説明

ポリシロキサン組成物およびその製造方法、それから得られるフィルムおよびその製造方法、ならびに封止材

【課題】シリコーンのもつ優れた耐熱性、耐候性に加えて高い透明性と衝撃吸収性を付与し、広範囲な用途に使用可能な材料を提供する。
【解決手段】(a)アルコキシ基含有3官能シリコーンオリゴマーの少なくとも1種、(b)シラノール基含有2官能シリコーンオリゴマーの少なくとも1種、(c)M(OR)p(RCOCHCOR)〔式中、Mはジルコニウム、チタニウム、アルミニウムを示し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜6の1価炭化水素基を示し、RはRおよびRと同様の炭素数1〜6の1価炭化水素基の他、炭素数1〜16のアルコキシ基を示し、pおよびqは0〜4の整数で(p+q)=(Mの原子価)である。〕で表される有機金属化合物、および(d)水を主成分とするポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性および耐候性に優れ、光学異方性の小さい衝撃吸収性に優れた新規なポリシロキサン組成物およびその製造方法、それから得られるフィルムおよびその製造方法、ならびに封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性と耐熱性に優れ、かつ衝撃吸収性を有し、シートやフィルム形状で使用される材料としてRTVシリコーンゴムからなるシートが古くから知られているが、このものは高い透明性を有するものではない。一方、透明性のよいシリコーン系材料としては、透明シリコーンゲルやポッティング材があるが、これらはシートやフィルムにならない。
一方、衝撃吸収性を有するフィルム材料として、従来、オレフィン系熱可塑性エラストマーが知られている。下記特許文献1には、特定の水添ブロック共重合体とパラフィン系プロセスオイルなどの液状添加剤とを特定の割合で含有する軟質組成物が開示されている。また、下記特許文献2には、特定の熱可塑性ブロック共重合体よりなる三次元連続網目骨格間にパラフィン油などの低分子材料が保持されており、クッション材料などに用いられる高分子網状構造体とゴム材料とを混合してなるゴム組成物が開示されている。
これらの材料は、衝撃吸収性を有するが、上記シリコーン系材料より耐熱性、耐候性に劣り、透明性の点でも充分でない。
【特許文献1】特開平9−263678号公報
【特許文献2】特開平8−127698号公報
【0003】
近年、光エレクトロニクス技術の進展に伴い、透明材料に対する要求も多様化、高度化してきている。また、自動車用途や建築材料用途においても、耐候性や耐熱性に優れた透明材料の要求は多い。
シリコーンは、無機と有機の特性を兼ね備えた特異な材料で、化学結合の主骨格がシロキサン結合であることから、耐熱性、電気特性、耐候性に優れている。しかし、これらの性能と高い透明性を両立し、かつフィルム化可能な材料はみられない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シリコーンのもつ優れた耐熱性、耐候性に加えて高い透明性と衝撃吸収性を付与し、広範囲な用途に使用可能な材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(a)下記一般式(1)で表されるアルコキシル基含有シリコーン化合物、および
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは炭素数1〜8の有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基を示し、mは2〜100の整数である。)
(b)下記一般式(2)で表されるシラノール基含有シリコーン化合物、
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rは上記一般式(1)のRと同義であり、nは5〜1,000の整数である。)
を加水分解・共縮合して得られるポリシロキサンを含有することを特徴とする、ポリシロキサン組成物に関する。
ここで、(a)アルコキシル基含有シリコーン化合物と、(b)シラノール基含有シリコーン化合物との量比(モル比)は、1:1〜20:1の範囲が好ましい。
次に、本発明は、(a)上記一般式(1)で表されるアルコキシル基含有シリコーン化合物と、
(b)上記一般式(2)で表されるシラノール基含有シリコーン化合物とを有機溶剤中で、
(c)下記一般式(3)で表される有機金属化合物存在下で脱アルコール縮合反応した後、
M(OR)p(RCOCHCOR)q (3)
〔式中、Mはジルコニウム、チタニウム、アルミニウムを示し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜6の1価炭化水素基を示し、RはRおよびRと同様の炭素数1〜6の1価炭化水素基の他、炭素数1〜16のアルコキシ基を示し、pおよびqは0〜4の整数で(p+q)=(Mの原子価)である。〕
(d)水
を加えて、さらに加水分解・縮合反応させることを特徴とするポリシロキサン組成物の製造方法に関する。
次に、本発明は、上記ポリシロキサン組成物から得られるフィルムに関する。
次に、本発明は、上記ポリシロキサン組成物を用いて成形することを特徴とする、フィルムの製造方法に関する。
ここで、ポリシロキサン組成物に、さらにアルコキシシリル基の加水分解性触媒を添加した後に成形することが好ましい。
次に、本発明は、上記ポリシロキサン組成物から得られる封止材に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明で得られたポリシロキサン組成物は、優れた透明性、耐熱性および耐候性を有し、かつ、光学異方性が小さく、衝撃吸収性に優れた材料である。さらに、シートやフィルムが形成できるため光学用途のみならず、自動車用途や建築材料用途など、多岐にわたりその利用価値は高い。しかも、その製造方法は、特殊な装置、反応条件を必要としないことから、その工業的利用価値は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<ポリシロキサン組成物>
本発明のポリシロキサン組成物は、(a)アルコキシル基含有シリコーン化合物と(b)シラノール基含有シリコーン化合物とのゾルゲル反応物であり、高い透明性と優れた耐熱性を有し、かつ、衝撃吸収性に優れ、さらに光学異方性が小さい。
【0012】
(a)アルコキシ基含有3官能シリコーンオリゴマー
(a)成分は、本発明のポリシロキサン組成物において、シロキサンネットワークを形成するという役目をなす。
この(a)成分は、上記一般式(1)で表される。
上記一般式(1)中、Rは、炭素数1〜8の有機基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などのアシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシナナート基などが挙げられる。これらのなかでも好適なのは、メチル基、エチル基などのアルキル基である。
また、一般式(1)中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などのアルキル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などのアシル基などが挙げられる。
【0013】
さらに、一般式(1)中、mは、2〜100、好ましくは3〜20の整数である。mが1では、シロキサンネットワークの網目密度、すなわち架橋密度が不十分であり、衝撃吸収能などの機械的強度が小さくなるため好ましくない。一方、mが100を超えると、(b)成分との反応活性が低下するため好ましくない。
(a)成分は、トリアルコキシシラン類やトリクロロシラン類の加水分解・縮合などにより調製することができる。
【0014】
(a)アルコキシル基含有シリコーン化合物の具体例としては、信越化学工業(株)製の、KC−89(R=メチル基、m=3〜4)、同KR−500(R=メチル基、m=6〜7)、同X40−9225(R=メチル基、m=10)、同KR−217(R=フェニル基、m=5〜6)などを挙げることができる。
以上の(a)成分は、1種単独で使用することも、また2種以上を併用することもできる。
【0015】
(b)シラノール基含有シリコーン化合物
(b)成分は、本発明のポリシロキサン組成物において、ゴム弾性を発現するという役目をなし、衝撃吸収能や柔軟性などの性能を付与する。
この(b)成分は、上記一般式(2)で表される。
上記一般式(2)中、Rは、一般式(1)のRと同義である。
また、一般式(2)中、nは、5〜1,000、好ましくは20〜500の整数である。nが5未満では、ゴム弾性発現効果が不十分であり、好ましくない。一方、nが1,000を超えると、(a)成分との反応活性が低下するため好ましくない。
(b)成分は、環状ジメチルシリコーン4量体の開環重合などにより調製することができる。
【0016】
(b)シラノール基含有シリコーン化合物の具体例としては、GE東芝シリコーン(株)製の、YF3800(n=20)、同XF3905(n=100)、同YF3507(n=180)、同YF3807(n=320)、同YF3802(n=450)などを挙げることができる。
以上の(b)成分は、1種単独で使用することも、また2種以上を併用することもできる。
【0017】
以上の(a)成分と(b)成分との混合比(モル比)は、通常、1:1〜20:1、好ましくは2:1〜8:1である。(a)/(b)が1未満では強度に乏しい場合があり、一方、20を超えると衝撃吸収性に劣る場合がある。
本発明のポリシロキサン組成物は、上記(a)成分と(b)成分を、好ましくは後述する製造方法により加水分解・共縮合して得られるポリシロキサンが、後述する水および/または有機溶剤に溶解してなる組成物である。
【0018】
このようにして調製されるポリシロキサンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量が10,000〜1,000,000であることが好ましい。さらに好ましくは、30,000〜300,000である。重量平均分子量が10,000未満では、得られるフィルムなどの成形体の強度および衝撃吸収性が不十分な場合があり、また、溶液粘度が低すぎ薄膜フィルムしか形成できない場合がある。一方、重量平均分子量が1,000,000を超えると、コーティングないしはキャスト成形時に溶液粘度が高くなり、成形に困難をきたすおそれがある。この重量平均分子量は、(a)成分と(b)成分の重合度(nおよびmの数)や、後述する製造方法における水の添加量などにより、容易に調整することができる。
【0019】
なお、本発明のポリシロキサン組成物は、さらに必要に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤などの添加剤、溶媒分散シリカゾル、溶媒分散アルミナゾル、溶媒分散酸化亜鉛ゾル、溶媒分散酸化セリアゾル、溶媒分散ITO、溶媒分散酸化ジルコニアゾルなどの金属酸化物、複合金属酸化物ゾルなどを混合してもよい。
【0020】
本発明の組成物の全固形分濃度は、好ましくは、50重量%以下であり、使用目的に応じて適宜調整される。例えば、薄膜形成基材への含浸を目的とするときには、通常、1〜30重量%であり、また厚膜形成を目的で使用するときには、通常、10〜50重量%、好ましくは20〜45重量%である。組成物の全固形分濃度が50重量%を超えると、保存安定性が低下する傾向がある。なお、本発明の組成物において、全固形分濃度の調整は、後述する水および/または有機溶媒の減量や補充によって行なえばよい。
【0021】
<ポリシロキサン組成物の製造方法>
本発明の組成物を調製するに際しては、まず、後述する有機溶剤中で、(a)〜(b)成分を(c)有機金属化合物の存在下に脱アルコール縮合反応を行なう。この脱アルコール縮合反応においては、通常、温度が50〜120℃、好ましくは60〜90℃、反応時間が1〜20時間、好ましくは3〜10時間である。
この脱アルコール縮合反応により、(a)成分由来の単位−(b)成分由来の単位−(a)成分由来の単位(3官能−2官能−3官能)の部分縮合体が形成される。
次いで、得られる反応液に(d)水を加えて、さらに加水分解・縮合反応を行なう。60〜90℃、反応時間が1〜20時間、好ましくは3〜10時間である。
かくて、本発明のポリシロキサン組成物は、化学理論的には、(a)アルコキシル基含有シリコーン化合物(2モル)に対し、(b)シラノール基含有シリコーン化合物(1モル)とが、加水分解・部分縮合した、3官能−2官能−3官能の部分縮合体からなる部分架橋体ポリマー溶液が得られる。
【0022】
(c)有機金属化合物
(c)有機金属化合物は、本発明の組成物の製造方法において、(a)成分と(b)成分とを脱アルコール縮合反応させるための触媒である。このようにして得られる(a)成分と(b)成分とのゾルゲル反応物は、高い透明性と優れた耐熱性を有し、かつ、衝撃吸収性に優れ、さらに光学異方性が小さい。
【0023】
上記一般式(3)において、Mは、ジルコニウム、チタンまたはアルミニウムなどの金属原子を示し、RおよびRは、同一または異なって、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、Rは、RおよびRと同様の炭素数1〜6の1価の炭化水素基のほか、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基などの炭素数1〜16のアルコキシル基を示し、pおよびqは0〜4の整数で、(p+q)=(Mの原子価)である。
なお、(c)有機金属化合物は、該化合物の部分加水分解物であってもよい。
【0024】
(c)有機金属化合物の具体例としては、(イ)テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物;
【0025】
(ロ)テトラ−i−プロポキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトン)チタニウムなどの有機チタン化合物;
(ハ)トリ−i−プロポキシアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・アセチルアセトナートアルミニウム、i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;などを挙げることができる。
【0026】
これらの(c)有機金属化合物およびその部分加水分解物のうち、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、あるいは、これらの化合物の部分加水分解物が好ましい。
【0027】
本発明の組成物における(c)有機金属化合物の使用量は、(a)成分1モルに対し、通常、0.01〜0.5モル、好ましくは0.03〜0.3モルである。この場合、0.01モル未満では、(a)成分と(b)成分との脱アルコール縮合反応が充分に進まずに未反応物質が残存してしまい、成形した際に表面がベタついたり著しい機械的強度の低下が見られたりするおそれがある。一方、0.5モルを超えると、組成物の保存安定性が著しく低下するおそれがある。
【0028】
(d)水
本発明の組成物の製造方法においては、(c)成分存在下で反応を行った後、(a)〜(b)成分の加水分解・縮合に用いられる水が用いられる。水の使用量は、(a)成分1モルに対し、通常、1〜10モル、好ましくは2〜5モルである。1モル未満では、シロキサンネットワークの形成が不十分で成形したときの機械的強度が低下するおそれがある。一方、10モルを超えると、組成物の保存安定性が著しく低下するおそれがある。
【0029】
なお、本発明の組成物には、通常、上述した成分を均一に混合させ、組成物の全固形分濃度を調整するために、必要に応じて、(e)有機溶剤が用いられる。有機溶剤の他の役割としては、(a)成分と(b)成分との反応を穏やかに進行させること、フィルム成形に用いる場合にフィルムの平滑性を向上させること、組成物の保存安定性をさらに向上させることが挙げられる。
【0030】
(e)有機溶剤
このような(e)有機溶剤としては、上記各成分を均一に混合できるものであれば特に限定されないが、例えば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類などを挙げることができる。これらの有機溶剤のうち、アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどを挙げることができる。
【0031】
また、芳香族炭化水素類の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを、エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを、ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどを、エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレンなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
また、(e)有機溶剤の使用量は、(a)〜(b)成分の合計100重量部に対して、1,000重量部以下、好ましくは500重量部以下である。1,000重量部を超えると、これらの組成物をキャストして得られるフィルムの厚さが制限されるため好ましくない。また、厚いフィルムを得ようとすれば、反応後に溶媒を加温あるいは減圧下で濃縮する必要があり、工業生産性の点から好ましくない。
【0033】
<フィルムおよびその製造方法、封止材>
本発明のフィルムは、本発明のポリシロキサン組成物から得られることを特徴とする。フィルムの製造方法としては、本発明の組成物をキャストしてフィルムに成形する方法が挙げられる。また、必要に応じて、(a)成分および(b)成分に上記(c)成分などの架橋助剤を添加、混合後、キャストしてフィルム成形、もしくは各種基材上にコートした後、所定の温度で加熱乾燥硬化してもよい。また、本発明の封止材は、ポリシロキサン組成物から公知の方法により残存溶媒などを除去して用いられる。
【0034】
本発明のフィルムの製造方法においては、さらに架橋されたフィルムを得るために、フィルム成形に先立ち、ポリシロキサン組成物にさらにアルコキシシリル基の加水分解性触媒を添加し、これをキャストしてフィルムを製造することもできる。当該加水分解性触媒としては、上述した(c)有機金属化合物や、公知の加水分解性触媒である、酸性化合物、アルカリ性化合物、塩化合物、アミン化合物などを用いることができる。
上記酸性化合物として、たとえば、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、アルキルチタン酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸などが挙げられる。上記アルカリ性化合物として、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。上記塩化合物として、ナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸などのアルカリ金属塩などが挙げられる。また、上記アミン化合物として、たとえば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペリジン、ピペラジン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、エタノールアミン、トリエチルアミン、3−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・メチル・ジメトキシシラン、3−アニリノプロピル・トリメトキシシラン、アルキルアミン塩類、四級アンモニウム塩類が挙げられる。また、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミンなどを用いることもできる。
当該追加添加される加水分解性触媒の添加量は、(a)〜(b)成分の合計量100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0035】
本発明のフィルムの製造方法においては、キャスティング後、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは150〜180℃で、好ましくは30〜240分、さらに好ましくは60〜120分程度、加熱・乾燥することにより、通常、厚さが50〜800μm、好ましくは100〜500μmのフィルムとされる。
【0036】
本発明のフィルムの光線透過率(400nm)は、85%以上であることが好ましい。光線透過率(400nm)85%未満では、透過光損失が大きく、光学材料としての使用に制限が生じることがあり好ましくない。上記光線透過率(400nm)を85%以上にするには、上記ポリシロキサン組成物の製造において、(a)成分と(b)成分との反応時に未反応物質が残存しないようにする必要がある。
【0037】
また、本発明のポリシロキサン組成物からなるフィルムの光学異方性は、下記(4)、(5)式で表される入射角0°および50°でのリターデーションRe、Re50が10nm以下が好ましく、さらに好ましくは5nm以下である。Re、およびRe50が10nmを超えると、例えば、液晶ディスプレイフィルムにおいてはコントラストの低下など、表示品質を著しく損なうため好ましくない。
Re =(nx−ny)×d (4)
Reはフィルムの3次元座標X、Y、Z に対して、正面(Z軸方向)から見るときのリタデーション、nx、nyはX軸方向、Y軸方向の屈折率で、dは光路長である。
Re50 =(na−nb)×d’ (5)
Re50はフィルムの3次元座標X、Y、Z に対して、視野角をZ軸よりX軸方向へ50°傾斜させた際のリタデーション、na、nbはその屈折率楕円体の長軸方向、短軸方向の屈折率、d’はその光路長である。
【0038】
このようにして得られるフィルムは、耐熱性、耐候性に加えて高い透明性と衝撃吸収性を有するので、液晶保護フィルムなどの光学材料のほか、自動車や建材用ガラスなどの衝撃吸収フィルム、そのほかLED用封止材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中における各種の測定方法は、下記のとおりである。
【0040】
(1)GPCによる重量平均分子量(ポリスチレン換算):
トーソー社製GPC、HLC8010 により、ポリシロキサン組成物0.5gを100ccのテトラヒドロフランに溶解して試料とし、標準ポリスチレンは、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して測定した。
(2)透明性(分光光線透過率):
以下の方法にてキャストフィルム(厚さ300μm)を作製し、可視・紫外分光光度計(日立製 U−2010 Spectro Photo meter)により、波長550nmでの光線透過率を求めた。
【0041】
(キャストフィルム作製法)
ポリシロキサン組成物に、硬化触媒を添加し均一な溶液とした後、ポリメチルペンテン製シャーレに流し込み1昼夜常温乾燥させた後、110℃にて予備乾燥の後、ポリメチルペンテン製シャーレより剥離し、160℃にて90分乾燥して、キャストフィルムを得た。
【0042】
(3)光学異方性(Re、Re50):
キャストフィルム(厚さ300μm)を用いて、(株)溝尻光学工業所製 回転アナライザー式自動エリプソメーターにより入射角0°および50°にて光源にHe−Neレーザー(λ=632.8nm)を使用し測定した。
【0043】
(4)力学特性(TB、EB):
キャストフィルムを用いてASTM−D412に準じ引張速度500mm/min.にて破断強度および破断伸びを求めた。
(5)衝撃吸収性:
キャストフィルムを用いて、図1に示すように大理石などからなる基台Aの上に、基台A側から順に、ガラス板Bと下記実施例1〜4と比較例1〜3のフィルムのを載置し、さらにその上にアクリル板Cを載置し、次いで、鉄球D(直径5cm、重量550gr)を所定高さからアクリル板C上に自由落下させ衝突させた。その後、ガラス板Bの割れの有無を目視確認し、ガラス板Bの割れが生じない最高高さを落球高度(cm)として求めた。
【0044】
(6)耐熱性:
ポリシロキサン組成物より成形したフィルムを230℃乾燥機に1時間放置した後、取り出してフィルムの透明性と黄色度を測定した。
なお、黄色度は、BYK−GARDNER社製 分光光度計を用いてASTM−D−1925に準じて測定を行った。
(7)耐候性:
スガ試験機製 サンシャインウェザーメーターにて200時間促進耐候性試験を行い、試験前後の透明性と黄色度を測定した。
【0045】
実施例1
還流冷却器、攪拌機を備えた反応機に、メトキシ基含有シリコーンオリゴマー 信越化学工業(株)KR500 117.2gr(0.2モル)、シラノール基含有ジメチルシリコ−ンオリゴマー GE東芝シリコーン(株)YF3057 1400.0gr(0.1モル)およびジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、川研ファインケミカル(株)製ALCH 濃度10重量%トルエン溶液 27.4gr(0.01モル)とトルエン600grを仕込み、反応機を80℃に加温し3時間攪拌を行った。その後、トルエン1400grを加え、さらに水 12.6gr(0.7モル)を滴下し、3時間攪拌を行った後、さらに、トルエン1400grを加え室温まで冷却してポリシロキサン組成物Aを得た。
得られたポリシロキサン組成物Aのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は56,000であった。
さらに、得られたポリシロキサン組成物Aの固形分100重量部に対して、硬化触媒としてジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、川研ファインケミカル(株)製ALCH 濃度10重量%トルエン溶液を固形分換算で2部添加、混合してキャスト溶液を調製した。このキャスト溶液を上記の「キャストフィルム作製法」に基づき厚さ300μmのフィルムを作製した。このフィルムについて透明性(分光光線透過率)、光学異方性(Re、Re50)、力学特性(TB、EB)、衝撃吸収性、耐熱性、耐候性を評価した。キャストフィルム組成および評価結果を表1に示した。
【0046】
実施例2
実施例1同様の反応機に、メトキシ基含有シリコーンオリゴマー 信越化学工業(株)KR500 234.4gr(0.4モル)、シラノール基含有ジメチルシリコ−ンオリゴマー GE東芝シリコーン(株)YF3057 1400.0gr(0.1モル)およびジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、川研ファインケミカル(株)製ALCH 濃度10重量%トルエン溶液 54.8gr(0.02モル)とトルエン600grを仕込み、反応機を80℃に加温し3時間攪拌を行った。その後、トルエン1500grを加え、さらに水 25.2gr(1.4モル)を滴下し、3時間攪拌を行った後、さらに、トルエン1500grを加え室温まで冷却してポリシロキサン組成物Bを得た。
得られたポリシロキサン組成物Aのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、74,000であった。
さらに、実施例1同様、キャストフィルムを作製、評価を行った。キャストフィルム組成および評価結果を表1に示した。
【0047】
実施例3
実施例1同様の反応機に、メトキシ基含有シリコーンオリゴマー 信越化学工業(株)X40−9225 189.2gr(0.2モル)、シラノール基含有ジメチルシリコ−ンオリゴマー GE東芝シリコーン(株)YF3057 1400.0gr(0.1モル)およびジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、川研ファインケミカル(株)製ALCH 濃度10重量%トルエン溶液 27.4gr(0.01モル)とトルエン600grを仕込み、反応機を80℃に加温し3時間攪拌を行った。その後、トルエン1500grを加え、さらに水 12.6gr(0.7モル)を滴下し、3時間攪拌を行った後、さらに、トルエン1500grを加え室温まで冷却してポリシロキサン組成物Cを得た。
得られたポリシロキサン組成物Cのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、66,000であった。さらに、実施例1同様、キャストフィルムを作製、評価を行った。
キャストフィルム組成および評価結果を表1に示した。
【0048】
実施例4
実施例1同様の反応機に、メトキシ基含有シリコーンオリゴマー 信越化学工業(株)X40−9225 189.2gr(0.2モル)、シラノール基含有ジメチルシリコ−ンオリゴマー GE東芝シリコーン(株)YF3807 2400.0gr(0.1モル)およびジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、川研ファインケミカル(株)製ALCH 濃度10重量%トルエン溶液 27.4gr(0.01モル)とトルエン1100grを仕込み、反応機を80℃に加温し3時間攪拌を行った。その後、トルエン2400grを加え、さらに水 12.6gr(0.7モル)を滴下し、3時間攪拌を行った後、さらに、トルエン2400grを加え室温まで冷却してポリシロキサン組成物Dを得た。得られたポリシロキサン組成物Dのポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、92,000であった。
さらに、実施例1同様、キャストフィルムを作製、評価を行った。
キャストフィルム組成および評価結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の新規なポリシロキサン組成物は、優れた透明性、耐熱性および耐候性を有し、かつ、光学異方性が小さく、衝撃吸収性に優れた材料であり、さらに、シートやフィルムが形成できるため液晶用保護フィルムなどの光学用途や、自動車用窓ガラスや建材用ガラスの衝撃吸収フィルムなど多岐にわたり用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例における衝撃吸収性の測定に用いた測定装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)で表されるアルコキシル基含有シリコーン化合物、および
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜8の有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基を示し、mは2〜100の整数である。)
(b)下記一般式(2)で表されるシラノール基含有シリコーン化合物、
【化2】

(式中、Rは上記一般式(1)のRと同義であり、nは5〜1,000の整数である。)
を加水分解共縮合して得られるポリシロキサンを含有することを特徴とする、ポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(a)アルコキシル基含有シリコーン化合物と、(b)シラノール基含有シリコーン化合物との量比(モル比)が、1:1〜20:1の範囲にある請求項1に記載のポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(a)下記一般式(1)で表されるアルコキシル基含有シリコーン化合物と、
【化3】


(式中、Rは炭素数1〜8の有機基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜6のアシル基を示し、mは2〜100の整数である。)
(b)下記一般式(2)で表されるシラノール基含有シリコーン化合物
【化4】


(式中、Rは上記一般式(1)のRと同義であり、nは5〜1,000の整数である。)
とを有機溶剤中で、
(c)下記一般式(3)で表される有機金属化合物存在下で脱アルコール縮合反応した後、さらに
M(OR)p(RCOCHCOR)q (3)
〔式中、Mはジルコニウム、チタニウム、アルミニウムを示し、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜6の1価炭化水素基を示し、RはRおよびRと同様の炭素数1〜6の1価炭化水素基の他、炭素数1〜16のアルコキシ基を示し、pおよびqは0〜4の整数で(p+q)=(Mの原子価)である。〕
(d)水
を加えて加水分解・縮合反応させることを特徴とするポリシロキサン組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のポリシロキサン組成物から得られるフィルム。
【請求項5】
請求項1に記載のポリシロキサン組成物を用いて成形することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリシロキサン組成物に、さらにアルコキシシリル基の加水分解性触媒を添加した後に成形する請求項5に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のポリシロキサン組成物から得られる封止材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−206700(P2006−206700A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19088(P2005−19088)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】