説明

ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法

【課題】延伸時に高い延伸倍率で延伸することができて高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを容易に製造可能なPVA系重合体フィルムの製造方法を提供すること、および、当該PVA系重合体フィルムを用いる偏光性能に優れた偏光フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】水分率10〜40質量%のPVA系重合体フィルムに10〜40kGyの電子線を照射することを特徴とする電子線照射されたPVA系重合体フィルムの製造方法、および、当該製造方法によって製造された電子線照射されたPVA系重合体フィルムを染色および一軸延伸する、偏光フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光フィルムを製造する際の原料として好ましく用いることのできるポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法に関し、より詳細には、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造工程において電子線を照射する工程を有する電子線照射されたポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法に関する。また、本発明は上記電子線照射されたポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いる偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)は、開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器用途のみならず、ノートパソコン、モニター、カラープロジェクター、テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器など広範な用途に用いられており汎用化が進んでいる。そして、用途の拡大に伴ってコストダウンが重要な課題となっており、液晶表示装置を構成する偏光板に対しても上記課題を解決することが求められている。一方で、偏光板には高い偏光性能を有することも要求されている。
【0003】
偏光板は、多くの場合、ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)系重合体フィルムに一軸延伸、ヨウ素や二色性染料等による染色、ホウ素化合物による固定処理などを施すことによって作製された偏光フィルムの片面または両面に三酢酸セルロースフィルムや酢酸・酪酸セルロースフィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成を有している。高い偏光性能を有する偏光板を低コストで製造するためには、偏光板の材料となる偏光フィルムにおいて高い偏光性能を有するとともに低コスト化が達成されることが必要となる。
【0004】
高い偏光性能を有する偏光フィルムを得るためには、その原料となるPVA系重合体フィルムの延伸性(延伸倍率)を向上させることが考えられる。PVA系重合体フィルムの延伸性を向上させる手法としては、例えば、使用するPVA系重合体として高い重合度を有するものを用いる方法や、変性PVA系重合体を用いる方法が挙げられる。しかしながら、高重合度のPVA系重合体や変性PVA系重合体はその製造に特殊な装置や条件が必要となることが多く、結果として偏光フィルムのコスト高につながりやすいという問題を有している。
【0005】
ところでPVA系重合体フィルムの物性等を改善する方法として、PVA系重合体フィルムへ電子線を照射する手法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ヨウ素染色処理工程を施す前にPVAフィルムを水中に浸漬した状態で電子線等の高エネルギー線を照射して架橋させ、それによりヨウ素染色処理が効果的に行われて偏光性能の高い偏光子が製造されることが記載されている。特許文献1には、高エネルギー線の照射量は50〜500kGy程度であることが記載されている。しかしながら、このような大きな照射量で高エネルギー線を照射した場合には、照射状態に斑ができやすく、また工業的な実施が困難であったり、コスト高になったりするという問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、PVA系重合体を水と接触させて含水状態とした後、電子線等のエネルギー光線を照射するPVA系重合体の架橋方法が記載されている。特許文献2には上記含水状態における含水率として、含水前の重量に基づいて通常20〜400%とすることが記載され、またエネルギー光線の照射量について、電子線等の放射線を線源とする場合には5〜100メガラッド(50〜1000kGy)とすることが記載されている。しかしながら、特許文献2の方法も特許文献1の方法と同様、大きな照射量でエネルギー光線を照射するため、照射の斑、工業的な実施の困難性およびコスト高などの問題があり、しかもPVA系重合体のゲル化度合が大きくなりすぎるため、そのようなPVA系重合体からなるフィルムはその延伸時にゲルの部分に応力が集中して破断しやすく、フィルムの伸度が低下して高い偏光性能を有する偏光フィルムを得ることができないという問題があった。
【0008】
さらに、特許文献3には、基材上にPVA等の溶液を塗布し、塗膜が膨潤状態である間に電子線を照射して架橋させた後、該塗膜を基材から剥離する架橋PVA系フィルムの製造方法が記載されている。特許文献3には塗膜中の溶媒の含有率は通常10重量%程度以上必要であることが記載され、また電子線の照射量は50Mrad以下(500kGy以下)が好ましいことが記載され、具体的には10および40Mrad(100および400kGy)が例示されている。しかしながら、特許文献3の方法も上記した特許文献1および2の方法と同様、大きな照射量で電子線を照射するため、照射の斑、工業的な実施の困難性およびコスト高などの問題があり、また当該フィルムを偏光フィルムの製造用に用いた場合には、発生したゲルに由来してフィルムの伸度が低下し、高い偏光性能を有する偏光フィルムを得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−276661号公報
【特許文献2】特開昭56−49734号公報
【特許文献3】特開平6−328477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、延伸時に高い延伸倍率で延伸することができて高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを容易に製造可能なPVA系重合体フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該PVA系重合体フィルムを用いる偏光性能に優れた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の水分率を有するPVA系重合体フィルムに特定量の電子線を照射することにより、コスト高につながりやすい高重合度のPVA系重合体や変性PVA系重合体を使用しなくても、高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを低コストで容易に製造することができることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]水分率10〜40質量%のPVA系重合体フィルムに10〜40kGyの電子線を照射することを特徴とする電子線照射されたPVA系重合体フィルムの製造方法、
[2]電子線が照射される前の前記PVA系重合体フィルムが、PVA系重合体100質量部に対して可塑剤を3〜20質量部含有する、上記[1]の製造方法、
[3]電子線を照射する際の加速電圧が100〜500kVである、上記[1]または[2]の製造方法、
[4]偏光フィルム製造用PVA系重合体フィルムの製造方法である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの製造方法、
[5]上記[4]の製造方法によって製造された偏光フィルム製造用PVA系重合体フィルムを染色および一軸延伸する、偏光フィルムの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子線照射されたPVA系重合体フィルムの製造方法によれば、延伸時に高い延伸倍率で延伸することができて高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の電子線照射されたPVA系重合体フィルムの製造方法は水分率10〜40質量%のPVA系重合体フィルムに10〜40kGyの電子線を照射する工程を有する。以下、電子線が照射される前の前記「水分率が10〜40質量%のPVA系重合体フィルム」を「PVA系重合体フィルム(II)」と称する場合があり、当該PVA系重合体フィルム(II)を得るために使用することのできる、水分率が特定されていないPVA系重合体フィルムを「PVA系重合体フィルム(I)」と称する場合がある。PVA系重合体フィルム(I)の水分率がPVA系重合体フィルム(II)の水分率の規定を満たしている場合には、当該PVA系重合体フィルム(I)をPVA系重合体フィルム(II)としてそのまま本発明に使用することができ、PVA系重合体フィルム(I)の水分率がPVA系重合体フィルム(II)の水分率の規定を満たしていない場合には、当該規定を満たすように調湿してPVA系重合体フィルム(II)とした後、それを本発明に使用することができる。また、以下、電子線照射された後のPVA系重合体フィルムを「PVA系重合体フィルム(III)」と称する場合がある。
【0015】
上記PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)を構成するPVA系重合体としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステル系重合体をけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVA系重合体の製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
上記のポリビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0017】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2~30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;不飽和スルホン酸等を挙げることができる。上記のポリビニルエステル系重合体は、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0018】
上記のポリビニルエステル系重合体に占める上記他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に、上記他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるPVA系重合体の水溶解性を促進する単量体単位となり得る単量体である場合には、PVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造する際などにおいて水溶液中での処理時にフィルムが溶解したり溶断したりするのを防止するために、ポリビニルエステル系重合体におけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0019】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)を構成するPVA系重合体としては、グラフト共重合がされていないものを好ましく使用することができるが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、PVA系重合体は1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合は、ポリビニルエステル系重合体およびそれをけん化することにより得られるPVA系重合体のうちの少なくとも一方に対して行うことができる。上記グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体におけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステル系重合体またはPVA系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0020】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)を構成するPVA系重合体としては架橋されていないものを好ましく用いることができるが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、PVA系重合体はその水酸基の一部が架橋されていてもよい。
【0021】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)を構成するPVA系重合体の重合度は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から、1500以上であることが好ましい。PVA系重合体の重合度が1500以上であることにより、得られる偏光フィルムの偏光性能が良好になり、光漏れが大きくなるのを抑制することができるため、高い偏光性能が要求されるテレビ用途などの液晶ディスプレイ用途に好適なものとなる。PVA系重合体の重合度が高い方が、得られる偏光フィルムの偏光性能が良好になるため、重合度を高くすることは光漏れ低減にある程度の効果を有する。しかしながら、PVA系重合体の重合度があまりに高すぎると、PVA系重合体の製造コストの上昇や、製膜時における工程通過性の不良などにつながる傾向があるので、PVA系重合体の重合度は1700〜10000の範囲内であることがより好ましく、2000〜8000の範囲内であることがさらに好ましく、2300〜5000の範囲内であることが特に好ましい。なお、本明細書でいうPVA系重合体の重合度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0022】
また、PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)を構成するPVA系重合体のけん化度は99.0モル%以上であることが好ましく、99.7モル%以上であることがより好ましく、99.9モル%以上であることがさらに好ましい。PVA系重合体のけん化度が99.0モル%以上であることにより、耐久性能により一層優れる偏光フィルムを得ることができる。なお、本明細書におけるPVA系重合体のけん化度とは、PVA系重合体が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0023】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)は可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を含有することにより、電子線照射時のゲルの生成をより一層低減することができる。ゲルの生成を低減することは延伸性を向上させることにつながることから、偏光フィルムの製造を目的とするPVA系重合体フィルムにとっては重要である。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)は、これらの可塑剤の1種または2種以上を含有することができる。これらのうちでも、電子線を照射して得られるPVA系重合体フィルム(III)の延伸性がより良好になることからグリセリンが好ましい。
【0024】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)における可塑剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して3〜20質量部の範囲内であることが好ましく、5〜15質量部の範囲内であることがより好ましく、7〜12質量部の範囲内であることがさらに好ましい。可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して3質量部以上であることにより得られるPVA系重合体フィルム(III)の延伸性が向上し、それから得られる偏光フィルムの偏光性能を向上させることができる。一方、可塑剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して20質量部以下であることにより、得られるPVA系重合体フィルム(III)において、電子線照射による架橋効果が低下するのを抑制することができる。
【0025】
PVA系重合体フィルム(I)を後述するPVA系重合体フィルム(I)を製造するための原液を用いて製造する場合には、製膜性が向上してフィルムの厚み斑の発生が抑制されると共に、製膜に金属ロールやベルトを使用した際、これらの金属ロールやベルトからのPVA系重合体フィルム(I)の剥離が容易になることから、当該原液中に界面活性剤を配合することが好ましい。界面活性剤が配合された原液からPVA系重合体フィルム(I)を製造した場合には、当該PVA系重合体フィルム(I)中には界面活性剤が含有され得る。PVA系重合体フィルム(I)を製造するための原液に配合される界面活性剤、ひいてはPVA系重合体フィルム(I)中に含有される界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトなどからの剥離性の観点から、アニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、ノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
PVA系重合体フィルム(I)を製造するための原液中に界面活性剤を配合する場合、原液中における界面活性剤の含有量、ひいてはPVA系重合体フィルム(I)中における界面活性剤の含有量は、原液またはPVA系重合体フィルム(I)中に含まれるPVA系重合体100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.01質量部以上であることにより、製膜性および剥離性を向上させることができる。一方、界面活性剤の含有量がPVA系重合体100質量部に対して0.5質量部以下であることにより、PVA系重合体フィルム(I)の表面に界面活性剤がブリードアウトしてブロッキングが生じて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0029】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)は、それに含まれる水分以外の部分について、PVA系重合体のみからなっていても、あるいはPVA系重合体と上記した可塑剤および/または界面活性剤のみからなっていてもよいが、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤など、上記したPVA系重合体、可塑剤および界面活性剤以外の他の成分を含有していてもよい。
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)における水分以外の部分について、PVA系重合体、可塑剤および界面活性剤の合計の占める割合としては、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0030】
PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)の厚みは特に制限されないが、30〜100μmの範囲内であることが好ましく、40〜80μmの範囲内であることがより好ましい。PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)があまりに薄すぎると偏光フィルムを製造するために得られたPVA系重合体フィルム(III)を一軸延伸する際に、延伸切れが発生しやすくなり、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られにくくなる傾向がある。また、PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)があまりに厚すぎると、偏光フィルムを製造するために得られたPVA系重合体フィルム(III)を一軸延伸する際に、延伸斑が発生しやすくなる傾向がある。なお、PVA系重合体フィルム(I)またはPVA系重合体フィルム(II)の厚みは任意の5箇所の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0031】
PVA系重合体フィルム(I)の製造方法は特に限定されないが、例えば、PVA系重合体フィルム(I)を構成する上記したPVA系重合体、および、必要に応じてさらに可塑剤、界面活性剤等の成分が溶剤中に溶解した原液やPVA系重合体、溶剤および必要に応じて可塑剤、界面活性剤等の成分を含みPVA系重合体が溶融した原液を用いて製造することができる。
【0032】
原液の調製に使用される上記溶剤としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷や回収性の点から水が好ましい。
【0033】
製膜に用いられる原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される溶媒などの揮発性成分の、原液中における含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによって異なるが、50〜95質量%の範囲内であることが好ましく、55〜90質量%の範囲内であることがより好ましく、60〜85質量%の範囲内であることがさらに好ましい。原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなり過ぎず、原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVA系重合体フィルム(I)の製造が容易になる。一方、原液の揮発分率が95質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVA系重合体フィルム(I)の製造が容易になる。
【0034】
上記した原液を用いてPVA系重合体フィルム(I)を製膜する際の製膜方法としては、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、乾式による流延製膜法、押出製膜法などが挙げられる。これらの製膜方法は、1種のみを採用しても2種以上を組み合わせて採用してもよい。これらの製膜法の中でも湿式製膜法または押出製膜法が、膜の厚みおよび幅が均一で物性の良好なPVA系重合体フィルム(I)が得られることから好ましい。PVA系重合体フィルム(I)には、必要に応じて乾燥処理や熱処理を行うことができる。
【0035】
PVA系重合体フィルム(I)を製膜する具体的な方法としては、例えば、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイ等を用いたり、キャスト製膜法を採用したりするなどして、製膜用の原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、この第1ロール(あるいはベルト)の周面上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いて吐出または流延された膜の他方の面を回転する加熱した第2ロール(あるいは乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
PVA系重合体フィルム(I)を適切な状態に調整するためには、熱処理装置;調湿装置;各ロールを駆動するためのモータ;変速機等の速度調整機構などが付設されることが好ましい。
PVA系重合体フィルム(I)の製造工程での乾燥処理における乾燥温度は、偏光フィルムを製造する際の延伸性や染色性に優れ、しかも得られる偏光フィルムの偏光性能や耐久性が良好になるPVA系重合体フィルム(III)が得られることから、50〜150℃の範囲内であることが好ましく、60〜140℃の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
本発明においては、水分率が10〜40質量%の範囲内にあるPVA系重合体フィルム(II)に対して電子線を照射する。PVA系重合体フィルム(II)の水分率が10質量%未満であると電子線を照射しても架橋が起こりにくいため、得られるPVA系重合体フィルム(III)において延伸倍率の向上が見られない。一方、水分率が40質量%を超えるとゲル化が起こりやすくなり、得られるPVA系重合体フィルム(III)の延伸性が低下して高い偏光性能を有する偏光フィルムを得ることが困難になる。得られるPVA系重合体フィルム(III)の延伸性の観点から、PVA系重合体フィルム(II)の水分率は10〜30質量%の範囲内であることが好ましく、10〜20質量%の範囲内であることがより好ましい。
なお、本明細書においてPVA系重合体フィルム(I)およびPVA系重合体フィルム(II)の水分率はこれらのフィルムの乾燥前後の質量から算出することができ、具体的には実施例の項目において後述する方法によって求めることができる。
【0037】
PVA系重合体フィルム(II)は上記したPVA系重合体フィルム(I)の水分率を調整することにより得ることができる。上記したように、当該PVA系重合体フィルム(I)の水分率がPVA系重合体フィルム(II)の水分率の規定を満たしている場合には、当該PVA系重合体フィルム(I)をPVA系重合体フィルム(II)としてそのまま使用することもできる。PVA系重合体フィルム(I)の水分率を調整する方法に特に制限はなく、調湿装置を用いる方法、PVA系重合体フィルム(I)の水分率が目的の水分率よりも低い場合に水中に一定時間浸漬させたり水を噴霧または塗布する方法、PVA系重合体フィルム(I)の水分率が目的の水分率よりも高い場合に乾燥機で乾燥する方法などが挙げられる。
【0038】
電子線の照射は低酸素雰囲気下で行うことが好ましい。空気中など酸素濃度が高い状態で電子線照射を行うと架橋反応が起こりにくくなることがある。雰囲気を低酸素雰囲気にする方法としては、例えば、真空脱気や窒素ガスを流すなどの複数の方法が挙げられるが、ロール状のフィルムを用いてこれに電子線を照射する場合など、工業的に連続的に電子線照射を行うためには、窒素ガスを流す方法が好ましい。
【0039】
電子線を照射する際のPVA系重合体フィルム(II)の温度は、PVA系重合体のガラス転移温度以下であると架橋効率が低下する傾向があり、またあまりに高すぎるとPVA系重合体フィルム(II)が溶融するなどしてフィルムが変形する場合があることから、0〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましく、20〜100℃の範囲内であることがさらに好ましい。
【0040】
電子線の照射量は10〜40kGyの範囲内にあることが必要であり、10〜30kGyの範囲内にあることが好ましい。電子線の照射量が10kGy未満であると電子線照射の効果がほとんど認められない。一方、電子線の照射量が40kGyを超えるとゲル化が起こりやすくなり、延伸性が低下して偏光フィルム製造用のフィルムとして好ましくないものとなる。電子線の照射はそのトータルの照射量が上記範囲内になる限り連続的に行っても間欠的に行ってもよい。
【0041】
また、照射される電子線の加速電圧は100〜500kVの範囲内であることが好ましく、150〜400kVの範囲内であることがより好ましく、200〜300kVの範囲内であることがさらに好ましい。加速電圧が100kV以上であることにより、フィルム裏面(照射される側の面に対して反対側の面)においても電子線架橋の反応が進みやすい。一方、加速電圧が500kV以下であることにより、照射中にフィルムの温度が上昇してフィルムが融解するのを抑制することができる。
【0042】
PVA系重合体フィルム(II)に対する電子線の照射は、一旦製造されその後ロール状に巻かれるなどして保管された後のPVA系重合体フィルム(II)に対して行うことも、または一旦製造されその後ロール状に巻かれるなどして保管された後のPVA系重合体フィルム(I)を上記した方法などにより調湿してPVA系重合体フィルム(II)とし、そのPVA系重合体フィルム(II)に対して行うこともできる。あるいは、PVA系重合体フィルム(I)の製膜方法において上記した乾燥工程や熱処理工程の途中でフィルムの水分率が上記規定を満たしているときに電子線照射を行うこともできる。これらの中でも製膜効率の観点から、PVA系重合体フィルム(I)を製膜する際の乾燥工程または熱処理工程の途中で乾燥処理または熱処理を一旦中断して電子線照射を行い、その後、乾燥処理または熱処理を再開する方法が好ましい。この場合、電子線照射される直前のフィルムがPVA系重合体フィルム(II)に相当する。
【0043】
電子線照射後のPVA系重合体フィルム(III)は、必要に応じてさらに乾燥することにより、そこに含まれている水分を除去することができる。
【0044】
本発明の製造方法によって製造されるPVA系重合体フィルム(III)の用途に特に制限はないが、当該PVA系重合体フィルム(III)は高い延伸倍率で延伸することができるため、偏光フィルム製造用のPVA系重合体フィルムとして使用することが好ましい。
【0045】
PVA系重合体フィルム(III)から偏光フィルムを製造する際の偏光フィルムの製造方法は特に制限されず、PVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造する際に従来から採用されているいずれの方法を採用してもよい。
PVA系重合体フィルム(III)から偏光フィルムを製造するには、例えば、PVA系重合体フィルム(III)を染色および一軸延伸することにより製造することができ、より詳細にはPVA系重合体フィルム(III)の水分調整、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行うことにより製造することができ、染色、一軸延伸、固定処理等の操作の順序は特に制限されない。また一軸延伸を二段以上の多段で行ってもよいし、染色や固定処理などと同時に行ってもよい。
【0046】
染色はヨウ素を用いて行うのがよく、染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時および一軸延伸後のうちのいずれの段階であってもよい。ヨウ素を用いた染色は、PVA系重合体フィルム(III)をヨウ素−ヨウ化カリウムを含有する溶液(好ましくは水溶液)中に浸漬させることにより行うことができる。上記溶液中におけるヨウ素の濃度は0.01〜0.5質量%の範囲内であることが好ましく、上記溶液中におけるヨウ化カリウムの濃度は0.01〜10質量%の範囲内であることが好ましい。また、上記溶液の温度は20〜50℃の範囲内であることが好ましく、25〜40℃の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
一軸延伸は水等の溶媒中における湿式延伸法または空気中等における乾熱延伸法のいずれで行ってもよい。湿式延伸法による場合は、水中での一軸延伸、ホウ酸を含有しない染色溶液中での一軸延伸、ホウ酸を含有する染色溶液中での一軸延伸、ホウ酸水溶液中での一軸延伸、前記の工程に跨がった多段延伸などにより行うことができる。
延伸温度は特に限定されないが、PVA系重合体フィルム(III)を湿式延伸する場合には30〜90℃の範囲内であることが好ましく、乾熱延伸する場合には50〜180℃の範囲内であることが好ましい。
また、一軸延伸の延伸倍率(多段で一軸延伸する場合には合計の延伸倍率)は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から、PVA系重合体フィルム(III)の長さに対して4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、均一延伸の点から8倍以下であることが好ましい。
【0048】
偏光フィルムの製造にあたっては、PVA系重合体フィルム(III)へのヨウ素の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含有する水溶液を使用することができる。また必要に応じて、固定処理用の処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物等を添加してもよい。固定処理用の処理浴中におけるホウ素化合物の濃度は2〜15質量%の範囲内であることが好ましく、3〜10質量%の範囲内であることがより好ましい。固定処理を行う際の処理浴の温度は15〜60℃の範囲内であることが好ましく、25〜40℃の範囲内であることがより好ましい。
【0049】
上記した一軸延伸、染色、固定処理等を施し、その後、得られた偏光フィルムを乾燥することが好ましい。偏光フィルムの乾燥処理は30〜150℃の範囲内であることが好ましく、50〜150℃の範囲内であることがより好ましい。乾燥を行って偏光フィルムの水分率が10質量%以下程度になった時点で偏光フィルムに張力を掛けて80〜120℃程度で1〜5分間程度熱処理を行うと、寸法安定性、耐久性等に一層優れる偏光フィルムを得ることができる。
【0050】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、その両面または片面に、光学的に透明でかつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用することができる。保護膜としては、例えば、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルム等を使用することができる。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤等を挙げることができるが、中でもPVA系接着剤が好ましい。
【0051】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等を貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において、PVAフィルムの水分率の測定方法、PVAフィルム中のグリセリン含有量の測定方法、PVAフィルム中のゲルの有無の評価方法、PVAフィルムの引張破断伸度の測定方法、ならびに偏光フィルムの透過度、偏光度および二色性比の測定または算出方法は下記の方法にしたがった。
【0053】
(1)PVAフィルムの水分率の測定方法
まず、水分率を求めるPVAフィルムの質量を計量した(質量A)。次に、このPVAフィルムを50℃で4時間真空乾燥した後、再度計量した(質量B)。得られた質量AおよびBを用いて、以下の式により、PVAフィルムの水分率H(質量%)を求めた。

H = [(A−B)/A]×100
【0054】
(2)PVAフィルム中のグリセリン含有量の測定方法
上記(1)において得られた質量Bの乾燥後のPVAフィルムを、メタノールで8時間ソックスレー抽出してから105℃で16時間乾燥し、再度計量した(質量C)。上記の質量Bと得られた質量Cを用いて、以下の式により、PVAフィルム中のPVA100質量部に対するグリセリン含有量G(質量部)を求めた。

G = [(B−C)/C]×100
【0055】
(3)PVAフィルム中のゲルの有無の評価方法
PVAフィルムを95℃の熱水中で2時間撹拌した際にPVAフィルムが完全に溶解した場合には「なし」と評価し、PVAフィルムが完全に溶解せずに不溶物が認められた場合には「あり」と評価した。
【0056】
(4)PVAフィルムの引張破断伸度の測定方法
PVAフィルムを20℃、65%RHの条件下に24時間放置して調湿した後、幅25mm×長さ10cmの試験片を切り出し、株式会社島津製作所製試験装置「オートグラフAS−100」にチャック間隔20mmで取り付け、引張速度500mm/分で引張試験を行った。得られたフィルムの破断時の伸度を引張破断伸度とした。
【0057】
(5)偏光フィルムの透過度、偏光度および二色性比の測定または算出方法
(i)透過度(Ts)
偏光フィルムの透過度Ts(%)は日立製作所製の紫外可視分光光度計「U−4100」を用いて以下のようにして測定した。なお、測定にあたっては、日本電子機械工業規格に基づく波長依存の重率関数が乗された380〜780nmにおける積分値(Y値)を測定した。
作製した偏光フィルムの中心部をTD(幅方向)×MD(延伸方向)=4cm×8cmのサイズに切り取り、切り取ったフィルムをMDの中央部でさらに2つに切り、偏光フィルムサンプル2枚(4cm×4cm)を得た。このうちの1枚の偏光フィルムサンプルを用いて、そのMD(延伸方向)が分光器に対して任意の角度に設定したときの透過度と、これを入射光に垂直な平面上で90°回転させたときの透過度とを測定し、これらの平均値を偏光フィルムの透過度(Ts)(単位:%)とした。
【0058】
(ii)偏光度(P)
上記偏光フィルムの透過度(Ts)の測定において作製した2枚の偏光フィルムサンプルをMDが互いに平行になるように重ねたときの透過度(T)(単位:%)を、1枚の偏光フィルムサンプルを用いた上記偏光フィルムの透過度(Ts)の測定と同様にして、任意の角度に設定したときの透過度と90°回転させたときの透過度との平均値として求めた。また、上記2枚の偏光フィルムサンプルをMDが直交するように重ねたときの透過度(T)(単位:%)を、上記と同様にして、任意の角度に設定したときの透過度と90°回転させたときの透過度との平均値として求めた。得られたTとTを用いて、以下の式により偏光フィルムの透過度(P)(単位:%)を算出した。

P = [(T−T)/(T+T)]1/2×100
【0059】
(iii)二色性比
上記のようにして得られた透過度Ts(%)および偏光度P(%)から、以下の式により二色性比を求めた。

二色性比 = log(Ts/100−Ts/100×P/100)/log(Ts/100+Ts/100×P/100)
【0060】
[実施例1]
重合度2400、けん化度99.92モル%のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)100質量部と、可塑剤としてグリセリン約12質量部を含む、PVA濃度10質量%の水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥した後、得られたフィルムを枠に固定して、120℃で3分間熱処理してPVAフィルム(a)を得た。このときのPVAフィルム(a)の厚みは75μmであった。このPVAフィルム(a)を20℃、65%RHの環境下で24時間保存した。得られたPVAフィルム(b)の水分率を上記した方法により測定したところ11質量%であった。また得られたPVAフィルム(b)のグリセリン含有量を上記した方法により測定したところ、PVA100質量部に対して12.3質量部であった。
【0061】
電子線発生装置(NHVコーポレーション社製「キュアトロン300」)を使用し、窒素雰囲気下、加速電圧300kVで、上記のPVAフィルム(b)に電子線を照射してPVAフィルム(c)を得た。このときの電子線照射量は30kGyであった。
このPVAフィルム(c)中のゲルの有無を上記した方法により評価したところ熱水に完全に溶解し、ゲルは認められなかった。また、このPVAフィルム(c)の引張破断伸度を上記した方法により測定したところ560%であった。
【0062】
このPVAフィルム(c)を30℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素を0.03質量%およびヨウ化カリウムを3質量%含有する水溶液(染色浴、30℃)中でヨウ素を吸着させながら、使用したPVAフィルム(c)の長さに対して3倍の長さとなるように延伸を行った。次いで、ホウ酸を4質量%およびヨウ化カリウムを4質量%含有する水溶液(延伸浴、55℃)中で使用したPVAフィルム(c)の長さに対してトータル6.5倍の長さとなるように同じ方向に延伸した後、50℃で4分間乾燥して偏光フィルムを得た。
この偏光フィルムの透過度(Ts)は44.42%、偏光度(P)は99.71%、二色性比は55.6であり、偏光性能に優れていた。
【0063】
[実施例2〜8および比較例1〜5]
PVAフィルム(b)を構成するPVAの重合度およびけん化度;PVAフィルム(b)の厚み、水分率およびグリセリン含有量;PVAフィルム(b)に照射した電子線の照射量(但し、比較例1では電子線を照射しなかった)、加速電圧および電子線照射時の雰囲気を表1に示したようにしたこと以外は実施例1と同様にしてPVAフィルム(c)を得た。
これらのPVAフィルム(c)中のゲルの有無およびPVAフィルム(c)の引張破断伸度を上記した方法により測定または評価した。結果を表1に示した。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の電子線照射されたPVA系重合体フィルムの製造方法によれば、延伸時に高い延伸倍率で延伸することができて高い偏光性能を有する偏光フィルムを与えることのできるPVA系重合体フィルムを容易に製造することができる。そのため、当該PVA系重合体フィルムを用いて製造される偏光性能に優れた偏光フィルムは、電卓、腕時計、ノートパソコン、モニター、カラープロジェクター、テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などに使用される液晶表示装置の構成部品となる偏光板を製造するための材料として好適に使用することができ、中でも、高いレベルのコストダウンが求められるモニターやテレビ用の偏光板を製造するための材料として特に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分率10〜40質量%のポリビニルアルコール系重合体フィルムに10〜40kGyの電子線を照射することを特徴とする電子線照射されたポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法。
【請求項2】
電子線が照射される前の前記ポリビニルアルコール系重合体フィルムが、ポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して可塑剤を3〜20質量部含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
電子線を照射する際の加速電圧が100〜500kVである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
偏光フィルム製造用ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法によって製造された偏光フィルム製造用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを染色および一軸延伸する、偏光フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−174982(P2011−174982A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37175(P2010−37175)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】