説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】結晶化速度が良好で、耐熱性に優れるポリ乳酸樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、前記可塑剤が分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、次の結晶核剤(1):分子中に水酸基とアミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種、及び/又は結晶核剤(2):フェニルホスホン酸金属塩、リン化合物の金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、ロジン酸アミド、カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、メラミン化合物塩及びウラシル類からなる群から選ばれる少なくとも1種、を含有するポリ乳酸樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの石油を原料とする汎用樹脂は、良好な加工性及び耐久性等の性質から、日用雑貨、家電製品、自動車部品、建築材料あるいは食品包装などの様々な分野に使用されている。しかしながらこれらの樹脂製品は、役目を終えて廃棄する段階で良好な耐久性が欠点となり、自然界における分解性に劣るため、生態系に影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
このような問題を解決するために、熱可塑性樹脂で生分解性を有する樹脂として、ポリ乳酸及び乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸から誘導される脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂が開発されている。
【0004】
これらの生分解性樹脂の中でもポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ、芋などからとれる糖分から、発酵法によりL−乳酸が大量に作られ安価になってきたこと、原料が自然農作物なので総酸化炭素排出量が極めて少ない、また得られた樹脂の性能として剛性が強く透明性が良いという特徴があるので、現在その利用が期待され、フラットヤーン、ネット、育苗用ポット等の農業土木資材分野、窓付き封筒、買い物袋、コンポストバッグ、文具、雑貨等に使用されている。しかしながらポリ乳酸樹脂の場合は、脆く、硬く、可撓性に欠ける特性のためにいずれも硬質成形品分野に限られ、フィルムなどに成形した場合は、柔軟性の不足や、折り曲げたときに白化などの問題があり、軟質又は半硬質分野においては十分に普及していないのが現状である。
【0005】
ポリ乳酸樹脂を軟質、半硬質分野に応用する技術として可塑剤を添加する方法が種々提案されている。例えばアセチルクエン酸トリブチル、ジグリセリンテトラアセテート等の可塑剤を添加する技術が開示されている。これら可塑剤をポリ乳酸に添加し、押出成形等でフィルム又はシートを成形した場合、良好な柔軟性が得られるが、その樹脂が非晶状態であるためにガラス転移点付近の温度変化による柔軟性の変化が著しく(感温性)、また高温時の耐熱性が不足しているため、季節によって物性が著しく変化し、高温環境下での使用が困難となる問題があった。この問題を解決するためにタルク等(特許文献1)の結晶核剤を添加することによって、ポリ乳酸を結晶化させ、耐熱性等を改善する方法が提案されている。しかしながら成形後の熱処理による結晶化速度が不足し、またタルク等の結晶核剤を多量に添加すると熱成形後のシート、フィルムの透明性を低下させ、成形品を高温高湿下で放置すると可塑剤がブリードする問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するため、特許文献2には、結晶核剤として分子中にエステル基、水酸基及びアミド基から選ばれる少なくとも1種の基を2つ以上有する脂肪族化合物を含有する生分解性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、リン化合物の金属塩を含有するポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。さらに、特許文献4には、結晶核剤として分子中にエステル基、水酸基及びアミド基から選ばれる少なくとも1種の基を2つ以上有する脂肪族化合物、および、リン酸エステル金属塩等を含有するポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。一方、特許文献5には、ステレオコンプレックスポリ乳酸とポリブチレンテレフタレート樹脂を含有するポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。
【特許文献1】特許第3410075号公報
【特許文献2】特開2006−176747号公報
【特許文献3】国際公開第2005/097894号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2008/044796号パンフレット
【特許文献5】特開2008−31296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜5で開示されている組成物は結晶化速度において、まだ十分満足できず、さらなる結晶化速度の向上が求められている。

【0008】
本発明の課題は、結晶化速度が良好で、耐熱性に優れるポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、前記可塑剤が分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、次の結晶核剤(1)及び/又は結晶核剤(2)を含有するポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0010】
結晶核剤(1):分子中に水酸基とアミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種
結晶核剤(2):フェニルホスホン酸金属塩、リン酸エステルの金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルエステルの金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、ロジン酸アミド、カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、メラミン化合物の塩及びウラシル類からなる群から選ばれる少なくとも1種
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、結晶化速度が良好で、低い金型温度で優れた成形性を示し、耐熱性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂]
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂とは、(A)L−乳酸単位が90モル%以上100モル%以下であり、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位が0モル%以上10モル%以下であるポリ−L−乳酸樹脂(ポリ乳酸単位A)および(B)D−乳酸単位が90モル%以上100モル%以下であり、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位が0モル%以上10モル%以下であるポリ−D−乳酸樹脂(ポリ乳酸単位B)からなり、(A)と(B)との重量比が10:90〜90:10の範囲にあり、重量平均分子量が5万〜50万であり、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が80%以上であるポリ乳酸樹脂を示すものである。
【0013】
ここで、ポリ乳酸樹脂とは、ポリ乳酸、又は乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。好ましいポリ乳酸の分子構造は、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位80〜100モル%とそれぞれの対掌体の乳酸単位0〜20モル%からなるものである。また、乳酸とヒドロキシカルボン酸とのコポリマーは、L−乳酸又はD−乳酸いずれかの単位85〜100モル%とヒドロキシカルボン酸単位0〜15モル%からなるものである。これらのポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0014】
ポリ−L−乳酸樹脂は、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
【0015】
ポリ−D−乳酸樹脂は、好ましくは95〜100モル% 、より好ましくは98〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜5モル%、より好ましくは0〜2モル%、さらに好ましくは0〜1モル%である。
【0016】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0017】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成している。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、共に重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは12万〜35万、さらに好ましくは15万〜30万である。
【0018】
ポリ−L−乳酸樹脂およびポリ−D−乳酸樹脂は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/ 非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0019】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。
【0020】
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0021】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm) 未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0022】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂におけるポリ−L−乳酸樹脂とポリ−D−乳酸樹脂との重量比は、成形性の観点から、90:10〜10:90であることが好ましく、75:25〜25:75であることがより好ましく、60:40〜40:60であることがより好ましい。
【0023】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、5万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0024】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を含有する。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃ 以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃ の範囲、より好ましくは200〜220℃ の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g 以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃ 以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
【0025】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸樹脂とポリ−D−乳酸樹脂とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸樹脂とポリ−D−乳酸樹脂が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
【0026】
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリ−L−乳酸樹脂とポリ−D−乳酸樹脂とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0027】
また、溶融と結晶化を繰り返してもステレオコンプレックス結晶を生成し易くするためには、同じキラリティの乳酸単位からなる第1ラクチドを開環重合して第1ポリ乳酸を得る工程(1)、溶融状態の第1ポリ乳酸から減圧下でラクチドを除去し、精製第1ポリ乳酸を得る工程(2)、精製第1ポリ乳酸の存在下で、第1ラクチドとキラリティの相違する第2ラクチドを開環重合して第2ポリ乳酸を得る工程(3)、溶融状態の第2ポリ乳酸から減圧下でラクチドを除去し、精製第2ポリ乳酸を得る工程(4)を含む製造法を用いることが好ましい。
【0028】
(金属重合触媒)
ポリ−L−乳酸樹脂またはポリ−D−乳酸樹脂を製造する際の金属重合触媒は、アルカリ土類金属、希土類元素、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。
【0029】
金属重合触媒は、上記金属のカルボン酸塩、アルコキシド、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、エノラート塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
【0030】
金属重合触媒の存在量。すなわち添加量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の原料100重量部に対して、0.001〜1重量部、好ましくは、0.005〜0.1重量部である。金属重合触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく長期化するため好ましくない。逆に多すぎると開重合やエステル交換反応が加速されるため、得られる組成物の熱安定性が悪化する。
【0031】
また、強度、耐久性の観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂中の残留触媒および自発的主鎖切断によって生じるラジカルを失活させることができる化合物の添加が好ましい。中でも、イミン化合物、次亜リン酸系失活剤、メタリン酸系失活剤、またはリン酸系化合物とフェノール系酸化防止剤の添加が有効である。
【0032】
(イミン化合物)
N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)プロパンジアミンが好ましい。
【0033】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物中のイミン化合物の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対して0.001 〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。イミン化合物の添加量がポリ乳酸に対して少なすぎる場合、残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、金属重合触媒を充分失活することができない。また多すぎる場合、イミン化合物による組成物の可塑化や着色が著しくなる。
【0034】
(次亜リン酸系失活剤)
次亜リン酸系失活剤は、金属重合触媒と塩または錯体を形成する能力を有する化合物である。また次亜リン酸系失活剤のリン原子には強い還元能力を示す水素原子が二個結合しており、高温時に生じるラジカルや酸化生成物の増加を抑制することが可能である。次亜リン酸系失活剤として、次亜リン酸、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩および次亜リン酸のオニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0035】
次亜リン酸のアルカリ金属塩として、次亜リン酸のナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。次亜リン酸のアルカリ土類金属塩として、次亜リン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。次亜リン酸のオニウム塩として、次亜リン酸テトラエチルアンモニウム塩、次亜リン酸テトラ-n -ブチルアンモニウム塩、次亜リン酸テトラエチルホスホニウム塩、次亜リン酸テトラ-n -ブチルホスホニウム塩などが挙げられる。かかる次亜リン酸系失活剤としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸アンモニウムが例示できるが、金属重合触媒の失活能力と酸化生成物抑制の点から、次亜リン酸が特に好ましい。
【0036】
次亜リン酸系失活剤の含有量は、ポリ乳酸100重量部に対して0.001重量部〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。次亜リン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、重合触媒の失活にむらが生じる。また多すぎると次亜リン酸系失活剤による組成物の可塑化や、吸水率の増加による耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0037】
(メタリン酸系失活剤)
メタリン酸系失活剤は、3〜200程度のリン酸単位が環状に縮合した化合物であり、金属触媒或いは水と錯体を形成する能力を有する。メタリン酸系失活剤は環状多座配位子であり、単座、または鎖状の多座配位子であるリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、およびそれらのエステル類と比較して錯安定度定数が大きく、効率的かつ堅牢に金属触媒や水分を捕捉することが可能である。かかるメタリン酸系失活剤としては、メタリン酸、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩、そのオニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。メタリン酸のアルカリ金属塩として、メタリン酸のナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。メタリン酸のアルカリ土類金属塩として、メタリン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。メタリン酸のオニウム塩として、メタリン酸テトラエチルアンモニウム塩、メタリン酸テトラ−n−ブチルアンモニウム塩、メタリン酸テトラエチルホスホニウム塩、メタリン酸テトラ−n−ブチルホスホニウム塩などが挙げられる。
【0038】
メタリン酸系失活剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対して0.001〜10重量部、好ましくは0.002〜10重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。メタリン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する金属触媒の失活効率が極めて悪く、失活むらが生じる。また多すぎるとメタリン酸系失活剤によるポリ乳酸樹脂組成物の可塑化や、成形加工後の吸水率が増加し、長期耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0039】
(リン酸系失活剤)
リン酸系失活剤は、金属重合触媒と塩または錯体を形成する能力を有する化合物である。リン酸系失活剤として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらのアルキルエステルおよびこれらのアルキルエステルアリールエステルからなる群から選らばれる少なくとも一種が好ましい。金属重合触媒の失活能力の点から、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸がより好ましい。
【0040】
リン酸系失活剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対して0.001重量部〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。リン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、重合触媒の失活にむらが生じる。また多すぎるとリン酸系失活剤によるポリ乳酸樹脂組成物の可塑化や耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0041】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t− ブチルフェノール)、2,2’− チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3 ,5−ジ−t−ブチルカテコール、リグニン等が挙げられる。この内揮発性が小さく取り扱いが容易な2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)が好ましい。また植物由来成分であるリグニンの使用も安全性や環境負荷の低減といった観点からも好ましい例である。
【0042】
フェノール系酸化防止剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対して好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。含有量が少なすぎると加熱時に随時発生し続けるラジカルを効率的に失活させることが難しい。また、多すぎるとラジカルの失活は可能であるが、ポリ乳酸樹脂組成物の可塑化や生成するキノン誘導体による着色といった新たな問題が生じる。
【0043】
各種失活剤は、開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加混練することができる。チップ状に成型した後にエクストルーダーやニーダーで混練してもよい。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を添加する方法も好ましい。一方固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤をエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、リン酸系失活剤、およびフェノール系酸化防止剤を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。
【0044】
このようにして得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂は、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万で、色相と熱安定性に優れたものであり、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型に好適に用いることが可能である。
【0045】
[可塑剤]
本発明に用いられる可塑剤は、可塑化効率の観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物であり、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物が好ましく、分子中に2個以上のエステル基を有する多価アルコールエステル又は多価カルボン酸エーテルエステルで、エステルを構成するアルコール成分の水酸基1個当たりエチレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物がより好ましい。エステルを構成するアルコール成分は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂との相溶性と可塑化効率、耐揮発性の観点から、好ましくは炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均1〜4モル、さらに好ましくは2〜3モル付加した化合物である。また、可塑化効率の観点からアルキレンオキサイドはエチレンオキサイドが好ましい。可塑剤に含まれるアルキル基、アルキレン基等の炭化水素基の炭素数、例えばエステル化合物を構成する多価アルコールや多価カルボン酸の炭化水素基の炭素数は、相溶性の観点から1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。また可塑剤のエステル化合物を構成するモノカルボン酸、モノアルコールの炭素数は、相溶性の観点から1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましく、1〜2がさらにより好ましい。
【0046】
本発明に用いられる可塑剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明に用いられる可塑剤が多価カルボン酸エーテルエステルの場合は、パラトルエンスルホン酸一水和物、硫酸等の酸触媒や、ジブチル酸化スズ等の金属触媒の存在下、炭素数3〜5の飽和二塩基酸又はその無水物と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとを直接反応させるか、炭素数3〜5の飽和二塩基酸の低級アルキルエステルとポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとをエステル交換することにより得られる。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、飽和二塩基酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル/飽和二塩基酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=2〜4/1/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより得ることができる。溶媒を用いないで、減圧で反応を行う方法が好ましい。
【0047】
また、本発明に用いられる可塑剤が多価アルコールエステルの場合は、例えばグリセリンに、アルカリ金属触媒存在下、オートクレーブを用い温度120〜160℃で炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを、グリセリン1モルに対し3〜9モル付加させる。そこで得られたグリセリンアルキレンオキサイド付加物1モルに対し、無水酢酸3モルを110℃で滴下、滴下終了後から110℃、2時間熟成を行い、アセチル化を行う。その生成物を減圧下で水蒸気蒸留を行い、含有する酢酸および未反応無水酢酸を留去して得ることができる。
【0048】
また、本発明に用いられる可塑剤がヒドロキシカルボン酸エーテルエステルの場合は、乳酸等のヒドロキシカルボン酸に、アルカリ金属触媒存在下、オートオートクレーブを用い温度120〜160℃で炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを、ヒドロキシカルボン酸1モルに対し2〜5モル付加させる。そこで得られた乳酸アルキレンオキサイド付加物1モルに対し、無水酢酸1モルを110℃で滴下し、滴下終了後から110℃、2時間熟成を行い、アセチル化を行う。その生成物を減圧下で水蒸気蒸留を行い、含有する酢酸および未反応無水酢酸を留去する。次にその生成物/ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル/パラトルエンスルホン酸一水和物(触媒)(モル比)=1/1〜2/0.001〜0.05になるように反応容器に仕込み、トルエンなどの溶媒の存在下又は非存在下に、常圧又は減圧下、温度100〜130℃で脱水を行うことにより、得ることができる。
【0049】
本発明に用いられる可塑剤は、分子中に2個以上のエステル基を有していれば、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂との相溶性に優れ、分子中に2〜4個のエステル基を有することが好ましい。また、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5モル以上付加したものであれば、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂に対して十分な可塑性を付与することができ、平均5モル以下付加したものであれば、耐ブリード性の効果が良好となる。また、定かではないが、本発明に用いられる可塑剤は、光学純度が99%以上のポリ乳酸樹脂と併用することによって、成形性が良好で、特に低い金型温度で優れた成形性を発現できる。
【0050】
本発明に用いられる可塑剤は、成形性、可塑性、耐ブリード性の観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が3〜9の化合物が好ましく、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが更に好ましい。
【0051】
また、耐揮発性の観点から、本発明に用いられる可塑剤で2個以上のエステル基のうち、平均0〜1.5個は芳香族アルコールから構成されるエステル基を含有してもよい。同じ炭素数の脂肪族アルコールに比べて芳香族アルコールの方が生分解性樹脂に対する相溶性に優れるため、耐ブリード性を保ちつつ、分子量を上げることができる。可塑化効率の観点から平均0〜1.2個、更に0〜1個が芳香族アルコールから構成されるエステル基であることが好ましい。芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール等が挙げられ、可塑剤としては、アジピン酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル/ベンジルアルコール=1/1混合ジエステル等が挙げられる。
【0052】
本発明に用いられる可塑剤の平均分子量は耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、好ましくは250〜700であり、より好ましくは300〜600であり、更に好ましくは350〜550であり、特に好ましくは400〜500である。尚、平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
平均分子量=56108×(エステル基の数)/鹸化価
【0053】
本発明に用いられる可塑剤としては、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性及び耐衝撃性に優れる観点から、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜9モル付加物とのエステル、酢酸とジグリセリンのプロピレンオキサイド平均4〜12モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜9のポリエチレングリコールとのエステル等の多価アルコールのアルキルエーテルエステル、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜4のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル等の多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルがより好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性に優れる観点から、酢酸とグリセリンのエチレンオキサイド平均3〜6モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が4〜6のポリエチレングリコールとのエステル、コハク酸とエチレンオキサイドの平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルがさらに好ましい。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性、耐揮発性及び耐刺激臭の観点から、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステルが特に好ましい。
【0054】
尚、本発明のエステルは、可塑剤としての機能を十分発揮させる観点から、全てエステル化された飽和エステルであることが好ましい。
【0055】
特定の可塑剤によって、本発明の効果が向上する理由は定かではないが、可塑剤が、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物、好ましくは分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が3〜9のポリオキシエチレン鎖を有する化合物(更にメチル基を有していることが好ましく、2個以上有していることが好ましい。)であると、その耐熱性及びポリ乳酸樹脂に対する相溶性が良好となる。そのため耐ブリード性が向上するととともに、ポリ乳酸樹脂の軟質化効果も向上する。このポリ乳酸樹脂の軟質化向上により、ポリ乳酸樹脂が結晶化するときはその成長速度も向上すると考えられる。その結果、低い金型温度でもポリ乳酸樹脂が柔軟性を保持しているため、短い金型保持時間でポリ乳酸樹脂の結晶化が進み良好な成形性を示すものと考えられる。
【0056】
[結晶核剤]
本発明の結晶核剤は、前記結晶核剤(1)及び前記結晶核剤(2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。本発明において結晶核剤(1)としては、結晶化速度及びポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させる観点から、水酸基を有する脂肪族アミドが好ましく、分子中に水酸基を2つ以上有し、アミド基を2つ以上有する脂肪族アミドがより好ましい。また、結晶核剤(1)の融点は、混練時の結晶核剤の分散性を向上させ、また結晶化速度を向上させる観点から、65℃以上が好ましく、70〜220℃がより好ましく、80〜190℃が更に好ましい。
【0057】
結晶核剤(1)の具体例としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び耐ブルーム性の観点から、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシステアリン酸アミドが好ましく、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドがより好ましい。
【0058】
本発明に用いられる結晶核剤(2)の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩等のフェニルホスホン酸金属塩;ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムビス(2,2’−メチレンビス−4,6−ジ−t−ブチルフェニルホスフェート)等のリン酸エステルの金属塩;5−スルホイソフタル酸ジメチル二バリウム、5−スルホイソフタル酸ジメチル二カルシウム等の芳香族スルホン酸ジアルキルエステルの金属塩;メチルデヒドロアビエチン酸カリウム等のロジン酸類の金属塩;トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)、m−キシリレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリシクロヘキシルア
ミド等の芳香族カルボン酸アミド;p−キシリレンビスロジン酸アミド等のロジン酸アミド;デカメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド等のカルボヒドラジド類;キシレンビスステアリル尿素等のN−置換尿素類;メラミンシアヌレート等のメラミン化合物の塩;6−メチルウラシル等のウラシル類が挙げられる。
【0059】
本発明に用いられる結晶核剤(2)の中では、結晶化速度の観点から、フェニルホスホン酸金属塩が好ましい。フェニルホスホン酸金属塩は、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH)2)を有するフェニルホスホン酸の金属塩であり、フェニル基の置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸の具体例としては、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられ、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0060】
フェニルホスホン酸の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩が挙げられ、亜鉛塩が好ましい。
【0061】
本発明においては、成形性の観点から、結晶核剤として結晶核剤(1)と結晶核剤(2)とを含有することが好ましい。結晶核剤として用いられる結晶核剤(1)と結晶核剤(2)との割合は、本発明の効果を発現する観点から、結晶核剤(1)/結晶核剤(2)(重量比)=20/80〜80/20が好ましく、30/70〜70/30がより好ましく、40/60〜60/40が更に好ましい。
【0062】
ポリ乳酸樹脂組成物は、結晶化速度が良好で、耐熱性に優れるという格別の効果を有する。本発明の格別優れた効果が発現できる理由は定かではないが、特定の可塑剤の存在下、結晶核剤とステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を含むポリ乳酸樹脂組成物を溶融混練することにより、結晶核剤とステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂との相互作用が発現し、相乗的に本発明の結晶化速度が良好で、耐熱性に優れるという格別の効果が発現するものと考えられる。
【0063】
[ポリ乳酸樹脂組成物]
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物、好ましくは分子中に2個以上のエステル基を有する多価アルコールエステル又は多価カルボン酸エーテルエステルで、エステルを構成するアルコール成分の水酸基1個当たりエチレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物、より好ましくは分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキサイドの平均付加モル数が3〜9の化合物からなる可塑剤、および上記結晶核剤(1)、好ましくはエチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のアルキレンビスヒドロキシステアリン酸アミドと、結晶核剤(2)、好ましくはフェニルホスホン酸金属塩から選ばれる少なくとも1種、より好ましくは上記結晶核剤(1)と結晶核剤(2)を含有するものである。本発明のポリ乳酸樹脂組成物における可塑剤、結晶核剤の特に好ましい組合せとしては、可塑剤がコハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、結晶核剤がエチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド及び/又はフェニルホスホン酸亜鉛塩であり、可塑剤がコハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、結晶核剤がエチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド及びフェニルホスホン酸亜鉛塩がより好ましい組合せである。
【0064】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物中の、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上である。
【0065】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における可塑剤の含有量は、十分な結晶化速度と耐衝撃性を得る観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対し、5〜30重量部が好ましく、7〜30重量部より好ましく、10〜30重量部がさらに好ましい。
【0066】
本発明のポリ乳酸組成物における、結晶核剤(1)の含有量は、本発明の効果発現の観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対し、0.1〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましく、0.2〜2重量部が特に好ましい。
【0067】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における結晶核剤(2)の含有量は、本発明の効果発現の観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.1〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましく、0.2〜2重量部が特に好ましい。
【0068】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記の本発明の可塑剤及び結晶核剤以外に、更に、加水分解抑制剤を含有することができる。加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられ、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性の観点からポリカルボジイミド化合物が好ましく、ポリ乳酸樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性及び結晶核剤の耐ブルーム性の観点から、モノカルボジイミド化合物が好ましい。
【0069】
ポリカルボジイミド化合物としてはポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられ、モノカルボジイミド化合物としては、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0070】
上記カルボジイミド化合物は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び結晶核剤の耐ブルーム性を満たすために、単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)はカルボジライトLA−1(日清紡績(株)製)を、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド及びポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミドはスタバクゾールP及びスタバクゾールP−100(Rhein Chemie社製)を、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドはスタバクゾールI(Rhein Chemie社製)をそれぞれ購入して使用することができる。
【0071】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性の観点から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましい。
【0072】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、更に剛性等の物性向上の観点から、無機充填剤を含有することが好ましい。本発明で使用する無機充填剤としては、通常熱可塑性樹脂の強化に用いられる繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ガラス繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、アスベスト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維などの繊維状無機充填剤、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、有機変性ベントナイト、有機変性モンモリロナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土などの板状や粒状の無機充填剤が挙げられる。これらの無機充填剤の中では、特に炭素繊維、ガラス繊維、ワラステナイト、マイカ、タルク及びカオリンが好ましい。また、繊維状充填剤のアスペクト比は5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。
【0073】
上記の無機充填剤は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆又は集束処理されていてもよく、アミノシランやエポキシシランなどのカップリング剤などで処理されていても良い。また、無機充填剤の配合量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、5〜50重量部がさらに好ましい。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、更に難燃化剤を含有することができる。難燃化剤の具体例としては、臭素又は塩素を含有するハロゲン系化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、無機水和物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物)及びリン化合物などが挙げられる。安全性の観点から、無機水和物が好ましい。
【0075】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、剛性、柔軟性、耐熱性、耐久性等の物性向上の観点から、その他の樹脂を含んでもよい。その他の樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど、あるいはエチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂などの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられるが、中でも生分解性樹脂との相溶性の観点からアミド結合、エステル結合、カーボネート結合等のカルボニル基を含む結合を有する樹脂が、構造的にステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂と親和性が高い傾向があるため好ましい。
【0076】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外に、更にヒンダードフェノール又はホスファイト系の酸化防止剤、又は炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤等を含有することができる。酸化防止剤、滑剤のそれぞれの含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜2重量部が更に好ましい。
【0077】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記以外の他の成分として、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、芳香族ベンゾエート系化合物、蓚酸アニリド系化合物、シアノアクリレート系化合物及びヒンダードアミン系化合物)、熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物)、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤発泡剤、離形剤、染料及び顔料を含む着色剤、防カビ剤、抗菌剤などの1種又は2種以上をさらに含有することができる。
【0078】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、加工性が良好で、例えば200℃以下の低温で加工することができるため、可塑剤の分解が起こり難い利点もあり、フィルムやシートに成形して、各種用途に用いることができる。さらに高い結晶化速度により、射出成形において、低い金型温度で、かつ短時間での成形が可能となる。
【実施例】
【0079】
<ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)の測定>
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、ポリ乳酸50mgを5mlのクロロホルム/ヘキサフルオロ−2−プロパノール95/5(v/v)溶液に溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した。
【0080】
<ステレオコンプレックス結晶含有率(X)の算出法>
ステレオコンプレックス結晶含有率(X)は、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHaと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHbから下記式(1)にて算出した。
X={ΔHa/(ΔHa+ΔHb)}×100(%) (1)
【0081】
[製造例1](ポリ−L−乳酸樹脂の製造)
L―ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸すずを0.005重量部加え、窒素雰囲気下攪拌翼のついた反応機中にて、180℃で2時間反応し、その後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリ−L−乳酸を得た。得られたポリ−L−乳酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移点(Tg)61℃、融点は176℃であった。
【0082】
[製造例2](ポリ−D−乳酸樹脂の製造)
D―ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸すずを0.005重量部加え、窒素雰囲気下攪拌翼のついた反応機中にて、180℃で2時間反応し、その後、減圧して残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリ−D−乳酸を得た。得られたポリ−D−乳酸の重量平均分子量は13万、ガラス転移点(Tg)61℃、融点は176℃であった。
【0083】
実施例1〜11、及び比較例1〜3
ポリ乳酸樹脂組成物として、表1に示す本発明品(A〜K)及び比較品(a〜c)を、2軸押出機((株)池貝製 PCM-45)にて230℃で溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは、80℃、除湿乾燥機で5時間乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0084】
<ポリ乳酸樹脂>
*1:ポリ−L−乳酸樹脂〔製造例1〕
*2:ポリ−D−乳酸樹脂〔製造例2〕
*3:ポリ乳酸樹脂(NatureWorks社製、NW4032D)
<ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂>
ポリ−L−乳酸樹脂〔製造例1〕とポリ−D−乳酸樹脂〔製造例2〕の混合品
<可塑剤>
*4:コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル(合成品)
*5:1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステル(合成品)
*6:グリセリンにエチレンオキサイドを6モル付加させたトリアセテート(合成品)
*7:アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル(大八化学社製、DAIFATTY-101)
<本発明における結晶核剤>
*8:エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製、スリパックス H)
*9:無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩(日産化学工業社製 エコプロモート)
*10:デカメチレンジカルボニルジベンゾイルヒドラジド(アデカ社製T−1287)
*11:5−スルホイソフタル酸ジメチル二バリウム(合成品)
*12:1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド(合成品)
*13:リン化合物金属塩((株)アデカ製 アデカスタブNA−21)
*14:6−メチルウラシル(和工純薬工業社製、試薬)
*15:メラミンシアヌレート(日産化学工業社製 MC−6000)
*16:ロジン酸金属塩(荒川化学社製、パインクリスタルKM−1500)
<その他の結晶核剤>
*17:タルク(日本タルク社製、MicroAceP−6)
<加水分解抑制剤>
*18:スタバクゾール1−LF(ラインケミージャパン社製)
【0085】
[可塑剤の合成例]
1)コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルの合成例
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに無水コハク酸500g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル2463g、パラトルエンスルホン酸一水和物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下4〜10.7kPa、110℃で15時間反応させた。反応液の酸価は1.6(KOHmg/g)であった。反応液に吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業(株)製)27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温115〜200℃、圧力0.03kPaでトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルを得た。得られたジエステルは、酸価0.2(KOHmg/g)、鹸化価276(KOHmg/g)、水酸基価1以下(KOHmg/g)、色相APHA200であった。
【0086】
2)1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステルの合成例
トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸、及び触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物を、トリエチレングリコールモノメチルエーテル/1,3,6−ヘキサントリカルボン酸/パラトルエンスルホン酸一水和物(モル比)=4/1/0.02になるように反応容器に仕込み、減圧下で、温度120℃で脱水を行うことにより、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのトリエステルを得た。
【0087】
3)グリセリンにエチレンオキサイドを6モル付加させたトリアセテートの合成例
オートクレーブに花王(株)製化粧品用濃グリセリン1モルに対しエチレンオキサイド6モルのモル比で規定量仕込み、1モル%のKOHを触媒として反応圧力0.3MPaの定圧付加し、圧力が一定になるまで150℃で反応した後、80℃まで冷却し、触媒未中和の生成物を得た。この生成物に触媒の吸着剤としてキョーワード600Sを触媒重量の8倍添加し、窒素微加圧下で80℃、1時間吸着処理をおこなった。さらに処理後の液をNo.2のろ紙にラジオライト#900をプレコートしたヌッツェで吸着剤を濾過し、グリセリンエチレンオキサイド6モル付加物(以下POE(6)グリセリンという)を得た。これを四つ口フラスコに仕込み、105℃に昇温して300rpmで攪拌し、無水酢酸をPOE(6)グリセリン1モルに対し3.6モルの比率で規定量を約1時間で滴下し反応させた。滴下後110℃で2時間熟成し、さらに120℃で1時間熟成した。熟成後、減圧下で未反応の無水酢酸及び副生の酢酸をトッピングし、さらにスチーミングして、POE(6)グリセリントリアセテートを得た。
【0088】
【表1】

【0089】
試験例1
次に、このようにして得られたペレットを、シリンダー温度を230℃とした射出成形機(日本製鋼所製 J75E-D)を用いて射出成形し(比較例3のみ200℃に設定)、表2及び表3に示す金型温度におけるテストピース〔平板(70mm×40mm×3mm)、角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)及び角柱状試験片(63mm×12mm×5mm)〕の離型に必要な金型保持時間を下記の基準で評価した。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0090】
<離型に必要な金型保持時間の評価基準>
表2及び表3に示す金型温度において、各テストピースの変形がなく、取り出しが容易と判断されるまでに有する時間を、離型に必要な金型保持時間とした。金型保持時間が240秒以上必要とされる場合、離型不可と評価した。尚、金型内部及びランナー部分でテストピースの溶融結晶化速度が速いほど、離型に必要な金型保持時間は短くなる。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
表2及び表3の結果から、特定の可塑剤及び特定の結晶核剤、更に加水分解抑制剤を含有した本発明のポリ乳酸樹脂組成物(A〜I)は、80℃の金型温度においても短い金型保持時間で成形が可能であった。
【0094】
一方、結晶核剤として結晶核剤(1)及び結晶核剤(2)それぞれ単独で使用したポリ乳酸樹脂組成物(a、b)は、80℃の金型温度では成形が不能で、より高い金型温度でより多くの保持時間を必要とした。また、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を使用しないポリ乳酸樹脂組成物(c)は、低温度の金型温度では、短い金型保持時間での成形が不可能であった。
【0095】
実施例12、比較例4
ポリ乳酸樹脂組成物として前記表1に示す本発明品(C)及び前記表2に示す比較品(c)を用い、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。
【0096】
得られたペレットを、80℃の金型温度及び表4に示す金型保持時間で射出成形機(日本製鋼所製 J75E-D)を用いて射出成形した。得られたテストピース〔平板(70mm×40mm×3mm)及び角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)〕について、金型離型性を下記の基準で評価した。また、角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)は熱変形温度を、平板(70mm×40mm×3mm)は融点を、それぞれ下記の方法で評価した。これらの結果を表4に示す。
【0097】
<金型離型性の評価基準>
A:非常に離れ易い(テストピースの変形がなく、取り出しが容易。)
B:若干離れ難い(テストピースの変形が若干あり、取り出しが困難。)
C:離れない(テストピースの変形が大きく、ランナー部から離れない。)
尚、金型離型性は、金型内部及びランナー部分でテストピースの溶融結晶化速度が速いほど成形性が良好となる。
【0098】
<熱変形温度>
角柱状試験片(125mm×12mm×6mm)について、JIS-K7191に基づいて、熱変形温度測定機(東洋精機製作所製 B-32)を使用して、荷重0.45MPaにおいて0.025mmたわむときの温度を測定した。この温度が高い方が耐熱性に優れていることを示す。
【0099】
<融点>
JIS−K7121に基づく示差走査熱量測定(DSC)の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度より求められる値である。
【0100】
【表4】

【0101】
表4の結果から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、特定の可塑剤及び結晶核剤を含有した本発明のポリ乳酸樹脂組成物(C)は、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を使用しないポリ乳酸樹脂組成物(c)と比較して、金型保持時間が1/3であるにも関わらず、優れた離型性及び耐熱性を示した。
【0102】
以上の結果から、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、特定の可塑剤、結晶核剤として結晶核剤(1)及び/又は結晶核剤(2)を含有した本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、低い金型温度で優れた成形性を示し、その成形品は優れた耐熱性を示すものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等の様々な工業用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物であって、前記可塑剤が分子中に2個以上のエステル基を有し、エステルを構成するアルコール成分の少なくとも1種が水酸基1個当たり炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを平均0.5〜5モル付加した化合物であり、前記結晶核剤が、次の結晶核剤(1)及び/又は結晶核剤(2)を含有するポリ乳酸樹脂組成物。
結晶核剤(1):分子中に水酸基とアミド基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種
結晶核剤(2):フェニルホスホン酸金属塩、リン化合物の金属塩、芳香族スルホン酸ジアルキルの金属塩、フェノール系化合物の金属塩、ロジン酸類の金属塩、芳香族カルボン酸アミド、ロジン酸アミド、カルボヒドラジド類、N−置換尿素類、メラミン化合物塩及びウラシル類からなる群から選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
可塑剤が、コハク酸又はアジピン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、及び酢酸とグリセリン又はエチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とのエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
結晶核剤が、結晶核剤(1)と結晶核剤(2)を含有する、請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
結晶核剤(1)と結晶核剤(2)の重量比(結晶核剤(1)/結晶核剤(2))が=20/80〜80/20である、請求項3記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂100重量部に対し、可塑剤の含有量が5〜30重量部、結晶核剤(1)の含有量が0.1〜3重量部、結晶核剤(2)の含有量が0.1〜3重量部である、請求項3又は4記載のポリ乳酸樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−1338(P2010−1338A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159837(P2008−159837)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】