説明

ポリマー薄膜の製造方法およびポリマー薄膜

【課題】高い強度、柔軟性および精度を有し、かつ、表面積が大きいポリマー薄膜を製造する。
【解決手段】支持体上に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー薄膜の製造方法および該製造方法により得られるポリマー薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自己支持性を有する薄膜の製造方法が種々検討されており、水面キャスト法、シランカップリング剤を用いた界面反応法等が知られている。しかし、これらの方法により得られる薄膜は、通常、機械的な強度に乏しく、また得られる薄膜の精度にも限界がある。
一方、生体脂質の薄膜は、分子自体が持つ自己組織化能によって製膜における精度は極めて高いが、機能性薄膜として使用するには機械的な強度が不足している。そのため、生体脂質の薄膜は、多層の膜からなる構造とする必要があり、一般的な実用性に優れていない。
また、薄膜形成方法として知られている、ラングミュア・ブロジェット法(Langmuir Blodgett, LB)法やlayer-by-layer法(LbL積層法)は、作製操作が煩雑であり、また、多くの欠陥を含む微結晶ドメインの集合体となることも多く、その実用性は高くない。すなわち、これらの方法では、表面積が大きく、かつ、強度の高い膜を得ることは困難である。
【0003】
一般に、薄膜、特に、自己支持性を有する薄膜は、その表面積が大きくなるにつれ、膜表面に欠陥が生じやすくなる。また、自己支持性膜と言われているものの中には、多孔質の支持体等を基板として有するものが多い。
ここで、非特許文献1には、カルボキシル基とメチル基を表面に有する自己支持性膜(Self ?assembled monolayer)の表面にポリエチレンイミンをイオン吸着させ、重合させることにより、薄膜を形成する方法が記載されている。しかしながら、該方法は、自己支持性膜と、その表面に吸着させたポリエチレンイミン層を重合させる方法である。すなわち、層同士が重合する構成である。
【0004】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, No.6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記課題を解決することを目的としたものであって、高い強度、柔軟性および精度を有するポリマー薄膜を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の下、発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段により、上記課題を解決しうることを見出した。
(1)支持体上に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法。
(2)支持体の表面に、犠牲層を設け、該犠牲層の表面に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記犠牲層を除去することにより、前記支持体と前記重合させた組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法。
(3)前記組成物は、さらに、連鎖重合開始剤を含む、(1)または(2)に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(4)前記連鎖重合は、ラジカル重合である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(5)前記組成物は、E型粘度計によって測定した粘度が、0.01cps以上である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(6)前記犠牲層の除去は、該犠牲層を溶解することにより行う、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(7)前記犠牲層が水に溶解するポリマーを主成分とし、水により、犠牲層を溶解することを特徴とする(6)に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(8)前記(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物は、スピンコーティング法またはディップコーティング法により、前記支持体上に層状に設ける、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法により得られるポリマー薄膜であって、厚さを100nm以下としても自己支持性を有するポリマー薄膜。
(10)強度が、10MPa以上である、(9)に記載のポリマー薄膜。
(11)膜厚みと膜サイズのアスペクト比が104以上である、(9)または(10)に記載のポリマー薄膜。
(12)電気抵抗が1010以上である、(9)〜(11)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
(13)色素、顔料、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機微粒子、有機低分子、有機ポリマー、デンドリマー、生体分子、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、および粘土鉱物から選択される少なくとも1種を含む、(9)〜(12)のいずれか1項に記載のポリマー薄膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高い強度、柔軟性および精度を有するポリマー薄膜を得ることが可能になった。さらに、これらの特性を有しつつ、表面積が大きく、薄いポリマー薄膜を得ることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明のポリマー薄膜の製造方法は、支持体上に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物(以下、「本発明で用いる組成物」ということがある)を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを特徴とする。
【0010】
本発明における(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物とは、アクリル基を2つ以上有する重合性化合物またはメタアクリル基を2つ以上有する重合性化合物を意味し、アクリル基を2つ以上有する重合性化合物であることが好ましい。例えば、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物とは、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基やイソ(チオ)シアナートを2つ以上含んだ多価化合物を、(メタ)アクリル変性することによりアクリルエステルまたはアクリルアミドを形成する化合物である。
例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化1】

ここで、Yは多価アルコール変性基またはアミン変性基である。Yは、置換または無置換のアルキレン基、置換または無置換のアルキレン基から選択される1以上の基を有することが好ましい。
nは1以上の実数であり、好ましくは整数であるが、整数でない実数(小数)であってもよい。好ましくは、1〜10の実数である。
mは、0以上の実数であり、好ましくは整数であるが、整数でない実数(小数)であってもよい。好ましくは、1〜4の実数である。
xは、下記で表される基である。
【化2】

(ここで、Rは、水素原子またはメチル基を表し、*はYと結合する部位を示す。)
Rは、製造条件や用途に応じて選択することが好ましく、例えば、硬化が遅い方が好都合の場合には、メチル基が採用される。
【0011】
このような化合物の例として、n=1およびm=0である化合物としてR280(三井化学製)およびユニディック5500(大日本インキ製)、n=1、m=4である化合物としてPETIA(ペンタエリスリトールトリアクリレート)、n>2、m=1である化合物としてクレゾール系エポキシをアクリル変性させたリポキシH600(昭和高分子)が挙げられる。
【0012】
(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、他の重合性/非重合性化合物を含んでいてもよい。例えば、多官能アクリレート化合物と単官能アクリレートモノマーを併用することが挙げられる。このような手段を採用することにより、塗布性やコーティング性を向上させることができる。
【0013】
本発明で用いる、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物は、モノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。
モノマーを用いる場合、連鎖重合に直接関係のない物質(例えば、バルク材)を添加して、組成物の粘度を調節することが好ましい。このような手段を採用することにより、本発明で用いる組成物の粘度を高めることができ、塗布が容易になる。
オリゴマーを用いる場合、単位ユニットが1〜50であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
また、本発明で用いる組成物の、E型粘度計によって測定した粘度が、0.01cps以上であることが好ましく、0.1〜10cpsであることがより好ましく、0.5〜10cpsであることがさらに好ましい。このような粘度とすることにより、塗布性をより向上させることができる。
【0014】
本発明では、本発明で用いる組成物中に、30重量%の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含むことが好ましい。
【0015】
本発明では、本発明で用いる組成物を連鎖重合させるが、重合方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではなく、公知の連鎖重合方法を広く採用できる。連鎖重合としては、ラジカル重合(リビングラジカル重合等を含む)およびイオン重合が挙げられ、イオン重合としてはアニオン重合(リビングアニオン重合等を含む)が挙げられる。
本発明では、連鎖重合開始剤を用いた重合が好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光重合または熱重合がより好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光ラジカル重合または熱ラジカル重合がさらに好ましく、連鎖重合開始剤を用いた光ラジカル重合が特に好ましい。二成分系の電子移動型の酸化還元反応(red-ox、レドックス反応)を用いる方法も同様に好ましい。
【0016】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等が挙げられる。ベンゾイン類としては例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。アセトフェノン類としては例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどが挙げられる。アントラキノン類としては例えば、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどが挙げられる。チオキサントン類としては例えば、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。ケタール類としては例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどが挙げられる。ベンゾフェノン類としては例えば、ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、4,4'−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。ホスフィンオキサイド類としては例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。また、具体的には、市場より、チバ・スペシャリティケミカルズ社製イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア907(2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパノン)、BASF社製ルシリンTPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等を容易に入手出来る。
【0017】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物およびアゾ系重合開始剤が挙げられる。有機過酸化物の例としては、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキシド等が挙げられる。またアゾ系重合開始剤の例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等が挙げられる。
これらの連鎖重合開始剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
これらの連鎖重合開始剤は、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物に対し0.5〜5重量%の割合で用いることが好ましい。
【0018】
光重合開始剤を用いて光重合を行う場合、例えば、波長300nm〜500nm、強度1mJ/cm2・s〜1J/cm2・s、30秒〜10分の光照射を行うことが好ましい。
熱重合開始剤を用いて熱重合を行う場合、例えば、80〜150℃、1分〜10分の加熱を行うことが好ましい。
【0019】
本発明における連鎖重合は、連鎖重合開始剤を用いない、光重合(例えば、UV光照射)、熱重合(例えば、加熱)、放射線重合(例えば電子線)等の重合方法であってもよい。
連鎖重合開始剤を用いない直接の光照射による光重合を行う場合、250nm以下の短波長で、10mJ以上の強度で光照射することが好ましい。
加熱による熱重合を行う場合、120℃以上で2時間加熱することが好ましい。
電子線照射により放射線重合を行う場合、10mJ/cm2・s、10秒〜2分、光照射することが好ましい。
【0020】
本発明の組成物には、重合構造形成に関与しない、膜に機能を持たせるための物質を含んでいてもよい。このような物質は、有機化合物、無機化合物のいずれでもよく、色素、顔料、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機微粒子、有機低分子、有機ポリマー、デンドリマー、生体分子、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、および粘土鉱物から選択される少なくとも1種が例示される。色素としては、ローダミンやピレン、ポルフィリンなどに代表される一般的な蛍光性色素の他、アゾベンゼンやスピロピランのような一般的な機能性色素なども用いることができる。顔料としては、アゾ顔料やフタロシアニンブルーなどの多環式系顔料、あるいはニッケルチタンエローのような無機顔料が、金属微粒子としては、金超微粒子や銀超微粒子、プラチナ微粒子にタングステン微粒子などが挙げられる。金属酸化物微粒子としては、酸化アルミニウムや酸化チタン、酸化珪素に酸化スズなどが挙げられる。有機微粒子としては、ポリスチレンラテックスや(メタ)アクリルアミド粒子、ジビニルベンゼンで重合したポリスチレン微粒子などが挙げられる。有機低分子としては、カルバゾール誘導体やTTF(tetrathiafulvalene)誘導体、キノン類誘導体、チオフェンやピロール誘導体などの各種機能性分子が挙げられる。有機ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドなどの結晶性ポリマーや、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホンなどのアモルファスポリマーが挙げられる。生体分子としては、DNAやタンパク質、リン酸質にグルコース、ATPなどが挙げられる。粘土鉱物としては、ゼオライトやカオリナイト、モンモリロナイトにクロライト等が挙げられる。デンドリマーとしては、PMMA型デンドリマーやチオフェン型デンドリマー、ポリ(アミドアミン)デンドリマーが上げられる。
これらの物質は、本発明で用いる組成物中に、0.01〜80重量%の範囲で用いることが好ましい。また、これらの物質は、得られるポリマー薄膜の0.1〜40重量%の範囲で含まれていることが好ましい。
このように、本発明の製造方法では、種々の物質を含んだ薄膜として用いることができる。例えば、色素を含んだポリマー薄膜は、光学材料に用いることができる。また、金属酸化物を含んだポリマー薄膜は、層間絶縁膜に用いることができる。
また、本発明における本発明で用いる組成物は、通常、溶媒中に、樹脂や他の物質等を添加して調整する。ここで用いる溶媒は、特に定めるものではないが、例えば、クロロフォルム、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、乳酸エチル等を用いることができる。
【0021】
本発明では、本発明で用いる組成物を、支持体上に層状に設けている。本発明で用いる組成物を1つの層状にして重合させることにより、1つの層内で重合構造を形成させることができる。このような手段を採用することにより、従来に比して著しく強度が高く、かつ、自己支持性を有し、さらに、表面積の大きなポリマー薄膜の製造が可能になる。また、異なる種類の重合物層を重ねることも可能である。
ここで、本発明で用いる組成物は、支持体上に直接に設けてもよいし、後述する犠牲層等、何らかの層を設けた上に設けてもよい。
また、本発明で用いる組成物を設ける面の表面は洗浄しておくことが好ましい。洗浄は、酸含有液、好ましくは、ピラニア溶液で洗浄しておくとよい。このような操作を含むことにより、重合した樹脂組成物(本発明のポリマー薄膜)を支持体から分離することがより容易にできる。
層状に設ける方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法等の薄層を設ける方法が広く採用できる。
スピンコーティング法を採用する場合、回転数600〜8000rpmで行うことが好ましい。
また、本発明における膜厚は、本発明で用いる組成物中における樹脂の濃度やスピンコートの条件等により調整することができる。
【0022】
本発明では、本発明で用いる組成物を連鎖重合させた後、支持体から分離する工程を有する。ここで、連鎖重合した本発明で用いる組成物と、支持体とを分離する方法は公知の方法を採用することができる。
好ましくは、支持体の表面に犠牲層を設け該犠牲層を除去することにより行うことができる。犠牲層を設ける方法および除去する方法は、本発明のポリマー薄膜に損傷を与えない方法であれば、いかなる方法であってもよい。好ましくは、本発明で用いる組成物からなる層、すなわち、ポリマー薄膜が溶解せずに犠牲層のみを溶解する溶媒に浸漬して該犠牲層を溶解する方法である。この方法を採用する場合、犠牲層とポリマー薄膜の間に切り込みを入れておくことが好ましい。このような手段を採用することにより、溶媒がより浸透しやすくなり好ましい。
特に、本発明では、犠牲層として、外的な刺激によって溶媒への溶解度が不溶から可溶へと変化するポリマーを好ましく用いることができる。このようなポリマーは、好ましくは架橋性ポリマーであり、より好ましくは熱架橋性−光分解性ポリマーまたは光架橋性−熱分解性ポリマーである。熱架橋性−光分解性ポリマーとしては、例えば、ビニルエーテルと、水酸基または酸性ポリマーと、光酸発生剤との組み合わせからなるものが挙げられる。具体的には、例えば、特開平9−274320号公報や特開2004−117878号公報に記載のものが挙げられる。一方、光架橋性−熱分解性ポリマーとしては、例えば、側鎖にエポキシ基を有するポリマーが挙げられる。具体的には、Chem. Mater. 2002, 14, 334-340に記載のものが挙げられる。このような熱架橋性−光分解性ポリマーまたは光架橋性−熱分解性ポリマーを採用することにより、本発明で用いる組成物を犠牲層上に設ける際に、ほとんどすべての溶媒を使用することができるという利点がある。
【0023】
本発明では、犠牲層の主成分として、水に溶解するポリマーを採用し、水により、犠牲層を溶解する方法が好ましく採用される。このような犠牲層を採用することにより、薄膜を水面に張った状態で得ることができるという利点がある。
ここで、主成分とは、例えば、犠牲層調整時の犠牲層の80重量%以上が、水に溶解するポリマーであることをいう。水に溶解するポリマーとしては、ポリスチレンスルフォネート、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリルアミド、水溶性セルロース等が挙げられる。
犠牲層の厚さとしては、100nm〜10μmが好ましい。このような範囲とすることにより、犠牲層を容易に除去できる。
【0024】
ここで、支持体としては、ガラス、シリコンウェハー、マイカ、金基板等を採用できる。また、犠牲層としては、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレンスルフォネート、半導体用レジスト材料、熱重合性のポリマー等を採用できる。犠牲層の作製に用いる溶媒としては、本発明のポリマー薄膜に損傷を与えない溶媒であることが好ましい。但し、溶媒が完全に揮発した後に本発明で用いる組成物を層状に設ける場合等、本発明の趣旨を逸脱しない限り、この要件は必須ではない。
【0025】
本発明の方法により得られるポリマー薄膜は、従来の方法では得られなかった有意な特性を有している。
まず、本発明の製造方法を採用することにより、自己支持性を有するポリマー薄膜が得られる。ここで自己支持性とは、基板を取り除いても該ポリマー薄膜層が薄膜の形態を保つことをいう。
さらに、以下の性質を有するポリマー薄膜を製造することができる。
(1)膜の厚さが、例えば100nm以下、さらには30nm以下としても自己支持性を有するポリマー薄膜
(2)表面積が100mm2以上のポリマー薄膜
(3)アスペクト比 (厚さに対する膜サイズ比)が104以上、さらには106以上、特には107以上のポリマー薄膜
(4)支持体に対し、1%以下の寸法精度を有する、寸法安定性に優れたポリマー薄膜
(5)例えば1MPa以上、さらには10MPa以上の強度を有するポリマー薄膜
(6)半永久的(例えば、1年以上)自己支持性を維持させることができるポリマー薄膜
(7)例えば、0.1%以上の極限伸縮張率を有する、柔軟性に優れたポリマー薄膜
(8)得られるポリマー薄膜中、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物由来の成分が20〜99.9重量%を占めるポリマー薄膜
(9)ヤング率が800MPa以上であるポリマー薄膜
(10)強度が10MPa以上であるポリマー薄膜
さらに、本発明の製造方法により得られるポリマー薄膜は、重合していない直鎖ポリマー薄膜や、2層の間で重合構造を形成させてなるポリマー薄膜では決して得られなかった十分な機械的強度を有している。
【0026】
本発明のポリマー薄膜の厚さは、用いる用途に応じて適宜定めることができるが、例えば3nm〜100nmであり、好ましくは10nm〜50nmとすることができる。このような膜厚とすることにより、厚膜では達成できなかった柔軟さを持たせることができ、物質透過性を高めることができ、さらに、緻密な保護膜として使用することができる。
【0027】
本発明のポリマー薄膜は、上述のとおり、該ポリマー薄膜自身に機能性を持たせても良いが、該ポリマー薄膜の表面に機能性層を設けることにより、また、機能性材料を付着させることにより、機能性を持たせることもできる。このような機能性層としては、金属層やポリマー層、金属酸化物層が挙げられる。また、機能性材料としては、色素(特に、ローダミンイソチオシアネート、フルオレスカミン、ダンシルクロリド、ダブシルクロリドのような、官能基を有した色素)、顔料、液晶分子や金属微粒子、さらには半導体微粒子や酸化物微粒子が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1
(メタ)アクリル基を2つ有する重合性化合物(商品名:R280、製造元:三井化学)を、クロロフォルムに溶解させ、さらに光重合開始剤としてDarocure4265(製造元:Ciba-Geigy)を添加したものを塗布溶液とした。濃度は重合性化合物成分が0.2重量%となるように調整し、光重合開始剤は重合性化合物成分に対して5重量%とした。
以下に、重合性化合物および光重合開始剤の化学式を示す。
【0030】
Darocure4265
下記化合物の1:1(重量比)の混合物である。
【化3】

【化4】

【0031】
図1に示す手順に従って、ポリマー薄膜を作製した。ここで、図1中、1は基板を、2は犠牲層を、3は本発明で用いる組成物からなる層を、4は光照射装置を、5は本発明で用いる組成物を光照射した後のポリマー薄膜を示している。
始めに、シリコンウェハー基板(サイズ:4x4cm)上に犠牲層としてポリビニルフェノール(PHS)層をスピンコートにより設けた(厚さ:約100nm)(図1の(a))。次に、上記塗布溶液を、2000rpm、60sスピンコートして、犠牲層上に本発明で用いる組成物からなる層を設けた(図1の(b))。層の厚さは20nmとした。本発明で用いる組成物からなる層に、光照射装置を用いて、波長300nmの光を真空中で30秒間照射した(図1の(c))。ここで、光源には水銀ランプを用い、スライドガラスを通して露光を行った。得られたポリマー薄膜を水中に浸積することによって、犠牲層が溶解しポリマー薄膜を分離した(図1の(d))。
【0032】
得られたポリマー薄膜は、水面上で安定した状態であった。また、得られたポリマー薄膜は、寸法安定性に優れており、基板の大きさとほぼ同様の大きさであった。
得られたポリマー薄膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図2に示した。図2中、(a)は、断面図を、(b)は表面写真を示す。観察は、ポリマー薄膜を多孔質アルミナ基板上に移し替えて行った。ポリマー薄膜の膜厚は約22(2nmであった。図2(b)より、得られたポリマー薄膜の表面は凹凸のあるアルミナ基板上に移し替えても、破損がないことが確認された。尚、図2(b)においてクラックのように見えるのは、蒸着したプラチナ粒子によるものである。
ポリマー薄膜のサイズは、4cm×4cmであった。
【0033】
また、得られたポリマー薄膜について、SIEBIMM法(strain-induced elastic buckling instability measurement method)によって、ヤング率を測定したところ、800MPaであった。
【0034】
実施例2
実施例1において、犠牲層として、ポリビニルフェノール(PHS)層を、ポリスチレンスルフォネート(PSS)層に代え、他は同様に行った。
実施例1と同様に、水面上で安定した状態であり、寸法安定性に優れており、基板の大きさとほぼ同様の大きさの薄膜が得られた。また、ポリマー薄膜の膜厚は約22(2nmであった。また、破損がないポリマー薄膜であることが確認された。
【0035】
実施例3
実施例1において、犠牲層の溶解を、水に代えてエタノールとし、他は同様に行った。エタノールを用いて犠牲層を溶解すると、ポリマー薄膜が得られた。しかしながら、エタノール中では、得られたポリマー薄膜を安定した状態に保つことが困難であった。すなわち、具体的には、犠牲層除去直後は、ポリマー薄膜は広がった状態で存在しているが、その後に収縮が起こり、結果としてくしゃくしゃに丸まった毬状の凝集物となった。凝集物となった場合、これを再び広げるのは困難であった。
【0036】
実施例4
実施例1において、(メタ)アクリル基を2つ有する重合性化合物として、商品名R280を、ユニディック5500(製造元:大日本インキ製)に代え、他は同様に行った。
【0037】
実施例1と同様に、水面上で安定した状態であり、寸法安定性に優れており、基板の大きさとほぼ同様の大きさの薄膜が得られた。また、ポリマー薄膜の膜厚は約22(2nmであった。また、破損がないポリマー薄膜であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例におけるポリマー薄膜の製造方法のスキームを示す。
【図2】実施例1におけるSEM観察の結果を示す。
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 犠牲層
3 本発明で用いる組成物からなる層
4 光照射装置
5 ポリマー薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記支持体と前記組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法。
【請求項2】
支持体の表面に、犠牲層を設け、該犠牲層の表面に、(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物を層状に設け、該層状に設けた組成物中の(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を連鎖重合させた後、前記犠牲層を除去することにより、前記支持体と前記重合させた組成物を分離させることを含むポリマー薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記組成物は、さらに、連鎖重合開始剤を含む、請求項1または2に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記連鎖重合は、ラジカル重合である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記組成物は、E型粘度計によって測定した粘度が、0.01cps以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記犠牲層の除去は、該犠牲層を溶解することにより行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記犠牲層が水に溶解するポリマーを主成分とし、水により、犠牲層を溶解することを特徴とする請求項6に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル基を2つ以上有する重合性化合物を含む組成物は、スピンコーティング法またはディップコーティング法により、前記支持体上に層状に設ける、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー薄膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られるポリマー薄膜であって、厚さを100nm以下としても自己支持性を有するポリマー薄膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−285617(P2008−285617A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134000(P2007−134000)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日 平成19年2月6日 掲載アドレス http://pubs3.acs.org/acs/journals/toc.page?incoden=mamobx&indecade=0&involume=40&inissue=5
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】