説明

ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤

【課題】環境に優しい脂肪族型非イオン界面活性剤であって、芳香族型非イオン界面活性剤に匹敵する優れた界面活性能を有し、経時的安定性に優れた乳化作用を発揮することができ、汎用性に優れる脂肪族型非イオン界面活性剤を提供する。
【解決手段】ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、ポリグリセリンアルキルエーテルからなる非イオン界面活性剤であって、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量が75重量%以上であり、且つ、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量が5重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の油類、溶剤類に対して優れた乳化作用を発揮するポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤、及び、該ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤を含む非イオン界面活性剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキルフェノールにエチレンオキサイド(EO)を付加重合させて得られる芳香族型非イオン界面活性剤は、非常に優れた乳化作用を発揮し、広範な分野で幅広く使用されてきた。しかしながら、近年、芳香族型非イオン界面活性剤の環境や生態系への悪影響が問題となっており、例えば、洗浄剤のように環境や生態系への配慮が不可欠な分野において、脂肪族アルコールを原料とした脂肪族型非イオン界面活性剤への転換が進められている。
【0003】
脂肪族アルコールを原料とした脂肪族型非イオン界面活性剤としては、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下、脂肪族アルコールにエチレンオキサイド、及び炭素数3〜4のアルキレンオキサイドを付加重合して得られるアルキレンオキサイド付加体が、各種洗浄剤、乳化剤、乳化重合用乳化剤、分散剤、可溶化剤、湿潤・膨潤剤、消泡剤等としてすでに使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このようなポリオキシエチレンやポリオキシプロピレンを親水性基として用いた非イオン界面活性剤を化粧品、洗浄剤などの一般消耗品に使用した場合、エマルジョンの経時安定性が乏しく、相分離しやすいことが問題であった。これは、ポリオキシエチレン鎖やポリオキシプロピレン鎖と水との会合力が弱いため、温度によって親水性が大きく変化することが原因であった。
【0005】
エマルジョンの経時安定性の問題を解決するため、様々な乳化方法が検討されている。例えば、乳化の過程において、液晶相や界面活性剤相(D相)、相転移温度(転相温度)等の分子の無限会合体形成領域を経由させて、油/水界面張力を極小とし、微細で均一な乳化粒子を生成させる方法等が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、一様に煩雑であり、製造効率の低下が問題であった。すなわち、環境に優しい脂肪族型非イオン界面活性剤であって、芳香族型非イオン界面活性剤に匹敵する優れた界面活性能を有し、簡易な操作で、経時的安定性に優れた乳化作用を発揮することができる脂肪族型非イオン界面活性剤が見出されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−126690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、環境に優しい脂肪族型非イオン界面活性剤であって、芳香族型非イオン界面活性剤に匹敵する優れた界面活性能(乳化力、可溶化力)を有し、経時的安定性に優れた乳化作用を発揮することができ、しかも汎用性に優れている脂肪族型非イオン界面活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、親水性基として、温度によって親水性が大きく変化するポリオキシエチレン鎖の代わりにポリグリセリン鎖を用い、疎水性基として分岐鎖状脂肪族炭化水素基を用いたポリグリセリンアルキルエーテルからなる非イオン界面活性剤は、環境に優しく、芳香族型非イオン界面活性剤に匹敵する優れた界面活性作用を有し、広範な温度範囲で利用でき、汎用性に優れ、簡易な操作で、経時的安定性に優れた乳化作用を発揮することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき、さらに研究を重ねて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリグリセリンアルキルエーテルからなる非イオン界面活性剤であって、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量が75重量%以上であり、且つ、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量が5重量%以下であるポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤を提供する。
【0010】
ポリグリセリンモノアルキルエーテルが、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数14〜22の分岐鎖状脂肪族炭化水素基を示し、nはグリセリンの平均量体数で2〜10の数値である)
で表されるポリグリセリンモノアルキルエーテルであることが好ましい。
【0011】
ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、洗浄剤、乳化剤、乳化重合用乳化剤、可溶化剤として使用することが好ましい。
【0012】
本発明は、また、上記ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤70〜95重量%、及び水5〜30重量%を含有することを特徴とする非イオン界面活性剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤によれば、温度変化に伴う親水性の変化の少ないポリグリセリン鎖を有するとともに、疎水性基として分岐鎖状脂肪族炭化水素基を有するため、鉱油、植物油、シリコーン油などの種々の油類、各種溶剤類、各種合成樹脂類に対して、芳香族型非イオン界面活性剤に匹敵する優れた界面活性作用を有し、且つ、経時的安定性に優れた界面活性作用を発揮することができ、汎用性に優れる。また、芳香環を有しないため、微生物により生分解されやすく、自然環境への負荷が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[ポリグリセリンアルキルエーテル]
本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、ポリグリセリンアルキルエーテルからなる非イオン界面活性剤であって、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量が75重量%以上であり、且つ、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量が5重量%以下であることを特徴とする。尚、本発明において、ポリグリセリンアルキルエーテルは、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリンアルケニルエーテル、ポリグリセリンアルキニルエーテルを含むものとする。
【0015】
本発明において、ポリグリセリンアルキルエーテルに含有される各成分(例えば、ポリグリセリンモノアルキルエーテル、ポリグリセリンジアルキルエーテルなど)含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)等のカラムクロマト分析法で各成分を溶離し、示差屈折率検出器を用いて検出されるピークの面積比で表した含有率(全ピーク面積に対する各成分に帰属されるピーク面積比)で表される。
【0016】
なお、上記カラムクロマト分析法としては、官能基としてオクタデシルシリル基、オクチルシリル基、ブチルシリル基、トリメチルシリル基、フェニルシリル基を結合したシリカゲルを担体として用いる逆相分配カラム分析法、官能基としてシアノプロピル基、アミノプロピル基を有するシリカゲルを担体として用いる順相分配カラム分析法、官能基として4級アンモニウム基、フェニルスルホン酸基を有するイオン交換カラム分析法、多孔性シリカゲルの吸着カラム分析法が挙げられる。これらの分析法において、好ましくはオクタデシルシリル(ODS)基が結合したシリカゲルを担体として用いる逆相分配カラム分析法が使用される。また、分離性能を向上させるため、カラムサイズは4.6mmφ×250mm以上が好ましく、カラムを直列に繋ぐと分離能を向上させることができるので、より好ましい。
【0017】
ポリグリセリンアルキルエーテル中のポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量としては75重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量が75重量%を下回ると、ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤の水溶性が低下する傾向がある。また、乳化に必要なポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤量が増加するため、環境汚染や、皮膚の荒れなどの問題を引き起こし易くなる傾向がある。ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量の上限は100重量%である。ポリグリセリンジアルキルエーテルの含有量としては5重量%以下であり、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下(例えば、0重量%以上、0.5重量%以下)である。ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量が5重量%を上回ると、界面に配向しにくくなるため、乳化特性の低下を引き起こす傾向がある。
【0018】
ポリグリセリンモノアルキルエーテルとしては、「アルキル」部位が分岐鎖状脂肪族炭化水素基であるポリグリセリンモノアルキルエーテルが好ましく、特に、上記式(1)で表されるポリグリセリンモノアルキルエーテルであることが好ましい。式(1)中、Rは炭素数14〜22の分岐鎖状脂肪族炭化水素基を示し、nはグリセリンの平均量体数で2〜10の範囲である。
【0019】
式(1)の括弧内のC362は、下記式(2)及び(3)で示される両方の構造を有する。
−CH2−CHOH−CH2O− (2)
−CH(CH2OH)CH2O− (3)
【0020】
式(1)中、Rは炭素数14〜22の分岐鎖状脂肪族炭化水素基を示す。分岐鎖状脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブチルオクチル、イソミリスチル、イソセチル、ヘキシルデシル、イソステアリル、オクチルデシル、オクチルドデシル、イソベヘニル基などを挙げることができ、なかでも、イソミリスチル、イソセチル、ヘキシルデシル、イソステアリル、オクチルデシル、オクチルドデシル基などの炭素数14〜20の分岐鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、特に、イソセチル、ヘキシルデシル、イソステアリル、オクチルデシル基などの炭素数16〜18の分岐鎖状脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0021】
ポリグリセリンモノアルキルエーテルは、単一成分であっても良く、Rの異なるポリグリセリンモノアルキルエーテルの混合物であっても良い。
【0022】
本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤には、ポリグリセリンを含んでいてもよい。ポリグリセリンの含有量としては、例えば、ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤中、20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。ポリグリセリン含有量が20重量%を上回ると、水分散性が低下する傾向がある。
【0023】
[ポリグリセリンアルキルエーテルの製造]
本発明におけるポリグリセリンアルキルエーテルは、種々の方法で製造することができ、例えば、(i)エピクロルヒドリンをアルコール類に付加した後、アルカリ条件下で脱塩化水素閉環し、次いで、希硫酸で開環する操作を目的の重合度に達するまで繰り返す方法、(ii)グリシドールを分岐鎖状脂肪族アルコールに付加する方法、(iii)水酸基を保護したグリシドールを分岐鎖状脂肪族アルコールに付加した後、脱保護する方法、(iv)キシレンなどの無極性溶媒中で分岐鎖状脂肪族アルコールにグリシドールを付加する方法、(v)ポリヒドロキシ化合物にアルキルサルフェートを反応させてポリヒドロキシモノアルキルエーテルを製造する方法、(vi)アルキルグリシジルエーテルとグリセリンのアセタール又はケタールとを反応させて、4−(2’−ヒドロキシ−3’−アルコキシ)プロポキシメチル−1,3−ジオキソランを合成し、これを加水分解して2−ヒドロキシ−3−アルコキシプロピルグリセリルエーテルを製造する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明においては、上記(ii)グリシドールを分岐鎖状脂肪族アルコールに付加する方法を好適に使用することができる。上記方法によれば、得られるポリグリセリンアルキルエーテル中のポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量をより高めることができ、高純度のポリグリセリンアルキルエーテルを得ることができる。そして、高純度のポリグリセリンアルキルエーテルを得ることにより、該ポリグリセリンアルキルエーテルから成るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤の使用量を、100%ポリグリセリンモノアルキルエーテルを使用した場合と比べて、ほぼ同等量の使用量にまで抑制することができ、界面活性剤の過剰使用による、洗浄用途では環境への負荷増大、化粧品用途では肌荒れなどを抑制することができる。
【0025】
(ii)グリシドールを分岐鎖状脂肪族アルコールに付加する方法は、下記式(4)
R−OH (4)
(式中、Rは前記に同じ)
で示される分岐鎖状脂肪族アルコールにアルカリ触媒を加えてアルコキシドとした後、グリシドールを加えて撹拌が十分できる程度の温度で反応させる工程よりなる。
【0026】
式(4)で表される分岐鎖状脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素数14〜22の分岐鎖状脂肪族アルコールを挙げることができる。分岐鎖状脂肪族アルコールとしては、例えば、ブチルオクチルアルコール、イソミリスチルアルコール、イソセチルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、イソベヘニルアルコールなどを挙げることができ、なかでも、イソミリスチルアルコール、イソセチルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコールなどの炭素数14〜20の分岐鎖状脂肪族アルコールが好ましく、特に、イソセチルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルデシルアルコールなどの炭素数16〜18の分岐鎖状脂肪族アルコールが好ましい。上記分岐鎖状脂肪族アルコールは単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
上記式(4)で表される分岐鎖状脂肪族アルコールを反応容器中にとり、これにアルカリ触媒を添加し、アルコキシドとした後、グリシドールを少量ずつ添加しながら反応を行うことができる。
【0028】
上記反応の反応温度は、0〜100℃であり、好ましくは30〜90℃、より好ましくは50〜80℃である。0℃未満では反応中の組成物が撹拌できなくなる傾向がある。また、100℃を越えると、グリシドールはアルコキシドと反応する前に自己重合を起こし、ポリグリセリンを副生する傾向がある。
【0029】
上記反応の際、反応温度の上昇防止と反応粗液の粘度低減を目的として、グリシドールと反応しない低沸点化合物または不活性な溶媒を添加してもよい。この様な化合物または溶媒としては、例えば、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0030】
また、反応はアルコキシドの加水分解を抑えるため、不活性ガス気流下、例えば窒素ガス気流下で行うことが好ましい。さもないと、アルコキシドが分解した結果に生成するアルカリ化合物を開始剤としてポリグリセリンが副生する。反応は必要に応じて加圧してもよい。
【0031】
上記反応において、アルカリ触媒(反応触媒)の分岐鎖状脂肪族アルコールへの添加は、グリシドールの添加前に行う。このアルカリ触媒の触媒濃度は、分岐鎖状脂肪族アルコールに対して、4〜40mol%であり、好ましくは5〜30mol%である。触媒濃度が4mol%未満では、グリシドールはアルコキシドと反応する前に自己重合を起こし、ポリグリセリンを副生するため好ましくない。また、40mol%を超える場合には、還元物が多く副生するため好ましくない。触媒の反応系への添加は、一括して行われても分割して行われてもよい。また、触媒添加後、分岐鎖状脂肪族アルコールをアルコキシドに変換するため、必要に応じて加熱下あるいは、減圧加熱下でアルコキシドへの変換を行いながら水を留出させても良い。
【0032】
本発明で用いられるアルカリ触媒は、塩基性化合物であり、分岐鎖状脂肪族アルコールをアルコキシドとした後、触媒の残分を除去しやすい塩基性化合物が好ましい。これらの塩基性化合物としては、特に限定されないが、例えば、プロトン性溶媒のプロトンの一部をアルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンで置換した塩基性化合物として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ブトキシカリウム、ブトキシナトリウム;飽和炭化水素の一部をアルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンで置換した塩基性化合物として、ブチルリチウム、メチルリチウム、エチルリチウム;塩基性金属としてナトリウム金属、カリウム金属、リチウム金属などが挙げられる。なお、上記触媒は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
以上の反応により、分岐鎖状脂肪族アルコールにグリシドールが付加重合して、上記式(1)で示されるポリグリセリンモノアルキルエーテルが生成する。
【0034】
本発明における製造方法において、上記の、アルカリ触媒を用いたグリシドール開環重合後に精製処理を行うことにより、アルカリ触媒由来の塩を除去した化合物を得ることができる。精製は以下のように行うことができる。
【0035】
精製工程においては、酸を用いて、アルカリ触媒の中和を行い、析出したアルカリ金属塩を濾過除去することにより行うことができる。濾過の際、濾過を簡易にするため、塩の貧溶媒となり且つポリグリセリンモノアルキルエーテルの良溶媒となる溶媒で希釈し、粘度を下げて濾過してもよい。
【0036】
上記で用いる酸化合物としては、特に限定されないが、燐酸、硫酸、塩酸、硝酸のような無機酸であっても、酢酸、蟻酸、酪酸、吉草酸のような有機酸であっても良い。中でも、塩酸、燐酸が好ましい。
【0037】
上記濾過において、溶媒を添加する場合、該溶媒としては、例えば、アルコール類、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。中でも好ましくはアルコール類である。アルコール類としては、特に制限されず、メタノール、エタノールのような飽和脂肪族アルコール、不飽和脂肪族アルコール、フェノールでもよい。また、直鎖状、分岐鎖状であってもよいし、環状構造を有していてもよい。さらに2価アルコールなどの多価アルコールであってもよい。また、特に限定されないが、炭素数が1〜8のアルコールが好ましく、特に好ましくは炭素数が1〜4のアルコールである。上記アルコール類や無極性溶媒は、単独でまたは2以上を混合して用いても良い。
【0038】
上記溶媒の添加量は、特に限定されないが、アルカリ金属塩を含有するポリグリセリンアルキルエーテルに加えた場合、濾過が簡易にできる粘度にまで低下させることが好ましい。例えば、濾過設備が4kg/cm2の圧力で加圧可能なフィルタープレスであれば、溶液粘度は30cps以下であることが好ましい。
【0039】
濾過後、ポリグリセリンモノアルキルエーテルを含有する溶液からの脱溶媒の条件については特に制限は無く、溶液温度および系内圧力共に問わないが、酸化などによる副生物を防ぐため、不活性ガス気流下または減圧下での実施が好ましい。
【0040】
上記製造方法で得られるポリグリセリンアルキルエーテルは、必要に応じて、更に精製されてもよい。上記精製方法としては、例えば、(イ)減圧下に飽和加熱水蒸気を吹き込んで水蒸気脱臭を行う脱臭方法、(ロ)次亜燐酸ソーダまたは過酸化水素による漂白等の脱色方法等が挙げられる。
【0041】
本発明に係る非イオン界面活性剤は、ポリグリセリンアルキルエーテルからなる。また、本発明に係る非イオン界面活性剤は、上記ポリグリセリンアルキルエーテル以外に他の成分、例えば、水を含有していてもよい。水を含有することで、ポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤の外観性、及び均一性を良好にすることができる。例えば、ポリグリセリンアルキルエーテルに対する水の配合量としては、例えば、[前者:後者(重量比)]が70:30〜95:5程度である。
【0042】
さらに、本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤には、本発明の目的がそこなわれない範囲で、通常の洗剤に慣用される添加成分の中から任意のものを選択して添加することができる。添加成分としては、例えば平均付加モル数5〜10のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、あるいはカルボキシベタイン型、イミダゾリニウム型、スルホベタイン型、アラニン型両性界面活性剤等の人体に対してマイルドな界面活性剤、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ゼオライト、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、ニトリロトリ酢酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等のビルダー、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の無機ビルダー、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の流動性向上剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤、さらには香料、着色剤、殺菌剤、酵素、抗炎症剤等が挙げられる。
【0043】
本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、アルキルフェノール系非イオン界面活性剤と同様に、種々の油類、溶剤類に対して優れた界面活性能を有する。特に、各種鉱物油類、各種植物油類、及び脂肪族炭化水素系溶剤類、脂環式炭化水素系溶剤類、芳香族系溶剤類の乳化剤として好適に使用することができる。その他、各種シリコーン類、変性シリコーン類、ポリオレフィン類、ポリエステル類、ポリブタジエンなどのジエン系ポリマー類等の各種合成樹脂類の乳化剤、分散剤として、また、精油類、香料類の乳化剤、可溶化剤などとして好適に使用することができる。さらに、アクリレート系、スチレン系、ジエン系、ビニル系等の各種モノマー類の乳化重合用乳化剤としても好適に使用することができる。
【0044】
さらにまた、本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、アルキルフェノール系非イオン界面活性剤と同様に、洗浄剤として非常に優れた性能を発揮することができ、種々の用途分野において広範に使用することができる。例えば、工業用、及び業務用の各種洗浄剤、自動車用洗浄剤、各種産業分野の工程薬剤(例えば、繊維精錬剤、金属表面処理剤、金属脱脂剤、金属部品用洗浄剤、電子部品用洗浄剤、皮革用洗浄剤、脱ピッチ剤、リネンサプライ関連用洗浄剤、厨房用洗浄剤、指先用洗浄剤、ドライクリーニング用添加剤など)などが挙げられる。特に、本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤は、鉱物油汚れ、植物油汚れの他、無機物、ワックス類、樹脂類が付着した汚れなどに対して非常に優れた洗浄力を発揮することができる。
【0045】
そして、本発明に係るポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤によれば、長期に亘り安定した界面活性能を維持することができ、経時的に相分離することを抑制できる。また、ポリグリセリンモノアルキルエーテルを75重量%以上含有するため、使用する非イオン界面活性材料を最小に留めることができ、過剰に使用することによる環境汚染や、皮膚の荒れなどの問題を引き起こす確率を最小にすることができる。さらに、芳香環を含有しないため、生分解されやすく、環境負荷を低減することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、得られた化合物の分析は下記方法で行った。
【0047】
(1)HPLC分析条件
HPLC本体:Waters2690(Waters社製)
カラム:Wakosil 5C18(和光純薬工業(株)製;オクタデシルシリル基を官能基として持つ逆相分配カラム)
展開溶媒:メタノール/H2O(=80/20)
流速:0.5ml/分
カラムオーブン温度:40℃
検出方法:RI
試料濃度:10%(溶媒:メタノール/H2O(=80/20))
注入量:10μl
各成分のリテンションタイムは、ポリグリセリンが6分、ポリグリセリンモノアルキルエーテルが10分〜25分、ポリグリセリンジアルキルエーテルが28分〜40分である。
【0048】
(2)1H―NMR分析条件
本体:日本電子(株)製、270MHzNMR分析装置
試料濃度:1%(wt/wt)
溶媒:重DMSO
内部標準:TMS
各成分のケミカルシフトは、ポリグリセリンモノアルキルエーテルおよびポリグリセリンが2.8ppm〜6ppmである。
【0049】
製造例1
ヘキシルデシルアルコール243.45g(1.0モル)と水酸化ナトリウム8.0g(0.2モル)とを4つ口フラスコに仕込んだ。次に、反応系内の水分を除去する目的で、90分間、100℃に加熱しながらアスピレーターで10mmHgまで減圧した。その後、反応系を常圧に戻し、窒素流通下、反応液を十分撹拌しながら、反応温度を70℃に保って、グリシドール111.1g(1.5モル)を12時間かけて滴下した。次に、反応液をリン酸水溶液でpH7に中和し、再び、加熱しながら反応系内を減圧にして、低沸点成分を留去し、その後、濾過により中和塩を除去し、反応液1を得た。
【0050】
得られた反応液1中の化合物の平均グリセリン量体数(n)は約3.1(1H−NMR分析による)であった。
反応液1を高速液体クロマトグラフィーで分離し、赤外線吸収検出器でピーク面積を算出したところ、ポリグリセリンとポリグリセリンモノアルキルエーテルの面積比(前者:後者)は、6.5:93.5であり、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量は95.1重量%以上、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量は0.5重量%以下(検出限界以下)であった。
【0051】
製造例2
イソステアリルアルコール270.5g(1.0モル)と水酸化ナトリウム8.0g(0.2モル)とを4つ口フラスコに仕込んだ。次に、反応系内の水分を除去する目的で、90分間、100℃に加熱しながらアスピレーターで10mmHgまで減圧した。その後、反応系を常圧に戻し、窒素流通下、反応液を十分撹拌しながら、反応温度を70℃に保って、グリシドール222.2g(3.0モル)を12時間かけて滴下した。次に、反応液をリン酸水溶液でpH7に中和し、再び、加熱しながら反応系内を減圧にして、低沸点成分を留去し、その後、濾過により中和塩を除去し、反応液2を得た。
【0052】
得られた反応液2中の化合物の平均グリセリン量体数(n)は約4.3(1H−NMR分析による)であった。
反応液2を高速液体クロマトグラフィーで分離し、赤外線吸収検出器でピーク面積を算出したところ、ポリグリセリンとポリグリセリンモノアルキルエーテルの面積比(前者:後者)は、7.2:92.8であり、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量は95.1重量%以上、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量は0.5重量%以下(検出限界以下)であった。
【0053】
実施例1
製造例1で得られた反応液1(調製直後から、調製後28日までのもの)0.4g、被乳化油としてのシリコンオイル(ジメチルポリシロキサン、動粘度1000mm2/s(25℃)4.0gを目盛り付き試験管にとり、試験官用タッチミキサー(IWAKI社製)で30秒間撹拌し、次いで、蒸留水5.6mLを加えて、さらに試験官用タッチミキサーで1分間撹拌した後、2時間静置し、離水層の量(mL)を試験管についている目盛りを使用して測定し、下記式(5)により乳化力(%)を算出した。
乳化力(%)=[仕込み水量(5.6mL)−離水層の量(mL)]/仕込み水量(5.6mL)×100 (5)
【0054】
実施例2
製造例1で得られた反応液1の代わりに、製造例2で得られた反応液2を使用した以外は実施例1と同様にして乳化力(%)を算出した。
【0055】
比較例1
製造例1で得られた反応液1の代わりに、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル(商品名「EMALEX 1605」、日本エマルジョン株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様にして乳化力(%)を算出した。
【0056】
比較例2
製造例1で得られた反応液1の代わりに、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル(商品名「EMALEX 1805」、日本エマルジョン株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様にして乳化力(%)を算出した。
【0057】
実施例1、2、比較例1、2の結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

【0058】
実施例3
被乳化油として流動パラフィン4.0gを使用した以外は実施例1と同様にして乳化力(%)を算出した。
【0059】
実施例4
被乳化油としてオリーブオイル4.0gを使用した以外は実施例1と同様にして乳化力(%)を算出した。
【0060】
実施例3、4の結果を下記表にまとめて示す。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリンアルキルエーテルからなる非イオン界面活性剤であって、ポリグリセリンモノアルキルエーテル含有量が75重量%以上であり、且つ、ポリグリセリンジアルキルエーテル含有量が5重量%以下であるポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項2】
ポリグリセリンモノアルキルエーテルが、下記式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数14〜22の分岐鎖状脂肪族炭化水素基を示し、nはグリセリンの平均量体数で2〜10の範囲である)
で表されるポリグリセリンモノアルキルエーテルである請求項1に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項3】
洗浄剤として使用する請求項1又は2に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項4】
乳化剤として使用する請求項1又は2に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項5】
乳化重合用乳化剤として使用する請求項1又は2に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項6】
可溶化剤として使用する請求項1又は2に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載のポリグリセリンアルキルエーテル型非イオン界面活性剤70〜95重量%、及び水5〜30重量%を含有することを特徴とする非イオン界面活性剤組成物。

【公開番号】特開2009−227583(P2009−227583A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70901(P2008−70901)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】