説明

ポリ乳酸繊維および布帛および繊維製品

【課題】防炎性に優れたポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品を提供すること。
【解決手段】(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の特定の燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維であって、防炎剤を含むことを特徴とするポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎性に優れたポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、地球環境保護の目的から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目され、世界中で研究されている。生分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸などが知られている。なかでもポリ乳酸は、ポリ乳酸の原料である乳酸またはラクチドが天然物から製造できるので、単なる生分解性ポリマーとしてではなく、地球環境に配慮した汎用性ポリマーとして利用も検討されている(例えば、特許文献1参照)。また、ポリ乳酸繊維に防炎加工を施すことが提案されている(例えば特許文献2〜5参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリ乳酸繊維では、防炎性の点で不十分であった。一方、特許文献2〜5に記載された、防炎加工を施したポリ乳酸繊維では、ポリ乳酸繊維の耐熱性が不十分であるため、防炎剤を繊維の内部まで浸透させるために必要な温度がかけられず、防炎剤の浸透性が不安定であるため防炎性能が十分ではないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/029934号パンフレット
【特許文献2】特開2003−138481号公報
【特許文献3】特開2001−164463号公報
【特許文献4】特開2001−181975号公報
【特許文献5】特開2006−83492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、防炎性に優れたポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−成分(B成分)とを特定の燐酸エステル金属塩(C成分)の存在下で紡糸、延伸して得られたポリ乳酸繊維は耐熱に優れるため、防炎剤を繊維の内部まで浸透させるために必要な温度をかけることができ、その結果、防炎性に優れたポリ乳酸繊維が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「 (i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維であって、防炎剤を含むことを特徴とするポリ乳酸繊維。」が提供される。
【0008】
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0009】
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0010】
その際、前記ポリL−乳酸(A成分)の重量平均分子量が5万〜30万の範囲内であり、かつ前記ポリD―乳酸(B成分)の重量平均分子量が5万〜30万の範囲内であることが好ましい。また、前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有してなることが好ましい。また、ポリ乳酸繊維が、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。また、前記防炎剤が疎水性リン系防炎剤であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記のポリ乳酸繊維の製造方法であって、前記防炎剤を染色加工時に染料と同時に繊維に吸尽させるポリ乳酸繊維の製造方法が提供される。その際、染色加工の温度が110〜140℃の範囲内であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、前記のポリ乳酸繊維の製造方法であって、前記防炎剤を含む水分散体を繊維に付与した後、150〜180℃の温度で1〜5分間乾熱処理するポリ乳酸繊維の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、前記のポリ乳酸繊維を含む布帛が提供される。また、本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、カーテン、カーペット、寝具、衣服、椅子被覆材、およびカーシートからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、防炎性に優れたポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品が得られる。また、かかるポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品は耐熱性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリL−乳酸(A成分)は、主としてL−乳酸単位からなる。L−乳酸単位はL−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてD−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。D−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0016】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0017】
ポリL−乳酸(A成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリL−乳酸(A成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0018】
一方、本発明で用いるポリD−乳酸(B成分)は、主としてD−乳酸単位からなる。D−乳酸単位はD−乳酸由来の繰り返し単位である。ポリD−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位を含有する。他の繰り返し単位としてL−乳酸単位、乳酸以外の単位がある。L−乳酸単位および乳酸以外の単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0019】
乳酸以外の単位としては、グリコール酸、カプロラクトン、ブチロラクトン、プロピオラクトンなどのヒドロキシカルボン酸類、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−プロパンジオール、1,5−プロパンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、炭素数が2〜30の脂肪族ジオール類、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキノンなど芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸などから選ばれる1種以上のモノマー由来の単位が挙げられる。
【0020】
ポリD−乳酸(B成分)は、好ましくは結晶性を有する。融点は、好ましくは150〜190℃、より好ましくは160〜190℃である。これらの条件を満足すると、高融点のステレオコンプレックス結晶を形成させることができ、かつ、結晶化度を上げることができるからである。
ポリD−乳酸(B成分)において、重量平均分子量が5万〜30万(より好ましくは10万〜25万)であることが好ましい。
【0021】
ポリL−乳酸(A成分)またはポリD−乳酸(B成分)は、L−乳酸またはD−乳酸を直接脱水縮合する方法で製造したり、L−乳酸またはD−乳酸を一度脱水環化してラクチドとした後に開環重合したりする方法で製造することができる。これらの方法に用いる触媒として、オクチル酸スズ、塩化スズ、スズのアルコキシドなどの2価のスズ化合物、酸化スズ、酸化ブチルスズ、酸化エチルスズなど4価のスズ化合物、金属スズ、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、ランタニド化合物などを例示することができる。
【0022】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)は、重合時使用された重合触媒を溶媒で洗浄除去するか、触媒活性を不活性化しておくのが好ましい。触媒活性を不活性化するには、触媒失活剤を用いることができる。
【0023】
触媒失活剤として、イミノ基を有し且つ金属重合触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド、リンオキソ酸、リンオキソ酸エステルおよび式(3)で表される有機リンオキソ酸化合物群から選択される少なくとも1種が挙げられる。触媒失活剤は、重合終了の時点において触媒中の金属元素1当量あたり、好ましくは0.3〜20当量、より好ましくは0.4〜15当量、さらに好ましくは0.5〜10当量配合する。
−P(=O)(OH)(OX2−n (3)
式中、mは0または1、nは1または2、XおよびXは各々独立に炭素数1〜20の置換基を有していても良い炭化水素基を表す。炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。
【0024】
ポリL−乳酸(A成分)およびポリD−乳酸(B成分)中の金属イオン含有量は20ppm以下であることが繊維の耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。金属イオン含有量は、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンから選ばれる金属の各々の含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明で用いる燐酸エステル金属塩(C成分)は、下記式(1)または(2)で表される化合物である。燐酸エステル金属塩は1種類を用いても複数種類を併用してもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(1)において、Rは、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rで表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
【0028】
、Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0029】
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばRが水素原子、R、Rがともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
式(2)においてR、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0032】
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R、Rがメチル基、Rがtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0033】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のMおよびMは、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のMおよびMが、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0034】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
【0035】
燐酸エステル金属塩(C成分)の含有量は、ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との合計100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部である。0.01重量部より少量であると所望の効果がほとんど認められない。また5重量部より多量に使用すると繊維形成時、熱分解を起こしたり、断糸が起きたりする場合があり好ましくない。
【0036】
ポリL−乳酸(A成分)とポリD−乳酸(B成分)との比は、A成分/B成分(重量)で、好ましくは40/60〜60/40、より好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは50/50である。
【0037】
A成分、B成分およびC成分の混合は、従来公知の各種方法を使用することができる。例えば、A成分、B成分およびC成分を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、1軸または2軸の押出機等で混合することができる。
【0038】
こうして得られるポリ乳酸組成物は、溶融混合され、そのまま、または計量ポンプなどを経由して紡糸装置に移送することもできる。溶融混合する温度は、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸の融点より高い温度であることが好ましく、220℃よりも高いことが好ましい。また、一旦ペレット状にしてから紡糸装置に供給することもできる。ペレット長は1〜7mm、長径3〜5mm、短径1〜4mmのものが好ましい。ペレットの形状は、ばらつきのないものが好ましい。ペレット化された組成物は、プレッシャーメルター型や1軸あるいは2軸エクストルーダー型などの通常の溶融押出し機を使用して紡糸装置に移送することもできる。ステレオコンプレックス結晶の形成にあたっては、A成分およびB成分を十分に混合することが重要であり、とりわけ剪断応力下、混合することが好ましい。
【0039】
前記のポリ乳酸組成物には、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基末端封止剤が好適に適用できる。かかるカルボキシル末端封止剤としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、耐湿熱性改善の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0040】
ここで、エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0041】
また、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
【0042】
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0043】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0044】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0045】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0046】
カルボキシル基末端封止剤の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボキシル基末端封止剤を含有するポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
【0047】
本発明のポリ乳酸繊維は、前記のポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維であって、防炎剤を含有するポリ乳酸繊維である。
ここで防炎剤としては、ポリ乳酸繊維に吸尽させる上で疎水性リン系防炎剤が好ましい。
【0048】
例えば、特許第3328180号公報の[0015]〜[0018]に開示されたリン系化合物や、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリイソブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸メチルジフェニル、リン酸フェニルジエチルメチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ジプロピル、メチルホスホン酸トリブチル、ブチルホスホン酸ジブチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジクレジル、フェニルホスホン酸ジキシリル、フェニルホスホン酸フェニルクレジル、ジメチルホスフィン酸ジメチル、ジエチルホスフィン酸エチル、ジメチルホスフィン酸プロピル、ジチルホスフィン酸ブチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸クレジル、ジフェニルホスフィン酸ジキシリ、トリメチルホスフィンオキサイド、トリエチルホスフィンオキサイド、トリ−n−プロピルホスフィンオキイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ−n−ヘキシルホスフィンオキイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイド、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAジフェニルホスフェート)ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノール(フェニルホスホン酸フェニル)、ハイドロキノン(フェニルホスホン酸フェニル)、ビスフェノールA(フェニルホスホン酸フェニル)、2−カルボキシエチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−p−トルイルフェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−p−トルイルフェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−ベンジルホスフィン酸、およびその無水物、その低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、ハライド(クロライドなど)、ビス−(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)−m−エチルベンジルホスフィンオキシド、およびその無水物、その低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、ハライド(クロライドなど)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの混合物を用いることも可能である。特に、10 −メチル−9 ,10−ジヒドロキシ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10− オキサイドが好ましい。
【0049】
ここで、環境上の理由からもリン系防炎剤が好ましい。例えば、特開2001−164463号公報に記載されているようなHBCDに代表される脂環式臭素系防炎剤では、環境上の問題が発生するおそれがある。また、特開2001−181975号公報に記載されているようなエキソ多糖類防炎剤では防炎剤が繊維表面に付着するのみであるため十分な防炎性能が得られないおそれがある。また、特開2006−83492号公報に記載されているようなアミド系防炎剤では、紫外線により黄変し繊維の審美性を損ね、また燃焼時に窒素酸化物を発生するおそれがある。
【0050】
前記の防炎剤の含有量としては、ポリ乳酸繊維の重量に対して1重量%(owf)以上(好ましくは5〜40重量%)であることが好ましい。防炎剤の含有量が1重量%よりも小さいと十分な防炎性が得られないおそれがある。逆に、防炎剤の付与量が40重量%よりも大きいとコストアップとなるおそれがある。
【0051】
このようなポリ乳酸乳酸繊維は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、前記ポリ乳酸組成物、または、前記ポリ乳酸組成物に必要に応じて防炎剤を混合させた組成物をエクストルーダー型やプレッシャーメルター型の溶融押出し機で溶融した後、ギヤポンプにより計量し、パック内で濾過した後、口金に設けられたノズルからモノフィラメンント、マルチフィラメント等として吐出され紡糸する。その際、吐出孔数は特に制限されるものではない。吐出された糸は直ちに冷却・固化された後集束され、油剤を付加されて巻き取られる。紡糸速度は特に限定されるものではないがステレオコンプレックス結晶が形成され易くなることより300〜5000m/分の範囲が好ましい。特に延伸性の観点から未延伸糸のステレオ化率が0%となる紡糸速度が好ましい。巻き取られた未延伸糸はその後延伸工程に供されるが、紡糸工程と延伸工程は必ずしも分離する必要はなく、紡糸後いったん巻き取ることなく引続き延伸を行う直接紡糸延伸法を採用してもよい。かかる未延伸糸は、広角X線回折法の測定では実質的に非晶性である。また、示差走査熱量計(DSC)測定を行った際に、低温結晶融解相(A)と高温結晶融解相(B)の少なくとも2つの吸熱ピークを示すことはなく、実質的にステレオコンプレックス結晶の単一融解ピークを示す。かかる融解ピーク温度は195℃以上である。すなわち、未延伸糸は非晶性のステレオコンプレックスを形成しているが、低温結晶相を形成可能なポリL−乳酸相およびまたはポリD−乳酸相を含有してないものと推定する。これらの特徴は、繊維が燐酸エステル金属塩(C成分)を含有していることに起因し、従来まったく予想されなかった有用な特性である。
【0052】
未延伸糸の段階でポリL−乳酸またはポリD−乳酸の結晶相を有しないことは、その後の延伸工程以降に高いステレオ化率を得るのに有効である。
延伸は、1段でも、2段以上の多段延伸でも良く、高強度の繊維を製造する観点から、延伸倍率は、好ましくは3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは3〜10倍である。しかし、延伸倍率が高すぎると繊維が失透し白化するため、繊維の強度が低下する。延伸の予熱は、ロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式加熱ヒータ、非接触式ヒータ、熱媒浴などにより行うことができる。延伸温度は、好ましくは70〜140℃、より好ましくは80〜130℃である。延伸糸においても、低温結晶融解相(A)は実質的に全く観察されず、高温結晶融解相(B)の単一融解ピークのみが見られる。また、延伸糸の高温結晶融解相(B)の融解開始温度は190℃以上、好ましくは200℃以上である。加えて、延伸糸の広角X線回折測定によるステレオコンプレックス結晶回折ピークの積分強度よりもとめたステレオ化率(Sc率)は90%以上と高い水準にある。
【0053】
さらに、かかる延伸糸を熱処理することが好ましい。熱処理は170〜220℃(好ましくは180〜200℃)で行う。熱処理はテンション下で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱板などで行うことができる。熱処理することにより、高いステレオ化率を有し、耐熱性や耐アイロン性に優れ、繊維強度が大きいポリ乳酸繊維を得ることができる。また、前記ポリ乳酸組成物に防炎剤が含まれる場合は、優れた防炎性を有するポリ乳酸繊維を得ることができる。
【0054】
かかるポリ乳酸繊維に、前記の防炎剤を後工程によってポリ乳酸繊維に付与することも好ましいことである。例えば、前記ポリ乳酸繊維を必要に応じて布帛とした後、通常の液流染色機を使用して温度110〜140℃(より好ましくは120〜130℃)、20〜40分の条件で染色と同浴加工で防炎剤を付与することが好ましい。もちろん、染色加工の前および/または後に防炎剤を付与してもなんらさしつかえない。ここで、前記温度が110℃よりも低いと防炎剤が繊維中に安定的に吸尽されないおそれがある。逆に前記温度が140℃よりも高いとポリ乳酸繊維が加水分解するおそれがある。
【0055】
また、前記ポリ乳酸繊維を必要に応じて布帛とした後、前記防炎剤を含む水分散体を繊維に付与した後、必要に応じて乾燥(例えば、温度100〜120℃で0.5〜2分間乾熱処理)させた後、150〜180℃の温度で1〜5分間乾熱処理してもよい。ここで、前記温度が150℃よりも低いと防炎剤が繊維中に安定的に吸尽されないおそれがある。逆に前記温度が180℃よりも高いとポリ乳酸繊維が硬化するおそれがある。
【0056】
また、必要に応じて、ポリ乳酸繊維に防炎剤を吸尽させる前および/または後において界面活性剤0.5〜3.0gr/リットル使用し、温度60〜90℃、20〜80分で洗浄することにより、繊維表面に付着した油剤を洗い落とし、繊維の残油率を0.50重量%以下としてもよい。なお、洗浄の際に使用する界面活性剤は特に限定されずアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などいずれでもよい。
【0057】
かくして得られたポリ乳酸繊維は耐熱性と防炎性と繊維強度の点で優れる。ここで、広角X線回折法(XRD)測定によるステレオ化率が90%以上であることが好ましい。また、繊維強度としては、引張強度で2.3cN/dtex以上であることが好ましい。また、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上であることが好ましい。また、防炎性能としては、JIS−L−1091D法(45度コイル法)で3回以上であることが好ましい。
【0058】
本発明のポリ乳酸繊維において、その形態は特に制限されず長繊維(マルチフィラメント)でも短繊維でもよい。また、単糸繊維繊度としては0.1〜6.0dtex(より好ましくは0.5〜2.5dtex)の範囲が好ましい。また、ポリ乳酸繊維が長繊維(マルチフィラメント)である場合、総繊度、単糸数としては、総繊度20〜300dtex(より好ましくは30〜100dtex)、単糸数4〜200本(より好ましくは12〜150本、特に好ましくは30〜150本))の範囲内であることが好ましい。また、ポリ乳酸繊維の単糸繊維横断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、くびれ付扁平、十字形、六様形、あるいは中空形などの異型断面形状であってもよい。
【0059】
次に、本発明の布帛は前記のポリ乳酸繊維を含む布帛である。その際、布帛重量に対して40重量%以下であれば、前記のポリ乳酸繊維以外の他の繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維など)が含まれていてもさしつかえない。また、かかる布帛は織物、編物、不織布いずれでもよいが織物が好ましい。ここで、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0060】
また、布帛が織物である場合、織物のカバーファクター(CF)としては、優れた遮光率を得る上で3000以上(好ましくは3500〜5000)であることが好ましい。
ここで、カバーファクター(CF)は次式で表されるものである。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0061】
前記の布帛には、常法の撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0062】
次に、本発明の繊維製品は前記の布帛を用いてなる、カーテン、カーペット、寝具、衣服、椅子被覆材、およびカーシートからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、ポリ乳酸繊維を含んでいるにもかかわらず耐熱性および防炎性に優れる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、実施例を用いて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでははない。なお、実施例中の物性は下記の方法により測定した。
【0064】
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0065】
(2)ステレオ化率(Sc化率)
理化学電気社製ROTA FLEX RU200B型X線回折装置用いて透過法により、以下の条件でX線回折図形をイメージングプレートに記録した。得られたX線回折図形において赤道方向の回折強度プロファイルを求め、ここで2θ=12.0°、20.7°、24.0°付近に現れるステレオコンプレックス結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣISCiと、2θ=16.5°付近に現れるホモ結晶に由来する回折ピークの積分強度IHMから下式に従いステレオ化率(Sc化率)を求めた。尚、ΣISCiならびにIHMは図1に示すように、赤道方向の回折強度プロファイルにおいてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって見積もった。
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカル ミラー)
出力: 45kV×70mA
スリット: 1mmΦ〜0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 長さ3cm、35mg
Sc化率=ΣISCi/(ΣISCi+IHM)×100
ここで、ΣISCi=ISC1+ISC2+ISC3
SCi(i=1〜3)はそれぞれ2θ=12.0°、20.7°、
24.0°付近の各回折ピークの積分強度
【0066】
(3)融点、結晶融解ピーク、結晶融解開始温度、結晶融解エンタルピー測定:
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。
測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解ピーク、ホモ結晶融解(開始)温度、ホモ結晶融解エンタルピーおよびステレオコンプレックス結晶融解ピーク、ステレオコンプレックス結晶融解(開始)温度およびステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーを求めた。
【0067】
(4)繊維強度(cN/dtex)
オリエンティック社製「テンシロン」(商品名)を用い、測定対象の繊維構造体から無作為に10本の対象単糸(フィラメント)を抜き取り、糸試料長50mm(チャック間長さ)、伸長速度500mm/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/本)を求めた後、この強度を繊度で割って繊維強度(cN/dtex)とした。
【0068】
(5)防炎性能
JIS−L−1091A−1法(45度ミクロバーナー法)、D法(45度コイル法)に基づき評価した。
【0069】
(6)堅牢度
JIS−L−1849に基づき評価した。
【0070】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0071】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た。得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0072】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−11)0.5重量部を230℃で溶融混練し、ポリL−乳酸ならびにポリD‐乳酸の合計100重量部あたりカルボジイミドとして日清紡(株)製カルボジライトLA−1を0.7重量部、第一供給口より供給しシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は224℃、ステレオ化率は100%であった。
【0073】
[実施例1]
前記、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたあと0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で8.35g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った後、180℃で熱処理を行った。紡糸工程、延伸工程での工程通過性は良好であり、巻き取られた延伸糸は繊度167dTex/36filのマルチフィラメントであり、強度3.6cN/dTex、伸度35%、融点213℃であった。また、DSC測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度(融点)が224℃であり、ステレオ化率100%であった。
【0074】
得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを経糸および緯糸に配して、平織物組織の織物を製織した後、該織物を、温度150℃、2分間の乾熱セットした後、液流染色機を用いて、浴比1:15で温度120℃で20分間の染色を行った。その際、分散染料C.I.Disperse Blue79を1重量%owfとともに10 −メチル−9 ,10−ジヒドロキシ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10− オキサイドを10%owf、また酢酸0.5g/Lを加えた。
【0075】
さらにソーピング剤(日華化学社製、エスクードFRN)2g/L、ソーダ灰2g/L、ハイドロサルファイト2g/Lを加えた水溶液中で、70℃×20分間還元洗浄し、湯洗、水洗した後、乾熱110℃にて1分間乾燥し、さらに乾熱150℃で1分間ヒートセットを施した。なお、重量%owfは、未処理のポリ乳酸繊維織物に対する重量率である。得られた布帛の防炎性能、堅牢度は表1に示すとおり良好なものであった。
次いで、該織物を用いてカーテンを縫製した。かかるカーテンは耐熱性、防炎性に優れていた。
【0076】
[実施例2]
実施例1で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメント平織物を温度150℃、2分間の乾熱セットした後、液流染色機を用いて、浴比1:15で温度120℃で20分間、分散染料C.I.Disperse Blue79を1%owf、酢酸0.5g/Lを加え染色を行った。乾燥後得られた染色織物を10 −メチル−9 ,10−ジヒドロキシ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10− オキサイド20wt%の処理浴に浸し、マングルにて処理液が生地重量の70%となるよう絞り、乾熱110℃にて1分間乾燥した後、さらに乾熱170℃で3分間ヒートセットを施した。
【0077】
さらにソーピング剤(日華化学社製、エスクードFRN)2g/L、ソーダ灰2g/L、ハイドロサルファイト2G/Lを加えた水溶液中で、70℃×20分間還元洗浄し、湯洗、水洗した後、乾熱110℃にて1分間乾燥し、さらに乾熱150℃で1分間ヒートセットを施した。
得られた布帛の防炎性能、堅牢度は表1に示すとおり良好なものであった。
【0078】
[比較例1]
実施例1において、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のかわりに製造例1で得られたポリL−乳酸を用いること以外は実施例1と同様にした。
ポリ乳酸フィラメントの融点は180℃であった。得られた織物は、染色の際の熱履歴で収縮して硬くなり、また十分染料が浸透しておらず、防炎性能も不十分なものであった。
【0079】
[比較例2]
実施例2において、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のかわりに製造例1で得られたポリL−乳酸を用いること以外は実施例2と同様にした。
ポリ乳酸フィラメントの融点は180℃であった。得られた織物は、染色の際の熱履歴で収縮して硬くなり、また十分染料が浸透しておらず、防炎性能も不十分なものであった。
【0080】
[参考例1]
燐酸エステル金属塩として、アルミニウムビス(2,2’―メチレンビス(4,6−ジ第3ブチルフェニル)ホスフェート)ハイドロオキサイド(株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−21)を0.5重量部用いる以外は実施例1と同じ操作を行ったところ、紡糸の際に昇華物が激しく発生し、紡糸することが困難であった。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、防炎性に優れたポリ乳酸繊維および該ポリ乳酸繊維を含む布帛および該布帛を含む繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例において、ステレオ化率(Sc率)を求めるための赤道方向の回折強度プロファイルの一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリL−乳酸(A成分)、(ii)ポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩(C成分)を含有するポリ乳酸組成物からなるポリ乳酸繊維であって、防炎剤を含むことを特徴とするポリ乳酸繊維。
【化1】

式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】

式中、R、RおよびRは、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項2】
前記ポリL−乳酸(A成分)の重量平均分子量が5万〜30万の範囲内であり、かつ前記ポリD−乳酸(B成分)の重量平均分子量が5万〜30万の範囲内である、請求項1に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項3】
前記ポリ乳酸組成物が、ポリL−乳酸成分(A成分)とポリD−乳酸成分(B成分)との合計100重量部当たり0.1〜5重量部のカルボキシル末端封止剤を含有してなる、請求項1または請求項2に記載のポリ乳酸繊維。
【請求項4】
ポリ乳酸繊維が、示差走査熱量計(DSC)測定において単一の融解ピークを有し、該融解ピーク温度が195℃以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【請求項5】
前記防炎剤が疎水性リン系防炎剤である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載されたポリ乳酸繊維の製造方法であって、前記防炎剤を染色加工時に染料と同時に繊維に吸尽させるポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項7】
染色加工の温度が110〜140℃の範囲内である、請求項6に記載のポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載されたポリ乳酸繊維の製造方法であって、前記防炎剤を含む水分散体を繊維に付与した後、150〜180℃の温度で1〜5分間乾熱処理するポリ乳酸繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸繊維を含む布帛。
【請求項10】
請求項9に記載された布帛を用いてなる、カーテン、カーペット、寝具、衣服、椅子被覆材、およびカーシートからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24592(P2010−24592A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189710(P2008−189710)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】