説明

ポリオキサミド樹脂の分子量制御方法及びポリオキサミド樹脂

【課題】本発明が解決しようとする課題は、従来のポリオキサミド樹脂の製造法では達成し得なかったポリオキサミド樹脂の分子量制御方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、シュウ酸ジエステルとジアミンとの重縮合反応によりポリオキサミド樹脂を得る製造法において、原料混合開始時の内容物温度を目的とする分子量に応じて20℃から240℃の範囲の所定の温度に設定することを特徴とするポリオキサミド樹脂の分子量制御方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキサミド樹脂の分子量制御方法及びポリオキサミド樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオキサミド樹脂は、アミド結合と炭化水素の比率が同じ他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと及び吸水率が低いことが知られている(特許文献1)。
【0003】
ポリオキサミド樹脂は、シュウ酸もしくはシュウ酸ジエステルと脂肪族、脂環族もしくは芳香族ジアミンとの重縮合により得られ、これまでに、種々のジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、シュウ酸は180℃を超えると熱分解するために原料としてシュウ酸を用いた場合に、高分子量のポリオキサミド樹脂が得られることはなく、合成例も無い。
【0004】
一方、シュウ酸ジアルキルのようなシュウ酸ジエステルをモノマーとして用いたポリオキサミド樹脂の製造法も公知であり、種々のジアミンとの重縮合によるポリオキサミド樹脂が提案されている。例えば、ジアミン成分として1,10−デカンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,8−オクタンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(いずれも特許文献2)や1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂(非特許文献1)など数多くのポリオキサミド樹脂が提案されている。
【0005】
しかしながら、公知のポリオキサミド樹脂の製造法において、分子量を制御する方法について具体的な記述は無く、所望の数平均分子量を有するポリオキサミド樹脂を得る制御方法が無かった。
【特許文献1】特開2006−57033
【特許文献2】特表平5−506466
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のポリオキサミド樹脂の製造法では達成し得なかったポリオキサミド樹脂の分子量制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、シュウ酸ジエステルとジアミンとの重縮合反応によりポリオキサミド樹脂を得る製造法において、一方の原料(A)を反応容器に入れておき、もう一方の原料(B)を反応容器に注入して混合を開始する直前の反応容器内の原料(A)の温度として定義する原料混合開始時の内容物温度を20℃から240℃の範囲で変化させて、ポリオキサミド樹脂を製造することで、上記内容物温度と分子鎖末端に生成するホルムアミド基の濃度との間に良好な相関関係があることを見出し、これによりポリオキサミド樹脂の数平均分子量が制御されることを確認して、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリオキサミド樹脂の分子量制御方法により、従来のポリオキサミド樹脂の製造法では達成し得なかった、ポリオキサミド樹脂の数平均分子量を8000〜50000の範囲に制御することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1)ポリオキサミドの構成成分
本発明で製造の対象となるポリオキサミド樹脂のシュウ酸源としては、シュウ酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールのシュウ酸ジエステル、シュウ酸ジフェニル等の芳香族アルコールのシュウ酸ジエステル等が挙げられる。これらのうち、重縮合反応により発生するアルコールに生成ポリオキサミド樹脂が良好に溶解し、続く溶融重合、固相重合温度においてアルコールを完全に取り除くことができるアルコールを生成するシュウ酸ジエステルが好ましく用いられる。このようなシュウ酸ジエステルの例としては、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−(またはi−)プロピル、シュウ酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチルを挙げることができる。
【0010】
原料のジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミン等から選ばれる1種または2種以上の任意の混合物が挙げられる。
【0011】
(2)ポリオキサミドの分子量制御方法
以下、本発明の分子量制御方法を具体的に説明する。まず耐圧容器に原料のシュウ酸ジエステルもしくはジアミンを仕込み、容器内を窒素のような不活性ガスで置換する。次いで、容器内の原料をもう一方の原料と混合する温度まで昇温し、ジアミンもしくはシュウ酸ジブチルを封圧下で注入して重縮合反応を開始する。容器は重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば特に制限されない。混合するシュウ酸ジエステルとジアミンの比率は、シュウ酸ジエステル/ジアミン(モル比)で、0.8〜1.2、好ましくは0.91〜1.09、更に好ましくは0.98〜1.02である。原料を混合する温度は、シュウ酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されないが、20℃から240℃が好ましい。内容物温度を20℃〜240℃の範囲とすることにより、ポリオキサミド樹脂の数平均分子量を8000〜50000の範囲に制御することが可能となった。具体的には20℃〜240℃の範囲内で内容物温度を高くするほど、分子量が小さくなる傾向がある。20℃よりも低い温度で混合した場合は、原料混合時にただちに生成したポリマーが反応容器内で析出して溶液状態、もしくはスラリー状態を維持できなくなるために好ましくない。一方、240℃より高い温度で混合した場合は、原料中および反応系中の水分とアルコキシ基の反応、または、アミノ基とアルコキシ基の反応により分子鎖末端に生成するホルムアミド基の濃度が高くなるため、得られるポリオキサミド樹脂の数平均分子量が低くなって物性が低下するために好ましくない。ホルムアミド基の生成については後述する。ジアミンとシュウ酸ジブチルの混合温度として更に好ましくは20℃から230℃であり、特に好ましくは30℃〜210℃である。
【0012】
次に、重縮合反応により生成したアルコールを留去した後、ポリオキサミド樹脂の融点以上で、かつ熱分解しない温度以下に昇温する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、235〜280℃が好ましい。
【0013】
本発明から得られるポリオキサミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−¥フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0014】
(3)ポリオキサミドの性状および物性
本発明により得られるポリオキサミドの分子量に特別の制限はないが、数平均分子量が8000〜50000の範囲内である。数平均分子量が8000より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、数平均分子量が50000より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。また、本発明により得られるポリオキサミド樹脂の末端基は、アミノ基、アルコキシ基、ホルムアミド基のうちのいずれかである。ホルムアミド基は下記式1で示される末端基で、下記式2に示されるように、原料中および反応系中の(1)水分とアルコキシ基の反応、または、(2)アミノ基とアルコキシ基の反応により生成する。
【0015】
(式1)


【0016】
(式2)
ホルムアミド基生成反応式
(1)水とアルコキシ基の反応


(2)アミノ基とアルコキシ基の反応

式中のR1はポリマーの残基、または脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンのアミノ基を1つ除いた残基のうちいずれかを示し、R2はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のうちいずれかを示す。
【0017】
(4)ポリオキサミド樹脂に配合できる成分
本発明から得られるポリオキサミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0018】
また、本発明には本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類を混合することが可能である。更に、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維、各種添加剤を同様に配合することができる。
【0019】
さらに、本発明により得られるポリオキサミド樹脂には必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0020】
(5)ポリオキサミド樹脂の成形加工
本発明により得られるポリオキサミド樹脂の成形方法としては、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0021】
(6)ポリオキサミド成形物の用途
本発明によって得られるポリオキサミドの成形物は、従来ポリアミド成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。
【実施例】
【0022】
[評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の構造解析、数平均分子量の算出、末端基濃度の算出、相対粘度の測定は以下の方法により行った。
【0023】
(1)構造解析
一次構造の同定は、1H−NMRにより行った。1H−NMRは、ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE500を使用して、溶媒:重硫酸、積算回数:1024回の条件で測定した。
【0024】
(2)数平均分子量(Mn)
数平均分子量(Mn)は、H−NMRスペクトルから求めたシグナル強度をもとに、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂〔以下、PA92(NMDA/MODA=85/15)と略称する〕の場合は下式により算出した。
Mn=np×212.30+n(NH2)×157.28+n(OBu)×129.14+n(NHCHO)×29.14
【0025】
また、前記式中の各項は以下のように規定される。
・np=Np/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NH2)=N(NH2)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NHCHO)=N(NHCHO)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(OBu)=N(OBu)/[(N(NH2)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・Np=[(Sp/sp)−1]/sp−N(NHCHO)
・N(NH2)=S(NH2)/s(NH2)
・N(NHCHO)=S(NHCHO)/s(NHCHO)
・N(OBu)=S(OBu)/s(OBu)
【0026】
但し、各項は以下の意味を有する。
・Np:PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ユニットを除いた、分子鎖中の繰り返しユニット総数。
・np:分子1本当たりの分子鎖中の繰り返しユニット数。
・Sp:PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端を除いた、分子鎖中の繰り返しユニット中のオキサミド基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(3.1ppm付近)の積分値。
・sp:積分値Spにカウントされる水素数(2個)。
・N(NH2):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端アミノ基の総数。
・n(NH2):分子1本当たりの末端アミノ基の数。
・S(NH2):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端アミノ基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(2.6ppm付近)の積分値。
・s(NH2):積分値S(NH2)にカウントされる水素数(2個)。
・N(NHCHO):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ホルムアミド基の総数。
・n(NHCHO):分子1本当たりの末端ホルムアミド基の数。
・S(NHCHO):PA92(NMDA/MODA=85/15)のホルムアミド基のプロトンに基づくシグナル(7.8ppm)の積分値。
・s(NHCHO):積分値S(NHCHO)にカウントされる水素数(1個)。
・N(OBu):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ブトキシ基の総数。
・n(OBu):分子1本当たりの末端ブトキシ基の数。
・S(OBu):PA92(NMDA/MODA=85/15)の末端ブトキシ基の酸素原子に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(4.1ppm付近)の積分値。
・s(OBu):積分値S(OBu)にカウントされる水素数(2個)。
【0027】
(3)末端基濃度:蓚酸ジブチルを用いた場合、末端アミノ基濃度[NH]、末端ブトキシ基濃度[OBu]、末端ホルムアミド基濃度[NHCHO]は次の式に従ってそれぞれ求めた。
・末端アミノ基濃度[NH]=n(NH)/Mn
・末端ブトキシ基濃度[OBu]=n(OBu)/Mn
・末端ホルムアミド基濃度[NHCHO]=n(NHCHO)/Mn
【0028】
(4)相対粘度(ηr)
ηrはポリオキサミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0029】
[実施例1]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた1Lの耐圧容器に、シュウ酸ジブチル247.58g(1.2242モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。内部温度を40℃にした後、1,9−ノナンジアミン10.52g(0.06654モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン164.89g(1.0424モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速400ml/分で30秒間かけて反応容器内に注入した。注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.1MPaまで上昇し、内部温度は137℃まで上昇した。注入終了直後から生成したブタノールの放圧を行った。放圧後、50ml/分の窒素気流下において昇温を開始し、5.5時間かけて内部温度を260℃にし、260℃において2時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で3MPaに加圧して10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色のポリマーであり、末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は3.6×10−5eq/gであった。
【0030】
[実施例2]
撹拌機、窒素導入管、原料フィードライン、留出管を備えた内容積が1Lの耐圧容器内に、漏斗を用いてシュウ酸ジブチル247.89g(1.2263モル)を仕込んだ。その後、純度が99.9999%の窒素ガスを導入して1.0MPaの加圧下に保ち、次いで留出管から窒素を0.1MPaまで放圧する操作を5回繰り返した後、常圧まで窒素を放圧し、封圧下、系内を昇温した。35分間かけて内部温度を150℃にした後、1,9−ノナンジアミン11.65g(0.07358モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン182.47g(1.1528モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速15mL/分で15分間かけて反応容器内に注入した。注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.21MPaまで上昇し、内部温度は165℃まで上昇した。注入後、容器内を冷却し、白色の重合物を得た。なお、原料の昇温から反応終了までの全ての操作は封圧系で行った。
【0031】
上記操作によって得られた前重合物約7gを撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち次いで純度が99.9999%の窒素ガスを常圧まで導入する操作を5回繰り返した後、50mL/分の窒素気流下260℃に保った塩浴に移し、5時間重縮合反応を行った。続いて塩浴から取り出し、50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却して生成物を得た。得られたものは白色の重合物であり、末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は4.5×10−5eq/gであった。
【0032】
[実施例3]
シュウ酸ジブチルを248.86g(1.2212モル)、1,9−ノナンジアミンを11.60g(0.07331モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミンを181.69g(1.1486モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)、ジアミンの注入を開始した時点での内部温度を180℃としたほかは、実施例1と同様に反応を行い、生成物を得た。得られたものは白色の重合物であり、末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は6.0×10−5eq/gであった。
【0033】
[実施例4]
シュウ酸ジブチルを246.82g(1.2210モル)、1,9−ノナンジアミンを11.59g(0.07329モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミンを181.63g(1.1482モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)、ジアミンの注入を開始した時点での内部温度を200℃としたほかは、実施例1と同様に反応を行い、生成物を得た。得られたものは白色の重合物であり、末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は11.7×10−5eq/gであった。
【0034】
[実施例5]
撹拌機、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が500mLのセパラブルフラスコの容器内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後、シュウ酸ジブチル110.9g(0.5484モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、1,9−ノナンジアミン73.79g(0.4662モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン13.02g(0.08227モル)の混合物(NMDA:MODA=85:15)を60℃のオーブンで融解したジアミンを30秒間かけて反応容器内に仕込んだ。このとき、重縮合反応により生成した重合物が容器内に析出し、同様に生成したブタノールの一部が留出した。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は100ml/分の窒素気流下で行った。
【0035】
上記操作によって得られた前重合物を撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後に190℃に保った塩浴に移し、50ml/分の窒素気流下、3時間重縮合反応を行った。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、さらに2時間反応させた。続いて塩浴から取り出し、50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却してポリオキサミド樹脂を得た。得られたポリオキサミドは白色の強靭なポリマーであった。末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は2.6×10−5eq/gであった。
【0036】
[実施例6]
撹拌機、窒素導入管、原料フィードライン、ブタノール留出管を備えた内容積が5.6Lの耐圧容器内に、漏斗を用いて1,9−ノナンジアミン700.70g(4.4296モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン123.65g(0.78169モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)を仕込んだ。その後、純度が99.9999%の窒素ガスを導入して3.0MPaの加圧下に保ち、次いで留出管から窒素を0.1MPaまで放圧する操作を5回繰り返した後、常圧まで窒素を放圧し、封圧下、系内を昇温した。1時間かけて内部温度を240℃にした後、シュウ酸ジブチル1053.31g(5.21069モル)を原料フィードポンプにより流速2.12L/分で19分間かけて反応容器内に注入した。注入中は、重縮合反応により生成した1−ブタノールを反応容器に留出させながら行い、内圧を1.0MPaに保った。注入終了後、直ちに放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを30分間かけて抜き出した。放圧後、260mL/分の窒素気流下において昇温を開始し、2時間かけて内部温度を260℃にした後、1.5時間重縮合反応を行った。その後、攪拌を止めて系内を窒素で3MPaに加圧して10分間静置した後、260mL/分の窒素気流下で重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は白色のポリマーであり、末端封止反応により生じた末端ホルムアミド基の末端基濃度は8.5×10−5eq/gであった。
【0037】
実施例1〜6、および比較例1によって得られたポリオキサミド樹脂のηr、末端基濃度、数平均分子量を表1に示す。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の方法は、以上詳述したように、重合開始時の温度を制御することにより、末端封止反応による末端ホルムアミド基の生成を制御し、所望の分子量のポリオキサミド樹脂を得る事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジエステルとジアミンとの重縮合反応によりポリオキサミド樹脂を得る製造法において、原料混合開始時の内容物温度を目的とする分子量に応じて20℃から240℃の範囲の所定の温度に設定することを特徴とするポリオキサミド樹脂の分子量制御方法。
【請求項2】
炭素数6〜12のジアミンを原料とする請求項1に記載のポリオキサミド樹脂の分子量制御方法。
【請求項3】
原料ジアミンが1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミン成分からなる請求項1に記載のポリオキサミド樹脂の分子量制御方法。
【請求項4】
数平均分子量が8000〜50000である請求項1〜3に記載の製造法により製造されるポリオキサミド樹脂。

【公開番号】特開2011−63694(P2011−63694A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214595(P2009−214595)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】