説明

ポリマーの製造方法及び用途

【課題】疎水性有機溶媒中で行う化学反応の触媒として用いた場合でも優れた触媒能を発揮する固体酸触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】固体酸触媒として機能するポリマーの製造方法は、ビニル系芳香族ポリマーと多環式芳香族化合物を反応させる工程と、得られたポリマーをクロロ硫酸で処理する工程を含む。
【効果】疎水性有機溶媒中での化学反応に対して酸触媒として用いた場合に優れた触媒能を発揮する新規な固体酸触媒及びその製造方法が提供された。本発明の固体酸触媒は、疎水性有機溶媒中での化学反応、特にアルキル化のための酸触媒として高い触媒能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル化触媒やエーテル化触媒等の固体酸触媒として有用なスルホ基含有ポリマーの製造方法及び該ポリマーの固体酸触媒としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機化合物のアルキル化反応や、炭水化物の加水分解等、種々の分野において、シリケート、ゼオライト、各種金属酸化物、各種樹脂等の種々の固体酸触媒が広く用いられている。固体酸触媒は、固体であるが故に、硫酸等の液体の酸触媒に比べて取り扱いが便利であり、使用後における生成物からの分離も容易であるという利点を有するため、盛んに研究されている。
【0003】
従来の固体酸触媒のうち、ゼオライト等の無機材料を主体とするものは、担持できるスルホ基の密度が小さく、単位重量当たりの酸性基の数が少ないという問題があり、一方、樹脂系のものは耐熱性に問題がある。
【0004】
これらの問題を解決する固体酸触媒として、カーボン系固体酸触媒も用いられている。カーボン系固体酸触媒の主なものとして、セルロースを出発原料とし、セルロースを炭化することにより得られるカーボン系固体酸触媒がある(非特許文献1)。また、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理することにより得られるカーボン系固体酸触媒も知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-287922号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mai Okamura, Atsushi Takagaki, Masakazu Toda, Junko N. Kondo, Kazunari Domen,Takashi Tatsumi, Michikazu Hara, and Shigenobu Hayashi, Chem. Mater., 2006, 18, 3039-3045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
公知のカーボン系固体酸触媒は、水系溶媒や親水性有機溶媒中での反応触媒としては良好に機能するが、疎水性有機溶媒中で行う化学反応の触媒としては、その触媒能が満足できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、公知のカーボン系固体酸触媒の触媒能が、疎水性有機溶媒中での化学反応に対しては低くなる原因が、固体酸触媒の親水性にあるのではないかと考えた。すなわち、セルロースを原料とするカーボン系固体酸触媒では、原料のセルロースに由来する水酸基により親水性が高められ、疎水性有機溶媒とのなじみが悪くなることが原因ではないかと考えた。同様に、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理することにより得られるカーボン系固体酸触媒においても、硫酸と炭化水素との反応の副生物として水分子が副生するため、どうしても多環式芳香族炭化水素類に水酸基が付与されやすくなり、このため固体酸触媒の親水性が高まり、疎水性有機溶媒とのなじみが悪くなることが原因ではないかと考えた。
【0009】
そこで、スルホ基以外の親水性の置換基を持たないカーボン系固体酸触媒を提供すべく鋭意研究の結果、スルホ基の導入のために、公知の方法のように濃硫酸や発煙硫酸を用いるのではなく、クロロ硫酸を用いることにより、水酸基のような親水性基を付与することなくスルホ基を芳香環に導入できることを見出した。また、単位重量当たりのスルホ基の数を大きくするためには、ポリマーの側鎖に多環式芳香族基を持つポリマーが有利であることに想到したところ、このようなポリマーを濃硫酸又は発煙硫酸で処理するとポリマーの主鎖が切断されてしまうという問題に直面したが、クロロ硫酸を用いることによりこの問題も同時に解決できることも見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、ビニル系芳香族ポリマーと多環式芳香族化合物を反応させる工程と、得られたポリマーをクロロ硫酸で処理する工程を含む、ポリマーの製造方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法により製造されたポリマーから成る固体酸触媒を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、疎水性有機溶媒中での化学反応に対して酸触媒として用いた場合に優れた触媒能を発揮する新規な固体酸触媒及びその製造方法が提供された。本発明の固体酸触媒は、疎水性有機溶媒中での化学反応、特にアルキル化のための酸触媒として高い触媒能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例になる固体酸触媒及び公知の固体酸触媒を用い、ベンジルアルコールとトルエンのFriedel-Craftsアルキル化反応を行った際の、反応時間と生成したベンジルトルエンの収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリマーの製造方法は、ビニル系芳香族ポリマーと、多環式芳香族化合物を反応させる第1工程と、得られたポリマーをクロロ硫酸で処理する第2工程とを含む。第1工程により、前記ビニル系芳香族ポリマー中の芳香環と前記多環式芳香族化合物が縮合し、多環式芳香族基を側鎖に有するポリマーが生成すると考えられる。また、上記第2工程により、前記多環式芳香族基にスルホ基が導入されると考えられる。
【0014】
第1工程に出発物質として用いられるビニル系芳香族ポリマーは、本発明のポリマーの主鎖構造を与えるものであり、その芳香環は、もう一方の出発物質である多環式芳香族化合物と縮合すると考えられる。従って、ビニル系芳香族ポリマーとしては、この縮合によって多環式芳香族基を与える芳香環を有するビニル系ポリマーが用いられる。一方、多環式芳香族化合物は、ビニル系芳香族ポリマーの芳香環と縮合して多環式芳香族基を与えるものである。ビニル系芳香族ポリマーとしてポリスチレンが好ましく用いられ、多環式芳香族化合物としてはナフタレンが好ましく用いられる。
【0015】
ビニル系芳香族ポリマーと多環式芳香族化合物は、触媒の存在下、好ましくはトルエン等の疎水性有機溶媒中で反応させることにより行うことができる。触媒としては、塩化アルミニウムのようなルイス酸触媒を好ましく用いることができる。反応温度は、特に限定されないが、通常、250℃〜1000℃程度、好ましくは250℃〜400℃程度、反応時間も特に限定されないが、通常、1時間〜30時間程度、好ましくは5時間〜10時間程度である。ビニル系芳香族ポリマーと多環式芳香族化合物の混合比率は、芳香環のモル比で1:2〜2:1程度が好ましく、さらには1:0.9〜0.9:1程度が好ましく、1:1が最も好ましい。触媒の使用量は、特に限定されないが、反応混合物に対する濃度として、通常、5〜30モル%程度、好ましくは10〜20モル%程度である。また、反応開始時におけるビニル系芳香族ポリマーの濃度は、特に限定されないが、反応混合物に対する濃度として、通常、30〜70モル%程度、好ましくは40〜50モル%程度である。
【0016】
反応終了後、得られた反応生成物を塩酸で洗浄して触媒を除去し、さらに蒸留水で洗浄し、乾燥させることが好ましい。
【0017】
続く第2工程では、第1工程で得られたポリマーをクロロ硫酸で処理することによりポリマーのスルホ化を行う。ポリマーとクロロ硫酸の混合比率は、特に限定されないが、通常、ポリマー1gに対して、クロロ硫酸を5mL〜20mL程度、好ましくは8mL〜12mL程度である。反応温度は、0℃〜120℃程度が好ましいが、室温が簡便で好ましい。反応時間は、特に限定されないが、通常、5時間〜20時間程度、好ましくは8時間〜12時間程度である。ポリマーとクロロ硫酸の混合は、反応容器に入れたポリマーにクロロ硫酸をゆっくりと添加する方法が好ましい。この際、発熱するので、反応容器を氷冷して添加することが好ましい。添加後は、上記の反応温度、好ましくは室温で反応させることができる。
【0018】
反応終了後、反応混合物に水を加えてポリマーをろ過して回収し、さらにクロロ硫酸が検出されなくなるまでポリマーを熱水で洗浄することが好ましい。
【0019】
上記本発明の製造方法により製造されるポリマーは、固体の酸であるので、固体酸触媒として用いることができる。このポリマーは、側鎖の多環式芳香族基に親水性の置換基を有していないので、疎水性有機化合物との適合性が高く、従って、疎水性有機溶媒中で行われる化学反応や、反応物質自体が液状の疎水性有機化合物である化学反応における酸触媒として用いた場合に特に威力を発揮する。ここで、疎水性有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、DMFのような、有機化学合成に多用される溶媒を例示することができる。また、触媒する化学反応は、酸触媒により触媒される化学反応であれば限定されないが、Friedel-Craftsアルキル化反応のようなアルキル化反応やエーテル化反応を好ましい例として挙げることができる。アルキル化反応の具体例としては、ベンジルアルコールとトルエンとのFriedel-Craftsアルキル化反応によりベンジルトルエンを合成する反応、等を例示することができるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
固体酸触媒の使用量は、触媒する化学反応に応じて適宜設定されるが、通常、反応混合物に対して0.1重量%〜1重量%程度である。また、各化学反応は、それぞれの反応に適切な公知の条件下(反応温度、反応時間等)で行うことができるし、ルーチンな実験により適切な反応条件を設定することも可能である。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1 スルホ基含有ポリマーの合成と解析
下記のスキームに従って、ポリスチレンとナフタレンを出発物質として、スルホ基含有ポリマーを合成した。
【0023】
1. 第1工程(ポリマーの合成)
セパラブルフラスコに、ポリスチレン(分子量30000)13.65gと、ナフタレン7.0gを加えて混合した。この場合のポリスチレンとナフタレンの混合比率は、芳香環のモル比で1:1であった。次に、4.0gの塩化アルミニウムを添加し、250℃で10時間加熱した。得られたポリマーを100mLの塩酸で洗浄して塩化アルミニウムを除去した。さらに、蒸留水でポリマーを洗浄し、乾燥させた。
【0024】
2. 第2工程(ポリマーのスルホ化)
第1工程で得られたポリマー5gと、回転子を3口フラスコに投入し、氷冷下、クロロ硫酸を50mlゆっくり加えた。次に室温で10時間反応させた。次いで、蒸留水を加え、濾過した。次に、吸引濾過器にてスルホ化されたポリマー(カーボン固体酸触媒)と硫酸を分離し、カーボン固体酸触媒を熱水で洗浄した。洗浄後は、再び吸引濾過器で触媒と洗浄水を分離した。この作業を,洗浄ろ液中の硫酸イオンがなくなるまで繰り返し続けた。硫酸イオンの確認は、ろ液に硝酸バリウム水溶液を添加することでろ液中の硫酸と反応して生成される硫酸バリウムの沈殿が確認されなくなるまで行った。その後乾燥を行った。乾燥後、再び熱水で洗浄、濾過を繰り返した。この作業を乾燥後の1回目の洗浄ろ液から硫酸イオンが検出されなくなるまで繰り返した。
【0025】
実施例2及び3 活性評価
1. アルキル化反応(実施例2)
トルエンを溶媒に用い、ベンジルアルコールとトルエンのFriedel-Craftsアルキル化反応を行い、ベンジルトルエンの合成を行った。2口のなす型フラスコにトルエン1mol、ベンジルアルコール0.1mol、内部標準物質としてn-オクタンを0.2ml添加し撹拌子を入れて反応を行った。反応温度は100℃で、反応開始から30分、60分、120分、180分の点でサンプリングを行いFID-GCにて分析を行った。使用したカラムはDB-FFAPであった。
【0026】
その結果、図1及び下記表1に示すように、目的物であるベンジルトルエンの生成が確認された。この結果から、本発明の固体酸触媒が、疎水性有機溶媒中でのアルキル化反応を効率良く触媒できることが明らかになった。
【0027】
2. エーテル化反応(実施例3)
次の方法によりベンジルエーテルの合成を行った。トルエンを溶媒に用い、ベンジルアルコールとトルエンのFriedel-Craftsアルキル化反応を行い、ベンジルトルエンの合成を行った。2口のなす型フラスコにトルエン1mol、ベンジルアルコール0.1mol、内部標準物質としてn-オクタンを0.2ml添加し撹拌子を入れて反応を行った。反応温度は100℃で、反応開始から30分、60分、120分、180分の点でサンプリングを行いFID-GCにて分析を行った。使用したカラムはDB-FFAPであった。
【0028】
その結果、下記表2に示すように、約15 mmol/g・hrのベンジルエーテルの生成が確認された。この結果から、本発明の固体酸触媒が、疎水性有機溶媒中でのエーテル化反応を効率良く触媒できることが明らかになった。
【0029】
比較例1 公知のセルロース由来カーボン固体酸触媒によるアルキル化反応
次の方法により、セルロースを出発物質として、カーボン固体酸触媒を製造した(非特許文献1)。すなわち、セルロースを400℃で炭化し、スルホ化したカーボン系固体酸触媒である。
【0030】
得られたカーボン固体酸触媒を用いて、上記と同様にベンジルアルコールとトルエンのFriedel-Craftsアルキル化反応を行った。その結果、目的物であるベンジルトルエンはほとんど全く合成されなかった(表1)。
【0031】
【表1】

【0032】
比較例2〜4 市販の樹脂固体酸触媒によるエーテル化反応
上記セルロース由来カーボン固体触媒(比較例2)並びにイオン交換樹脂にスルホ基を担持させた市販の固体酸触媒(Amberist-15(商品名)比較例3)及びNafion NR50(商品名)比較例4)を用い、上記と同様にベンジルエーテルの合成反応を行った。
【0033】
その結果、Amberist-15(商品名)及びNafion NR50(商品名)を触媒として用いた場合は,エーテルの生成量は少なかった(表2)。一方,得られたカーボン固体酸触媒を用いた場合には,市販の樹脂固体酸触媒のエーテル生成量を上回った。この結果から、本発明の固体酸触媒は、疎水性有機溶媒中でのエーテル化反応の触媒能が、市販の樹脂固体酸触媒よりも高いことが明らかになった。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系芳香族ポリマーと多環式芳香族化合物を反応させる工程と、得られたポリマーをクロロ硫酸で処理する工程を含む、ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記ビニル系芳香族ポリマーと、前記多環式芳香族化合物との反応は、ルイス酸触媒の存在下で行われる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ルイス酸触媒が塩化アルミニウムである請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ビニル系芳香族ポリマーがポリスチレンであり、前記多環式芳香族化合物がナフタレンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造されたポリマーから成る固体酸触媒。
【請求項6】
アルキル化又はエーテル化触媒である請求項5記載の固体酸触媒。
【請求項7】
疎水性有機溶媒中で行われるアルキル化又はエーテル化反応の触媒である請求項6記載の固体酸触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184568(P2011−184568A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51339(P2010−51339)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】