説明

ポリ乳酸系樹脂組成物および成形体

【課題】 結晶性に優れ、優れた耐熱性を有するとともに、耐久性にも十分に優れたポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる成形体を提供する。
【解決手段】 D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、カルボジイミド化合物(B)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の含有量が50質量%以上であり、ポリ乳酸系樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度が速く、耐熱性に優れ、かつ耐久性にも優れたポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA6、PA66等)、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリカーボネート樹脂(PC)等が使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸は、結晶化を充分進行させることにより耐熱性が向上し、広い用途に適用可能となるが、ポリ乳酸単独ではその結晶化速度は極めて遅いものである。そこで、通常、結晶化速度を向上させることを目的として、ポリ乳酸に各種結晶核剤の添加や、ポリ乳酸の架橋処理がなされてきた。
【0005】
すなわち、ポリ乳酸の結晶化を促進するために結晶核剤を添加する手法として、特許文献1には特定分子構造のカルボン酸アミドまたはエステルを添加することが、また特許文献2にはトリシクロヘキシルトリメシン酸アミドを添加することが、さらに特許文献3にはエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドを添加することが開示されている。
【0006】
また、ポリ乳酸樹脂の耐久性を向上させるための手法として、我々は特許文献4、5に、カルボジイミド化合物と各種添加剤を配合することをそれぞれ開示してきた。しかしながら、結晶化速度が速く、耐熱性に十分に優れ、かつ耐久性にも十分に優れる樹脂組成物を得るにはまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/137397号公報
【特許文献2】特開2006−328163号公報
【特許文献3】特開2003−226801号公報
【特許文献4】特開2006−249152号公報
【特許文献5】特開2009−209233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、結晶性に優れ、優れた耐熱性を有するとともに、耐久性にも十分に優れたポリ乳酸系樹脂組成物および該樹脂組成物からなる成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、カルボジイミド化合物(B)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の含有量が50質量%以上であり、ポリ乳酸系樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または99.4〜99.9モル%である、(1)記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(3)添加剤(C)として、酸化防止剤、ホホバ油、ワックス、雲母、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴム、ポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも一種を含有し、ポリ乳酸系樹脂組成物中の添加剤(C)の含有量が0.01〜10質量%である、(1)又は(2)に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、D体含有量が特定範囲のポリ乳酸樹脂(A)を50質量%以上含有するものであるため、結晶性に優れており、耐熱性に優れた性能を有している。また、カルボジイミド化合物(B)を特定量含有するものであるため、耐久性にも優れている。したがって、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、成形性よく耐熱性と耐久性に優れた成形体を得ることが可能であり、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
そして、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体は、耐熱性や耐久性に優れており、食品容器や生活用品、産業資材等の各種の用途に用いることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)を含有するものである。
【0012】
まず、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を構成するポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または、D体含有量が99.0モル%以上であることが必要であり、中でも、0.1〜0.6モル%であるか、または、99.4〜99.9モル%であることが好ましい。D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性に優れ、耐熱性が向上する。そして、耐久性については、後述するカルボジイミド化合物(B)を含有することにより、向上する効果であるが、D体含有量がこの範囲のポリ乳酸樹脂を用いると、さらに耐久性も向上する。D体含有量がこの範囲外であるポリ乳酸樹脂であると、結晶性が向上せず、耐熱性や耐久性を向上させることが困難となる。
【0013】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂(A)の場合、このポリ乳酸樹脂(A)は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0014】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、実施例にて後述するように、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0015】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)の溶融粘度を指標として用いる場合には、ポリ乳酸樹脂の190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.1〜50g/10分のものが好ましく、より好ましくは0.2〜40g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形体の機械的特性や耐熱性が劣る。メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は、成形加工時の負荷が高くなりすぎ操業性が低下する場合がある。上記のメルトフローレートを所定の範囲に制御する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合には、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が使用できる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合には、メルトフローレートの大きな生分解性ポリエステル樹脂などの低分子量化合物と混合する方法などが挙げられる。
【0016】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂(A)としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD-ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0017】
なお、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合は、50質量%以上であることが必要であり、中でも60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の割合が50質量%未満であると、結晶性に優れたポリ乳酸樹脂(A)の特性を生かすことができず、十分な耐熱性や耐久性を付与することができなくなる。
【0018】
また、本発明のポリ乳酸樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を配合することで、ポリ乳酸樹脂中に架橋構造が導入されていてもよい。架橋構造を有するポリ乳酸樹脂(A)を用いたポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶性が向上し、結晶化速度が早くなり、得られる成形体の結晶化度が高いものとなり、耐熱性がより向上する。
【0019】
次に、カルボジイミド化合物(B)について説明する。
ポリ乳酸樹脂中にカルボジイミド化合物(B)を含有することにより、耐湿熱性を向上させることができ、耐久性に優れた樹脂組成物、成形体とすることができる。本発明におけるカルボジイミド化合物(B)の具体例としては、同一分子内に1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミドとして、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドなどが挙げられる。同一分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドとしては、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、ラインヘミー社製スタバックゾールP、スタバックゾールP−100など)、脂肪族(脂環族)ポリカルボジイミド(例えば、日清紡績株式会社製カルボジライトLA−1など)が挙げられる。
【0020】
以上のようなカルボジイミド化合物(B)は単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、本発明においては、耐湿熱性、耐久性、物性維持、外観の維持などの観点から、モノカルボジイミドが好ましく、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0021】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量は、0.1〜10質量%であり、中でも0.5〜8.0質量%であることが好ましい。本発明においては、ポリ乳酸樹脂として、D体含有量が特定範囲のポリ乳酸樹脂(A)を用いているため、結晶性が向上することにより、耐湿熱性がより向上し、長期の耐久性に優れるものとなる。ポリ乳酸系樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量が0.1質量%未満では、前記のような効果に乏しくなり、一方、含有量が10質量%を超えると、強度低下などの他の物性に悪影響を与える。
【0022】
なお、ポリ乳酸樹脂の加水分解反応は、該ポリ乳酸樹脂の分子鎖末端のカルボキシル基が多く残存しているほど早く進行する。そのため、ポリ乳酸樹脂中のカルボキシル基濃度(以下、[COOH]と表記する場合がある)が低いほど、耐加水分解性を向上させるには好ましい。したがって、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物のカルボキシル基濃度としては、3.0mol/ton以下であることが好ましく、1.5mol/ton以下であることがさらに好ましく、1.0mol/ton以下であることが最も好ましい。樹脂組成物中のカルボキシル基濃度を適正な範囲に制御する方法として、モノカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基濃度や、モノカルボジイミド化合物の添加量を適宜調整する方法が挙げられる。なお、上記カルボキシル基濃度の測定方法としては、滴定泡や核磁気共鳴法(NMR)などが挙げられる。
【0023】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中には、ポリ乳酸樹脂(A)とカルボジイミド化合物(B)に加えて、添加剤(C)として、酸化防止剤、ホホバ油、ワックス、雲母、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴム、ポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも一種を含有することが好ましい。
そして、ポリ乳酸系樹脂組成物中の添加剤(C)の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。なお、添加剤の種類毎のより好ましい含有量は以下に詳述するものであり、これらの添加剤は複数種を組み合わせて用いてもよい。ただし、これらの添加剤の総含有量が0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0024】
本発明における酸化防止剤としては、フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系化合物が特に好ましい。ポリ乳酸系樹脂組成物中に酸化防止剤を含有することにより、着色を抑制することが可能となるとともに、カルボジイミド化合物(B)を単独で用いた場合よりも耐湿熱性能が向上し、より耐久性に優れた樹脂組成物、成形体を得ることができる。
【0025】
本発明におけるフェノール系酸化防止剤は、酸化で生成したパーオキシラジカルに水素を供与して安定化させる能力を有するフェノール基含有化合物であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1010)、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1076)、N,N′−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1098)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1135)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール(IRGANOX1141)、ジエチル[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ホスフォネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1222)、3,3′,3″,5,5′,5″−ヘキサ−tert−ブチル−a,a′,a″−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1330)、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]とポリエチレンワックスの混合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1425WL)、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX1520L)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX259)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX3114)、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX3790)、N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンとの反応生成物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX5057)、6−(4−ヒドロキシ−3−5−ジt−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX565)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(ADEKA社製アデカスタブAO−20)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(ADEKA社製アデカスタブAO−30)、4,4′−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)(ADEKA社製アデカスタブAO−40)、3−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオン酸−n−オクタデシル(ADEKA社製アデカスタブAO−50)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3′,5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](ADEKA社製アデカスタブAO−60)、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](ADEKA社製アデカスタブAO−70)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン(ADEKA社製アデカスタブAO−80)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(ADEKA社製アデカスタブAO−330)、2,2−オキサミドビス−[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Crompton−Uniroyal Chemical製ナウガードXL−1)、1,1,3−トリス{2−メチル−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−5−tert−ブチルフェニル}ブタン(A.P.Iコーポレーション製GSY−242)などが挙げられ、特に、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX1010)、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX3790)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(ADEKA社製アデカスタブAO−30)、4,4′−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)(ADEKA社製アデカスタブAO−40)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3′,5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](ADEKA社製アデカスタブAO−60)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(AO−330)などが好ましく用いられる。これらは1種でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0026】
本発明におけるチオエーテル系酸化防止剤とは、過酸化物分解能力を有するチオエーテル基含有化合物であり、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シプロ化成社製SEENOX 412S、住友化学社製Sumilizer TP−D、ADEKA社製AO−412S)、ジドデシルチオジプロピオネート(シプロ化成社製SEENOX DL、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX PS 800 FL、住友化学社製Sumilizer TPL−R)、ジトリデシルチオジプロピオネート(ADEKA社製AO−503)、ジテトラデシルチオジプロピオネート(シプロ化成社製SEENOX DM、住友化学社製Sumilizer TPM)、ジオクタデシルチオジプロピオネート(シプロ化成社製SEENOX DS、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGANOX PS 802 FL、住友化学社製Sumilizer TPS)、2−メルカプトベンズイミダゾール(住友化学社製Sumilizer MB)などが好ましく用いられる。これらは1種でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0027】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤の単独または合計の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、中でも、0.05〜2質量%であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満では、着色の抑制効果や耐湿熱性の向上効果を得ることが困難となる。10質量%を超えるとフェノール系酸化防止剤やチオエーテル酸化防止剤の分解による樹脂組成物の物性の低下が生じやすくなる。
【0028】
本発明におけるホスファイト系酸化防止剤とは、例えばトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS168)、ビス(2,4−ジ−tert- ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS12)、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS38),テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]4,4’−ジイルビスホスフォナイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS P-EPQ),3,9−ビス(p−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ―3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン(旭電化工業社製アデカスタブPEP-4C),O,O’−ジアルキル(C=8〜18)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP-8,PEP-8W),旭電化工業社製アデカスタブPEP-11C,ビス(2,4−ジ―tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP24G),ビス(2,6−ジ―tert―ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP36,PEP-36Z),2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジ− tert-ブチルフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ2112)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェニル−ジトリデシルホスファイト)(旭電化工業社製アデカスタブ260),ヘキサアルキル又は[トリアルキル(C=8〜18)トリス(アルキル(C=8,9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−t−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ522A),ジ又はモノ(ジノニルフェニル)モノ又はジ(p−ノニルフェニル)ホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ329K),トリスノニルフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ1178),(1−メチルエチリデン)−ジ−4,1−フェニレン−テトラ−C12−15−アルキルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ1500),2−エチルヘキシル−ジフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブC),ジフェニルイソデシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ135A),トリイソデシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ3010),トリフェニルホスファイト(旭電化工業社製TPP)、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(城北化学工業社製JPH3800)などが挙げられ、中でもペンタエリスリトールジフォスファイト(PEP24G)、ビス(2,6−ジ―tert―ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(PEP36,PEP-36Z)、トリス(2,4−ジ−tert-ブチルフェニルホスファイト(2112)、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(JPH3800)などがより好ましい。これらは1種でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のホスファイト系酸化防止剤の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、中でも、0.05〜2質量%であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満では、着色の抑制効果や耐湿熱性の向上効果を得ることが困難となる。10質量%を超えるとフォスファイト系酸化防止剤の分解による樹脂組成物の物性の低下が生じやすくなる。
【0030】
本発明におけるホホバ油とは、天然のホホバ(学名:Simmondasia Chinensis)の種子からの圧搾、蒸留により採取したエステルであり、高級不飽和脂肪酸と高級不飽和アルコールから構成される。ホホバは、米国西南部(アリゾナ州、カリフォルニア州)及びメキシコ北部(ソノーラ、バハ地方)の乾燥地帯に自生する常緑性の灌木で、雌雄異株で、樹高60cm〜180cmでなかには3mに達するものもある。現在は、米国、メキシコの他、イスラエル、オーストラリア、アルゼンチン等の乾燥地帯で栽培されている。
【0031】
本発明において用いられるホホバ油の具体例としては、上述のように種子から圧搾、蒸留したものをそのまま使用した精製ホホバ油、精製ホホバ油を水素添加することにより固体とした水素添加ホホバ油、そのほか液状のホホバアルコール、あるいはクリーム状のホホバクリームなど樹脂に混合できるものであればいずれのものでもよい。
【0032】
ホホバ油は、その沸点が420℃と高いため、高温を必要とする樹脂の溶融混練などの際に混合しても安定に存在する。
【0033】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂組成物中にホホバ油を含有することにより、カルボジイミド化合物(B)を単独で用いた場合よりも耐湿熱性能が向上し、より耐久性に優れた樹脂組成物、成形体を得ることができる。
【0034】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のホホバ油の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましく、中でも0.2〜5質量%、より好ましくは0.5〜2質量%である。0.1質量%未満では、カルボジイミド化合物と併用したときの耐久性向上効果に乏しく、10質量%を超えると、成形体とした際に、ホホバ油がブリードアウトして物性が著しく低下するため好ましくない。また、カルボジイミド化合物とホホバ油と上記記載の酸化防止剤とを併用することで、さらに耐久性が向上したポリ乳酸系樹脂組成物が得られる。
【0035】
本発明において用いられるワックスは、蝋とも呼び、常温で固体で加熱すると低粘度の液体となる有機物のことであり、天然ワックス、合成ワックスのいずれでもよい。
天然ワックスとしては、石油ワックス、鉱物ワックス、動物ワックス、植物ワックスなどが挙げられる。石油ワックスは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのように飽和脂肪族炭化水素を主とするワックスである。鉱物ワックスは、モンタンワックスのように長鎖エステルと遊離高級脂肪酸と遊離高級アルコールの混合物であったり、オゾケライトやセレシンのように炭化水素を主とするワックスである。動物ワックスは、蜜蝋やウールワックスのように長鎖エステルを主とするワックスである。植物ワックスは、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスのように長鎖エステルと遊離高級脂肪酸と遊離高級アルコールの混合物であったり、木蝋のようにグリセライドを主とするワックスである。
合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなどが挙げられる。ポリオレフィンワックスは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスのように、オレフィンの重合やポリオレフィンの熱分解により作られたものである。脂肪酸エステル、脂肪酸アミドの具体例としては、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、アジピン酸、フタル酸、トリメリット酸、セバシン酸のエステル化物、12−ヒドロキシステアリン酸およびそのエステル化物やアミド化合物、けん化物などが挙げられる。
これらの天然ワックスおよび合成ワックスに樹脂を配合したり、酸化・ケン化・エステル化等反応させたりした加工品でもよい。
これらのワックスは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
ワックスの中でも非極性ワックスが好ましい。非極性ワックスとは、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基などの極性基を持たないワックスのことを指す。非極性ワックスの具体例としては、天然ワックスとしては石油ワックスが挙げられ、合成ワックスとしてはフィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックスが挙げられる。
【0037】
ワックスの数平均分子量は100〜10000の間にあることが好ましく、200〜3000の間がより好ましく、300〜2000の間がさらに好ましい。分子量が小さすぎると、熱安定性にかけたり、揮発成分が多かったり、ブリードアウトしたりする問題がある。また分子量が高すぎるとポリエチレンと変わらず、分子量が低すぎると熱安定性に欠け、またブリードアウトなどの外観不良を引き起こす問題がある。
【0038】
本発明において、ポリ乳酸系樹脂組成物中にワックスを含有することにより、カルボジイミド化合物(B)を単独で用いた場合よりも耐湿熱性能が向上し、より耐久性に優れた樹脂組成物、成形体を得ることができる。
ポリ乳酸系樹脂組成物中のワックスの含有量は、0.1〜2質量%が好ましく、より好ましくは0.2〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.2〜1質量%である。含有量が0.1質量%未満であると、カルボジイミド化合物と併用したときの耐久性向上効果に乏しく、一方、2質量%を超える量のワックスをポリ乳酸系樹脂組成物中に均一に練り込むことは難しく、また練り込めたとしてもその後の成形時にスクリュー上で滑って供給に問題が生じたり、得られた成形体の長期保存後にブリードアウトしたり、成形体の機械的強度が低下したり、外観が悪化したりするなど、他の物性に悪影響を与える問題がある。
【0039】
ワックスは、わずかな添加量で、耐久性の大きな向上が達成できるので、成形性、耐熱性、ブリードアウト性、溶融粘度、外観など他の物性に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0040】
また、本発明における雲母としては、非膨潤性雲母、膨潤性雲母のいずれも好適に用いられる。非膨潤性雲母とは水と接触しても変化を起こさないタイプの雲母である。一方、膨潤性雲母とは、水と接触すると結晶の層間に水分子を吸着して膨潤する特徴を有する雲母である。
非膨潤性雲母としては、フッ素金雲母、Ca型四珪素雲母などが挙げられる。膨潤性雲母としては、Na型四珪素雲母、Na型テニオライト、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライトなどが挙げられる。上記の中でも、特にフッ素金雲母、Na型四珪素雲母等が好ましい。
雲母としては天然品を好適に用いることができるが、天然品以外に合成品を用いてもよい。
合成雲母の一般式は、次式で表される。
1/3〜12〜3(Z10)F1.5〜2.0
(式中、Xは、Na、K、Li、Ca2+、Rb2+及びSr2+からなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。YはMg2+、Fe2+、Ni2+、Mn2+、Al3+、Fe3+及びLiからなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。ZはAl3+、Si4+、Ce4+、Fe3+及びB3+からなる群から選ばれる1種以上のイオンを表す。)
上記の合成雲母が膨潤性雲母である場合には、層間に1級〜4級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、またはホスホニウムイオンが結合しているものが好ましい。
【0041】
本発明における合成雲母としては、例えば次の化合物が挙げられる。下記組成は、代表的な組成であり、これらの中間の組成を有するものも使用することができる。
KMg(AlSi10)F フッ素金雲母
KMg2.5(Si10)F Ca型四珪素雲母
KMgLi(Si10)F Caテニオライト
2/3Mg7/3Li2/3(Si10)F
NaMg(AlSi10)F Na型金雲母
NaMgLi(Si10)F Na型テニオライト
NaMg21/2(Si10)F Na型四珪素雲母
これらの雲母は、単独で使用してもよいし。鉱物の種類、産地、粒径等が異なるものを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ポリ乳酸系樹脂組成物中に雲母を含有することにより、より耐熱性を向上させることができる。ポリ乳酸系樹脂組成物中の雲母の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、中でも0.2〜8質量%であることが好ましい。0.01質量%未満では、耐熱性の向上効果に乏しくなる。一方、10質量%を超える場合には、耐湿熱性の悪化や、成形加工性の低下をきたす場合がある。雲母を合成する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、溶融法、インターカレーション法、水熱法等が挙げられる。
【0043】
本発明におけるエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムは、シリコーンとアクリルからなる複合ゴムであり、表層にエポキシ基を有するものである。エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムに含まれるエポキシ基がポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端に反応するので、本発明において、カルボジイミド化合物とともにエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムを用いることで、カルボジイミド化合物を単独で用いるときに比べて、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐久性をさらに向上させることができる。さらに、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムはゴム弾性を有する重合体成分から構成されているため、耐久性が向上するだけでなく、耐衝撃改良効果も向上し、機械的強度にも優れるものとなる。
【0044】
エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムのエポキシ量は、50mol/t〜2500mol/tが好ましく、より好ましくは100mol/t〜2000mol/tである。エポキシ量が50mol/tであると、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端に反応しにくく、本発明の目的とする耐久性向上効果に乏しくなる。一方、エポキシ量が2500mol/tを超えると、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端との反応性が高くなりすぎて、耐久性の向上に悪影響を及ぼす。また、ポリ乳酸樹脂の溶融粘度が高くなり、成形加工時の負荷が高くなりすぎて操業性が低下する。
【0045】
エポキシ変性シリコーン・アクリルゴムに含有されるエポキシ量は、JIS K−7236に従い、指示薬滴定法により測定するものである。まず、0.0006〜0.0009エポキシ当量程度に相当するサンプルにクロロホルム10ml及び酢酸20mlを加えて溶解し、この溶液に臭化テトラエチルアンモニウムの酢酸溶液10mlを加え、クリスタルバイオレットを指示薬として0.1N過塩素酸酢酸溶液で滴定する。消費した0.1N過塩素酸酢酸溶液の量によってエポキシ当量を求める。
【0046】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のエポキシ変性シリコーン・アクリルゴムの含有量は、0.5〜10質量%であることが好ましく、中でも1〜10質量%であることが好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂のカルボキシル末端と十分に反応せず、耐湿熱性の向上効果に乏しくなる。一方、10質量%を超えると、長期保存後にブリードアウトしたり、変色、ひび割れなど外観が悪化する。また、曲げ強度が低くなり、機械的特性に劣るものとなる。
【0047】
さらに、本発明におけるポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブテン、ポリイソブチレン、シクロオレフィン樹脂などを挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物などの有機過酸化物などで三次元架橋されたものでもよいし、一部が塩素化されていてもよい。また、酢酸ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸などとの共重合体でもよい。
上記の中でも、成形体の剛性や耐衝撃性などの機械物性、成形加工性、耐溶剤性、耐熱性などの特性を発現する点で、炭素数2〜6のα−オレフィンから選択される1種以上のモノマーを単独重合又は共重合して得られるポリプロピレン樹脂が好適に使用される。ポリプロピレン樹脂としては、具体的には、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、プロピレンとエチレン及び/又は上記α−オレフィンとの共重合体から構成されるブロック共重合体やランダム共重合体、極性官能基を有する変性ポリプロピレンなどが挙げられる。耐熱性・耐久性の観点からは、アイソタクチックポリプロピレンが好ましい。これらポリプロピレン樹脂は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明において、ポリプロピレン樹脂のメルトフローインデックス(230℃、荷重2.16kg)は、操業性および加工性の観点から、0.1〜80g/10分が好ましく、より好ましくは0.5〜70g/10分である。
【0048】
また、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、エチレン・ノルボルネン共重合体などのエチレン単位を主成分として含む重合体ポリエチレン樹脂も好ましい。ポリエチレン樹脂としては、特に限定は無いが、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ジメチルアミノメチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレンオキサイド付加物などのエチレンと極性単量体との共重合体を挙げることができる。これらポリエチレン樹脂は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明において、ポリエチレン樹脂のメルトフローインデックス(190℃、荷重2.16kg)は、操業性および加工性の観点から、0.1〜80g/10分が好ましく、より好ましくは0.5〜70g/10分である。
【0049】
ポリ乳酸系樹脂組成物中のポリオレフィン系樹脂の含有量は、0.01〜10質量%であり、中でも1〜8質量%であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂を配合することにより、ポリ乳酸樹脂にポリオレフィン樹脂が島のように分散した構造(いわゆる海島構造)を得ることができる。海島構造は耐衝撃性の向上に寄与する。
【0050】
また、ポリオレフィン樹脂を添加する場合には、エポキシ基含有添加剤を添加することが好ましい。エポキシ基含有添加剤は、含有されるエポキシ基がポリ乳酸樹脂と反応し、骨格部分がポリオレフィン樹脂と相溶することにより、両者の密着性を高める役割を担う。そのため、ポリ乳酸樹脂とポリオレフィン樹脂とによる海島構造を固定化し、島の大きさ(すなわち、分散したポリオレフィン樹脂の大きさ)をより細かくする。その結果として、樹脂同士の界面がより強固に接着されるため、耐衝撃性等の物性が向上し、樹脂組成物の外観を改善し、成形性が改良される。また、末端封鎖剤的な効果(すなわち、分子鎖末端のカルボキシル基を封鎖する効果)も期待できるため、耐久性もより向上する。
エポキシ基含有添加剤は、1以上のエポキシ基を含有していれば、特に限定されない。エポキシ基は主にポリ乳酸樹脂を反応すると考えられるため、その骨格部分に、ポリオレフィン樹脂と相溶性の良い構造を含有するものが好ましい。すなわち、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリブタジエン水添ポリマー、ポリエチレンブチレン、ポリイソブチレン、シクロオレフィンなどの樹脂構造を有するものが好ましい。上記ポリエチレンなどの樹脂構造にさらに、ビニル系、アクリル系、エステル系、アミド系などの樹脂成分が共重合されていてもよい。さらに、上記ポリエチレンなどの樹脂構造に、エポキシ基を直接付加した構造であってもよいし、エポキシ基を付加したポリマーを上記ポリエチレンなどの樹脂構造にグラフト重合した構造であってもよい。
【0051】
エポキシ基含有添加剤として特に好ましいものは、ポリエチレンやポリプロピレンの骨格にエポキシ基が付加された構造を有するものである。このようなエポキシ基含有添加剤としては、市販品も好適に使用することができ、例えば、「ボンドファーストE」「ボンドファースト2C」(いずれも住友化学社製)、「ARUFON UG4030」(東亞合成社製)、「モディパーA4200」(日本油脂社製)などを挙げることができる。
【0052】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、結晶化を促進させ、耐熱性をさらに向上させるために結晶核剤を含有することが好ましい。
【0053】
結晶核剤としては、特に限定されず、種々のものを用いることができる。市販品の結晶核剤としては、例えば、川研ファインケミカル社製WX−1、新日本理化社製TF−1、アデカ社製T−1287N、トヨタ社製マスターバッチKX238Bなどが挙げられる。具体的な化合物としては、その結晶化促進効果の点から、有機アミド化合物、有機ヒドラジド化合物、カルボン酸エステル系化合物、有機スルホン酸塩、フタロシアニン系化合物、メラミン系化合物、および有機ホスホン酸塩から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0054】
このうち、樹脂中への分散性および耐熱性の面から、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジドが好ましく、さらに、N,N′,N″−トリシクロヘキシルトリメシン酸アミド、N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミドが特に好ましい。
【0055】
カルボン酸エステル系化合物としては、種々のものを用いることができるが、例えば、脂肪族ビスヒドロキシカルボン酸エステル等が好ましい。
【0056】
有機スルホン酸塩としては、スルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができるが、中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が、結晶化促進効果の点から好ましい。さらに、バリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましい。
【0057】
フタロシアニン系化合物としては、種々のものをも用いることができるが、遷移金属錯体を用いることが好ましく、中でも、銅フタロシアニンが結晶化促進効果の点から好ましい。メラミン系化合物としては、種々のものを用いることができるが、結晶化促進効果の点から、メラミンシアヌレートを用いることが好ましい。有機ホスホン酸塩としては、フェニルホスホン酸塩が、結晶化促進効果の点から好ましい。そのうち、特にフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。
なお、これら有機系の結晶核剤に対して、無機系の各種結晶核剤を併用してもよい。
【0058】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物中の上記のような結晶核剤の含有量は、0.03〜5質量%であることが好ましく、中でも0.1〜4質量%であることが好ましい。結晶核剤の含有量が0.03質量%未満であると、配合することによる上記したような効果が乏しくなる。一方、含有量が5質量%を超えると、結晶核剤としての効果が飽和し、経済的に不利であるだけでなく、生分解後の残渣分が増大するため、環境面でも好ましくない。
【0059】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、分散剤等の添加剤を添加することができる。
充填材としては、無機充填材と有機充填材が挙げられる。無機充填材としては、タルク、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品などが挙げられる。
可塑剤としては、例えば、脂肪族エステル誘導体または脂肪族ポリエーテル誘導体から選ばれた1種以上の可塑剤などが挙げられる。具体的な化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレートなどが挙げられる。
【0060】
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、中でも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが、好適に用いられる。
【0061】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸樹脂(A)以外の他の樹脂を含有していてもよい。例えば、他の樹脂を配合して、ポリ乳酸樹脂(A)とのアロイとすることも可能である。
【0062】
アロイの相手材となる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、などが挙げられる。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6Tなどが挙げられる。
ポリエステルとしては、各種芳香族ポリエステル、各種脂肪族ポリエステルをはじめ多くのものが挙げられる。芳香族ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられ、脂肪族ポリエステルとしては、具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート−乳酸)共重合体、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
この他のポリエステル系のものとしては、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリブチレンイソフタレートコテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、シクロヘキシレンジメチレンイソフタレートコテレフタレート、p−ヒドロキシ安息香酸残基とエチレンテレフタレート残基からなるコポリエステル、植物由来の原料である1,3−プロパンジオールからなるポリトリメチレンテレフタレート等などが挙げられる。ポリ乳酸樹脂とこれらの樹脂を混合する方法は特に限定されない。
【0063】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法としては、カルボジイミド化合物(B)や添加剤(C)をポリ乳酸樹脂(A)の重合時に添加する方法、カルボジイミド化合物(B)や添加剤(C)をポリ乳酸樹脂(A)とともに溶融混練する方法、カルボジイミド化合物B)や添加剤(C)を成形時に添加する方法などが挙げられる。中でも、操業性の観点から、溶融混練時または成形時に添加する方法が好ましい。なお、溶融混練や成形時に添加する場合には、ポリ乳酸樹脂(A)と予めドライブレンドしておいてから、一般的な混練機や成形機に供給する方法や、サイドフィーダーを用いて溶融混練の途中から添加する方法などが挙げられる。また、ホホバ油として精製ホホバ油を用いる場合は、液状であるため、加熱定量送液装置などを用いて混練の途中から添加する方法が好ましい。
熱安定剤などのその他の添加剤は、一般に溶融混練時あるいは重合時に加えることが好ましい。
【0064】
溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができる。混合均一性や分散性を高める観点からは二軸押出機を使用することが好ましい。
【0065】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の大きな欠点であった耐熱性、結晶化速度または高温高湿度下での長期使用時の耐久性が大幅に改善されている。そのため、各種成形体とした場合に、従来の生分解性を有するポリ乳酸樹脂では実用化において耐久性や耐熱性が不十分であった用途にも使用することができる。例えば、夏場の自動車内での高温高湿度下の過酷な状況でも、保存安定性に優れ、劣化に伴う強度低下や、分子量低下などが起きない。
【0066】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形など公知の成形方法により、各種成形体とすることができる。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶化速度が早く、耐熱性に優れたものであるため、これらの成形時の成形サイクルを短くすることが可能であり、加工性に優れるものである。
【0067】
射出成形法としては、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等を採用できる。本発明において、好適な射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度はポリ乳酸樹脂の融点(Tm)または流動開始温度以上であり、好ましくは180〜230℃、最適には190〜220℃の範囲である。シリンダ温度が低すぎると、樹脂の流動性の低下により成形不良や装置の過負荷に陥りやすい。逆にシリンダ温度が高すぎるとポリ乳酸樹脂が分解し、成形体の強度低下、着色等の問題が発生するため好ましくない。
また、本発明において、射出成形の際の金型温度については、樹脂組成物のTg(ガラス転移温度)以下とする場合には、好ましくは(Tg−10)℃以下である。また、樹脂組成物の剛性、耐熱性向上を目的として結晶化を促進するためにTg以上、(Tm−30)℃以下とすることもできる。
【0068】
ブロー成形法としては、例えば、原料チップから直接成形を行うダイレクトブロー法や、まず射出成形で予備成形体(有底パリソン)を成形後にブロー成形を行う射出ブロー成形法、さらには延伸ブロー成形法等が挙げられる。また、予備成形体を成形後に連続してブロー成形を行うホットパリソン法、いったん予備成形体を冷却し取り出してから再度加熱してブロー成形を行うコールドパリソン法のいずれの方法も採用できる。
【0069】
押出成形法としては、Tダイ法、丸ダイ法等を適用することができる。押出成形温度は原料のポリ乳酸樹脂の融点または流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは180〜230℃、さらに好ましくは190〜220℃の範囲である。成形温度が低すぎると操業が不安定になるという問題や、過負荷に陥りやすいという問題がある。逆に成形温度が高すぎるとポリ乳酸樹脂が分解し、押出成形体の強度低下や着色等の問題が発生するため好ましくない。押出成形によりシートやパイプ等を作製することができる。
押出成形法により得られたシートまたはパイプの具体的用途としては、深絞り成形用原反シート、バッチ式発泡用原反シート、クレジットカード等のカード類、下敷き、クリアファイル、ストロー、農業・園芸用硬質パイプ等が挙げられる。また、シートは、さらに、真空成形、圧空成形及び真空圧空成形等の深絞り成形を行うことで、食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器及びプレススルーパック容器などを製造することができる。深絞り成形温度及び熱処理温度は、(Tg+20)℃〜(Tg+100)℃であることが好ましい。深絞り温度が(Tg+20)℃未満では深絞りが困難になり、逆に深絞り温度が(Tg+100)℃を超えるとポリ乳酸樹脂が分解し偏肉が生じたり、配向がくずれて耐衝撃性が低下したりする場合がある。食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器、及びプレススルーパック容器の形態は特に限定されないが、食品、物品及び薬品等を収容するためには、深さ2mm以上に深絞りされていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、50μm以上であることが好ましく、150〜500μmであることがより好ましい。食品用容器の具体例としては、生鮮食品のトレー、インスタント食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等が挙げられる。農業・園芸用容器の具体例としては、育苗ポット等が挙げられる。また、ブリスターパック容器の具体例としては、食品以外にも事務用品、玩具、乾電池等の多様な商品群の包装容器が挙げられる。
【0070】
上記のような成形法により得られる本発明の成形体は、その優れた特性を活かして自動車用部品に特に適する。上記自動車用部品の具体例としては、バンパー部材、インストルメントパネル、トリム、トルクコントロールレバー、安全ベルト部品、レジスターブレード、ウオッシャーレバー、ウインドレギュレーターハンドル、ウインドレギュレーターハンドルのノブ、パッシングライトレバー、サンバイザーブラケット、コンソールボックス、トランクカバー、スペアタイヤカバー、天井材、床材、内板、シート材、ドアパネル、ドアボード、ステアリングホイール、バックミラーハウジング、エアーダクトパネル、ウィンドモールファスナー、スピードケーブルライナー、サンバイザーブラケット、ヘッドレストロッドホルダー、各種モーターハウジング、各種プレート、各種パネルなどが挙げられる。
また、他にも耐熱性や耐久性を有する事務機器、家電製品などの筐体、各種部品などの用途に好適に用いることができる。事務機器の具体例としては、プリンター、複写機、ファックスなどのケーシングにおけるフロントカバー、リアカバー、給紙トレイ、排紙トレイ、プラテン、内装カバー、トナーカートリッジなどが挙げられる。他にも、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品、OA機器、建材関係部品、家具用部品など耐久性を必要とする各種用途に好適に用いることができる。
本発明の成形体の上記以外のものとしては、皿、椀、鉢、箸、スプーン、フォーク、ナイフ等の食器;流動体用容器;容器用キャップ;定規、筆記具、クリアケース、CDケース等の事務用品;台所用三角コーナー、ゴミ箱、洗面器、歯ブラシ、櫛、ハンガー等の日用品;植木鉢、育苗ポット等の農業・園芸用資材;プラモデル等の各種玩具類等が挙げられる。なお、流動体用容器の形態は特に限定されないが、流動体を収容するためには深さ20mm以上に成形されていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。流動体用容器の具体例としては、乳製品や清涼飲料水及び酒類等の飲料用コップ及び飲料用ボトル;醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器;シャンプー・リンス等の容器;化粧品用容器;農薬用容器等が挙げられる。
【0071】
また、本発明の成形体としては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物より得られた繊維であってもよい。該繊維の製造方法は特に限定されないが、例えば、溶融紡糸し、延伸する方法が好ましい。溶融紡糸温度としては、160℃〜260℃が好ましく、170℃〜230℃℃がより好ましい。160℃未満では溶融押出が困難となる場合があり、一方、250℃を超えると、樹脂の分解が顕著となり、高強度の繊維を得ることが困難な場合がある。溶融紡糸した繊維を目的とする強度や繊維径となるようにTg以上の温度で延伸させるとよい。
上記方法により得られた繊維は、衣料用繊維、産業資材用繊維、短繊維不織布などとして利用される。
さらに、本発明の成形体としては、本発明の樹脂組成物からなる繊維で構成された長繊維不織布であってもよい。その作製方法は特に限定されないが、樹脂組成物を高速紡糸法により繊維を堆積した後ウェッブ化し、さらに熱圧接等の手段を用いて布帛化することにより得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例中の各種の特性値の測定及び評価は以下のとおりに行った。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量
得られた樹脂組成物を0.3g秤量し、1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した。次いで、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させ、サンプルとして5mLを計り取った。
このサンプルに純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HewletPackard製HP−6890SeriesGCsystemを用いてガスクロマトグラフィー測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD−乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量(モル%)とした。
(2)ポリ乳酸樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)
JIS K−7210(試験条件4)に従い、190℃、21.2Nの荷重において測定した。
(3)曲げ破断強度
得られた試験片を用い、ASTM−790に基づいて行った。変形速度1mm/分で荷重をかけて、曲げ破断強度を測定した。
(4)熱変形温度
得られた試験片を用い、ASTM D648に基づき、荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。なお、荷重は0.45MPaとした。
(5)成形サイクル
試験片を得る際の射出成形時において、樹脂組成物が金型内に射出(充填、保圧)され、冷却された後、成形体が金型に固着せずに取り出せるようになるまでの時間(射出時からカウントした時間:秒)、または成形体が金型から抵抗なく取り出せるようになるまでの時間(射出時からカウントした時間:秒)を成形サイクルとした。
(6)湿熱試験
恒温恒湿器(ヤマト科学社製、商品名「IG400型」)を用い、得られた試験片を、温度70℃、相対湿度95%の環境下に晒すことにより湿熱処理を施した。処理時間を1000時間、2000時間、3000時間とし、それぞれの時間を経過した試験片を回収し、(3)と同様にして曲げ破断強度を測定した。
そして、以下の式に基づいて、曲げ強度保持率を算出した。
曲げ破断強度保持率(%)=〔(湿熱処理後の曲げ破断強度)/(湿熱処理前の曲げ破断強度)〕×100
(7)外観評価
上記(6)の湿熱試験において、それぞれの処理時間経過後の試験片の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、×の評価となったものについては、以降の湿熱試験を行っていない。
◎:全く変化なし。
○:表面が若干白化した。
△:表面が粉状に変質した。
×:ひび割れ、またはブリードアウトが発生、または変形した。
【0073】
実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
〔ポリ乳酸樹脂(A)〕
・S−06:D体含有量=0.2%、MFR=4、重量平均分子量=15万(トヨタ自動車社製)
・S−12:D体含有量=0.1%、MFR=8、重量平均分子量=13.5万(トヨタ自動車社製)
・S−17:D体含有量=0.1%、MFR=11、重量平均分子量=12万(トヨタ自動車社製)
・A−1:D体含有量=0.6%、MFR=2、重量平均分子量=17万(トヨタ自動車社製)
・TE−4000:D体含有量=1.4%、MFR=10、重量平均分子量=13万(ユニチカ社製)
〔カルボジイミド化合物(B)〕
・EN−160:松本油脂製薬社製EN−160(N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)
・LA−1:日清紡社製LA−1(イソシアネート基含有率1〜3%、イソシアネート変性カルボジイミド)
〔添加剤(C)〕
(酸化防止剤)
・AO−30:ADEKA社製アデカスタブAO−30 1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン
・412S:シプロ化成社製SEENOX 412S ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)
・PEP−36:ADEKA社製アデカスタブPEP−36、ビス(2,6−ジ―tert―ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト
(ホホバ油)
・ホホバ油:精製ホホバ油香栄工業社製、商品名「精製ホホバ油」
(ワックス)
・Hi−Mic−1080:マイクロクリスタリンワックス、日本精鑞社製「Hi−Mic−1080」
(雲母)
・MK−100:非膨潤性ミクロマイカ、コープケミカル社製、商品名「MK−100」
(エポキシ変性シリコーン・アクリルゴム)
・S−2200:エポキシ変性シリコーン・アクリルゴム、三菱レイヨン社製、商品名「メタブレンS−2200」エポキシ量352mol/t
(ポリオレフィン系樹脂)
・PP:ポリプロピレン、日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックPP BC6C」
・PE:ポリエチレン、日本ポリエチレン社製、商品名「ノバテックHD HJ490」
〔結晶核剤〕
・TLA114:竹本油脂製TLA114(5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム)
・238B:トヨタ自動車製(ポリ乳酸ベースの結晶核剤10%含有マスターバッチ)KX238B
・WX−1:川研ファインケミカル社製WX−1(N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド)
【0074】
実施例1
ポリ乳酸樹脂(A)としてS−12を95.5質量部、カルボジイミド化合物(B)を4質量部、結晶核剤としてTLA−114を0.5質量部をドライブレンドして二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)の根元供給口から供給し、バレル温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出15kg/hの条件で溶融混練した。溶融混練の後0.4mm径×3孔のダイスよりストランドを押出して、ペレット状にカッティングし、真空乾燥機(ヤマト科学社製、商品名「真空乾燥機DP83」)にて、温度60℃で48時間乾燥処理し、ポリ乳酸系樹脂組成物を得た。
得られたポリ乳酸系樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)を用い、シリンダ温度160〜220℃、金型温度90℃とし、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ試験片用金型を用いて成形を行い、長さ×幅×厚さ=127mm(5インチ)×12.7mm(1/2インチ)×3.2mm(1/8インチ)の試験片を得た。
【0075】
実施例2〜4
ポリ乳酸樹脂(A)を表1に示すものにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0076】
実施例5
カルボジイミド化合物(B)の種類を変更し、2質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0077】
実施例6〜14
添加剤(C)として表1に示すものを用い、表1に示す含有量となるようにドライブレンド時に添加した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0078】
実施例15〜16
カルボジイミド化合物(B)の添加量を変更し、表1に示す含有量となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0079】
実施例17〜18
結晶核剤の種類を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0080】
比較例1
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用い、さらにカルボジイミド化合物(B)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0081】
比較例2
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0082】
比較例3
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用いたこと以外は、実施例17と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0083】
比較例4
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用いたこと以外は、実施例18と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0084】
比較例5
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用いたこと以外は、実施例6と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0085】
比較例6
ポリ乳酸樹脂(A)として、TE−4000を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0086】
比較例7
カルボジイミド化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0087】
比較例8〜9
カルボジイミド化合物の添加量を変更し、表2に示す含有量となるようにした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸系樹脂組成物を得、実施例1と同様にして試験片を得た。
【0088】
実施例1〜16、比較例1〜9で得られたポリ乳酸系樹脂組成物、成形体の特性値及び評価結果を表1、表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1から明らかなように、実施例1〜18で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、耐熱性に優れ、結晶化速度の速いものであったため、成形体を得る際の成形サイクルが短いものであり、得られた成形体は、熱変形温度が高いものであった。また、耐湿熱性能にも優れたものであったため、得られた成形体は、曲げ強度保持率が高く、外観に優れ、長期の耐久性に優れたものであった。中でも実施例6〜14のポリ乳酸系樹脂組成物は、カルボジイミド化合物(B)と添加剤(C)を併用したものであったため、70℃、相対湿度95%の条件下において、2000時間以上経過後も曲げ強度保持率80%以上を保持しており、さらに良好な外観も保持していることから、大幅に耐久性が向上した。
一方、比較例1のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量が本発明の範囲外のものであり、カルボジイミド化合物(B)も含有されていなかったため、耐熱性、耐久性ともに劣るものであった。比較例2〜6のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量が本発明の範囲外のものであったため、結晶性に劣るものであり、射出成形時の成形サイクルが遅く、得られた成形体は耐熱性に劣るものであった。また、比較例7〜9のポリ乳酸系樹脂組成物は、カルボジイミド化合物が含有されていなかったり、添加量が適量でなかったため、耐久性に劣るものであり、得られた成形体は、曲げ強度保持率が低く、外観評価に劣ったものであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂(A)と、カルボジイミド化合物(B)を含有するポリ乳酸系樹脂組成物であって、ポリ乳酸系樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂(A)の含有量が50質量%以上であり、ポリ乳酸系樹脂組成物中のカルボジイミド化合物(B)の含有量が0.1〜10質量%であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)中のD体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または99.4〜99.9モル%である、請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
添加剤(C)として、酸化防止剤、ホホバ油、ワックス、雲母、エポキシ変性シリコーン・アクリルゴム、ポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも一種を含有し、ポリ乳酸系樹脂組成物中の添加剤(C)の含有量が0.01〜10質量%である、請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体。




【公開番号】特開2011−219604(P2011−219604A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89536(P2010−89536)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】