説明

ポリヌクレオチド増幅反応の測定

ポリヌクレオチド増幅反応の進行の定量的測定は、(i)標的ポリヌクレオチドの増幅のための反応を実行し、(ii)増幅反応の間または後に、増幅産物をポリヌクレオチドに結合する分子(空間的に規定された位置に存在するか、または非線形または非蛍光性の方法により判定される分子)に接触させ、(iii)印加された照射の変化を測定することによって、上記増幅産物および上記分子の間の相互作用を検出することにより行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリヌクレオチド増幅反応をモニタリングすることに関する。
【背景技術】
【0002】
増幅反応における特定のポリヌクレオチドの複数のコピーを生成することができることは、多くのありふれた生物工学プロセスで重要である。ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)によって、特許文献1にて開示したように、ポリヌクレオチドの指数関数的な増幅が起こり、大量のポリヌクレオチドを提供することができる。最も簡単な形態では、PCR法とは、特異的なDNA配列の酵素的合成のための生体外での方法である。そしてこの方法では、向かい合う両方の鎖にハイブリダイズして、標的DNAの関心領域を挟む2つのオリゴヌクレオチドプライマを用いる。鋳型変性、プライマアニーリング、アニールされたプライマーのDNAポリメラーゼによる伸長を含んでいる一連の反応段階の繰り返しは、標的ポリヌクレオチドの指数関数的な蓄積という結果になる。
【0003】
PCR反応の開始時に、試薬は過剰であり、鋳型および生成物は、十分に低い濃度である。その結果、生成物の変性とプライマーの結合とが拮抗せず、増幅反応が一定の指数関数的速度で進行する。
【0004】
PCR法を利用して増幅産物の定量化に依存する多くの診断用アッセイがある。精度および正確さのためには、サンプルが増幅の対数期にある段階で量的データを集めることが必要である(再現性のある結果を提供するのは対数期であるので、このことは重要である)。増幅反応をモニタリングすることが必要であるため、増幅産物のサンプルを採取して異なる時間段階に存在する増幅産物の量を判定することが必要になり、診断用アッセイを完了するためにかかる時間を延長させる可能性がある。
【0005】
リアルタイムPCR法は、増幅サイクルごとの各々のサンプルの反応生成物の量をはかることによって、このプロセスを自動化する。この反応は蛍光リポーター分子の検出および定量化に対応する。そして、そのシグナルは反応における増幅された生成物の量に正比例して増加する。
【0006】
現在、特定の蛍光分子を利用する多くの市販のリアルタイムPCRキットがある。
【0007】
リアルタイムPCR法は従来の(エンドポイント)PCR法をこえる増強した感度および動作範囲を有するが、このシステムを用いるには、多数の固有の問題点がある。不利な点は、主にリアルタイムPCR法で必要な蛍光ラベルの使用および/またはそのようなラベルが用いられる方法に起因する。吸収することができる励起光の量およびPCRプロセスで必要な温度に耐える能力の両方に関して、蛍光ラベルは、非常に化学的に安定でなければならない。そのようなプロセスに利用できる染料の数は、従って、制限されており、可能なマルチプレクシングの量に影響を及ぼす。更に、従来技術の蛍光に基づくシステムにおける良好な多重化のためには、セットの各々の染料は他の染料からスペクトル分解可能でなければならない。有機蛍光染料の典型的な発光帯半値幅が約40−80ナノメートルであり、利用できるスペクトルの幅がその励起源によって制限されるという理由から、発光スペクトルがうまくスペクトル分解される一まとまりの染料を見つけることは、難しい。各々の成分が充分な感度によって検出されることができるように、各々の染料の蛍光シグナルは同様に十分に強力でなければならない。蛍光ラベルの活用法は、同様に、増幅された生成物への接着のためのプローブとして用いられることができるポリヌクレオチド配列を制限する。なぜなら、グアニン残基が蛍光共鳴エネルギー伝達プロセスの失活剤として作用することが知られているからである。従って、蛍光分子が増幅産物に付着する位置のすぐそばに隣接する配列を選択する場合、注意しなければならない。
【0008】
利用できる蛍光分子の数が限られていること、および作動中の単色光の光源の通常の使用法は、同様に多重化リアルタイムPCR法を実行することができる範囲を制限する。つまり、単一反応において増幅し、検出することができる異なるポリヌクレオチドの数には制限がある。
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,683,202号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのために、増幅プロセスをモニタリングするための改良された方法に対する要望がある。特に、自動プロセスの高度に多重化された反応を実行するために用いることができる方法に対する要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、増幅反応の進行を、増幅産物と、増幅産物と相互作用または結合し、その種類が空間的に規定されており、および/または、非線形/非蛍光性の方法により判定される分子と、の間の相互作用を検出することによってモニタリングすることができるという認識に基づいている。
【0012】
本発明の第1の態様によれば、ポリヌクレオチド増幅反応をモニタリングするための方法は、
(i)標的ポリヌクレオチドの増幅のための反応を実行するステップと、
(ii)増幅反応の間または後に、増幅産物をポリヌクレオチドに結合する分子(空間的に規定された位置に存在するか、または非線形または非蛍光性の方法により判定される分子)に接触させるステップと、
(iii)印加された照射の変化を測定することによって、上記増幅産物および上記分子の間の相互作用を検出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法は、蛍光体の必要なしで実施することができ、そのために、蛍光体の使用に関連する不利な点を克服することができる。あるいは、蛍光体が用いられる場合、多重化の水準の増大は、空間的に規定された位置に存在するポリヌクレオチド結合性の分子を利用することによって達成することができる。さらに、本発明の方法は、増幅プロセスの間、サンプルを得る必要なしで、リアルタイムベースで実施することができる。これによって、増幅反応のリアルタイム多重化されたモニタリングを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、添付の図によって説明される。
【0015】
本発明は、増幅されたポリヌクレオチドと、ポリヌクレオチドと相互作用または結合する分子と、の間の相互作用の分析法を含む、ポリヌクレオチド増幅反応の進行をモニタリングする方法を提供する。
【0016】
本願明細書において用いられる用語「ポリヌクレオチド」は、広く解釈されるべきであり、修飾されたDNAおよびRNAや、他のハイブリダイズする核酸様分子(例えばペプチド核酸(PNA))を含む、DNAおよびRNAを含む。この用語は、複数の核酸モノマーの短配列を有するオリゴヌクレオチドを含む。本発明は、ポリヌクレオチドと結合し、さもなければ相互作用する分子の使用に基づく。この分子は、特異的な、あるいは、非特異的な方法でポリヌクレオチドと結合する任意の分子でもあってもよい。この分子は、二本鎖、あるいは、一本鎖の形態においてポリヌクレオチドと相互作用してもよい。ポリヌクレオチドと相互作用する分子は、当業者に明らかである。一実施形態において、その分子は、タンパク質であって、DNAまたはRNA結合性タンパク質であってもよい。好適なタンパク質は、部位特異的ポリヌクレオチド結合ドメインを含むように修飾された組換型タンパク質であってもよい。そのようなドメインは、周知の技術であって、Duncanその他著、Genes Dev.、1994;8(4):465−80において開示されている。ポリヌクレオチドと相互作用し、その結果、本発明の範囲内に含まれるタンパク質の例としては、ヘリカーゼ、トランスクリプターゼ、プライマーゼ、ヒストンを含む。
【0017】
特に好ましい実施形態では、その分子は、上記増幅反応において利用することができるポリメラーゼ酵素である。したがって、上記相互作用の検出は、上記増幅反応が進行するのと同時に実施することができる。
【0018】
本実施形態において、増幅反応のためのプライマーは、標識されてもよい。好適なラベルは、ラマン散乱ラベル(例えば、それらは米国特許第6,514,767号明細書の中で概説されている)を含むが、これに限定されるものではない。他のラベルは、当業者に明らかである。そのようなラベルは、有機および無機蛍光染料(例えば金属の粒子)を含む。本実施形態において、その結果、重合反応の間、プライマーは、ポリメラーゼ分子が分子複合体の形成によって付着している表面の非常に近傍に持ってこられる。この表面の近くに存在することは、増幅反応に関係するプライマーの検出、それ故、読み出しを補佐する。エバネッセント場の使用を含む技術は、本発明の好ましい実施形態である。ラマン散乱の場合、表面の近くに存在することは、検出を高める。
【0019】
エバネッセント場刺激法の使用により、表面から離れると場が指数関数的に減衰するため、バックグラウンドノイズが減少するという利点が得られる。
【0020】
ラマン散乱ラベルが使用される場合、表面はパターン化された『自由電子』金属表面であってもよい。そうすると、局部的なラマン散乱強度は更に増加する。あるいは、金属層は、表面プラスモン共鳴(SPR)をサポートするものであれば何でもよい。
【0021】
固定されたポリメラーゼが使われる予見される実施形態においては、『従来の』FRETベースのリアルタイムPCR標識法が使用される。このような方法で、検出は簡単になり、バックグラウンドは低下する。そのような標識法は、商業的に利用できるヌクレアーゼおよびTaqmanアッセイを含む。他の非FRETベースの蛍光染料系も、同様に本発明の範囲内である。
【0022】
他の実施形態では、分子は、増幅されたポリヌクレオチドの少なくとも一部に相補的である配列(または配列の一部)を有している単一鎖ポリヌクレオチドである。本実施形態において、複数のそのようなポリヌクレオチドは担体物質に固定することができ、固定されたポリヌクレオチドの上への増幅されたポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションによって生ずる印加された照射の変化をモニタリングすることによって、モニタリングすることができる。この配列は、増幅反応に参加するものであってもなくてもよい。
【0023】
整列したポリヌクレオチドは、当業者に知られている多くの方式によって、基板に塗布することができる。例えば、遺伝子発現に対するポリヌクレオチドアレイを作る方法は、一般に適用できる。
【0024】
ポリヌクレオチドアレイを作る2つの一般的な方法がある。これらは、写真平板方式および「接触」配列方式である。写真平板方式において、光化学的に除去しうる保護基によって修飾された合成リンカーは、シリコン表面に付着させられる。光は写真平板マスクを通って向けられる。そして、表面の特定の部分から保護基を取り除く。表面はそれから4つのヒドロキシル−被保護デオキシヌクレオチドのうちの1つと一緒にインキューベートされ、そのヒドロキシル−被保護デオキシヌクレオチドは、脱保護ポリヌクレオチド鎖と結合する。次に、表面の異なる部分が照らされるように、新規なマスクが用いられる。次に、鎖が所定の長さおよび配列となるまで、サイクルは繰り返される。「接触」配列方式については、ポリヌクレオチドは、所定の表面(一般に表面にポリヌクレオチドが付着するようにポリ−L−リジンでコートされたガラス顕微鏡スライド)上へ、物理的に印刷される。
【0025】
プローブ分子が支持体表面上に配列される場合、従来の発現アレイと同様に同一性を規定するために空間的位置を用いることができる。上記分子は、それゆえ、個々に同定することができるように、支持体に固定される単一の分子であってもよく、あるいは、異なるタイプの分子は、支持体の異なる領域に配置されてもよい。
【0026】
本発明の望ましい実施形態では、固定されたプローブ分子は担体物質上に配列され、増幅反応はアレイと同じ囲まれた容器において実施される。興味があるポリヌクレオチドの濃度に関する定量的情報を得るために、増幅産物および相補配列の間のハイブリダイゼーションは、全体にわたって、または、増幅反応中の幾つかの観測点(つまり、その後の増幅サイクル中に同じ温度の間)で、モニタリングされる。本実施形態において、ハイブリダイゼーションの検出のための多数の方式は、当業者に公知の形で適用することができる。例えば、インターカレイティング色素が、使われてもよい。そのような色素は、一般的に言って、二重鎖の隣接した塩基対の間に自分自身を配置することによって、非共有結合的に二本鎖DNAまたはRNAと結合する扁平な芳香族分子である。インターカレイティング蛍光色素は通常、溶液中では非蛍光性である。そして、二本鎖ポリヌクレオチドと結合する場合、蛍光性になる(例えば米国特許第6,472,153号明細書)。このように、蛍光モードで読み出される場合、本発明は、ポリヌクレオチドハイブリダイゼーションの検出のための多数の市販の色素および染料系によって達成することができる。インターカレイティング色素は、低コストおよび有用性のため特に好適な実施形態である。スペクトルの重複は、プローブ位置が空間的に離れているため、この実施形態では問題とならない。
【0027】
多重化のために空間的に規定された方式のラマン法の実施形態において、ラマン法の支持粒子は、インターカレイティング分子に結合している。好ましい実施形態において、インターカレイティング分子がなお二重鎖ポリヌクレオチドと複合体を形成することができるように、インターカレイティング分子は、リンカー分子によりラマン法の支持粒子または複数の支持粒子に共有結合している。そのようなリンカー分子は、当業者に明らかである。
【0028】
更なる実施形態において、固定されたプローブ分子および増幅産物の間のハイブリダイゼーションの検出は、電導度および/または静電容量の変化をモニタリングすることを使用することによって実施される。アレイ位置での電気的性質に基づく上記のアレイは、技術水準の範囲内にあり、本発明の範囲内である。
【0029】
一実施形態において、分子は、増幅反応の開始のためのプライマー分子として機能する短いポリヌクレオチドである。この実施形態によれば、当初の標的ポリヌクレオチドまたは増幅産物は、ハイブリダイゼーションが生ずるのに適している状態の下で、プライマー分子と接触するように導入される。定量的測定をすることができるように、プライマー分子および標的の間の相互作用は、増幅反応の間に、あるいは、それに先行して、モニタリングすることができる。上記反応で増幅される産物は同様に他の「遊離した」プライマー分子にハイブリダイズする。そして、このことにより更なる増幅反応を始める。本実施形態において、プライマー伸長により上記分子のプライマーとしての再利用が阻害されるので、上記液相プライマー分子は大過剰に存在するべきである。
【0030】
上記増幅反応が進行するにつれて生じる相互作用の検出については、上記増幅産物に結合するように固定されたオリゴヌクレオチドが同様にプローブとして使われてもよい。
【0031】
上記標的ポリヌクレオチド(または増幅産物)と相互作用するために必要な分子は標識を有してもよい。そして、それは印加された照射の検出を高める。例えば、検査法が表面電磁波(例えばSPR)を印加することに基づく場合、プラスモン支持粒子は生成されたシグナルを高めるために上記分子に付着してもよい。好適な粒子は、金の球体(ナノパーティクル)を含む。
【0032】
上記標識の付加が、上記分子への直接的な共有結合または間接的な付加によるものであってもよい。例えば、上記増幅産物が好適な標識を組み込むように、増幅反応は実施されてもよい。このことは、増幅反応を始めるための標識プライマーを利用することによって達成されてもよい。ポリヌクレオチドに対する標識の付加のための技術は、当業者に明らかである。
【0033】
複数の相互作用が検出できるように、複数のタイプの分子を利用することは一般的である。
【0034】
標的(または増幅産物)と相互作用する分子は、担体物質に好ましくは固定される。このことによって、検出を定位置上で実施することができる。そして、このことは、検出可能なシグナルを生成するために特定の基板を利用する検出技術にとって重要である。
【0035】
担体物質に分子を固定するための技術は、当業者に知られている。好適な担体物質は同様に知られており、照射の変化をモニタリングする多くの技術が特定の基板を必要とするので、好適な材料の選択は検出技術に左右されるであろう。例えば、ラマン増強の場合、適切に粗くされた金、銀、銅または他の自由電子金属の表面を使用することができる。他の上記の基板には、ラマン活性の表面増強を支持するものが含まれる。上記の活性は、金属コロイド粒子、誘電性基板上の金属フィルム、および金属粒子アレイによって、モニタリングされる。
【0036】
蛍光測定の場合、多数の基板が蛍光の使用に適合するが、ガラスまたはシリコン基板が好適である。表面プラスモン共鳴の用途に、プラスモンを支持することが可能である金、銀または他の自由電子を含んでいる基板は、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0037】
増幅産物および上記分子の間の上記相互作用の検出は、印加された照射の変化を測定することによって実施される。増幅産物および分子の間の相互作用について生ずる照射の変化を測定することは、従来の装置を使用して実施することができる。
【0038】
非線形画像処理システムは、公知技術である。一般に、物質に対する非−線形偏光は、次式のように表現することができる。
P=X(1)1+X(2)2+X(3)3+・・・
なお、Pは引き起こされた偏光であり、X(n)はn次非線形感受率であり、Eは電界ベクトルである。第一項は、光の正常な吸収および反射を記述する。第二項は、二次高調波発生(SHG)、和および差周波発生を記述する。第三項は、光散乱、活性化されたラマンプロセス、三次高調波発生(TGH)、および2および3光子吸収の両方を記述する。
【0039】
本発明の好適な画像処理システムは、第二または三次高調波発生に起因しているシグナルの検出に依存する。
【0040】
二次または三次高調波発生(以下にSHGと称する)を使用している単一の分子の解像は、公知技術である(Pelegその他著、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1999;95:6700−6704およびPelegその他著、Bioimaging(1996);4:215−224)。好適なシステムは、国際公開第02/095070号パンフレットに記述されている。
【0041】
一実施形態において、検出は、ラマン散乱および/またはLSPR技術を用いて液相(つまり、分子は固定されていない)において実施される。
【0042】
光が分子上へ向けられる場合、大多数の入射光子は振動数の変化なしで弾力的に散乱する。このことは、レイリー散乱と呼ばれる。しかしながら、いくつかの入射光子(およそ107の光子のうちの1つ)のエネルギーは、分子の化学結合の異なった振動モードに共役する。上記の共役は、入射光の振動数の範囲と異なる振動数の範囲を有する分子によって、いくつかの入射光を非弾性的に散乱させる。このことは、ラマン効果と呼ばれる。上記の非弾性的に散乱する光の振動数を強度に対してプロットすることによって、調査中の分子のユニークなラマンスペクトルが得られる。未知試料のラマンスペクトルの分析法は、サンプルの分子組成に関する情報を得ることができる。
【0043】
スペクトロスコープが顕微鏡の構成によって構築される場合、ラマン分光法(通常レーザによって提供される)のための入射照射は小さいスポットに集中されることができる。ラマンスペクトルはレーザパワーと線形に比例するので、サンプルの光強度は計測器の感度を最適化するために非常に高くてもよい。さらに、分子のラマン反応は本質的に即座に生ずる(長命の非常にエネルギー性の高い中間状態を伴わない)ので、このような高強度光源を用いる場合にさえ、ラマン−活性分子の光退色はありえない。
【0044】
ラマン効果は、構造化金属表面の近くに(≦50Å)ラマン活性分子を持ってくることによって有意に高めることができ、この場は表面から離れると指数的に減衰する。金属表面の非常に近くに分子を持ってくることは、一般的に適切に粗くされた金、銀、銅または他の自由電子金属上へのラマン−活性分子の吸着で達成される。ラマン活性の表面増強は、金属コロイド粒子、誘電性基板上の金属フィルム、および金属粒子アレイによってモニタリングされる。この表面励起ラマン散乱が起こるメカニズムは、周知でなくて、(i)光の局部的な強度を高める金属の表面プラスモン共鳴、および(ii)金属表面およびラマン−活性分子の間の電荷移動錯体の形成およびその後の移行の組合せからなると考えられる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態の中で、表面増強ラマン散乱(SERS)は、単一の金のまたは銀のナノ粒子の使用によって行使される。好ましい実施形態において、一本鎖ポリヌクレオチドプローブは、単一のSERSナノ粒子に結合される。ラマン−活性分子と関連または結合するラマン増強金属ナノ粒子は、光学的タグとして有用性を有してもよい。この一般的な発想は、米国特許第6,514,767号明細書で概説されている。そして、その内容は本願明細書に引用したものとする。一実施形態において、興味がある標的/プローブが固体担体に固定される場合、単一の標的/プローブ分子および単一の(つまり増幅された)ポリヌクレオチドの間の相互作用は、ラマン活性分子の固有のラマンスペクトルを調べることによって検出することができる。単一のラマンスペクトル(100から3500cm-1まで)が多くの異なるラマン−活性分子を検出することができるので、ポリヌクレオチド結合性分子と関連または結合するSERS−活性が高いナノ粒子が多重化されたアッセイ・フォーマットの中で本発明の場面において使われてもよい。
【0046】
好ましい実施形態において、照射の変化は、表面電磁波技術を利用することによってモニタリングされる。
【0047】
表面電磁波技術(および、特に、表面プラスモン共鳴−SPR−センサ)を組み込んでいるバイオセンサは、SEWが伝搬する表面に隣接した薄層の屈折率に対する表面電磁波(SEW)の感度に基づく。バイオセンサにおいて、増幅産物は、固定された分子を含んでいる表面を横切って流れることができる。結合が生ずるにつれて、表面上の質量の蓄積または再分布は、センサによってリアルタイムにモニタリングすることができる局部的な屈折率を変える。
【0048】
SPR技術を利用しているいくつかの方式は、バイオセンサにおいて提唱されて実現された。最も人気のある方式は、センサから反射される光の強度がモニタリングされるKretschmann−Raether構成に基づく。この技術(最も感度が高いもののうちの1つであると考えられる)は、J.Homolaその他著、Sensors and Actuators B 54、p.3−15(1999)に記述されており、5×10-7屈折率単位の検出限界を有する。SPR相転移を測定することは、1、2桁センサの感度を更に増やすことができる。このことは、ネルソンその他著、Sensors and Actuators B 35−36、p.187(1996)およびKabashkinその他著、Optics Communications 150、p.5(1998)に記述されている。マッハチェンダー装置のような従来技術の干渉計装置は、位相変化によってセンサ表面で屈折率における変化を測定するように構成された。このことは、国際公開01/20295号パンフレットにおいて開示されている。上記の構成は、4つの独立構成要件を必要としており、上記の構成は、これらの構成要件の亜波長の相対的変化、それゆえに非常に小さい機械的および環境動揺に影響される。機械的により丈夫なモノリシックな干渉計設計は、国際公開03/014715号パンフレットで概説される。
【0049】
好ましい実施形態においては、バッファのバルク屈折率の変化を補償することができ、干渉パターンへのバルク屈折率の寄与をセンサ表面に吸収される分析物の寄与と区別することができる、表面電磁波(SEW)センサシステムが使われる。上記のバイオセンサは、それゆえ、入射波を発生するための干渉性放射源と、固定された分子を支えるための担体表面であって、基板に載置されており、表面電磁波(SEW)を支持することのできる担体表面と、入射波をSEWおよび一次散乱波に分割するための手段であって、SEWが担体表面に沿って伝搬して固定された分子と相互作用する手段と、SEWから二次散乱波を生成するための手段と、一次散乱波および二次散乱波の間の干渉をモニタリングするための検出器と、を備える。
【0050】
本実施形態において、単色光のレーザによって生成される干渉性の光学ビームは、表面電磁波(SEWs)を支持することのできる金属フィルムの端上へ、レンズを使用して集中する。光学ビームは、金属フィルムが載置されるガラスプリズムを通過する。近赤外線レーザが、照射光源として使われる。従来の光学を画像形成および照射のために依然として使うことができる一方、近赤外源を使用することは、金および銀における表面プラスモンに対する伝播長が長いという利点を有する。しかしながら、他の単色光の光源も好適であり、使われてもよい。
【0051】
このことは、概略的に図1に示される。p偏光した近赤外レーザ光線11は集束レンズ12を通過し、そして次に、ガラスプリズム13(そこでは、ミクロ加工された金属フィルムを有する基板14が、屈折率整合液体またはゲルによって付着している。)を通過する。ガラスプリズムは、示すように三角形プリズムまたは半円筒状プリズムであってもよい。照射角度は、インタフェース基板溶液上の内部全反射の角度よりわずかに高くなるように選択される。レーザによって照らされて、構造体14は、散乱波15および金属溶液界面に沿って伝搬して体積波17に連続するように散乱するSEW16を生成する。これらの波は、液体セルを通って伝搬して、そして次に、測定器18上に干渉縞パターンを発生する。両方の散乱波は、溶液を通って伝搬するという事実のために、バルク屈折率の寄与は、実験的な幾何学配置の厳密な選択によって補償することができる。
【0052】
金属構造は、金または銀から形成されてもよく、または表面プラスモンを支持することのできる他のいかなる金属であってもよく、またはそれらの組合せであってもく、あるいはSEWを支持している誘電性の多層であってもよい。表面プラスモン伝播長を増やすためには、使用金または銀/金の多層を使うことが好適である。金属構造は、平版印刷プロセスを使用してプリズム上に堆積したものであってもよい。この技術の適応は同様に出願中の国際特許出願第GB03/03803号明細書に記述されている。そして、その内容は本願明細書に引用したものとする。
【0053】
増幅反応は、従来のPCR試薬および条件を使用して実施される。要約すると、標的ポリヌクレオチド上にモノマーの取込みが生じうるように、標的ポリヌクレオチドはポリメラーゼ酵素、必要なプライマー分子およびさまざまな核酸モノマー(塩基)と接触する。標的ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドは、それからポリメラーゼによって合成される。相補的なポリヌクレオチドが合成された後で、相補体および標的の間のハイブリダイゼーションが中断し、解離が生ずるように、反応が行われる温度を上昇させる。標的および相補体が、それから更なる増幅のための基質として使うことができる。
【0054】
増幅反応および分子および任意の増幅産物の間の結合/相互作用の検出は、同じ反応器において「リアルタイム」に実施される(つまり増幅および検出の両方が同じ時間に実施される)ように意図されている。増幅反応が進行するにつれて、増幅産物の量を測定することができる。増幅産物の同定は、それゆえに、PCRサーマルサイクルの全体または実質的に全体の間、実施することができる。同定は増幅産物についてだけのものであるので、偽性のバックグラウンド測定値は低減または回避することができる。
【0055】
好ましい実施形態において、ポリメラーゼ反応は、密封されたマイクロフローセルの中で実施される。反応物は、フローセルに導入され、それから、入出力弁を閉じることによって密封される。好ましい実施形態において、統合化されたポンプがクローズドセル内の反応のPCR流体流れを維持するために組み込まれる。このように、検出表面での拡散を増大させて、増幅された反応生成物の検出をより好ましくする。増幅産物が上記分子と相互作用しうるように、反応体混合物は上記固定された分子をこえて流れることができる。そして、相互作用の検出およびその結果として増幅プロセスの定量化ができるようにする。上記増幅反応が進行するにつれて、増加した量の増幅産物は固定された別の分子と相互作用する。そして、検出されるシグナルの増大を引き起こす。シグナルを検出することにより、増幅反応が定量化されることができる。
【0056】
多重化された反応は、増幅産物の1つのタイプと特異的に相互作用する空間的に区別された分子を組み込むことによって実施することができる。例えば、異なるポリヌクレオチド結合性ドメインを含むDNA結合性タンパク質が、使われてもよい。異なる結合タンパク質との相互作用に基づいて増幅産物を区別することは、それゆえに、可能である。あるいは、ポリヌクレオチドが結合分子として使われる場合、ある範囲の異なる配列が規定された位置に存在するように、設計されていてもよい。そうすると、配列特異的な相互作用をモニタリングすることができる。
【0057】
上記の相互作用は、増幅サイクルにおいて1つの特定の段階で測定されてもよく、その後のサイクルの中で同様の段階で(つまりサーモサイクル反応の場合同じ温度で)比較されてもよい。1つの特定の好ましい実施形態において、相互作用データは、サーモサイクル全体の間得られ、「溶融」カーブが得られる。ポリヌクレオチドがプローブ分子として使用される場合において、上記のカーブは、共有結合してハイブリダイズされた二重鎖と配列相同性のあるより小さい領域を含んでいる「偽」陽性の配列との間をより効果的に区別することができるために、特に有益である。
【0058】
本願明細書において参照される各々の刊行物の内容は、引用したものとする。
【実施例】
【0059】
実施例により、発明を説明する。
【0060】
出願中の国際特許出願第GB03/03803号明細書で概説されるように、厚さ50ナノメートルおよび幅70ミクロン金のミクロ構造は平板印刷技術を用いて製造された。チップは、それからアセトンの中で超音波を用いて洗浄されて、およそ20分の間オゾン清浄機内において静置した。チップはそれからシステム(図1)に組み立てられ、励起レーザはミクロ構造の伸長端に集中した。最適のバルク屈折率補償が達成される(干渉パターンを読み出してCCDカメラの上に形成する)ように、レーザスポットはそれから調整された。組み立てられたセンサはマイクロフローセルを含む。そのため、サンプルがセンサチップの表面をこえていくように注入することができる。
【0061】
チオ化オリゴは、HPLC浄化の後、QIAgen(5´−[ThiSS]TAAAA
CGACGGCCAGTGC−3´』)から得られた。5×SETバッファの中のチオ化
オリゴの1μMの溶液は、20μl hour-1の流速で、フローセルの中で終夜インキューベートされた。次の日、セルは、5μl minute-1の流速によって、5×SETによって10分間、5×SETによって60分間、5×SET、0.1%SDSによって10分間、5×SET、0.1%のメルカプトヘキサノールによって60分間、洗浄された。フローセルは、5μ1 minute-1の2×SETのフローストリームによって平衡させられて、20℃で保たれた。
【0062】
2×SET中の1μMの相補DNA(5´−GCACTGGCCGTCGTTTTA)
は、5μ1 minute-1の速度で、フローストリームに注入された。センサ表面上での相補配列と固定されたプローブとの会合は、干渉計システムによって検出された。流体セルが30秒間(50℃の熱電対温度に)加熱された場合、二本鎖DNAは解離し、ベースラインは元の水準に戻った。1mMのNaNO2は、フローストリームに注入されて、センサ表面からチオ化オリゴが除去され、相関性シフトが付随して減少するという結果になった。この実験は、それゆえに、標識されていない表面プラスモン共鳴により、温度の関数として、ポリヌクレオチドの固定されたプローブ分子との会合および解離をモニタリングできることを証明する。これは、リアルタイムPCRの状況での特定の使用法である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】「バルク」屈折率を補正したSPRバイオセンサの概略図である。
【図2】ハイブリダイゼーションの補償された相関性シフトおよび相補的ポリヌクレオチドのその後の熱「融解」を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチド増幅反応をモニタリングするための方法であって、
(i)標的ポリヌクレオチドの増幅のための反応を実行するステップと、
(ii)増幅反応の間または後に、増幅産物をポリヌクレオチドに結合する分子(空間的に規定された位置に存在するか、または非線形または非蛍光性の方法により判定される分子)に接触させるステップと、
(iii)印加された照射の変化を測定することによって、上記増幅産物および上記分子の間の相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記述の方法において、
前記分子は、担体物質に固定されている方法。
【請求項3】
請求項1または2に記述の方法において、
前記分子は、ポリメラーゼ酵素である方法。
【請求項4】
請求項1または2に記述の方法において、
前記分子は、ポリヌクレオチドであって、少なくともその一部が前記増幅産物上の領域に相補的である方法。
【請求項5】
請求項4に記述の方法において、
前記分子は、前記増幅反応のためのプライマーとして機能する方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記述の方法において、
ステップ(iii)の検出は、表面電磁波を印加して、前記波の変化をモニタリングすることによって行われる方法。
【請求項7】
請求項6に記述の方法において、
検出は、表面プラスモン共鳴の変化を測定することによって行われる方法。
【請求項8】
ポリヌクレオチド増幅反応をモニタリングする装置であって、
自身の上に固定されている複数の分子であって、ポリヌクレオチドに結合または相互作用することができる分子を有している担体物質と、
印加された照射の変化を検出するための手段と、
を含む装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−529999(P2007−529999A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520007(P2006−520007)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003086
【国際公開番号】WO2005/007887
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(506016440)
【Fターム(参考)】