説明

ポリエチレン樹脂組成物

【目的】成形加工性が良好で、かつフィルムを薄肉化しても充分な機械的強度を有するポリエチレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(ア)〜(カ)の要件を満たすメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレン99〜1重量%と、(キ)および(ク)の要件を満たす高圧法低密度ポリエチレン1〜99重量%からなるポリエチレン樹脂組成物を用いる。(ア)MFR0.1g/10分以上5.0g/10分未満、(イ)密度890〜940kg/m、(ウ)Mw/Mn2.0〜4.0、(エ)温度上昇溶離分別の微分溶出曲線のピークが2つ以上存在し、該ピーク温度が15℃以上90℃未満、(オ)該最大ピークの高さ(H)とその次に高いピークの高さ(H)との比が0.25以上、(カ)個々のピーク高さ(H)とピークの高さの1/2における幅(W)がW/H<1.70−0.016Tを満たし、(キ)MFR0.1〜15g/10分、(ク)密度910〜935kg/m

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装袋、ラップ、プロテクト、シーラントに使用されるフィルムに好適なポリエチレン樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、フィルム製膜時の成形加工性が良好で、かつフィルムに要求される機械強度に優れたフィルム用材料として好適なポリエチレン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン系重合体は、剛性、耐衝撃性、耐環境応力亀裂性(ESCR)、伸び特性、耐久性等の機械的性質に優れ、耐薬品性や電気的特性にも優れているため、押出成形品、射出成形品、フィルム、パイプ、ブロー容器など多岐な分野で使用されている。
【0003】
エチレン系重合体を良好に成形加工するために要求される特性はその成形方法や用途により異なり、たとえばインフレーション成形法によりフィルムを製造する場合は、良好なフィルムを高速で安定して得るため、バブルのゆれや破断がないように比較的高い溶融張力が必要である。同様の特性はTダイ成形時のネックインを抑制するため、あるいはブロー成形時のパリソンの垂れ下がりを抑制するためにも必要である。
【0004】
また押出成形においては、高せん断速度下におけるエチレン系重合体のせん断応力が小さいことも重要な特性である。押出時の負荷が減少することにより、高速成形への対応が可能となる、押出した樹脂の肌荒れが抑制され成形品の品質が向上する、成形時の消費電力が低減され経済性が良くなる等のメリットがある。
【0005】
しかし、エチレン系重合体の分子構造や分子量・分子量分布などの分子設計において、機械的物性と成形加工性は相反する場合が多く、例えば、メタロセン系触媒により得られるエチレン系共重合体は従来のチーグラー触媒あるいはCr触媒で得られるものと比較して分子量分布および組成分布が狭く、フィルムに成形した際の機械的強度や透明性などの光学特性は向上する反面、成形加工性は低下する。
【0006】
そこで、メタロセン系触媒により得られるエチレン系共重合体は、成形加工性と機械的強度や透明性などのフィルム物性のバランスを改善する目的で、高圧法低密度ポリエチレン樹脂等をブレンドして使用されるのが現状である。
【0007】
これについては、特定の物性を有するエチレン・α―オレフィン共重合体に特定の物性を有する高圧ラジカル法低密度ポリエチレンをブレンドし、成形加工性と機械強度をバランスさせた組成物が開示されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0008】
また、特定の物性を有し、密度とメルトフローレート(以下、MFRと言う。)が共に異なる2種のエチレン・α―オレフィン共重合体をブレンドしたエチレン・α―オレフィン共重合体組成物にさらに高圧ラジカル法による低密度ポリエチレンをブレンドしたエチレン系重合体組成物が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平06−65443号公報
【特許文献2】特開平07−026080号公報
【特許文献3】特開平06−207059号公報
【特許文献4】特開平06−329848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に記載の組成物を用いて厚みの薄いフィルムを高速で成形した場合は、成形フィルムに表面荒れが発生し易く、これを改良するため低密度ポリエチレンのブレンド量を増やすとフィルムの機械的強度が低下する問題が生じた。
【0011】
また、特許文献3、4に記載の組成物は、MFRの大きく異なる2種のエチレン・α―オレフィン共重合体をブレンドすれば上記成形加工性の問題を解決できるが、MFRの大きく異なるエチレン・α―オレフィン共重合体の溶融混合時の不均一さに由来すると考えられるフィルム強度の低下が生じ、高い機械的強度が要求される用途の薄肉化には自ずと限界があった。
【0012】
そこで、本発明は、成形加工性が良好で、かつフィルムを薄肉化しても充分な機械的強度を有するポリエチレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に関し鋭意検討を行った結果、特定の要件を満たす直鎖状低密度ポリエチレンと特定のMFRおよび密度を有する高圧法低密度ポリエチレンからなるポリエチレン樹脂組成物が、従来のポリエチレン系樹脂組成物に比べて、フィルム成形時の加工安定性が改善され、更には、フィルムを薄肉化した場合でも優れた機械的強度が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記(ア)〜(カ)の要件を満たすメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレン(a)99〜1重量%と、下記(キ)および(ク)の要件を満たす高圧法低密度ポリエチレン(b)1〜99重量%からなることを特徴とするポリエチレン樹脂組成物に関するものである。
(ア)190℃で測定したMFRが0.1g/10分以上5.0g/10分未満、
(イ)密度が890〜940kg/m
(ウ)GPC法により求めた分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜4.0、
(エ)温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが2つ以上存在し、該ピーク温度が15℃以上90℃未満、
(オ)該微分溶出曲線の最大ピークの高さ(H)とその次に高いピークの高さ(H)との比(H/H)が0.25以上、
(カ)該微分溶出曲線の個々のピーク高さ(H)と該ピークの高さの1/2における幅(W)の比(W/H)と該ピーク温度(T)が下記式(1)を満たす。
【0015】
W/H<1.70−0.016T (1)
(キ)190℃で測定したMFRが0.1〜15g/10分、
(ク)密度が910〜935kg/m
また、本発明に係わる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、2種類のメタロセン触媒を用いて、単一の反応器により重合することが好ましい。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明を構成する直鎖状低密度ポリエチレンの製造方法は、(特に限定するものではないが)、少なくとも2種類以上のメタロセン触媒の存在下において、エチレンとα−オレフィンを同一重合器内で共重合する方法が、コストパフォーマンスや本発明のポリエチレン樹脂組成物をインフレーション成形等により成形して得られたフィルムの機械的強度に優れるため好ましい。メタロセン触媒とは、遷移金属化合物、活性化助触媒および有機金属化合物からなるものが用いられる。
【0017】
2種類以上のメタロセン触媒を用いる場合、各々のメタロセン触媒の共重合パラメーターrの差が0.02以上であると、組成分布に広がりを持たせることが可能となり、フィルムのヒートシール性や機械的強度に優れるポリエチレン樹脂組成物が得られるため好ましく、0.03以上であると更に好ましい。共重合パラメーターrは、下記式(2)により求められる。
【0018】
r = Cpoly / Crea (2)
式中、Creaは、反応器内のα−オレフィン/エチレンのモノマー比(モル/モル)を、またCpolyは得られる共重合体に含まれるα−オレフィン/エチレンのモノマー比(モル/モル)を示す。また、rはその商(係数)である。また、Cpolyは既知の方法、例えば、13C−NMR測定により求められる。
【0019】
また、少なくとも一方のメタロセン触媒は、共重合パラメーターrが0.08以上であると、目的の密度の共重合体を製造する際のα−オレフィンの比率を下げることができ、共重合反応に使用されるα−オレフィンの回収工程への負荷の軽減、さらには共重合体中に残留するα−オレフィンを除去する工程の負荷を軽減することができるため好ましく、0.1以上の場合更に好ましい。
【0020】
また、少なくとも一方のメタロセン触媒は、前記rと同様の条件により得られたエチレン・α−オレフィン共重合体が下記一般式(3)を満足することが好ましく、下記一般式(3)’を満足することが特に好ましい。
【0021】
MFR < EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 35.3) (3)
MFR < EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 32.5) (3)’
[式中、MFRは荷重2.16kg、温度190℃条件でのメルトフローレート(g/10分)を示し、RxTは重合器の内温もしくは重合器内に温度分布がある場合には観測された温度の平均値(℃)を示し、dは得られたエチレン・α−オレフィン共重合体の密度(kg/m)を示す。]
さらに、もう一方のメタロセン触媒は、前記rと同様の条件により得られたエチレン・α−オレフィン共重合体が下記一般式(4)を満足することが好ましく、下記一般式(4)’を満足することが特に好ましい。
【0022】
MFR > EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 35.3) (4)
MFR > EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 32.5) (4)’
[式中、MFRは荷重2.16kg、温度190℃条件でのメルトフローレート(g/10分)を示し、RxTは重合器の内温もしくは重合器内に温度分布がある場合には観測された温度の平均値(℃)を示し、dは得られたエチレン・α−オレフィン共重合体の密度(kg/m)を示す。]
メタロセン触媒の構成成分の一つである活性化助触媒としては、特に限定はなく、公知のものはすべて使用することができる。具体的には、下記一般式(5)で表されるプロトン酸、一般式(6)で表されるイオン化イオン性化合物、一般式(7)で表されるルイス酸、一般式(8)で表されるルイス酸性化合物、粘土鉱物、塩化マグネシウム化合物、スルホン酸塩、またはカルボン酸誘導体などを挙げることができる。
【0023】
[HR][E(Ar)] (5)
[GR][E(Ar)] (6)
[D][E(Ar)] (7)
E(Ar) (8)
(式中、Hはプロトン原子であり、Eはホウ素原子またはアルミニウム原子である。Rはエーテル類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、ホスフィン類等のルイス塩基、RはRで例示したルイス塩基または置換もしくは無置換のシクロペンタジエニル基である。Gはリチウム原子、鉄原子または銀原子であり、Dはカルボニウムカチオンまたはトロピリウムカチオンである。Arは互いに同じでも異なっていてもよく、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子,炭化水素基もしくはヘテロ原子含有炭化水素基で置換されたアリール基もしくはアラルキル基、または炭化水素基もしくはヘテロ原子含有炭化水素基を有するシリル基で置換されたアリール基もしくはアラルキル基であり、好ましくはアリール基、ハロゲン原子,炭化水素基もしくはヘテロ原子含有炭化水素基で置換されたアリール基、または炭化水素基もしくはヘテロ原子含有炭化水素基を有するシリル基で置換されたアリール基である。pは0、1または2である。)
さらにメタロセン触媒に用いられる有機金属化合物としては、少なくとも1つの炭化水素基を有する周期表第1、2、13族の金属原子、スズ原子または亜鉛原子を有するものであり、特に限定するものではないが、例えば、下記一般式(9)、(10)または(11)で表される化合物を挙げることができる。
【0024】
(RAl (9)
(式中、Rは互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、または炭化水素基で置換されたアミノ基もしくはアルコキシ基を示し、そのうち少なくとも1つは炭化水素基である。)
(RMg (10)
(式中、Rは互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、または炭化水素基で置換されたアミノ基もしくはアルコキシ基を示し、そのうち少なくとも1つは炭化水素基である。)
Li (11)
(式中、Rは水素原子または炭化水素基である。)
メタロセン触媒調製の際の遷移金属化合物および活性化助触媒の量比は、活性化助触媒が一般式(5)、(6)、(7)、(8)で表される化合物、スルホン酸塩またはカルボン酸誘導体である場合、遷移金属化合物:活性化助触媒=10:1〜1:1000のモル比が好ましく用いられ、特に好ましくは3:1〜1:100の範囲が用いられる。また、さらに有機金属化合物を用いる際の遷移金属化合物と有機金属化合物の比は特に制限はないが、遷移金属化合物:有機金属化合物の金属原子当たりのモル比は100:1〜1:100000の範囲が好ましく用いられ、さらに好ましくは1:1〜1:10000の範囲が用いられる。有機金属化合物の使用量が10000倍モルを超えると脱灰の工程を考慮する必要がある。また、触媒安定性および触媒毒の除去の観点を考えあわせると、遷移金属化合物:有機金属化合物を1:1〜1:1000のモル比で使用することが特に好ましい。
【0025】
なお、上記の各成分の比率において、各メタロセン触媒の使用量の比率は特に制限がなく、任意の量で用いることができる。
【0026】
メタロセン触媒を調製する方法について特に制限はなく、各成分に対して不活性な溶媒またはモノマーを溶媒として用いて混合する方法が挙げられる。また、上述した触媒成分を反応させる順番についても特に制限はなく、この処理を行う温度、処理時間も特に制限はない。
【0027】
また、メタロセン触媒を用いる際、オレフィン類を通常の方法で予備重合させてなるメタロセン触媒の存在下に、エチレン/α−オレフィン共重合体を製造することもできる。その際、高い触媒活性と粒子の移送を容易とし、安定な製造が実現される。
【0028】
メタロセン触媒を用いて予備重合を行う方法に関しては、メタロセン触媒とオレフィン類が重合しうる条件であれば特に限定されない。
【0029】
以下に、上記記載の触媒系を用いて実質的にポリマーが溶融あるいは溶解した状態で、エチレン/α−オレフィン共重合体を安定的に生産する方法を示す。
【0030】
エチレンとα−オレフィンは、共重合体の融点以上の重合温度下、重合圧力40〜400MPaの高圧状態で重合される。
【0031】
反応温度は共重合体の融点〜300℃が好ましく、共重合体の融点より30℃以上高い温度〜300℃が反応器や後処理工程の制約の点から特に好ましい。反応器部位で温度を変更できる場合は、反応器内で温度変化を持たせる方法が分子量分布の広いポリマーを製造する際に好ましく用いられる。温度変化の度合いは特に制限されないが、30℃以上反応器下部(ポリマー排出側)を高く保つことが生産性を向上させ、分子量分布を広げる際に有利である。
【0032】
反応圧力は40〜400MPaの範囲が好ましく、特に好ましくは実用性を考慮すると40〜200MPaの範囲である。
【0033】
本触媒を反応器に供給する方法に特に制限はないが、1ヶ所より供給されても、複数ヶ所から供給されてもかまわない。好ましくは2ヶ所以上の複数ヶ所から供給することにより、分子量分布等をより容易に制御することができる。
【0034】
また、重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。共重合体は、重合終了後に従来既知の方法により分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0035】
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(a)に用いられるコモノマーであるα−オレフィンは、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、スチレン等のα−オレフィン類;ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等の共役および非共役ジエン類;シクロブテン、シクロペンテン等の環状オレフィン類等が挙げられ、エチレンとプロピレン、エチレンと1−ブテン、エチレンと1−ヘキセン、エチレンと1−オクテンのように2種の成分、あるいはエチレンとプロピレンとスチレン、エチレンと1−ヘキセンとスチレン、エチレンとプロピレンとエチリデンノルボルネンのように3種以上の成分を混合して重合することもできる。
【0036】
これらα−オレフィンの中でも、共重合体成膜後のフィルムサンプルにおける引張強度、引裂強度、衝撃強度、ヒートシール強度等に優れる炭素数5〜10のものが好ましく、特に好ましくは1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンである。該共重合体は、これらα−オレフィンの少なくとも1種をエチレンと共重合することにより得られ、具体的には、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン三元共重合体等が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、190℃で測定したMFRが0.1g/10分以上5.0g/10分未満、好ましくは0.2〜4.0g/10分、更に好ましくは0.3〜2.0g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では溶融押出時の押出機の負荷が大きくなり、かつ成形フィルムに表面荒れが発生するため、フィルム外観が悪化する。一方、MFRが5.0g/10分以上の場合は、フィルム成形時の加工安定性が悪く、均一なフィルムが得られないとともに、得られたフィルムの機械的強度が低下する。
【0038】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、密度が890〜940kg/m、好ましくは895〜930kg/m、更に好ましくは900〜925kg/mである。密度が890kg/m未満では得られたフィルムの剛性が低下し、包装袋として使用する際の腰が弱いものとなる。一方、密度が940kg/mより大きい場合は、得られたフィルムの衝撃強さ等の機械的強度が低下する。
【0039】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、Mw/Mnが2.0〜4.0、好ましくは2.3〜3.8、更に好ましくは2.5〜3.5である。Mw/Mnが2.0未満では溶融押出時の押出機の負荷が大きく、かつ成形フィルムに表面荒れが発生するため、フィルム外観が悪化する。一方、Mw/Mnが4.0を超える場合は、フィルムの機械的強度が低下するとともに、フィルムのブロッキングの原因となるべたつき成分が増加するので好ましくない。
【0040】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが2つ以上、好ましくは2つ存在し、該ピーク温度が15℃以上90℃未満、好ましくは25℃以上90℃未満、更に好ましくは40℃以上90℃未満の範囲にある。微分溶出曲線のピークが1つの場合は、得られたフィルムを袋等に加工する際のヒートシール強度が低下する。このヒートシール強度の低下はフィルムを低温または高速でヒートシールする場合に特に顕著になる。また、該溶出ピークが15℃未満に存在する場合は、得られたフィルムの剛性が低下するとともに、ブロッキングの原因となるべたつき成分が増加するので好ましくない。一方、該溶出ピークが90℃以上の場合は、フィルムの機械的強度が低下するので好ましくない。
【0041】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線において、15℃以上90℃未満の温度範囲に少なくとも2つの明瞭なピークが存在していれば良く、各ピークが出現する温度位置に特に制限はない。
【0042】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、上記微分溶出曲線の最大ピークの高さ(H)とその次に高いピークの高さ(H)との比(H/H)が0.25以上である。H/Hが0.25未満ではフィルムを低温または高速でヒートシールする場合にヒートシール強度が低下する恐れがある。
【0043】
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、該微分溶出曲線の個々のピーク高さ(H)と該ピークの高さの1/2における幅(W)の比(W/H)と該ピーク温度(T)が下記式(1)
W/H<1.70−0.016T (1)
で示される関係にあり、好ましくは下記式(1)’
W/H<1.65−0.016T (1)’
で示される関係にあり、更に好ましくは下記式(1)”
W/H<1.60−0.016T (1)”
で示される関係にある。(1)式を満たさない場合は、フィルムを低温または高速でヒートシールする場合にヒートシール強度が低下するとともに、ブロッキングの原因となるべたつき成分が増加するので好ましくない。
【0044】
尚、W/Hは、該微分溶出曲線を横軸に溶出温度を100℃当たり65mm、縦軸に微分量(全積分溶出量を100に規格化し、2℃の変化量を微分量とした)10当たり5.4mmのグラフに図示し、次に、この微分溶出曲線のピークの1/2高さの幅(W、単位:mm)とピーク高さ(H、単位:mm)を測定し、W/Hを求めた。
【0045】
また、隣接するピークどうしに重なりが存在し、ピークの1/2高さの幅が測定できない場合は、ピーク位置から垂線を降ろし、ピークの1/2高さにおける垂線と他のピークとの重なりがない側の幅を測定し、この幅を2倍した値をWとした。(この場合のWの算出方法を図1に示した。)
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、2種類以上のメタロセン触媒を用いて単一反応器により重合することが、得られた樹脂組成物の均一性を高め、成形フィルムの機械的強度を向上させる上で好ましい。2種類以上のメタロセン触媒を用いて単一反応器により重合した直鎖状低密度ポリエチレン(a)は、個別のメタロセン触媒を用いて異なる反応器で重合した直鎖状低密度ポリエチレンを押出機、ニーダー等を用いて機械的に溶融混合して得られた直鎖状低密度ポリエチレン(a)に比べて、前記微分溶出曲線が同一であったとしても、得られた樹脂組成物の機械的強度(特に、ダート衝撃強度)が優れたものとなるため好ましい。
【0046】
本発明に用いられる高圧法低密度ポリエチレン(b)は、190℃で測定したMFRが0.1〜15g/10分、好ましくは0.2〜10g/10分、更に好ましくは0.3〜5g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では溶融押出時の押出機の負荷が大きくなり、かつ成形フィルムに表面に荒れが発生するため、フィルム外観が悪化するとともに、衝撃強さ等の機械的強度が低下する。一方、MFRが15g/10分より大きい場合は、フィルム成形時の加工安定性が悪く、均一なフィルムが得られないとともに、得られたフィルムの機械的強度が低下する。
【0047】
本発明に用いられる高圧法低密度ポリエチレン(b)は、密度が910〜935kg/m、好ましくは915〜930kg/m、更に好ましくは918〜925kg/mである。密度が935kg/mを越える場合は、得られたフィルムの機械的強度(特に、衝撃強度)が低下する。
【0048】
本発明に用いられる高圧法低密度ポリエチレン(b)は、具体的には(商品名)ペトロセン172、(商品名)ペトロセン360、(商品名)ペトロセン205(以上、東ソー株式会社製)等を市販品として入手することが可能である。
【0049】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレン(a)99〜1重量%、好ましくは95〜50重量%、更に好ましくは90〜60重量%、高圧法低密度ポリエチレン(b)1〜99重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%からなるものである。
【0050】
直鎖状低密度ポリエチレン(a)の配合量が1重量%未満である場合(即ち、高圧法低密度ポリエチレン(b)の配合量が99重量%を越える場合)は、成形フィルムの機械的強度が低下する。一方、直鎖状低密度ポリエチレン(a)の配合量が99重量%より多い場合(即ち、高圧法低密度ポリエチレン(b)の配合量が1重量%未満である場合)は、溶融押出時の押出機の負荷が大きくなり、かつ成形フィルムに表面荒れが発生するため、フィルム外観が悪化する。
【0051】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、好ましくは190℃で測定したMFRが0.1〜5g/10分、更に好ましくは0.2〜4g/10分、特に0.3〜2g/10分である。
MFRを0.1〜5g/10分とすることで、本発明のポリエチレン樹脂組成物を溶融押出する際の押出機負荷が低減されるとともに、インフレーション成形等により成形した場合に表面外観と機械的強度のバランスに優れたフィルムが得られるため好ましい。
【0052】
また、本発明のポリエチレン樹脂組成物は、好ましくは密度が890〜940kg/m、更に好ましくは900〜935kg/m、特に910〜930kg/mである。密度を890〜940kg/mとすることで、本発明のポリエチレン樹脂組成物をインフレーション成形等により成形した場合に剛性と機械的強度のバランスに優れたフィルムが得られるため好ましい。
【0053】
本発明のポリエチレン樹脂組成物に配合される直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(a)、高圧法低密度ポリエチレン(b)は、それぞれ1種類または2種類以上の混合物であっても良い。
【0054】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(a)と高圧法低密度ポリエチレン(b)とのドライブレンドであっても良いが、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等、従来公知の方法により溶融混練したものの方が、品質の安定した組成物が得られるため好ましい。このうち生産性の点から、一軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混練、造粒する方法が一般的である。
【0055】
本発明のポリエチレン樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、必要に応じて酸化防止剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤、造核剤、透明化剤、有機過酸化物、可塑剤、難燃剤等の、一般に熱可塑性プラスチックに用いられる添加剤を使用してもよい。
【0056】
本発明に係わるポリエチレン樹脂フィルムは、前記ポリエチレン樹脂組成物を空冷インフレーション、水冷インフレーション、キャスト等の各種成形法により成形して得ることができる。
【0057】
また、共押出成形法またはラミネート法により成形されたポリエチレン樹脂組成物を少なくとも1層有する積層体として用いることができる。
【0058】
上記特徴により、本発明のポリエチレン樹脂組成物を成形してなるポリエチレン樹脂フィルムは、包装袋、ラップ、プロテクトフィルム、シーラントフィルム等の各種用途に好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0059】
本発明のポリエチレン樹脂組成物は、フィルム製膜時の成形加工性が良好で、かつフィルムに要求される機械強度に優れ、フィルム用材料として有用である。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例および比較例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0061】
参考例、実施例、比較例に示した各種物性の測定および評価は下記の方法により行った。
<MFR>
JIS K 6922−1(1997)に準拠し、190℃、2.16kg荷重で測定した。
<密度>
JIS K 6922−1(1997)に準拠し、密度勾配管により測定した。
<分子量分布>
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により下記条件で測定した。
[装置]HLC−8121GPC/HT(東ソー株式会社製)
[測定条件]カラム:TSKgel GMHHR−H(20)HT×3本
[溶離液]1,2,4−トリクロルベンゼン、酸化防止剤(BHT0.05%)
[流速]1.0ml/分
[試料濃度]1.0mg/ml
[注入量]0.3ml
[カラム温度]140℃
[検出器]HLC−8121GPC/HT
<微分溶出曲線>
クロス分別測定装置を用いて下記条件で測定した。
[装置]CFC T−101(三菱化学社製)
[溶離液]オルトジクロロベンゼン
[試料濃度]2.5mg/mol
[注入量]0.5ml
[溶出温度]0,5,10,15,20,25,30,35,40,50,55,60,65,70,73,76,79、82,85,88、91,94,97,100,120,140℃
[測定方法]
サンプルループへ注入された試料を、1℃/分の速度で140℃から0℃の温度まで冷却し、TREFカラムにコーティングさせた。TREFカラムを0℃で更に30分間保持した後、TREFカラムを以下に示す条件において昇温し、上記各溶出温度に5分間保持した後、溶解している成分を1ml/分の流速でTREFカラムからGPCカラム(東ソー(株)製 TSKgel GMHHR−H(20)1本、東ソー(株)製 TSKgel GMHHR−H(S)2本)へ注入した。
【0062】
該GPCカラムで分子サイズによって分別された溶液について、装置付属の赤外分光光度計でポリマーの濃度に比例する吸光度を測定し(波長3.42μ,メチレンの伸縮振動で検出)、各溶出温度区分のクロマトグラムを得た。さらに、内蔵のデータ処理ソフトを用い、上記測定で得られた各溶出温度区分のクロマトグラムのベースラインを引き、演算処理し、微分溶出曲線を計算した。
【0063】
実施例および比較例に用いたフィルムは下記の方法により成形した。
<フィルムの成形方法>
フィルム成形は、空冷インフレーション成形機(株式会社プラコー製、型式 LL−50B)により行った。押出機のシリンダー温度を200℃に保持して押出した樹脂を200℃に加温したサーキュラーダイ(リップクリアランス3mm)に導入し、ブロー比1.5、引取速度10.7m/分で厚さ130μmの空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0064】
実施例および比較例に用いたフィルムの物性測定および評価は下記の方法により行った。
<引張破断強さおよび引張破断伸び>
前記インフレーションフィルムを用いて、JIS K 6922−2(1995)に準拠して測定した。フィルムを打抜いて2号形試験片を作製し、島津製作所製引張試験機(DCS−100)を使用して試験片が破壊した時点の応力と伸びを測定した。
<ヒートシール強さ>
前記インフレーションフィルムを用いて、JIS Z 1711(1994)に準拠して測定した。
<バブル安定性評価>
上記、フィルムの成形方法に基づきフィルムを成形する際のバブル安定性の良否を目視で確認した。
【0065】
バブル安定性の良否の判断基準を以下に示す。
○;バブルの揺れ無し。
×;バブルの揺れ有り。
<フィルム外観>
上記、フィルムの成形方法に基づき得られたフィルムの外観の良否を目視で確認した。
【0066】
フィルム外観の良否の判断基準を以下に示す。
○;フィルム表面の荒れおよびゲル無し。
×;フィルム表面の荒れ有り。
×;ゲル有り。
【0067】
参考例1
[メタロセン触媒(A)の調製例]
塩酸ジメチルアニリニウム69gを300mLの水に加え、これをモンモリロナイト300gが入った水3Lに加えた。この上澄み液を除去した後、水、エタノールで洗浄した。その後減圧乾燥し、粉砕することで得られた変性モンモリロナイトを活性化助触媒として用い、遷移金属化合物としてジフェニルメチレン(4‐フェニル‐1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを用い、有機金属化合物としてトリイソブチルアルミニウムを用いて、遷移金属化合物1μモルZr原子当たり活性化助触媒30mg(30μモル)、有機金属化合物450μモルAl原子を加え、遷移金属化合物の濃度が250μモル/Lとなるように脂肪族飽和炭化水素溶媒で希釈して調製したものをメタロセン触媒(A)として用いた。
【0068】
メタロセン触媒(A)を単独で用い、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を36.3mol%、反応器の内温(RxT)を204℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合した結果、Crea=0.57、Cpoly=0.062の数値を得た。すなわち、rは0.11であった。また、得られたエチレン・1−ヘキセン共重合体のMFRは7.9g/10分、密度は899kg/mであった。EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 35.3)は41.1となり、式(4)を満たす。
[メタロセン触媒(B)の調製例]
塩酸ジメチルアニリニウム69gを300mLの水に加え、これをモンモリロナイト300gが入った水3Lに加えた。この上澄み液を除去した後、水、エタノールで洗浄した。その後減圧乾燥し、粉砕することで得られた変性モンモリロナイトを活性化助触媒として用い、遷移金属化合物としてジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを用い、有機金属化合物としてトリイソブチルアルミニウムを用いて、遷移金属化合物1μモルZr原子当たり活性化助触媒30mg(30μモル)、有機金属化合物450μモルAl原子を加え、遷移金属化合物の濃度が250μモル/Lとなるように脂肪族飽和炭化水素溶媒で希釈して調製したものをメタロセン触媒(B)として用いた。
【0069】
メタロセン触媒(B)を単独で用い、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を36.3mol%、反応器の内温(RxT)を204℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合した結果、Crea=0.57、Cpoly=0.041の数値を得た。すなわち、rは0.07であった。また、得られたエチレン・1−ヘキセン共重合体のMFRは4.7g/10分、密度は921kg/mであった。EXP(12.6 × Ln(RxT) − 0.10967 × d + 35.3)は1.3となり、式(5)を満たす。
[直鎖状低密度ポリエチレン(a)の製造]
10Lの攪拌機付き反応器を用いて、メタロセン触媒(A)およびメタロセン触媒(B)をメタロセン触媒(A)/(B)比=1/1(Zr原子モル比)で連続的に供給し、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を12.2mol%として反応器の内温を185〜270℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合し、直鎖状低密度ポリエチレンを製造した。尚、メタロセン触媒(A)としてメタロセン触媒(A)の調製例、メタロセン触媒(B)としてメタロセン触媒(B)の調製例で得られたものをそれぞれ用いた。
【0070】
この直鎖状低密度ポリエチレン(以下、(a−1)という。)を実施例1で用いた。(a−1)の諸性質を表1に示す。
【0071】
参考例2
[直鎖状低密度ポリエチレン(a)の製造]
10Lの攪拌機付き反応器を用いて、メタロセン触媒(A)およびメタロセン触媒(B)をメタロセン触媒(A)/(B)比=1/1(Zr原子モル比)で連続的に供給し、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を20.5mol%として反応器の内温を180〜270℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合し、直鎖状低密度ポリエチレンを製造した。尚、メタロセン触媒(A)としてメタロセン触媒(A)の調製例、メタロセン触媒(B)としてメタロセン触媒(B)の調製例で得られたものをそれぞれ用いた。
【0072】
この直鎖状低密度ポリエチレン(以下、(a−2)という。)を実施例2および比較例6で用いた。(a−2)の諸性質を表1に示す。
【0073】
参考例3
[直鎖状低密度ポリエチレン(a)の製造]
10Lの攪拌機付き反応器を用いて、メタロセン触媒(A)およびメタロセン触媒(B)をメタロセン触媒(A)/(B)比=1/1(Zr原子モル比)で連続的に供給し、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を15.7mol%として反応器の内温を185〜260℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合し、直鎖状低密度ポリエチレンを製造した。尚、メタロセン触媒(A)としてメタロセン触媒(A)の調製例、メタロセン触媒(B)としてメタロセン触媒(B)の調製例で得られたものをそれぞれ用いた。
【0074】
この直鎖状低密度ポリエチレン(以下、(a−3)という。)を実施例3で用いた。(a−3)の諸性質を表1に示す。
【0075】
参考例4
[直鎖状低密度ポリエチレン(a)の製造]
10Lの攪拌機付き反応器を用いて、メタロセン触媒(A)およびメタロセン触媒(B)をメタロセン触媒(A)/(B)比=1/1(Zr原子モル比)で連続的に供給し、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を30.5mol%として反応器の内温を172〜234℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合し、直鎖状低密度ポリエチレンを製造した。尚、メタロセン触媒(A)としてメタロセン触媒(A)の調製例、メタロセン触媒(B)としてメタロセン触媒(B)の調製例で得られたものをそれぞれ用いた。
【0076】
この直鎖状低密度ポリエチレン(以下、(a−4)という。)を実施例4で用いた。(a−4)の諸性質を表1に示す。
【0077】
参考例5
[直鎖状低密度ポリエチレン(a)の製造]
10Lの攪拌機付き反応器を用いて、メタロセン触媒(A)およびメタロセン触媒(B)をメタロセン触媒(A)/(B)比=1/1(Zr原子モル比)で連続的に供給し、反応圧力を90MPa、1−ヘキセンの系内濃度を24.5mol%として反応器の内温を199〜259℃として、1500rpmで攪拌しながら連続的に重合し、直鎖状低密度ポリエチレンを製造した。尚、メタロセン触媒(A)としてメタロセン触媒(A)の調製例、メタロセン触媒(B)としてメタロセン触媒(B)の調製例で得られたものをそれぞれ用いた。
【0078】
この直鎖状低密度ポリエチレン(以下、(a−5)という。)を比較例5で用いた。(a−5)の諸性質を表1に示す。
【0079】
実施例1
参考例1に示した直鎖状低密度ポリエチレン(a−1)90重量%、高圧法低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、商品名ペトロセン360;MFR1.6g/10分、密度919kg/m)(以下、(b−1)という。)10重量%をタンブラーミキサーにて予備混合した後、シリンダー温度180℃に調製した単軸押出機(株式会社プラコー製、型式 PDA−50)で溶融混練、造粒し、ポリエチレン樹脂組成物のペレットを得た。
【0080】
得られたペレットを<フィルムの成形方法>に示した方法により成形し、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0081】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0082】
実施例2
(a−1)90重量%の代わりに参考例2に示した直鎖状低密度ポリエチレン(a−2)を70重量%、(b−1)10重量%の代わりに高圧法低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、商品名ペトロセン172;MFR0.3g/10分、密度920kg/m)(以下、(b−2)という。)を30重量%とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0083】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0084】
実施例3
(a−2)70重量%の代わりに参考例3に示した直鎖状低密度ポリエチレン(a−3)を80重量%、(b−2)30重量%の代わりに(b−2)を20重量%とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0085】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0086】
実施例4
(a−1)90重量%の代わりに参考例4に示した直鎖状低密度ポリエチレン(a−4)を90重量%とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0087】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0088】
実施例5
(a−2)70重量%の代わりに(a−6)を40重量%およびメタロセン触媒により得られた直鎖状低密度ポリエチレン(ダウケミカル社製、商品名アフィニティーPL1845;MFR3.5g/10min、密度910kg/m)(以下、(a−9)という。)を30重量%、とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0089】
直鎖状低密度ポリエチレン(a−9)の諸性質を表1に示す。また、得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0090】
比較例1
(a−1)90重量%の代わりにメタロセン触媒により得られた直鎖状低密度ポリエチレン(ダウケミカル社製、商品名アフィニティーFM1570;MFR1.0g/10min、密度915kg/m)(以下、(a−6)という。)を90重量%とした以外は、実施例1と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0091】
直鎖状低密度ポリエチレン(a−6)の諸性質を表1に示す。また、得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表3に示す。
【0092】
得られたポリエチレン樹脂組成物は溶融押出時の押出負荷が大きく、成形フィルムは表面荒れが発生するとともに、ヒートシール強さに劣るものであった。
【0093】
比較例2
(a−2)70重量%の代わりにメタロセン触媒により得られた直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、商品名ハーモレックスNC489A;MFR3.5g/10min、密度930kg/m)(以下、(a−7)という。)を70重量%とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0094】
直鎖状低密度ポリエチレン(a−7)の諸性質を表1に示す。また、得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表3に示す。
【0095】
得られたフィルムはヒートシール強さに劣るものであった。
【0096】
比較例3
(a−2)70重量%の代わりにメタロセン触媒により得られた直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、商品名ハーモレックスNC479A;MFR3.5g/10min、密度925kg/m)(以下、(a−8)という。)を70重量%とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0097】
直鎖状低密度ポリエチレン(a−8)の諸性質を表1に示す。また、得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表3に示す。
【0098】
得られたフィルムはヒートシール強さに劣るものであった。
【0099】
比較例4
(a−2)70重量%の代わりに参考例5に示した直鎖状低密度ポリエチレン(a−5)を70重量%とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0100】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表3に示す。
【0101】
得られたポリエチレン樹脂組成物はインフレーション成形時のバブル安定性が悪く、成形フィルムは引張破断強度、引張破断伸びおよびヒートシール強さに劣るものであった。
【0102】
比較例5
(b−2)30重量%の代わりに高圧法低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、商品名ペトロセン208;MFR23g/10分、密度924kg/m)(以下、(b−3)という。)を30重量%とした以外は、実施例2と同様の方法によりポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムを作製した。
【0103】
得られたポリエチレン樹脂組成物、空冷インフレーションフィルムによりMFR、密度、インフレーション成形時のバブル安定性の評価及びフィルムの引張破断強さ、引張破断伸び、ヒートシール強さ、フィルム外観の評価を行った。これらの評価結果を表3に示す。
【0104】
得られたポリエチレン樹脂組成物はインフレーション成形時のバブル安定性が悪く、成形フィルムは引張破断強度、引張破断伸びおよびヒートシール強さに劣るものであった。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】隣接するピークどうしに重なりが存在する場合の直鎖状低密度ポリエチレンの微分溶出曲線図。
【符号の説明】
【0109】
b:ピーク1におけるピーク位置での垂線
a:ピーク1の1/2高さにおける垂線と他のピークとの重なりがない側の幅
(ピーク1における1/2高さの幅:W=a×2)
c:ピーク2における1/2高さの幅(W)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(ア)〜(カ)の要件を満たすメタロセン触媒により重合された直鎖状低密度ポリエチレン(a)99〜1重量%と、下記(キ)および(ク)の要件を満たす高圧法低密度ポリエチレン(b)1〜99重量%からなることを特徴とするポリエチレン樹脂組成物。
(ア)190℃で測定したメルトフローレート(以下、MFRと言う。)が0.1g/10分以上5.0g/10分未満であり、
(イ)密度が890〜940kg/mであり、
(ウ)GPC法により求めた分子量分布(Mw/Mn)が2.0〜4.0であり、
(エ)温度上昇溶離分別によって得られる微分溶出曲線のピークが2つ以上存在し、該ピーク温度が15℃以上90℃未満の範囲にあり、
(オ)該微分溶出曲線の最大ピークの高さ(H)とその次に高いピークの高さ(H)との比(H/H)が0.25以上であり、
(カ)該微分溶出曲線の個々のピーク高さ(H)と該ピークの高さの1/2における幅(W)の比(W/H)と該ピーク温度(T)が下記式(1)を満たす。
W/H<1.70−0.016T (1)
(キ)190℃で測定したMFRが0.1〜15g/10分であり、
(ク)密度が910〜935kg/mである。
【請求項2】
上記直鎖状低密度ポリエチレン(a)が、2種類のメタロセン触媒を用いて単一の反応器において重合することを特徴とする請求項1に記載のポリエチレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリエチレン樹脂組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項4】
共押出成形法またはラミネート法により成形された、請求項1又は2に記載のポリエチレン樹脂組成物からなる層を少なくとも1層有する積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265386(P2006−265386A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85912(P2005−85912)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】