説明

ポリフェノールおよびその製造方法

【課題】通常食用に供されてこなかった、所謂食品残渣部分のトチノキ種皮から、食品、健康食品等で利用できる有効成分を見出し、それを活用する。
【解決手段】廃棄処分の対象であったトチノキ種皮を熱水抽出、あるいはアルカリ溶液浸漬処理、あるいはアルカリ溶液で煮出す等して、抽出することでポリフェノールを得ることができる。かかるポリフェノールは、基本骨格としてflavan-3-olの構造を有している。かかる基本骨格が、interflavan結合に関与して、重合されていると推察される。かかる重合ポリフェノールは、抗酸化作用、酵素阻害作用等を有し、健康食品等の食品に添加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフェノールの技術に関し、特に食品、健康食品等で使用可能なトチノキ種皮由来の重合ポリフェノールに適用して有効な技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病の予防に関心が高まり、天然由来の機能性成分の検索が盛んに行われている。かかる中、例えば、生体内で発生するフリーラジカルや活性酸素が、老化、発癌、動脈硬化などの発症因子であると報告されている。それらの予防目的で、抗酸化物質の検索が盛んに行われている。例えば、ポリフェノールの一種であるプロシアニジンが、そうである。かかる物質は、ブドウ、赤ワイン、リンゴ、黒豆、クランベリーなど広く食品中に見出される。その抗酸化能や種々の機能について、多数の報告が見受けられる。
【0003】
また、生活習慣病のリスクファクターとして、肥満が、糖尿病や動脈硬化さらには高脂血症などの生活習慣病と密接に関係していると考えられている。それらを予防するために、糖質や脂肪の分解吸収を抑制する目的で、α−アミラーゼや、α−グルコシダーゼなどの糖質分解酵素が検索されている。膵リパーゼなどの脂肪分解酵素の阻害物質の検索も活発に行われている。例えば、糖質分解酵素阻害物質については、非特許文献1、2に、カテキン類の研究が報告されている。また、特許文献1には、グァバ葉抽出物に関しての開示が見られる。さらには、ブドウ種子、柿葉、プーアル茶などの抽出物に関して、特許文献2には記載がある。
【0004】
さらには、リパーゼ阻害物質として、豆科植物カワラケツメイに含まれているフラボノイド類およびその配糖体に関して、特許文献3に開示がある。タマリンドのプロシアニジンを有効成分とする抗肥満剤に関しても、特許文献4に記載がある。
【0005】
トチノキ(Aesculus turbinata Blume)の種子、すなわち栃の実は日本で縄文時代から食用にされている。現代でも、栃餅や栃の実団子などの製菓原料として利用されている。本発明者らは、栃の実の生物活性を明らかにする目的で、皮剥ぎした天然の栃の実、および食用にするため木灰であく抜き処理された栃の実について研究を行っていた。その結果、両栃の実からそれぞれサポニン類を単離した。かかるサポニン類については、非特許文献4、5に、それらが血糖値上昇抑制作用を示すことを報告した。さらに、それらのサポニン類が膵リパーゼに対し阻害活性を示すことも、非特許文献6、7で報告した。マウスに高脂肪食とともに摂食させたところ、体重の増加を抑制することを初めて見出したのである。非特許文献8には、リパーゼ阻害および糖質分解酵素阻害作用を有する物質が肥満や糖尿病への治療薬として利用し得ることが記載されている。
【特許文献1】特開平7−59539号公報
【特許文献2】特開平9−227398号公報
【特許文献3】特開平8−259557号公報
【特許文献4】特開平9−291039号公報
【非特許文献1】Hara, Y. and Honda, M., The inhibition of α-amylase by tea polyphenols. Agric.Biol.Chem., 54, 1939-1945 (1990)
【非特許文献2】Miwa, H.,and Yoshihiko, H., Inhibition of ratintestinal sucrase and α-glucosidase activities by tea polyphenpls., Biosci. Biotech. Biochem., 57, 123-124 (1993)
【非特許文献3】木村英人,渡邉あい,地阪光生,山本達之,木村靖夫,勝部拓矢,横田一成,「あく抜き処理トチノキ種子のサポニン成分の化学構造と血糖値上昇抑制抑制作用」、食科工, 51,672-679 (2004).
【非特許文献4】木村英人, 地阪光生, 木村靖夫, 勝部拓矢, 横田一成,「あく抜き処理したトチノキ種子から単離されたサポニン成分の血糖値上昇抑制作用と苦味の低減化」、食科工, 53, 31-38 (2006).
【非特許文献5】Kimura, H., Ogawa, S., Jisaka, M., Kimura, Y., Katsube, T.and Yokota, K. ,“Identification of novel saponins from edible seeds of Japanese horse chestnut(Aesculus turbinata Blume) after treatment with wooden ashes and their nutraceutical activity.” J Pharm Biomed Anal. 41, 1657-1665 (2006).
【非特許文献6】Kimura, H., Ogawa, S., Jisaka, M., Katsube, T.and Yokota, K.,“ Antiobese effects of novel saponins from edible seeds of Japanese horse chestnut (Aesculus turbinata BLUME) after treatment with wood ashes.”J. Agric. FoodChem., 56,4783-4788(2008).
【非特許文献7】Sudjaroen, Y., Haubner, R., Wurtele,G., Hull, W.E., Erbenc, G., Spiegelhalder,B., Changbumrung, S., Bartsch, H. and Owen, R.W., “Isolation and structure elucidation of phenolic antioxidants from Tamarind (Tamarindus indica L.) seeds and pericarp.”Food and Chemical Toxicology , 43, 1673-1682(2005).
【非特許文献8】辻正富、斉藤宜彦、井上修二、「総説 抗肥満症をめざした創薬:過去、現在、未来への展望 消化吸収阻害系薬物」、日薬理誌、118、p340-346(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年生活習慣病が社会問題となっている。これらを予防する目的で、食品由来の機能性物質の検索が盛んに行われている。当社では、以前から栃の実に着目し研究を進めてきた。その結果、本発明者らは、前記の如く、皮剥ぎした天然の栃の実、および食用にするため木灰であく抜き処理された栃の実からそれぞれサポニン類を単離し、それらが血糖値上昇抑制作用を示すことを見出した。さらに、それらのサポニン類が膵リパーゼに対し阻害活性を示すことも見出した。
【0007】
かかる一連の研究では、古来から食用に供されてきた栃の実部分に着目して行われていた。そのため、トチノキ種皮は、廃棄処分されるのが常であった。食用に供するという観点からは、当然に、栃の実にしか目が向かなかったのである。しかし、本発明者らは、廃棄処分されるトチノキ種皮が、結構大量であることに思い至った。かかるトチノキ種皮をも有効に活用することができないかと考えたのである。通常は食用に供されない部分にも、有用な成分が含まれているのではないかと考えた。
【0008】
本発明の目的は、通常は食用に供されてこなかった、所謂食品残渣部分のトチノキ種皮から、食品、健康食品等で利用できる有効成分を見出し、それを活用する技術を提供することにある。
【0009】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
我々は、食品残渣として廃棄されているトチノキ種皮を初めて調べた。その結果、トチノキ種皮からポリフェノールを抽出し得ることが分かった。かかるポリフェノールを精製した。さらに、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)、および液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, ESI)質量分析法(LC-ESI MS)による分析を行った。かかる結果、重合性のポリフェノールであることが分かった。そして、さらに、トチノキ種皮由来のポリフェノール類の抗酸化性、α−アミラーゼ、α−グルコシダーゼおよびブタ膵リパーゼに対する阻害活性を調べ、極めて有効な成分が有することを初めて見出した。かかる成分を食品、あるいは健康食品に利用しうることも見出した。
【0012】
すなわち、トチノキ種皮のポリフェノールを熱水(あるいはアルコール、あるいはアセトンでも可)抽出した。かかる抽出物を、各種カラムクロマトグラフィーで精製し、構造を明らかにした。その結果、構造的特徴は、flavan-3-olを基本とする重合体で重合度が3〜23のポリフェノールであることが、初めて確認された。さらに、分子内には、0〜10のA-type interflavan結合を有することも明らかとなった。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0014】
本発明で初めて見出されたトチノキ種皮由来のポリフェノールを食品、健康食品等に使用することで、つぎのような作用が得られることが分かった。すなわち、トチノキ種皮由来のポリフェノールは、抗酸化作用、糖質分解酵素阻害(α−グルコシダーゼ阻害、α−アミラーゼ阻害)作用、リパーゼ阻害作用を有しているため、食品等に添加して摂取すると、活性酸素の除去、血糖値の上昇抑制、肥満防止等の効果が得られることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、トチノキ種皮から抽出されるポリフェノールに関する技術である。かかるポリフェノールは、重合構造を有していることが確かめられた。また、活性作用としては、例えば、抗酸化作用、糖質分解酵素阻害(α−グルコシダーゼ阻害、α−アミラーゼ阻害)作用、リパーゼ阻害作用を有している。
【0016】
かかるトチノキ種皮由来のポリフェノールは、例えば、その純品は、茶色の粉末である。水に対して可溶である。アルコールに対して可溶である。かかるポリフェノールは、例えば、食品、健康食品に混ぜて使用することができる。混合使用するに際しては、例えば、純品を適量秤量して混合すればよい。あるいは、水溶液等として、液体にして混合しても構わない。かかる混合する食品あるいは食品添加物としては、例えば、菓子、パン、茶、ジュースなどの飲料、清酒、ビール、豆腐、麺類、調味料等が挙げられる。健康食品としては、ドリンク剤、サプリメント等が挙げられる。また、純品を乳糖、結晶セルロース、デンプン、デキストリン等の賦形剤と共に成型して、そのまま飲むようにすることもできる。医薬品としての使用も十分に考えられる。
【0017】
トチノキ種皮由来のポリフェノールは、現在市販されている特定健康食品としてのポリフェノール製品よりも、極めてその効能が高いことが確認されている。また、トチノキ種皮由来であるため、従来は食品残渣として廃棄されていたものから製造できるので、極めて低コストで製造できるものと考えられる。
【0018】
かかる構成のトチノキ種皮由来のポリフェノールは、次のようにして製造、試験等を行った。その詳細について、実験に基づき説明する。
【0019】
(実験材料)
本実験では、兵庫県美方郡周辺の山林で採取された栃の実を使用した。また、タンナーゼは三共(東京)から入手した。Folin-Ciocalteu 試薬、プロシアニジンB 2, 1, 1- diphenyl -2- piclylhydrazyl(DPPH)は4-methylumbelliferyl oleate (4-MU oleate)、ブタ膵リパーゼ(type II)、ブタ膵臓のα−アミラーゼVI-B、ヒト唾液α−アミラーゼ、ラット小腸アセトン粉末はSigma(St. Louis, MO, USA)から入手した。グルコースCIIテストワコー、トリグリセライドE-テストワコーおよびその他の試薬は、和光純薬工業(大阪)から購入した。
【0020】
(トチノキ種皮のポリフェノール成分の抽出・精製)
トチノキ(Aesculus turbinata Blume)の種皮10 g (水分11.54 %)を粉砕し、蒸留水200 ml を加えて、2 時間、加熱還流を行った。かかる抽出液を東洋濾紙No.5を用いて、濾別した。その後、残渣に蒸留水200 ml を加え、再度同様の操作を行った。抽出液をロータリーエバポレーターで減圧留去し、抽出物1.56 g を得た。かかる抽出物をDIAION HP-20(長さ300 mm×内径30 mm、日本錬水製、東京)を用いたカラムクロマトグラフィーに供した。蒸留水500 ml、次にメタノール500 mlで溶出した。得られたメタノール画分を減圧濃縮し、0.67 gの残渣を得た。
【0021】
この残渣を、Chromatorex ODS 1024T カラム(長さ300 mm×内径30 mm、富士シリシア化学、春日井)に供した。5 % メタノール500 ml で洗浄後、50 %メタノール500 ml で溶出した。この溶出液を減圧留去し、精製物0.54 g を得た。この精製物100 mg をエタノールに溶解し、Sephadex LH-20カラム(長さ100 mm×内径10 mm,GE Healthcare UK Ltd, England )に供した。エタノール40 ml、メタノール40 ml、70 % アセトン40 mlの順に溶出し、溶出液を2 ml ずつ分取した。同様の操作を繰り返し行い、各溶出画分を減圧下溶媒留去して、エタノール溶出画分(F1)0.02 g、メタノール溶出画分(F2)0.27 g、70 % アセトン溶出画分(F3)0.10 g の乾固物を得た。各フラクション毎に総ポリフェノール量をFolin-Ciocalteu 法 により測定した。
【0022】
(トチノキ種皮のポリフェノール成分のHPLCによる分析)
トチノキ種皮のポリフェノール成分を分析する目的で、順相および逆相HPLCによる分析を行った。HPLC装置には、島津製作所のLC-2010AシステムとクロマトパックC-R8Aを用いた。順相HPLC分析は次の条件で行った。すなわち、カラムは、ワイエムシィ製のYMC-Pack SIL-06 カラム(長さ250 mm×内径4.6 mm)を使用した。移動相は、(A)ジクロロメタン、(B)メタノール、(C)50 % 酢酸水溶液(v/v)を用いた。移動相A/B/C液の混合比(v/v)が0〜30分は82 :14 : 4から67.6 :28.4 : 4、30分から45分は67.6 :28.4 : 4から56.8 : 39.2 : 4、45分から50分は56.8 :39.2 : 4から10 : 86 : 4 の濃度勾配で、50分から60分は10 : 86 : 4で流速1.0 ml/minで送液した。
【0023】
検出波長は280 nm とした。カラム温度は25℃に設定した。逆相HPLC分析には、Phenomenex 製のLUNA C18 (2)カラム(長さ250 mm×内径4.6 mm) を使用した。移動相は、(A) 0.1 % ギ酸水溶液、(B)0.1 % ギ酸含有アセトニトリルを用いて、B液の濃度が0 分から5 分までは10 % 、5 分から11 分は10 % から16 %、11 分から 21 分は16 % から17 % 、21 分から22 分は17 % から80 % に上昇する濃度勾配に設定した。検出波長は280 nm、流速は1.3 ml/min,カラム温度は35 ℃に設定した。
【0024】
(タンナーゼ処理によるガロイル基の確認)
トチノキ種皮ポリフェノールのガロイル基の有無を確認する目的で、DIAION HP-20 カラムとChromatorex ODS 1024Tカラムで精製した標品10 mg を0.1 M Mcllvaine 緩衝液(pH 7.4)10 ml に溶解した。これにタンナーゼ(1 mg , 0.5 unit)を加え、30 分間、室温にて反応させた。5 分間、100 ℃で加熱して反応を停止した。その後、前述の逆相HPLCの条件で、遊離した没食子酸を分析した。なお、標準物質として、(-)-エピガロカテキンガレートも同様に処理した。
【0025】
(MALDI-TOF MSによるトチノキ種皮ポリフェノールの分析)
MALDI-TOF MSの測定は、窒素レーザー (波長337 nm , パルス幅,2 ns)及び遅延引き出し機構を有するイオン化源を備えたApplied Biosystems Japan製のVoyager-DE RP 飛行時間型質量分析計を用いて行った。加速電圧は20 kV で、正イオンモードおよび負イオンモードにて分析した。試料溶液は、試料1 mgをアセトニトリル1に対し0.1%トリフルオロ酢酸を2の割合で混合した溶液1mlに溶解して調製した。かかる試料溶液3 μlに、マトリックス試薬として2, 5-ジヒドロキシ安息香酸を20%エタノールに溶解し、10 mg/mlの濃度に調製した溶液を1μlを混合した溶液を試料プレート上に1μl滴下し、室温にて乾燥させた後に測定に供した。
【0026】
(トチノキ種皮重合ポリフェノール(F2, F3)の構成単位のLC-ESI MS質量分析)
トチノキ種皮重合ポリフェノールの構成成分を調べる目的で、酸分解およびdodecylsulfide誘導化を行い、LC-ESI MSによる質量分析を行った。F2、F3 のメタノール溶液(2 mg/ml)1 ml に3.3 % 塩酸−メタノール溶液1 ml 、および0.5 % ドデカンチオール−メタノール溶液2 mlを加えて混合し、40 ℃で30 分間反応させた。この反応液20μl を、逆相のカラムを接続したLC-ESI MSにより分析した。
【0027】
LC-ESI MS装置は、サーモクエスト社製のイオントラップ型質量分析装置モデルLCQ Deca XPを用いた。カラムはワイエムシィ製のYMC-ODS Pro C18 RS (長さ150 mm×内径4.6 mm)を使用した。移動相は、(A)0.1 % ギ酸水溶液、(B)アセトニトリルを用いて、移動相のB液の濃度が60 分間で65 % から85 % になる直線濃度勾配にて流速0.2 ml/minで送液した。なお、検出波長は280 nm に設定した。ESI MSは正イオンモードで行った。また、末端のdodecylsulfide 化されない部分については、前述の方法のHPLC 条件で分析した。
【0028】
(トチノキ種皮ポリフェノール成分の抗酸化作用)
(1)DPPH ラジカル消去能:エタノールに溶解させた400 μM 1.1 - diphenyl - 2 - piclylhydrazyl (DPPH ) 300 μl,200 mM MES 緩衝液(pH 6.0)300 μl,エタノール300 μl、蒸留水に溶解した被験サンプル300μl を混合し、20 分間放置した。反応後、520 nm の吸光度を測定した。
(2)β−カロチン退色法:0.1 mlのリノール酸/クロロホルム溶液(1 g /10 ml)、0.25 mlのβ−カロチン/クロロホルム溶液(10 mg /10 ml)、0.5 mlのツィーン40/クロロホルム溶液(2 g/10 ml)を混合した後、窒素ガスで乾固した。その後、蒸留水45 ml、0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.8)を加え、リノール酸-β−カロチンエマルジョンを作成した。サンプル溶液(100μg/ml)20μlにリノール酸-β-カロチンエマルジョン(980μl)を加え、50℃の恒温槽で振盪しながら470 nmの吸光度を経時的に測定した。
【0029】
(膵リパーゼ阻害活性試験法)
0.1 %デオキシコール酸ナトリウムを含む0.1 M Mcllvaine緩衝液(pH7.4)40μlに、同様の緩衝液で溶解した0.1 mM 4-methylumbelliferyl oleate (4MU oleate)100μlと、 F1〜F3を蒸留水に溶解した溶液10μlをよく混合した。その後、0.066 unitsのブタ膵リパーゼ(Type II)を同様の緩衝液で溶解した酵素液50μlを加えて、37℃、20分間反応させた。反応後、0.1 Mの塩酸水溶液1mlを加えて反応を停止させた。その後、さらに0.1 Mクエン酸ナトリウム水溶液2mlを加えた後、励起波長320 nm、 蛍光波長450 nmの吸収を測定することにより遊離した4-MUの量を測定した。なお、ブランクには、100℃、10分加熱して失活させた酵素で反応させたものを用いた。
【0030】
(マウスによる油脂負荷試験法)
マウスによる油脂負荷試験を、次のようにして行った。雄のICRマウスは、日本エスエルシー(静岡)から購入した。生後6週齢で雄のICRマウスを、飼料としてオリエンタル酵母工業(東京)の実験動物用固型飼料MFを用いて、1週間、予備飼育した。その後、油脂負荷試験に供した。油脂エマルジョンとして、コーン油6 ml、 コール酸80 mg、オレイン酸コレステロール2 mg、生理食塩水6 mlを混合した後、超音波処理したものを用意した。16時間絶食したマウスの尾静脈より採血した。
【0031】
その後、被検物として、トチノキ種皮熱水抽出物をDIAION HP-20カラムとChromatorex ODS 1024Tカラムで精製した標品を生理食塩水100μlに懸濁し、マウス体重1 kgあたり0, 100, 200, 500 mg のいずれかとなるようにして胃ゾンデを用いて経口投与した。その後すぐ100μlの油脂エマルジョンを胃ゾンデを用いて経口投与した。75分毎にマウスの尾静脈より採血し、血液を遠心(6200 rpm, 4℃, 20分)し、血漿中の中性脂肪をトリグリセライドE−テストワコー(和光純薬,大阪)により測定した。なお、供試マウスは1群あたり6匹とした。血漿トリグリセリド量は、平均±標準誤差で表した。被検物0 mg / kg体重群に対する各ポリフェノール投与群の血漿トリグリセリド量の比較を、Dunnett法により検定し、P<0.05の場合を有意差ありとした。
【0032】
(α-アミラーゼ阻害活性測定法)
酵素はブタ膵臓とヒト唾液由来のものを用いた。これらの酵素標品は、20℃でpH 6.9の条件の下に、3分間あたり1 mgのマルトースを生成する酵素量を1 Uとした場合、ブタ膵臓α-アミラーゼVI-Bが19.5 U/mg、また、ヒト唾液α-アミラーゼが30.3 U/mgの比活性を示した。基質の0.4 %可溶性澱粉と5 mM CaCl2を含む50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)300μ1に、F1〜F3を蒸留水に溶解した溶液50μlを加えた。
【0033】
さらに、基質溶液と同じ緩衝液で溶解したブタ膵α-アミラーゼVI-B 0.3 U、または、ヒト唾液α-アミラーゼ0.3 Uを含む上記緩衝液150μlを加え、30℃で5分間反応させた。
沸騰水中で10分間、加熱することで酵素反応を停止させた。その反応液に0.5 M酢酸水溶液1 mlを加え、さらに0.015 %ヨウ素と0.15 %ヨウ化カリウムを含む水溶液3 mlを加えた後、よく撹拌し、基質の澱粉濃度を反映する700 nmの吸光度の減少を測定した。ブランクには、各試料について、沸騰水中で10分間加熱して失活させた酵素を用いた。
【0034】
(α-グルコシダーゼ(マルターゼ、スクラーゼ)阻害活性測定法)
酵素の調製は次のようにして行った。ラット小腸アセトン粉末(Sigma製)1 gに、50 mMマレイン酸緩衝液(pH 6) 9 mlを加え、氷中にてガラスホモジナイザーにて撹拌した。その後、3000 rpm、4℃で10 分間、遠心分離した上清を粗酵素液とした。マルターゼの活性測定では、粗酵素液を50 mMマレイン酸緩衝液(pH 6)で3倍希釈したものを使用した。マルターゼとスクラーゼの基質溶液には、それぞれ、74 mMマルトースと74 mMスクロースを0.1 Mマレイン酸緩衝液(pH 6)に溶解したものを用いた。
【0035】
この基質溶液100μlに、種々の量のF1〜F3を蒸留水に溶解した液5μlと0.1 Mマレイン酸緩衝液(pH 6.0)45μlの混合液を加えて混合した。その後、37℃で3分間、予備加温した。そして、酵素液50μlを加えて全容量200μlとして30分間、酵素反応させた。反応後、水800μlを加えた後、沸騰水中で2分間加熱することで、酵素反応を停止した。別に、各試料について酵素液を加えた後、直ちに水を加えて沸騰水中で2分間加熱し、酵素を失活させたものをブランクとした。
【0036】
以上の要領でトチノキ種皮から得られたポリフェノールを、次に示すように評価した。
【0037】
(トチノキ種皮ポリフェノールの抽出量)
トチノキ種皮の熱水抽出物(1560 mg)をDIAION HP-20とChromatorex ODS 1024Tカラムで精製し、その後Sephadex LH-20カラムにかけたところ、図1に示すように、エタノール溶出区(F1)が20 mg、メタノール溶出区(F2)が270 mg、70%アセトン溶出区(F3)が100 mgの精製物が回収された。各溶出区を通じたF1, F2およびF3の溶出パターンは、図2に示す通りである。
【0038】
ポリフェノールを多く含むとされている代表的な食品であるワイン、茶、コーヒー、およびリンゴの総ポリフェノール量は、それぞれ1.8 mg/ml、0.9 mg/ml、1.0 mg/ml および2.2 mg/gであると報告されている。今回、10 gのトチノキ種皮から得られた熱水抽出物の総ポリフェノール量は580 mgであった。トチノキ種皮がポリフェノールの抽出原料として非常に有用であることが示唆された。なお、総ポリフェノールの測定法であるFolin-Ciocalteu法はアスコルビン酸の影響を受けるとされている。しかし、トチノキ種皮の熱水抽出物中のアスコルビン酸をHPLC分析した結果、アスコルビン酸は検出されなかった。
【0039】
(トチノキ種皮のポリフェノールのHPLC 分析)
Sephadex LH-20カラムで分離したF1〜F3の各フラクションを、図3に示すように、順相および逆相HPLCにより分析した。F2、 F3では同様のリテンションタイムにピークが確認された。Sudjareonらの報告(非特許文献7)から推察すると、順相HPLCの条件では、重合度が少ないものから多いものの順に溶出されるが、重合度が10 mer以上のものは分離できない。そのため、F2およびF3では、リテンションタイム50分付近に重合度が10 mer以上のものがまとめて溶出されたと考えられた。
【0040】
逆相HPLCによる分析においても、F2、F3は同様のリテンションタイムにピークが確認されたものの、Sephadex LH-20カラムでF2とF3は明確に溶出位置が異なる。そのため、重合度の異なるポリフェノールであると考えられた。また、トチノキ種皮ポリフェノールがガロイル基を有するのかを調べる目的で、タンナーゼ処理を行い、遊離する没食子酸を調べた。しかし、没食子酸は検出されなかった。
【0041】
尚、図3(A)〜(F)では、それぞれに縦軸は波長280nmにおける吸光度を、横軸には保持時間(分)をとっている。しかし、図中の表示では、まとめて縦軸、横軸を記載した。
【0042】
(MALDI-TOF MSによるトチノキ種皮ポリフェノールの分析)
Sephadex LH-20カラムで分離したF1〜F3の各フラクションを、MALDI-TOF-MSにて質量分析を行った。正イオンモードおよび負イオンモードによる分析で、ともに明確なピークが得られた。しかし、負イオンモードにおいて、より高分子側のピークまで検出された。図4に負イオンモードで測定した結果を示した。図4(A)に示すF1では、m/z 865(3 mer)などの主に分子量z1000以下のピークが確認された。図4(B)、(C)にそれぞれ示すF2およびF3では、それぞれ重合度が少なくとも19 mer、23 merのポリマーであることが確認される。
【0043】
図5(A)、(B)に、F2を正イオンモードおよび負イオンモードで測定した結果を示した。主ピークは、(+)-カテキンまたは(-)-エピカテキン単位(C/EC unit)の質量に相当する288 u 、およびA-type interflavan結合を有する構造を示す286 uごとのピークが確認された。図5では、C/EC unitとA-type interflavan結合の比率は2.5 : 1〜5 : 1である。しかし、図4でF2、F3ともに検出された明確なピークであるm/z 4311は、C/EC unitが10, A-type interflavan結合が5に相当し、C/EC unitとA-typeの比率は2 : 1となっている。また、主ピークとともに16 u差のピークが確認された。正イオンモードで測定した場合、[M+Na]+ と[M+K]+の質量差であるとも考えられるが、今回、負イオンモードでも同様に16 u差のピークが確認されていることから、図5に示すように、水酸基数の異なる構成成分が含まれていることが推察された。
【0044】
(トチノキ種皮重合ポリフェノール(F2, F3)の構成単位のLC-ESI MSによる質量分析)
重合ポリフェノール画分の(F2, F3)を酸分解し、dodecylsulfide誘導体を作成した。これらの誘導体を逆相のカラムを接続し、検出波長を280 nmに設定した正イオンモードでのLC-ESI MSで分析した。その結果、F2とF3は同様な溶出パターンを示した。図6にF3の分析結果を示した。280 nmで検出したクロマトグラムで28.9分と33.8 分、そして38.7分に主なピークが確認された。
【0045】
それぞれの質量分析での分子イオンピークはm/z 1063.7 [M+H]+,m/z 776.9 [M+H]+,m/z 491.0 [M+H]+であり、それぞれA-type interflavan結合を2つ有する3 merのdodecylsulfide誘導体、A-type interflavan結合を1つ有する2 merのdodecylsulfide誘導体、および(+)-カテキンあるいは(-)-エピカテキンのdodecylsulfide誘導体であることが明らかとなった。末端ユニットを前述の逆相HPLCの条件で確認したところ、(+)-カテキンが8.3分、(-)-エピカテキンが12.0分に検出され、(+)-カテキンと(-)-エピカテキンの比は、F2が1 : 1.1,F3が1 : 0.6であった。
【0046】
(トチノキ種皮ポリフェノール成分の抗酸化作用)
トチノキ種皮ポリフェノール精製物とその関連物質の抗酸化性を、DPPHラジカル消去能の測定と、β-カロチン退色法にて調べた。図7にそれらの結果を50%効果濃度(EC50)で示した。この結果、F2とF3に一般的に抗酸化物質として知られているアスコルビン酸、カテキン、エピカテキンと同等もしくはそれ以上の抗酸化性が認められた。
【0047】
(トチノキ種皮ポリフェノールの膵リパーゼに対する阻害活性)
図8に示すように、精製したトチノキ種皮ポリフェノール(F1〜F3)のブタ膵リパーゼに対する阻害活性を測定した。ブタ膵リパーゼに対する阻害活性は、主にF2とF3に回収された。IC50 は、F2が0.82 μg/ml、F3が0.29 μg/mlであり、非常に強い阻害活性を示した。ポリフェノール関連物質である(-)-エピカテキン、西洋トチノキ種皮に含まれているプロシアニジンB2についてもブタ膵リパーゼに対する阻害活性を測定した。その結果、5μg/mlの濃度で(-)−エピカテキン、プロシアニジンB2は阻害活性を示さなかった。以前からリパーゼ阻害活性を示すことが報告されている(-)−エピガロカテキンガレートのIC50 は、0.5 μg/mlであった。
【0048】
(マウスによる油脂負荷試験の結果)
トチノキ種皮熱水抽出物をDIAION HP-20カラムとChromatorex ODS 1024Tカラムで精製した標品(ポリフェノール含有量82 %)の200 mg/kg 体重投与群においては投与後2.5時間後、500 mg/kg 体重投与群においては1.25、2.5時間後時において無投与群に対して有意に血漿トリグリセリド量の上昇を抑制した。かかる結果を、図9に示した。これは、トチノキ種皮由来のポリフェノールがリパーゼを阻害することによって、血中のトリグリセリドの上昇を抑制したためと考えられる。
【0049】
(トチノキ種皮ポリフェノールのα-アミラーゼに対する阻害活性)
精製したトチノキ種皮ポリフェノール(F1〜F3)のブタ膵α−アミラーゼとヒト唾液α-アミラーゼに対する阻害活性を測定した。その結果を、図10に示した。ブタ膵α−アミラーゼに対する阻害活性では、IC50 は、F2が143 μg/ml、F3が12 μg/mlであった。また、ヒト唾液α−アミラーゼに対する阻害活性では、IC50 は、F2が96μg/ml、F3が7μg/mlであった。
【0050】
(トチノキ種皮ポリフェノールのα-グルコシダーゼ<マルターゼ、スクラーゼ>阻害活性)
F1〜F3のラット小腸由来のα-グルコシダーゼ(マルターゼ、スクラーゼ)に対する阻害活性を測定したところ、いずれもマルターゼ、スクラーゼに対して図10に示すように、阻害活性を示した。マルターゼに対する阻害活性はF3>F2>F1となり、重合度が高いポリフェノールほど高い阻害活性を示した。また、スクラーゼに対する阻害活性はF2>F1>F3であった。
【0051】
(各種ポリフェノール類との機能の比較)
トチノキ種皮熱水抽出物とすでに特定保健用食品として利用されているグァバ葉茶、および烏龍茶との機能の比較を行った。各サンプルの重量はFolin-Ciocalteu法により総ポリフェノール量を求めた。なお、アスコルビン酸の影響を考慮し、アスコルビン酸も定量した上で重量を設定した。各サンプルについてブタ膵リパーゼ、ラット小腸由来のスクラーゼとマルターゼ、ブタ膵アミラーゼ、ヒト唾液アミラーゼに対する阻害活性を調べた。かかる結果と、DPPHラジカル消去能を調べた結果とを、図11に示した。この結果、リパーゼおよびブタ膵アミラーゼに対する阻害活性において、グァバ葉茶および烏龍茶ポリフェノールに比べて高い阻害活性を示した。
【0052】
(アルカリ溶液浸漬処理によるトチノキ種皮ポリフェノールの抽出法)
上記説明のトチノキ種皮由来のポリフェノールは、熱水抽出で行った。しかし、本発明者は、種々検討の結果、アルカリ溶液浸漬処理でも行えることを見出した。すなわち、トチノキ種皮ポリフェノールを効率よく抽出するための方法を検討した結果、アルカリ性の溶液に浸漬してから熱水抽出することで収量が上がることが明らかとなった。また、トチノキ種皮をアルカリ性の水溶液で加熱抽出しても効果的であった。
【0053】
トチノキ種皮を水洗い後、水を切った状態のもの10 g(水分61%)を食品添加物である「かんすい」0%(コントロール)、0.001%、0.05%、1%の水溶液100 mlに一晩浸漬した。その後、150 mlの蒸留水で30分間加熱し、ポリフェノールの抽出を行った。この操作を再度行い、得られた抽出液をエバポレーターにて乾固した。この乾固物について、Folin-Ciocalteu法にて総ポリフェノール量を測定した。なお、0.001%かんすい水溶液のpHは8.89、0.05%は10.79、1%かんすい水溶液は11.08であった。
【0054】
実験の結果、皮重量1 gあたりの総ポリフェノール回収量は、コントロールが31.3 mg、 0.001%かんすい水溶液が34.22 mg、1%かんすい水溶液が42.08 mgであった。浸漬液のpHがアルカリ性になるほど、回収できる総ポリフェノール量は高くなる結果となった。なお、蒸留水で加熱後の水溶液はどれも中性を示した。
【0055】
(アルカリ溶液によるトチノキ種皮ポリフェノールの抽出法)
トチノキ種皮を水洗い後、水を切った状態のもの60 g(水分57.12%)を食品添加物である「かんすい」0%(コントロール),0.001%, 0.05%, 1%の水溶液1000 ml中で1時間煮出した。その後濾過し、Folin-Ciocalteu法にて各かんすい水溶液のポリフェノール量を測定した。なお、0.001%かんすい水溶液のpHは8.89, 0.05%は10.79,1%は11.08であった。
【0056】
実験の結果、皮重量1 gあたりの総ポリフェノール回収量は、コントロールが16.75 mg、0.001%かんすい水溶液が17.69 mg、 0.05%が23.37 mg、 1%が62.24 mgであった。煮出し時水溶液のpHがアルカリ性になるほど、抽出されるポリフェノール量は高くなる結果となった。なお、煮出し後の各かんすい水溶液のpHは、0%(コントロール)で4.64、0.001%で4.81, 0.05%で7.42, 1%で9.94であった。トチノキ種皮をアルカリ性の水溶液で加熱抽出することはポリフェノールの回収手段として効果的であることが分かった。
【0057】
上記評価は、まとめれば、次のようになる。すなわち、(1)トチノキ種皮熱水抽出物の総ポリフェノール量は種皮10 gあたり580 mg/gと非常に高いことが確認された。(2)トチノキ種皮ポリフェノールをDIAION HP-20、Chromatrex ODS 1024 T、Sephadex LH-20カラムで分離したF1、 F2、 F3をHPLCおよびMALDI-TOF MSで分析した結果、主成分は重合ポリフェノールであり少なくともF2では19 mer、F3では23 merの重合であると推察された。また、HPLCおよびLC-ESI MSによる分析でトチノキ種皮ポリフェノールはガロイル基を持たず、A-type interflavan結合を有する構造であることが確認された。
【0058】
因みに、flavan-3-olの基本骨格は、図12に示すような構造を有している。図6に示すように、かかる基本骨格の1位のOと、4位のCとが、interflavan結合に関与しているものと推察された。
【0059】
(3)トチノキ種皮ポリフェノール(F1〜F3)の抗酸化能をDPPHラジカル消去能、β-カロチン退色法にて測定したところ、F2、F3にアスコルビン酸や(+)-カテキン、(-)-エピカテキンと同等もしくはそれら以上の抗酸化能があることが確認された。(4)ヒト唾液およびブタ膵臓α−アミラーゼに対するトチノキ種皮ポリフェノールの阻害活性を測定したところ、Sephadex LH-20メタノール溶出区(F2)と70%アセトン溶出区(F3)で高い阻害活性を示した。
【0060】
(5)α−グルコシダーゼに対するトチノキ種皮ポリフェノールの阻害活性を測定したところ、スクラーゼ活性、マルターゼ活性ともに阻害した。(6)トチノキ種皮ポリフェノールのブタ膵リパーゼに対する阻害活性を測定した結果、IC50 はSephadex LH-20カラムで分離したF2で0.82μg/ml、F3で0.29μg/mlと高い阻害活性を示した。
【0061】
以上の結果より、食品残渣として廃棄対象となっていたトチノキ種皮は、意外にも、有用なポリフェノールを多く含んでいることが分かった。かかるトチノキ種皮を、食品、あるいは健康食品に利用することで、生活習慣病予防に役立つものと思われる。さらに栃の実種皮は食品加工廃棄物であることから、資源の有効利用という点でも意義深い。
【0062】
かかるトチノキ種皮由来のポリフェノールは、例えば、食品に添加する場合には、前述の如く、水、あるいはアルカリ性の水溶液で抽出して得たエキスをそのまま使用してもよい。また、水、アルカリ性の水溶液、アルコール、アセトンなどの溶媒で抽出し、デキストリン等と混合後スプレードライを行い粉末状態とした後、食品に加えてもよい。また、菓子、パン、茶、ジュースなどの飲料、清酒、ビール、豆腐、麺類、調味料等の食品には、1 mg以上、500 mg以下添加すればよい。1 mg未満では、添加の効果は現れない場合もある。また、食品100 gあたり1 gを超えては、食品自体が渋味が強くなり食味が悪くなる不都合が考えられる。適正な添加量は、1 mg以上、500 mg以下である。すなわち、食品として、あるいは食品添加物としての使用が考えられる。
【0063】
食品への利用の実施例として、飲料への利用事例をあげる。トチノキ種皮ポリフェノールを総ポリフェノール量(Folin-Ciocalteu法で求めた重量)として76 mg、焙煎した小豆4gを混合し、500 mlのお湯で5分間煮出して飲料を調製した。この飲料とすでに糖の吸収を抑えるという用途で特定保健用食品として利用されているグァバ茶とを、総ポリフェノール濃度70μMでのα−アミラーゼ阻害活性を比較した。その結果、当飲料の方がグァバ葉茶にくらべ4倍の阻害活性を示した。飲料としては、黒豆茶、ハーブティー、紅茶、黒豆茶、プーアル茶、ヤーコン茶、緑茶などにもちいても良好な味であった。
【0064】
また、健康食品への添加も当然に考えられる。例えば、ドリンク剤や錠剤、カプセル等サプリメントなどの健康食品への添加が考えられる。かかる健康食品の添加に際しては、1日あたり1 mg以上、500 mg以下、添加すればよい。
【0065】
本発明に係るポリフェノールは、上記の如く、食品、健康食品等に添加した場合を示したが、医薬品としての使用も当然に考えられる。前述の非特許文献8に示すように、リパーゼ阻害および糖質分解酵素阻害作用を有する物質が肥満や糖尿病への治療薬として利用されている。そこで、リパーゼ阻害および糖質分解酵素阻害作用を示すトチノキ種皮ポリフェノールも、錠剤およびドリンク剤の形態で医薬品として提供し利用することもできる。
【0066】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0067】
上記実施の形態では、トチノキ種皮から初めて上記構造的特徴を有するポリフェノールを得た。しかし、同じ構造的特徴を有するポリフェノールが、トチノキの種皮以外の部分からも抽出されるかも知れない。また、他の植物から、本発明と同じポリフェノールが抽出されるかも知れない。かかる場合には、抽出由来をトチノキ種皮とすることがなければ、本明細書に述べた構造的特徴を有するポリフェノールということができる。また、かかる構造的特徴を有するポリフェノールは、合成しても構わない。その場合には、例えば合成ポリフェノールと把握して、本明細書で述べたトチノキ種皮由来のポリフェノールを天然ポリフェノールと把握しても構わない。
【0068】
さらには、本明細書では、例えばトチノキ(Aesculus turbinata Blume)の種皮を用いた場合を示したが、かかるトチノキの種皮には、当然にセイヨウトチノキ(Aesculus hippocustanum L.)種皮も含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ポリフェノールの食品、健康食品、あるいは医薬の分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係るトチノキ種皮由来の総ポリフェノール量を示す図表である。
【図2】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのカラムクロマトグラフィーの溶出パターンを示す説明図である。
【図3】(A)〜(F)は、本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのHPLC分析の様子を示す説明図である。
【図4】(A)〜(C)は、本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのMALDI−TOF MSによる分析結果を示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は、本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのMALDI−TOF MSによる分析結果を示す説明図である。
【図6】(A)、(B)は、本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのクロマトグラム、マスクロマトグラムの様子を示す説明図である。
【図7】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールの抗酸化性を示す図表である。
【図8】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールの酵素活性阻害性を示す図表である。
【図9】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールのマウスの油脂負荷試験の結果を示す説明図である。
【図10】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールの糖質酵素の活性阻害性を示す図表である。
【図11】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールと、グァバ茶、ウーロン茶由来のポリフェノールの機能性を比較した図表である。
【図12】本発明に係るトチノキ種皮由来のポリフェノールを構成するflavan-3-olの基本骨格を示す説明図である。
【図13】flavan-3-ol類を示す構造式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トチノキ種皮から抽出されることを特徴とするポリフェノール。
【請求項2】
請求項1記載のポリフェノールにおいて、
前記ポリフェノールが、抗酸化作用を示すことを特徴とするポリフェノール。
【請求項3】
請求項2記載のポリフェノールにおいて、
前記ポリフェノールが、前記抗酸化作用と共に、酵素阻害作用をも示すことを特徴とするポリフェノール。
【請求項4】
請求項3に記載のポリフェノールにおいて、
前記酵素阻害作用とは、糖質分解酵素阻害作用、リパーゼ阻害作用であることを特徴とするポリフェノール。
【請求項5】
トチノキ種皮からのポリフェノールの製造方法であって、
前記トチノキ種皮をアルカリ処理した後に、ポリフェノールを抽出することを特徴とするポリフェノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−43023(P2010−43023A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208008(P2008−208008)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(593006836)寿製菓株式会社 (5)
【Fターム(参考)】