説明

ポリ乳酸樹脂及びポリ乳酸樹脂組成物

【課題】ポリ乳酸樹脂中の残存ラクチド量が少なく、かつ結晶化速度も向上したポリ乳酸樹脂及びポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっており、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂であって、示差走査型熱量計により110℃降温等温条件で測定した際の結晶化時間T1/2が10分以下であることを特徴とするポリ乳酸樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度が速く、短時間で耐熱性に優れた成形体を製造することが可能となるポリ乳酸樹脂及びポリ乳酸樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート樹脂等が使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増やすうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でも、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等は、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸樹脂は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸は、結晶化を充分進行させることにより耐熱性が向上し、広い用途に使用可能となるが、ポリ乳酸単独ではその結晶化速度は極めて遅いものである。そこで、通常、結晶化速度を向上させることを目的として、ポリ乳酸に各種結晶核剤を添加することなどが提案されてきた(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、通常1〜2%は含まれるD体含有量を0.6%以下に抑えたポリ乳酸樹脂を用い、結晶核剤と併用することにより飛躍的に結晶化速度の増大が図られることが開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明におけるポリ乳酸樹脂の場合、成形体を得るために金型を用いてポリ乳酸を射出成形する際には、実用上充分な結晶化速度を得るために、金型温度を90〜120℃に設定しなければならない。
【0007】
また、特許文献2に記載のポリ乳酸樹脂組成物では、金型温度が80℃での成形体作製に成功しているが、実用上十分に結晶化された成形体を得るための成形サイクルが長く、生産性が十分とは言えないものであった。
【0008】
一方、ポリ乳酸中にラクチドが残存している場合、成形加工時に分子量低下や着色が生じる原因となったり、得られた成形品の物性が経時的に劣化してしまうなど、各種製品の製造及び使用に関して大きな不安定要因となることが知られている。そのため、これまで減圧乾燥法や溶媒処理法などによって、ポリ乳酸中のラクチド除去に関する検討がなされてきた(特許文献3および特許文献4)。
【0009】
しかしながら、特許文献3においては、ポリ乳酸中のラクチドは溶融加工時に樹脂を劣化させ、色調を悪化させることや、得られた成形品の物性を経時的に劣化させることは記載されているが、結晶化速度に影響を及ぼすことについては記載されていない。
【0010】
そして、特許文献3記載のポリ乳酸では、溶媒処理後もポリ乳酸中に8000ppmのラクチドが残存しているため、溶融加工時の樹脂の物性や得られる成形品の物性が十分なものではなく、さらに、結晶化速度も十分に速いものではなかった。
【0011】
また、特許文献4および特許文献5では、成形時の着色および成形品の耐久性を向上させるために、樹脂中の残存ラクチド量を200〜500ppm程度に低減したポリ乳酸系樹脂が記載されているが、二軸押出し機を用いてラクチドの除去を行ったものであるため、結晶化速度は十分に向上したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/137397号公報
【特許文献2】WO2009/004769号公報
【特許文献3】特開2003−119276号公報
【特許文献4】特開2010−174219号公報
【特許文献5】特開2010−070588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、ポリ乳酸樹脂中の残存ラクチド量が少なく、かつ結晶化速度も向上したポリ乳酸樹脂及びポリ乳酸樹脂組成物を提供することを技術的な課題とするものである。
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)アセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっており、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂であって、示差走査型熱量計により110℃降温等温条件で測定した際の結晶化時間T1/2が10分以下であることを特徴とするポリ乳酸樹脂。
(2)アセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっており、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂95〜99.9質量部と、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上の結晶核剤0.1〜5質量部とを含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
(3)金型温度80℃に設定した射出成形機においてISO準拠の曲げ試験片を成形した際、得られた試験片を変形することなく取り出せるまでの射出開始からの所要時間が30秒以下である(2)記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリ乳酸樹脂は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であり、かつアセトン処理が施されることにより、残存ラクチド量が700ppm以下となっているため、溶融加工時に分子量低下や着色が生じず、得られる成形品は経時的劣化が少なく、優れた物性を有している。さらに、結晶化速度が速く、成形加工性に優れている。
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、本発明のポリ乳酸樹脂中に結晶核剤を添加したものであるため、さらに結晶化速度が速く、成形加工性に優れている。
したがって、本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物を成形加工すると、短時間で、結晶化度が高く、耐熱性に優れた成形品を得ることが可能である。そして、本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物は、電気製品の筐体などに用いることが好適であり、低環境負荷材料であることから、その他の製品にも広く使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
まず、本発明のポリ乳酸樹脂について説明する。
本発明のポリ乳酸樹脂は、アセトン処理が施されており、これにより、ポリ乳酸樹脂中の未反応のラクチドが抽出されており、ポリ乳酸樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっているものである。
【0017】
アセトン処理とは、ポリ乳酸樹脂をアセトンで洗浄することであり、アセトンでの洗浄方法としては、以下のような方法が好ましい。ポリ乳酸樹脂とアセトンとの質量比を1:1〜1:3とし、攪拌翼などによって30分以上の攪拌を行う。なお、攪拌時の温度は、0℃〜60℃の範囲が好ましく、中でも10℃〜40℃、より好ましくは20℃〜30℃である。温度が60℃を超える場合、アセトンの沸点を超えているため、アセトンの揮発が大きくなる。0℃未満の場合、アセトンの冷却を行わなければならないため、コスト的に不利となる。攪拌翼の攪拌速度は、50〜1000rpmが好ましく、中でも100〜500rpmが好ましく、より好ましくは150〜300rpmである。1000rpmを超える場合、攪拌速度が速すぎ、樹脂同士が激しくぶつかることによってダストの発生が多くなる。10rpm未満の場合、アセトン中に抽出されるラクチド量が少なくなり、処理時間が長時間となる。
【0018】
一般には、ポリ乳酸樹脂中の未反応ラクチドを抽出するためには、メタノール等の他の溶媒も使用できるが、本発明においては、アセトンを溶媒として使用することにより、未反応ラクチドを抽出すると同時に、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させることも可能となる。
【0019】
アセトンは比較的安価な溶媒でありコスト的に有利であり、また、ラクチドだけでなく、ポリ乳酸樹脂中の低分子オリゴマーの抽出も可能である。また、処理後の残渣から、乳酸が検出されないため、抽出物が分解して乳酸になることがなく安定であるため、ラクチドの再利用などを考えた場合にはコスト的に有利となる。これらのことにより、上記したようなポリ乳酸樹脂の結晶化速度の向上効果が生じるものと推定される。
【0020】
アセトンに代えて、メタノールなどの他の溶媒を用いた場合、残渣から乳酸が多く検出される。このため、樹脂中に乳酸が残存した場合などは、加工や保存中に分子量低下などの問題が生じることがある。そして、得られるポリ乳酸樹脂は結晶化速度が向上していない。
【0021】
また、ポリ乳酸樹脂中の未反応ラクチドを除去する方法として、一軸押出し機、二軸押出し機などでラクチド除去を行う方法も一般的である。しかしながら、これらの方法でラクチド除去を行った場合も低分子オリゴマーがポリ乳酸中に残存しており、得られるポリ乳酸樹脂は結晶化速度が向上したものとはならない。
【0022】
本発明のポリ乳酸樹脂は、上記のようなアセトン処理により、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下であることが必要であり、中でも500ppm以下であることが好ましい。残存ラクチド量が700ppmを超える場合、溶融加工時に分子量低下や着色が生じ、得られる成形品は経時的劣化が大きいものとなる。また、結晶化速度の遅いものとなる。
【0023】
本発明において、ポリ乳酸樹脂中の残存ラクチド量は以下のようにして測定、算出する。
まず、試料0.1gに、塩化メチレン9ml、内部標準液1ml(2,6−ジメチル−γ−ピロンの5000ppm溶液)を加え、ポリマーを溶解させる。ポリマー溶解液にシクロヘキサン40mlを添加し、ポリマーを析出させる。HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)で濾過後、Agilent Technologies社製7890A GCSystemでGC測定し、ラクチド含有量を算出する。
【0024】
そして、本発明のポリ乳酸樹脂は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることが必要であり、中でもD体含有量が0.6モル%以下であるか、または99.4モル%以上であることが好ましい。このようなポリ乳酸樹脂であることにより、上述したアセトン処理による、結晶化速度の向上効果が十分に奏されるものとなる。
D体含有量が1.0モル%を超えるか、または99.0モル%未満である場合、前述のアセトン洗浄を行ったとしても、結晶化速度が十分に向上しない。このため成形加工性が悪いものとなる。
【0025】
ポリ乳酸樹脂のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂の場合、このポリ乳酸樹脂は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0026】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂のD体含有量は、後述するように、ポリ乳酸樹脂を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0027】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂として、2種以上のポリ乳酸樹脂を併用してもよい。この場合、D体含有量が本発明で規定する範囲外であるポリ乳酸樹脂、たとえば、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸樹脂を併用してもよく、このようなポリ乳酸樹脂と、本発明で規定するD体含有量を満足するポリ乳酸樹脂とを併用して得られるポリ乳酸樹脂において、そのD体含有量が1.0モル%以下であればよい。
【0028】
本発明のポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が速いものであるが、それを示す指標として、示差走査型熱量計により110℃降温等温条件で測定した際の結晶化時間T1/2が10分以下である。
なお、結晶化時間T1/2の測定は、パーキンエルマー社製のDSC7を用い、20℃から200℃まで500℃/分で昇温後、5分間保持し、110℃まで−500℃/分で急冷し、110℃に達した時間を結晶化の開始とする。その後に結晶化が終了するまで測定し、結晶化分率が0.5になるまでに要した時間をT1/2とする。
【0029】
本発明のポリ乳酸樹脂の結晶化時間T1/2は、10分以下であることが必要である。結晶化時間T1/2が10分を超えると、結晶化速度の向上が不十分であるため、成形加工性が悪く、得られる成形体の耐熱性などの物性もばらつきが大きくなり、安定した物性を示す製品を得ることが困難となる。
【0030】
次に、本発明のポリ乳酸樹脂組成物について説明する。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、本発明のポリ乳酸樹脂95〜99.9質量部と、結晶核剤0.1〜5質量部とを含有するものである。本発明のポリ乳酸樹脂はそれ自体の結晶化速度が十分に速いが、結晶核剤を添加することで、さらに結晶化速度が向上する。なお、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前述の結晶化時間T1/2を測定する方法では、測定できないほど結晶化速度が速いものとなるため、後述する射出成形時の成形サイクルで結晶化速度を示すものである。
【0031】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に添加する結晶核剤は、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上の結晶核剤である。中でも、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、および有機ホスホン酸塩が好ましく、さらには、TLA114などの有機ホスホン酸塩を用いることが好ましい。
なお、これらの結晶核剤のうち市販されているものとしては、例えば、川研ファインケミカル社製 WX−1、新日本理化社製 TF−1、アデカ社製 T−1287N、竹本油脂社製 TLA114などが挙げられる。
【0032】
そして、結晶核剤の含有量は0.1〜5質量部であり、中でも0.2〜3質量部、さらには0.3〜2質量部であることが好ましい。結晶核剤の含有量が0.1質量部未満の場合、結晶核剤を添加する効果を奏することができない。添加量が5質量部を超えると、結晶核剤の含有量が多すぎて、得られる成形品が脆くなるなど物性に悪影響を与える。
【0033】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、本発明のポリ乳酸樹脂よりも結晶化速度が速いものであるが、それを示す指標として、ISO準拠の試験片を射出成形機で成形した際、得られた試験片を変形することなく取り出せる最短の所要時間を採用するものである。金型温度80℃に設定した射出成形機において、ISO準拠の曲げ試験片(ISO3167,93)を成形した際、得られた試験片を変形することなく取り出せるまでの射出開始からの所要時間(射出時間+保圧時間+冷却時間)を測定するものであり、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、この所要時間が30秒以下であることが必要であり、中でも25秒以下であることが好ましい。この所要時間(成形サイクル)が30秒以下の場合、射出成形を1時間行うと、120ショット分以上の製品ができるため、かなりのコストダウンにつながる。
【0034】
本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物中には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、可塑剤、滑剤、架橋剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、相溶化剤等の添加剤を配合することができる。
【0035】
熱安定剤や酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0036】
充填材としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩等が挙げられる。
【0037】
可塑剤としては、例えば、脂肪族エステル誘導体または脂肪族ポリエーテル誘導体から選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレートなどが挙げられる。
【0038】
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物等が挙げられる。中でも、各種脂肪酸金属塩が好ましく、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等がより好ましい。
【0039】
架橋剤としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、イソシアネート化合物、グリシジル化合物等が挙げられる。具体的な化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0040】
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物が挙げられる。
【0041】
耐衝撃剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を持つ(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤等が挙げられる。市販品としては、三菱レイヨン社製メタブレンシリーズ等が挙げられる。
【0042】
また、本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂以外の樹脂とともに用い、アロイ化させた樹脂組成物とすることもできる。このようなアロイ化させる場合の相手材となる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
【0043】
本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インフレーションブロー成形、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、押出し成形してなるフィルム、延伸フィルム、シート、繊維、これらを加工してなる成形体、ブロー成形してなる中空体、この中空体を加工してなる成形体などとすることができる。
【0044】
中でも本発明のポリ乳酸樹脂やポリ乳酸樹脂組成物を用いて成形体を得る場合には、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形法、射出プレス成形法等も採用できる。
【0045】
射出成形時の金型温度は特に限定されるものではないが、50℃〜130℃の範囲が選択できる。好ましくは、60℃〜110℃、より好ましくは80℃〜100℃が選択される。金型温度が50℃以下の場合、ポリ乳酸のガラス転移温度よりも下回ってしまい、樹脂が結晶化せずとも固化してしまうため、成形サイクルを比較する上で差が見られにくい。金型温度が130℃以上の場合、成形体が冷えるまでに時間がかかりすぎることとなり、また、金型の温度を保持するためのエネルギーもかかりすぎることとなる。
【0046】
本発明の成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品;コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品等が挙げられる。
さらに、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品や中空成形品等とすることもできる。その例としては、農業用マルチフィルム、工事用シート、各種ブロー成形ボトルなどが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお。各種物性測定および評価は以下の通りにおこなった。
【0048】
(1)ポリ乳酸樹脂のD体含有量
得られたポリ乳酸樹脂を0.3g秤量し、1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mlに加え、65℃にて充分撹拌した。次いで、硫酸450μlを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸樹脂を分解させ、サンプルとして5mlを計り取った。このサンプルに純水3ml、および、塩化メチレン13mlを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5ml採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemを用いてガスクロマトグラフィー測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをポリ乳酸樹脂のD体含有量(モル%)とした。
(2)ポリ乳酸樹脂中の残存ラクチド量
前記の方法により測定、算出した。
(3)ポリ乳酸樹脂の結晶化時間T1/2
前記の方法により測定した。
(4)ポリ乳酸樹脂組成物の成形サイクル
前記したように、得られたポリ乳酸樹脂組成物を、金型温度80℃に設定した射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)においてISO準拠の一般物性測定用試験片を成形した際、得られた試験片を変形することなく取り出せるまでの射出開始からの所要時間(射出時間+保圧時間+冷却時間)を測定した。
(5)耐熱性
(4)の評価において成形した試験片を用い、ISO 75に準拠し、荷重0.45MPaで熱変形温度を測定した。そのとき、熱変形温度が130℃を超えるものを「優秀」と評価して「◎」と表し、熱変形温度が100〜130℃であるものを「良好」と評価して「○」と表し、熱変形温度が100℃未満であるものを「不良」と評価して「×」と表した。
【0049】
<ポリ乳酸樹脂>
・S−12 トヨタ自動車社製 D体含有量=0.1モル%、重量平均分子量=13万、融点=178℃
・A−1 トヨタ自動車社製 D体含有量=0.6モル%、重量平均分子量=17万、融点=172℃
・3001D Nature Works社製 D体含有量=1.4モル%、重量平均分子量=13万、融点=167℃
<結晶核剤>
・5−スルホイソフタル酸ジメチルのバリウム塩 竹本油脂社製 TLA−114
【0050】
実施例1
ポリ乳酸樹脂としてS−12を用い、池貝社製PCM−30型2軸押出機(スクリュー直径30mm、平均溝深さ2.5mm)を用いて、200℃、スクリュー回転数200rpm、滞留時間1.6分、吐出15kg/時間の条件で溶融混練した。
得られたポリ乳酸樹脂とアセトンの質量比が1:2になるよう計測し、室温条件下で1時間、150rpmで攪拌した。その後、ろ過して70℃×24時間真空乾燥(Yamato Vacuum dry DP61を使用)することでアセトンの除去を行い、ポリ乳酸樹脂(L−1)を得た。
【0051】
実施例2
ポリ乳酸樹脂として、A−1を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(L−2)を得た。
【0052】
実施例3
ポリ乳酸樹脂として、S−12を90質量部、3001Dを10質量部用いた以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(L−3)を得た。
【0053】
実施例4
ポリ乳酸樹脂として、S−12を80質量部、3001Dを20質量部用いた以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(L−4)を得た。
【0054】
比較例1
アセトンによる処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(M−1)を得た。
【0055】
比較例2
アセトンによる処理に代えて、溶融混練したポリ乳酸樹脂を140℃、48時間真空乾燥(Yamato Vacuum dry DP61を使用)することでラクチドの除去を行った以外は実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(M−2)を得た。
【0056】
比較例3
アセトンに代えて、メタノールを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(M−3)を得た。
【0057】
比較例4
ポリ乳酸樹脂として、3001Dを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂(M−4)を得た。
【0058】
実施例1〜4、比較例1〜4で得られたポリ乳酸樹脂の特性値の測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例5
実施例1で得たポリ乳酸樹脂(L−1)を99質量部と結晶核剤としてTLA−114を1質量部とを用い、これらをドライブレンドしたのち、池貝社製PCM−30型2軸押出機(スクリュー直径30mm、平均溝深さ2.5mm)を用いて、200℃、スクリュー回転数200rpm、滞留時間1.6分、吐出15kg/時間の条件で溶融混練し、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0061】
実施例6〜8、比較例5〜8
ポリ乳酸樹脂を表2に示すものに変更した以外は、実施例5と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0062】
実施例5〜8、比較例5〜8で得られたポリ乳酸樹脂組成物の特性値の測定結果、評価結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表1、2から明らかなように、実施例1〜4で得られたポリ乳酸樹脂は、アセトン処理を施すことにより、樹脂中の残存ラクチド量を700ppm以下としたものであり、かつD体含有量が1.0モル%以下のものであったため、結晶化速度が速く、結晶化時間T1/2が10分以下であった。実施例5〜8で得られたポリ乳酸樹脂組成物は、実施例1〜4のポリ乳酸樹脂を用い、かつ結晶核剤を含有するものであったため、さらに結晶化速度が速いものであった。このため、成形加工性に優れ、結晶化度が高く、耐熱性に優れた成形体を得ることができた。
【0065】
一方、比較例1で得られたポリ乳酸樹脂は、アセトン処理を施していないものであったため、残存ラクチド量が多く、結晶化時間T1/2が10分を超えるものであった。このため、このポリ乳酸樹脂に結晶核剤を加えた比較例5の樹脂組成物も、成形サイクルが遅く、成形性に劣るとともに、得られた成形体の耐熱性も劣るものであった。比較例2のポリ乳酸樹脂は真空乾燥処理を、比較例3のポリ乳酸樹脂はメタノール処理を行ったものであったため、残存ラクチド量は700ppm以下と少ないにもかかわらず、結晶化速度が十分に向上していなかった。このため、これらのポリ乳酸樹脂に結晶核剤を加えた、比較例6、7の樹脂組成物も成形サイクルが遅く、成形性に劣るとともに、得られた成形体の耐熱性も劣るものであった。比較例4のポリ乳酸樹脂は、D体含有量が1.0モル%を超えるものであったため、アセトン処理を施しても結晶化速度が向上せず、非常に結晶化速度の遅いものとなった。このため、このポリ乳酸樹脂に結晶核剤を加えた比較例8の樹脂組成物も成形サイクルが遅く、成形性に劣るとともに、得られた成形体は耐熱性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっており、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂であって、示差走査型熱量計により110℃降温等温条件で測定した際の結晶化時間T1/2が10分以下であることを特徴とするポリ乳酸樹脂。
【請求項2】
アセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下となっており、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂95〜99.9質量部と、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上の結晶核剤0.1〜5質量部とを含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
金型温度80℃に設定した射出成形機においてISO準拠の曲げ試験片を成形した際、得られた試験片を変形することなく取り出せるまでの射出開始からの所要時間が30秒以下である請求項2記載のポリ乳酸樹脂組成物。


【公開番号】特開2012−126878(P2012−126878A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119266(P2011−119266)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】