説明

ポリマー微粒子

【課題】無機微粒子又は有機微粒子を内包する単分散性に優れたポリマー微粒子であり、また、内包される無機微粒子又は有機微粒子がポリマー内に安定して保持されるような所定のポリマー膜厚を有し、所要の粒径を有するポリマー微粒子を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリマー微粒子は、無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子であって、該ポリマー微粒子の平均粒径が0.5〜50μm、幾何標準偏差が1.3以下である。そして、ポリマー微粒子の被膜厚さを0.1〜40μmとすることができる。ポリマーとして、PMMAの他に、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、又はポリアクリロニトリル(PAN)を使用することができ、種々の無機微粒子又は有機微粒子を内包させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子あるいはポリマー被覆ビーズ等、外殻がポリマーから構成されその内部に無機微粒子又は有機微粒子を含むいわゆるコアシェル型のポリマー微粒子は、生物学、医療若しくは薬品分野におけるスクリーニングやデリバリーシステム、発光ダイオード(LED)、化粧品、装飾材料等の分野で注目されその利用が試みられている。
【0003】
このような用途に使用されるポリマー微粒子は、ポリマー外径が所定のサイズ範囲にあり、単分散性に優れたものが求められる。また、内包される無機微粒子又は有機微粒子がポリマーで適切に被覆され、被覆が破損されるようなことがなく、無機微粒子又は有機微粒子の所要量を含むことができるポリマー微粒子であることが求められる。
【0004】
そのようなポリマー微粒子として、例えば特許文献1に、微粒子がポリマーによってよく被覆され、かつ安定なポリマー被覆微粒子の製造方法、およびその製造方法により製造されるポリマー被覆微粒子が提案されている。そして、フェライト粒子が一個ずつポリマーで被覆されたポリマー被覆微粒子は、平均粒径が120.1nmで標準偏差が40.8、また、平均粒径が9.4nmで標準偏差が1.3等の例が開示されている。
【0005】
特許文献2、ポリマー被覆磁性ビーズであって、平均粒子径が4nm以上20nm以下のフェライトナノ微粒子と、前記フェライトナノ微粒子の表面を修飾する飽和脂肪酸と、前記ポリマー被覆磁性ビーズの主構成成分をなし前記飽和脂肪酸に修飾された前記フェライトナノ微粒子を固定する疎水性ポリマーとを有し、前記ポリマー被覆磁性ビーズの平均粒子径が200nm以下であり、前記フェライトナノ微粒子の含有率が30重量%以上であり、前記ポリマー被覆磁性ビーズの表面が前記ポリマーで構成されているポリマー被覆磁性ビーズが提案されている。また、そのようなポリマー被覆磁性ビーズを製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献3に、脂肪族炭化水素系溶媒を含有する有機溶媒中に常磁性体粒子を分散させた分散液とモノマーとして用いるエチレン性不飽和結合を有する化合物とを接触させた後、これらを水中で微分散させ、さらに該モノマーを重合させることにより製造することができる磁性体含有樹脂微粒子及びその製造方法が提案されている。すなわち、重量平均粒径が0.2〜1μmであり、動的光散乱法により測定した数平均粒径に対する重量平均粒径との比1.2未満であり、かつ、樹脂微粒子中の常磁性体粒子含有量が10重量%以上である磁性体含有樹脂微粒子が提案され、その磁性体含有樹脂微粒子は、粒径分布が狭く磁性体含有量が多くても粒子表面への磁性体の露出がほとんどないことが開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、絶縁性プラスチックフィルムの少なくとも片面に、機能性付与のための樹脂を含有する樹脂組成物が微小な線状体及び/又は粒子状体として付着した表面層を有する、表面改質プラスチックフィルムであり、該樹脂組成物が、更に無機微粒子を含み、該微小な線状体及び/又は粒子状体の直径が100μm〜1nmである表面改質プラスチックフィルムが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005-200643号公報
【特許文献2】特開2006-131771号公報
【特許文献3】特開2004-99844号公報
【特許文献4】特開2005-281679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子は、単分散性に優れたものが求められるが、そのようなポリマー微粒子を提案又は開示するものは少ない。もっとも、特許文献1にはそのようなポリマー被覆微粒子が開示されている、しかし、このポリマー被覆微粒子は、フェライト粒子が一個ずつポリマーで被覆されたポリマー被覆微粒子であるから、被覆されるフェライト粒子自身の単分散性に左右されるおそれがある。また、所要量のフェライト粒子を内包させたポリマー微粒子、あるいはフェライト粒子以外の所要量の無機微粒子又は有機微粒子を内包させたポリマー微粒子であって単分散性が高いポリマー微粒子を得ることができるか否かは不明である。
【0010】
また、無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子は、内包する無機微粒子又は有機微粒子が安定して保持されるように適切なポリマー被膜を有することが求められる。特許文献2又は3の提案に係るポリマー微粒子は、フェライト等の磁性粒子を内包するポリマー微粒子であり、磁性粒子はポリマー粒子表面への露出がないとされている。しかし、ポリマーの膜厚がどの程度であるのかが不明であり、磁性粒子が安定してポリマー粒子内に保持されているか否かは不明である。内包される磁性粒子の量によっては磁性粒子がポリマー粒子表面へ露出するおそれがある。
【0011】
さらに、特許文献1又は2の提案に係るポリマー微粒子の製造方法は、磁性粒子とモノマーとの懸濁重合法、乳化重合法、ミニエマルジョン重合法等を用いるものであるから、ポリマー微粒子の被膜の厚さを調整して磁性粒子を安定してポリマー粒子内に保持させるようにすることは容易でなく、複雑な操作が要求されるおそれがある。また、この製造方法を他の無機微粒子又は有機微粒子の場合に応用するには、モノマーと無機微粒子又は有機微粒子との組み合わせの制限から、他の無機微粒子又は有機微粒子への応用が限定されるおそれもある。
【0012】
一方、特許文献4の提案に係る樹脂組成物からなる微細な線状体及び/又は粒子状体は、無機微粒子を含むとされるが、樹脂組成物がアクリル系樹脂で無機微粒子がシリカ粒子である場合に、エネルギー分散X線分析法によりSi原子が線状体付着物に存在することが確認されたとするだけであり、無機微粒子を内包する微細な粒子状体が存在するのか否か不明である。
【0013】
本発明は、かかる従来の問題点及び要請に鑑み、単分散性が高く、無機微粒子又は有機微粒子がポリマー微粒子内に安定して保持されるような所定のポリマーの被膜厚さを有するポリマー微粒子であって、所要の粒径を有するポリマー微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るポリマー微粒子は、無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子であって、該ポリマー微粒子の平均粒径が0.5〜50μm、幾何標準偏差が1.3以下である。そして、このポリマー微粒子の被膜の厚さを0.1〜40μmにすることができる。
【0015】
上記発明において、ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル、又はポリアクリロニトリルとすることができる。また、無機微粒子は、Y3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、または、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子とすることができ、有機微粒子は、顔料、生分解性ポリマーPLGA、キトサン又はインスリンの微粒子とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリマー微粒子は、単分散性が高く、これに内包される無機微粒子又は有機微粒子に応じた材質のポリマー及びポリマー被膜厚さを有し、無機微粒子又は有機微粒子を安定してポリマー内に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るポリマー微粒子の発明の実施の形態について説明する。本発明に係るポリマー微粒子は、無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子であって、該ポリマー微粒子の平均粒径が0.5〜50μm、幾何標準偏差が1.3以下である。すなわち、本ポリマー微粒子は無機微粒子又は有機微粒子を内包するものであって単分散性に優れたポリマー微粒子である。
【0018】
図1及び2に本ポリマー微粒子の単分散性を示す。図1及び2において、横軸は粒径、縦軸は粒径分布を示す。また、図中に示すパラメータは、Qが静電噴霧される溶液の単位時間当たりの量(噴霧量)、dpgがポリマー微粒子の幾何平均粒子径、σgが幾何標準偏差、φが内包される微粒子のポリマーに対する質量比を示す。図1の場合、ポリマーはポリメタクリル酸メチル(PMMA)、内包される微粒子は有機微粒子(戸田工業株式会社製黄色顔料、Bis-Azo pigment、平均粒径18nm)である。図2の場合、ポリマーはPMMA、内包される微粒子は有機微粒子(戸田工業株式会社製シアン顔料、beta copper phthalocyanine、平均粒径18nm)である。なお、図1及び2に示すポリマー微粒子は、以下に説明する静電噴霧法により製造したものである。
【0019】
図1及び2に示すように、ポリマー微粒子の粒径の幾何標準偏差は、図1(a)に示す有機微粒子が黄色顔料で噴霧量が1μL/minである場合に幾何標準偏差が1.5であるのを除いて、よく1.3以内に入っており、幾何標準偏差が1.1以下にすることも可能であることが分かる。すなわち、本ポリマー微粒子は、静電噴霧されるポリマー、無機微粒子又は有機微粒子の種類、噴霧量、質量比等を調整することによって製造される単分散性の高い無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子である。
【0020】
そして、本ポリマー微粒子は、図3のポリマー微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真に示すように、無機微粒子又は有機微粒子13がポリマー微粒子10の中心部に塊って存在し、十分なポリマーの被膜11を有するものである。図3に示すポリマー微粒子は、図1の場合と同様、ポリマーがPMMA、内包される有機微粒子が黄色顔料(平均粒径18nm)である。この例の場合、ポリマー微粒子10の径(外接円)が1.4μm、塊状になった多数の黄色顔料が含まれる範囲(外接円)は径が0.9μm、ポリマー微粒子10の被膜11の厚さが0.2μmである。なお、被膜11の厚さとは、ポリマーの外接円と無機微粒子又は有機微粒子13の外接円との差から求めた平均被膜厚さいう。
【0021】
このように、本ポリマー微粒子10は、内包する無機微粒子又は有機微粒子13を被膜11で十分に覆っており、無機微粒子又は有機微粒子を安定してポリマー内に保持することができる。本ポリマー微粒子10の被膜11の厚さは、0.1〜40μmとすることができる。ポリマー微粒子10の被膜11の厚さは、無機微粒子又は有機微粒子13をその内部に安定して保持するには0.1μm以上がよい。これに対し、皮膜11の厚さが40μmを越えるとその内部に内包される無機微粒子又は有機微粒子13の特性を十分に発揮させ難くなるので好ましくない。
【0022】
また、本ポリマー微粒子は、上述のように静電噴霧法により製造されるものであるから、ポリマー微粒子の平均粒径が0.5μm未満の場合は静電噴霧中に液滴が分裂したものが含まれており安定した粒径のものを得難く、一方、平均粒径が50μmを越える場合は液滴が凝集したものが含まれ、やはり安定した粒径のものを得難いという特徴がある。このため、粒径の幾何標準偏差が1.3以下の単分散性に優れたポリマー微粒子を得るには、ポリマー微粒子の平均粒径を0.5〜50μmとするのがよく、1〜10μmとするのが好ましい。
【0023】
本発明に係るポリマー微粒子に使用するポリマーとして、PMMAの他に、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、又はポリアクリロニトリル(PAN)を使用することができる。
【0024】
また、ポリマー微粒子内に内包される無機微粒子又は有機微粒子として上記の顔料の他に、無機微粒子ではY3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、または、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子を使用することができる。有機微粒子については、生分解性ポリマーPLGA(Copoly lactic acid/glycolic acid)、キトサン又はインスリンの微粒子を使用することができる。これらの無機微粒子又は有機微粒子は、その径が1〜100nmであり、溶液中で凝集が少なく、溶媒に不溶性であるのがよい。なお、生分解性ポリマーPLGA、キトサンはポリマーとしても使用することができる。この場合は薬剤微粒子を内包させるのに好ましい。
【0025】
以上本発明に係るポリマー微粒子について説明した。このようなポリマー微粒子は、以下に説明する静電噴霧法により製造することができる。静電噴霧法は公知の方法を使用することができる。まず、製造すべきポリマー微粒子に対し、ポリマーとポリマーに内包される無機微粒子又は有機微粒子との所定の質量比の溶液を調整し、その調整された溶液の電気伝導度をK、噴霧量をQ(μL/min)とするとき、その溶液を所定の噴霧量電気伝導度比Q/Kで静電噴霧を行ことによって、上述のような無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子を製造することができる。なお、静電噴霧する溶液の種類が特定されれば溶液の電気伝導度Kは一定であるから、Q/KはQに比例するものとして取り扱うことができる。
【0026】
図4に、ポリマーがPMMA、内包される有機微粒子が顔料である場合、ポリマーと顔料との質量比が4になるように調整した溶液を静電噴霧したとき、噴霧量Qと噴霧された液滴径との関係を示す。この噴霧状態の液滴径を所定のサイズに調整することによって、単分散性に優れ、所定の粒径を有するポリマー微粒子を得ることができる。図4において、横軸は噴霧量を示し、縦軸は捕集されたポリマー微粒子を走査電子顕微鏡により測定した液滴径を示す。図4に示すように、液滴径は所定の噴霧量Qに調整することにより液滴径をよく調整できることが分かる。
【実施例1】
【0027】
ポリマーが平均分子量1.5×104のPMMA、内包される有機微粒子が黄色又はシアン顔料(戸田工業株式会社製、平均粒径18nm)である場合のポリマー微粒子の製造試験を行った。まず溶媒となるN-N Dimethylformamide(DMF)にPMMAを10質量%溶解させ、ポリマー溶液を作製した。そのポリマー溶液に顔料を各種質量比になるように混合し10分間超音波撹拌した。その溶液を、噴霧量1〜4μL/min、印加電圧5〜7.8kVの条件で静電噴霧した。捕集板に捕集された顔料が内包されたポリマー粒子を走査電子顕微鏡(FE-SEM、株式会社日立製作所製 S-5000)で観察し、その粒度分布を測定した。粒子の構造は、走査電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製JEM 2010)により分析した。本試験結果の一例を図1〜4に示した。
【0028】
また、有機微粒子が黄色顔料である場合のポリマー微粒子のFE-SEM写真を図5に示す。図5において、図中に示す数字は黄色顔料のPMMAに対する質量比を示す。質量比が0.25の場合(図5(a))と0.08の場合(図5(c))を比較すると、質量比が0.25の場合は小さい粒径の中に相当大きい塊状のものが点在し、少ないが非常に大きい塊状のものも存在する。これに対し、質量比が0.08の場合は、粒径のそろった小さな粒子が存在する。概して質量比が小さいほどポリマー微粒子の単分散性が高いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るポリマー微粒子の単分散性を示すグラフである。
【図2】本発明に係る他の例のポリマー微粒子の単分散性を示すグラフである。
【図3】本発明に係るポリマー微粒子のTEM写真を示す図である。
【図4】本発明に係るポリマー微粒子製造方法において、噴霧量と噴霧された液滴径との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るポリマー微粒子のFE-SEM写真を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 ポリマー微粒子
11 被膜
13 無機微粒子又は有機微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子又は有機微粒子を内包するポリマー微粒子であって、該ポリマー微粒子の平均粒径が0.5〜50μm、幾何標準偏差が1.3以下であるポリマー微粒子。
【請求項2】
被膜の厚さが0.1〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項3】
ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリメタクリル酸メチル、又はポリアクリロニトリルであることを特徴とする請求項1又2に記載のポリマー微粒子。
【請求項4】
無機微粒子は、Y3Al5O12:Ce、Y2O3:Eu、ZnO:EuもしくはY2SiO5Tb3+の蛍光体微粒子、SiO2、TiO2、ZrO2もしくはBaTiO3の酸化物微粒子、または、FePtもしくはBaFe12O19の磁性体微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー微粒子。
【請求項5】
有機微粒子は、顔料、生分解性ポリマーPLGA、キトサン又はインスリンの微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239897(P2008−239897A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85671(P2007−85671)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】