説明

ポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法及びポリカーボネート系樹脂押出発泡体

【課題】 本発明は、建築分野、土木分野等で十分に活用できる程度の押出方向に対する垂直断面の面積が大きく、低い見掛け密度、優れた機械的物性を有するポリカーボネート系樹脂押出発泡体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂を押出機に供給して、加熱、混練し、物理発泡剤を圧入して発泡性溶融樹脂混練物とし、該発泡性溶融樹脂混練物を押出機の出口に取り付けられたダイから低圧域に押出して押出発泡体を製造する方法において、特定の溶融粘度η(Pa・s)と、特定の溶融張力MT(cN)が特定の関係を満足させることにより、本発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体は製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融粘度と溶融張力とが特定の関係を満足するポリカーボネート系樹脂を使用して得られる押出発泡体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は熱的性質、電気的性質及び機械的物性等に優れるものであり、自動車分野、建築分野、土木分野等への用途展開が期待されている。特にポリカーボネート樹脂発泡体は断熱性、耐熱性、耐老化性、耐水性、自消性、機械的物性に優れているため、建材用途の軽量構造材、断熱材、内装材等への幅広い用途展開が期待されている。また、近年ポリカーボネート樹脂発泡体はシロアリによる食害を防ぐ耐蟻性が高いことが見出されたことにより、今後建築用途の需要拡大が期待される。
【0003】
このようにポリカーボネート樹脂発泡体は利用価値が高いが、ポリカーボネート樹脂は樹脂の流動開始温度が汎用樹脂に比べて高く、該温度を超えると、溶融粘度および溶融張力が急激に低下するため、汎用樹脂のように押出発泡法で所望の発泡体を得ることが難しい。そのため、溶解度係数6.5以上の有機物を発泡剤とする方法(特許文献1)、沸点50〜150℃のイソパラフィンを発泡剤とする方法(特許文献2)等が提案されている。しかし、これらの方法により得られる発泡体は発泡倍率および厚みにおいて限定的なものであり、機械的強度においても不十分なものである等の課題を有するものであった。
【0004】
上記の課題を解決し、ポリカーボネート樹脂板状発泡体を得る方法として、溶融張力が5cN以上のポリカーボネート樹脂を基材樹脂とする技術が開示されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、高い発泡倍率の発泡体や押出方向に対して垂直な断面の面積が大きい発泡体を得る上で、得られる発泡体の発泡倍率および該面積の上限の制約があり、押出発泡時の安定性や発泡体物性の面で改善の余地を残すものであった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−261836号公報
【特許文献2】特公昭47−43183号公報
【特許文献3】特開平11−254502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の技術では得ることができなかった、建築分野、土木分野等で十分に活用できる程度の押出方向に対する垂直断面の面積(以下、単に断面積という。)が大きく、低い見掛け密度(高い発泡倍率と同義である。)、優れた機械的物性を有するポリカーボネート系樹脂押出発泡体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定のポリカーボネート樹脂を用いることにより、大きい断面積、低い見掛け密度の良好なポリカーボネート系樹脂押出発泡体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下に示すポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法及びポリカーボネート系樹脂押出発泡体を提供するものである。
〔1〕 ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂を押出機に供給し、加熱、混練して溶融樹脂混練物とし、更に物理発泡剤を押出機中に圧入して発泡性溶融樹脂混練物とし、該発泡性溶融樹脂混練物を押出機の出口に取り付けられたダイから低圧域に押出して押出発泡体を製造する方法において、該基材樹脂の250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η(Pa・s)と、250℃の条件下における溶融張力MT(cN)が下記(1)式で定められる関係を満足することを特徴とするポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
1.7log10(η)−5.15<log10(MT)
<1.7log10(η)−4.50・・・(1)
〔2〕 該溶融粘度ηが2000〜4500Pa・sであり、該溶融張力MTが30cN以下であることを特徴とする前記〔1〕に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
〔3〕 該物理発泡剤中の(a)シクロペンタンと(b)シクロペンタンを除く炭素数3〜6の炭化水素系発泡剤とのモル比(a/b)が10/90〜95/5であり、該発泡剤(a)と(b)との合計モル量が、物理発泡剤全モル量に対して80モル%以上であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
〔4〕 ポリカーボネート系樹脂を主成分とすると共に、250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η(Pa・s)と、250℃の条件下における溶融張力MT(cN)が下記(1)式で定められる関係を満足する発泡体であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂押出発泡体。
1.7log10(η)−5.15<log10(MT)
<1.7log10(η)−4.50・・・(1)
〔5〕 該押出発泡体の厚さが10〜120mm、幅が200〜1500mm、見掛け密度が40〜150kg/mであることを特徴とする前記〔4〕に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体。
〔6〕 該押出発泡体の独立気泡率が50%以上であることを特徴とする前記〔4〕又は〔5〕に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体。
【発明の効果】
【0008】
本発明請求項1に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法によれば、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂が、特定の溶融粘度η(Pa・s)と特定の溶融張力MT(cN)によって定まる特定の関係を満足することにより、見掛け密度、厚み及び幅において広い範囲で、優れたポリカーボネート系樹脂押出発泡体を製造することができる。
本発明請求項2に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法によれば、上記請求項1の要件に加え、その基材樹脂が、特定の溶融粘度η(Pa・s)と溶融張力MT(cN)を有することから、より大きな断面積で、より見掛け密度が低いものを得ることができる。
本発明請求項3に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法によれば、上記請求項1、請求項2の要件に加え、特定量のシクロペンタンとシクロペンタンを除く炭化水素系発泡剤からなる物理発泡剤を用いることにより、大きい断面積、高い独立気泡率、低い見掛け密度の押出発泡体を容易に得ることができる。
本発明請求項4に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体は、溶融粘度と溶融張力によって定まる特定の関係を満足する新規なもので、優れた断熱性、機械的強度、軽量性等を兼備するものである。
本発明請求項5に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体は、従来安定して得ることの難しかった、大きな断面積で見掛け密度が低いものであり、多種多様の用途における基礎材料として使用できる。
本発明請求項6に係わる発明のポリカーボネート系樹脂押出発泡体は、独立気泡率が高いものであることから、吸水、吸湿性が低く、断熱性及び機械的強度に特に優れたものであり、基礎型枠などの建築、土木用途の材料として好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂からなるポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法およびポリカーボネート系樹脂押出発泡体について詳しく説明する。
【0010】
本明細書において、ポリカーボネート系樹脂とは下記一般化学式(2)で表される、炭酸結合を有する基本構造単位を50モル%以上、好ましくは70モル%以上含むポリマーを言う。
【0011】
【化1】

【0012】
上記一般化学式(2)において、Rはビスフェノール類の芳香族炭化水素である。
【0013】
また、本明細書において、ポリカーボネート系樹脂を主成分とするとは、基材樹脂の50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上がポリカーボネート系樹脂により構成されていることをいう。
【0014】
本発明方法においては、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする特定の基材樹脂を押出機に供給し、加熱、混練して溶融樹脂混練物とし、更に物理発泡剤を押出機中に圧入して発泡性溶融樹脂混練物とし、該発泡性溶融樹脂混練物を押出機の出口に取り付けられ高圧に保たれたダイ内から大気圧下、或いは減圧条件下などのダイ内圧力よりも低圧域に押出すことにより、押出発泡板や押出発泡シート等のポリカーボネート系樹脂押出発泡体(以下、単に押出発泡体ともいう。)を得ることができる。尚、板状押出発泡体を製造する場合、ダイとして、樹脂押出口が水平なフラットダイ、縦型スリットが多数並列に設けられているスリットダイを用いること、或いは多孔ダイを用いることが好ましい。更に、押出発泡直後に、未硬化の発泡体を大気圧に開放された上下板又は上下ベルトコンベアーからなる成形具内を接触通過させることが好ましく、このようにすれば、表面平滑性が良好な板状押出発泡体を得ることができる。
【0015】
本発明方法では、上記基材樹脂として、250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η(Pa・s)と、250℃の条件下における溶融張力MT(cN)が下記(1)式で定められる関係を満足するものが用いられる。
1.7log10(η)−5.15<log10(MT)
<1.7log10(η)−4.50・・・(1)
【0016】
上記(1)式に示されているように、特定の溶融粘度ηに対して、溶融張力MTが特定の範囲内にある基材樹脂を用いた場合、見掛け密度、厚み及び幅において広い範囲で、優れたポリカーボネート系樹脂押出発泡体を製造することができる。このことは、ポリカーボネート系樹脂の溶融粘度η(Pa・s)が同じであれば、略同じ押出条件で押出すことがことができるが、溶融張力MTが特定の範囲内のものでなければ、良好な押出発泡体を形成することができないことを意味する。即ち、溶融状態での流動性が略同じでも、ポリカーボネート系樹脂ごとに発泡性が異なっており、低い見掛け密度、大きい断面積など優れた押出発泡体を形成するためには、溶融状態での流動性と発泡性のバランスの優れたポリカーボネート系樹脂を用いて押出発泡体を形成しなければならない。ポリカーボネート系樹脂の種類による発泡性の違いの原因としては、発泡温度におけるポリカーボネート系樹脂の粘弾性特性が異なることによる。そして、該粘弾性特性の相違は、分岐鎖構造の有無、分岐鎖の長さ、分岐鎖の数など、分子鎖構造上の相違によるところが大きいと考えられる。そして、上記(1)式を満足する、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂とは、溶融張力が大きく、且つ溶融張力に対する溶融粘度が小さい(流動性が高い)ものである。
【0017】
前記(1)式において、log10(MT)が{1.7log10(η)−5.15}以下の場合、即ち、図1の領域Aに存在する基材樹脂の場合、溶融粘度ηに対して溶融張力MTが不十分なため、押出発泡体の断面積を大きくしたり、見掛け密度を小さくしたりすると、気泡の膨張力に気泡膜が耐え切れず気泡が破壊し、発泡体内部に巨大気泡や大きな空間部が形成されたり、気泡構造の均一性が失われたりして、安定的に目的の低い見掛け密度、大きい断面積を有する良好な押出発泡体を得ることが難しくなる。
【0018】
前記(1)式において、log10(MT)が{1.7log10(η)−4.50}以上の場合、即ち、図1の領域Bに存在する基材樹脂の場合、溶融粘度ηに対して溶融張力MTが大きすぎるため、発泡時に気泡膜の延びが悪いため気泡が成長しにくくなり、低い見掛け密度、大きい断面積の押出発泡体を得ることが困難になる。上記観点から、log10(MT)は{1.7log10(η)−4.70}以下、更に{1.7log10(η)−4.90}以下が好ましい。
【0019】
また、基材樹脂の250℃における溶融張力:MTは、30cN以下、即ち、log10(MT)≦1.48であることが好ましい。MTが30cN以下であり、且つ前記(1)式を満足するものは、発泡時における気泡の成長が良好で優れた発泡性を示す。よって、発泡体の見掛け密度が低く、大きい断面積のものが得られる。かかる観点からMTは25cN以下がより好ましい。一方、基材樹脂の該溶融張力:MTは、低い見掛け密度、大きい断面積の押出発泡体を得る観点から9cN以上が好ましく、更に10cN以上が好ましい。
【0020】
また、基材樹脂の溶融粘度ηは2000〜4500Pa・sが好ましい。溶融粘度ηが上記の範囲内であり、且つ前記(1)式を満足するものは、特に優れた機械的強度を有する押出発泡体が得られる。一方、溶融粘度ηは、良好な発泡性を示し、より低い見掛け密度の押出発泡体を得ることができる観点から更に4000Pa・s以下であることが好ましい。
【0021】
なお、上記(1)式は、本発明者による経験式である。溶融張力が大きく、且つ溶融粘度:ηと溶融張力:MTとのバランスが良好で発泡に使用できるポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂は、横軸をlog10(η)、縦軸をlog10(MT)とした両対数グラフ上において傾き1.7の正の相関をもった分布を示す。そのことにより上記(1)式における傾き1.7が定まっている。また、従来の発泡に使用できる該基材樹脂は、溶融張力に対する溶融粘度が未だ大きいものであり、基材樹脂の発泡時において溶融樹脂の発泡温度を低くすることに限界があった。該発泡温度を低く出来ないということは、物理発泡剤が樹脂中に溶解することによる樹脂の可塑化効果との関連において、該発泡剤の配合量を多く出来ないことに繋がる。それに対し、本発明では溶融張力に対する溶融粘度が小さい、例えば、図1において同じ溶融張力を有する該基材樹脂において、従来のものよりも溶融張力に対する溶融粘度が小さく低粘度側にシフトした該基材樹脂を選択するものである。そのことにより上記(1)式における切片の下限−5.15が定まっている。また、上記(1)式における切片の上限−4.50は、前述のlog10(MT)が{1.7log10(η)−4.50}との関係において説明した通り、発泡時の気泡膜の延びの良し悪しにより定まる値である。
【0022】
本発明方法おいてポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂としては、溶融張力MTと溶融粘度ηとの関係が前記(1)式の関係を満足するものであれば、分岐構造の有無などにかかわらず使用することができるが、例えば、基材樹脂を構成するポリカーボネート系樹脂としては、以下に示すようなNMRスペクトルによって特定される固有の分岐構造を有する下記のポリカーボネート樹脂(i)が好ましい。尚、所望のポリカーボネート系樹脂は分岐数より、分岐鎖が長いものが良好な押出発泡体を得る上で好ましい。
【0023】
ポリカーボネート樹脂(i)
主たる繰り返し単位が下記式(A)で表されるポリカーボネート樹脂であって、重クロロホルムを溶媒として測定されるH−NMRスペクトル中のδ=7.96〜8.02ppmに検出されるシグナル(a)、δ=8.11〜8.17ppmに検出されるシグナル(b)及びδ=10.35〜10.50ppmに検出されるシグナル(c)の各々の積分値から算出されるポリカーボネート樹脂1g中のプロトンモル数(Pa)、(Pb)及び(Pc)が、下記(3)〜(7)式を満たし、且つ粘度平均分子量Mvが18,000〜50,000であるポリカーボネート樹脂。但し、下記数式中、Mvは粘度平均分子量であり、ウベローデ粘度計を用いて、溶媒として塩化メチレンを用い、温度20℃の極限粘度[η]を測定し、[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83の式より求められる値である。また、下記数式中、(Pa)、(Pb)及び(Pc)の単位はμモル/gである。
【0024】
【化2】

【0025】
−0.0040×Mv+107<{(Pa)+(Pb)}
<−0.0060×Mv+200・・・(3)
2<{(Pa)+(Pb)}<40 ・・・(4)
(Pc)/(Pa)≦0.4 ・・・(5)
0.7≦(Pa)/(Pb) ・・・(6)
0.7<(Pb)/{(Pb)+(Pc)} ・・・(7)
尚、(6)式において(Pa)/(Pb)の上限は概ね3.0であり、(7)式において(Pb)/{(Pb)+(Pc)}の上限は概ね0.98である。
【0026】
Polymer,42(2001)7653には、前記シグナル(a)(b)(c)についての知見が記載されている。
即ち、シグナル(a)には未分岐のサリチル酸フェニル構造由来の構造と、未知構造が含まれていることが示されている。また、前記シグナル(b)及び(c)については、それぞれサリチル酸フェニル構造の分岐骨格とサリチル酸フェニル構造の未分岐骨格由来のシグナルであることが示されている。
【0027】
前記シグナル(a)の強度と、ポリカーボネート樹脂の発泡性とは相関関係がある。前記シグナル(a)がどの様な化学構造に由来するか明らかでないが、前記シグナル(a)と(b)の積分値の和{(Pa)+(Pb)}が特定範囲にある場合、ポリカーボネート樹脂の発泡性に与える影響が大きい。従って、{(Pa)+(Pb)}が(3)式又は(4)式の下限を下回ると、発泡成形時の流動性が大きくなり発泡体形成性が悪化する。一方、(3)式又は(4)式の上限を上回ると、発泡体形成性が悪化し、得られる発泡体の衝撃強度も低下する。
【0028】
また、(5)式の上限を上回ると、発泡体形成性が悪化する傾向がある。また、(6)式の下限を下回るとと発泡体形成性が悪化する傾向にあるので好ましくない。また、(7)式の下限を下回ると溶融張力が低下しポリカーボネート樹脂の発泡性が低下する傾向にある。
【0029】
前記ポリカーボネート樹脂(i)は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料とし、アルカリ金属化合物を触媒とするエステル交換反応により製造することができる。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2.0Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、多段工程で複数の重合槽を使用して、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られるポリカーボネート樹脂のH−NMRシグナル(a)及び(b)は、使用するアルカリ金属触媒が多いほど大きく、式(6)及び式(7)の値は、滞留時間が長いほど大きくなる傾向にある。
【0030】
上記エステル交換反応法において、原料の一つとして用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(A−1)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0031】
【化3】

【0032】
上記一般式(A−1)中、Aは、単結合、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−CO−又は−SO−を表し、X及びYは各々独立して、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、p及びqは各々独立して、0又は1の整数を表す。
【0033】
一般式(A−1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。さらに、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を分岐化剤として少量併用することもできるが、分岐化剤は使用しないことが好ましい。
【0034】
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物の中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」ともいう。)が特に好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、微量成分として上記H−NMRのシグナル(a)、(b)又は(c)を示す成分を含んでいてもよいが、上記シグナル(a)、(b)及び(c)のいずれのシグナルも実質的に存在しないことが好ましい。ここで「実質的に」とは、芳香族ジヒドロキシ化合物1gあたり、シグナルの積分値の合計から計算されたプロトンモル数がそれぞれ1μモル/g未満、好ましくは0.1μモル/g未満のことをいう。
【0035】
前記エステル交換反応法において用いられる他の原料である炭酸ジエステルとしては、下記一般式(A−2)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0036】
【化4】

【0037】
前記一般式(A−2)中、A及びAは各々独立して、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状、若しくは環状の1価の炭化水素基を表す。
【0038】
一般式(A−2)炭酸ジエステルの代表的なものとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0039】
また、上記の炭酸ジエステルのうち、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで代替して、芳香族ヒドロキシ化合物とエステル交換反応させることもできる。代表的なジカルボン酸及びジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。この様なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを併用した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。これらの炭酸ジエステルは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0040】
炭酸ジエステルの使用量(上記ジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを併用する場合は、炭酸ジエステルの使用量に、ジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルの使用量を含めることとする。以下同じ)と芳香族ジヒドロキシ化合物の使用量は、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基含有量、及びエステル交換反応速度に影響する。炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、炭酸ジエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、モル比1.001〜1.3で用いられるのが好ましく、1.01〜1.2がより好ましい。モル比が1.001未満であると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端OH基が増加して、熱安定性及び耐加水分解性が悪化する。一方、モル比が1.3を超えると、ポリカーボネート樹脂の末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造することが困難になる傾向がある。ポリカーボネート樹脂(i)としては、末端OH基含有量が50〜1500ppmであるのが好ましく、100〜1200ppmがより好ましく、200〜1000ppmがさらに好ましい。尚、上記末端OH基含有量は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.,88,215(1965)に記載の方法)により比色定量される値であり、測定値は、ポリカーボネート樹脂重量に対する末端OH基の重量ppmである。
【0041】
本発明方法において、押出機中に圧入する物理発泡剤は、従来公知の有機系、或いは無機系の物理発泡剤を使用することができるが、物理発泡剤中の(a)シクロペンタンと(b)シクロペンタンを除く炭素数3〜6の炭化水素系発泡剤とのモル比(a/b)が10/90〜95/5であり、該発泡剤(a)と(b)との合計モル量が、物理発泡剤全モル量に対して80モル%以上であるものを使用することが好ましく、更に該モル比(a/b)が20/80〜90/10、特に該モル比(a/b)が30/70〜70/30が好ましい。このような組成の発泡剤を使用することは、大きい断面積で、高い独立気泡率、低い見掛け密度の押出発泡体を得る上で好ましい。尚、上記効果は、特定量のシクロペンタンを使用することによる効果であって、本発明にて使用する前記(1)式を満足する基材樹脂の押出発泡時の適切な発泡温度における樹脂に気泡が生成され該気泡が膨張する発泡速度がノルマルペンタン等の発泡剤と比較して適度に遅くすることができるため気泡が破壊されること無く十分に膨張させることができると同時に、押出機先端に取り付けられるダイの樹脂押出し開口部の面積を大きくしても、ダイ内の圧力低下が原因で発生するダイ内での樹脂の発泡現象を防ぐことができる。ここでいうダイ内での発泡現象は一般に内部発泡と称され、内部発泡が起こると良好な押出発泡体は得られない。上記シクロペンタンを使用することによる発泡速度の遅延効果は、シクロペンタンとポリカーボネート系樹脂との相溶性が高いことから、発泡剤と樹脂のガス分離が起こりにくくなるため発現されると考えられる。
【0042】
一方、シクロペンタンのみを発泡剤として用いると、発泡速度が遅くなりすぎることに起因して、押出された発泡体の冷却条件調整が難しくなり、見掛け密度の高いものや独立気泡率の低いものとなる虞がある。従って、上記の通りシクロペンタンと他の物理発泡剤とを組み合わせて発泡速度を適正範囲に調整することが好ましい。
【0043】
尚、前記炭素数3〜6の炭化水素系発泡剤としては、ノルマルプロパン、シクロプロパン、イソブタン、ノルマルブタン、シクロブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、イソヘキサンなどの飽和炭化水素、塩化メチル、塩化エチルなどの塩化炭化水素、HFC134a,152a,32,245fa,365mfcなどのフッ化炭化水素、フッ化エーテル化合物(HFE)、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテルなどが好ましく選択される。
【0044】
これらの中でも、シクロペンタンよりも低沸点のものが好ましく、より好ましくは、ノルマルプロパン、シクロプロパン、イソブタン、ノルマルブタン、シクロブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、シクロペンタン等の炭素数3〜5の飽和炭化水素が挙げられる。
【0045】
物理発泡剤の使用量は、発泡剤の種類や所望する発泡倍率によっても異なり、発泡倍率によって該発泡体の見掛け密度が定まるから、主に所望する押出発泡体の見掛け密度で発泡剤の使用量が定まると言える。従って、発泡剤使用量は、一概に決められないが、概ね基材樹脂1kg当り0.05〜0.9モル程度の範囲で使用され、特に見掛け密度40〜150kg/mのものを得る場合には概ね基材樹脂1kg当り0.2〜0.9モル程度の範囲で使用される。
【0046】
本発明方法においては、ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂と発泡剤とを混練してなる発泡性溶融混合物を円滑に発泡させるために、基材樹脂と発泡剤との溶融混練物中に通常、気泡調整剤が添加されている。この場合の気泡調整剤としては、タルクやシリカ等の無機粉末、多価カルボン酸の酸性塩、多価カルボン酸と炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムとの混合物等が好ましい。その添加量は、基材樹脂100重量部当り0.01〜1.0重量部、更に0.05〜0.5重量部であることが好ましい。
【0047】
また、ポリカーボネート樹脂を主成分とする基材樹脂には、難燃剤、熱安定剤、耐候性向上剤、着色剤等のような、通常の発泡体に添加される公知の添加剤も添加することができる。
例えば、メタキシレンスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンスルホン酸ナトリウムジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩などの有機アルカリ金属塩、オルガノポリシロキサン、リン系難燃剤、ポリテトラフルオロエチレン、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンなどの難燃性向上剤を適時、適量添加することができる。特に、有機アルカリ金属塩は少量で難燃性を向上させることができるため好ましい。
【0048】
本発明方法においては、発泡性溶融樹脂混練物を環状ダイ、或いはTダイから押出発泡する公知の方法により、広幅及び/又は低い見掛け密度のシート状押出発泡体を安定して得ることができる。また、フラットダイを使用して発泡性溶融樹脂混練物を該ダイから成形具内に押出し押出発泡物を成形具内面に接触通過させることにより、大きい断面積及び/又は低い見掛け密度の板状押出発泡体を安定して得ることができる。尚、該成形具としては、成形用の板を上下に間隔をあけて配置したものや、上下ベルトコンベアー等が挙げられる。また、上記の上下板又は上下ベルトコンベアーからなる成形具は通常平行に設けられるが、気泡形状、密度、厚み等の調整のために、傾斜をつけることもある。また、成形具は上下のみならず左右にも設けることができる。また、上下板からなる成形具は、より良好な表面平滑性を有する押出発泡体を得るために、発泡体製造時に発泡体が成形具の表面をなめらかに滑るように、成形具の表面がポリテトラフルオロエチレン等により形成されているものや、非接着性の鍍金処理されているものが好ましい。
【0049】
また、上下板からなる成形具にチラー配管などを設けて、押出発泡体の表面をその軟化温度以下に冷却することが好ましく、このことにより発泡体表面が接触冷却されて、より良好な薄皮を形成することができ、表面平滑性、厚み精度が更に良好なものが得られるようになる。
【0050】
尚、上記基材樹脂の軟化温度とは、JIS K7206(1999)のA 50法により求められるビカット軟化温度のことである。
【0051】
上記の通り、本発明方法は、特定のポリカーボネート樹脂を使用する方法を採用することにより、見掛け密度、発泡体幅および発泡体厚みにおいて広い範囲で、寸法安定性、表面平滑性、厚み精度及び圧縮応力等の機械的強度等が良好な押出発泡体を製造することができる。そのことによって目的物に合せて見掛け密度等を設定することが容易となり多種多様の用途に使用できる。
【0052】
上記(1)式を満足する基材樹脂を上記の通り押出発泡することにより得られた良好なポリカーボネート系樹脂押出発泡体は、該押出発泡体から測定される溶融張力と溶融粘度も、上記(1)の関係を満足するものである。
【0053】
上記(1)式を満足する発泡体からなる本発明のポリカーボネート系樹脂発泡体においては、寸法安定性、表面平滑性、厚み精度及び圧縮応力等の機械的強度等が良好な押出発泡体となっている。しかし、上記(1)式におけるlog10(MT)の値が{log10(η)−5.15}以下のものは、上記の良好な押出発泡体とはならない。一方、上記(1)式を満足する基材樹脂から得られる押出発泡体は、上記(1)式におけるlog10(MT)の値が{log10(η)−4.50}以上のものとはならない。
【0054】
本発明の押出発泡体が、シート状押出発泡体の場合においては、機械的強度、二次加工性、生産性の観点から、見掛け密度が150〜800kg/m、更に200〜600kg/m、幅が400〜1200mm、更に500〜1000mm、厚さが0.7〜7mm、更に1.5〜6mmであることが好ましい。
【0055】
一方、本発明の押出発泡体が、板状押出発泡体の場合においては、厚さが10〜120mm、更に15〜100mm、特に25〜70mmであることが好ましい。板状押出発泡体の厚みが薄すぎる場合には、建築、土木分野の用途にて使用する際には断熱性、機械的強度が不十分なものとなる虞がある。一方、厚みが厚すぎる場合には、発泡体の表面状態、発泡体断面の気泡の均一性等が不十分になる虞がある。
【0056】
また、該板状押出発泡体の幅が200〜1500mm、更に300〜1000mmであることが好ましい。板状押出発泡体の幅が狭すぎる場合、施工効率、生産効率が低下してしまう。一方、板状押出発泡体の幅が広すぎる場合、押出発泡体の厚みの均一性、平滑性が不十分になる虞がある。
【0057】
また、該板状押出発泡体の見掛け密度が40〜150kg/m、更に55〜120kg/mであることが好ましい。板状押出発泡体の密度が大きすぎる場合は、強度においては申し分ないが、用途によっては、断熱性、軽量性において不十分となり、板材としての多少の柔軟性の要求される場合は不適なものとなる。一方、板状押出発泡体の見掛け密度が小さすぎる場合は、吐出量の大きな大型の押出機を使用し、かつ、押出発泡時の温度コントロールを極めて正確に行なう必要があり、板状押出発泡体生産安定性が悪くなる虞がある。
【0058】
本発明の押出発泡体の独立気泡率は50%以上、更に60%以上、特に70%以上であることが好ましい。その上限値は、当然100%である。独立気泡率が低すぎる場合、用途によっては圧縮、曲げ等の機械的強度が不十分なものとなる虞があり、また、押出発泡体が水分を吸収する虞があり、用途が限定されることがある。
【0059】
本発明の押出発泡体は、特に優れた断熱性を示すものとなることから、シクロペンタンを含有することが好ましい。シクロペンタンの含有量は、押出発泡体1kg当り0.03〜0.9モル、更に0.05〜0.8モルであることが好ましい。含有量が少なすぎる場合は、十分な断熱性向上効果が得られにくい。一方、該含有量が多すぎる場合は、難燃性が不十分となる虞がある。
【0060】
本発明の押出発泡体の熱伝導率は、概ね0.025〜0.060W/m・Kである。断熱材用途などでは、0.025〜0.050W/m・Kのものが好適に用いられる。
【0061】
本発明の押出発泡体においては、気泡形状が偏平、或いは略球状のものとすることがより高い独立気泡構造のものを得る上で好ましい。また、本発明の押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は0.08〜3.0mm、特に板状押出発泡体の場合は該平均気泡径が0.5〜3.0mmであることが好ましい。該平均気泡径が上記範囲内のものは、押出発泡体の表面平滑性等に優れ、圧縮強さ、断熱性等の基材樹脂の基本物性を十分に発揮させることができる、特に優れたものとなる。尚、押出発泡体の気泡形状や厚み方向の平均気泡径の調整は、押出発泡時の引取速度、成形具を使用する場合の成形具の温度調整や成形具の上下板又は上下ベルトコンベアー間隔及び傾斜の調整などにより調整することができる。また、押出発泡体の平均気泡径の調整は、気泡調整剤添加量、押出発泡直後の発泡体冷却条件の調整などにより調整することもできる。
【0062】
上述した本発明の押出発泡体には、更に、ポリカーボネート系樹脂などの非発泡樹脂等を公知の方法により積層することもできる。
【0063】
以下、本明細書における基材樹脂および発泡体の諸物性の測定方法について説明する。尚、以下の溶融張力及び溶融粘度の測定において、基材樹脂の溶融張力及び溶融粘度の測定は真空乾燥機を用いて、110℃、760mmHg減圧下で5時間保持して乾燥したものを測定試料とすることとし、発泡体の溶融張力及び溶融粘度の測定は真空乾燥機を用いて、220℃、760mmHg減圧下で錘により加圧しながら24時間保持して発泡体を脱泡したのち、110℃、760mmHg減圧下で5時間保持して乾燥したものを測定試料とする。
【0064】
[溶融張力]
溶融張力MTは、株式会社東洋精機製作所製のメルトテンションテスターII型によって測定することができる。具体的には、オリフィス内径2.095mm、長さ8mmのオリフィスを有するメルトテンションテスターを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を250℃とし、該シリンダー中に測定試料を入れ、5分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として250℃の溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛けた後、約5rpm/秒(紐状物の捲取り加速度:1.3×10−2m/秒)の割合で捲取り速度を徐々に増加させていきながら直径50mmの捲取りローラーで捲取る。尚、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出す際には該紐状物に、できるだけ気泡が混入しないようにする。
【0065】
溶融張力を測定するには、上記の通り、張力検出用プーリーに掛けた紐状物が切れるまで捲取り速度を増加させ、紐状物が切れた時の捲取り速度:R(rpm)を求める。次いで上記の通り再度、R×0.7(rpm)の一定の捲取り速度において紐状物の捲取りを行い、張力検出用プーリーと連結する検出器により検出される紐状物の溶融張力を経時的に測定し、縦軸に溶融張力を、横軸に時間をとったグラフに示すと、図2のような振幅をもったグラフが得られる。
本明細書における溶融張力としては、図2において振幅の安定した部分の振幅の中央値(X)を採用する。但し、捲取り速度が500rpmに達しても紐状物が切れない場合には、捲取り速度を500rpmとして紐状物を巻き取って求めたグラフより紐状物の溶融張力を求める。尚、溶融張力の経時的測定の際に、まれに特異な振幅値が検出されることがあるが、このような特異な振幅値は無視するものとする。
【0066】
[溶融粘度]
250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度ηは、例えば島津フローテスタCFT−500Aによって測定することができる。島津フローテスタCFT−500Aを使用する場合には、温度を250℃一定にし、荷重(N)を変化させ、100sec−1の時の溶融粘度(Pa・s)を求める。なお、測定の際にオリフィスから押出されるストランドには気泡ができるだけ混入しないようにする。
【0067】
[独立気泡率]
発泡体の独立気泡率Fc(%)の値は、エアピクノメーター法(空気比較式比重計を使用する方法)により、発泡体試験片の樹脂の容積と独立気泡部分の容積との和である発泡体試験片の実容積Vxを求め、下記(8)式に基づいて算出される値である。
Fc
={[Vx−Va(ρf/ρs)]/[Va−Va(ρf/ρs)]}×100
・・・(8)
【0068】
但し、(8)式中、Fc、Vx、Va、ρf、ρsは次のことを表す。
Fc:独立気泡率(%)
Vx:発泡体試験片の実容積(cm
Va:発泡体試験片の見掛けの容積(外形寸法から算出される見掛けの容積)(cm
ρf:発泡体試験片の見掛け密度(g/cm
ρs:発泡体試験片の基材樹脂の密度(g/cm
【0069】
[平均気泡径]
押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は押出発泡体の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)を、顕微鏡等を用いてスクリーンまたはモニター等に拡大投影し、投影画像上において厚み方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(但し、この長さは拡大投影した投影画像上の直線の長さではなく、投影画像の拡大率を考慮した真の直線の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、平均気泡径を求める。
但し、平均気泡径の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所に厚み方向に全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径とする。
【0070】
[シクロペンタンの含有量]
押出発泡体中のシクロペンタンの含有量(発泡体1kg当たりの含有量)の測定は、ガスクロマトグラフ分析により、以下の測定条件により測定される。
株式会社島津製作所製、島津ガスクロマトグラフGC−14B
カラム:信和化工株式会社製、Silicone DC550 20%,カラム長さ4.1m、カラム内径3.2mm、サポート:Chromosorb AW−DMCS、メッシュ60〜80
カラム温度:40℃
注入口温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガス速度:3.5ml/min
検出器:FID
検出器温度:200℃
定量:内部標準法(内部標準:シクロペンタン)
【0071】
[熱伝導率]
押出発泡体から縦20cm、横20cm、表層部を削り取った押出発泡体厚みに試験片を切り出して、JIS A 9511(1995)4.7の記載により、英弘精機株式会社製の熱伝導率測定装置「オートΛ HC−73型」を使用して、JIS A 1412(1994)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、熱板温度高温側35℃、熱板温度低温側5℃、平均温度20℃)に基づいて測定する。
[見掛け密度]
JIS K7222(1999)に基づいて測定される値である。なお、押出発泡体の見掛け密度とは、スキン層が取り除かれていないものの場合は見掛け全体密度、スキン層が取り除かれているものの場合は見掛けコア密度のことを言う。
[押出発泡体の厚み]
押出発泡体の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向に対する垂直断面)の幅方向端部から他方の幅方向端部までを11等分し両端部を除く10箇所の測定点を定める。続いて、10箇所の各測定点における押出発泡体の厚みを測定し、測定値の相加平均値を押出発泡体の厚みとする。
【実施例】
【0072】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例、比較例で用いるポリカーボネート系樹脂につき、製造メーカー、グレード、250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η、250℃の条件下における溶融張力MT、「log10(MT)」「1.7log10(η)−5.15」の値、「1.7log10(η)−4.50」の値を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1
押出機として、口径65mmの押出機(以下「第一押出機」という。)と口径90mmの押出機(以下、「第二押出機」という。)と口径150mm押出機(「第三押出機」という)とを直列に連結したものを使用した。ダイとして、先端に幅115mm、間隙3mmの長方形断面の開口部を備えたものを使用した。
【0076】
原料として、表2に示すポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、気泡調整剤としてタルク0.02重量%(松村産業製 ハイフィラー#12)、ポリメチルメタクリレート(PMMA、三菱レイヨン株式会社製 メタブレンP501A)1重量%を配合したものを用い、発泡剤として、シクロペンタンとイソペンタンを表2に示す割合で混した混合物を用いた。
【0077】
前記装置を用いて、ポリカーボネート系樹脂、気泡調整剤およびPMMAを第一押出機に供給し、約300℃まで加熱し、溶融混練し、第一押出機の先端付近で発泡剤を溶融樹脂中に圧入して発泡性溶融樹脂混合物とし、続く第二押出機及び第三押出機で表2に示す樹脂温度に調整して発泡性溶融樹脂混合物とし、該混合物をダイ開口部からダイ下流側に平行に取り付けられた上板と下板とからなる成形装置の上下板間に押出し、上下板内面と接触通過させることにより軟化温度以下に冷却しつつ引取機により引取ることによって、板状ポリカーボネート樹脂押出発泡体を得た。
得られた押出発泡体の見掛け密度、厚さ及び幅、独立気泡率、厚み方向の平均気泡径等を表2に示す。
【0078】
実施例2〜4、比較例1、2
ポリカーボネート樹脂の種類、発泡剤の配合比と注入量、押出発泡時の樹脂温度を表2に示す通りにした以外は、実施例1と同様にして板状ポリカーボネート樹脂押出発泡体を得た。
得られた押出発泡体の見掛け密度、厚さ及び幅、独立気泡率、厚み方向の平均気泡径等を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例5
押出機として、口径115mmの第一押出機と口径150mmの第二押出機とを直列に連結したものを使用し、先端に幅240mm、間隙3mmの長方形断面の開口部を備えたダイを第二押出機に取り付けた装置を使用して、樹脂温度を表3に示す通りにした以外は、実施例1と同様にして板状ポリカーボネート樹脂押出発泡体を得た。
得られた押出発泡体の密度、厚さ及び幅、独立気泡率、厚み方向の平均気泡径等を表3に示す。
【0081】
実施例6〜9、比較例3
ポリカーボネート樹脂の種類、発泡剤の配合比と注入量、押出発泡時の樹脂温度を表2に示す通りにした以外は、実施例5と同様にして板状ポリカーボネート樹脂押出発泡体を得た。
得られた押出発泡体の見掛け密度、厚さ及び幅、独立気泡率、厚み方向の平均気泡径等を表3に示す。
【0082】
実施例10
押出機として、口径115mmの第一押出機と口径150mmの第二押出機とを直列に連結したものを使用し、先端に幅480mm、間隙3mmの長方形断面の開口部を備えたダイを第二押出機に取り付けた装置を使用して、樹脂温度を表3に示す通りにした以外は、実施例8と同様にして板状ポリカーボネート樹脂押出発泡体を得た。
得られた押出発泡体の見掛け密度、厚さ及び幅、独立気泡率、厚み方向の平均気泡径等を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
実施例1〜10、比較例1〜3において得られた製造直後の押出発泡体の両面表層部を各々厚み2mm削り取り、気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間放置した後の熱伝導率を測定した。その結果を表2、3に示す。
【0085】
また、実施例、比較例において得られた押出発泡体の5%圧縮強さを以下の通り測定した。結果を表2、3に示す。
[5%圧縮強さ]
押出発泡体から縦5cm、横5cm、押出発泡体厚みに試験片を切り出して、圧縮速度を10mm/分とした以外は、JIS K 7220(1999)に基づいて5%圧縮時の荷重を求め、押出発泡体の5%圧縮強さを算出した。
【0086】
比較例1、3で得られた発泡体は、独立気泡率が低く、セルの潰れがみられた。また、比較例2で得られた発泡体は、独立気泡率が低く、セルの潰れがみられ、見掛け密度も高い発泡体であった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明方法におけるポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂の溶融粘度η(Pa・s)と溶融張力MT(cN)との関係を説明するためのグラフである。
【図2】発泡体および基材樹脂の溶融張力の測定方法を説明するためのグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂を主成分とする基材樹脂を押出機に供給し、加熱、混練して溶融樹脂混練物とし、更に物理発泡剤を押出機中に圧入して発泡性溶融樹脂混練物とし、該発泡性溶融樹脂混練物を押出機の出口に取り付けられたダイから低圧域に押出して押出発泡体を製造する方法において、該基材樹脂の250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η(Pa・s)と、250℃の条件下における溶融張力MT(cN)が下記(1)式で定められる関係を満足することを特徴とするポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
1.7log10(η)−5.15<log10(MT)
<1.7log10(η)−4.50・・・(1)
【請求項2】
該溶融粘度ηが2000〜4500Pa・sであり、該溶融張力MTが30cN以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
該物理発泡剤中の(a)シクロペンタンと(b)シクロペンタンを除く炭素数3〜6の炭化水素系発泡剤とのモル比(a/b)が10/90〜95/5であり、該発泡剤(a)と(b)との合計モル量が、物理発泡剤全モル量に対して80モル%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
ポリカーボネート系樹脂を主成分とすると共に、250℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度η(Pa・s)と、250℃の条件下における溶融張力MT(cN)が下記(1)式で定められる関係を満足する発泡体であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂押出発泡体。
1.7log10(η)−5.15<log10(MT)
<1.7log10(η)−4.50・・・(1)
【請求項5】
該押出発泡体の厚さが10〜120mm、幅が200〜1500mm、見掛け密度が40〜150kg/mであることを特徴とする請求項4に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
該押出発泡体の独立気泡率が50%以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載のポリカーボネート系樹脂押出発泡体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199879(P2006−199879A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14825(P2005−14825)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】