説明

ポリプロピレン/ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物よりなる自動車外装部品

【課題】充分に低い線膨張係数を有しつつ、市場での吸湿による特性変化がなく、車両軽量化に大きく寄与可能な樹脂組成物からなる自動車外装部品を提供する。
【解決手段】(a)ポリオレフィン系樹脂と、(b)ポリフェニレンエーテルと、(c)水添ブロック共重合体と、(d)マイカとを含有する樹脂組成物からなる自動車外装部品であり、これらの材料の含有量及び構成について特定されており、かつISO179−1/1eAに準拠して測定された−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m以上であり、ISO294−1に準拠して作製された多目的試験片を用いてISO6721−5に準拠して測定された140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPa以上である、樹脂組成物からなる自動車外装部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン/ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物よりなる自動車外装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の外装部品としては、価格、汎用性の面より、鋼板が多く使用されている。
一方、最近の事例として、一部車種へ耐熱性の高いポリアミド/ポリフェニレンエーテル系ポリマーアロイを自動車の外装部品として使用する動きがある。
ポリアミド/ポリフェニレンエーテル系ポリマーアロイに代表される樹脂は、熱に対する膨張係数が高く、その膨張を抑制するため、例えば、無機フィラーを充填する方法で、低線膨張化が図られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
更に、近年の動きとして世界的な燃費規制の大幅強化等へ対応するため、自動車メーカーは大幅な車両軽量化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/092275号
【特許文献2】国際公開第2006/077818号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のポリアミド/ポリフェニレンエーテル系ポリマーアロイに、無機フィラーを配合すると、密度(比重)が高くなり、意図したような車両軽量化が図れないという問題がある。また更に、ポリアミド系の材料においては、その特性上、市場での実使用時に吸湿によって弾性率の低下と寸法の変化が生じるという問題もあり、新たな材料が求められているのが実情である。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、充分に低い線膨張係数を有しつつ、市場での実使用時に吸湿による特性変化がなく、車両軽量化に大きく寄与可能な樹脂組成物からなる自動車外装部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル、特定の水添ブロック共重合体及びマイカを主成分とし、充分に低い線膨張係数を有し、低密度で、高い熱時剛性と高い低温衝撃性を有する樹脂組成物からなる自動車外装部品が、上記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0007】
〔1〕
(a)ポリオレフィン系樹脂と、
(b)ポリフェニレンエーテルと、
(c)少なくとも2つの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体と、
(d)マイカと、
を、含有する樹脂組成物からなる自動車外装部品であって
前記(a)ポリオレフィン系樹脂は、(a1)ポリプロピレン、(a2)酸変性されたポリプロピレン、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体から構成されており、
前記(a)ポリオレフィン系樹脂と、前記(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量を100質量部としたとき、
前記(a)ポリオレフィン系樹脂が30〜60質量部、
前記(b)ポリフェニレンエーテルが40〜70質量部、
前記(c)水添ブロック共重合体が5〜15質量部、
それぞれ含有されており、
前記(d)マイカが、平均粒子径3〜10μmのマイカであって、その含有量が、樹脂組成物すべてを100質量%としたとき、5〜15質量%であって、
前記(a2)酸変性されたポリプロピレンの含有量が、前記(d)マイカ100質量部に対して20〜60質量部であって、
少なくとも前記(a1)ポリプロピレン及び前記(a2)酸変性されたポリプロピレンが連続相を形成し、少なくとも前記(b)ポリフェニレンエーテルが分散相を形成する分散形態を呈し、
ISO179−1/1eAに準拠して測定された−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2以上であり、
ISO294−1に準拠して作製された多目的試験片を用いて、ISO6721−5に準拠して測定された140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPa以上である、樹脂組成物からなる自動車外装部品。
〔2〕
ISO75−1に準拠して測定された曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度が、125℃以上である前記〔1〕に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
〔3〕
ISO1133に準拠して、試験温度250℃、荷重10kgで測定されたMFR(MFR(250))、試験温度280℃、荷重5kgで測定されたMFR(MFR(280))、及びこれらの比(FFR)が、それぞれ、下記の式を満足する前記〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
MFR(250) : 10〜30g/10分
MFR(280) : 15〜60g/10分
FFR=MFR(280)/MFR(250) : 1.2〜3.0
〔4〕
ISO1183のA法に準拠して測定された密度が、1.12g/cm3以下である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
〔5〕
ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定された前記(a1)ポリプロピレンのMFRが15〜35g/10分である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
〔6〕
前記(b)ポリフェニレンエーテルは、還元粘度(ウベローデ粘度計,0.5g/dlクロロホルム溶液,30℃で測定)が、0.3〜0.4dl/gのポリフェニレンエーテルである前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
〔7〕
自動車用フェンダーである前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低比重であるにも関わらず、優れた高温剛性と低温耐衝撃性を有し、線膨張係数も低く、車両軽量化に大きく寄与することができる樹脂組成物からなる自動車外装部品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0010】
〔自動車外装部品〕
本実施形態の自動車外装部品は、
(a)ポリオレフィン系樹脂と、
(b)ポリフェニレンエーテルと、
(c)少なくとも2つの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体と、
(d)マイカと、
を、含有する樹脂組成物からなる自動車外装部品である。
前記(a)ポリオレフィン系樹脂は、(a1)ポリプロピレン、(a2)酸変性されたポリプロピレン、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体から構成されている。
前記(a)ポリオレフィン系樹脂と、前記(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量を100質量部としたとき、
前記(a)ポリオレフィン系樹脂が30〜60質量部、
前記(b)ポリフェニレンエーテルが40〜70質量部、
前記(c)水添ブロック共重合体が5〜15質量部、
それぞれ含有されている。
前記(d)マイカは、平均粒子径3〜10μmのマイカであって、その含有量は、樹脂組成物すべてを100質量%としたとき、5〜15質量%である。
前記(a2)酸変性されたポリプロピレンの含有量は、前記(d)マイカ100質量部に対して20〜60質量部である。
前記樹脂組成物は、少なくとも前記(a1)ポリプロピレン及び前記(a2)酸変性されたポリプロピレンが連続相を形成し、少なくとも前記(b)ポリフェニレンエーテルが分散相を形成する分散形態を呈している。また、ISO179−1/1eAに準拠して測定された−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2以上であり、ISO294−1に準拠して作製された多目的試験片を用いて、ISO6721−5に準拠して測定された140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPa以上である。
【0011】
((a)ポリオレフィン系樹脂)
本実施形態の自動車外装部品を成形するために用いる樹脂組成物を構成する(a)ポリオレフィン系樹脂は、(a1)ポリプロピレン、(a2)酸変性されたポリプロピレン、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体から構成されている。
(a)ポリオレフィン系樹脂の量は、(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテルの合計を100質量部としたとき、30〜60質量部である。
好ましい(a)ポリオレフィン系樹脂の下限量は35質量部であり、より好ましい下限量は40質量部である。また、好ましい(a)ポリオレフィン系樹脂の上限量は55質量部であり、より好ましい上限量は50質量部である。
(a)ポリオレフィン系樹脂が連続相を維持し、流動性の大幅な低下や、耐薬品性・耐油性の大幅な低下を抑制するためには、(a)ポリオレフィン系樹脂量が下限量を下回わらないようにする必要があり、熱時剛性や耐熱性を低下させないためには、(a)ポリオレフィン系樹脂量が上限量を超えないようにすることが必要である。なお、(a)ポリオレフィン系樹脂を構成する(a1)、(a2)、(a3)の個別の状態については後述する。
【0012】
<(a1)ポリプロピレン>
(a)ポリオレフィン系樹脂を構成する(a1)ポリプロピレンとしては、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性プロピレンホモポリマー、結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。
ここでいう結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体とは、重合の第一工程で結晶性プロピレンホモポリマー部分を重合し、次いで重合の第二工程以降でプロピレンとエチレン及び/又は少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等)とを共重合して得られる共重合体である。
【0013】
(a1)ポリプロピレンの製造方法については特に限定されず、例えば、三塩化チタン触媒又は塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等と、アルキルアルミニウム化合物の存在下で、重合温度0〜100℃の範囲で、重合圧力3〜100気圧の範囲で重合する等の方法が挙げられる。この際、重合体の分子量を調整するために水素等の連鎖移動剤を添加してもよい。重合方式は特に限定されず、バッチ式、セミバッチ式、連続式等のいずれの方式でもよく、重合方法も、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合法やスラリー重合法、無溶媒下におけるモノマー中での塊状重合法、ガス状モノマー中での気相重合法等、いずれの方法であっても適用可能である。
さらに、得られる(a1)ポリプロピレンのアイソタクティシティと重合活性を高めるため、上記重合触媒の他に、第三成分として電子供与性化合物を内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。この電子供与性化合物の種類としては特に限定されず、公知のものを使用できる。例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル等のエステル化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸エステル;ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸誘導体;アルコキシエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステル、芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類及び/又は各種フェノール類等が挙げられる。
【0014】
(a1)ポリプロピレンは、結晶性や融点の異なる複数のポリプロピレンを併用してもよい。
(a1)ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)[ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定]は、15〜35g/10分の範囲内であることが好ましい。より好ましい下限は20g/10分であり、さらに好ましい下限は22g/10分である。また、より好ましい上限は32g/10分であり、さらに好ましい上限は30g/10分である。(a1)ポリプロピレンのMFRを上記範囲とすることにより、樹脂組成物の流動性や成形体の剛性のバランスが良好となる傾向にある。
複数のMFRの異なる(a1)ポリプロピレンを使用した場合においても、その(a1)ポリプロピレン混合物のMFRは、上記範囲内であることが好ましい。
【0015】
樹脂組成物における(a1)ポリプロピレンの好ましい量は、(a)ポリオレフィン系樹脂100質量%としたとき、40〜90質量%である。より好ましい下限は45質量%であり、さらに好ましい下限は50質量%である。より好ましい上限は80質量%であり、さらに好ましい上限は70質量%であり、さらにより好ましい上限は65質量%である。
樹脂組成物が安定した連続相を維持し、流動性の大幅な低下や、耐薬品性・耐油性の大幅な低下を抑制するためには、(a1)ポリプロピレン量が下限量を下回らないようにすることが好ましく、熱時剛性や耐熱性の低下を抑制するためには、(a1)ポリプロピレン量が上限を超えないようにすることが好ましい。
【0016】
(a1)ポリプロピレンには、公知の各種安定剤を添加してもよい。安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。安定剤の配合量は、(a1)ポリプロピレン100質量部に対して5質量部未満が好ましい。
(a1)ポリプロピレンには、樹脂組成物の特性を損なわない範囲内であれば、その他公知の添加剤を添加してもよい。添加量は、(a1)ポリプロピレン100質量部に対して10質量部未満が好ましい。
【0017】
<(a2)酸変性されたポリプロピレン>
(a)ポリオレフィン系樹脂を構成する(a2)酸変性されたポリプロピレンとは、上述したポリプロピレンの主鎖及び/又は側鎖に酸成分が化学的に結合し、かつ、樹脂として酸性を保持しているポリプロピレンを指す。
(a2)酸変性されたポリプロピレンは、公知の方法により製造できる。例えば、ポリプロピレンと酸成分(例えば、α、β−不飽和カルボン酸又はその誘導体)とを、ラジカル発生剤の存在下に溶融状態で反応させることによって得ることができる。なお製法はこの例に限定されるものではない。
本実施形態の自動車外装部品成形用の樹脂組成物における(a2)酸変性されたポリプロピレン成分の量は、後述する(d)マイカ100質量部に対して20〜60質量部である。好ましい下限量は23質量部である。好ましい上限量は55質量部であり、より好ましくは45質量部であり、さらに好ましくは40質量部であり、さらにより好ましくは30質量部である。樹脂組成物の引張強度及び曲げ強度を低下させないためには、(a2)酸変性されたポリプロピレン成分量は下限量を下回らないことが好ましく、クリープ特性を低下させないためには上限量を超えないことが好ましい。
【0018】
<(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体>
本実施形態の自動車外装部品成形用の樹脂組成物においては、上述した(a)ポリオレフィン系樹脂が、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体を含む。
(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体は市販されており公知である。例えば、特公平4−12283号公報、特開昭60−35006号公報、特開昭60−35007号公報、特開昭60−35008号公報、特開平5−155930号公報、特開平3−163088号公報、米国特許5272236号公報に開示されている。
(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレン単位と所定のα−オレフィンモノマーを共重合することによって製造できる。
前記エチレン単位と共重合させるα−オレフィンモノマーとしては、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1、トリデセン−1、テトラデセン−1、ペンタデセン−1、ヘキサデセン−1、ヘプタデセン−1、オクタデセン−1、ノナデセン−1、エイコセン−1、イソブチレン等の脂肪族置換ビニルモノマー;スチレン、置換スチレン等の芳香族系ビニルモノマー;酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステル等のエステル系ビニルモノマー;アクリルアミド、アリルアミン、ビニル−p−アミノベンゼン、アクリロニトリル等の窒素含有ビニルモノマー;ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、イソプレン等のジエン等が挙げられる。
【0019】
(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィン1種以上とのコポリマーが好ましく、より好ましくは炭素数3〜16のα−オレフィン1種以上とのコポリマーであり、さらに好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィン1種以上とのコポリマーである。
本実施形態における(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体の好ましい量は、(a)ポリオレフィン系樹脂を100質量%としたとき20〜60質量%である。より好ましい上限量は45質量%であり、より好ましい下限量は25質量%である。樹脂組成物の熱時剛性を低下させないためには、上限量を超えないことが好ましく、自動車外装部品としての衝撃性を低下させないためには下限量を下回らないことが好ましい。
【0020】
((b)ポリフェニレンエーテル)
本実施形態における自動車外装部品用の樹脂組成物を構成する(b)ポリフェニレンエーテルとしては、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を有する単独重合体及び/又は共重合体が好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
前記式(1)中、Oは酸素原子、R1〜R4は、それぞれ独立して水素、ハロゲン、第一級又は第二級のC1〜C7アルキル基、フェニル基、C1〜C7ハロアルキル基、C1〜C7アミノアルキル基、C1〜C7ヒドロカルビロキシ基、ハロヒドロカルビロキシ基(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)からなる群より選ばれるいずれかを表す。
【0023】
(b)ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、日本国特公昭52−17880号公報に記載されているような2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)のような、ポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチル−1,4−フェノールと2,3,6−トリメチル−1,4−フェノールとの共重合体、又はこれらの混合物が好ましい。
【0024】
(b)ポリフェニレンエーテルの還元粘度(ウベローデ粘度計,0.5g/dlクロロホルム溶液,30℃で測定)は、0.3〜0.4dl/gの範囲であることが好ましい。より好ましい下限値は0.32dl/gである。より好ましい上限値は0.38dl/gであり、さらに好ましい上限値は0.35dl/gである。
薄肉の自動車外装部品を成形する際の充填速度を向上させるためには、上限値を超えないことが好ましく、機械的強度の低下を抑制するには下限値を下回らないことが好ましい。
【0025】
(b)ポリフェニレンエーテルは、2種以上の固有粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものであってもよい。例えば、固有粘度0.40dl/g以下のポリフェニレンエーテルと固有粘度0.45dl/g以上のポリフェニレンエーテルとの混合物であってもよいが、混合物の固有粘度は0.3〜0.4dl/gの範囲であることが好ましい。
【0026】
(b)ポリフェニレンエーテルには、公知の各種安定剤を添加してもよい。
安定剤としては、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛等の金属系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、リン酸エステル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤が挙げられる。安定剤の配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して5質量部未満であることが好ましい。
(b)ポリフェニレンエーテルには、その他公知の添加剤を添加してもよいが、添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満が好ましい。
【0027】
本実施形態における(b)ポリフェニレンエーテルの量は、(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテルの合計を100質量部としたとき、40〜70質量部である。
(b)ポリフェニレンエーテルの上限量は65質量部が好ましく、より好ましい上限量は60質量部である。また、(b)ポリフェニレンエーテルの下限量は45質量部が好ましく、より好ましい下限量は50質量部である。
安定した分散状態を維持し、流動性や耐薬品性・耐油性の大幅な低下を抑制するためには、(b)ポリフェニレンエーテル量が上限量を超えないようにすることが好ましく、熱時剛性や耐熱性を低下させないためには、(b)ポリフェニレンエーテル量が下限を下回らないようにすることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、樹脂組成物は、少なくとも(a1)ポリプロピレン及び(a2)酸変性されたポリプロピレンが連続相を形成し、少なくとも(b)ポリフェニレンエーテルが分散相を形成した分散形態をとっている。(b)ポリフェニレンエーテルが連続相を形成すると、流動性・耐油性・成形片表面外観の悪化といった現象が発生する可能性が高まる。
前記(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体は、(a1)成分及び(a2)成分中に独立して存在する分散状態をとる場合や、(b)成分中に取り込まれて存在する分散状態をとる場合がある。
【0029】
((c)少なくとも2つの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体)
本実施形態の自動車外装部品成形用の樹脂組成物を構成する(c)水添ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とするブロックを少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とするブロックを少なくとも1個含むブロック共重合体の水素添加物である。
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でスチレンが特に好ましい。
また、前記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせてもよい。これらの中で特にブタジエンが好ましい。
(c)水添ブロック共重合体の、芳香族ビニル化合物を主体とするブロック及び共役ジエン化合物を主体とするブロックの、それぞれの「主体とする」とは、当該ブロックにおいて、少なくとも50質量%が芳香族ビニル化合物又は共役ジエン化合物であることを意味するものとし、70質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
(c)水添ブロック共重合体の水素添加される前の結合形式としては、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(S)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)が、S−B−S型、S−B−S−B型の中から選ばれる結合形式となっていることが好ましい。特に、S−B−S型がより好ましい。これらの型は、各々単独でも、混合物であってもよい。
【0031】
(c)水添ブロック共重合体とは、上述した芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体中の脂肪族二重結合を水素添加処理することにより、0を超えて100%までの範囲内の二重結合に対する水素添加処理割合において制御したものをいう。
(c)水添ブロック共重合体の好ましい水素添加率は90%以上であり、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
上述した(c)水添ブロック共重合体は、本実施形態の効果を損なわない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を、各々について2種以上を混合して用いてもよい。
(c)水添ブロック共重合体の添加量は、(a)ポリオレフィン系樹脂と、(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量を100質量部としたとき、(c)水添ブロック共重合体が5〜15質量部である。好ましい下限は7質量部であり、好ましい上限量は13質量部である。樹脂組成物の熱時剛性を低下させないためには、上限量を超えないことが必要であり、自動車外装部品としての衝撃性を低下させないためには下限量を下回らない必要がある。
【0032】
((d)マイカ)
本実施形態の自動車外装部品成形用の樹脂組成物を構成する無機フィラーとして使用する(d)マイカは、アルカリ金属を含有するアルミノ珪酸塩であり、樹脂等の充填剤、強化剤等として、一般に用いられている公知のものを使用することができる。例えば、白マイカ(マスコバイト)、金マイカ(フロゴバイト)、黒マイカ(バイオタイト)等のいずれも使用でき、具体的には、白マイカ、紅マイカ、ソーダマイカ、絹マイカ、バナジンマイカ、金マイカ、鉄マイカ、チンワルドマイカ、黒マイカ等が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態で使用する(d)マイカの平均粒子径は3〜10μmである。好ましい下限値は4μmであり、好ましい上限値は8μmである。
樹脂組成物の室温の剛性を低下させないためには、下限値を下回らないことが好ましく、成形品の表面外観を悪化させないためには、上限値を超えないことが好ましい。
なおここで粒子径とは重量換算の粒子径であるものとし、前記平均粒子径とは重量換算で累積した際の50%相当粒子径を指すものとする。
【0034】
さらにシランカップリング剤等により(d)マイカの表面に、所定の処理を施したものを使用することができる。
(d)マイカの配合量は、樹脂組成物すべての量を100質量%としたとき5〜15質量%である。好ましい下限量は7質量%であり、好ましい上限量は13質量%である。
この場合の好ましい表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、及び高級脂肪酸塩類等の界面活性剤を使用することができる。より好ましくはシランカップリング剤で、さらに好ましくはアミノシラン化合物である。例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を使用することができる。アミノシラン化合物の配合割合は、マイカ100質量部に対して0.05〜5質量部である。
【0035】
〔物性〕
(シャルピー衝撃強度)
本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品は、高い低温衝撃性を有する樹脂組成物を用いる必要がある。具体的には、−30℃における、ISO179−1/1eAに準拠して測定されたノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2以上である樹脂組成物を用いる必要がある。好ましくは5kJ/m2以上である。ノッチ付シャルピー衝撃強度は、例えばフェンダー等に代表されるような自動車外装部品には市場での極低温環境下でも部品の破壊を生じさせない意味で重要な特性である。
−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2を下回った場合、例えば、走行中にはねた小石が衝突し、破断するといった不都合が生じる可能性が高くなる。
【0036】
一般にポリプロピレンはガラス転移温度が−10℃程度にあり、−30℃といった温度領域での衝撃性は極めて低いとされている。通常は、1〜2kJ/m2程度である。−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2以上という高い特性は、例えば、(a1)ポリプロピレンと(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体との量比、(b)ポリフェニレンエーテルと(a1)ポリプロピレンの量比、(a2)酸変性ポリプロピレンと(d)マイカとの量比、(c)水添ブロック共重合体と(b)ポリフェニレンエーテルの量比等、種々の因子が作用して達成されるものである。
【0037】
(曲げ貯蔵弾性率)
本実施形態における樹脂組成物からなる自動車外装部品は、高い熱時剛性を有する樹脂組成物を用いる必要がある。具体的には、本実施形態における樹脂組成物は、高い高温剛性を有し、より具体的には、ISO294−1に準拠して作製された多目的試験片を用いて、ISO6721−5に準拠して測定された140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPa以上であることが必要である。好ましくは650MPaであり、より好ましくは700MPaである。
この特性の具体的測定方法としては、ISO15103−1に準拠した条件で射出成形により、ISO294−1に準拠した多目的試験片を成形し、ISO6721−5に準拠した試験片に加工し、測定温度域:−50℃〜170℃、昇温速度:3℃/分、周波数:10Hz、動的付加ひずみ量:線形領域内歪量の測定条件で、2回以上/分の測定頻度で測定を継続的に実施する。測定終了後、140℃における曲げ貯蔵弾性率の数値を読み取り、この値を140℃における曲げ貯蔵弾性率(E’)とする。
【0038】
140℃における曲げ貯蔵弾性率は、本実施形態における樹脂組成物からなる自動車外装部品にとっては、必要とされる重要な特性である。具体的には、ボディ用塗料を焼き付け乾燥する際に変形を起こさないためには、140℃での曲げ貯蔵弾性率の値が所定の値以上であるということがきわめて重要となる。
一般に、従来公知のポリプロピレン樹脂の140℃における曲げ貯蔵弾性率は極めて低く、200MPaにも満たない。これにエラストマーやフィラーを配合した、バンパーの材料として多用されているポリプロピレン樹脂組成物であっても、140℃における曲げ貯蔵弾性率は200MPa程度である。すなわち無機フィラーが添加されているにも関わらず、140℃という高い温度においては、曲げ貯蔵弾性率の向上効果が充分に得られていないのである。
このようにポリプロピレン系樹脂組成物では充分に高めることのできない140℃における曲げ貯蔵弾性率を、本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品においては、600MPa以上であるものとする。この特性は、例えば、(b)ポリフェニレンエーテルと(a1)ポリプロピレンとの量比、(a2)酸変性ポリプロピレンと(d)マイカとの量比、(c)水添ブロック共重合体と(b)ポリフェニレンエーテルとの量比、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体と(a1)ポリプロピレンとの量比、(d)マイカの粒子径等、種々の因子が作用して達成される。
【0039】
(荷重たわみ温度)
本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品は、高い高温耐荷重性を有する樹脂組成物により成形されていることが好ましい。
具体的には、樹脂組成物は、ISO75−1に準拠して測定された曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度が、125℃以上であることが好ましい。
荷重たわみ温度は、静的な荷重をかけ続けながら温度を上げていく測定方法により測定でき、炎天下での自動車外装部品の変形や剛性低下度合いと相関がある。炎天下での熱による自動車外装部品の変形や剛性低下を抑制するためには、ISO75−1に準拠して測定された曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度が125℃以上である樹脂組成物を用いることが有効である。より好ましくは荷重たわみ温度が130℃以上の樹脂組成物であり、さらに好ましくは、荷重たわみ温度が135℃以上の樹脂組成物である。
この曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度が125℃以上という高い特性は、例えば、(b)ポリフェニレンエーテルと(a1)ポリプロピレンとの量比、(a2)酸変性ポリプロピレンと(d)マイカとの量比、(c)水添ブロック共重合体と(b)ポリフェニレンエーテルとの量比、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体と(a1)ポリプロピレンとの量比、(d)マイカと(a2)酸変性ポリプロピレンとの界面強度、(d)マイカの粒子径等の、種々の因子が作用して達成されるものである。
【0040】
(流動性)
本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品は、比較的高い流動性を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。
具体的には、ISO1133に準拠して、試験温度250℃、荷重10kgで測定されたMFR(以下、単に、MFR(250)と略記)が10〜30g/10分であり、さらには、試験温度280℃、荷重5kgで測定されたMFR(以下、単に、MFR(280)と略記)が15〜60g/10分であり、さらには、FFR=MFR(280)/MFR(250)が1.2〜3.0の樹脂組成物であることが好ましい。280℃におけるMFRは、実際に自動車外装部品を射出成形する際の実流動との相関が高い。前記MFR(280)のより好ましい下限値は17g/10分であり、さらに好ましい下限値は20g/10分であり、さらにより好ましい下限値は25g/10分である。また、前記MFR(280)のより好ましい上限値は50g/10分であり、さらに好ましい上限値は45g/10分であり、さらにより好ましい上限値は40g/10分である。
射出成形時の金型内流動性を高め、自動車外装部品の肉厚を薄くするためには、下限を下回らないことが好ましく、成形時のシリンダーからの樹脂漏れや、成形機ノズルと金型のスプールブッシュからの樹脂漏れ等を予防するためには、上限値を超えないことが好ましい。
【0041】
また、FFRは、温度変化に対するその流動性の変化を示しており、このFFRが低い方が、成形温度による流動性の違いが生じにくく、条件変化に鈍感な樹脂組成物であると言え、成形条件の変動があっても、実成形品への影響が少ない樹脂組成物であると言える。
このFFRの、より好ましい上限値は2.5であり、さらに好ましい上限値は2.0であり、さらにより好ましい上限値は1.8である。樹脂組成物の成形の容易性を高めるためには、上限値を超えないことが好ましい。
FFRは低い方が条件設定の容易性の観点より好ましいが、逆に小さすぎるということは、条件の変更可能幅が小さい(条件を変えても、実成形に影響を与えにくい)こととなるので、下限値は1.2であることが好ましい。
これらFFRを特定の範囲内に制御することは、例えば、使用する(b)ポリフェニレンエーテルの粘度、使用する(a1)ポリプロピレンのMFR、(b)ポリフェニレンエーテルの組成物中の量、(d)マイカの量、(a2)酸変性ポリプロピレンと(d)マイカとの量比、(d)マイカと(a2)酸変性ポリプロピレンの界面強度、(d)マイカの粒子径等々の種々の因子が作用して達成されるものである。
【0042】
(密度)
本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品は、低い密度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。
具体的には、ISO1183のA法に準拠して測定された密度が、1.12g/cm3以下である樹脂組成物を用いることがより好ましい。
密度は自動車の軽量化に大きな影響を与える。車両軽量化にはより低い密度であることが好ましい。
より好ましい上限値は1.10g/cm3であり、さらに好ましい上限値は1.09g/cm3である。
このフィラー充填系であっても、密度として1.12g/cm3以下の特性を得るためには、例えば、(b)ポリフェニレンエーテルと、(a1)ポリプロピレンの量比、(d)マイカの量、(d)マイカの粒子径、(a2)酸変性ポリプロピレンと(d)マイカとの量比、(d)マイカと(a2)酸変性ポリプロピレンの界面強度等、種々の因子が作用して達成されるものである。
【0043】
〔用途〕
本実施形態の樹脂組成物からなる自動車外装部品としては、特に限定はないが、具体例を挙げると、バックドア、バンパーフェイシア、フロントフェンダー、リアフェンダー等の自動車用フェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、ボンネット、ルーフパネル、サイドシルガーニッシュ等の各種ガーニッシュ類が挙げられる。これらの中でも、より軽量化効果を発現しやすい大型部品であるバックドア、フロントフェンダー、リアフェンダー、ドアパネル、ボンネット、ルーフパネル、サイドシルガーニッシュがより好ましく使用可能であり、これらの中でも特にバックドア、フロントフェンダーに好適に利用可能である。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
用いた原材料を以下に示す。
【0045】
〔(a)ポリオレフィン系樹脂〕
((a1)ポリプロピレン)
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(以下、単にPP−1と略す。)
MFR(ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定):26g/10分
結晶性ホモポリプロピレン(以下、単にPP−2と略す。)
MFR(ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定):14g/10分
【0046】
((a2)酸変性されたポリプロピレン)
以下の製法により得られた無水マレイン酸変性ホモポリプロピレン(以下、単にMPPと略す。)
MFR(ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定)が1.0g/10分のPP(ポリプロピレン)を100質量部に対して、無水マレイン酸(和光純薬製特級試薬)2質量部、有機過酸化物(t−ブチルパーオキシベンゾエート:日本油脂(株)製、商品名:「パーブチルD」)3質量部を混合し、シリンダー温度200℃、スクリュー回転速度150rpmに設定した真空ベント口を有する同方向回転二軸押出機ZSK−26M(コペリオン社製)に10kg/時間の供給量で供給して溶融混練した。該押出機の吐出部の押出ダイから溶融樹脂をストランド状に押し出し、これをカッティングすることによって酸変性ポリプロピレンのペレットを得て、温度100℃に設定した空気循環式乾燥機で、24時間加熱乾燥処理を実施した。
得られたペレットをキシレンの還流条件下で溶解し、メタノール中に再沈殿して、未反応の酸を除去した。沈殿した酸変性ポリプロピレンをろ過したのち、140℃で5時間、真空乾燥した。230℃で約100μmの厚さのフィルムにプレス成形し、フィルムを得た。このフィルムを、赤外分光光度計(日本分光株式会社製 FT/IR−8000)を用いて赤外吸収を測定した。1810cm-1に吸収が確認されたことから、無水マレイン酸成分のグラフトが確認された。
【0047】
((a3)エチレン−α−オレフィン共重合体)
エチレン−オクテン共重合体(以下、単にEAOと略す。)
密度(ASTM D732準拠) 0.885g/cm3
MFR(ASTM D1238準拠,温度190℃,荷重2.16kg)1.0g/10分
【0048】
〔(b)ポリフェニレンエーテル〕
ポリ(2,6−ジメチルフェノール) (以下、単にPPEと略す。)
還元粘度(ウベローデ粘度計,0.5g/dlクロロホルム溶液,30℃で測定):0.34dl/g
【0049】
〔(c)水添ブロック共重合体〕
水素添加ブロック共重合体−1(以下、単にSEBS−1と略す。)
水素添加前の結合形式 S−B−S型
水素添加率:98%以上
密度:0.93
MFR(ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定):5g/10分
水素添加ブロック共重合体−2(以下、単にSEBS−2と略す。)
水素添加前の結合形式 S−B−S−B型
水素添加率:98%以上
密度:0.97
MFR(ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定):2g/10分
なお、上記Sは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックであり、上記Bは、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックである。
【0050】
〔(d)マイカ〕
金マイカ(以下、単にマイカと略す。)
平均粒子径:4.5μm
【0051】
〔多目的試験片の成形〕
得られたペレットを、シリンダー温度270℃、金型温度80℃に設定した射出成形機(IS−100GN:東芝機械株式会社製)を用いて、ISO15103−1に準拠した条件で、ISO294−1に準拠した多目的試験片を成形した。
【0052】
評価測定内容を、以下に示す。
〔密度〕
得られた多目的試験片を用いて、ISO1183のA法に準拠して密度を測定した。
【0053】
〔MFR、FFR〕
得られたペレットを用いて、ISO1133に準拠して、試験温度250℃、荷重10kgでのMFR(以下、このMFRをMFR(250)と略記する。)、試験温度280℃、荷重5kgでのMFR(以下、このMFR(280)と略記する)を測定した。
さらに、それぞれ得られたMFR値を元に、次式に基づき、FFRを算出した。
FFR=MFR(280)/MFR(250)
【0054】
〔曲げ弾性率〕
多目的試験片を用いて、ISO178に準拠して23℃における曲げ弾性率を測定した。
【0055】
〔ノッチ付シャルピー衝撃強度〕
多目的試験片の両端を切断した試験片を用いて、ISO179−1/1eAに準拠して、23℃及び−30℃におけるノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
【0056】
〔荷重たわみ温度〕
多目的試験片の両端を切断した試験片を用いて、ISO75−1に準拠して、曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
【0057】
〔線膨張係数〕
多目的試験片を80℃で2時間熱処理を行い、徐冷した多目的試験片の中央部から、精密カットソーを用いて、10×4×4mmの試験片を切出し、ISO11359−2に準拠して、TMA−7(パーキンエルマー社製)を用いて、昇温速度=5℃/分、荷重=10mNで、23〜140℃の線膨張係数を測定した。
測定は、射出成形時の樹脂の流動方向(MD方向)に関して実施し、3個の異なる試験片を用いて行い、その加算平均値を線膨張係数とした。
【0058】
〔曲げ貯蔵弾性率〕
多目的試験片を、ISO6721−5に準拠した試験片に切削加工し、測定温度域:−50℃〜170℃、昇温速度:3℃/分、周波数:10Hz、動的付加ひずみ量:線形領域内歪量の測定条件で2回以上/分の測定頻度で測定した後、140℃における曲げ貯蔵弾性率の値を読み取った。
【0059】
〔自動車用フェンダー成形性〕
得られたペレットを用いて、IS2500DS(東芝機械株式会社製)のシリンダー温度を265〜295℃に設定し、金型温度を70℃の条件で、自動車用フェンダーを成形した。その際の充填に要した射出時間を計測し、流動性の指標とした。
さらに、得られた成形片の外観を観察し、フローマークの状況を目視で確認し、以下の判定基準で評価した。
レベル 判定基準
1 シルバーもしくはフローマークといった外観不具合があり、塗装後外観に も影響を及ぼす。
2 シルバーもしくはフローマークといった外観不具合は認められるが、塗装 後に及ぼす影響は小さい。
3 軽微なシルバーもしくはフローマークといった外観不良が認められるが、 塗装後外観には影響を及ぼさない。
【0060】
〔実施例1〜5〕、〔比較例1〜7〕
13ブロックの温度調整ブロックを備えた同方向回転二軸押出機(TEM58SS:東芝機械株式会社製)の第10ブロックからサイドフィードが可能な装置を設置し、メインスロートから第5ブロックまでのシリンダー温度を320℃、第6ブロックから押出機ダイスまでを270℃に設定した。
PP−1、PP−2、EAO、SEBS−1、SEBS−2、及びMPPを、タンブラーで混合したブレンド物と、PPE粉体とを、それぞれ異なる供給装置を用いて押出機メインスロートより、さらにマイカをサイドフィード口より、下記表1に記載の割合となるように、それぞれ定量的に供給し、スクリュー回転数500回転/分で、溶融混練を実施し、ダイスよりストランド状に押出し、水冷し、カッティングし、ペレットとして得た。
得られたペレットを用いて、上述の各種評価を実施した。
なお、上述した自動車用フェンダーの成形は、実施例1、実施例3及び比較例1についてのみ実施した。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1及び実施例2は、(a)ポリオレフィン系樹脂と(b)ポリフェニレンエーテルとの比率がほぼ同一で、マイカの量が異なる樹脂組成物である。このいずれの例においても、140℃における高い曲げ貯蔵弾性率、室温における高剛性(高い曲げ弾性率)、及び高い荷重たわみ温度を有し、かつ、成形に適した流動性を有し、自動車用外装材として好適な樹脂組成物が得られた。
また、実際に自動車用フェンダーを成形したところ、3.5秒の実射出時間で充填が可能であり、得られる成形品の外観も良好であった。
【0063】
実施例3、4及び比較例1の対比では、使用する(a2)MPPの対(d)マイカの量が異なるが、(a2)MPPの(d)マイカに対する量が、マイカ100質量部に対しMPPが20質量部未満である比較例1は、曲げ強度や曲げ弾性率といった特性が大きく低下することが分かった。また、自動車用フェンダー成形工程においては、当該自動車用フェンダーを末端まで完全に充填することができないといった不都合が発生し、これを「充填せず」として評価した。
【0064】
また、実施例5と比較例2の対比では、樹脂の構成及び量比に関しては、本発明の範囲内であるが、140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPaを下回り、荷重たわみ温度が125℃を下回っていることが分かった。
【0065】
比較例3は、(d)マイカ及び(a2)MPPを含まない系である。非強化組成においては、剛性、耐熱性等が充分ではなく、マイカの充填が効果的であることが分かった。
【0066】
比較例4は、(a3)EAOを含有していない例である。また、射出成形時の流動性を高めるために、(b)ポリフェニレンエーテル比率が低く設定されている。
ホモポリプロピレン(PP−2)を使用し、(a3)EAOを含まないため、140℃における曲げ貯蔵弾性率や、荷重たわみ温度は高く維持されているが、ノッチ付低温シャルピー衝撃強度が非常に低くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の自動車外装部品は、バックドア、バンパーフェイシア、フロントフェンダー、リアフェンダー等の自動車用フェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、ボンネット、ルーフパネル、サイドシルガーニッシュ等の各種ガーニッシュ類等、自動車を構成する各種外装部品として産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィン系樹脂と、
(b)ポリフェニレンエーテルと、
(c)少なくとも2つの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックとを有するブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体と、
(d)マイカと、
を、含有する樹脂組成物からなる自動車外装部品であって
前記(a)ポリオレフィン系樹脂は、(a1)ポリプロピレン、(a2)酸変性されたポリプロピレン、(a3)エチレン−α−オレフィン共重合体から構成されており、
前記(a)ポリオレフィン系樹脂と、前記(b)ポリフェニレンエーテルとの合計量を100質量部としたとき、
前記(a)ポリオレフィン系樹脂が30〜60質量部、
前記(b)ポリフェニレンエーテルが40〜70質量部、
前記(c)水添ブロック共重合体が5〜15質量部、
それぞれ含有されており、
前記(d)マイカが、平均粒子径3〜10μmのマイカであって、その含有量が、樹脂組成物すべてを100質量%としたとき、5〜15質量%であって、
前記(a2)酸変性されたポリプロピレンの含有量が、前記(d)マイカ100質量部に対して20〜60質量部であって、
少なくとも前記(a1)ポリプロピレン及び前記(a2)酸変性されたポリプロピレンが連続相を形成し、少なくとも前記(b)ポリフェニレンエーテルが分散相を形成する分散形態を呈し、
ISO179−1/1eAに準拠して測定された−30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度が4kJ/m2以上であり、
ISO294−1に準拠して作製された多目的試験片を用いて、ISO6721−5に準拠して測定された140℃での曲げ貯蔵弾性率が600MPa以上である、樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【請求項2】
ISO75−1に準拠して測定された曲げ応力0.45MPaでの荷重たわみ温度が、125℃以上である請求項1に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【請求項3】
ISO1133に準拠して、試験温度250℃、荷重10kgで測定されたMFR(MFR(250))、試験温度280℃、荷重5kgで測定されたMFR(MFR(280))、及びこれらの比(FFR)が、それぞれ、下記の式を満足する請求項1又は2に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
MFR(250) : 10〜30g/10分
MFR(280) : 15〜60g/10分
FFR=MFR(280)/MFR(250) : 1.2〜3.0
【請求項4】
ISO1183のA法に準拠して測定された密度が、1.12g/cm3以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【請求項5】
ISO1133に準拠して、試験温度230℃、荷重2.16kgで測定された前記(a1)ポリプロピレンのMFRが15〜35g/10分である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【請求項6】
前記(b)ポリフェニレンエーテルは、還元粘度(ウベローデ粘度計,0.5g/dlクロロホルム溶液,30℃で測定)が、0.3〜0.4dl/gのポリフェニレンエーテルである請求項1乃至5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【請求項7】
自動車用フェンダーである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。

【公開番号】特開2012−171982(P2012−171982A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32352(P2011−32352)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】