説明

ポリビニルアセタール系粉体塗料

【課題】低コストで製造可能であって、顔料による着色性に優れた塗膜を形成することができ、かつ流動性に優れたポリビニルアセタール系粉体塗料を提供する。
【解決手段】ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)とをドライブレンドしてなる粉体塗料であって、下記条件を満足する粉体塗料。
(1)前記粉体(A)のJIS K7210:1999の規定に基づいて測定したメルトフローレートが、1〜200g/10分
(2)前記粉体(A)の平均粒子径(AD)が10〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(3)前記粉体(B)の平均粒子径(BD)が2〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(4)|AD−BD|<100
(5)前記粉体(B)と前記粉体(A)の重量比(B)/(A)が、1/100〜50/100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアセタール粉体と顔料粉体とをドライブレンドしてなる粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール粉体および顔料粉体を用いた粉体塗料としては、ポリビニルブチラール粉体と顔料を溶融混練し、これを粉砕して得た粉体塗料が知られている(例えば、特許文献1〜3)。しかしながら、この粉体塗料は、ポリビニルブチラール粉体と顔料を溶融混練する工程、および混練前の原料のみならずさらに混練後の溶融混練物を粉砕する工程が必要となり、製造コストがかさみ、生産性に優れるものではない。また機械的に粉砕するため、望ましい小粒子径を得るのが容易ではなく、さらに球形に近い粒子形状の粒子を得ることも困難である。
【0003】
ドライブレンドしてなる粉体塗料としては、調色が容易になるものとして、樹脂粉体とカーボンブラックなどの顔料を溶融混練し、これを粉砕して得た粉体塗料を、2種以上ドライブレンドした粉体塗料が知られている(例えば、特許文献4)。しかしながら、特許文献4では、樹脂粉体と顔料粉体との溶融混練物(原色粉体塗料)同士がドライブレンドされているのであり、樹脂粉体と顔料粉体とをドライブレンドして粉体塗料を得ることについては開示がなく、さらに、塗料の樹脂成分としてポリビニルブチラール粉体を使用することについても開示がない。
【0004】
一方、調色が容易になるものとして、平均粒子径5〜50μmの樹脂粉体と平均粒子径0.01〜1.0μmの顔料粉体をドライブレンドした粉体塗料も知られている(例えば、特許文献5)。しかしながら、特許文献5には、ブチラール樹脂(ポリビニルブチラール)は例示としてのみ記載されているだけでその実施例はなく、本発明者らが実際にポリビニルブチラールを用いて検討してみたところ(本明細書後述の比較例参照)、このような平均粒子径の小さい顔料粉体を使用したのでは、樹脂粉体と顔料粉体が層分離を起こし、着色性が悪くまた粉体塗料の流動性も不十分であった。
【特許文献1】特開平10−212433号公報(特許請求の範囲、[0010]、[0011]、[0023]、[0048])
【特許文献2】特開平10−206392号公報(特許請求の範囲、[0011])
【特許文献3】特開2000−281966(特許請求の範囲、[0026]、[0037]、[0039]、[0062]、[0097])
【特許文献4】特開平7−188586号公報(特許請求の範囲、[0007]、[0010]、[0014],[0015])
【特許文献5】特開2004−43669(特許請求の範囲、[0024]、[0041]、[0073]、[0087]、[0088])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の課題を解決したものであり、低コストで製造可能であって、顔料による着色性に優れた塗膜を形成することができ、かつ流動性に優れたポリビニルアセタール系粉体塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記目的は、ポリビニルアセタール粉体(A){以下、単に粉体(A)ともいう}と顔料粉体(B){以下、単に粉体(B)ともいう}とをドライブレンドしてなる粉体塗料であって、下記条件を満足する粉体塗料を提供することによって、達成される。
(1)前記粉体(A)のJIS K7210:1999の規定に基づいて測定したメルトフローレート(以下、MFRと略記する)が、1〜200g/10分
(2)前記粉体(A)の平均粒子径(AD)が10〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(3)前記粉体(B)の平均粒子径(BD)が2〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(4)|AD−BD|<100
(5)前記粉体(B)と前記粉体(A)の重量比(B)/(A)が、1/100〜50/100
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリビニルアセタール系粉体塗料は、ポリビニルアセタールを顔料とドライブレンドするだけで製造できるため、生産性に優れ、低コストで製造可能である。さらに、ポリビニルアセタールが透明性に優れているため、着色性に優れた塗膜を形成することができる。なお、ここで、着色性に優れるとは、着色むらがないか、または極めて少ない、ことを意味し、塗膜中の顔料の分散状態が均一かどうかを意味するものではない。また、本発明の粉体塗料は、樹脂粉体と顔料粉体とが層分離を起こさず、粉体塗料の流動性に優れている。さらにまた、ポリビニルアセタールは基材との接着性に優れているので、特にプライマーなどによる前処理をしなくとも、基材との優れた接着性を付与することができ、また高い硬度を有する塗膜を形成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、重要なことは、ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)とをドライブレンドしてなる粉体塗料が、上記(1)〜(5)の条件を満足することである。
【0009】
本発明に用いられるポリビニルアセタール粉体(A)を構成するポリビニルアセタールは、通常、ビニルアルコール系重合体を原料として製造される。上記ビニルアルコール系重合体は、従来公知の手法、すなわちビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を適用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解などが適用でき、この中でも、メタノールを溶剤とし、苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0010】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられるが、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0011】
ビニルエステル系単量体を重合して得た重合体をけん化して得たビニルアルコール系重合体は、けん化度によりそれぞれの単位の含有率は異なるが、ビニルアルコール単位と、上記ビニルエステル系単量体に対応するビニルエステル単位とを含んでいる。例えば、ビニルエステル系単量体として酢酸ビニルを用いた場合、上記製造方法により得られたビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位とを含む。
【0012】
また、前記ビニルエステル系単量体を重合する場合、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合させることもできる。他の単量体の例としては、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレンなどのα−オレフィン、アクリル酸またはおよびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体などのアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体などのメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類、塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン、酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物、マレイン酸およびその塩またはそのエステルまたはその無水物、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。これらの単量体単位は、通常ビニルエステル系単量体に対して10モル%未満の割合で用いられる。
【0013】
ポリビニルアセタールは、ビニルアルコール系重合体をアセタール化することにより得ることができる。当該アセタール化は、従来公知の方法を適用して行えばよく、例えば、酸触媒の存在下でビニルアルコール系重合体とアルデヒドとを混合すればよい。アセタール化に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸などが挙げられる。これらの中でもより一般的には塩酸、硫酸、硝酸が用いられ、とりわけ塩酸が好ましく用いられる。
【0014】
本発明においては、炭素数2〜6のアルデヒドでアセタール化されたポリビニルアセタールを用いることが好ましい。炭素数2〜6のアルデヒドとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒドなどが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。中でも炭素数4〜6のアルデヒド、特にn−ブチルアルデヒドが好ましく用いられる。炭素数2〜6、特に炭素数4〜6のアルデヒドを使用することにより、本発明の目的とする粉体塗料を好適に得ることができる。
【0015】
本発明に用いられるポリビニルアセタールのアセタール化度は、40〜85モル%であることが好適であり、さらに好適には50〜85モル%である。アセタール化度がこの範囲にあるとき、塗膜の着色性に優れ、さらに均一な塗膜厚を付与することができ、さらに基材との接着性に優れた粉体塗料が得られる。また、本発明の目的をより好適に達成するためには、ポリビニルアセタールのビニルエステル単位の含有量は0.1〜30モル%、ビニルアルコール単位の含有量は10〜50モル%であることが好適である。
【0016】
なお、上記アセタール化度、ビニルエステル単位の含有量、ビニルアルコール単位の含有量の値は、ポリビニルアセタールを構成する全てのビニルモノマー単位に対する割合である。
【0017】
本発明に用いられるポリビニルアセタールは、分子内にカルボキシル基、一級水酸基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基などの官能基を含有するものであっても構わない。分子内に前記の官能基を導入する手法については特に制限はないが、例えば、(1)(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基あるいは一級水酸基を有するエチレン性不飽和単量体をビニルアルコール系重合体の水溶液中でビニルアルコール系重合体にグラフト重合させ、次いでアセタール化する方法、(2)カルボキシル基含有ビニルアルコール系重合体またはアミノ基含有ビニルアルコール系重合体をアセタール化する方法、(3)ビニルアルコール系重合体をグリオキシル酸などカルボキシル基を有するアルデヒド化合物でアセタール化する方法などが挙げられる。
【0018】
本発明において、(1)の条件、すなわちポリビニルアセタールのMFRが1〜200g/10分を満足することが重要であり、MFRは、好ましくは5〜150g/10分、最適には10〜120g/10分である。MFRが1g/10分未満の場合、塗膜の着色性が不十分となり、また、基材との接着性が低下し、さらに塗膜厚の均一性も不十分となる虞がある。200g/10分を超える場合には、塗膜の着色性が低下し、さらに塗膜厚の均一性が不十分となり、塗装した塗料が垂れる現象が生じる虞がある。ここで、MFRは、JIS K7210:1999に基づき、190℃、2160gの荷重下で測定される。
【0019】
粉体(A)のMFRは、粉体(A)を構成するポリビニルアセタールの重合度およびアセタール化度により主に制御できる。ポリビニルアセタールを上記方法により製造する場合、粉体(A)のMFRは、ポリビニルアセタールの原料となるビニルアルコール系重合体の重合度により制御でき、当該重合度を大きくするほど、粉体(A)のMFRを小さくできる。当該重合度は、通常、150〜2000であり、200〜1500が好ましい。
【0020】
次に、本発明において重要なことは、(2)の条件、すなわち、ポリビニルアセタール粉体(A)の平均粒子径(AD)が10〜150μm、最大粒子径が250μm以下、を満足することである。ポリビニルアセタール粉体(A)がこの条件を満足することにより、優れた着色性を塗膜に付与することができる。平均粒子径は、好ましくは130μm以下であり、最適には100μm以下である。また下限については、好ましくは20μm以上である。
【0021】
ポリビニルアセタール粉体(A)の平均粒子径は、レーザー回折法による測定により求めることができ、測定に用いることができる装置として、例えば(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD2200などが挙げられる。また、最大粒子径は、同測定により得られた粒度分布の終点値から求めることができる。
【0022】
ポリビニルアセタール粉体(A)は、単一粒子により構成されていてもよく、1次粒子の集合粒子から構成されていてもよい。粉体(A)は、1次粒子の集合粒子から構成されていることが好適であり、この場合、粉体(A)の平均粒子径(AD)および最大粒子径は、集合粒子のものをいう。
【0023】
粉体(A)が1次粒子の集合粒子から構成されている場合、1次粒子は、平均粒子径が5μm以下で、かつ最大粒子径が10μm以下であることが好適である。ここで1次粒子とは、ポリビニルアルコールのアセタール反応において、最初に生成する粒子である。また、一次粒子の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により、倍率1000で粉体の写真を3箇所(3枚)撮影し、それぞれの写真より判定可能な1次粒子径を測定(写真1枚につき50点以上)して平均値を算出することにより、求めることができる。
【0024】
ポリビニルアセタール粉体(A)が、このような特定の1次粒子径および集合粒子径を満足すると、基材との優れた接着性、高い硬度を付与することができ、さらに塗膜に優れた着色性、さらに均一な塗膜厚を付与することができるため、好ましい。
【0025】
このような特定の1次粒子径および集合粒子径を有し、かつ上記のようなMFRを有するポリビニルアセタールの粉体は、例えば、次のような方法によって得られる。
【0026】
まず、ビニルアルコール系重合体の水溶液{濃度3〜15重量%;濃度は(ビニルアルコール系重合体の重量)/(ビニルアルコール系重合体水溶液の重量)×100で算出された値}を80〜100℃に調整し、徐々に温度を下げながら、10〜60分かけて、−10〜30℃に低下したところで、アルデヒドおよび触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、30〜300分反応を進め、さらに30〜200分かけて、30〜80℃迄昇温し、この温度範囲において1〜8時間程度保持する。次に、水洗および中和処理後、乾燥することによって目的とするポリビニルアセタール粉体が得られる。当該方法により最大粒子径が250μmを越える集合粒子はほとんど生成しないが、最大粒子径250μmを超える集合粒子が生成した場合は、フィルター、篩などにより除去すればよい。
【0027】
粉体(A)の水分量は、2.5重量%以下であることが、塗装後の表面平滑性を向上させることができることから好適である。上記水分量を2.5重量%以下にする方法としては、アセタール化後の水又は水/アルコールの混合溶液などによる洗浄の後に、乾燥により規定の量以下にまで水分を除去する方法などが挙げられる。より好ましい水分量は2.0重量%以下である。
【0028】
粉体(A)における、アセタール化に用いたアルデヒド残存量は、150ppm(重量ppm、以下同じ)以下であることが、本発明の粉体塗料をより好適に得ることができることから好ましい。残存アルデヒド量を150ppm以下にする方法としては、ポリビニルアセタールを、水又は水/アルコールの混合溶液などによる洗浄操作により精製して、アルデヒドを規定量以下にまで除去する方法などが挙げられる。残存アルデヒドの含有量は、より好ましくは120ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。
【0029】
次に、本発明において、上記ポリビニルアセタール粉体(A)とドライブレンドする顔料粉体(B)としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、べんがら、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、ジアゾ系イエロー、キナクリドン、アルミニウム金属、パール顔料、雲母、光拡散剤(ガラスビーズ、シリコーン、ポリメチルメタクリレートなど)、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルクなどの顔料粉体が挙げられ、これらの少なくとも1種の粉体が用いられる。これらの中で好ましくは、酸化チタン、酸化鉄、べんがら、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、ジアゾ系イエロー、キナクリドン、アルミニウム金属、パール顔料および雲母から選ばれる少なくとも1種の粉体であり、さらに好ましくは、酸化鉄、カーボンブラックおよびパール顔料から選ばれる少なくとも1種の粉体である。
【0030】
さらに、本発明において重要なことは、(3)の条件、すなわち、顔料粉体(B)の平均粒子径(BD)が2〜150μm、最大粒子径が250μm以下、を満足することである。顔料粉体がこの条件を満足することにより、塗膜に優れた着色性を付与することができ、さらに優れた流動性を付与することができる。平均粒子径は、好適には130μm以下であり、最適には100μm以下である。また平均粒子径の下限については、好適には5μm以上、最適には10μm以上である。顔料粉体(B)の平均粒子径および最大粒子径は、前記したポリビニルアセタール粉体(A)の平均粒子径および最大粒子径と同様の方法で求めることができる。
【0031】
また、本発明において重要なことは、(4)の条件、すなわち、|AD−BD|(μm単位で表される粉体(A)の平均粒子径と粉体(B)の平均粒子径の差の絶対値)<100を満足することである。この条件を満足することにより、樹脂粉体と顔料粉体との層分離が起こらず、優れた流動性が付与される。より好適な条件は、|AD−BD|<80である。
【0032】
さらに、本発明において重要なことは、(5)の条件、すなわち、ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)は、その重量比(B)/(A)が1/100〜50/100、を満足することである。この条件を満足することにより、着色性に優れた塗膜が得られ、さらに優れた流動性、基材との優れた接着性、優れた塗膜硬度が付与される。好適な重量比(B)/(A)は、1/100〜30/100であり、最適には1.5/100〜25/100である。
【0033】
本発明においては、ポリアミド系樹脂粉体(C){以下、単に粉体(C)ともいう}を併用することも好適な態様である。
【0034】
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6/6,6共重合体、ナイロン−9、ナイロン−6,10、ナイロン−11、ナイロン−12などが挙げられ、これらは1種または2種以上が用いられる。なかでも、ナイロン−11およびナイロン−12が、より好適である。これらのポリアミド系樹脂粉体を併用することにより、塗膜に高い耐衝撃性を付与することができ、さらにまた、流動性、粉落ち性に優れた粉体塗料を得ることができる。ここで、「粉落ち性」とは、基材表面への粉体塗料の塗布時に、当該表面に付着する余分な塗料の量に対応する評価項目であり、目視により判定される。粉体塗料の粉落ち性が良好な場合、上記余分な塗料の量が少ない、あるいは、余分な塗料の付着が見られないため、塗料の塗布ムラが生じにくい。一方、粉落ち性が低下すると、上記余分な塗料の量が増大し、塗料の塗布ムラが生じやすくなる。
【0035】
ポリアミド系樹脂粉体(C)は、平均粒子径が10〜150μmであり、かつ最大粒子径が250μm以下であることが、より好適である。ポリアミド系樹脂粉体の平均粒子径は、好ましくは130μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。また、下限については好適には20μm以上である。ポリアミド系樹脂粉体は、例えば、ポリアミド樹脂を粉砕して、所望の粒子径とすることができる。ポリアミド系樹脂粉体(C)の平均粒子径および最大粒子径は、前記したポリビニルアセタール粉体(A)の平均粒子径および最大粒子径と同様の方法で求めることができる。
【0036】
本発明において、ポリアミド系樹脂粉体を併用する場合、ポリビニルアセタール粉体(A)とポリアミド樹脂粉体(C)は、その重量比(A)/(C)が、20/100〜100/5であることが好適である。重量比(A)/(C)は、より好ましくは50/100〜100/5であり、さらに好ましくは50/100〜100/10である。
【0037】
本発明の粉体塗料は、樹脂成分として、粉体(A)を主成分として、または粉体(A)および粉体(C)を主成分として構成される態様が好適である。例えば、樹脂成分として、粉体(A)単独または粉体(C)使用時には粉体(A)および粉体(C)の合計が、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上がより好ましく、100重量%がさらに好ましい。
【0038】
本発明において、無機物微粒子(D)を配合することも、ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)からなる粉体塗料の流動性をさらに改善し、さらに基材との接着性を改善し、さらには硬度をも改善することから、好適な態様である。ここで無機物微粒子(D)とは、顔料とは区別されるもので、シリカ、酸化アルミニウムなどが例示できる。
【0039】
無機物粒子(D)は、平均粒子径が1μm以下であることが好適である。前記無機物粒子(D)の平均粒子径は、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。無機物微粒子(D)は、例えば、無機物を粉砕して、所望の粒子径にすることができる。無機物微粒子(D)の平均粒子径および最大粒子径は、前記したポリビニルアセタール粉体(A)の平均粒子径および最大粒子径と同様の方法で求めることができる。無機物微粒子(D)は、粉体(A)100重量部に対し、または粉体(C)使用時には粉体(A)と粉体(C)の合計100重量部に対し、0.0001〜2重量部配合することが好適であり、さらに好適には0.001〜1重量部配合する。
【0040】
本発明の粉体塗料には、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、ヒドロキシアルキルアミド、アミノ化合物、脂肪族二塩基酸、酸無水物などの硬化剤を配合することもできる。硬化剤の使用量は、粉体(A)100重量部に対し、または粉体(C)使用時には粉体(A)と粉体(C)の合計100重量部に対し、通常20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。硬化剤を該範囲で用いることにより、得られる塗膜の耐溶剤性などを改善することが可能である。
【0041】
上記のイソシアネート化合物としては特に制限はないが、ブロックドイソホロンジイソシアネート化合物が好ましく用いられ、なかでも、ε−カプロラクタムなどのブロック剤でブロックされたε−カプロラクタムブロックドイソホロンジイソシアネートや、自己ブロックタイプであるウレトジオン結合型イソシアネートが好ましい。このようなε−カプロラクタムブロックドイソホロンジイソシアネートとしては、ヒュルス社製の「ベスタゴンB1530」、バイエル社製の「クレラン(登録商標)U−1」が挙げられる。ウレトジオン結合型イソシアネートとしては、ヒュルス社製の「ベスタゴンBF1540」が挙げられる。
【0042】
エポキシ化合物としてはエポキシ基を含有する化合物であれば特に制限はないが、トリグリシジルイソシアヌレートなどが用いられる。
【0043】
ヒドロキシアルキルアミドは、例えば、カルボン酸および/またはカルボン酸エステルと、β−ヒドロキシアルキルアミンとを、ナトリウムやカリウムなどのアルコキシドの存在下で反応させることにより得られる。上記カルボン酸およびカルボン酸エステルとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、アジピン酸ジメチルなどが挙げられる。上記β−ヒドロキシアルキルアミンとしては、例えば、N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミンなどが挙げられる。市販の上記ヒドロキシアルキルアミドとしては、例えば、EMS−PRIMID社製「プリミド」シリーズなどが挙げられる。
【0044】
アミノ化合物としてはアミノ基を含有する化合物であれば特に制限はないが、尿素、メラミン、尿素樹脂などが挙げられる。
【0045】
脂肪族二塩基酸としては特に制限はないが、ドデカン二酸が汎用的に用いられる。
【0046】
酸無水物も特に制限はないが、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸が汎用的に用いられる。
【0047】
ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)および必要に応じ添加されるその他の成分とをドライブレンドすることにより、本発明の粉体塗料が得られる。ドライブレンドの方法としては、両者が均一に混ざるような方法、例えばドライブレンダー、ヘンシエルミキサー、ボールミルなどによる方法があげられる。
【0048】
本発明の粉体塗料は、さまざまな粉体塗装法で使用可能である。粉体塗装法としては、流動浸漬法、静電塗装法、溶射法などが挙げられる。塗装温度条件は、塗装方法や、用いられるポリビニルアセタールのMFRなどにより異なるが、100〜300℃程度が好ましい。
【0049】
本発明のポリビニルアセタール系粉体塗料を用いた塗装の対象となる基材としては、鋼管、鋼板などの金属を始め、陶器、セラミック、ガラス、プラスチックなどが挙げられる。特に、本発明のポリビニルアセタール系粉体塗料は、鋼管の塗装に適しており、さらに、当該粉体塗料で塗装された鋼管で構成されるカート(例、ショッピングカート、かご置き台、台車、空港用カート等、特にショッピングカート)は、外観が良好なものとなる。本発明の粉体塗料の塗膜が形成されたカートを製造するには、当該粉体塗料が塗装された鋼管を用いてカートを組み立てればよく、また、本発明の粉体塗料にカートをディッピングして塗膜を形成してもよい。
【0050】
金属に粉体塗装する場合、基材との接着性、あるいは塗膜の耐食性、外観などを改善するために、必要に応じて、基材表面を脱脂処理、リン酸塩処理、メッキ処理、エポキシ系樹脂などのプライマー塗布処理を行ってもよい。
【0051】
また、本発明の粉体塗料を、金属を代表とする基材上に塗布することにより、塗膜を多層構造とすることもできる。ここで、多層化を行う方法は特に限定されないが、例えば、本発明の粉体塗料を複数回塗布する方法、本発明の粉体塗料と、他の粉体塗料との塗布を、所定のパターンで、例えば交互に、複数回行う方法、本発明の粉体塗料と他の粉体塗料とからなる混合物を塗布し、両者の親和性の差により、基材表面での溶融時に相分離させることにより、一回の塗装により多層の樹脂層を形成する方法、などを用いることができる。なかでも、粉体塗料を複数回塗布する方法は、樹脂間の親和性などを考慮する必要がなく、より好適である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限り、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0053】
ポリビニルアセタール、ポリビニルアセタール粉体、顔料粉体、ポリアミド系樹脂粉体および無機物微粒子の諸物性の測定は、以下の方法に従って行った。
(ポリビニルアセタールのMFR)
JIS K7210:1999に基づき、190℃下、2160gの荷重により測定した。
(ポリビニルアセタールの酢酸ビニル単位の含有量)
JIS K6728:1977に基づき測定した。
(ポリビニルアセタールのビニルアルコール単位の含有量)
JIS K6728:1977に基づき測定した。
(ポリビニルアセタール粉体の水分量)
粉体(A)を、乾燥機により105℃で3時間乾燥させ、式{(乾燥前の粉体(A)の重量)−(乾燥後の粉体(A)の重量)}/{乾燥前の粉体(A)の重量}×100(%)により算出した。
(ポリビニルアセタール粉体のアルデヒド残存量)
ガスクロマトグラフィーにより測定した。
(ポリビニルアセタール粉体の1次粒子の平均粒径)
走査型電子顕微鏡(SEM)により、倍率1000で粉体の写真を3箇所(3枚)撮影し、それぞれの写真より判定可能な1次粒子径を測定(写真1枚につき50点以上)し、その平均値を求めた。なお、それぞれの1次粒子の径は、長径を測定した。
(ポリビニルアセタール粉体の1次粒子の最大粒子径)
上記SEM写真から観察される1次粒子で最大のものの粒径を測定した。
{ポリビニルアセタール粉体(集合粒子)、顔料粉体、ポリアミド系樹脂粉末、無機物粒子、の平均粒子径}
(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD2200により測定した。
{ポリビニルアセタール粉体(集合粒子)、顔料粉体、ポリアミド系樹脂粉末、無機物粒子、の最大粒子径}
(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD2200により測定した粒度分布の終点の値を最大粒子径とした。
【0054】
また、実施例および比較例で作成した塗膜の評価は、以下の方法に従って行った。
【0055】
(塗装時の粉体塗料の流動性評価)
塗装室(実施例1記載)における各粉体塗料の流動性について、多孔板からの空気により吹き上げられた粉体塗料における上面の状態を、目視により観察して評価した。評価基準を以下に示す。
「○」:吹き込まれた空気の吹き出しが均一であり、吹き上げられた粉体塗料の上面は滑らかである。
「△」:吹き込まれた空気の吹き出しにムラがあり、吹き上げられた粉体塗料の上面に、空気の吹き出しに伴う膨らみが見られる。
「×」:流動しにくい。
【0056】
(粉落ち性)
基材表面に形成された塗膜の状態を目視により確認し、各粉体塗料の粉落ち性を評価した。評価基準を以下に示す。
「○」:基材表面に余分な粉体塗料の付着がほとんどなく、粉体塗料の塗布ムラが見られない。
「△」:基材表面に余分な粉体塗料の付着が若干あり、粉体塗料の塗布ムラが若干見られる。
「×」:基材表面に余分な粉体塗料の付着があり、粉体塗料の塗布ムラが見られる。
【0057】
(塗膜の着色性)
基材に塗布した塗膜の着色性を目視により以下の基準で評価した。
「○」:着色状態にムラなし
「△」:若干ムラが見られる
「×」:全面がマダラ模様
【0058】
(塗膜厚の均一性)
基材表面に形成された塗膜の厚さを、各粉体塗料につき5点測定し、その平均値d1を求めた。次に、求めたd1に対する、測定した塗膜厚さの最大値と最小値との差d2の比(d2/d1)を百分率(%)で求めた。d2/d1の値が小さいほど、形成された塗膜厚の均一性が高い。評価基準を以下に示す。
「○」:10%未満
「△」:10%以上20%未満
「×」:20%以上
【0059】
(ボール落下試験:耐衝撃性)
上記にて得られた塗膜を形成した基板を、塗膜が上になるように床面に静置し、その垂直上方2mの高さより、重量2kgの鉄球を自由落下させ、塗膜に衝突させた。衝突後の塗膜の状態を目視により観察して、塗膜の耐衝撃性を評価した。評価基準を以下に示す。
「A」:塗膜の衝突部に、剥離・ひび割れがともに見られない。
「B」:塗膜の衝突部に、ひび割れが見られるが剥離は見られない。
「C」:塗膜の衝突部に、ひび割れ・剥離がともに見られる。
【0060】
(基材との接着性)
基材表面に形成した塗膜の接着性を、JIS K 5600−5−6:1999(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性:クロスカット法)に従い、同JIS規格に記載の試験結果の分類に従って分類した(分類0が最も良く接着しており、分類5が最も接着性が低い状態を表す)。
【0061】
(鉛筆硬度:塗膜硬度の評価)
基材表面に形成した塗膜の硬度を、JIS K 5600−5−4:1999(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度:鉛筆法)の規定に基づき評価した。H、HB、Bの順に塗膜の硬度が小さくなる。
【0062】
実施例1
(ポリビニルアセタールの調製)
還流冷却器、温度計およびイカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製容器に、イオン交換水1350gおよびPVA−1(ポリビニルアルコール)(重合度300、けん化度98モル%)110gを仕込み、全体を95℃に昇温してPVA−1を完全に溶解させた。次に、120rpmで攪拌しながら、約30分かけて10℃に徐々に冷却した後、ブチルアルデヒド64gと20%の塩酸90mlを添加し、アセタール化を開始した。アセタール化を150分間行った後、60分かけて全体を50℃まで昇温し、50℃にて120分保持後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和し、再洗浄後乾燥して、本実施例に用いるポリビニルアセタールとしてポリビニルブチラール(PVB−1)を得た。得られたポリビニルブチラール(PVB−1)のMFRは110g/10分であり、ブチラール化度は68モル%、酢酸ビニル単位の含有量は2モル%、ビニルアルコール単位の含有量は30モル%であった。また、PVB−1の水分率は0.8%であり、ブチルアルデヒド含有量は80ppmであった。
【0063】
(ポリビニルアセタール粉体の調製)
上記作製したポリビニルブチラールを乾燥後、60メッシュ(目開き250μm)の金網で250μm以上の粒子径を有する粒子を取り除いて、ポリビニルブチラール粉体を調製した。粉体の粒子径を表1に示す。
【0064】
(粉体塗料の調製)
上記作製したポリビニルブチラール粉体100gに対して顔料粉体{メルク(株)製の「Iriodin(登録商標) 100 Silver Pearl」(パール顔料)(平均粒子径35μm、粒子径250μm超過の粒子無し)5gをドライブレンダーにより混合して、本発明の粉体塗料を得た。
【0065】
(粉体塗料を用いた基材の塗装)
0.8mm厚×50mm×100mmのステンレス板(SAS304)の表面を洗剤で洗浄して脱脂し、イオン交換水で十分に洗浄して基材とした。前記基材に対して、上記作製した粉体塗料を用い、流動浸漬法により塗装を行った。流動浸漬は多孔板を通して円筒状の塗装室(流動室)(高さ50cm、直径30cm)に空気を吹き込み、前記粉体塗料を流動させて、この流動層中に前記ステンレス板からなる基材を懸垂して塗装を行った。流動浸漬条件を以下に示す。
・基材の予熱:温度300℃、時間15分
・浸漬時間 :10秒
【0066】
得られた粉体塗料および塗膜の評価を上記の方法に従って行った。結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
実施例1において、PVA−1に替えてPVA−2(ポリビニルアルコール)(重合度600、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にしてMFR11g/10分、ブチラール化度75モル%、酢酸ビニル単位の含有量2モル%、ビニルアルコール単位の含有量20モル%のポリビニルブチラール(PVB−2)を調製し、得られたPVB−2を用いて、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール粉体を調製した。実施例1で用いたポリビニルブチラール粉体に替えて、上記作製したポリビニルブチラール粉体を用いた他は、実施例1と同様にして粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。PVB−2の水分率は0.8%であり、ブチルアルデヒド含有量は100ppmであった。
【0068】
実施例3
実施例1において、PVA−1に替えてPVA−3(ポリビニルアルコール)(重合度1000、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にしてMFR1.6g/10分、ブチラール化度78モル%、酢酸ビニル単位の含有量2モル%、ビニルアルコール単位の含有量20モル%のポリビニルブチラール(PVB−3)を調製し、得られたPVB−3を用いて、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール粉体を調製した。実施例1で用いたポリビニルブチラール粉体に替えて、上記作製したポリビニルブチラール粉体を用いた他は、実施例1と同様にして粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。PVB−3の水分率は0.9%であり、ブチルアルデヒド含有量は100ppmであった。
【0069】
実施例4
実施例1において、PVA−1に替えてPVA−4(ポリビニルアルコール)(重合度200、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にしてMFR150g/10分、ブチラール化度78モル%、酢酸ビニル単位の含有量2モル%、ビニルアルコール単位の含有量20モル%のポリビニルブチラール(PVB−4)を調製し、得られたPVB−4を用いて、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール粉体を調製した。実施例1で用いたポリビニルブチラール粉体に替えて、上記作製したポリビニルブチラール粉体を用いた他は、実施例1と同様にして粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。PVB−4の水分率は0.7%であり、ブチルアルデヒド含有量は90ppmであった。
【0070】
実施例5
実施例1において、顔料5gに替えて顔料20gを用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0071】
実施例6
実施例1において、顔料「Iriodin(登録商標) 100 Silver Pearl」に替えて、顔料{東海カーボン(株)製の「トーカブラック#7100F」(カーボンブラック)、平均粒子径42μm、粒子径250μm超過の粒子無し}を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0072】
実施例7
実施例1において、顔料「Iriodin(登録商標) 100 Silver Pearl」に替えて、顔料{森下弁柄工業(株)製の「弁柄MR270E」(酸化第二鉄)、平均粒子径20μm、粒子径250μm超過の粒子無し}を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0073】
実施例8(無機物粉体使用)
実施例1において、粉体塗料に、ポリビニルブチラール粉体100重量部に対し0.1重量部のシリカ(日本アエロジル社製の「アエロジルR972」;平均粒子径16nm)を配合した他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0074】
比較例1(PVBのMFR範囲より大)
実施例1において、PVA−1に替えてPVA−5(ポリビニルアルコール)(重合度150、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にしてMFR300g/10分、ブチラール化度68モル%、酢酸ビニル単位の含有量2モル%、ビニルアルコール単位の含有量20モル%のポリビニルブチラール(PVB−5)を得た。実施例1で用いたPVB−1に替えて、上記PVB−5を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0075】
比較例2(PVBのMFR範囲より小)
実施例1において、PVA−1に替えてPVA−6(ポリビニルアルコール)(重合度1700、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にしてMFR0.5g/10分、ブチラール化度68モル%、酢酸ビニル単位の含有量2モル%、ビニルアルコール単位の含有量20モル%のポリビニルブチラール(PVB−6)を得た。実施例1で用いたPVB−1に替えて、上記PVB−6を用いた他は実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0076】
比較例3(顔料の量範囲より大)
実施例1において、「ポリビニルブチラール粉体100gに対して顔料5g」に替えて、「表1に記載のポリビニルブチラール粉体100gに対して顔料55g」を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0077】
比較例4(顔料の量範囲より小)
実施例1において、「ポリビニルブチラール粉体100gに対して顔料5g」に替えて、「表1に記載のポリビニルブチラール粉体100gに対して顔料0.2g」を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0078】
比較例5(溶融混練)
実施例1で使用したPVB−1粉体100gと実施例1で使用したパール顔料5gを単軸押出成形機(L/D=32、25φ)により、吐出部の温度200℃で溶融混練し、さらにこれを粉砕して粉体塗料を調整し、実施例1と同様にして粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。このような小粒子径の粉体塗料を製造するのは容易ではなかったし、また球形に近い粒子は得られなかった。
【0079】
比較例6(顔料粉体の平均粒子径小)
実施例1において、顔料「Iriodin(登録商標) 100 Silver Pearl」に替えて、顔料(カーボンブラック、平均粒子径1μm)を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0080】
比較例7(顔料粉体の平均粒子径大、|AD−BD|100以上)
実施例1において、顔料「Iriodin(登録商標) 100 Silver Pearl」に替えて、顔料(カーボンブラック、平均粒子径200μm)を用いた他は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール系粉体塗料を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表1に示す。
【0081】
実施例9〜16(ナイロン併用)
実施例1〜8において、ポリビニルブチラール粉体100gに替えて「ポリビニルブチラール粉体100gに対してナイロン系粉体塗料(アルケマ社製の「T Gris7452」;ナイロン−11)(平均粒子径120μm、粒子径250μm超過の粒子無し)30g(実施例13と16は50g)を配合した粉体130g(実施例13と16は150g)」を使用した他は、実施例1〜8と同様にしてポリビニルブチラール系粉体を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表2に示す。
【0082】
比較例8〜10
比較例1〜3において、ポリビニルブチラール粉体100gに替えて「ポリビニルブチラール粉体100gに対してナイロン系粉体塗料(アルケマ社製の「T Gris7452」;ナイロン−11)(平均粒子径120μm、粒子径250μm超過の粒子無し)30g(比較例10は3g)を配合した粉体130g(比較例10は103g)」を使用した他は、比較例1〜3と同様にしてポリビニルブチラール系粉体を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表2に示す。
【0083】
比較例11
比較例4において、ポリビニルブチラール粉体100gに替えてナイロン系粉体塗料(アルケマ社製の「T Gris7452」;ナイロン−11)(平均粒子径120μm、粒子径250μm超過の粒子無し)100gを使用した他は、比較例4と同様にしてポリビニルブチラール系粉体を調製し、粉体塗装を行った。得られた塗膜の評価結果を表2に示す。
【0084】
【表1−1】

【0085】
【表1−2】

【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のポリビニルアセタール系粉体塗料は、低コストで製造可能であり、また、着色性に優れた塗膜を形成することができ、かつ流動性に優れているので、広範な用途に用いることができる。粉体塗料としては、ショッピングカート、かご置き台、台車、空港用カート等のカート類をはじめ、水道配管、金属カゴ、薬品用タンク、家電製品のオーバーコート、自動車部品などに好適に用いることができる。また、回転成形や圧縮成形などの樹脂粉体を使用する成形方法にも好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール粉体(A)と顔料粉体(B)とをドライブレンドしてなる粉体塗料であって、下記条件を満足する粉体塗料。
(1)前記粉体(A)のJIS K7210:1999の規定に基づいて測定したメルトフローレートが、1〜200g/10分
(2)前記粉体(A)の平均粒子径(AD)が10〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(3)前記粉体(B)の平均粒子径(BD)が2〜150μm、最大粒子径が250μm以下
(4)|AD−BD|<100
(5)前記粉体(B)と前記粉体(A)の重量比(B)/(A)が、1/100〜50/100
【請求項2】
前記粉体(A)を構成するポリビニルアセタールが、ビニルアルコール系重合体を、炭素数2〜6のアルデヒドによりアセタール化して得たポリビニルアセタールである請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項3】
前記粉体(A)が、ポリビニルブチラール粉体である請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項4】
前記粉体(A)を構成するポリビニルアセタールの、アセタール化度が40〜85モル%であり、ビニルエステル単位の含有量が0.1〜30モル%であり、ビニルアルコール単位の含有量が10〜50モル%である請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項5】
前記粉体(B)が、酸化チタン、酸化鉄、べんがら、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、ジアゾ系イエロー、キナクリドン、アルミニウム金属、パール顔料および雲母から選ばれる少なくとも1種の粉体である請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項6】
ポリアミド系樹脂粉体(C)を、重量比(A)/(C)が20/100〜100/5となる範囲でさらに含有する請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項7】
さらに無機物微粒子(D)を、前記粉体(A)100重量部に対し、0.0001〜2重量部含有する請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項8】
さらに無機物微粒子(D)を、前記粉体(A)と前記粉体(C)の合計100重量部に対し、0.0001〜2重量部含有する請求項6に記載の粉体塗料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉体塗料の塗膜が形成された鋼管。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉体塗料の塗膜が形成されたカート。

【公開番号】特開2007−302847(P2007−302847A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135363(P2006−135363)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(501278836)株式会社横浜樹脂コート (6)
【Fターム(参考)】