説明

ポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部

【課題】漏洩距離を確保しつつ、気中放電が発生しないようにする。
【解決手段】本発明のポリマー套管Pは、ポリマー被覆体3の外周に長手方向に離間して設けられた多数個の笠状の襞部4を備えている。
襞部4は、電界の高い部分に離間して設けられた例えば5個の第1の襞部4aと、電界の低い部分に離間して設けられた例えば33個の第2の襞部4bとを備えており、第1の襞部4aの厚さは第2の襞部4bの厚さよりも厚く形成されている。また、第1の襞部4aの外周端縁部には曲面加工が施されて、第1の襞部4aの曲げ半径が第2の襞部4bの曲げ半径よりも大きくなるように形成されている。具体的には、第1の襞部4aの曲げ半径は、5〜10mm程度とされているのに対して、第2の襞部4bの曲げ半径は、1〜2mm程度とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部に係わり、特に、漏洩距離を確保しつつ、気中放電が発生するおそれのないポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、軽量、コンパクトで、かつ構造の簡素化を図り得るものとして、図3に示すような構成のポリマー套管が使用されている。
【0003】
同図において、このポリマー套管50は、中心に導体引出棒51を有し、下端部にケーブル端末52の受容口53を有する硬質の絶縁筒54と、絶縁筒54の外周に一体的に設けられたポリマー被覆体55と、ポリマー被覆体55の外周に長手方向に離間して形成された多数個の笠状の襞部56とを備えている。
【0004】
このような構成のポリマー套管50によれば、硬質の絶縁筒54の外周にポリマー被覆体55が一体的に設けられていることから、従来の磁器碍管よりも、軽量で、破損しにくく、また、取扱いが容易で、作業性を大幅に向上させることができる。
【0005】
ところで、このような構成のポリマー套管50においては、襞部56の厚さが薄いものを多数個設けることで、ポリマー套管50における漏洩距離が確保されている。
【0006】
しかしながら、襞部56の厚さを薄くすると、襞部56の外周端縁部の曲率半径(R)が小さくなるため、系統の電圧が例えば154kV程度になると、電界の高い部分に設けられた襞部56の外周端縁部から気中放電が発生するおそれがあった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−304632号公報(段落番号「0039」、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の難点を解決するためになされたもので、軽量、かつコンパクトで、構造の簡素化を図り得るポリマー套管であって、ポリマー套管の漏洩距離を確保しつつ、襞部の外周端縁部から気中放電が発生するおそれのないポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様であるポリマー套管は、中心に導体引出棒を有し、下端部にケーブル端末の受容口を有する硬質の絶縁筒と、絶縁筒の外周に設けられたポリマー被覆体と、ポリマー被覆体の外周に長手方向に離間して設けられた多数個の笠状の襞部とを備えるポリマー套管において、多数個の襞部のうち、電界の高い部分に設けられる襞部の外周端縁部に曲面加工が施されているものである。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様であるポリマー套管において、多数個の襞部のうち、電界の高い部分に設けられる襞部の厚さは、電界の低い部分に設けられる襞部の厚さよりも厚く形成されているものである。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様であるポリマー套管において、電界の高い部分は、ポリマー被覆体の外周において、絶縁筒に設けられた接地側電極の近傍とされているものである。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様であるポリマー套管において、電界の高い部分は、ポリマー套管を正立させた場合における、ポリマー被覆体の下方部の領域とされているものである。
【0013】
本発明の第5の態様であるケーブル終端接続部は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様のポリマー套管の受容口にケーブル端末が装着されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様乃至第4の態様のポリマー套管および第5の態様のケーブル終端接続部によれば、電界の高い部分に設けられる襞部の外周端縁部に曲面加工が施されているので、系統の電圧が例えば154kV程度になっても、気中放電が発生するおそれがなくなり、また、電界の低い部分に設けられる襞部の厚さを薄く形成することで、ポリマー套管の漏洩距離を長くすることができ、全体として、漏洩距離を確保しつつ、気中放電の発生するおそれのないポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部の好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明のポリマー套管を用いた154kV級CVケーブルの気中終端接続部の一部断面図を示している。
【0017】
同図において、先ず、本発明のポリマー套管Pは、下端部に導体挿入孔1aを有する導体引出棒1と、導体引出棒1の外周に設けられた硬質の絶縁筒2と、絶縁筒2の外周に設けられたポリマー被覆体3と、ポリマー被覆体3の外周に長手方向に離間して設けられた多数個の笠状の襞部4とを備えている。
【0018】
絶縁筒2は、機械的強度の高い材料、例えばエポキシ樹脂やFRPなどの硬質プラスチック樹脂で形成され、また、ポリマー被覆体3および襞部4は、電気絶縁性能に優れる材料、例えばシリコンポリマーなどの高分子絶縁材料で形成されており、導体引出棒1、絶縁筒2、ポリマー被覆体3および襞部4はモールドにより一体的に形成されている。
【0019】
絶縁筒2は、導体引出棒1の下方部位の外周部、すなわち導体挿入孔1aと対応する部分の外周部に設けられた大径絶縁筒2aと、この大径絶縁筒2aの上部に大径絶縁筒2aと同心状に連設され、導体引出棒1の先端部を除く部分の外周部に設けられた小径絶縁筒2bとを備えており、大径絶縁筒2aと小径絶縁筒2bの連設部分には電界緩和用の埋込金具5が埋設されている。また、大径絶縁筒2aの下端部には後述するケーブル端末部14のストレスコーン11を受容するコーン状の受容口6が設けられており、この受容口6は導体引出棒1の導体挿入孔1aと連通している。
【0020】
襞部4は、電界の高い部分に離間して設けられた多数個(例えば5個)の第1の襞部4aと、電界の低い部分に離間して設けられた多数個(例えば33個)の第2の襞部4bとを備えており、第1の襞部4aの厚さ(肉厚)は第2の襞部4bの厚さ(肉厚)よりも厚く形成されている。また、第1の襞部4aの外周端縁部には曲面加工(R加工)が施されて、第1の襞部4aの端縁の曲率半径が第2の襞部4bの端縁の曲率半径よりも大きくなるように形成されている。具体的には、第1の襞部4aの曲率半径が5〜10mm程度とされ、第2の襞部4bの曲率半径が1〜2mm程度とされている。なお、第2の襞部4bは、その直径が第1の襞部4aの直径と略同径とされた多数個の大径襞部4baと、その直径が大径襞部4baよりも若干小径とされた多数個の小径襞部4bbとで構成され、これらの大径襞部4baおよび小径襞部4bbは長手方向に沿って交互に離間して配置されている。
【0021】
このような構成の第1の襞部4aは、電界の高い部分、すなわちポリマー被覆体3の下方部の領域に設けられ、また、第2の襞部4bは、電界の低い部分、すなわちポリマー被覆体3の中央部および上方部の領域に設けられている。具体的には、第1の襞部4aは、後述する埋込金具5を構成する筒状部5aの先端部に対応する位置からポリマー被覆体3の全長の略1/4〜1/5程度に亘る区間に設けられ、第2の襞部4bは、第1の襞部4aよりも上方の領域であるポリマー被覆体3の全長の略3/4〜4/5程度に亘る区間に設けられている。
【0022】
埋込金具5は、小径絶縁筒2bの下方部に導体引出棒1と同心状に埋設される筒状部5aと、筒状部5aの下端部に連設され外周縁部が大径絶縁筒2aの上部位置の外周部から水平方向に延出する如く埋設される環状のフランジ部5bとを備えており、フランジ部5bの外周縁部の下端面には環状の底部金具7が当接され、これらのフランジ部5bおよび底部金具7は締付ボルト(不図示)を介して固定されている。埋込金具5は、下部金具16とともに接地され、接地側電極とされる。
【0023】
次に、本発明のポリマー套管を用いたケーブル終端接続部について説明する。
【0024】
先ず、ポリマー套管Pを底部金具7の下面に配設した支持碍子(不図示)を介して支持架台(不図示)に取り付ける。また、従来のケーブル端末部と同様に、ケーブル端末14を段剥処理して露出させたケーブル絶縁体10の外周にストレスコーン11を装着するとともに、ケーブル導体12の先端部に導体端子13を取り付ける。ここで、ストレスコーン11は、エチレンプロピレンゴム(EPゴム)等のゴム状弾性を有するプレモールド絶縁体などから成り、このストレスコーン11の先端部には受容口6の内壁面に装着される先細り状のコーン状部が設けられている。
【0025】
このような構成のケーブル端末部14を受容口6に装着し、予めケーブル端末部14側に配設した押し金具15を受容口6側に向けて押圧する。これにより、導体端子13が導体引出棒1の導体挿入孔1aにプラグイン接続されるとともに、ストレスコーン11のコーン状部が受容口6の内壁面に押し付けられ、ひいては、受容口6の内壁面とストレスコーン11のコーン状部の外周面間の界面の絶縁性能が確保される。
【0026】
なお、図中、符号16は下部金具、17はシール部、18は押し金具フランジ、19は保護金具、20はスプリング、21は接地線を示している。
【0027】
図2は、本実施例におけるケーブル終端接続部の等電位分布図を示している。 埋込金具5よりも下方では、埋込金具5、下部金具16により高圧部の電界は外部より遮蔽される。一方、埋込金具5よりも上方では、電界は外部に解放される。埋込金具5の上端付近においては、電界分布は、放射状に等電位線が広がる形となる。ポリマー被覆体3の大気と接する表面において、埋込金具5近傍となる小径絶縁筒2bの基部付近は、その中央部、先端部より高い電界がかかることとなる。従って、小径絶縁筒2bの基部付近において、襞部4の外周端縁部の曲率半径が小さい場合には、その外周端縁部より気中放電が発生するおそれがあるが、本発明のポリマー套管およびこれを用いたケーブル終端接続部によれば、電界の高い部分(接地側電極近傍)に設けられる襞部の厚さを厚くし、かつ、その外周端縁部に曲面加工を施すことで、系統の電圧が例えば154kV程度になっても、気中放電の発生を防止することができる。
【0028】
次に、本発明の付加的な機能について説明する。
【0029】
第1に、受容口6をポリマー被覆体3よりも下方部位に配設した場合においては、ポリマー套管Pを従来のポリマー套管よりも細くすることができる。
【0030】
第2に、ポリマー套管Pが細くなる結果、ポリマー套管Pの投影断面積が小さくなり、ひいては短尺のポリマー套管でも所定の汚損耐電圧特性を維持することができる。
【0031】
第3に、導体引出棒1とケーブル導体12との接続をポリマー被覆体3よりも下方部位で行なうことができることから、ケーブル端末部14の段剥処理部の長さを短くできる。
【0032】
第4に、ポリマー套管P中に埋込金具5を埋設し、この埋込金具5と底部金具7とを一体化した場合においては、ポリマー套管Pを機械的に補強することができるとともに、底部金具7を介してポリマー套管Pを取付架台などに容易にかつ安定して取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、特許請求の範囲内で、次のように、変更、修正を加えることができる。
【0034】
第1に、前述の実施例においては、154kV級CVケーブルの気中終端接続部について説明しているが、系統の電圧が154kV未満のケーブル終端接続部、例えば22〜77kV級のCVケーブルの気中終端接続部に適用しても同様の効果を奏する。
【0035】
第2に、前述の実施例においては、大径絶縁筒2aと小径絶縁筒2bから成る絶縁筒2について述べているが、導体挿入孔1aと対応する部分を小径絶縁筒2bと同様に細くした、いわゆる細径化した絶縁筒を使用してもよい。
【0036】
第3に、前述の実施例においては、受容口をポリマー被覆体よりも下方部位に配設した場合について説明しているが、受容口をポリマー被覆体の下端部内に設けてもよい。
【0037】
第4に、導体引出棒の外周に設けられる絶縁筒は、導体引出棒と別体で設けてもよい。
【0038】
第5に、ケーブル終端接続部は、気中終端接続部に限定されず、ガス・油中終端接続部などに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例におけるケーブル終端接続部の一部断面図。
【図2】本発明の一実施例におけるケーブル終端接続部の等電位分布図。
【図3】従来のケーブル終端接続部の一部断面図。
【符号の説明】
【0040】
1・・・導体引出棒
1a・・・導体挿入孔
2・・・絶縁筒
3・・・ポリマー被覆体
4・・・襞部
4a・・・第1の襞部
4b・・・第2の襞部
6・・・受容口
14・・・ケーブル端末
P・・・ポリマー套管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に導体引出棒を有し、下端部にケーブル端末の受容口を有する硬質の絶縁筒と、
前記絶縁筒の外周に設けられたポリマー被覆体と、
前記ポリマー被覆体の外周に長手方向に離間して設けられた多数個の笠状の襞部とを備えるポリマー套管において、
前記の多数個の襞部のうち、電界の高い部分に設けられる前記襞部の外周端縁部に曲面加工が施されていることを特徴とするポリマー套管。
【請求項2】
前記の多数個の襞部のうち、電界の高い部分に設けられる前記襞部の厚さは、電界の低い部分に設けられる前記襞部の厚さよりも厚く形成されていることを特徴とする請求項1記載のポリマー套管。
【請求項3】
前記電界の高い部分は、前記ポリマー被覆体の外周において、前記絶縁筒に設けられた接地側電極の近傍であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリマー套管。
【請求項4】
前記電界の高い部分は、前記ポリマー套管を正立させた場合における、前記ポリマー被覆体の下方部の領域であることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか記載のポリマー套管。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4何れか記載のポリマー套管の受容口にケーブル端末が装着されていることを特徴とするケーブル終端接続部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−278019(P2006−278019A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92214(P2005−92214)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】