば、平均粒径が1μmのような大きな粒子では凝集自体が少なく、十分な効果が発現されない。そのため、本発明では、シリカ粒子の平均粒径は、0.5μm以下であることが必要であり、好ましくは0.3μm以下、更に0.2μm以下であることが本発明の効果の点から好ましい。なお不活性粒子の平均粒径の下限については、特に制限されないが、取扱い性などの観点から0.01μm以上であることが好ましい。
【0021】
本発明においてポリエステル組成物に含有させるシリカ粒子の量は、得られるポリエステル樹脂組成物の重量を基準として、0.01〜3.0重量%の範囲にする必要がある。シリカ粒子の含有量が下限より少ないと、フィルムなどに製膜するときのフィルム巻き取り性を向上させる効果が乏しく、シリカ粒子を含有させる意義が損なわれる。他方、シリカ粒子の含有量が上限を超えると、本発明の製造方法を採用しても、粒子同士の接触する頻度が高まり、凝集が起こり易くなる。好ましいシリカ粒子の含有量は、0.05〜2.0重量%、さらに0.07〜1.0重量%、特に0.1〜0.4重量%である。
【0022】
また、本発明で使用する真球状シリカ粒子は、不活性粒子自体に含まれる粗大粒子の少ないものが好ましく、積算粒子数70%の粒子径(D70)を積算粒子数30%の粒子径(D30)で割った値(D70/D30)が1.1〜2.0、さらに1.2〜1.5の範囲にあることが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル組成物は、熱安定剤として使用されるリン化合物として、更に前記一般式(I)で示すホスホネート化合物を含有することが必要である。前記一般式(I)で表されるホスホネート化合物のRおよびRは、それぞれ炭素数1以上4以下のアルキル基である。Xは−(CH)m−または−CH(Y)−であり、mは0以上4以下の整数、Yはフェニル基を表す。なお、式中のRとRは、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。これらの中でも、特に好ましいホスホネート化合物として、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボブトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロポキシ−ホスホノ−フェニル酢酸およびカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸などが挙げられる。上記したホスホネート化合物は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用してもよい。特に好ましく用いられるものとして、ジエトキシホスホノ酢酸エチル、ジエトキシホスホノ酢酸メチルが例示される。
【0024】
このようなホスホネート化合物を熱安定剤として使用することで得られるシリカ粒子の分散性が向上する理由は定かでないが、以下のように考えられる。まず、一般的にシリカ粒子などの不活性粒子を均一に分散させるには、より早い段階でポリエステルに添加するのが有利で、ポリエステルの製造工程におけるエステル化反応やエステル交換反応の段階で添加するのが好ましい。一方、通常エステル化反応やエステル交換反応終了後には得られるポリエステルの熱安定性を向上させるため、熱安定剤としてリン化合物が添加される。本発明者らの研究によれば、このリン化合物を添加するときに、シリカ粒子の凝集が発生し、それが本発明で挙げた上記式(I)で示されるホスホネート化合物では抑制されるためではないかと考えられる。
【0025】
本発明においてポリエステル組成物に含有させる前記一般式(I)のホスホネート化合物の量は、ポリエステル組成物に対して、リン元素の量として10〜180ppmとする必要がある。ホスホネート化合物の含有量が、下限未満の場合は、ポリエステル組成物の熱安定性が乏しくなりやすく、他方上限を超えると、ホスホネート化合物自体の分解によるためか、熱安定性に乏しくなる。好ましいホスホネート化合物の含有量は、12〜140ppm、さらに15〜100ppm、特に20〜70ppmの範囲である。なお、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤として他のリン化合物を併用しても良いが、分散性の観点からは、全リン化合物が、前述の式(1)で示したリン化合物であるものが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル組成物は、エステル化反応またはエステル交換反応を、マンガン化合物、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物のいずれかの存在下で行われると、シリカ粒子の凝集をさらに抑制でき、しかも凝集粒子の中でも特に長径が1μmを越えるような粗大粒子の発生を抑制することができることから好ましい。マンガン化合物、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物が存在しない、例えばチタン化合物をエステル交換触媒と重縮合触媒の両方に用いると、凝集は抑制されるものの、マンガン化合物、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物のいずれかの存在下で行われるものに比べて劣るものとなりやすい。本発明のポリエステル組成物に含有されるマンガン化合物、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の含有量は、ポリエステル組成物の重量を基準として、各金属元素の合計量として、10ppm以上、さらに20ppm以上、特に30ppm以上であることが、分散性を向上させつつ、エステル交換反応などの反応速度を十分に高めやすいことから好ましい。なお、マンガン化合物、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物の含有量の上限は、これらの析出による析出異物を抑える観点から、高々200ppmであることが好ましい。
【0027】
ところで、本発明のポリエステル組成物は、フィルムなどに製膜したときに、従来のシリカ粒子を含有するものに比べて、優れた平坦性を発現するために、後述の条件でフィルムに製膜したとき、2個以上の真球状シリカ粒子が密接した状態にある凝集粒子の割合(以下、凝集率と称することがある。)が、全真球状シリカ粒子の一次粒子の個数を基準として、高々25%であることが必要である。凝集率が上限を超えると、従来の単純にシリカ粒子を含有させただけのポリエステル組成物に対して、十分な平坦性向上効果が発現されない。好ましい凝集率は、20%以下、さらに15%以下、特に10%以下である。なお、このような凝集率は、前述の特定のシリカ粒子とホスホネート化合物とを、後述の製造方法で説明するように添加する時期や条件を調整することなどで本発明の範囲内とすることができる。
【0028】
また、同様な理由から、本発明のポリエステル組成物は、前述の凝集粒子の中でも長径が1μmを越えるような粗大粒子の割合(以下、大凝集数と称することがある。)が、12個/シリカ粒子1mg以下であることが、フィルムなどに製膜したときに、従来のシリカ粒子を含有するものに比べて、優れた平坦性を発現しやすいことから好ましい。粗大粒子の頻度が上限を超えると、従来の単純にシリカ粒子を含有させただけのポリエステル組成物に対して、十分な平坦性向上効果が発現されても、欠点となるような突起が形成されやすくなる。好ましい粗大粒子の頻度は、10個/シリカ粒子1mg以下、8個/シリカ粒子1mg以下である。なお、このような粗大粒子の割合は、前述の特定のシリカ粒子とホスホネート化合物とを、後述の製造方法で説明するように添加する時期や条件を調整し、さらにカルシウム化合物、マグネシウム化合物またはマンガン化合物などを併用することなどで本発明の範囲内とすることができる。
【0029】
次に、もう一つの本発明であるポリエステル組成物の製造方法について説明する。
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、エステル交換法もしくは直接エステル化法を経由し、それらで得られた低重合体を重縮合反応させる溶融重合法である。エステル交換反応触媒としては、先述したようにマンガン、マグネシウム、カルシウム等の化合物を使用し、エステル交換反応開始時から存在するように添加するのが好ましい。なお、エーテル化防止剤、また重縮合に用いる重縮合触媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、末端封鎖剤などは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知のものを好適に使用することができる。例えば、エーテル化防止剤としてはアミン化合物等が好適に例示できる。また、重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン、アルミニウム等の化合物が例示できる。
【0030】
本発明の製造方法の特徴のひとつは、反応系の温度が215℃に上昇するまでの範囲にあるエステル化反応もしくはエステル交換反応で、前述のテトラアルコキシド法によって得られた真球状シリカ粒子を、ポリエステル組成物に対して、0.01〜3.0重量%となるように添加することである。エステル化反応もしくはエステル交換反応に、反応系の温度が215℃になるよりも前の段階でシリカ粒子を添加することにより、シリカとポリエステルとの親和性が向上し、凝集抑制効果につながる。エステル化反応もしくはエステル交換反応終了後では、シリカとポリエステルとの親和性向上効果が十分に発現されない。なお、反応系に添加する温度の下限は、特に制限されないが、本発明の効果の点から、150℃以上が好ましい。一方、反応系の温度が215℃を超えると、添加したときにシリカ粒子の凝集が発生してしまう。なお、シリカ粒子の添加方法としては、よりシリカ粒子の凝集を抑制しやすいことから、エチレングリコール溶液の状態で添加するのが好ましい。エチレングリコール溶液中のシリカ粒子の濃度は特に制限されないが、凝集抑制の面からはできるかぎり濃度が低い方が好ましい。ただし、過度に濃度が低くなると、過剰にエチレングリコールを添加することになり、ポリエステル組成物中のジエチレングリコール量が増加させるといった問題があり、1〜30wt%、さらに3〜25wt%の範囲で添加するのが好ましい。なお、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0031】
更に、本発明のもうひとつの特徴は、シリカ粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、主たる熱安定剤として、前記式(I)で示されるホスホネート化合物を添加することである。従来から熱安定剤として使用されている正リン酸などでは、ポリマーの熱安定性は向上できるものの、シリカ粒子の凝集が発生してしまう。前記式(I)で示されるホスホネート化合物の添加量は、前述の組成物の量となるように調整するのが好ましく、例えば全酸成分のモル数を基準として、リン元素量で8〜150mmol%、10〜120mmol%、特に12〜80mmol%とするのが好ましい。ところで、該ホスホネート化合物の添加方法としては、よりシリカ粒子の凝集を抑制しやすいことから、エチレングリコール溶液の状態で添加するのが好ましい。エチレングリコール溶液中のホスホネート化合物の濃度は特に指定されないが、凝集抑制の面からはできるかぎり濃度が低い方が好ましい。ただし、過度に濃度が低くなると、過剰にエチレングリコールを添加することになり、ポリエステル組成物中のジエチレングリコール量が増加させるといった問題があり、0.5〜30wt%、さらに1〜20wt%の範囲で添加するのが好ましい。なお、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0032】
このようにして、シリカ粒子およびホスホネート化合物を添加した後、所望とする固有粘度になるまで重縮合反応を行い、さらに要すれば固相重合などを行うことで、本発明のポリエステル組成物を製造することができる。なお、得られるポリエステル組成物の固有粘度は、フィルムとしたときの強度や耐摩耗性などの観点から、0.40dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.45〜1.0dl/gの範囲であることが好ましい。
【0033】
以上、説明してきた本発明の製造方法を用いれば、シリカ粒子のポリエステル組成物中の分散性を向上でき、新たにシリカ粒子に特別の処理を行なわなくても、凝集が抑制され均一に分散されたポリエステルを製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル組成物の特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0035】
(1)固有粘度(IV)
ポリマーサンプルを35℃の温度下で、オルソクロロフェノールに溶解して測定した。
【0036】
(2)シリカ粒子エチレングリコールスラリー中のナトリウム量
シリカ粒子を濃度20重量%で含有するエチレングリコールスラリーを作成し、該スラリーサンプルに1規定塩酸を加え、水で希釈した後、偏光ゼーマン原子吸光光度計(日立製 Z−2300型)で吸光度を測定し、定量を行った。
【0037】
(3)シリカ粒子の平均粒径、積算粒子数(体積換算)70%および30%の粒子径
レーザー散乱式粒度分布測定器(島津製作所製SALD2000)を用いて測定した積算粒度分布から、積算粒子数(体積換算)50%の粒子径を平均粒径とした。同様に積算粒子数(体積換算)70%の粒子径(D70)と同30%の粒子径(D30)もそれぞれ測定した。
【0038】
(4)シリカ粒子の粒径比
シリカ粒子を走査型電子顕微鏡(日立製S-3100型)で100個の粒子について、長径(D)・短径(D)を測定し、それぞれの平均値を求め、平均長径を平均短径で割った値を粒径比とした。
【0039】
(5)ポリマー中のリン、マンガン含有量
ポリマーサンプルを加熱溶融して、円形ディスクを作成し、リガク製蛍光X線装置3270型を用いて測定し、ポリエステル組成物の重量を基準として、それぞれの元素量として定量を行った。
【0040】
(6)ポリマー中のカルシウム、マグネシウム含有量
ポリマーサンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について偏光ゼーマン原子吸光光度計(日立製Z−2300型)で吸光度を測定し、ポリエステル組成物の重量を基準として、それぞれの元素量として定量を行った。
【0041】
(7)ポリマー中シリカ粒子の凝集粒子率
得られたポリエステル組成物をフィルムに製膜した後、得られたフィルムサンプルをエイコーエンジニアリング(株)製スバッターリング装置(1B−2型イオンコーター装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、シリンダージャー内に試料を設置し、約6.65Pa(5×10-2Torr)の真空状態まで真空度を上げ、電圧0.45kV、電流5mAにて約15分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にてフィルム表面に金スパッターを施した。そして走査型電子顕微鏡(日立製S-2150)を用いて、測定倍率5千倍〜2万倍で2×10−3mmの範囲にある全一次粒子数及び凝集粒子の数をカウントし、凝集粒子率(%)は凝集粒子数を全一次粒子数で割ることにより求めた。なお、ここで、2ケ以上のシリカ粒子が集まっているものを凝集粒子とし、2個の一次粒子からなる場合、凝集粒子数は2個、3個の一次粒子からなる場合、凝集粒子数は3個といったようにカウントした。
【0042】
なお、フィルムサンプルは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステル組成物である場合は、該組成物を180℃で4時間乾燥した後、290℃で溶融状態とし、回転しているキャスティングドラムに溶融状態の樹脂組成物を押出して、厚さ350μmの未延伸シート状物を得、この未延伸シートを二軸延伸装置にて150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ同じ倍率で同時二軸延伸し、厚さが25μmのフィルムサンプルとした。一方、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステル組成物である場合は、該組成物を160℃で4時間乾燥した後、280℃で溶融状態とし、回転しているキャスティングドラムに溶融状態の樹脂組成物を押出して、厚さ400μmの未延伸シート状物を得、この未延伸シートを二軸延伸装置にて110℃で長手方向および幅方向にそれぞれ同じ倍率で同時二軸延伸し、厚さが25μmのフィルムサンプルを作成した。
【0043】
(8)ポリマー中シリカ粒子の大凝集数
シリカ0.25gを含むポリマーサンプルをクロロホルム/ヘキサフロロイソプロパノールの混合液に溶解後、凝集粒子を壊さないように、直径25mm、3μmのメンプレンフィルターにてろ過した。フィルターを走査型電子顕微鏡(日立製S-3500)を用いて、0.1mm2にある長径10μm以上のシリカ凝集粒子をカウントした。観察面積比より、シリカ1mg中の大凝集数として表す。
【0044】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)100モルとエチレングリコール(EG)200モル、酢酸マンガン四水和物 0.03モルとをエステル交換反応槽に仕込み、190℃まで昇温した。次いで10%エチレングリコールスラリーとしてアルコキシド法によって得られた平均粒径が0.1μmの真球状シリカ粒子を得られるポリエステルの重量を基準として、0.3wt%となるように表1に示すようなシリカ粒子を添加した。その後、240℃に昇温しながらメタノールを除去しエステル交換反応を終了した。
【0045】
その後、三酸化二アンチモン0.02モルとジエトキシホスホノ酢酸エチルの10wt%エチレングリコール溶液を、リン量で0.04モル添加した。得られた反応生成物を重合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度290℃、50Paの真空下で重縮合を行った。目標の攪拌動力となった時点でポリエステル組成物を取り出した。
得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0046】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
エステル交換反応触媒の種類、量およびホスホネート化合物の種類を更にシリカ粒子の種類、量、添加温度を表1に示すとおり変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(NDCM)100モルとエチレングリコール(EG)200モル、酢酸マンガン四水和物 0.03モルとをエステル交換反応槽に仕込み、190℃まで昇温した。次いで10%エチレングリコールスラリーとしてアルコキシド法によって得られた平均粒径が0.3μmの真球状シリカ粒子を得られるポリエステルの重量を基準として、1.5wt%となるように添加した。その後、250℃に昇温しながらメタノールを除去しエステル交換反応を終了した。その後、三酸化二アンチモン0.02モルとジエトキシホスホノ酢酸エチルの10wt%エチレングリコール溶液を、リン量で0.05モルとなるように添加した後、重縮合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度300℃、50Paの真空下で重縮合を行った。目標の攪拌動力となった時点でポリエステル組成物を取り出した。
得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0048】
[実施例5〜6、比較例3〜4]
エステル交換反応触媒の種類、量およびホスホネート化合物の種類、量を更にシリカ粒子の種類、量、添加温度を表1に示すとおり変更した以外は実施例4と同様な操作を繰り返した。得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0049】
[実施例7]
ナフタレンジメチルエステル(NDCM)100モルとエチレングリコール(EG)200モルとをエステル交換反応槽に仕込み、170℃まで昇温した。次いでトリメリット酸チタンを0.005モル添加し、10%エチレングリコールスラリーとしてアルコキシド法によって得られた平均粒径が0.1μmの真球状シリカ粒子を得られるポリエステルの重量を基準として、0.3wt%となるように添加した。その後エステル交換反応槽全体を0.10MPaへ加圧して230℃でエステル交換反応を実施した。エステル交換反応槽内温が250℃に到達後、放圧しジエトキシホスホノ酢酸エチルの10wt%エチレングリコール溶液を、0.01モルとなるように添加した後、重縮合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度300℃、50Paの真空下で重縮合を行った。目標の攪拌動力となった時点でポリエステル組成物を取り出した。
得られたポリエステル組成物の特性を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1中のエステル交換触媒の添加量と含有量は、それぞれの元素量としての量であり、Na量は20重量%エチレングリコールスラリーとしたときの量、DMTはジメチルテレフタレート、NDCMは2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、水ガラス法はケイ酸ナトリウムを水に溶解させ、脱アルカリ後塩基性溶媒中で重合する方法、ゲル法はケイ酸ナトリウムを水と硫酸を加え、酸性側で中和反応させ、ゲル化させて水熱処理等で微粉シリカとする方法を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、ポリエステル組成物に凝集を起こしやすい平均粒径の小さなシリカ粒子を均一に分散させることができ、それをフィルムに用いた場合、極めて表面平坦性の優れたフィルムとすることができ、例えば磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位またはエチレン−2、6−ナフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルに、真球状シリカ粒子とリン化合物とを含有させたポリエステル組成物であって、
真球状シリカ粒子は、平均粒径が0.5μm以下のテトラアルコキシド法によって得られた粒子であり、その含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、0.01〜3.0重量%の範囲にあること、
リン化合物は、下記一般式(I)で示すホスホネート化合物で、その含有量が、ポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量で10〜180ppmの範囲となるように添加されていること、そして
2個以上の真球状シリカ粒子が密接した状態にある凝集粒子の割合が、全真球状シリカ粒子の一次粒子の個数を基準として、高々25%であること
を同時に具備することを特徴とするポリエステル組成物。
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xは−(CH)m−又は−CH(Y)−(mは0以上4以下の整数、Yはフェニル基)を表す。)
【請求項2】
マンガン化合物、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、触媒残渣として含有する請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
長径が10μm以上の凝集粒子の個数が、高々12個/シリカ粒子1mgである請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
真球状シリカ粒子が、ポリエステルのエステル交換反応もしくはエステル化反応の温度が215℃に上昇する前に添加された粒子である請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
フィルムへの製膜に用いられる請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
テレフタル酸成分又は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とを用いて、エステル化反応もしくはエステル交換反応および重縮合反応を経由してポリエステルを製造する際に、
(A)エステル化反応もしくはエステル交換反応の反応系に、その温度が215℃に上昇するのまでの間に、平均粒径が0.5μm以下のテトラアルコキシド法によって得られた真球状シリカ粒子を、得られるポリエステル組成物に対して、0.01〜3.0重量%となる範囲で添加し、かつ
(B)シリカ粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、リン化合物として、上記式(I)で示されるホスホネート化合物を、ポリエステル組成物の重量を基準として、リン元素量で10〜180ppmとなるように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【請求項7】
エステル化反応もしくはエステル交換反応が、マンガン化合物、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の触媒の存在下で行われる請求項6記載のポリエステル組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−24747(P2008−24747A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195542(P2006−195542)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】