説明

ポリマーの回収方法

【課題】重合に続くポリマー回収に際して、ポリマー中の残存モノマー量が少なく、且つポリマー回収時間、貧溶媒使用量及び生産性を考慮した効率的な回収方法を提供する。
【解決手段】ポリマーに対する貧溶媒が添加された完全混合槽中に、ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を、内径が2mm以下の滴下チューブを使用して供給すると共に、該完全混合槽中に貧溶媒を供給して、ポリマーを沈殿させてポリマーのスラリーを形成するスラリー形成工程と、該ポリマーのスラリーを、完全混合槽から連続的に排出させるスラリー排出工程とを有するポリマーの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液重合によって得られたポリマー溶液中には、目的とするポリマーの他に溶媒、残存モノマー等が含まれている。
ポリマーを分離精製するための技術の一つとして、貧溶媒中へポリマー溶液を添加してポリマーを析出させた後に、析出したポリマーを分離ろ過する方法がある。
上記方法として、例えば特許文献1には、フォトレジスト用高分子化合物の溶液を口径6mmφ以下のノズルから貧溶媒中に供給して沈殿又は再沈殿させることにより、残存モノマー含有量の少ない粒子状高分子化合物が得られることが開示されている。
しかしながら、上記の技術は回分方式での沈殿又は再沈殿の方式であり、例えば、管型連続重合装置の重合により連続的に生産されて供給されるポリマー溶液から連続的に残存モノマー含有量の少ないポリマーを回収することについては何ら開示されていない。
このような状況において、マイクロリアクター等の管型連続重合装置を使用した重合方式でポリマー溶液を製造する場合を含め、重合に続く沈殿等のポリマー回収に際して、ポリマー中の残存モノマー量が少なく、且つポリマー回収時間、貧溶媒使用量及び生産性を考慮した効率的な回収方法の出現が待たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−20312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、重合に続くポリマー回収に際して、ポリマー中の残存モノマー量が少なく、且つポリマー回収時間、貧溶媒使用量及び生産性を考慮した効率的な回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、ポリマーに対する貧溶媒が添加された完全混合槽中に、ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を、内径が2mm以下の滴下チューブを使用して供給すると共に、該完全混合槽中に貧溶媒を供給して、ポリマーを沈殿させてポリマーのスラリーを形成するスラリー形成工程と、該ポリマーのスラリーを、完全混合槽から連続的に排出させるスラリー排出工程とを有するポリマーの回収方法にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリマー回収に際して、ポリマー中の残存モノマー量が少なく、且つポリマー回収時間、貧溶媒使用量及び生産性を考慮した効率的な回収が可能であり、特にマイクロリアクター等の、細口径の管型連続重合装置の重合により連続的に生産されて供給されるポリマー溶液を連続的にポリマー回収する一貫した短時間製造方法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
ポリマー
本発明で使用されるポリマーとしては、溶媒に溶解してポリマー溶液を形成できるものである。
ポリマーの具体例としては、ラジカル重合性単量体の重合反応によって得られるポリマーが挙げられる。
【0008】
ラジカル重合性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン;(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ポリカルボン酸及びその酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル塩酸塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルp−トルエンスルホン酸塩等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル及びその付加塩;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等の(メタ)アクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩又はカリウム塩等のスチレン系単量体;アリルアミン及びその付加塩;酢酸ビニル;(メタ)アクリロニトリル;N−ビニルピロリドン並びにフッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等の含フッ素単量体が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0009】
尚、本明細書において、(メタ)アクリは「アクリ」又は「メタクリ」を示す。
【0010】
上記のラジカル重合性単量体の重合反応に使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物、ジスルフィド化合物、レドックス系開始剤及び過硫酸塩等が挙げられる。
【0011】
ラジカル重合性単量体の重合反応に使用される重合溶媒が水性媒体である場合には、水溶性有機過酸化物、水溶性アゾ化合物、レドックス系開始剤及び過硫酸塩が好ましく用いられ、重合溶媒が有機溶媒である場合には、油溶性有機過酸化物及び油溶性アゾ化合物が好ましく用いられる。これらラジカル重合開始剤はラジカル重合性単量体や重合溶媒の種類等に応じて適宜選択して用いられる。
【0012】
上記のラジカル重合開始剤の中で、水溶性有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド及び1,1,3,3−テトラメチルヒドロペルオキシドが挙げられる。
また、水溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾプロパン・一塩酸塩、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾブタン・一塩酸塩、2,2’−ジアミジニル−2,2’−アゾペンタン・一塩酸塩及び2,2’−アゾビス(2−メチル−4−ジエチルアミノ)ブチロニトリル・塩酸塩が挙げられる。
【0013】
レドックス系開始剤としては、例えば、過酸化水素と還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。この場合、還元剤としては、例えば、二価の鉄イオンや銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、バナジウムイオン等の金属イオン、アスコルビン酸及び還元糖が挙げられる。
【0014】
過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウムが挙げられる。
これらの水溶性のラジカル重合開始剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
油溶性有機過酸化物としては、例えば、ジベンゾイルペルオキシド、ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド;ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルペルオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート;t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート等のペルオキシエステル;アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシド及びジサクシニックアシッドペルオキシドが挙げられる。
【0016】
油溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。
【0017】
これらの油溶性ラジカル重合開始剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明は、ポリマーとしてArFエキシマレーザーリソグラフィーに好適な化学増幅型レジスト組成物に使用するフォトレジスト用重合体を使用するときに好適である。
【0018】
上記のフォトレジスト用重合体としては、例えば、ラクトン骨格を有する単量体、親水性基を有する単量体及び酸脱離性基を有する単量体の共重合体が挙げられる。
【0019】
ラクトン骨格を有する単量体としては、例えば、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−δ−バレロラクトン、4,4−ジメチル−2−メチレン−γ−ブチロラクトン、β−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、β−メタクリロイルオキシ−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトン、2−(1−メタクリロイルオキシ)エチル−4−ブタノリド及びパントイルラクトンメタクリレートが挙げられる。
【0020】
親水性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル及び(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシアダマンチルが挙げられる。
酸脱離性基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−メチル−2−アダマンチル及び(メタ)アクリル酸2−エチル−2−アダマンチルが挙げられる。
【0021】
貧溶媒
本発明において、貧溶媒は上述のポリマーを溶解しない溶媒である。
【0022】
貧溶媒としては、例えば、水、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化合物;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等の鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;及び酢酸等のカルボン酸が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
本発明において、後述する完全混合槽中に、後述するポリマー溶液が供給される前に添加されている貧溶媒(以下、「初期貧溶媒」という。)の添加量としては、回収されたポリマー中の残存モノマー量及び回収効率の点で、完全混合槽に供給されるポリマー溶液の供給速度がPml/分(P値)である場合に、P×10〜P×1,000mlが好ましく、P×70〜P×1,000mlがより好ましく、P×100〜P×1,000mlがさらに好ましい。
上記初期貧溶媒は、完全混合槽中でポリマー溶液が供給される前に撹拌されていることが好ましい。完全混合槽中での貧溶媒の撹拌速度としては粒子浮遊撹拌限界速度以上が好ましい。尚、粒子浮遊撹拌限界速度とは、Chem. Eng. Sci., Vol.8, 224(1958)に記載の Zwietering. T. N.の基準に基づき、槽低に1〜2秒以上静止している粒子が存在しなくなる撹拌速度をいう。
【0024】
本発明においては、上記初期貧溶媒が添加されている完全混合槽中に、ポリマー溶液が供給されると共に、貧溶媒(以下、「供給貧溶媒」という。)が更に供給される。
上記供給貧溶媒としては、上記初期貧溶媒と同様のものが挙げられ、両貧溶媒は同一のものでも異なるものでもよいが、貧溶媒回収の点で、同一のものが好ましい。
上記供給貧溶媒は、完全混合槽へのポリマー溶液の供給速度に対して0.1〜50倍、好ましくは1〜20倍、より好ましくは3〜10倍の速度で完全混合槽に供給される。上記供給貧溶媒の供給速度が完全混合槽へのポリマー溶液の供給速度に対して0.1倍以上で回収されたポリマー中の残存モノマー量を所望するレベル以下とすることができる。また、上記供給貧溶媒の供給速度は、回収されたポリマー中の残存モノマーレベルに変化がなくなる点及びポリマー回収に必要な貧溶媒量の点で50倍以下が効率的である。
【0025】
完全混合槽
本発明において、完全混合槽はポリマーのスラリーを形成するための混合槽であり、得られたポリマーのスラリーが、連続的に、好ましくは一定の排出速度で排出されるような構造を有している。
完全混合槽の形状は特に限定されない。
完全混合槽の容積としては、完全混合槽中に存在する初期貧溶媒、供給貧溶媒及びポリマー溶液が撹拌状態でも溢れ出ない充分な容積であればよいが、通常、液面のレベルが完全混合槽の高さの約30〜70%となるような容積が好ましい。
完全混合槽は、必要に応じて完全混合槽中の溶液又はスラリーを加温又は冷却できる設備を有することができる。
本発明においては、必要に応じて、完全混合槽を複数個設置し、同時に複数個の完全混合槽を使用して本発明のポリマーの回収を実施することができる。
【0026】
溶媒
本発明において、溶媒は前述したポリマーを溶解するものである。
溶媒はポリマーの種類に応じて水性溶剤及び油溶性溶剤の中から選択して使用することができる。
水性溶剤としては、例えば、水及び水溶性溶剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
水溶性溶剤としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド;及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
油溶性溶剤としては、例えば、上記の水溶性溶剤以外のエステル、ケトン及びアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;及び塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素が挙げられる。これらの油溶性溶剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
ポリマー溶液
本発明において、ポリマー溶液は前述のポリマーを上記の溶媒に溶解させたもの又は上記の溶媒中で溶液重合によって得られた重合溶液が挙げられる。
ポリマー溶液中のポリマーの濃度は、例えば、10〜60質量%であり、好ましくは20〜50質量%である。
完全混合槽に供給されるポリマー溶液の供給速度としては、ポリマーの種類及び滴下チューブの内径によって異なるが、例えば、0.1〜30ml/分(P値)が一般的な範囲として挙げられる。
【0029】
本発明においては、例えば、マイクロリアクター等の管径が2mm以下の反応器を用いた管型連続重合装置で製造されて排出されるポリマー溶液を使用することができる。
本発明のポリマーの回収方法は、上記のようなマイクロリアクター等の単位時間当たりに得られる重合溶液が少ない連続重合方法でポリマーを製造する場合のポリマーの回収方法として効率的であり、好ましい。
【0030】
平均滞留時間
本発明において平均滞留時間とは、完全混合槽中に供給されたポリマー溶液が完全混合槽中に滞留している平均時間をいい、下式により求めた値である。
平均滞留時間(分)=スラリー排出時における完全混合槽中の貧溶媒量(ml)/スラリー排出速度(ml/分)
本発明においては、完全混合槽中におけるポリマー溶液の平均滞留時間は、回収されたポリマー中の残存モノマー量の点で、2.5分以上が好ましく、5分以上さらに好ましい。上記平均滞留時間が2.5分以上であれば、ポリマー溶液の平均滞留時間すぎないので、回収されたポリマー中の残存モノマー量が少なく、回収効率の点にも優れるため好ましい。
また、完全混合槽中におけるポリマー溶液の平均滞留時間は、回収されたポリマー中の残存モノマーレベルに変化がなくなる点並びに供給貧溶媒量及びポリマーの回収に必要な時間の点で、90分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。
【0031】
滴下チューブ
本発明においては、ポリマー溶液は完全混合槽中に滴下チューブを使用して供給される。
滴下チューブの内径は、回収されたポリマー中の残存モノマー量の点で、2mm以下であり、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
本発明においては、必要に応じて、複数本の滴下チューブを使用してポリマー溶液を完全混合槽中に供給することができる。この場合、滴下チューブから供給されるポリマー溶液同士は完全混合槽中の初期貧溶媒中に入るまで接触しない状態で供給される必要がある。
また、複数本の滴下チューブの代わりに、チューブの出口に、内径が2mm以下の複数の穴が開いたシャワー状の開口部を使用することができる。この場合、開口部から出るポリマー溶液同士は完全混合槽中の初期貧溶媒中に入るまで接触しない状態で供給される必要がある。
【0032】
ポリマーのスラリー
本発明においては、ポリマーのスラリーは、完全混合槽中における初期貧溶媒と供給貧溶媒の混合物中の、ポリマーの沈殿物の分散体である。
【0033】
スラリー形成工程
スラリー形成工程において、完全混合槽中でポリマー溶液中のポリマーは初期貧溶媒と供給貧溶媒により溶媒中に溶解できずに沈殿し、ポリマーのスラリーが形成される。
スラリー形成工程の温度としては、例えば、室温が挙げられるが、必要に応じて室温よりも高温又は低温とすることができる。
スラリー形成工程における完全混合槽中でのスラリー撹拌速度としては、完全混合槽中の初期貧溶媒の撹拌速度と同じ速度が挙げられる。
【0034】
スラリー排出工程
本発明においては、スラリー排出工程において、完全混合槽中に形成されたポリマーのスラリーは、ポリマー溶液の完全混合槽における平均滞留時間が2.5分以上、好ましくは5分以上となるようなスラリー排出速度で完全混合槽から連続的に排出される。
ポリマーを排出させる方法としては、例えば、ポリマーのスラリーの液面より下方に設置された排出口からバルブ開閉により排出させる方法及び完全混合槽からポンプにより汲み上げて排出させる方法から選ばれる少なくとも1つの方法が挙げられる。
【0035】
スラリー排出工程を経てスラリーとして回収されたポリマーは次いで固液分離される。
ポリマーのスラリーの固液分離方法としては、スラリー排出工程で得られたスラリーを一旦沈殿槽に貯めた後に固液分離する方法及びスラリー排出工程の後に連続的にスラリーを固液分離する方法が挙げられる。これらの中で、スラリー排出工程の後に連続的にスラリーを固液分離する方法が、固液分離の際の、ポリマーのろ過性及び残存モノマーの除去性の点で好ましい。
スラリーの固液分離はろ布、ろ紙等のフィルターを用いたろ過及び公知のろ過機を使用して実施することができる。
スラリーの固液分離により得られたポリマーの湿粉は公知の乾燥方法により乾燥することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を説明する。尚、以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
また、実施例で使用される略号は以下の化合物を示す。
GBLMA:γ-ブチロラクトンメタクリレート
MAdMA:2-メチル-2-アダマンチルメタクリレート
HAdMA:3-ヒドロキシ-1-アダマンチルメタクリレート
【0037】
[実施例1]
GBLMA32.6部、MAdMA44.8部及びHAdMA22.6部を含有する単量体混合物を重合して得られたポリマーを、溶媒である乳酸エチルに溶解し、濃度30%のポリマー溶液を用意した。
撹拌機及びスラリー取り出し口を有する100mlの完全混合槽中にメタノール88部及びイオン交換水12部を含有する初期貧溶媒30mlを投入した。
次いで、室温(23℃)において、完全混合槽中の初期貧溶媒を、析出するスラリー中のポリマー粒子が完全混合槽の下部に停滞しない十分な撹拌速度である600rpmで撹拌しながら、上記初期貧溶媒と同一の組成の供給貧溶媒を23℃で2.0ml/分の速度で完全混合槽中に供給すると共に、上記のポリマー溶液を23℃で内径0.5mmの滴下チューブを使用して0.25ml/分の速度で完全混合槽中に供給した。
完全混合槽中に生成したスラリーを、供給貧溶媒及びポリマー溶液の完全混合槽への供給と同時に、スラリー取り出し口から2.25ml/分のスラリー排出速度で完全混合槽から排出させた。
取り出したスラリーを、ろ布を使用して1時間減圧ろ過した後に60℃で36時間真空乾燥してポリマーの粉体として回収した。
ポリマー溶液の平均滞留時間は13分であり、ポリマーの粉体中の残存モノマー量は53ppmであった。また、初期貧溶媒と供給貧溶媒の合計使用量は792mlで、ポリマー処理量は30gで、ポリマー回収に要した時間は381分であった。従って、単位ポリマー当たりの初期貧溶媒と供給貧溶媒の合計使用量は26.4mlで、単位ポリマー当たりのポリマー回収に要した時間は12.7分であった。
【0038】
【表1】

【0039】
[比較例1]
実施例1と同様の初期貧溶媒が添加された完全混合槽中に、実施例1と同様に初期貧溶媒を撹拌しながら、実施例1と同様のポリマー溶液2.7gを実施例1と同様の滴下チューブを使用して35.3ml/分の速度で滴下した。
次いで、完全混合槽中のスラリーを13.3分間撹拌した後にスラリーをろ紙で1時間減圧ろ過し、更に60℃で36時間真空乾燥してポリマーの粉体を得た。得られた結果を表1に示す。
【0040】
実施例1から明らかなように、本発明の方法により、単位ポリマー量当たりの、貧溶媒使用量及びポリマーの回収に要した時間は少ないにも係わらず回収されたポリマー中の残存モノマー量は少ない。
しかしながら、回分方式である比較例1では単位ポリマー量当たりの、貧溶媒使用量及びポリマーの回収に要した時間は多いにも係わらず回収されたポリマー中の残存モノマー量は多い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーに対する貧溶媒が添加された完全混合槽中に、ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を、内径が2mm以下の滴下チューブを使用して供給すると共に、該完全混合槽中に貧溶媒を供給して、ポリマーを沈殿させてポリマーのスラリーを形成するスラリー形成工程と、該ポリマーのスラリーを、完全混合槽から連続的に排出させるスラリー排出工程とを有するポリマーの回収方法。
【請求項2】
前記貧溶媒を完全混合槽中へ供給する速度が、前記ポリマー溶液の供給速度に対して0.1〜50倍の速度である請求項1に記載のポリマーの回収方法。
【請求項3】
前記ポリマーのスラリーを、前記完全混合槽における下式で求められる平均滞留時間が2.5分以上となるスラリー排出速度で完全混合槽から連続的に排出させる請求項1または2に記載のポリマーの回収方法。
平均滞留時間(分)=スラリー排出時における完全混合槽中の貧溶媒量(ml)/スラリー排出速度(ml/分)
【請求項4】
2つ以上の完全混合槽を使用してそれぞれの完全混合槽でスラリー形成工程及びスラリー排出工程を有する請求項1ないし3のいずれか一項に記載のポリマーの回収方法。
【請求項5】
ポリマー溶液を、ポリマーが製造された管型連続重合装置から連続的に供給する請求項1ないし4のいずれか一項に記載のポリマーの回収方法。
【請求項6】
ポリマー溶液中のポリマーがフォトレジスト用ポリマーである請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーの回収方法。

【公開番号】特開2011−63774(P2011−63774A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217878(P2009−217878)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】