説明

ポリビニルアルコール水溶液の製造方法及びインクジェット記録媒体

【課題】 低けん化度で高重合度であるポリビニルアルコールの水溶液を製造する場合においても、泡の発生が少なく、製造上のトラブルが少ない、PVA水溶液の製造方法、及び、このPVA水溶液を含有する塗工液を塗布して得られるインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】 少なくとも、けん化度が80〜95%、重合度が2,000以上4,000以下であるポリビニルアルコールと水と疎水性シリカを含む消泡剤とを混合した溶液を加温する。前記疎水性シリカを含む消泡剤は、ポリビニルアルコールに対して0.001質量%から0.05質量%の割合で含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアルコール(以下、PVAとも記す)水溶液の製造方法及びこれによって得られたポリビニルアルコール水溶液を含有する塗工液を支持体上に塗布して得られ、インクジェット記録方式にて印字を行うインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、PVAは、繊維原料、糊剤、塗料、接着剤、乳化剤として、流動性のある水溶液の状態で使用されることが多い。近年では、塗料、接着剤などの特性向上のため、高重合度部分けん化PVAが使用されるケースも多くなっているが、高重合度部分けん化PVA水溶液を製造するには種々の問題が生じる。
通常、PVA水溶液の調整は以下のように行う。まず、溶解槽に所定量の常温水を仕込み、その後、攪拌機を使用して攪拌しながらPVAの粉体を徐々に投入して充分分散させた後、蒸気と直接混合もしくは熱交換器を使用して加温し攪拌して溶解し、溶解後に所定の濃度になるように水を加えて調節する。しかし、このような調整方法においては泡が発生しやすいという欠点がある。発生した泡はPVA水溶液が高粘度ゆえに除去することが困難であり、泡の除去のために泡に向けて風を送ったり、加圧・減圧をしたりする特殊な設備が必要になる場合がある。
【0003】
特に、けん化度の低いポリビニルアルコールを溶解する場合、加温時に泡が発生するため、溶解の際にタンクから溢れるといったトラブルや、流量の測定が難しく、製造に時間を要するといった問題がある。また高重合度のポリビニルアルコールでは高粘度となり、攪拌などで発生した泡の除去が難しく、脱泡などで製造時間の増大や製造ロスを発生しやすかった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1〜3のように溶解設備や条件を変更することで対応する例が報告されている。また特許文献4のように、インクジェット塗料に脂肪酸エステル系化合物、エーテル系化合物、金属石鹸系化合物又はシリコン系化合物の消泡剤を添加することで対応する例が報告されている。
【0005】
一方、一般にインクジェット記録方式は、種々の機構によりインクの小滴を吐出し、記録用紙上に付着させてドットを形成し記録するものである。インクジェット記録方式は、ドットインパクトタイプの記録方式に比べ、騒音が少なく、フルカラー化が容易である上、高速印字が可能であるなどの利点がある。
インクジェット記録方式に用いる記録媒体は、いわゆる上質紙・PPC用紙に似た風合いの普通紙タイプのものと、インク受理層を有することが明らかにわかる塗工紙タイプのものに大別されるが、前記インク受理層にPVAを含有することが多い。例えば特許文献5にはインク受理層中に高重合度、低けん化度のPVAを含有するインクジェット用記録フィルムが報告されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−239221号公報
【特許文献2】特開平9−302023号公報
【特許文献3】特開2003−113596号公報
【特許文献4】特開平11−277877号公報
【特許文献5】特開平11−254813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2、4で報告された技術では、高重合度のPVAを発泡することなく安定に溶解することはできない。また、特許文献3に記載されている製造方法においては、特別な設備や複雑な工程を必要とし、容易に実施することができない。
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、低けん化度で高重合度であるポリビニルアルコールの水溶液を製造する場合においても、泡の発生が少なく、製造上のトラブルが少ない、PVA水溶液の製造方法、及び、このPVA水溶液を含有する塗工液を塗布して得られるインクジェット記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は、検討の結果、高重合度で低けん化度のポリビニルアルコール粉末と疎水性シリカを含有する消泡剤を水に混合した後、加温処理し溶解することで、泡の少ないポリビニルアルコール水溶液を得ることができることを見いだし、本発明の上記目的は以下の構成によって達成された。
【0010】
すなわち本発明は、ポリビニルアルコール水溶液の製造方法において、少なくとも、けん化度が80〜95%、重合度が2,000以上4,000以下であるポリビニルアルコールと水と疎水性シリカを含む消泡剤とを混合した溶液を加温する工程を有するポリビニルアルコール水溶液の製造方法である。
【0011】
前記疎水性シリカを含む消泡剤は、ポリビニルアルコールに対して0.001質量%から0.05質量%の割合で含有することが好ましい。
また、本発明は支持体上に上述した製造方法で得られたポリビニルアルコール水溶液を含有する塗工液を塗布して得られるインクジェット記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、特別な装置を工夫することなく、疎水性シリカを含む消泡剤を少量添加することで大幅な消泡効果を得ることができる。疎水性シリカを含む消泡剤を加熱前の水・PVAの混合溶液に添加してポリビニルアルコールを溶解することで、低けん化度、高重合度のポリビニルアルコール加温時の泡の発生を抑制し、製造上のトラブルを回避することができる。
また、本発明の製造方法で得られるポリビニルアルコール水溶液はインクジェット記録媒体のインク受理層用塗工液に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施形態について説明する。
本発明では、けん化度が80〜95%ので重合度は2000〜4000であるポリビニルアルコールの水溶液の製造方法を規定する。
上記ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールと同様に溶解が可能であれば、その誘導体を使用してもよい。例えば、シリル変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコールなどを用いることができる。
けん化度が低いPVAは、けん化度が100%に近い完全けん化PVAと比較して発泡しやい。これはPVA分子の中の疎水性官能基が存在し、水に溶解する際に泡を形成しやすくなるためと考えられる。またPVAの重合度が高いと、水溶液の粘度が上昇して流動性が悪くなり、PVA中の泡が抜けにくくなる。本発明はこのような問題が発生しやすいケン化度が低く、重合度が高いPVAの水溶液を製造するのに好適である。
ポリビニルアルコールの溶解方法の1例を以下に示す。まず、タンクに水とポリビニルアルコール粉体を投入し、その溶液を攪拌する。その後、蒸気と直接混合もしくは熱交換器を使用して加熱(加温)する。タンク内の溶液の温度が80〜97℃となってから、30分〜240分かけて攪拌し溶解させる。
本発明においては、加熱前の、ポリビニルアルコールと水の混合溶液中にあらかじめ疎水性シリカを含む消泡剤を添加することを特徴とする。ここでいう疎水性とは水との接触角が90℃以上であることを意味する。シリカの疎水化は親水性シリカの表面をエステル化、エーテル化など、従来公知の方法によって疎水化することができる。本発明においては、この疎水性シリカを、ポリエーテル類、金属石鹸、鉱物油、植物油のうちいずれか一つ、あるいは複数の分散溶媒に分散して、前述した加熱前のPVAと水の混合溶液中に混合することが好ましい。前記分散溶媒に特に制限はないが、ポリビニルアルコールを80℃〜97℃の範囲で溶解するため、曇点がこの温度範囲にあるものがより好ましい。なお、疎水性シリカは消泡剤中に0.1質量%〜10質量%の含有されることが好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0014】
このような疎水性シリカを含有する消泡剤を(以下、疎水性シリカ系消泡剤とも記す)としては、例えば、SNデフォーマー480、SNデフォーマー777、ノプコDEF122−NS、SN−1X4033、SN−1X4034:サンノプコ株式会社製、オルフィンAF104:日信化学株式会社製などが存在する。また、特開2005−270890号公報や特開2005−279565号公報に記載された消泡剤を用いることもできる。
なお、疎水性シリカ系消泡剤は、加熱後の泡立っているPVA水溶液に添加しても良いが、加熱前(泡立つ前)のPVAと水との混合溶液に添加すると効果が大きく好ましい。
上記の疎水性シリカの平均粒子径が小さい程、消泡効果が増大し、好ましい。疎水性シリカの平均粒子径は0.1μm〜5μmが好ましく、0.1μm〜1μmのものがさらに好ましい。これは微粒子であるほど高粘度のポリビニルアルコール水溶液中においても、比較的自由に運動できるためと思われる。なお疎水性シリカの平均粒子径は、以下の操作によって測定することができる。
【0015】
疎水性シリカを含む消泡剤にアセトンを加え、10,000rpmの回転で遠心分離を行い、上澄みを取り除く。この作業を3回繰り返し、沈殿物をイソプロピルアルコールに溶かし、この溶液をレーザー回折法によって測定する。
疎水性シリカを含む消泡剤はポリビニルアルコールに対し0.001質量%から0.05質量%が好ましく、0.002質量%から0.01質量%であることがさらに好ましい。
疎水性シリカを含む消泡剤の含有量が少ない場合は、消泡効果が小さくなり、添加量が多い場合は、ポリビニルアルコール水溶液が白濁して透明性が低下し、インクジェット記録媒体用に使用した場合、インクジェットインクをはじく欠陥となることや、インクジェット画像の印字濃度が低下することがある。
【0016】
本発明に使用されるポリビニルアルコール水溶液はインクジェット記録媒体の使用に適している。以下、本発明のPVA水溶液を用いたインクジェット記録媒体について記す。
(支持体)
本発明に使用される支持体は、シート状のものであればいずれのものを用いることが可能であるが、後述するカレンダー処理やキャストコート処理に好適である透気性を有するものが好ましい。例えば塗工紙、未塗工紙等の紙を、支持体に好適に用いることができる。紙の主成分はパルプと内添填料である。パルプとしては通常公知のパルプであればいずれのものを使用することができる。例えば、化学パルプとして広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、針葉樹未晒亜硫酸パルプ等、木材、綿、麻、じん皮等の繊維原料を化学的に処理して作製されたパルプなどを使用できる。また、木材やチップを機械的にパルプ化したグランドウッドパルプ、木材やチップに薬液を染み込ませた後に機械的にパルプ化したケミメカニカルパルプ、及び、チップをやや軟らかくなるまで蒸解した後にリファイナーでパルプ化したサーモメカニカルパルプ等も使用できる。また、古紙を原料とするパルプ、すなわち、製本、印刷工場、断裁所等において発生する裁落、損紙、幅落しした上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙;印刷やコピーが施された上質紙、上質コート紙等の上質印刷古紙;水性インク、油性インク、鉛筆などで筆記された古紙;印刷された上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙等のチラシを含む新聞古紙;中質紙、中質コート紙、更紙等の古紙等を離解して得られるパルプを使用することもできる。インクジェット用紙には高白色度で地合に優れるLBKPを使用することが好ましい。
【0017】
またパルプは漂白することにより高白色とすることができる。パルプの漂白方法としては、元素状塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、過酸化水素、苛性ソーダ等の薬品の組合せにより漂白する塩素漂白法、二酸化塩素を使用する漂白方法(ECF)、塩素化合物を一切使用せずに、オゾン/過酸化水素等を主に使用して漂白する方法(TCF)といった方法がある。このうち塩素漂白法からなる有機塩素化合物負荷が環境に悪影響を与える恐れがあることから、ECFやTCFといった方法で漂白することが好ましい。またECFでは、二酸化塩素はリグニンと選択的に反応するため、セルロースに損傷を与えずにパルプの白色度を高めることができるので、さらに好ましい。
【0018】
また、内添填料は、紙の不透明度、白色度向上を目的として添加(内添)し、例えばクレー、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の白色顔料を使用できるが、高白色度を得やすいことから炭酸カルシウム、特に軽質炭酸カルシウムの添加が好ましい。
【0019】
上記したパルプは抄紙適性、ならびに、強度、平滑性、地合の均一性等といった紙の諸特性等を向上させるため、ダブルディスクリファイナー等の叩解機により叩解される。叩解の程度は、カナディアン スタンダード フリーネスで250ml〜550ml程度の通常の範囲で目的に応じて選択することが出来る。前記パルプのpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
【0020】
叩解されたパルプスラリーは、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、または、丸網抄紙機等の抄紙機により抄紙され支持体を得ることができるが、この際、通常抄紙に際して用いられるパルプスラリーに、分散助剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤、インク定着剤、耐水化剤、pH調節剤、染料、有色顔料、及び蛍光増白剤等を添加することが可能である。
【0021】
また、上記支持体には、水溶性高分子添加剤、帯電防止剤、吸湿性物質、顔料、pH調整剤、染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤をはじめとする各種の添加剤を含有する液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーターあるいはフィルムトランスファーコーター等でオンマシンもしくはオフマシンで塗工することが可能である。
【0022】
上記の方法で作成された支持体は、その後の工程にある塗工性の点から、ステキヒトサイズ度は5秒以上であることが好ましいが、50秒以上である場合は後述する塗工層の浸透を最小限に抑えることができ、さらに好ましい。
本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上に顔料と上述したPVA水溶液を含有する塗工液を塗布して得られる塗工層を有し、この塗工層が主にインクジェット画像を形成するインク受理層となる。
【0023】
(インク受理層/塗工顔料)
インク受理層の顔料としては、インクの吸収性付与、光沢性付与、紙支持体の被覆のため、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、炭酸カルシウム、カオリン、チタンといった塗工顔料を使用することができる。この中でもシリカ、アルミナといった多孔質の顔料はインク吸収性に優れ好ましい。またインク受理層に光沢を付与する場合、光沢発現のため、コロイダルシリカのような平均一次粒子径が100nm以下の微粒顔料を含むことが好ましい。本発明では上記顔料を単独もしくは混合して使用することができる。
【0024】
(インク受理層/ポリビニルアルコール)
本発明においてはインク受理層の強度確保、インクジェット記録の際のインク溶媒の吸収及びインク受理層の透明性の確保のため、最表層のインク受理層のバインダーとして上述したポリビニルアルコールを使用する。ポリビニルアルコールは、けん化度が低いほど、塗工紙の面感が向上するため、けん化度が80〜95%の部分けん化ポリビニルアルコールを使用する。
またポリビニルアルコールの重合度が高いと、塗膜(インク受理層)の強度が向上し、インク受理層表面にクラック(ひび)が発生しにくくなるため、本発明ではポリビニルアルコールの重合度を2000〜4000のものを使用する。
また、インク受理層中にポリビニルアルコールが多い場合はインク吸収性に劣り、ポリビニルアルコールが少ない場合は塗工層の強度が劣る。ポリビニルアルコールの配合割合は5〜50%であるのが好ましい。
【0025】
(インク受理層/その他助剤)
また、インク受理層には、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、インク定着剤、耐水化剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。
【0026】
上述したインク定着剤としては以下に述べるカチオン性高分子を使用することが好ましい。カチオン性高分子としては一級アミン、二級アミン、三級アミン、四級アンモニウム塩、環状アミンおよびこれらの高分子を単量体としたものが挙げられる。具体的にはビニルイミン、アルキルアミン、アルキレンアミン、ビニルアミン、アリルアミン、脂環式アミン、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、字アリルジアルキルアンモニウム塩、アクリルアミド、アミドアミン、アミジンなどのカチオン性高分子を単量体として使用する高分子化合物である。
【0027】
支持体上に上述したPVA水溶液を含有する塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター、サイズプレス等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択することができる。また、塗工層の乾燥方法は特に指定しないが、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤーなどを使用することができる。インク受容層の塗工量は、片面当たり、固形分換算で3〜50g/mであることが好ましいが、紙粉削減のため塗工量が少ないことが好ましく5〜30g/mであることがさらに好ましい。
【0028】
また、前述した塗工層に光沢を付与することもできる。光沢を付与する方法としては、塗工層を設けた後に、マシンカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置でカレンダー処理処理する方法と、塗工層を設ける際、鏡面ドラムに圧着して光沢仕上げとするキャスト法があるが、キャスト法で塗工層を付与することで銀塩写真に似た風合いを出すことができるため、好ましい。
【0029】
(キャストコート層)
本発明では支持体上に上述したインク受容層として、高い光沢を有するキャストコート層を塗工して設けることができる。
キャストコート層を付与する方法としては、顔料とバインダーとを主成分とする塗工液を基紙上に塗工して塗工層を設け、塗工層を鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が主にインクジェット画像を形成するいわゆるインク受理層であり、上記キャストコート層となる。
【0030】
キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥するリウェット法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固液で凝固処理し、ゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)、の3種類がある。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。加熱ドラムに圧着する際の塗工層は、湿潤状態であっても乾燥状態であってもよいが、特に湿潤状態とした場合には鏡面仕上げ面を写し取りやすく、塗工層表面の微小な凹凸を少なくすることができるので、得られたインク受理層に銀塩写真並の光沢感を付与させ易くなる。
またどのキャスト塗工においても、塗工層が加熱ドラムに直接圧着し乾燥することから、乾燥時に発生する蒸気が鏡面と反対の支持対面から抜けるため、支持体は透気性を有するものであることが好ましい。
本発明においては、キャストコート液に添加できる物質に制限があるため、必要な添加剤を処理液にて付与が可能であるリウェット法もしくは凝固法を用いる。
【0031】
支持体上にキャストコート層用塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択することができる。また処理液を塗布する方法としてはロール、スプレー、カーテン方式等があげられるが、特に限定されない。
【0032】
(凝固法)
次に、凝固法を用いる場合について説明する。この方法は、上記キャストコート法において、上記塗工層を塗布後、未乾燥の塗工層を凝固液によってゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥するものである。凝固液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。凝固液としては、湿潤状態の塗工層中の水系結着剤を凝固する作用を持つもの、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム等の各種の塩の溶液が用いられる。本願では、水系バインダーとしてポリビニルアルコールを用いるので、凝固液としてホウ酸とホウ酸塩とを含有する液を用いることが好ましい。ホウ酸とホウ酸塩とを混合して用いることにより、凝固時の塗工層固さを適度なものとすることが容易となり、キャストコート層に良好な光沢感を付与できる。
【0033】
又、上記塗工液および/または凝固液には、必要に応じて離型剤を添加することができる。離型剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、離型剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、離型剤としての能力が最大限に発揮される。離型剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸若しくはその塩類、又はポリエチレンワックス、レシチンなどが好ましく、ポリエチレンワックスを用いることがさらに好ましい。
【0034】
また凝固液には上記した離型剤や、カチオン物質の他に顔料、増粘剤、顔料分散剤、消泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、インク定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加することができる。凝固液のイオン性は特に限定されるものではない。
【0035】
(リウェット法)
リウェット法では、上記キャストコート層塗工をアンダーコート層形成の際に使用した乾燥機にて乾燥を行い、その後リウェット液(再湿潤液)にて再湿潤した塗工層を加熱した鏡面仕上げ面に圧着し乾燥することにより、キャストコート層を形成し、その表面に光沢を付与する。リウェット液は、上記離型剤を主成分とする水性液から成る。リウェット液の主な作用は、この液の大部分を占める水により乾燥塗被層の上層部分を湿潤可塑化にある。リウェット液には上記離型剤やカチオン物質の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、蛍光染料、染料、コロイド状顔料、界面活性剤などを添加してもよい。又、必要に応じて顔料分散剤、保水剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、着色剤、耐水化剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、等を適宜添加することができる。なお、再湿潤液のイオン性は特に限定されるものではない。
【0036】
本発明において、インク受容層の必要な塗工量が多い場合には、塗工層を多層にすることも可能である。インク受容層のインク吸収性の向上のため、支持体とインク受理層の間にアンダーコート層を設けてもよい。アンダーコート層は本願の塗工層と同一の構成でもよく、異なる構成でもよい。また、インク受理層を設けた面と反対の支持体面に、インク吸収性、筆記性、プリンター印字適性、その他各種機能を有するバックコート層をさらに設けてもよい。
【0037】
インク受容層以外の塗工層に使用するバインダーはポリビニルアルコールに限るものではなく、以下のバインダーを適宜使用することができる。例えば、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂及びこれらの誘導体;等を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0039】
<実施例1>
以下の方法によってポリビニルアルコール水溶液を作製し、評価を行った。

ポリビニルアルコール水溶液:疎水性シリカ系消泡剤(SN−1X 4033、サンノプコ株式会社製、疎水性シリカ平均粒子径:0.8μm、疎水性シリカ含有量:1%)をポリビニルアルコール添加量の0.001%となるように添加し、けん化度88%、重合度3500の部分ケン化ポリビニルアルコール粉体(PVA−235:株式会社クラレ製)を添加した。常温にて10分間攪拌した後、水蒸気と混合によりポリビニルアルコール水溶液を95℃まで加熱、その後120分攪拌し、10%となるようにポリビニルアルコール水溶液を調整した。
【0040】
また、以下に上述したポリビニルアルコールを使用したインクジェット記録用紙を作製し、評価を行った。
叩解度350mlの広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)100部からなるパルプスラリ−に対し、炭酸カルシウム10部、硫酸アルミニウム1.0部、合成サイズ剤0.15部、及び歩留向上剤0.02部を添加し、抄紙機で抄紙した。抄紙の際、5%のデンプンと0.2%の表面サイズ剤(AKD)溶液を紙の両面に片面当り固形分で2.5g/mとなるように塗布し、坪量170g/m2の支持体を得た。支持体のステキヒトサイズ度は200secであった。
【0041】
支持体の片面に、バーコーターを用いて以下に記す塗工液を20g/m塗工し、塗工層が湿潤状態にある間に、以下に記す凝固液を塗工層に塗布して塗工層を凝固させた。次いで、プレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に塗工層を圧着して鏡面を写し取り、インクジェット記録媒体を得た。
【0042】
塗工液:コロイダルシリカ(クォートロンPL−2:扶桑化学工業株式会社製)50部と、沈降法シリカ(ファインシールX−37:株式会社トクヤマ製)50部を配合した顔料スラリーに、バインダーとしてポリビニルアルコール水溶液10部、さらに離型剤(メイカテックスHP50:明成化学工業社製)を2部配合して濃度26%の塗工液を調製した。
凝固液:(ホウ砂/ホウ酸)で表される配合比が2で、ホウ砂をNa24で換算し、ホウ酸をH3BOで換算した時の濃度を4%とし、離型剤(メイカテックスHP50:明成化学工業社製)0.25%、浸透剤(パイオニンD−3120−W:竹本油脂株式会社製の商品名)0.5%、及びpH調整剤としてクエン酸0.25%を配合して凝固液を調製した。
【0043】
<実施例2>
実施例1で使用した疎水性シリカ系消泡剤の添加量が0.005%となるように配合したポリビニルアルコール水溶液を使用する以外は実施例1と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0044】
<実施例3>
実施例1で使用した疎水性シリカ系消泡剤の添加量が0.05%となるように配合したポリビニルアルコール水溶液を使用する以外は実施例1と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0045】
<実施例4>
実施例1で使用した疎水性シリカ系消泡剤の添加量が0.1%となるように配合する以外は実施例1と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0046】
<実施例5>
実施例2で使用した疎水性シリカ系消泡剤のかわりに、平均粒子径が4.0μmの疎水性シリカを含有する疎水性シリカ系消泡剤(SNデフォーマー480、サンノプコ株式会社製、疎水性シリカ平均粒子径:4.0μm、疎水性シリカ含有量:3%)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0047】
<実施例6>
実施例2で使用したポリビニルアルコール水溶液に使用するポリビニルアルコールを、けん化度80%、重合度2000の部分ケン化ポリビニルアルコール粉体(PVA−420:株式会社クラレ製)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0048】
<実施例7>
実施例1で使用した支持体の片面に、バーコーターを用いて、下記に記す塗工液を20g/m塗工し、紙中水分率5%となるまで乾燥した後、JIS Z8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が50%となるよう、スーパーカレンダー処理してインクジェット記録媒体を得た。
塗工液:コロイダルシリカ(クォートロンPL−2:扶桑化学工業株式会社製)50部と、ゲル法シリカ(サイロジェット703C:グレース社製)50部を配合した顔料スラリーに、バインダーとして実施例2で使用したポリビニルアルコール水溶液10部、インク定着剤(サフトマーST3300、三菱化学株式会社製)8部さらに離型剤(メイカテックスHP50:明成化学工業社製)を2部配合して濃度20%の塗工液を調製した。
【0049】
<比較例1>
実施例1で使用した疎水性シリカ系消泡剤が無配合とする以外は実施例1と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
<比較例2>
実施例2で使用した疎水性シリカ系消泡剤を、アセチレングリコールを含有する消泡剤(サーフィノール104E:日信化学工業株式会社製)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0050】
<比較例3>
実施例2で使用した疎水性シリカ系消泡剤を、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテルを含有する消泡剤(エマルゲン707:花王株式会社製)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0051】
<比較例4>
実施例2で使用した疎水性シリカ系消泡剤を、オルガノポリシロキサンを含有する消泡剤(サーフィノールDF−58:日信化学工業株式会社製)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
<比較例5>
実施例2で使用し疎水性シリカ系消泡剤を、水素化石油精製溜分を含有する消泡剤(サーフィノールDF−210:日信化学工業株式会社製)に変更する以外は実施例2と同様に塗工を行い、インクジェット記録媒体を得た。
【0052】
<評価方法>
各実施例及び比較例のポリビニルアルコール水溶液、およびインクジェット記録媒体を試料に用い、以下の方法で評価した。なお疎水性シリカ溶液中のシリカの平均粒子径は、以下の方法にて測定した。
【0053】
・疎水性シリカ系消泡剤中の疎水性シリカの平均粒子径測定方法
疎水性シリカ溶液にアセトンを加え、10,000rpmの回転で遠心分離を行い、上澄みを取り除く。この作業を3回繰り返し、沈殿物をイソプロピルアルコールに溶かし、レーザー回折法(使用機器:マスターサイザーS(MALVERN社製))によって測定した。
【0054】
1)抑泡性−密度
溶解後のポリビニルアルコール水溶液の密度を測定した。△以上であれば実用上問題がない。
○:密度が0.80g/ml以上
△:密度が0.80g/ml以上0.70g/ml未満
×:密度が0.70g/ml未満
【0055】
2)操業性
ポリビニルアルコール溶解時、溶解に使用するタンク内のポリビニルアルコール液面の移動を観測した。△以上であれば実用上問題がない。
【0056】
○:液面の上昇がない。
△:若干の液面の上昇が見られた。
×:液面が上昇し、溶解タンクから溢れた。
【0057】
3)透明性
溶解後のポリビニルアルコール水溶液の透明性を判定した。△以上であれば実用上問題がない。
○:泡の混入が無く、透明で曇りがない。
△:若干の泡が混入しているが、透明で曇りがない。
×:泡が混入し、不透明で曇りがある。
【0058】
4)光沢感−はじき
塗工後にインクジェット記録媒体の光沢感を評価した。
○:はじきが無く、良好な面である
△:塗工面に微小のはじきがあるが、光沢感にバラツキが無い。
×:塗工面にはじきがあり、光沢感にバラツキがある。
【0059】
得られた結果を表1、2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1から明らかなように、各実施例の場合、低けん化度で重合度が大きなポリビニルアルコールを使用して水溶液を作製したにもかかわらず、できあがった水溶液の密度が低下せず、発泡を抑え操業性に優れていることがわかる。またポリビニルアルコール水溶液は透明性に優れ、これを含有する塗工液を基紙に塗工した場合、塗料のはじきが小さく、塗工紙面感に優れたインクジェット記録媒体を得ることができる。なお、実施例1〜4の結果から最適な(最も好ましい)疎水性シリカ溶液の添加量は0.001%〜0.1%であると考えられる。
一方、表2の比較例1では、消泡剤を添加しないため、発泡を抑えられず、操業性が劣ることがわかる。また比較例2、3、5のように疎水性シリカを含まない消泡剤を使用した場合、抑泡効果が小さいことがわかる。比較例4のオルガノシロキサンを使用した場合、抑泡効果は充分であるが、塗工層のハジキが大きく、塗工紙面感が劣ったインクジェット記録媒体しか得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール水溶液の製造方法であって、少なくとも、けん化度が80〜95%、重合度が2,000以上4,000以下であるポリビニルアルコールと水と疎水性シリカを含む消泡剤とを混合した溶液を加温する工程を有するポリビニルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記疎水性シリカを含む消泡剤は、ポリビニルアルコールに対して0.001質量%から0.05質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1に記載されたポリビニルアルコール水溶液の製造方法。
【請求項3】
支持体上に請求項1または請求項2に記載された製造方法で得られたポリビニルアルコール水溶液を含有する塗工液を塗布して得られるインクジェット記録媒体。

【公開番号】特開2009−84404(P2009−84404A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255308(P2007−255308)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】