説明

ポリマーにおける改良

【課題】石油系の原料及び特にバイオディーゼル又はバイオ燃料として知られる脂肪酸メチルエステルのような、植物系又は植物系の原料からの燃料油の低温流動性を改良するのに効果的なポリマーおよび当該ポリマーを含有する燃料組成物を提供する。
【解決手段】式Iの単位、式IIの単位、及び式IIIa又は式IIIbのいずれかの単位である構造単位、および必要に応じて式VIIの構造単位を有する高次ポリマーである三元重合体及びより高次のポリマー:

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油の低温特性を改良するのに効果的なポリマー及び当該ポリマーを含有する燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油系原料に由来するか、植物系原料に由来するかに関わらず、燃料油は低温において、燃料油の流動能力を失わせるゲル構造体を形成するように、大きな、プレート状の結晶又はスフェルライトのワックスとして沈殿する傾向にある成分(例えば、n−アルカン又はn−アルカン酸メチル)を含有する。燃料が依然として流動する最も低い温度は、流動点として知られている。
燃料の温度が低下して流動点に近づくと、ライン及びポンプにより燃料を輸送する際に困難が生じる。更に、形成されるワックス結晶は、流動点を超える温度で燃料ライン、スクリーン、及びフィルターを詰まらせる傾向がある。これらの問題は当業者によく認知されており、様々な添加剤が提案されていて、それらのうちの多くは燃料油の流動点を低下させるために商業的に使用されている。同様に、実際に形成されるワックス結晶の大きさを低減し、形を変更するために他の添加剤が提案され、商業的に使用されている。フィルターを詰まらせることがより少ないため、より小さな大きさの結晶が好ましい。主にアルカンワックスであるディーゼル燃料からのワックス、及び植物由来の燃料中のn−アルカン酸メチルは、プレートレット(platelet)として結晶化する。特定の添加剤はこれを阻害し、ワックスに針状の晶相を帯びさせ、結果として得られる針状結晶を、プレートレットよりもフィルターを通過させやすくし、或いはフィルター上に結晶の多孔質層を形成させやすくする。他の添加剤もまた、ワックス結晶を燃料中に懸濁させ、沈殿を低減させ、それ故、閉塞を予防することにつなげる効果を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、燃料油の低温特性を改良する上で効果的な、ある種類の三元重合体及びより高次のポリマーを発見したことに基づく。当該ポリマーは、如何なる種類の燃料においても使用することができるが、脂肪酸アルキルエステルを含有する燃料のような植物性原料又は動物性原料から得られた燃料油、及びこれらの燃料油と石油系燃料油との混合物に使用される場合、特に効果的である。これらの油はバイオディーゼル又はバイオ燃料としてよく知られており、通常は脂肪酸メチルエステル(FAME)である。
【0004】
第一の側面によれば、本発明は式Iの構造単位、式IIの構造単位、及び式IIIa又は式IIIbのいずれかの構造単位を有し、かつ式VIIの構造単位を有していてもよいポリマーを提供する。
【化1】

【0005】
(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC8からC22のアルキル基、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;R3は、−OCOR6、−COOR15、−COOH、又はC1からC22のアルキル基、好ましくはC1からC12のアルキル基を示し、R6は、C1からC22のアルキル基、好ましくはC1からC12のアルキル基を示し;R4は、水素原子、−COOH、又は−CH2COOR16を示し;R15及びR16は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC8からC22のアルキル基、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;R5は、水素原子又はメチル基であり;Xは、式IV、式V、又は式VIの基を示す。)
【化2】

【0006】
(式中、R7は、水素原子又はC1からC8のアルキル基を示し、R8は、C1からC8のアルキル基を示し、mは、1から10の整数であり、nは、1から30、好ましくは5から20の整数であり;R9は、C1からC8のアルキル架橋であり、R10、R11、及びR12は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又はC1からC8のアルキル基を示し、pは、1から10の整数であり、及びqは、0又は1から10の整数であり;並びにYは、式IVの基を示し、式中、R7は、水素原子又はC1からC8のアルキル基を示し、R8は、C1からC8のアルキル基を示し、mは、1から10の整数であり、及びnは、1から30、好ましくは5から20の整数である。)
【化3】

【0007】
(式中、R13は、C8からC22のアルキル基を示し、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;及びR14は、水素原子又はメチル基である。)
【0008】
アルキル基R1及びR2は、直鎖状であっても分岐していてもよいが、好ましくは直鎖状である。好ましくは、R1及びR2が同一であり、それぞれ直鎖状のC12からC14のアルキル基を示す。好ましい実施態様においては、R1及びR2が、それぞれC12アルキル基である。
好ましくは、R3は−OCOR6を示す。
アルキル基R6は、直鎖状であってもよく、C3又はそれ以上である場合には、分岐していてもよい。好ましくは、R6は、C1からC8のアルキル基を示す。好ましい実施態様においては、R6はメチルである。
存在する場合、アルキル基R15及びR16は、直鎖状でも分岐していてもよいが、好ましくは直鎖状である。好ましくは、存在する場合、R15及びR16は同一であり、それぞれ直鎖状のC12からC14アルキル基を示す。好ましい実施態様においては、R15及びR16が存在する場合、それらはそれぞれ直鎖状のC12アルキル基である。
好ましくは、R4は水素原子である。
【0009】
好ましい実施態様においては、R3は、−OCOR6を示し(ここで、R6はメチルである)、R4は、水素原子である。別の実施態様においては、R3は、−OCOR6を示し(ここで、R6は2−エチルヘキシルである)、R4は、水素原子である。
好ましい実施態様においては、Xは、式IVの基を示す。好ましくは、R7は、水素原子であり、R8は、メチル基であり、mは、1から6の整数、例えば、1、2、又は3であり、nは、6から18の整数、例えば、9、10、11、12、13、14、15、又は16である。
別の実施態様においては、Xは式Vの基を示す。好ましくは、R9は、C2アルキル架橋であり、R10及びR11は、共にメチルであり、qは0である。
好ましくは、Yは、式IVの基を示す(ここで、R7は水素原子であり、R8はメチル基であり、mは1から6の整数、例えば、1、2、又は3であり、nは、6から18の整数、例えば、9、10、11、12、13、14、15、又は16である)。
式VIIの構造単位が存在する場合、アルキル基R13は、直鎖状であっても分岐していてもよいが、好ましくは直鎖状である。好ましくは、R13は、直鎖状のC12からC16のアルキル基、例えば、直鎖状のC12アルキル基、又は直鎖状のC14アルキル基を示す。
【0010】
ポリマーは、更なる構造単位を有していてもよいが、好ましくは、ポリマーは、式I、II、IIIa及び/又はIIIbの構造単位のみを有するか、ポリマーは、式I、II、IIIa及び/又はIIIb、並びにVIIの構造単位のみを有する。
好ましい態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIaの構造単位を有し、ここで、Xは、式IVの基を示す。
より好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIaの構造単位からなり、ここで、Xは、式IVの基を示す。
別の好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIbの構造単位を有する。
より好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIbの構造単位からなる。
別の好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIaの構造単位を有し、ここで、Xは式Vの基を示す。
より好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、及びIIIaの構造単位からなり、ここで、Xは、式Vの基を示す。
別の好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、IIIb、及びVIIの構造単位を有する。
より好ましい実施態様においては、ポリマーは、式I、II、IIIb、及びVIIの構造単位からなる。
【0011】
上記ポリマーに存在する、それぞれの構造単位の比率は、多様であってもよい。好ましくは、式Iの構造単位は、モル換算でポリマーの5%から80%を占め、より好ましくは20%から60%を占める。
好ましくは、式IIの単位は、モル換算でポリマーの5%から70%を占め、より好ましくは10%から50%を占める。
好ましくは、式IIIaの単位は、存在する場合、モル換算でポリマーの5%から60%を占め、より好ましくは10%から50%を占める。
好ましくは、式IIIbの単位は、存在する場合、モル換算でポリマーの5%から70%を占め、より好ましくは10%から60%を占める。
好ましくは、式VIIの単位は、存在する場合、モル換算でポリマーの10%から50%を占め、より好ましくは15%から40%を占める。
【0012】
ポリマーは、GPCで測定して、ポリスチレン較正基準に対し、好ましくは500から50,000、より好ましくは500から35,000、最も好ましくは1,000から20,000、例えば、5,000から15,000の数平均分子量(Mn)を示す。
【0013】
ポリマーは知られた方法により調製することができる。好適な方法は、好適なモノマーとフリーラジカル開始剤を使用した液相重合である。その重合には、如何なる好適な溶媒をも採用することができる。シクロヘキサン、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、及びエチルアルコールはみな、効果的であることが見出されている。代替品も当業者に知られているが、tert−ブチルパーピバレートは、好適なフリーラジカル開始剤であることが見出されている。
【0014】
式Iの構造単位を有するポリマーを提供する好適なモノマーの限定されない例としては、フマル酸ジ−オクチル及びフマル酸ジ−テトラデシル等のフマル酸ジアルキルを挙げることができる。式IIの構造単位を有するポリマーを提供する好適なモノマーの限定されない例としては、酢酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、及びネオデカン酸ビニル等のビニルエステル;イタコン酸アルキル及びイタコン酸ジアルキル;マレイン酸;及び1−アルケンを挙げることができる。式IIIaの構造単位を有するポリマーを提供する好適なモノマーの限定されない例としては、例えば、ポリ(エチレングリコールメチルエーテル)アクリレート及びポリ(エチレングリコールメチルエーテル)メタクリレート等のポリ(アルキレングリコールアルキルエーテル)アクリレート又はポリ(アルキレングリコールアルキルエーテル)メタクリレート;例えば、アクリル酸ジメチルアミノエチル及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸ジアルキルアミノアルキル又はメタクリル酸ジアルキルアミノアルキルを挙げることができる。式IIIbの構造単位を有するポリマーを提供する好適なモノマーの限定されない例としては、例えば、ジ−ポリ(エチレングリコールメチルエーテル)フマレート等のジ−ポリ(アルキレングリコールアルキルエーテル)フマレートを挙げることができる。式VIIの構造単位を有するポリマーを提供する好適なモノマーの限定されない例としては、例えば、アクリル酸ドデシル及びメタクリル酸テトラデシル等のアクリル酸アルキル及びメタクリル酸アルキルを挙げることができる。
【0015】
第二の側面によれば、本発明は、多量の燃料油と、少量の、第一の側面のポリマーとを含む燃料油組成物を提供する。
第三の側面によれば、本発明は、燃料油の低温特性を改善するための第一の側面のポリマーの使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<燃料油>
燃料油は、例えば、石油系燃料油、特に中間留分燃料油であってもよい。そのような蒸留燃料油は、一般的には110℃から500℃、例えば150℃から400℃の範囲内で沸騰する。
本発明は、広い温度範囲で沸騰する蒸留物(即ち、ASTM D-86で測定した90%から20%の沸点差が50℃以上であるもの)を含め、全てのタイプの中間留分燃料油に適用することができる。
燃料油は、大気圧蒸留物若しくは真空蒸留物、クラッキングされたガス油、又は直留蒸留物並びに熱分解蒸留物及び/又は触媒分解蒸留物の任意の比率の混合物を含んでいてもよい。最も一般的な石油留出燃料は、ケロシン、ジェット燃料、ディーゼル燃料、暖房油、及び重質燃料油である。暖房油は大気圧直留物であってもよく、又は真空ガス油若しくはクラッキングされたガス油又はその両方を含んでいてもよい。燃料は、フィッシャー−トロプシュ法により得られる多量又は少量の成分を含んでいてもよい。FT燃料としても知られるフィッシャー−トロプシュ燃料は、ガスツーリキッド燃料(gas to liquid fuel)、石炭変換燃料及び/又はバイオマス変換燃料として記載されるものを含む。そのような燃料を製造するため、合成ガス(CO+H2)が最初に生成され、次いで、フィッシャー−トロプシュ法によりノルマルパラフィン及びオレフィンに変換される。ノルマルパラフィンは、次いで触媒的クラッキング/改質又は異性化、水素化分解、及び水素化異性化等の方法により変換され、iso−パラフィン類、シクロ−パラフィン類、及び芳香族化合物等の様々な炭化水素を得てもよい。結果として得られるFT燃料はそのまま使用することもできるし、本明細書に記載したもののような他の燃料成分及び他の燃料型と共に使用することができる。
【0017】
本発明は、特に、動物材料又は植物材料に由来する油から製造される脂肪酸アルキルエステルを含む燃料油に適用することができ、これらはバイオ燃料又はバイオディーゼルと呼称される。バイオ燃料は、燃焼しても環境へのダメージが少ないと信じられており、再生可能な資源から得られる。燃焼により、石油留出燃料、例えば、ディーゼル燃料と等価な量で、より少ない二酸化炭素が形成され、二酸化硫黄は非常に僅かしか形成されないことが報告されている。
動物材料又は植物材料から得られる油の例としては、ナタネ油、コリアンダー油、ダイズ油、綿実油、ヒマワリ油、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、アーモンド油、パーム核油、ココナッツ油、カラシ油、ジャトロファ(jatropha)油、牛脂、及び魚油を挙げることができる。更なる例としては、トウモロコシ、ジュート、ゴマ、シアの実、グラウンドナッツ(ground nut)から得られる油、及び亜麻仁油を挙げることができ、当業者に知られた方法によりそれらから得ることができる。グリセロールで部分的にエステル化された脂肪酸の混合物であるナタネ油は、大量に入手可能で、ナタネから搾るという単純な方法で得ることができる。使用済みキッチン油等の再生油もまた好適である。
脂肪酸のアルキルエステルとしては、例えば、市販の混合物として以下のものが考慮される:例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リシノール酸、エレオステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸、ガドレイン酸、ドコサン酸、又はエルカ酸等、12個から22個の炭素原子を有する脂肪酸のエチル、プロピル、ブチル、及び特にはメチルエステルであって、50から150、特には90から125のヨウ素価を有するもの。特に有利な性質を有する混合物は、主に、即ち少なくとも50質量%の、16個から22個の炭素原子、及び1、2、又は3個の二重結合を有する脂肪酸のメチルエステルを含むものを挙げることができる。好ましい脂肪酸のアルキルエステルは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、及びエルカ酸のメチルエステルを挙げることができる。
前記の種類の市販の混合物は、例えば、低級(概ね、C1からC6)脂肪族アルコールとのエステル交換反応による、動物及び植物油脂の開裂及びエステル化により得られる。脂肪酸のアルキルエステルを製造するためには、20%未満の、低レベルの飽和脂肪酸を含み、130未満のヨウ素価を有する油脂から出発することが有利である。以下のエステル又は油の混合物が好適である:例えば、ナタネ、ヒマワリ、コリアンダー、ヒマシ、ダイズ、ピーナッツ、綿実、牛脂等。80質量%を超える、18個の炭素原子を有する不飽和脂肪酸を有する、ある種のナタネ油に基づく脂肪酸のアルキルエステルが特に好適である。
上記の油の全てはバイオ燃料として使用することができるが、好ましいものは、植物油の誘導体であり、特に好ましいバイオ燃料はナタネ油、綿実油、ダイズ油、ヒマワリ油、オリーブ油、又はパーム油のアルキルエステル誘導体であり、ナタネ油のメチルエステルが特に好ましい。
【0018】
本発明は、純粋なバイオ燃料にも適用できる。それ故、1つの実施態様では、燃料油は、基本的に100質量%の植物原料又は動物原料から得られた油を含み、好ましくは基本的に100質量%の脂肪酸アルキルエステル、最も好ましくは脂肪酸メチルエステルを含む。
バイオ燃料は、一般的には石油から得られた油と組み合わせて使用される。本発明は、任意の比率のバイオ燃料と石油から得られた燃料との組み合わせに対しても適用することができる。そのような燃料は、度々、Bx燃料と呼ばれ、ここでxはバイオ燃料−石油混合物におけるバイオ燃料の質量%を示す。例としては、xが2以上、好ましくは5以上、例えば10まで、25まで、50まで、又は95までである燃料が挙げられる。好ましくは、そのようなBx燃料におけるバイオ燃料成分は、脂肪酸アルキルエステル、最も好ましくは脂肪酸メチルエステルを含む。
燃料油は、石油から得られたものであっても、植物から得られたものであっても、動物から得られたものであっても、低い硫黄含量を有する。典型的には、燃料油の硫黄含量は500ppm(質量100万分率)未満である。好ましくは、燃料油の硫黄含量は、100ppm未満であり、例えば50ppm未満である。更に低い硫黄含量を有する燃料油、例えば、20ppm未満のもの、10ppm未満のものもまた好適である。
燃料油に存在するポリマーの量は、燃料油の種類、及び燃料油に要求される低温特性によって異なる。好適には、ポリマーは、燃料油の質量に基づいて、燃料中に10質量ppmから5,000質量ppmの量で、好ましくは10質量ppmから1,000質量ppmの量で、より好ましくは50質量ppmから500質量ppmの量で存在する。
【0019】
当業者に知られているように、燃料添加剤は一般的に、好適な分散媒又は溶媒中に、1以上の燃料添加剤を含む添加剤濃縮物の形態で提供される。第四の側面によれば、本発明は、第一の側面のポリマーとそれと相溶性の溶媒又は担体を含む添加剤濃縮物を提供する。好適な溶媒及び分散媒の例は当業者に知られており、ナフサ、ケロシン、ディーゼル油及び暖房用オイル、例えば「SOLVESSO」の商標で販売されているもののような芳香族炭化水素、アルコール、エーテル及び他の酸化物(oxygenates)、並びにヘキサン、ペンタン、及びイソパラフィン類等のパラフィン系炭化水素を挙げることができる。分散媒又は溶媒は、ポリマー及び燃料油の両方への相溶性を考慮して選択される。
本発明のポリマーは、直接燃料油に提供されてもよく、添加剤濃縮物の形で燃料油に提供されてもよい。
本発明のポリマーは、潤滑油に、流動性向上剤又は流動点降下剤として潤滑油における用途を見出してもよい。
【0020】
<更なる添加剤>
燃料油の低温特性を変更する他の添加剤を、本発明のポリマーと組み合わせてもよい。好適な材料は当業者に知られており、エチレン−不飽和エステルの共重合体及び三元重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−2−エチルヘキサン酸ビニル共重合体、及びエチレン−ネオデカン酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−2−エチルヘキサン酸ビニル三元重合体、エチレン−酢酸ビニル−ネオノナン酸ビニル三元重合体、エチレン−酢酸ビニル−ネオデカン酸ビニル三元重合体;櫛状ポリマー、例えばフマル酸−酢酸ビニル共重合体;炭化水素ポリマー、例えば水素化ポリブタジエンポリマー、エチレン/1−アルケン共重合体、及びこれらに類似のポリマーを挙げることができる。同様に好適なものは、ワックス沈降防止剤(WASA)として当業者に知られている添加剤である。同様に好適なものは、EP0857776B1に記載されているようなアルキルフェノールホルムアルデヒド縮合物、又はEP−A−1482024に記載されているようなヒドロキシベンゾエートホルムアルデヒド縮合物等の縮合物分子種である。
【0021】
本発明においては、そのような追加の添加剤を添加することが意図されている;処理率に関するそれらの適用は、当業者に知られている。好ましい実施態様においては、本発明のポリマーは、1以上のエチレン−不飽和エステル共重合体、ワックス沈降防止剤、アルキルフェノールホルムアルデヒド縮合物、又はヒドロキシベンゾエートホルムアルデヒド縮合物と組み合わせられるか、これらと組み合わせて使用される。より好ましい実施態様においては、本発明のポリマーは、エチレン−不飽和エステル共重合体、ワックス沈降防止剤、及びアルキルフェノールホルムアルデヒド縮合物又はヒドロキシベンゾエートホルムアルデヒド縮合物の一方又は両方と組み合わせられるか、これらと組み合わせて使用される。特に好ましいエチレン−不飽和エステル共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−2−エチルヘキサン酸ビニル三元重合体、エチレン−酢酸ビニル−ネオデカン酸ビニル三元重合体、及びエチレン−酢酸ビニル−ネオデカン酸ビニル三元共重合体である。特に好ましいワックス沈降防止剤は、フタル酸無水物と2モル比のジ(水素化獣脂)アミンとの反応により形成されるアミド−アミン塩である。任意の追加の添加剤は、第一の側面の燃料油組成物に別々に導入することができ、第四の側面の添加剤濃縮物で本発明のポリマーと組み合わせることもできる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を例示のみにより記載する。
【0023】
<ポリマーの調製>
以下の実施例は、本発明において使用されるポリマーの合成を説明する。同様の方法は、全ての他のポリマーを作成するために使用された。
フマル酸ジ−ドデシル(15.40g、34.01mmol)、酢酸ビニル(1.87g、21.72mmol)、及び454gmol-1の数平均分子量を有するポリ(エチレングリコールメチルエーテル)アクリレートエステル(3.27g、7.20mmol)を、シクロヘキサン(10ml)と共にシュレンク管に投入した。混合物を脱気して、窒素雰囲気下、撹拌しながら80℃にまで加熱した。tert−ブチルパーピバレート(tert-butyl perpivalate;0.1ml、シクロヘキサン中50質量%:50質量%)を添加し、重合を開始した。続く4時間の間、追加の開始剤を1時間毎に混合物に添加した。5時間が経過した時点で混合物を冷却し、生成物を得た。
以下の表1は、以下のモノマーを使用して調製されたポリマーの詳細を示す:
【化4】

【0024】
【表1】

【0025】
註:*1PEGOMeA=Mn454のPEGOMeAモノマー;*2PEGOMeA=Mn804のPEGOMeAモノマー;(−−.−−)=使用されたそれぞれのモノマーのモル量;cyhex=シクロヘキサン;MEK=メチルエチルケトン;EtA=エチルアルコール;tol=トルエン
【0026】
調製されたポリマーは、CFPP(冷却フィルター目詰まり点)特性について試験した。CFFPは、燃料油試料が低温でフィルターを通過して流れることができるかを評価する標準的な工業的試験である。"Jn. OF the Institute of Petroleum", vol. 52, No. 510(1996), pp 173-285に詳述された手法により実施される試験は、自動車ディーゼル中の中間留分の低温流動性と関連付けるように設計される。手短に言えば、試験される油(40cm3)は約−34℃に維持された浴中で冷却され、約1℃/minの平均冷却率とした。その下端が逆漏斗(inverted funnel;試験される油の表面よりも下に位置する)に連結されたピペットである試験装置を使用して、一定時間毎に(曇り点を超える温度から始めて1℃毎に)、一定の時間の間で油が微細なスクリーンを通して流れることができるかを試験した。漏斗の開口部を横切って、直径12mmを有する面積の、350メッシュのスクリーンを取り付けた。一定時間ごとの試験は、ピペットの上端を真空にした時点で開始し、ここで油はスクリーンを通って、20cm3の油を示す線まで吸い上げられた。毎回通過できた後に、油は即座にCFPP管に戻した。試験は、温度を1℃ずつ落として、油が60秒以内にピペットを充填できなくなるまで繰り返して、充填できなくなったときの温度をCFPP温度として報告した。
【0027】
以下の表2に質量換算で、ナタネ油メチルエステル(RME)とダイズ油メチルエステル(SME)75:25の混合物のバイオディーゼル燃料におけるポリマーのCFPP特性を示す。未処理の燃料のCFPPは−110℃であった。ポリマーは、添加剤製剤として試験され、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フタル酸無水物を2モル比のジ(水素化獣脂)アミンと反応させることにより形成されたアミド−アミン塩であるワックス沈降防止剤、及びヒドロキシベンゾエートホルムアルデヒド縮合物も含んでいた。各列には、燃料油の質量に基づいた質量百万分率で記載される、示された本発明のポリマーの処理率に対する、測定されたCFPP値の平均値が記載される。ここで値のない部位は、測定が行われていないことを示す。
【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造単位、式IIの構造単位、及び式IIIa又は式IIIbのいずれかの構造単位を有し、かつ式VIIの構造単位を有していてもよいポリマー。
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC8からC22のアルキル基、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;R3は、−OCOR6、−COOR15、−COOH、又はC1からC22のアルキル基、好ましくはC1からC12のアルキル基を示し、R6は、C1からC22のアルキル基、好ましくはC1からC12のアルキル基を示し;R4は、水素原子、−COOH、又は−CH2COOR16を示し;R15及びR16は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれC8からC22のアルキル基、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;R5は、水素原子又はメチル基であり;Xは、式IV、式V、又は式VIの基を示す。)
【化2】

(式中、R7は、水素原子又はC1からC8のアルキル基を示し、R8は、C1からC8のアルキル基を示し、mは、1から10の整数であり、nは、1から30、好ましくは5から20の整数であり;R9は、C1からC8のアルキル架橋であり、R10、R11、及びR12は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、又はC1からC8のアルキル基を示し、pは1から10の整数であり、及びqは0又は1から10の整数であり;並びにYは、式IVの基を示し、式中、R7は、水素原子又はC1からC8のアルキル基を示し、R8は、C1からC8のアルキル基を示し、mは、1から10の整数であり、及びnは、1から30、好ましくは5から20の整数である。)
【化3】

(式中、R13は、C8からC22のアルキル基を示し、好ましくはC12からC16のアルキル基を示し;R14は、水素原子又はメチル基である。)
【請求項2】
1及びR2が同一であり、それぞれ直鎖状のC12からC14のアルキル基を示す請求項1のポリマー。
【請求項3】
3が−OCOR6を示す請求項1又は2のポリマー。
【請求項4】
6がメチル基又は2−エチルヘキシル基であり、R4が水素原子である請求項3のポリマー。
【請求項5】
Xが式IVの基を示す請求項1から4のいずれかのポリマー。
【請求項6】
7が水素原子、R8がメチル基、mが1から6の整数、nが6から18の整数である請求項5のポリマー。
【請求項7】
Xが式Vの基を示す請求項1から4のいずれかのポリマー。
【請求項8】
9がC2アルキル架橋、R10及びR11が共にメチル基、及びqが0である請求項7のポリマー。
【請求項9】
Yが式IVの基を示し、式中、R7が水素原子、R8がメチル基、mが1から6の整数、及びnが6から18の整数である請求項1から8のいずれかのポリマー。
【請求項10】
式VIIの構造単位を有する請求項1から9のいずれかのポリマー。
【請求項11】
13が直鎖状のC12からC16のアルキル基を示す請求項10のポリマー。
【請求項12】
多量の燃料油と、少量の、請求項1から11のいずれかのポリマーとを含む燃料油組成物。
【請求項13】
燃料油が、動物性材料又は植物性材料から得られた油から調製される脂肪酸アルキルエステルを含む請求項12の燃料油組成物。
【請求項14】
燃料油の低温特性を改善するための請求項1から11のいずれかのポリマーの使用。
【請求項15】
請求項1から11のいずれかのポリマーと、それと相溶性の溶媒又は担体を含む添加剤濃縮物。

【公開番号】特開2011−127119(P2011−127119A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283973(P2010−283973)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】