説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、これを用いた成形品および製造方法

【課題】 従来技術に比べてきわめて優れた耐熱性を有するとともに、成形加工性および耐衝撃性を満足するポリ乳酸系組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)ポリ乳酸系樹脂40〜93質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート60〜7質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー5〜100質量部および(D)繊維5〜100質量部を配合したことを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物、これを用いた成形品および該組成物を射出成形する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系樹脂組成物、これを用いた成形品および製造方法に関し、詳しくは、耐熱性、成形加工性、耐衝撃性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物、これを用いた成形品および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油原料から合成される合成樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミドなどに代表され、生活必需品から工業製品に到るまで広く用いられている。これら合成樹脂の利便性、経済性は、我々の生活を大きく支えるに至り、合成樹脂は、まさに石油化学産業の基盤となっている。
一方で、石油資源の枯渇や二酸化炭素の大量排出による地球温暖化等、地球環境の悪化が懸念されている。
ポリ乳酸は、とうもろこし等の穀物資源から発酵により得られる乳酸を原料とする、植物由来の樹脂であり、優れた成形性を有しているが、固くて脆く、また耐熱性(加熱変形温度)が60℃未満と低く、その改善が求められている。
【0003】
上記課題を解決するために、ポリ乳酸系樹脂を繊維強化するという技術が幾つか提案されている。
例えば特許文献1には、ポリ乳酸を主成分として含む樹脂と、充填材としてのガラス繊維と、添加剤としてのリン酸系難燃剤との混合物から構成され、必要に応じてポリブチレンサクシネートまたはポリブチレンテレフタレート含む樹脂筐体が提案されている。
また、特許文献2には、ポリ乳酸とケナフ繊維を含有する生分解性樹脂組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2004−175831号公報
【特許文献2】特開2005−105245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1および2に開示された技術は、現在求められている耐熱性を満たすことはできない。また、耐熱性を満たすと同時に成形加工性および耐衝撃性の両立も求められている。
【0005】
したがって本発明の目的は、従来技術に比べてきわめて優れた耐熱性を有するとともに、成形加工性および耐衝撃性を満足するポリ乳酸系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
1)(A)ポリ乳酸系樹脂40〜93質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート60〜7質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー5〜100質量部および(D)繊維5〜100質量部を配合したことを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
2)前記(C)コアシェルポリマーが、(C−1)コア成分としての共役ジエン系化合物を含む重合体に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体であることを特徴とする前記1)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
3)前記(C−1)成分において、共役ジエン系化合物がブタジエンであり、芳香族ビニル化合物がスチレンであり、(メタ)アクリル酸エステル化合物がメチルメタクリレートであることを特徴とする前記2)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
4)前記(C)コアシェルポリマーが、(C−2)コア成分としてのアクリル系ゴム粒子に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体であることを特徴とする前記1)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
5)前記(D)繊維が、バサルト繊維、竹繊維、ケナフ繊維、炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記1)〜4)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
6)前記(D)繊維が、バサルト繊維であることを特徴とする前記5)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
7)前記1)〜6)のいずれかに記載の組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
8)前記1)〜6)のいずれかに記載の組成物を、金型温度80℃〜150℃で射出成形する工程を有することを特徴とする成形品の製造方法。
9)前記1)〜6)のいずれかに記載の組成物を金型温度0℃〜40℃で射出成形し、得られた射出成形品をさらに80℃〜150℃でアニールすることを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、前記特定成分(A)〜(D)を特定割合でもって配合しているので、従来技術に比べてきわめて優れた耐熱性を有するとともに、成形加工性および耐衝撃性を満足するポリ乳酸系組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る各成分について説明する。
本発明における(A)成分は、ポリ乳酸系樹脂である。ポリ乳酸系樹脂とは、乳酸を主成分とするポリエステルであって、好ましくは乳酸を50質量%以上、特に好ましくは75質量%以上含有し、本発明の目的を損なわない範囲においてその他の成分として乳酸以外の炭素数2〜10の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、また、テレフタル酸などの芳香族化合物を含有するものであってもよい。本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、乳酸のホモポリマー、前記他の成分を含むコポリマー、ならびにこれらの混合物を含む。
【0009】
ポリ乳酸系樹脂の原料に用いられる乳酸類としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸もしくはそれらの混合物または乳酸の環状2量体であるラクタイドが挙げられ、これらは任意の割合で使用することができる。なお、乳酸類全量を100モル%とした場合、含まれる対掌体は、0〜15モル%が好ましく、0〜12モル%であることがさらに好ましい。
【0010】
また乳酸類と併用できるヒドロキシカルボン酸類としては、炭素数2〜10の乳酸以外のヒドロキシカルボン酸類が好ましく、具体的にはグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などを好適に使用することができ、更にヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の2量体であるグリコライドや6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンも使用できる。
【0011】
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、フェニルコハク酸、1,4-フェニレンジ酢酸等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上の組合せて使用することができる。
【0012】
脂肪族ジオールとしては、炭素数2〜30の脂肪族ジオールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノ一ル、1,4−ベンゼンジメタノール等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上の組合せて使用することができる。また少量のトリメチロールプロパン、グリセリンのような脂肪族多価アルコール、ブタンテトラカルボン酸のような脂肪族多塩基酸、多糖類等のような多価アルコール類を共存させて共重合させてもよく、またジイソシアネート化合物等のような結合剤(高分子鎖延長剤)を用いて分子量を上げてもよい。
(A)成分としては特にポリ乳酸が好ましい。
【0013】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水重縮合する方法、または上記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状2量体、例えばラクタイドやグリコライド、あるいはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法により得られる。
【0014】
ポリ乳酸系樹脂を直接脱水重縮合して製造する場合は、原料である乳酸類、または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類、脂肪族ジオ−ル類とを好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合する。(A)成分の質量平均分子量は、7万以上300万未満が好ましい。さらに好ましくは10万以上150万以下である。
【0015】
本発明における(B)成分は、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体及び1,4−ブタンジオールを主原料とするポリブチレンテレフタレートである。主原料とは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50モル%以上を占めることをいう。テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体は、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることがより好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましい。
【0016】
本発明においては、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分にとくに制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等或いはこれらのエステル形成性誘導体を挙げることができる。
【0017】
本発明においては、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分に特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールを挙げることができる。
【0018】
さらに、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分等を共重合成分として用いることができる。
【0019】
本発明に用いられるポリブチレンテレフタレートのMFR(235℃、2160g)は特に限定されないが、3〜90g/10minであることが好ましく、5〜50g/10minであることが特に好ましい。
【0020】
本発明に用いられるポリブチレンテレフタレートを製造する方法に制限はなく、連続重合法、回分重合法のいずれであっても良く、公知の方法、触媒などで製造したものが使用できるが、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続的に重合して得られるポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。
(B)ポリブチレンテレフタレートは、市販されているものも利用することができ、例えば、ポリプラスチックス社製、デュラネックス500FP等が挙げられる。
【0021】
本発明における(C)成分は、コアシェルポリマーである。本発明者らの検討の結果、コアシェルポリマーを配合することにより、理由は定かではないが、予想を超える耐熱性の改善が得られた。
コアシェルポリマーとしては、とくに下記の(C−1)および(C−2)成分が好ましい。
(C−1)コア成分としての共役ジエン系化合物を含む重合体に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体。
共役ジエン系化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。共役ジエン系化合物を重合する際に任意成分として、スチレン、メタクリル酸メチル等を存在させることも可能である。
【0022】
シェルを構成するグラフト部分に使用される芳香族ビニル化合物としては、スチレン、4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレン、4−プロポキシスチレン、4−ブトキシスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、4−ブロモスチレン、2,5−ジクロロスチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、炭素数が1〜8を有するものが好適であり、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらはそれぞれ併用することもできる。
【0023】
(C−1)成分において、共役ジエン系化合物と芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物の割合は、前者20〜60質量%および後者40〜80質量%であるのが好ましい。本発明では、とくにメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂がとくに好ましい。また、市販されているものも利用することができ、例えば、カネカ社B−56等が挙げられる。
【0024】
(C−2)コア成分としてのアクリル系ゴム粒子に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体。
アクリル系ゴム粒子は、アクリル酸エステルを重合することにより得られる。アクリル酸エステルとしては、アルコール成分の炭素数2〜8を有するものが好適であり、例えばエチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数が1〜8を有するものが好適であり、上記の(C−1)成分の欄で説明したものが例示される。芳香族ビニル化合物も、上記の(C−1)成分の欄で説明したものが例示される。(C−2)成分におけるアクリル系ゴム粒子の割合は、40〜90重量%であるのが好ましい。(C−2)成分は、市販されているものも利用することができ、例えば、三菱レイヨン社製、商品名:メタブレンW−300が挙げられる。
【0025】
本発明における(D)成分は、繊維である。繊維としてはとくに限定されるものではないが、バサルト繊維、竹繊維、ケナフ繊維、炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。とくに好ましくはバサルト繊維である。
【0026】
バサルト繊維とは、玄武岩を溶融紡糸してフィラメント状の繊維にした材料である。なお本発明において、「繊維」とは、繊維径に対して繊維長が3倍以上であるものを意味する。
バサルト繊維の繊維径は、好ましくは3〜50μmであり、より好ましくは5〜25μmである。繊維長は、好ましくは0.03〜30mmであり、より好ましくは0.1〜13mmである。
バサルト繊維は、玄武岩を加熱溶融し、公知の紡糸技術により所望の繊維径に紡糸し、裁断することによって得ることができる。なおバサルト繊維は市販されているものを利用することもでき、例えば中部工業株式会社が販売するバサルトチョップドファイバー等が挙げられる。
【0027】
また、バサルトファイバーの表面には、ポリ乳酸系樹脂(成分A)の界面との接着性を付与または向上させるという観点や、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットコンパウンドの生産性を向上されるという観点や、得られる成形体の強度を高め、外観を良好にするという観点から、必要に応じて公知の集束剤処理(例えば、シランカップリング剤処理等)が施されていてもよい。シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤処理の他に、必要に応じてエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ乳酸系樹脂等を用いることができる。
【0028】
本発明で用いられる竹繊維において、使用する竹材にとくに制限はない。また、竹材の縦方向の解繊方法もとくに制限されず、例えば打撃解繊、圧延解繊、暴裂解繊、切削解繊法などを利用することができる。
竹繊維の繊維長は、好ましくは50μm〜40mmであり、より好ましくは100μm 〜20mmである。
【0029】
本発明で用いられるケナフ繊維とは、ケナフの木質部、靱皮部、および靱皮部と木質部を合わせた全茎部から調製した繊維、ならびにこれらのブレンド繊維の総称である。ケナフ繊維としては、ケナフの靭皮部から調製した繊維であることが好ましい。ケナフ繊維は、ケナフを破断、切断、または粉砕することによって得られる。
ケナフ繊維の繊維長は、好ましくは50μm〜40mmであり、より好ましくは100μm〜20mmである。
【0030】
本発明で用いられるガラス繊維は、特に限定されないが、ガラス繊維の繊維径は、好ましくは6〜23μmであり、より好ましくは6〜13μmである。繊維長は、好ましくは 1.5〜13mmであり、より好ましくは2.5〜7mmである。
本発明では、ガラス繊維には、好ましくは集束剤が付着されいることが好ましい。ガラス繊維に付着させる集束剤としては、シランカップリング剤、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリ乳酸系樹脂等を用いることができる。
【0031】
本発明で用いられる炭素繊維は、特に限定されないが、繊維の繊維径は、好ましくは2〜23μmであり、より好ましくは4〜13μmである。繊維長は、好ましくは1.5〜13mmであり、より好ましくは2.5〜7mmである。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸系樹脂40〜93質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート60〜7質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー5〜100質量部および(D)繊維5〜100質量部を配合する必要がある。この配合割合を満たすことにより、高い耐熱性を付与できるとともに、成形加工性および耐衝撃性を共に満足することができる。この配合割合の範囲外では、当該効果は奏されない。
ポリブチレンテレフタレートの配合量が60質量部を超えると、耐熱性が向上する反面、バイオマス素材であるポリ乳酸の配合量が著しく少なくなる問題がある。また、コアシェルポリマーの配合量が100重量部を超えると、更なる耐衝撃性向上の効果は乏しく、またバイオマス素材であるポリ乳酸の配合量が著しく少なくなる問題がある。
さらに好ましい配合割合は、(A)ポリ乳酸系樹脂50〜90質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート10〜50質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー10〜90質量部および(D)繊維5〜90質量部であり、とくに好ましい配合割合は、(A)ポリ乳酸系樹脂55〜85質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート15〜45質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー10〜90質量部および(D)繊維5〜90質量部である。
【0033】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、上記各成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、安定剤(酸化防止剤、光安定剤など)、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、メラミン化合物など)、滑剤、離形剤、染料や顔料を含む着色剤、核化剤(有機カルボン酸金属塩など)、可塑剤、末端封鎖剤(エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物)、結晶核剤などを添加できる。
また、他の熱可塑性樹脂も添加することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリスチレン系樹脂などを適宜添加することもできる。
【0034】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法については公知の方法を用いることができる。例えば、前記(A)〜(D)成分、および必要に応じてその他の樹脂、添加剤等を予めブレンドした後、樹脂の融点以上において、1軸または2軸押出機を用いて均一に溶融混練する方法をあげることができる。分散をよくする意味で二軸押出機を用いることが好ましい。また、生産性を考慮し、(D)繊維を別にフィードすることも好ましい方法である。フィードする場所としては特に規定されないが、押出機を使用する場合は、混練部の途中からフィードする方法が、(D)繊維の断裂が少なくなり好ましい。これとは別に、バンバリーミキサー、加圧ニーダーのようなバッチ式混練機を使用する方法も例示される。
【0035】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、あらゆる成形方法に対応でき、異形押出を含む押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、エンボス成形など各種成形機による成形加工が可能である。上記射出成形、押出成形などの成形機は、通常使用される一般的な仕様のものが採用できる。例えば、射出成形の場合、一般的な射出成形機を使用することが可能である。一般的に、ペレット状コンパウンドを用いると、成形品の仕上りが良好であり、物理的性能も安定する。このように、本発明の樹脂組成物は、用途に応じて成形方法を選択することができる。
【0036】
なお、成形前は、熱風式、真空バキューム式などの乾燥方法を用いてペレット状コンパウンドを予備乾燥するのが好ましい。予備乾燥により、溶融体の発泡による成形品の外観不良、物理特性の低下を防止することができる。また成形中は、ホッパドライヤーなどによって、吸湿を防止することが望ましい。
【0037】
例えば射出成形法により各種形状の成形体を製造する場合、射出成形時のシリンダー温度は、好ましくは170〜270℃、更に好ましくは180〜250℃の範囲である。金型温度は80〜150 ℃の範囲が好ましい。金型温度を80〜150℃に設定することにより、(A)ポリ乳酸系樹脂の結晶化が進み、耐熱性に一層優れた成形品を得ることができる。
また、金型温度を0〜40℃の範囲で冷却し、射出成形を行い、得られた成形品を80〜150℃でアニールすることによっても、(A)ポリ乳酸系樹脂の結晶化が進み、耐熱性に一層優れた成形品を得ることができる。
【0038】
本発明によるポリ乳酸系樹脂組成物は、ASTM D648に準じて、荷重0.45MPaの条件下で測定した荷重たわみ温度は60℃以上であり、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。
【0039】
本発明によるポリ乳酸系樹脂組成物は、ASTM D256に準じて測定した衝撃強度は、60J/m以上であり、好ましくは70J/m以上である。また更に好ましくは100J/m以上である。
【0040】
本発明により得られた成形品は、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、農業資材、包装材料、衣料および日用品など各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、本実施例において使用した試料は以下のとおりである。
【0042】
試料
(1)ポリ乳酸(A−1):H−100、三井化学(株)製、MFR(190℃、2.16kg荷重)は8g/10分、融点は166℃、ガラス転移温度は59℃。
(2)ポリ乳酸(A−2):H−400、三井化学(株)製、MFR(190℃、2.16kg荷重)は4g/10分、融点は165℃、ガラス転移温度は59℃。
(3)ポリブチレンテレフタレートPBT(B−1):デュラネックス500FP、ポリプラスチックス株式会社製、MFR(235℃、2.16kg荷重)は28g/10分、融点は224℃。
(4)コアシェルポリマー(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂MBS)(C−1):B−56、カネカ社製。
(5)コアシェルポリマー アクリルゴム(メチルメタクリレート・アクリル酸ブチル・スチレン樹脂MAS)(C2−2)三菱レイヨン社製、商品名:メタブレンW−300
(6)バサルト繊維(D−1):BS13−3P−112、中部工業(株)、繊維径13μm、繊維長3mm。
(7)竹繊維(D−2):繊維長1〜3mmの竹繊維。ペレット生産前に80℃3時間乾燥処理を実施し使用した。
(8)ケナフ繊維(D−3):繊維長1〜3mmのケナフ繊維。ペレット生産前に80℃3時間乾燥処理を実施し使用した。
(9)ガラス繊維(D−4):CS03FT698、旭ファイバーグラス(株)製、繊維径13μm、繊維長3mm。
(10)炭素繊維(D−5):HTA C6 SR、東邦テナックス(株)製、繊維径7μm、繊維長6mm。
(11)ポリブチレンサクシネートアジペート(E−1):ビオノーレ#3020、昭和高分子(株)製、ガラス転移温度は−45℃。
【0043】
実施例1〜14および比較例1〜3
前記各種成分を、下記表1記載の配合処方に従い配合し、タンブラーミキサーを用いて混合した。溶融混練機としては、スクリュー径20mmの異方向2軸押出機を用い、シリンダー温度180〜240℃に設定し、溶融混練を行った。溶融した樹脂を紐状に押し出し、水冷によって冷却した後、ペレタイザーに送り、ペレットを作製した。このときのペレットの1時間あたりの生産量を2kgで製造したが、実施例9,10についてはストランド切れが起こり、生産量を落として生産した。このときのペレットの1時間あたりの生産量を、ペレット製造性として評価した。なお比較例3は溶融した紐状の樹脂に伸びがなく、ペレタイザーに送る段階で切れてしまい、ペレット製造不可であった。結果を併せて表1に示す。なお、配合処方単位は質量部である。
【0044】
【表1】

【0045】
次に、得られたペレットを用いて射出成形性を以下のようにして評価した。なお、ペレットには、射出成形前に、80℃、3時間の除湿乾燥処理を行った。
射出成形は、型締め圧力80tの射出成形機を用い、シリンダー設定温度180〜250℃とし、金型温度90℃にて成形を行った。成形品の形状は、1/4インチ試験片、すなわち、127mm×12.7mm×6.4mmのサイズを有する。1/4インチ試験片を射出成形するのに最低必要とする成形サイクル時間を射出成形性として評価した。結果を表2に示す。
比較例1〜2については、成形サイクル120秒では材料が充分に固化せず、成形品が得られなかった。実施例にて得られた成形品の外観はいずれも良好であった。
【0046】
前記の射出成形で得られた成形品の物性評価を、以下の方法で実施した。
(1)荷重たわみ温度
ASTM D648に準じて実施した。荷重0.45MPa条件下で測定した。
耐熱性は下記基準によって評価した。
良好:荷重たわみ温度が100℃以上。
良 :荷重たわみ温度が60℃以上100℃未満
不良:荷重たわみ温度が60℃未満。
(2)外観
成形品の外観を目視観察し、下記標準によって評価した。
良好:成形品表面にフローマークが見られなく、繊維の毛羽立ちが確認されない。
不良:成形品表面にフローマークが見られるか、もしくは繊維の毛羽立ちが確認される。
なお、得られた成形品はいずれも外観が良好であった。
(3)衝撃強度
ASTM D256に準じて実施した。
衝撃強度は下記基準によって評価した。
良好:IZOD衝撃強度が100J/m以上。
良 :荷重たわみ温度が60J/m以上100J/m未満
不良:荷重たわみ温度が60J/m未満。
結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
実施例15
また上記実施例において、射出成形の金型温度を30℃に変更したこと以外は、上記実施例と同様に射出成形品を得て、射出成形性を評価した。また得られた成形品を110℃1時間アニール処理した後に物性評価を行った。
結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例16
実施例5で得られたペレットを用い、実施例15と同様に射出成形品を得た。得られた成形品をアニール処理せず、そのまま物性評価を行った。その結果、荷重たわみ温度は160℃、衝撃強度は84J/mであった。
【0051】
実施例2で得られたペレットを用い、実施例15と同様に射出成形品を得た。得られた成形品をアニール処理せず、そのまま物性評価を行った。その結果、荷重たわみ温度は68℃、衝撃強度は140J/mであった。
【0052】
実施例7で得られたペレットを用い、実施例15と同様に射出成形品を得た。得られた成形品をアニール処理せず、そのまま物性評価を行った。その結果、荷重たわみ温度は68℃、衝撃強度は203J/mであった。
【0053】
実施例5のように、ポリブチレンテレフタレートの添加量が多い場合、成形サイクル35秒でアニール処理することなく、効率的に荷重たわみ温度163℃という非常に耐熱が優れる成形品が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、従来技術に比べてきわめて優れた耐熱性を有するとともに、成形加工性および耐衝撃性を満足するポリ乳酸系組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物を成形してなる成形品は、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、農業資材、包装材料、衣料および日用品など各種用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ乳酸系樹脂40〜93質量部および(B)ポリブチレンテレフタレート60〜7質量部からなる混合物100質量部に対し、(C)コアシェルポリマー5〜100質量部および(D)繊維5〜100質量部を配合したことを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)コアシェルポリマーが、(C−1)コア成分としての共役ジエン系化合物を含む重合体に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C−1)成分において、共役ジエン系化合物がブタジエンであり、芳香族ビニル化合物がスチレンであり、(メタ)アクリル酸エステル化合物がメチルメタクリレートであることを特徴とする請求項2に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)コアシェルポリマーが、(C−2)コア成分としてのアクリル系ゴム粒子に、シェル成分としての芳香族ビニル化合物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物をグラフト重合したグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)繊維が、バサルト繊維、竹繊維、ケナフ繊維、炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)繊維が、バサルト繊維であることを特徴とする請求項5に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を、金型温度80℃〜150℃で射出成形する工程を有することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を金型温度0℃〜40℃で射出成形し、得られた射出成形品をさらに80℃〜150℃でアニールすることを特徴とする成形品の製造方法。



【公開番号】特開2007−246694(P2007−246694A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72417(P2006−72417)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】