説明

ポリフェノール含有組成物

本発明は、コロイド状キャリアの内側にポリフェノールを含む組成物に関し、特にはがんの処置において又はがん増殖の抑制において及び炎症及び自己免疫状態の処置においてそのような組成物を使用する方法に関する。より特には、本発明は、腫瘍組織に、又は抗炎症活性又は自己免疫状態に対する活性を要求する生体内の部位に、ポリフェノールを向ける方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフェノールを含む組成物に関し、特には、がんの処置において又はがん増殖の抑制において並びに炎症及び自己免疫状態の処置においてそのような組成物を使用する方法に関する。より特には、本発明は、腫瘍組織に、又は抗炎症性活性又は自己免疫状態に対する活性を要求する体内の部位に、ポリフェノールを標的に向ける方法に関する。さらにより特には、本発明は、非リンパ性がん、好ましくは固形(非血液学的)悪性腫瘍及び転移(固形原発性腫瘍及び二次性腫瘍)の処置においてそのような組成物を使用する方法を提供することを目的とし、及び従って腫瘍学の分野におけるものである。しかしながら、非固形腫瘍又はリンパ系がん型、例えば慢性及び急性のリンパ性白血病、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫などの処置において、ポリフェノールも用いられうる。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、植物食物に広く分布する天然の化合物の大きなファミリーを形成する。ポリフェノールは多くの植物、葉及び果実の着色に関与する。高水準のポリフェノールが一般に果皮に見られる;例えば、高いパーセンテージが、ブドウ果皮、リンゴ果皮及びオレンジ果皮において見られる。過去十年、特には、緑茶ポリフェノール及びワインからのポリフェノールが関心を集めてきた。
【0003】
研究は、炎症及びがんの水準で有益な効果を有する種々さまざまなポリフェノールがあることを示す。外因性抗酸化剤のガン防御的特性及び抗炎症性/免疫調節性特性は、多くの疫学的介入及びin vitro研究において実証されてきた。しかしながら、その関係する機構はまったく解明されていない。抗酸化剤効果、ステロイド受容体結合、細胞内エレメントとの直接の相互作用及びシグナル伝達系(抗増殖効果及びアポトーシス効果)が全て、これらの剤のがん防御的及び抗炎症性/免疫抑制性効果の仲介のためのありうる機構として提案されてきた。
【0004】
食物性ポリフェノールの生体利用可能性及び健康増進性化合物としてのそれらの有効性の両方に関する相当な文献データがある。食物性ポリフェノールは生体利用可能性が乏しく及び、徹底的に代謝される。摂取された量の少しの部分だけが、全身的循環に到達し、そして尿中に排出される。生体利用可能性は、構造及び結合(例えば糖への)に依存して非常に色々である:大抵のアントシアニン(ベリー、赤ワイン中の色のついたフラボノイド)について0.1%未満、ケルセチン(赤ワイン、リンゴ、タマネギ)について1〜5%及びフラバノン(シトラス)及びフラバノール(赤ワイン、茶、ココア)について10〜30%。ポリフェノールは吸収の間に代謝され、そして、血しょう中に存在する形は、典型的には摂取されたそれらと異なる。代謝は主に、腸管(腸上皮細胞及び大腸ミクロフローラ)及び肝臓で起こる。血しょう中の最大の濃度は、10〜100mgの単一種のフェノール化合物の消費後に、めったにしか1μMを超えない。ヒトの代謝産物は、ポリフェノールアグリコンのグルクロニド及びサルフェート並びにメチル化誘導体である。結腸のミクロフローラから得られる産物は簡単なフェノール酸である。
【0005】
経口投与後のポリフェノールの生体利用可能性は乏しいので、炎症細胞及び/又は腫瘍細胞において及び炎症細胞及び/又は腫瘍細胞に対して有効であるポリフェノール標的組織濃度は、該経口経路によっては達成されえない。大抵のポリフェノールは循環において迅速に代謝されるとみえるので、遊離ポリフェノールの静脈内投与はわずかにのみ有効であろう。
【0006】
したがって、炎症状態及びがんに対するポリフェノールに基づくより有効な治療剤についての当技術分野におけるニーズがある。より特には、炎症及び腫瘍の部位などの標的組織にポリフェノールを輸送するのにより有効である医薬組成物についてのニーズがあるままである。
【0007】
加えて、何らかの効果(仮にあったとしても)を得る為に要求されるポリフェノールの量は高い。すなわち、もし、がん又は腫瘍の治療においてポリフェノールを使用するならば、有意な腫瘍増殖抑制を得るために、長い期間の間、高い用量(典型的な例として:レスベラトロールについて一日当たり1.5〜2g)を必要とするだろう。これは、全ての種類の副作用を増強させるだろうし、そして、毒性を生じさせるであろう。
【0008】
ポリフェノールによるさらなる問題は、生理学的な水性媒体中のそれらの乏しい溶解性である。エラグ酸に関して、国際公開第2006/068759号パンフレットにおいて、リポソームに基づく配合物を提供することによりこれが言及され、該配合物中において該エラグ酸は有機溶媒中に溶解されており、すなわち脂質膜(すなわち該リポソームの外側の層)内にとりこまれる。しかしながら、体内での循環の間、該リポソームは体の脂肪との接触に不可避的に付され、その結果として、該外側の層内のエラグ酸は該出会った脂肪相内へと折り悪く漏れる傾向にあるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリフェノールの全部の能力を予想どおりに利用する為の手段を提供することの局面に焦点をあてる。従って、がんの処置、遅延又は抑制の為又はがんの処置、遅延又は抑制において、腫瘍組織にポリフェノールをターゲットする方法を発見すること;又は抗炎症活性及び自己免疫状態に対する活性を要求する部位にポリフェノールをターゲットする方法を発見することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従い、局所的な薬剤濃度が増加されるように腫瘍組織にポリフェノールを選択的に輸送することにより、がんの進行に関与する細胞タイプに対する薬理学的効果が達成されることが発見された。相当する効果が、局所的薬剤濃度が増大されるように炎症した組織又は自己免疫疾患により冒された組織にポリフェノールを選択的に輸送することにより発見され、そして、炎症/自己免疫状態の進行に関与する細胞タイプに対する薬理学的効果が達成される。
【0011】
それ故に、本発明の目的は、ポリフェノールを含む、非経口的投与の為の医薬組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、非経口的投与後の、炎症した組織若しくは領域又はがんの部位特異的な処置において有効な医薬の調製の為のポリフェノールを含む、医薬組成物の使用方法を提供することである。
【0013】
本発明は、炎症疾患及びがんの処置のために有用な組成物及び方法を提供し、ここでポリフェノール又はポリフェノール誘導体が長時間循環するリポソーム配合物の内部にカプセル化されており、これは患者に非経口的に投与されうる。
【0014】
より特には、本発明は、非経口的な投与の為の医薬組成物に関し、該組成物は長時間循環し、非荷電のベシクル形成性脂質からなるコロイド状キャリアを含み、該コロイド状キャリアは、該キャリア内部に捕捉された1以上のポリフェノール又はポリフェノール誘導体を含む。
【0015】
この医薬的組成物において、該コロイド状キャリアは好ましくは生理学的条件下で中性又は負の電荷を有し、かつ、好ましくはリポソーム、ナノカプセル又はポリマーミセルである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】腫瘍サイズに対するコーヒー酸の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の非常に好ましい実施態様において、該ポリフェノールは、本発明により要求される該長時間循環するコロイド状キャリアの水性内部、好ましくは該長時間循環するリポソームの水性内部に含まれる。多くのポリフェノールは親油性特徴(これは該コロイド状キャリアの親油性部分内に、例えばリポソームの親油性二重層内に、これらを含むことを理にかなったものにするだろう)を有するが、本発明者らは、これが不安定な組成物をもたらすことを発見した。加えて、該ポリフェノールは、これらが親油性部分に組み込まれているところの系から漏れることが分かった。
【0018】
これは、非常に好ましい実施態様において、より親水性のポリフェノールが用いられることを必要とし、又は代わりに、例えば遠隔の装填による例えば誘導体化又は複合体化により、該ポリフェノールが水溶性にされることを必要する。
【0019】
該コロイド状キャリアは、約40〜200nmのサイズ範囲の選択された平均粒子直径を適当に有する。
【0020】
組成物の観点から、該コロイド状キャリアは好ましくは、水溶性ポリマーにより誘導体化された最大で20モル%の両親媒性のベシクル形成性脂質、任意的に最大で10モル%の負に荷電したベシクル形成性脂質、及び任意的に最大で50モル%のステロールを含む。
【0021】
第2の局面において、本発明は、炎症性又は自己免疫疾患及びがんの処置、特には部位特異的処置の為に本発明の医薬組成物を使用する方法に関する。
【0022】
第3の局面において、本発明は、炎症性又は自己免疫疾患及びがんの処置において、特には部位特異的処置にとって有効な医薬の調製の為に本発明に従う医薬組成物を使用する方法に関する。好ましくは、この使用方法は、該ポリフェノールが水溶性の形の医薬において用いられる、非経口的投与後の炎症した組織又は領域の該部位特異的処置のためのものである。
【0023】
適当には、リウマチ関節炎及び多発性硬化症が、本発明に従い処置されうる。
【0024】
さらなる局面において、本発明は、長時間循環するコロイド状キャリア中に、脱プロトン化可能なヒドロキシル基を有するポリフェノール又はポリフェノール誘導体を装填する方法に向けられ、該方法は、(a)長時間循環するコロイド状キャリア、好ましくはリポソームの懸濁物を調製すること、該リポソームは該リポソームの外側よりも該リポソームの内側により高い金属イオン濃度を有し、該金属イオンは、負に荷電したポリフェノール又はポリフェノール誘導体と比較的高いpH(7以上のpH)で複合体又は沈殿を形成することができる、(b)負に荷電したポリフェノール又はポリフェノール誘導体化合物を該懸濁物に添加すること、及び(c)該リポソームの外側における濃度よりも高い該リポソームの内側における化合物の最終濃度への、該リポソームへの該化合物の取り込みを達成することを含む。
【0025】
本発明に従う該長時間循環するリポソームは、少なくとも3時間、特には少なくとも6時間の循環半減期を有し、該循環半減期は、リポソームの対数のクリアランスプロファイルの第二直線相がその当初濃度(t=0での外挿された血しょう濃度である)の50%に達する時間として定義される。
【0026】
本発明における長時間循環するリポソームは、非荷電のベシクル形成性脂質から構成され、水溶性ポリマーにより誘導体化された最大で20モル%の両親媒性のベシクル形成性脂質を任意的に含み及び10モル%以下の負に荷電したベシクル形成性脂質を任意的に含み、、該リポソームは約40〜200nmのサイズ範囲内の選択された平均粒子直径を有する。
【0027】
これらの組成物は、単回の非経口注入後に、病気の標的組織での該カプセル化されたポリフェノール又はポリフェノール誘導体の増した局在化及び改善された維持をもたらし、そして、その結果として、カプセル化されていない化合物と比較して、増大した有益な効果が、観察される。
【0028】
本発明の方法は、特にはヒト患者を含む、全ての哺乳類対象における、炎症性及び自己免疫疾患、並びにがんの処置又は予防にとって有用である。
【0029】
より詳細には、本発明は、さまざまな炎症性及び自己免疫疾患の処置又は予防にとって有用な組成物及び方法を提供し、該疾患はリウマチ関節炎、変形性関節炎及び関連する関節炎症状態、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含むがこれらに限定されない炎症性腸疾患、多発性硬化症及び他の神経学的炎症状態、組織移植拒絶、乾癬及び他の皮膚炎症状態、ぜんそく、並びに、無形成性貧血、自己免疫性肝炎、グッドパスチャー症候群及び紅斑性狼瘡を含むがこれらに限定されない炎症性及び自己免疫疾患のまれな形を包含するがこれらに限定されない。
【0030】
本発明は、固形腫瘍及び非固形腫瘍、例えば白血病及びリンパ腫など、の両方を含む広範囲の種類のいずれのがんを処置する為にも用いられうる。上皮性悪性腫瘍、非上皮性悪性腫瘍、骨髄腫、リンパ腫及び白血病が、混合型を有するそれらのがんも含めて、全て本発明を用いて処置されることができる。乳腺又は前立腺の腺癌;肺の気管支原性肺癌の全ての形;ミエロイド;メラノーマ;グリオーマ;ヘパトーマ;神経芽細胞種;乳頭腫;アプドーマ;分離腫;鰓腫;肉腫;新生物(例えば、骨の、胸の、消化系の、結腸直腸の、肝臓の、膵臓の、下垂体の、精巣の、眼窩の、頭及び首の、中枢神経系の、聴覚の、骨盤の、呼吸器路の、及び泌尿生殖器の);神経線維腫病、及び子宮頚部異形成)、並びに同様のものを含むがこれらに限定されない特定の種類のがんも処置されうる。
【0031】
本発明の組成物において用いられうるポリフェノールは、以下のカテゴリーに分類されうる。
【0032】
1.フェノール酸
フェノール酸は、ひろく分布するヒドロキシ安息香酸及びヒドロキシ桂皮酸、ならびに他の簡単な分子、例えばコーヒー酸、バニリン及びクマル酸など、を包含する多様な集団を形成する。
【0033】
フェノール酸は、植物界を通じてひろく広がる植物代謝物である。フェノール酸への最近の関心は、酸化的損傷疾病(冠状動脈性心臓病、脳卒中及びがん)に対する、果実及び植物の摂取を通じた、それらの潜在的な防御的役割に起因する。
【0034】
フェノール化合物は、植物の成長及び繁殖にとって必須であり、そして病原体に対する、損傷した植物を防御する為の応答として生産される。フェノール酸化合物は、植物において普遍的に分布していると思われる。フェノール酸は、他の天然化合物と結合したエステル又はグリコシド、例えばフラボノイド、アルコール、ヒドロキシル脂肪酸、ステロール及びグルコシドなど、として食物植物中に生じうる。
【0035】
コーヒーは特に、結合したフェノール酸、例えばコーヒー酸、フェルラ酸及びP−クマル酸など、に富む。ブルーベリー中に見られるフェノール酸は、没食子酸、p−ヒドロキシ安息香酸、コーヒー酸、p−クマル酸及びバニリン酸を包含する。
【0036】
フェノール酸は、非常の多くの化学的、生物学的、農業的及び医学的研究の対象である。
【0037】
フェノール酸の多様な群からの例は、以下を包含する。
【0038】
a.ヒドロキシ桂皮酸:例えば、p−クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸。
ヒドロキシ桂皮酸化合物は、ヒドロキシカルボン酸又はグルコースとの単純なエステルとして最も頻繁に生じる。それらは、クマル酸、コーヒー酸及びフェルラ酸を包含する。p−クマル酸は、広くさまざまな可食性植物、例えばピーナッツ、トマト、ニンジン及びニンニクなどにおいて見られうる。それは、水にわずかに可溶性であるが、エタノール及びジエチルエーテルにはよく溶解する結晶性固体である。p−クマル酸は抗酸化剤であり、そして、発がん性ニトロソアミンの形成を減少することにより胃がんのリスクを減少すると考えられている。コーヒー酸は、典型的にはクロロゲン酸などのような結合した形で、多くの果実、野菜、調味料及び飲料中に見られるカルボン酸である。この化合物は、タンポポ、ノコギリソウ、ツクシ及びセイヨウサンザシにおいて産生される二次的植物代謝物である。コーヒー酸の量は、その植物が由来する源に強く依存する。コーヒー酸フェネチルエステル(CAPE)(ミツバチの巣からのプロポリスの活性成分)は、抗マイトジェン特性、抗発がん特性、抗炎症特性、及び免疫調節特性を有すると知られている。抗酸化剤として、フェルラ酸は、反応性酸素種(ROS)などのフリーラジカルを中和しうる。ROSは、DNA損傷及び加速された細胞老化に関与しうる。動物研究及びin vitro研究は、フェルラ酸が、乳がん及び肝臓がんに対する直接的な抗腫瘍活性を有しうることを示唆する。フェルラ酸はがん細胞においてアポトーシス(細胞死)促進効果を有し得、それにより、これらのがん細胞の破壊をもたらしうる。フェルラ酸は、発がん性化合物ベンゾピレン及び4−ニトロキノリン1−オキシドへの曝露にり誘発されるがんを防ぐのに有効でありうる。しかしながら、ヒト参加者により行われた無作為に選ばれた対照臨床試験はないことが注目される。これは、これらの研究の結果がヒトの使用に直接に適用可能でないかもしれないことを意味する。もしアスコルビン酸及びビタミンEの局所的調合物に添加されるならば、フェルラ酸は、皮膚における酸化ストレス及びチミジンダイマーの形成を減少しうる。
【0039】
b.ヒドロキシ安息香酸:例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、エラグ酸。ヒドロキシ安息香酸化合物は現在主に、グルコシドの形にある。それらは、4−ヒドロキシ安息香酸、没食子酸及びエラグ酸を包含する。エラグ酸の最高の水準は、ラズベリー、ストロベリー、及びザクロにおいて見られる。細胞培養物及び実験動物における研究は、エラグ酸が或る発ガン物質により引き起こされるいくつかの腫瘍の増殖を遅くしうることを示す。これが前途有望である一方で、今のところ、いずれかの形のエラグ酸ががんを防ぎ又は処置することができることを示すヒトの研究からの信頼性ある証拠はない。それがどのような利益を有しうるかを決定する為に、さらなる研究が要求される。エラグ酸はいくつかの抗がん特性を有すると思われる。それは、抗酸化剤として働くことができ、そして、実験室においてがん細胞におけるアポトーシスを引き起こすことが分かった。それが、血液からのガンを引き起こすいくつかの物質を肝臓が破壊し又は除去することを助けうるという報告もある。残念ながら、実験室及び動物の研究におけるがんに対する見込みを示す多くの物質は、ヒトにおいて有用であると分かっていない。
【0040】
c.ロスマリン酸。ロスマリン酸は、オレガノ、レモンバーム、セージ、マジョラム及びローズマリーにおいて大量に見られる。ロスマリン酸は、抗酸化活性、抗炎症活性および抗微生物化成を有する。ロスマリン酸の抗酸化活性は、ビタミンEのそれよりも強い。ロスマリン酸はフリーラジカルにより引き起こされる細胞損傷を防ぐのに役立ち、それによりがん及びアテローム性動脈硬化症のリスクを減少する。ロスマリン酸に富むエゴマは、その抗アレルギー活性のために用いられる。抗ヒスタミンとは違って、ロスマリン酸は、免疫応答細胞の活性化(これが腫れ及び体液形成を引き起こす)を防ぐ。
【0041】
2.フラボノイド:
フラボノイドはポリフェノールのサブクラスを形成する。フラボノイドは、一様にではないが、天然にひろく分布している。語「フラボノイド」は、フェニルベンゾピレン構造に基づく植物二次的代謝物のクラスをいう。フラボノイドは、それらの抗酸化活性について最も一般に知られている。フラボノイドは、バイオフラボノイドとも一般にいわれる−これらの語は、全てのフラボノイドが起源において生物学的であるので、等価であり且つ交換可能である。
【0042】
フラボノイドは植物にひろく分布し、花における黄又は赤/青の色の生産及び微生物及び昆虫による攻撃からの防御を含む多くの機能を果たす。フラボノイドの幅広い分布、それらの多様性及び、他の活性植物化合物(例えばアルカロイド)と比較したときのそれらの相対的に低い毒性は、ヒトを含む多くの動物が、彼らの食事において相当な量を摂取することを意味する。
【0043】
幼虫の段階での食事摂取から捕捉されそして次に成体組織に貯蔵されたフラボノイドがチョウ及びガにおいて高い濃度でみられた。
【0044】
フラボノイドは、アレルゲン、ウィルス及び発がん性物質に対する生体の反応を調節するそれらの内在の能力の強力な実験的証拠の故に、「天然の生物学的応答調節物」といわれてきた。それらは、抗アレルギー活性、抗炎症活性、抗微生物活性及び抗がん活性を示す。
【0045】
加えて、フラボノイドは強力な抗酸化剤として働き、酸化的及びフリーラジカル損傷に対して防御する。
【0046】
消費者及び食品製造者は、フラボノイドに、それらの薬効特性の故に、特にはがん及び心臓血管疾患の予防におけるそれらの役割の故に、関心があるようになってきた。果実、野菜、茶及び赤ワインの有益な効果は、既知の栄養素及びビタミンよりもむしろフラボノイド化合物に起因する。
【0047】
フラボノイドの群は、以下のサブクラスに分けられる。
【0048】
a.フラボン:例えばルテオリン、アピゲニン、フラボキセート、ジオスミン。フラボンはフラボノイドの4−ケトン誘導体であり、そして、アピゲニン、ジオスミン、フラボキセート、ルテオリンを包含する。ジオスミンは、薬理学的に非常に活性な化合物である。炎症及び免疫疾患の水準で、ジオスミンは、損傷プロセスから微小循環を保護することにより、毛細血管過透過性を減少し及び毛細血管抵抗性を増す。ジオスミンは、内皮接着分子(ICAM、VCAM)の発現も減少し、そして、毛細血管水準での白血球の接着、遊走及び活性化を抑制する。これは、炎症メディエーター(主には酸素フリーラジカル及びプロスタグランジン)の放出における減少をもたらす。ルテオリンは、抗酸化剤、フリーラジカルスカベンジャー、炎症の予防における剤、炭水化物代謝の促進剤、及び免疫系調節剤として重要な役割を果たすと考えられている。ルテオリンのこれらの特徴は、がんの予防において重要な役割を果たすとも考えられる。複数の研究実験は、ルテオリンを、炎症及び敗血症の症状を劇的に減少することができる生化学的剤として記載する。
【0049】
b.フラバノン:例えば、ヘスペレチン、ナリンゲニン。フラバノンは、2及び3−位で水素化された(二重結合を欠く)フラボンである。それらは、ヘスペレチン及びナリンゲニンを包含する。ヘスペリジンは、柑橘類に豊富にみられるフラボノイドグリコシドである。そのアグリコン形はヘスペレチンと呼ばれる。ヘスペリジンは、植物防御において役割を果たすと考えられる。それは、in vitro研究に従い抗酸化剤として作用する。ヒトの栄養において、それは血管の完全性に寄与する。種々の予備的研究が、新規の医薬的特性を明らかにする。ヘスペリジンは、ラットにおいて、コレステロール及び血圧を減少した。マウスの研究では、グルコシドヘスペリジンの大量投与が骨密度損失を減少した。他の動物研究は、敗血症に対する防御的効果を示した。ヘスペリチンは、抗炎症効果を有する。ナリンゲニンは、抗酸化剤、フリーラジカルスカベンジャー、抗炎症剤、炭水化物代謝促進剤、及び免疫系調節剤として、ヒトの健康に対する生物活性効果を有すると考えられているフラバノンでる。この物質は、DNAを修復するとも示された。科学者らは、1リットル当たり80マイクロモルのナリンゲニンに細胞を24時間晒し、そして、DNAへのヒドロキシル損傷の量が、非常に短時間のそれにおいて24%だけ減少されたことを発見した。残念ながら、このバイオフラボノイドは、経口摂取で吸収することが困難である。最良の場合のシナリオでは、摂取されたナリンゲニンの15%だけが、ヒトの胃腸管で吸収されるであろう。
【0050】
c.フラバノール:例えば、ケルセチン、ミリセチン、シミラリン(simylarin)。フラバノールは、フラボノイドの3−ヒドロキシ4−ケトン誘導体であり、そして、ケルセチン及びミリセチンを包含する。ケルセチンは、柑橘フラボノイド ルチン、ヘスペリジン、ナリンゲニン及びタンゲレチンを包含する他の多くのフラボノイドにとっての「骨格」を形成するフラボノイドである。研究において、ケルセチンは、フラボノイドの最も活性なものと分かり、そして、多くの薬効のある植物について、それらの活性の多くは、それらの高いケルセチン含有量のおかげである。ケルセチンは、炎症のいくつかの初期プロセスの直接の抑制の故に、有意な抗炎症活性を実証した。ケルセチンは、顕著な抗腫瘍特性も示す。ケルセチンは、がん、前立腺炎、心疾患、白内障、アレルギー/炎症、及び呼吸器疾患、例えば気管支炎及び喘息など、と戦うこと又は予防するのを助けることにおける有益な効果を有しうる。ミリセチンは、多くのブドウ、ベリー、果実、野菜、ハーブ並びに他の植物において見られる天然に発生するフラボノイドである。クルミは、豊富な食事供給源である。ミリセチンは抗酸化特性を有する。In vitro研究は、高濃度のミリセチンが、白血球による取り込みが増大されるようにLDLコレステロールを修飾しうることを示唆する。シミラリンは、オオアザミ(milk thistle)において見られる。シリマリンは、抗酸化剤又はフリーラジカルスカベンジャーである。スキンケア製品は、シリマリンの抗酸化活性が、皮膚がんについてのリスクを減少しうるので、しばしばシリマリンを含有する。シリビニン(silybin)は、シリマリンの主要な活性成分である。それは、その肝保護的(抗肝毒性)特性の故に、肝臓の病気の処置及び予防において用いられる。臨床試験は、おそらくその抗酸化特性に起因する、或る種のがん(皮膚及び前立腺)に対して保護するその能力も示した。シリマリンは、UVBにより誘発される発がんの種々の段階に対する保護を提供する。シリマリンは、新たな肝臓細胞の増殖を促進することにより、肝臓を保護する。脂質の過酸化を抑制することにより、シリマリンは、アルコール、毒キノコ、薬剤及び他の毒により引き起こされる肝臓の損傷を減少し又は予防するのに役立つ。シリマリンは、脂肪の摂取に役立つ。シリマリンは、接着分子の発現を抑制することにより、抗アテローム硬化活性も有する。
【0051】
d.フラバン−3−オール:例えばカテキン及びその誘導体、エピカテキン及びその誘導体、テアフラビン。カテキン又はフラバン−3−オールは、(4−ケトン基なしの)フラボノイドの3−ヒドロキシ−誘導体であり、そして、カテキン、エピカテキン及びテアフラビンを包含する。カテキンは強力な抗酸化剤である。カテキンの最良の源は、白茶及び緑茶である。カテキンは、それらのポリフェノール抗酸化特性(これは反応性酸素種を捕捉することにおいてよく確立されている)の故に、腫瘍と戦うこと並びに免疫系機能を増強することの証拠と関係付けられる。茶は、4つの主なカテキン物質を含む:カテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)及びエピガロカテキンガレート(EGCg)。カテキンガレートは、カテキンと没食子酸とのエステルである一方で、ガロカテキンは他のカテキンと同じ炭素骨格を有するが、追加のヒドロキシル基を有する。エピガロカテキンガレート(EGCG)は、茶において最も豊富なカテキンの1つである。抗酸化剤としてのEGCGは、ビタミンC及びEよりも約25〜100倍強力である。緑茶は、実験的に誘発されたDNA損傷に対して保護することができ、そして、望ましくない細胞コロニーの開始及び進行を遅らせ又は停止させることができる。研究は、特には放射線又は化学療法をうけた患者の場合に、免疫防御特性を緑茶が与えることの証拠を示す。
【0052】
e.イソフラボン:例えば、ゲニステイン、ダイゼイン。イソフラボンは、ケトン基(3位)へのαであるが、エーテル基(2位)へのαでないベンゾピロン骨格上のフェニル基の位置によりフラボンと異なり、そして、ゲニステイン及びダイゼインを包含する。イソフラボンは、大豆おいて見られ、そして、いくつかの弱いホルモンの効果と一緒に、閉経後の女性における骨健康に対して影響を有する。イソフラボンは、胸や卵巣のような或る組織において選択的に取り込まれる。それらは、エストロゲン受容体α(ER−α)及びβ(ER−β)に結合することができる。イソフラボンは、組織におけるフリーラジカルの損傷効果を打ち消すにする抗酸化剤として働く。イソフラボンは、抗血管新生効果(新たな血管の形成を防ぐ)を有することも分かり、そしておそらく細胞分割及び細胞生存を調節する生体内の物質(増殖因子)の活性を抑制することにより、がんに関連する制御されない細胞増殖を防ぎうる。研究は、大豆に基づく大量の製品を食べる人々の集団は、一般集団(US)よりも、乳がん、大腸がん、子宮内膜がん及び前立腺がんの低い発生率を有することを示す。ゲニステイン、ダイゼイン及びグリシテインを含む大豆イソフラボン混合物の初期研究は、それらがヒトの使用にとって安全であることを発見した。動物モデルを用いた実験室研究は、大豆及びイソフラボンの両方が、若年期の間に与えられる場合に、がんに対して防御的でありうるが、胎児発達の間に与えられる場合又はエストロゲンの循環水準が低い場合に、がんを引き起こす化学物質に対する応答を刺激しうることを示した。
【0053】
f.アントシアニジン:例えばシアニジン、デルフィニジン、マルビジン。アントシアニジンは、数多くの果実、野菜及び花において、特にはブドウ及びベリーにおいて、見られる、大きな水溶性色素の群である。これらの色素は、植物に、ピンクから緋色、紫及び青に及ぶ、それらの鮮やかな色を与える。ビルベリー及び他のベリーは、高濃度のアントシアニンを有する。アントシアニンは、糖を含まないアントシアニジンアグリコン及びアントシアニングリコシドに分類される。それらは、二次的代謝物と考えられ、そして、食物添加物として許容される。科学者らは、シアニジン、ペラルゴニジン、デルフィニジン、マルビジン及びペオニジンを包含する500超の種々のアントシアニンを同定してきた。シアニジンは、他のアントシアニジンのように、抗酸化効果及びラジカル捕捉効果を有し、これは、酸化損傷から細胞を保護し及び心疾患及びがんのリスクを減少する。
【0054】
g.プロアントシアニジン。プロアントシアニジン(オリゴマー状のプロアントシアニジン OPCとしても知られる)は、ブドウの種及びブドウの皮に見られるフラボノイド複合体のクラスを形成し、ヒト生体において抗酸化剤(フリーラジカルスカベンジャー)として作用する。すなわち、プロアントシアニジンは、内因的及び環境的ストレス(例えば喫煙、汚れ、及び標準的な生体代謝プロセスを支持することなど)の効果に対して保護することに役立ちうる。該効果は、血中脂質量を下げること、血管を軟化すること、血圧を低下させること、血管硬化を防ぐこと、血液粘着性を下げること及び血栓形成(血小板血餅の一種)を防ぐことを包含しうる。加えて、研究は、心臓及び血管に対する高コレステロールの悪影響を打ち消すことにより、OPCが心臓血管疾患を防ぎうることを示した。プロアントシアニジンは、ブドウ、赤ワイン、松樹皮において発見される。ブドウの種の抽出物は、濃厚なポリフェノールの源を提供し、その多くがプロアントシアニジンである。赤ワインもまた、プロアントシアニジンに富む。プロアントシアニジンは、他のポリフェノールと共通の特性、特には、それらの還元する能力及び金属イオンをキレートする能力を共有する。しかしながら、それらのポリマー性性質は、それらを明らかに異なるものとする。それらは、タンパク質に対する高い親和性を有し、及び、腸バリアを通じたそれらの吸収は、in vitro実験により提示されるように、低い重合化の程度の分子に及び結腸のミクロフローラにより形成される代謝物に限定されそうである。プロアントシアニジンの栄養学的意義は、それらの物理化学的特性及びバイオアベイラビリティーに関して議論される。
【0055】
h.プロシアニジン。プロシアニジン(赤ワイン、ブドウ及びブドウの種、ココア、クランベリー、リンゴ、及びいくつかのサプリメント、例えばピクノジェノールなど、において高濃度で見られる、オリゴマー状のカテキン)は、血管系に対する顕著な効果を有する。リンゴは、多くの種類のポリフェノールを含み、そして主要成分はオリゴマー状のポリシアニジンである。アップルフェノンは、未熟のリンゴから商業的に生産されるリンゴポリフェノール抽出物であり、そして食物中の成分の酸化を防ぐ為に、食物添加物として用いられてきた。
【0056】
3.スチルベノイド
レスベラトロールは、潜在的な抗がん及び抗老化利益を有する興奮性スチルベノイドポリフェノールである。レスベラトロールは、抗菌性化学物質として植物により産生される。それは、ブドウの皮中に、ピーナッツ、ブルーベリー、いくつかのマツ、例えば、ヨーロッパアカマツ(Scot pine)及びイースタンホワイトパイン(eastern white pine)など、の中に、及び、オオイタドリ(giant knotweed)及びイタドリ(Japanese knotweed)(中国ではhu zhangと呼ばれる)の根及び茎中に発見される。それは、2つの構造的異性体(シス形及びトランス型)として存在する。トランス−レスベラトロールは、加熱された場合又は紫外線照射にさらされた場合に、シス形への異性化を受ける。レスベラトロールは、発がんの3つの段階(開始、促進及び進行)全てに干渉する。種々の細胞タイプにおける及び単離された細胞内系in vitroにおける実験は、レスベラトロールの薬理学的活性における多数の機構を意味づける。これらの機構は、転写因子NF−κB、シトクロムP450アイソザイムCYP1A1、アンドロゲン作用並びにシクロオキシゲナーゼ(COX)酵素の発現及び活性の抑制を包含する。レスベラトロールは、Fas/Fasリガンドに媒介されるアポトーシス、p53及びサイクリンA、B1及びサイクリン依存性キナーゼcdk1及び2を誘発すると示された。さらに、それは、抗酸化特性及び抗血管新生特性を有する。これらの発見に起因して、レスベラトロールは、現在は、がん化学的予防剤として広く調査されている。レスベラトロールは最近、神経細胞機能不全及び細胞死に対して有効であると報告され、そして、ハンチントン病及びアルツハイマー病などの病気について用いられうる。
【0057】
4.タンニン
タンニンは、赤ワイン、茶及びナッツ中に発見される大きな分子である。食物中の多くのフラボノイドも、大きな分子(タンニン)として生じる。これらは、縮合型タンニン(プロアントシアニジン)、派生したタンニン及び加水分解性タンニンを包含する。タンニンは、収斂剤であり、タンパク質に結合しそして沈殿させる苦味のある植物ポリフェノールである。該語は、タンパク質及び他の巨大分子と強力な複合体を形成するのに十分なヒドロキシル基及び他の適当な基(例えばカルボキシル基)を含む、任意の大きなポリフェノールの化合物に適用される。タンニンは、500〜20,000の分子量を有する。タンニンは、通常は、加水分解性タンニンと縮合型タンニン(プロアントシアニジン)とに分けられる。加水分解性タンニン分子の中央に、ポリオール炭水化物(通常はD−グルコース)がある。該炭水化物のヒドロキシル基は、一部が又は全体が、没食子酸(ガラクトタンニンにおいて)又はエラグ酸(エラジタンニンにおいて)などのフェノール基によりエステル化されている。加水分解性タンニンは弱酸又は弱塩基により加水分解されて、炭水化物及びフェノール酸を生成する。縮合型タンニン(プロアントシアニジンとしても知られる)は、炭素−炭素結合により連結された2〜50(又はそれより多い)フラボノイド単位のポリマーであり、これは加水分解による開裂を受けにくい。加水分解性タンニン及び多くの縮合型タンニンは水溶性である一方で、いくつかの非常に大きな縮合型タンニンは不溶性である。
【0058】
5.モノフェノール:例えば、ヒドロキシチロソール及びp−チロソール
ヒドロキシチロソールは、最高のフリーラジカル捕捉能力(ケルセチンのそれの2倍及びエピカテキンのそれの3倍超)を有する抗酸化剤であると考えられている。ヒドロキシチロソールは、オリーブに発見される主要ポリフェノールである。オリーブ加工の間に産生される排水は高水準のヒドロキシチロソールを含み、その多くはヒドロキシチロソール抽出物を製造する為に回収されることができる。ヒドロキシチロソールは、他のポリフェノールと同じ健康促進特性(アテローム性硬化症の予防、腸及び呼吸器の健康の促進及びがんの予防)を有する。ヒドロキシチロソールは、喫煙により引き起こされる酸化ストレスも減少する。
【0059】
6.カプサイシノイド
カプサイシンは、チリペッパー中の主要カプサイシノイドであり、ジヒドロカプサイシンが続く。カプサイシンは、当初は、末梢性神経障害の痛み、例えば帯状疱疹により引き起こされるヘルペス後神経痛の痛みなど、を軽減する為に、局所的な軟膏中に用いられた。今日では、カプサイシンクリームは、関節炎に伴う筋肉及び関節の軽症の疼痛及び痛み、単純な背部痛、筋挫傷及び捻挫の一時的な軽減のために必要とされる。カプサイシンへの慢性的な曝露により、ニューロンは神経伝達物質(特にはサブスタンスP)を枯渇する。これは、痛みの感覚の減少及び神経原性炎症の封鎖をもたらす。もしカプサイシンが除かれたならば、該ニューロンは回復する。米国癌研究学会は、カプサイシンがアンドロゲン依存性前立腺がん細胞のキラーであることを示す研究を報告する。
【0060】
7.クルクミン
クルクミンは、インディアンカレースパイスターメリックの活性成分である。クルクミンは、少なくとも2つの互変異性型(ケト型及びエノール型)で存在しうる。ケト型は固相において優先し、そして、エノール型は溶液において優先する。クルクミンは、その抗腫瘍特性、抗酸化特性、抗アミロイド特性及び抗炎症特性について知られる。該抗炎症作用は、ロイコトリエン抑制に起因するものであり得る。クルクミンは、フリーラジカルスカベンジャー及び抗酸化剤として作用し、脂質過酸化及び酸化的DNA損傷を抑制する。クルクミノイドは、グルタチオンS−トランスフェラーゼを誘発し、及び、シトクロムP450の強力な抑制剤である。過去10年間で、広範な研究が、クルクミンの生物学的活性及び薬理学的作用を確立する為に行われてきた。その抗がん効果は、健康細胞に対する細胞毒性効果無しに、がん細胞におけるアポトーシスを誘発するその能力に起因する。クルクミンは、転写因子NF−κB(NF−kB)の活性を妨げうる。
【0061】
好ましい実施態様において、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシ桂皮酸、例えばコーヒー酸及びフェルラ酸など;フラボン、例えばルテオリン及びジオスミンなど;フラバノン、例えばヘスペレチン及びナリンゲニンなど;フラボノール、例えばケルセチン及びミリセチンなど;カテキン及びエピカテキン;レスベラトロール;ヒドロキシチロソール;及びそれらの誘導体からなる群から選ばれるポリフェノールを含む。
【0062】
上記の概要として、非常に好ましい実施態様において、より親水性のポリフェノール(例えば・・・など)が用いられることを必要とするか、または代わりにポリフェノールが、例えば誘導体化又は複合体化により、例えば遠隔装填(remote-loading)により、水溶性にされる。
【0063】
遠隔装填の技術は、疎水性すぎる化合物に関連する潜在的な問題を処理する為に開発されてきた。該技術は、脂質二重層を超えて拡散する多くの非荷電の小分子化合物の能力を利用する。そのような化合物を安定に捕捉できるために、該化合物は、該リポソーム内部に入った後に荷電するようになる必要がある。多くの薬剤は弱酸又は弱塩基であるので、これはいわゆる「pH−シフト」により非常に容易に達成されうる。これは、該リポソームの内側で、該化合物が荷電した形にある水準にpHが調節される一方で、外側では非荷電型に向けての平衡が確立されるように該化合物のpKの近くにpHが設定される。さらに安定性を増すために、複合体化剤又は、該荷電型と沈殿を形成する剤が添加されうる。しばしば遠隔装填によって、100%に近い装填効率が達成される。
【0064】
典型的な遠隔装填方法は以下を包含する:リポソームの内側に、その対イオンが脂質二重層を超えて拡散することができるところの複合体化剤/沈殿剤の可溶性塩(例えば硫酸アンモニウム又は酢酸カルシウム)がカプセル化される。サルフェートは、いくつかのアミン塩基と結晶性複合体を形成することができ、一方でカルシウムはさまざまな弱酸分子(非荷電の対イオンアンモニア及び酢酸はそれぞれ、リポソームの外側に拡散することができる)を沈殿することができる。
【0065】
ダウンサイジング後、カプセル化されなかった塩は除かれ、そして、カプセル化されるべき化合物が添加される。pHは、荷電型の化合物と非荷電型の化合物との間に平衡が形成されるようにpK値の近くに(2単位超離れない)調節される。該非荷電の化合物が該リポソームの外側で時期尚早に沈殿しないように注意されるべきである。その後、温度が、脂質遷移温度超に上げられて、該非荷電の化合物が実際に該脂質相に進入しそして該脂質二重層を通って該リポソーム内へ移動することを許す。
【0066】
該リポソームの進入後、リポソーム内のpHの結果として、該非荷電の化合物は、プロトン化(該化合物が弱塩基である場合)又は脱プロトン化(該化合物が弱酸である場合)により、再度荷電される。リポソーム内部において、それは、複合体化イオンと相互作用しそして不溶性の複合体又は沈殿物を形成することができる荷電型である。これは、全ての化合物が該リポソームに進入するまで新たな化合物の流入を駆動する濃度勾配を形成するであろう。このプロセスを受けて、該複合体化剤の対イオンは、該非荷電型をとるであろうし、そして、(それが除去されることができる)外側の相へ去ることができるであろう。
【0067】
遠隔装填の技術は、この潜在的な問題を処理する為に開発されてきた。該技術は、該脂質二重層を超えて拡散する多くの非荷電小分子の能力を利用する。そのような化合物を安定に捕捉することができる為に、それは、該リポソーム内部に進入した後に荷電する必要がある。多くの薬剤が弱酸又は弱塩基であるので、これは、いわゆる「pH−シフト」により非常に容易に達成されうる。これは、該リポソームの内側では該化合物が荷電型である水準にpHが調節される一方で、外側で、該非荷電型への平衡が確立されるように該化合物のpKの近くにpHが設定されることを意味する。さらに安定性を増す為に、複合体化剤又は該荷電型と沈殿を形成する剤が添加されうる。遠隔装填により、100%に近い効率が達成される。
【0068】
従って、該リポソーム内部にカプセル化されるべきポリフェノールは、水に十分に可溶性である場合に誘導体化されずに用いられうる。しかしながら、多くの場合、該水溶性はかなり低く、その結果水溶性の誘導体が好ましい。水溶性誘導体は、リン酸エステル、硫酸エステル、(ヘミ)コハク酸エステル、グルクロニド、グルコシド及び他の糖誘導体を包含しうるが、これらに限定されない。
【0069】
コロイド状キャリアを形成するにおいて用いられる脂質成分、例えばリポソームなどは、種々のベシクル形成性脂質、例えばリン脂質、スフィンゴ脂質及びステロールなど、から選ばれうる。これらの塩基性成分の、例えばスフィンゴミエリン及びエルゴステロールによる置換(完全な又は部分的)が可能である。本発明に従うリポソームは、慣用のリポソーム及び長時間循環するリポソームの調製の為の当技術分野で既知の一般的方法に従い調製されてよく、それは、脂質膜水和、溶媒注入、高せん断混合、押出、ソニケーション及びホモジナイゼーションを包含するがこれらに限定されない。
【0070】
長時間循環する挙動を増す為に、水溶性ポリマーにより誘導体化された最大で20モル%の両親媒性ベシクル形成性脂質を任意的に含み及び10モル%以下の負に荷電したベシクル形成性脂質を任意的に含む、非荷電のベシクル形成性脂質から構成されるリポソームが適当であり、該リポソームは約40〜200nmのサイズ範囲の選択された平均粒子直径を有し、及び、該水性内部に捕捉された1以上のポリフェノール又はポリフェノール誘導体を含む。
【0071】
適当な長時間循環するコロイド状キャリアは、非常に好ましい薬物動態、好ましい組織分布挙動及び十分な半減期を有する。加えて、ポリフェノールと該キャリア系との間の安定な連合が観察され、一方でポリフェノールによる該装填は効率的である。さらに、活性が要求される部位でのよい生物学的利用可能性が観察される。
【0072】
該水性内部にポリフェノール又はポリフェノール誘導体を溶解することによる活性成分の該リポソームへの受動的装填は、十分なカプセル化にいたる為に十分でありうるが、他の方法も用いられうる。カプセル化プロセスの効率を増すために、リポソームは、調製後に遠隔装填により装填されうる(すなわち、リポソーム外水性環境中にカプセル化されるべき該化合物を溶解すること続く該リポソーム内部への該化合物の流入を含む一方向装填を生じる(これは、リポソーム二重層の内側と外側との間のpHの違いにより又はキレート剤、複合体化剤又は、化合物がリポソーム内部へ進入した時に該化合物の沈殿を引き起こしうる剤により、駆動される))。この方法を用いることにより、理論上は100%の装填効率を達成できる。この装填方法は、カルボン酸基によりポリフェノール、例えばフェノール酸などについて、硫酸基、リン酸基などによりエステル化されたポリフェノールについて、およびフェノール基だけにより特徴付けられる誘導体化されていないポリフェノールについても用いられうる。後者は、陽イオン、例えば、装填の際のpHが十分高く維持される場合に、亜鉛、第二鉄、第一鉄、カルシウム及び他の非毒性金属イオンなどにより、該リポソーム内部に捕捉されることができる。
【0073】
好ましい実施態様において、該長時間循環するコロイド状キャリアは、リポソーム、ナノカプセル又はポリマーミセルである;特には生理学的条件で中性又は負の電荷を有するものである。
【0074】
他の適当な長時間循環するキャリアは、リポタンパク質及び特には高密度リポタンパク質及び低密度リポタンパク質に基づくことができ、並びに、リポタンパク質模倣物又はネオリポタンパク質(neo-lipoprotein)に基づくことができる。長時間循環するミクロベシクル、及び特には長時間循環するリポソーム、ナノカプセル及びポリマーミセルが、特定の部位へ、例えば腫瘍へ、ポリフェノール薬剤を効率よく輸送することができることが発見された。
【0075】
本発明に従い用いられる該長時間循環するコロイド状キャリアは典型的には、He/Neレーザーを備えられたMalvern4700(商標)システムを用いる動的光散乱により測定されたときに、450未満、好ましくは300nm未満の平均粒子直径を有し、好ましくは約40〜200nmの平均粒子直径を有する。
【0076】
最も好ましい実施態様において、該コロイド状キャリアは、非荷電のベシクル形成性脂質、ポリエチレングリコールにより誘導体化された0〜20モル%の両親媒性ベシクル形成性脂質、0〜50モル%のステロール、及び0〜10モル%の負に荷電したベシクル形成性脂質を含む長時間循環するリポソームにより形成され、このリポソームは約40〜200nmのサイズ範囲内の選ばれた平均粒子直径を有する。
【0077】
そのような長時間循環するリポソームは当技術分野で既に知られている。より特には、これらの既知のリポソーム系は、国際公開第02/45688号パンフレットにおいて炎症性疾患の部位特異的処置において有用であると記載されている。本発明において用いられるべき適当な組成物の調製のために、該国際公開第02/45688号パンフレットにおいて記載された調製方法が引用することにより本明細書に組み込まれる。この文献国際公開第02/45688号パンフレットにおいて、欧州特許出願公開第0 662 820号明細書に記載されたリポソーム系が「長時間循環する」ものになるために適合される。
【0078】
欧州特許出願公開第1 044 679号明細書は、リポソーム中に含まれる薬剤を有するリポソームに関し、これは血液中での確保された安定性を有すると述べられる。加えて、これらのリポソームは、プロテオグリカンに富む領域への能動的ターゲッティング特性を有する。これらの領域は、いくつかの疾患によりプロテオグリカンの過剰産生が生じているので(該プロテオグリカンは細胞表面を陰イオン性に維持する)、形成される。これらの陰イオン性表面にリポソームをターゲッティングする為に、該リポソームは性質として陽イオン性であることを必要とする。それに加えて、該リポソームは、生理学的pH範囲内で正の電荷を取る塩基性化合物の存在を要求する。
【0079】
本発明のリポソームは、欧州特許出願公開第1 044 679号明細書に記載された能動的ターゲッティング特性を要求しない。すなわち、腫瘍部位に又は抗炎症活性が要求される部位(炎症の部位)にポリフェノールを含むコロイド状キャリアを選択的に運ぶ為の特異的なホーミング基は要求されない。しかしながら、さらにより高い程度で該選択性を増す為に、たとえば、腫瘍細胞又は腫瘍内又は腫瘍周囲の細胞との相互作用可能性を増すように、該キャリア分子の外側表面での腫瘍特異的抗体又は受容体リガンド又は食物化合物を取り付け又は組み込むことも可能である。腫瘍部位への、本発明の中性の又は任意的に負に荷電したリポソームの「ターゲッティング」は、腫瘍血管系における上記同定された増加した透過性により支配される。すなわち、本発明は、大部分について、能動的ターゲッティングよりもむしろ、受動的蓄積に基づく。
【0080】
本発明が機能する炎症性障害の例は、炎症関節;(MS又は他の神経炎症疾患に関連する)中枢神経系における障害;肝臓における障害(自己免疫、肝炎);腸における障害(クローン病、大腸炎);皮膚及び結合組織における障害;筋肉組織における障害(多発性筋炎)及び移植後の拒絶を示す臓器中又は周囲における障害である。
【0081】
本発明において有用なコロイド状キャリア、例えばリポソームなどは、正の電荷を有すべきでなく、従って、生理学的pHで正の電荷を該キャリアに与える構成成分を含むべきでない;すなわち、生理学的pH(6〜8のpHである)で、本発明において用いられるべき該キャリアの全体の電荷が、中性又は負に荷電しているべきである。好ましいリポソームは、非荷電のベシクル形成性脂質に基づくものである。中性又は非荷電のベシクル形成性脂質は、適当な長時間の循環時間をもたらす。
【0082】
典型的には、5〜10モル%の負に荷電した脂質が存在しうる。本発明において用いられるミクロベシクルを調製するために用いられるべき好ましい脂質は、ステロール、例えばコレステロール及び/又はエルゴステロール、並びにそれらの誘導体との組合せにおける飽和したリン脂質及びスフィンゴ脂質を含む。これらの塩基性成分の、例えばスフィンゴミエリンによる、置換(完全な又は部分的な)が可能であるとみえた。
【0083】
血液循環系における適当な安定性を確保するために、10〜50モル%のステロールがミクロベシクル物質中に存在すべきである。適当なリポソーム構成成分は、上記同定された国際公開第02/45688号パンフレット及び欧州特許出願公開第0 662 820号明細書に記載されている。より好ましくは、該リポソームは、少なくとも1種類のポリマー脂質複合物、例えばポリアルキレングリコールにより、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)により誘導体化された脂質など、を含む。適当なポリマー−脂質−複合物は、200〜30,000ダルトンの分子量を有する。
【0084】
これらのポリマー−脂質−複合物において用いられるべき他の適当な候補は、水溶性ポリマー、例えば:ポリ((誘導体化された)炭水化物)、水溶性ビニルポリマー(例えばポリ(ビニルピロリドン)、ポリアクリルアミド及びポリ(アクリロイルモルホリン)及びポリ(メチル/エチルオキサゾン))などである。これらのポリマーは、慣用のアンカリング分子を通じて、該脂質に結合される。適当には、ポリマー脂質複合物の濃度は、ベシクル形成性脂質の合計モル比に基づき、0〜20モル%、好ましくは1〜10モル%である。これらのポリマー−脂質−複合物の存在は、該循環時間に対する望ましい効果を有する。しかしながら、特定の脂質組成物を注意深く選択することにより、長い循環時間に適当な物理的仕様が、ポリマー−脂質−複合物を用いること無しに得られうる;例えば、ジステアリルホスファチジルコリン及びコレステロール及び/又は、スフィンゴミエリンのようなスフィンゴ脂質の50〜100nmのリポソーム。該リポソームは追加的に、1以上の種類の荷電したベシクル形成性脂質、例えばホスファチジルグリコール、ホスファチジルエタノールアミン、(ジ)ステアリルアミン、ホスファチジルセリン、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン、ホスファチジン酸及びコレステロールヘミスクシネートなど、を含みうる。典型的には、荷電したベシクル形成性脂質の濃度は、該ベシクル形成性脂質のモル比に基づき、0〜15モル%、好ましくは0〜10モル%である。
【0085】
本発明において用いられるべきポリマーミセルは、リポソームの調製の為の上記で記載された方法に従い適合される欧州特許出願公開第1 072 617号明細書に記載された方法に従い作成されうる。
【0086】
本明細書において、荷電した/非荷電の/両親媒性のなどが言及される場合、この言及は生理学的条件に関する。
【0087】
述べられたとおり、本発明は、本明細書中の上記で定義されたとおりの、コロイド状キャリア中にカプセル化されたポリフェノールを含む医薬組成物にも関する。すなわち、本発明は、比較的低い用量でポリフェノールを投与するのに適する、がんの又は抗炎症の又は自己免疫状態の処置の為の又はこれらの処置における医薬を提供する。適当には、該医薬は、非経口の又は局所的適用の為の医薬である。しかしながら、経口経路又は肺経路を通じた適用も可能である。
【0088】
本発明に従い、腫瘍増殖における有効な抑制が、1週間当たり0.5〜20だけ、好ましくは1〜10mg/kg体重の比較的低い用量による特定の実施態様において観察された。
【0089】
抗炎症効果を与える為の用量について又は自己免疫状態の観点における効果を与える為の用量について、同様の範囲が、例として与えられる。
【0090】
本発明に従い用いられる組成物は、1以上の追加的成分を含みうる。
【0091】
本発明に従い用いられるべき組成物は適当には、細胞増殖抑制剤及び細胞毒性剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、好ましくはドキソルビシン及びタキソールからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含み又は包含する。
【0092】
さらに、免疫調節剤及び免疫抑制剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの成分を含む組成物が適当に用いられうる。そのような成分の例は、メトトレキセート、シクロホスファミド、シクロスポリン、ムラミルペプチド、サイトカイン及びペニシラミンである。
【0093】
本発明は今、以下の実施例を参照しながら、より詳細に説明されるであろう。本実施例において、図面が言及される。ここで、
図1は、腫瘍サイズに対するコーヒー酸の効果を示す。
別記されない限り、言及されるいずれの百分率も、最終組成物に対する重量%である。
【実施例1】
【0094】
実施例1−リポソーム調製
【0095】
長時間循環するリポソームが、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)(Lipoid GmbH、ルートビヒスハーフェン、ドイツ)、コレステロール(Chol)(Sigma、セントルイス、米国)、及びポリ(エチレン)グリコール2000−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)(Lipoid GmbH)を、夫々1.85:1.0:0.15のモル比で、丸底フラスコ中のクロロホルム:メタノール(2:1 体積:体積)中に溶解することにより調製された。1000〜2000μmol合計脂質の典型的なバッチサイズが用いられた。
【0096】
脂質膜が、ロータリーエバポレーターで減圧下で作成され、そして、窒素の流の下で乾燥された。リポソームが、100mg/mlコーヒー酸(Sigma、セントルイス、米国)の水溶液の添加により形成された。リポソームサイズは、50nmの最終孔サイズを有するポリカーボネート膜(Nuclepore、プレザントン、米国)を通じた複数の押出工程により減少された。カプセル化されなかった物質は、10mM Hepes/135mM NaCl−バッファーpH7に対する、バッファーの繰り返しの交換を伴う4℃での透析により除去された。
【0097】
該長時間循環するリポソームの平均粒子サイズは、動的光散乱により、0.1の多分散値を有する0.1マイクロメートルであると決定された。多分散値は0〜1で変わる。1の値は、粒子サイズにおける大きな変動を示すが、0の値は、完全な単分散系を示す。すなわち、本調製物は、粒子サイズにおける限定された変動を示した。
【0098】
リポソーム分散物中の脂質の量は、Rouserに従う測色的ホスフェート測定(Lipids 5 (1970),494−496)により測定された。
【0099】
該リポソーム中のコーヒー酸の濃度はHPLCにより測定された。該リポソームは、20〜30μgコーヒー酸/mg脂質を含んだ。
【実施例2】
【0100】
B16マウスメラノーマ細胞及びC26マウス大腸がん細胞が、2mMのL−グルタミン、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン及び0.25μg/mlアンホテリシンB(Gibco)を補われた10%(v/v)胎児ウシ血清を含むDMEM培地(Gibco、ブレダ、オランダ)中で、37℃で、5%CO含有の加湿された雰囲気下で培養された。
【0101】
オスのBalb/c及びC57Bl/6マウス(6〜8週齢)が、Charles Riverから得られ、随意に利用可能な標準的なげっ歯類固形飼料及び水により、及び12時間の明/暗サイクルにより、標準的なハウジング中で飼われた。実験は、国家規制に従い、及び地方動物実験倫理委員会により承認されて、実施された。
【0102】
マウスは、腫瘍が明白になった時に、遊離のコーヒー酸又は実施例1において調製されたリポソームコーヒー酸の指示された用量の単回静脈内注入を受けた。
【0103】
処置後7日目で、腫瘍サイズが測定され、そして、腫瘍体積が、等式V=0.52×a×bに従い計算された。ここでaは最小の及びbは最大の表面直径である。遊離コーヒー酸又はリポソームコーヒー酸は、20mg/kgの用量で、腫瘍細胞接種後の1、7及び14日目で又は7日目若しくは14日目での単回注入により、静脈内に投与された。
【0104】
参照として、腫瘍細胞接種後、B16F10腫瘍は約7日で明白になり、C26腫瘍は約11日で明白になった。
【0105】
腫瘍サイズは定期的に測定され、そして腫瘍体積は上記で記載されたとおりに計算された。
【0106】
統計学分析のために、データは、Dunnett事後検定による1要因ANOVAにより、GraphPad InStatバージョン3.05for Windows(登録商標)(GraphaPad Software(サンディエゴ、米国))を用いて、分析された。データは、Bartlett検定に従い適切な場合に、集団のSDの間の有意差について補正する為に対数的に変換された。スピアマンの順位相関係数が、用量応答を確認するために計算された。
【0107】
腫瘍増殖に対する遊離コーヒー酸又はリポソームコーヒー酸の効果を比較する為に、B16又はC26腫瘍を有するマウスが、腫瘍が明白になったときに、いずれかの配合物の単回注入を受けた。7日目及び14日目の間(7日目での第2回の注入後)、リポソームコーヒー酸は、対照と比較して、92%の腫瘍増殖抑制を結果し(p<0.05)、一方で、遊離コーヒー酸は、腫瘍体積を減少しなかった。14日目で、マウスは、第3回の注入を受けた。この点において、図1を参照されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経口投与の為の医薬組成物であって、該組成物が非荷電のベシクル形成性脂質を含む長時間循環するコロイド状キャリアを含み、該コロイド状キャリアが該キャリア内部に捕捉された1以上のポリフェノール又はポリフェノール誘導体を含む上記組成物。
【請求項2】
該コロイド状キャリアが、生理学的条件下で中性又は負の電荷を有する、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
該コロイド状キャリアが、リポソーム、ナノカプセル又はポリマーミセルである、請求項1又は2の医薬組成物。
【請求項4】
該コロイド状キャリアが、約40〜200nmのサイズ範囲の選ばれた平均粒子直径を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項の医薬組成物。
【請求項5】
水溶性ポリマーにより誘導体化された最大で20モル%の両親媒性ベシクル形成性脂質を含む、請求項1〜4のいずれか1項の医薬組成物。
【請求項6】
最大で10モル%の負に荷電したベシクル形成性脂質を含む、請求項1〜5のいずれか1項の医薬組成物。
【請求項7】
最大で50モル%のステロールを含む、請求項1〜6のいずれか1項の医薬組成物。
【請求項8】
ヒドロキシ桂皮酸、例えばコーヒー酸及びフェルラ酸など;フラボン、例えばルテオリン及びジオスミンなど;フラバノン、例えばヘスペレチン及びナリンゲニンなど;フラボノール、例えばケルセチン及びミリスチンなど;カテキン及びエピカテキン;レスベラトロール;ヒドロキシチロソール;及びそれらの誘導体からなる群から選ばれるポリフェノールを含む、請求項1〜7のいずれか1項の医薬組成物。
【請求項9】
炎症又は自己免疫疾患及びがんの処置、特には部位特異的処置の為に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物を使用する方法。
【請求項10】
炎症又は自己免疫疾患及びがんの処置、特には部位特異的処置において有効な医薬の調製為に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物を使用する方法。
【請求項11】
該ポリフェノールが水溶性型で該医薬中に用いられる、炎症した組織又は領域の非経口投与後の部位特異的処置の為の、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
リウマチ関節炎又は多発性硬化症の処置における、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
脱プロトン化可能なヒドロキシル基を有するポリフェノール又はポリフェノール誘導体を長時間循環するコロイド状キャリア中に装填する方法であって、(a)長時間循環するコロイド状キャリア、好ましくはリポソームの懸濁物を調製すること、該リポソームは該リポソームの外側よりも該リポソームの内側により高い金属イオン濃度を有し、該金属イオンは、負に荷電したポリフェノール又はポリフェノール誘導体と比較的高いpHで複合体又は沈殿を形成することができる、(b)ポリフェノール又はポリフェノール誘導体化合物を該懸濁物に添加すること、及び(c)該リポソームの外側における濃度よりも高いリポソームの内側における化合物の最終濃度への、該リポソームへの該化合物の取り込みを達成すること、を含む上記方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−512384(P2010−512384A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541243(P2009−541243)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/NL2007/000310
【国際公開番号】WO2008/072954
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(509163824)ユニベルシテイト ユトレヒト ホールディング ビー.ブイ. (3)
【Fターム(参考)】